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<サンパピエ>の運動と反植民地主義言説

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<サンパピエ>の運動と反植民地主義言説
<サンパピエ>の運動と反植民地主義言説
―フランスにおける非正規滞在移民の正規化運動の変遷
:作動しなかったポスト・コロニアリズム―
茨城大学 稲葉奈々子
1 目的と方法
フランスにおける 1990 年代以降のたびたびの政権交代にともなう移民政策の変化にともなって、
非
正規滞在者の正規化を求める運動も変化してきた。
保守政権下での 1997 年のパリのサンベルナール教
会占拠は、
それまで難民支援や人道的活動にかかわる者だけに認知されていた非正規滞在者の運動を、
ひろく世論を巻き込む運動へと変化させ、政権交代を引き起こすまでの政治的問題となった。政権に
ついた革新政党は非正規滞在移民の正規化を行った。
このときの正規化を求める運動には、フランス人を担い手とし「フランス国民」の定義をめぐる運
動と、非正規滞在の当事者を担い手とし、移民の原因をフランスの植民地主義に求める運動から成り
立っていた。1990 年代のフランスは、イギリスと異なり、政治的にはポスト・コロニアリズムの時代
状況になかった。また移民研究・エスニシティ研究においてもポストコロニアルという問題設定がな
されることはなかった。2001 年に政府が公的に奴隷制度を人道に対する罪として認めたことが、非正
規滞在者の運動の転換点となった。
本報告では、フランスがコロニアリズムの論理を脱していない政治的状況にあることで、非正規滞
在者の運動がいかに規定されてきたかを、運動が用いるフレームの分析により明らかにする。使用す
るデータはすべて 1997 年から現在まで断続的に行ってきたフランスと移民の出身地マリでの聞き取
り調査に基づいている。
2 結果と結論
結果:非正規滞在者の当事者は反植民地主義の言説を用いて運動を行ったが、フランス人支援者は
この論理に与しなかった。
フランス人にとってのアフリカはいまだ庇護の対象として認知されており、
フランス人を担い手とする運動が、脱植民地主義的な政治状況になかったためである。ふたつめは、
極右政党が勢力を伸ばしていた現状への危機感のほうが、植民地主義よりも重要な問題として認識さ
れていたためである。そのためフランス人支援者は、当事者が掲げる反植民地主義言説をまったく用
いることなく、パスクワ法によってフランス人がヴィシー政権下の対独協力者を担わされることを問
題にした「反人種主義」フレームを掲げて成功した。 結論(1)非正規滞在者の運動はフランス人の支持を得ることで政権交代に引き起こすまでの成功
をおさめたが、それはフランス人が「人種差別的な対独協力者」になることを拒否するフレームが機
能したからであり、当事者が掲げたポストコロニアルなフレームは機能しなかった。
結論(2)その後の非正規滞在者の正規化を求める運動で、再度ポスト・コロニアルなフレーミン
グがなされることはなかった。非正規滞在者の運動を成功させるのは、フランス人の「自己否定」を
必要としいないフレームが掲げられたときであった。
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