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学習者のコミュニケーション特性に基づく スペイン語事後学修eラーニング

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学習者のコミュニケーション特性に基づく スペイン語事後学修eラーニング
学習者のコミュニケーション特性に基づく
スペイン語事後学修eラーニング教材使用分析
結城健太郎・東海大学
峯崎俊哉・東海大学
連絡先 [email protected]
1.はじめに
本研究では、発表者らによるスペイン語入門者向
け e ラーニング教材の使用と学習者特性の関係を、
回帰分析を用いて考察した。 学習者特性は[2]にお
ける Communication Style Inventory(以下、CSI)に
よって分類されたコミュニケーション特性を用いる。
[5]は外国語コミュニケーションにおける情緒的要
因の重要性を指摘し、MacIntyre による Willingness
to Communicate モデルを紹介している。そこでは、
第二言語を用いたコミュニケーション行動に影響を
与える基礎的要因として「性格」があげられている。
また、[4]では、ブレンド学習の学習成果が「積極的
な感情」
「思考スタイル」といった因子を持つと分析
している。つまり、外国語使用とブレンド学習には
「性格」や「思考スタイル」が強く影響している。
本研究で扱うコミュニケーション特性は、対人関係
における性格であり、重要な学習者特性の一つであ
ると考えられる。
2.CSI
CSI は、人間のコミュニケーション特性をタイプ
分けしたものであり、[2]では臨床心理士である市毛
智雄により作成されたものとある。自己主張の強弱、
感情表出の強弱の組み合わせにより、表 1 の分類と
特徴づけを行うことができる。自己主張の強弱は自
分の判断や影響力をどれほど重視するか、感情表出
の強弱は感情表現や人間関係をどれほど重視するか
によって測られる。
表1
コミュニケーションタイプと具体的な特徴
コントローラー(C)
自己主張・強、感情表出・低
行動的で、自分が思った通りに物事を進めることを好
む。他人から指示されることを嫌う。
プロモーター(P)
自己主張・強、感情表出・高
人と活気あることをするのを好み、自発的でエネルギッ
シュである。一つのことを持続するのが苦手である。
サポーター(S)
自己主張・弱、感情表出・高
人を援助することを好み、協力関係を大事にする。
自分自身の感情は抑えがちである。
アナライザー(A)
自己主張・弱、感情表出・低
多くの情報を集め、分析、計画するのが得意である。人
との関わりは慎重で、急激な変化を嫌う。
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平成28年度 教育改革ICT戦略大会
[2]では、例えば A に動機づけを与えるには「目標と
現実をつなぐ明確な計画が必要」というように、各
タイプに適した指導方法をあげており、CSI を用い
た指導は即効性が高いと考えられる。また、CSI に
よるタイプ分類は 20 問の短い質問に答えるだけで
判定でき、学習者への負担は少なく、個人・集団が
持つタイプの傾向を簡便につかむことができる。ゆ
えにこのテストは、[1]と[3]のように大学における
教育・研究でも使用されており、[6]では外国語教育
での履修者分析に使用されている。CSI テストでは
CPSA の特性の強さを示す値を算出し、最も高い値を
回答者のタイプとするが、本研究では値そのものを
用いて分析する。
3.e ラーニング教材と使用
発表者らは『プラサ・アミーゴス―スペイン語で
話そう I―』(青砥清一他、朝日出版社、2011)の内
容を用いた入門者向け事後学修用スペイン語 e ラー
ニング教材 を作成し、moodle 上で運用した。内容
は授業の学習範囲に応じたものである。moodle3.0
の機能を利用し、学習者は PC に加えて、タブレット
機器、スマートフォン、フィーチャーフォンによる
利用が可能である。課題構成は、復習用として、動
詞や形容詞の語形変化を答えさせる課題と、事前に
与えたリスト中の単語のつづりを答えさせる課題を
与えている。全ての課題は 10 問で構成される一問一
答式の小テスト形式のみで構成される。一課題あた
りの想定学習時間は、準備(授業の復習)に 15 分、一
度の実施に 3 分、通信・入力時間等に 2 分の合計 15
分とする。ただし、一課題あたり何度実施するかは
受講者による。複数回実施の場合、問題はランダム
に出題される。
この教材を使用した授業は、東海大学観光学部の
「第 2 外国語 1」である。この授業は、スペイン語
入門者に対し、この言語の基礎を母語話者教員とと
もに週 2 回教えるものであり、履修者数は 64 人であ
る。成績は、授業への参加度、課題、期末試験によ
り作成している。上記の e ラーニング教材を、この
授業の履修者全員に対し、初回と試験の週を除くほ
ぼ毎週、3 分間の時間制限と 1 週間の期限を設けつ
つ、1 課題あたりの実施回数制限なしで実施させた。
1 実施ごとに成績は利用者にフィードバックされ、
複数回実施した場合、最高得点が最終成績に用いら
れる。
4.調査
第 8 回の授業で CSI テストを実施し、利用者が持
つ CPSA の値を得て、それぞれを 5 段階に分けた
(n=57)。また、教材の使用記録から利用者の活動(ア
クティビティ)回数を取得した。これはページ閲覧や
問題回答といった利用者が教材上で行なった操作の
回数を指し、利用者の e ラーニングでの活動量を指
す。また、利用者は自分が満足する得点(多くの場合、
満点である)を得るまで、何度でも受験を繰り返すこ
とができるが、その中の最高得点を使用し、最終的
に「e ラーニング点」が算出される。この e ラーニ
ング点を活動回数で割り、e ラーニングの活動効率
を計算した。これらに加え、授業の最終成績を 回帰
分析の対象とする。
5.結果と分析
表 2 は活動回数、活動効率、授業成績を目的係数
とし、C 値、P 値、S 値、A 値を説明係数とした回帰
分析の結果である。有意な結果は得られなかったが、
サンプル数が少なかった可能性がある。
C値
P値
S値
A値
表 2 :要因との回帰係数
活動回数
活動効率
-3.060
-0.001
-19.229
0.008
-46.670
0.001
24.520
0.004
授業成績
0.443
-0.944
-0.664
0.961
この結果から、コミュニケーション特性は活動回
数と比較的関係があると考えられる。A 値は正の関
係、P 値と S 値は負の関係があるようである。これ
らの値は活動効率、授業成績とは関係していないた
め、A 値の高い学習者については、活動量は多いも
のの、それに見合う活動効率、授業成績を得ていな
いことがうかがえる。[6]では、発表者らの所属大学
のスペイン語科目(選択科目)では A タイプの学生が
学習を継続しにくいことが指摘されているが、これ
は学習活動量が成績につながらないことによる可能
性がある。今後は、授業内容の改善とともに、A 値
の高い学習者にとって効果的な e ラーニング教材の
タイプ・使用法を探求し、これらの学習者が授業で
学習活動量に見合う好成績をあげられるよう試みる
べきであろう。
教材の内容について言えば、会話文を用いた問題
の追加が考えられる。A タイプの者は C,P タイプの
者に比べて自己主張が弱く、S タイプの者に比べて
感情表出が弱い。[2]によれば、この特徴は他者との
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協調的行動を好まない点に現れる。言語学習におい
て、ペア・ワークに代表される協調的な学習は重要
な位置を占め、それを通してスペイン語の会話表現
を学ぶ。しかしながら本研究における e ラーニング
教材は語形変化と語彙に関する問題のみを含み、会
話表現について問う問題は含まれていなかった。今
後はこうした内容を含む教材を加えていく必要があ
るだろう。
また、教材の使用方法については次のような修正
が考えられる。[2]によれば、A タイプの学生は急激
な変化を嫌い、十分な準備をすることを望む。ゆえ
に、課題実施前に授業内で類題を用いて予行演習を
実施することにより、このタイプの学生がより効果
的に課題を実施できるようになると考えられる。さ
らに、このタイプの学習者は、目標を明確にし、計
画的に学習を進めることを得意とする。ゆえに、 順
次教材を与えていくよりも、授業で実施する課題全
てを先に提示して、計画的に学習が進められている
ことを意識させることも重要であろう。ただし、課
題の実施期限を設定して、教師が計画を管理するこ
とも必要である。これは、A タイプの学習者ほど計
画性志向の学習を好まない C,P,S タイプの学習者に
も計画的な学習を行わせるためである。
6.謝辞
本研究にスペイン語教科書コンテンツを使用するに
あたりご協力頂きました朝日出版社、ならびに著者
の皆様に感謝申し上げます。
7.参考文献
[1]阿部恵 (2012)「Communication Style Inventory
を 用 い た 医 療 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 向 上 へ の 試 み 」,
『日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学』32(1-2),
pp.131-139,日本顎咬合学会.
[2]鈴木義幸(2002)『コーチングから生まれた熱い
ビジネスチームをつくる 4 つのタイプ』,ディスカヴ
ァー・トゥエンティワン.
[3]田中洋一(2014)「ジェネリックスキルを身につ
け る 授 業 設 計 - e ポ ー ト フ ォ リ オ Mahara の 活 用
-」,
『 第 39 回教育システム情報学会全国大会発表論
文集』,pp.227-228,教育システム情報学会.
[4]中山実,山本洋雄,R.サンティアゴ(2006)「学
習者特性がブレンド学習の行動に及ぼす影響」,『電
子情報通信学会技術研究報告』106,pp.49-54,電気
情報通信学会.
[5]八島智子(2003)「第二言語コミュニケーション
と情意要因」,
『 関西大学外国語教育研究』5,pp.81-93,
関西大学外国語教育研究機構.
[6]白澤秀剛,結城健太郎(2016)「学習者特性分析
に基づく科目群別の履修者傾向分析」,『外国語教育
研究』19,pp.57-73,外国語教育学会.
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