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中国第11次5ヵ年計画の研究 -第10次5ヵ年計画との対比において-

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中国第11次5ヵ年計画の研究 -第10次5ヵ年計画との対比において-
所得控除引上げ、人民銀行利上
表明
げ
2.第 11 次 5 ヵ年計画の背景(中国経済の構造問題)
第 1 章では、これまでの 5 ヵ年計画の概要と、建国以来中国で採られてきた経済政策を
紹介した。本章では、この結果として発生した中国経済が抱える構造的問題について、多
角的に論ずる。これが第 11 次 5 ヵ年計画策定の背景となっているからである。
中国経済は、2003 年に 10.0%、2004 年に 10.1%、2005 年は 10.2%、2006 年第 1 四半
期 10.3%、第 2 四半期 11.3%(1−6 月では 10.9%)と過熱傾向を帯びている。また、2003
年に 1 人当たりGDPは 1000 ドルを突破した(2005 年は 1700 ドル)。外貨準備は急速に
増加し、2005 年末には 8189 億ドルと日本(8469 億ドル)よりやや下回ったが、2006 年 2
月に至り日本を追い抜いて 1 位となった。
胡錦涛・温家宝指導部は、2020 年に 2000 年のGDPを 4 倍にする目標を立てており、
この場合GDPは 4000 億ドル前後、1 人当たりGDPは 3000 ドル前後に達することが予
想されている(例えば、2006 年 4 月 21 日米イエール大における胡錦涛講演)。中国は今世
紀半ばまでに「中華民族の偉大な復興」を成し遂げるとしており、そのときにはGDPで
は日本を上回り、世界 2 位の大国へと飛躍することを目指している。
2005 年 12 月に行われたGDP改定では、2004 年の時点で中国はイタリアを抜き、世界
第 6 位となり、2005 年の GDP は 18 兆 3085 億元であったため、フランスを抜き、イギリ
スをもやや上回り世界 4 位になったとしている(中国青年報 2006 年 7 月 7 日)。まさに世
界銀行が 90 年代初に言及したように、「21 世紀は中国の時代」であるかのように見える。
しかしながら、1 人当たり GDP で見れば依然中国は 1740 ドルと世界の 128 位であり、1
人当たり可処分所得では江蘇省の南京・蘇州等 8 都市の平均で 1 万 5 千元前後、浙江省杭
州・寧波等の 6 都市の平均でも 1 万 8 千元前後にすぎない(中国青年報 2006 年 7 月 7 日)。
さらに、中国経済は以下のような構造問題を抱えているのである。
2.1 3つの格差問題
2.1.1 都市と農村の格差
2005 年の都市住民平均可処分所得が 1 万 493 元であるのに対し、農村住民平均現金収入
は 3255 元に過ぎず、その格差は 3 倍以上になっている。しかも、都市住民は政府や勤め先
から様々な便宜を受けているのに対し、農民は現金収入の約 3 分の1を次年度の耕作のた
めの種・肥料等の購入に充てており、政府からの便益も乏しい。したがって、社会科学院
の調査では、実質的な所得格差は6倍にも及ぶのではないかとされている。しかも、収入
の伸びを比較すると、前者が対前年比実質 9.6%増の高率で伸びているのに対し、後者は実
16
質 6.2%増である。国務院発展研究センター王夢奎主任の「都市・農村格差と地域格差」レ
ポートによれば、都市・農村の所得格差は、80 年代中期 1.8 倍、90 年代中後期 2.5 倍、2003
年 3.2 倍と拡大を続けた(2005 年も 3.2 倍)。都市・農村の所得格差は開く一方なのである。
2.1.2 東部と中西部の格差
2002 年の西部・中部・東部のGDPを見ると、2 兆 81 億元、2 兆 9651 億元、6 兆 8289
億元(いずれも改定前)となっており、経済成長率でみても、1998 年∼2002 年の平均では
8.7%、8.8%、10.3%となっている。東部と中西部の格差は歴然としており、しかも東部の
方が依然成長率が高いので、この格差は拡大している。前述の王夢奎主任のレポートによ
れば、1980∼2003 年において、東部地域の全国経済総量に占める比率は 50%から 59%に
上昇し、中西部地域の比率は下降した。この傾向は 90 年代以降激化した。また、1 人当た
りGDP格差は、1980∼2002 年において、西部と東部の格差は 1.92 倍から 2.59 倍に拡大
し、中部と東部の格差は 1.53 倍から 2.03 倍に拡大し、西部と中部の格差は 1.25 倍から 1.27
倍に拡大した。
2.1.3 都市における貧富の格差
改革開放の進展により、沿海都市では富豪が次々に誕生しているが、税の徴収体制の不
備もあり、彼らは殆ど個人所得税を納めていない。他方、都市には最低生活を営む者が 2
千万人ほど存在し、その格差は開く一方である。社会科学院の調べでも、ジニ係数は、81
年 0.281、88 年 0.382、98 年 0.456、2002 年 0.458 と大きくなっている。また都市の所得
集団別の格差を見ると、最高位 20%の集団の総収入と最下位 20%の集団の総収入との格差
は 90 年の 4 倍から 2000 年には 12 倍に拡大している。この結果都市の最高位 20%の集団
は金融資産の 55.4%を占めているのに対し、最下位 20%の集団は 1.5%を占めているにす
ぎず、その格差は 36.9 倍にも達している。
また王夢奎主任のレポートによれば、省・自治区内の異なる市・県の経済格差は、東部・
中部の格差よりはるかに大きく、経済が発達している地域の市・県の経済格差は、遅れた
地域の市・県の経済格差より一般的に大きいことが指摘されている。1つの省・自治区内
の経済格差も深刻化しているのである。
中央党校経済学教授曹新氏は、国内には農村に 1 億、都市に 2000 万余、計 1.2 億人の貧
困人口を抱えており、なお長期にわたり経済成長が必要だとしている(中国青年報 2006 年
1 月 29 日)。
2.1.4 格差拡大の要因
江沢民の時代、都市と農村、東部と中西部、都市内の貧富の格差は縮小するどころか、
かえって拡大したのである。これには、いくつかの理由が考えられよう。
(1)都市と農村の格差拡大の原因
17
(a) 96 年以降豊作が続き、97 年から農産物の価格が低下し、農業収入が減少した。くわえ
て、副収入源であった郷鎮企業の経営が悪化した。このため、1978 年以来年平均 15.2%
で伸びていた農民の収入は 97 年では 4.6%、98 年 4.3%、99 年 3.8%、2000 年 2.1%と
伸びの低下が続き、2001 年にようやく 4.2%と持ち直した。2002 年は 4.8%であったが、
2003 年以降は政府が増収策に力を入れたため、6.3%、5.3%、6.2%と比較的高い伸び
を示している。
(b) 都市住民には個人所得税の課税最低限が設定されているのに対し、農業税・農業特産税
にはそのようなものがなく、しかも地方政府が様々な費用を徴収するため、課税等の面
で農村住民は著しく不利であった。2002 年、純農家の平均 1 人当たり税・費用負担は
115.7 元であり、農業を主とした兼業農家は 81.8 元、非農業を主とした兼業農家は 62.1
元であるのに対し、収入の高い都市住民の税・費用は 1 人平均 49.5 元にすぎない。
(c) 江沢民―朱鎔基体制は、都市インフラや大型プロジェクトの建設には熱心であったが、
農村インフラ建設には関心が乏しかった。このため、都市住民には積極的財政政策の恩
恵が及んだのに対し、農村住民にはその恩恵が殆ど及ばなかった。
(d) 農民には政治的圧力団体が存在せず、WTO加盟交渉やFTA交渉において農業の利害
は常に犠牲にされてきた。
(e) 社会保障整備は都市優先で進められ、農民は土地があるという理由だけで、社会保障政
策の恩恵を被ることができなかった。
(f) 農村における義務教育は、財源難のため十分ではなく、農民は出稼ぎに都市へ出ても単
純労働や3K 仕事に就くしかない。このため、熟練度や教育程度の低い出稼ぎ農民は出
稼ぎによる収入の伸びにも限界があり、しかもしばしば賃金の未払いやピンはねが発生
した。
(g) 農村周辺における都市化の進展や、農村における 2 次産業・3 次産業の発達が十分では
ないため、農産品の付加価値が高まらず、多様な収入ルートも開けなかった。
(h) 農村金融が本来の役割を果さず、農民から集めた金を都市の企業に貸し付けていたため、
資金が農村から都市に流出した。現在農村全体への貸付は金融機関総貸付残高の6%に
も満たない(中国経済週刊 2006 年 5 月 8 日)
。
(i) 地方政府が開発区建設のため、農民から不当に土地を取り上げた。しかし、開発区は濫
立のため結局地元経済への貢献は少なく、耕地の消失と流民が発生することになった。
(j) 戸籍制度の改革が遅れ、都市における出稼ぎ農民の待遇が安定しないため、農村余剰労
働力の都市への移転・定着化が進まず、耕地の集約化による生産性向上が進んでいない。
(2)東部・中西部の格差拡大の原因
(a) 中西部の問題の本質は「三農」(農業・農村・農民)問題であるにもかかわらず、江沢
民―朱鎔基体制は大型プロジェクトや都市プロジェクトを重視し、「三農」問題を軽視
した。
(b) 大型プロジェクトの中身も、
「西気東輸」
(西部の天然ガスを東部に輸送)や「西電東送」
18
(西部の電力を東部に輸送)のように、西部の資源・エネルギーを東部経済の発展に利
用するためのものもあった。
(c) 東部から中西部に所得を再配分する財政移転支出制度が不完全であったため、東部地域
により多く中央から税が還元される事態が生じた。
(d) 東部の企業は、中西部支援と称して、非効率な過剰生産設備や公害を多量に発生させる
生産設備を中西部に移転した。
(e) 中西部においては、地方指導者の意識改革が遅れており、国有企業改革の進展が不十分
であり、投資環境の改善も進んでいない。
(3)都市おける貧富格差の拡大の原因
(a) 個人所得税には累進性が採用されているものの、税の執行が不十分なため、高額所得者
に適切な課税がなされず、税の所得再配分機能がうまくはたらいていない。
(b) 江沢民が「3つの代表」論13により新興富裕層の取り込みに熱心であったため、彼らが
敬遠する遺産税の導入が棚上げとされた。
(c) 高額所得者の収入ルートが多様であり、その全貌を把握することが困難である。
(d) 国有企業のリストラが進み、一時帰休・失業者が大量に発生した。
(e) 産業構造の重化学工業化・情報化が急速に進展する中、企業の労働者への技能・教育水
準要求は高まる傾向にあるが、これに労働供給側が対応できずにいる。
(f) 都市における中小企業・サービス産業の育成が不十分であり、創業手続も煩雑であるた
め、一時帰休・失業者の吸収がうまく進まない。
(g) 農村出稼ぎ労働者による都市のスラム化が進行している。
(h) 都市における社会保障制度もまだ整備の途上にある。
2.2 経済のアンバランス
さらに、一見好調に見える経済成長にも様々なアンバランスが発生している。
2.2.1 投資と消費のアンバランス
2005 年の全社会固定資産投資の伸びが対前年比 25.7%増(都市部は 27.2%増)であるの
に対し、社会消費品小売総額の伸びは実質 12.0%(名目では 12.9%)増と半分以下にすぎ
ない。また、2006 年 1−6 月期において、最終消費の経済成長に対する貢献度が 37.4%で
あるのに対し、資本形成の貢献度は 52.9%にも及んでいる。正に中国の成長は投資主導と
なっているが、これは投資拡大によって将来大量に市場に放出される製品の買い手がいな
い事を意味する。2003 年以降、不動産開発(2005 年は対前年比 19.8%増、2004 年は 28.1%
増、2003 年は 29.7%増)・鉄鋼(500 万元以上の投資プロジェクトにつき 2004 年 32.3%
13
共産党が中国を永久支配するための条件。共産党は、中国の先進的生産力という要請、
中国の先進的文化前進の方向、中国の最も広範な人民の根本的利益を終始代表していなけ
ればならない、とする。
19
増、2003 年 96.2%増)
・自動車(同 2004 年 53.5%増、2003 年 77.8%増)
・アルミ(同 2004
年 1.8%減、2003 年は 86.6%増)・セメント(同 2004 年 43.3%増、2003 年 113.4%増)・
紡績(同 2004 年 30.3%増、2003 年 86.7%増)といった一部の業種において盲目的投資・
低水準の重複建設が発生しており、これらの分野では 2003−2004 年に投資過熱が問題とな
った。
(1)消費不振の原因
中国において消費の伸びが減速したのは 98 年以降であるが、この理由については、以下
の点が指摘できよう。
(a) 98 年に誕生した朱鎔基内閣は、様々な経済体制改革を打ち出した。その中には、国有
企業の住宅保障制度の廃止や、国有企業から社会保障機能を分離することも含まれてい
たが、これに代替する社会保障制度の整備は十分ではなかった。このため、国民の将来
不安が高まり、貯蓄が増加することとなった。
(b) 97 年以降農村における収入の低迷が発生し、これが農村部における消費を減退させた。
杜青林農業部長によれば、農村人口は全体の 70%を占めているにも拘わらず、消費は
36%しか占めていない(新華社北京電 2006 年 5 月 7 日)
。
(c) 都市部においても国有企業のリストラの進展により、一時帰休・失業者といった貧困層
が発生しており、彼らの購買力は低い。
(d) 都市における中産階層以上の消費は飽和状態にあり、新規消費需要は自動車・住宅・I
T関連といった特定のものに限定されている。商務部の 2005 年上半期主要商品需給分
析報告によれば、600 主要品目のうち需給均衡が 161 品目で全体の 26.8%、供給超過
が 439 品目で全体の 73.2%を占めており工業製品 507 品目に絞ると 83%が供給過剰で
ある。供給不足は存在しない(共同北京電、江南時報 2005 年 3 月 27 日)。
(2)投資が過大になる原因
A最高指導者との因果関係
第 1 章で述べたとおり、改革開放以前の経済混乱である「大躍進」と「文化大革命」
「三
線建設」は、いずれも毛沢東の権力が相対的に高まる過程において彼の発意によりスター
トしている。ただ、この運動はいずれも政治優先・精神主義による大衆動員の性格が強く、
経済諸官庁の意向を無視してトップダウンで行われたため、しばしば大量の資源の浪費と
経済の混乱・停滞をもたらした。
改革開放以後中国経済は成長路線に乗ることになるが、指導者の交代とともに経済過熱
が発生している。第1の過熱は華国鋒主席、第2の過熱は胡輝邦総書記、第3の過熱は趙
紫陽総書記、第4の過熱は江沢民総書記、第5の過熱は胡錦涛総書記が党のトップであり、
しかも彼らが改革開放政策について一段と踏み込んだ提案を党大会ないし党中央委員会全
体会議で行ったことをきっかけに発生している(ただし第4の過熱は実質最高指導者であ
る
の「南巡講話」が契機)。
B5年の政治サイクル
20
中国では西暦の末尾に3か8がつく年に経済過熱が発生すると言われている。確かに、
過去5回の経済過熱にはいずれも3か8のつく年が含まれていることが分かる。
これは、中国独特の人事システム・政治業績評価システムと関係している。通常党大会
は5年に1回開催されるが、これは2か7のつく年の秋である。このとき総書記・政治局
常務委員等党中央の幹部が選出されるが、これに連動し地方の党幹部の人事異動も行われ
る。翌年(即ち3か8の年)の3月に開催される全人代では、国家主席・総理等中央政府
の幹部が選出されるが、これに連動し地方政府幹部の人事異動も行われる。
最近地方の割拠主義を是正するため、地方のトップに中央から人材が派遣され、5年間
の業績により再び中央に戻り更に昇進する人事システムが行われているが、このときの政
治業績の評価基準は、計画経済の影響を残し、当該地域の GDP 成長率・生産額の伸び・税
収の増などが重視されている。このため、地方政府は常に経済成長目標を中央政府より高
めに設定し、実績においても地方の公表する成長率の殆どが国全体の成長率を凌駕する事
態が発生している。
また、地域の GDP を高めるのに最も手っ取り早い方法は大規模な投資を行うことであり、
このため中央・地方の人事異動が一段落する3と8の年に新規プロジェクトが一斉に着工
されるのである。この際、党中央の新指導部が打ち出した改革開放政策の推進が、着工の
口実として利用されることになる。このようなプロジェクトを中央は「政績工程」(政治業
績プロジェクト)「形象工程」(イメージ作りのプロジェクト)と呼び批判しているが、こ
の傾向は一向に改まっていない。
ただ例外として 1998 年があり、この年には経済過熱が発生していない。これは、(1)1997
年の第 15 回党大会で江沢民が総書記に留任し、1998 年にこれまで経済引締めの陣頭に立
っていた朱鎔基が総理に就任したため、指導部交代を投資拡大の口実に用いることができ
なかったこと、(2)国有企業の経営悪化、アジア経済危機の影響による輸出不振により内外
の景気後退が顕著であったこと、(3)第 15 回党大会の議論は
理論の絶対的権威づけに
多くのエネルギーが費やされ、指導部は新しい発展の方針を打ち出すことができなかった14
ことが理由として考えられよう。ただ、この年から積極的財政政策の発動により政府投資
が急拡大しており、これが景気回復後も継続されたことが 2003 年の経済過熱の素地を形成
した面は否定できない15。
C地方財政の不備
中国の地方財政制度は省レベルまでは整備されているが、県以下の財源分配の仕組みは
確立されていない。他方で、義務教育等国民に密接に関係する公共サービスはむしろ下級
政府の仕事とされており、にもかかわらず事務に見合う財源が確保されておらず、下級政
第 15 回党大会では、株式制の認知や非公有制経済の地位の格上げは行われたが、これ
は私有財産の法的保護を伴うものではなく、直ちに投資需要を刺激するものではなかった。
15
2006 年に至り、再び投資が急拡大している。これは、胡錦涛指導部が 2007 年の第 17
回党大会に向けて自派の足固めを急いでおり、地方の指導者を前倒しで交代させているこ
とが原因の1つとして指摘されている。
14
21
府の財政が逼迫している。
このため、下級政府は財源確保の手段として、農民から土地をタダ同然で徴収し、これ
を不動産開発業者に高値で売却している。また、中国の付加価値税である増値税は機械設
備の購入にも課税されるため、政府は行政指導により企業に大型設備投資をさせることで
税収をあげることができる。このような地方政府の財源確保の行為が、結果として投資過
熱を助長することになっているのである。
D金融機関の融資態度
2003 年の経済過熱は、金融機関の融資態度によるところも大きい。同年の銀行貸出は急
激な伸び(ピークは 8 月末で前年同期比 23.9%増、12 月末では同 21.4%増)を示した。こ
れは、地方政府と銀行と不動産開発業者の癒着によるところが大きい16。
また、2003 年の中央省庁改革により人民銀行から分離独立した銀行業監督管理委員会は、
銀行に対し不良債権比率の大幅な引下げを要請した。しかし、これまでも不良債権処理の
進まない銀行にとって、このノルマを達成することは容易ではなく、不動産向けの中長期
貸付けを急拡大することによって不良債権比率の引下げを達成しようとしたのである。結
局 2003 年末の不良債権比率は年初より 5 ポイント低下したが、銀行業監督管理委の劉明康
主席は、うち 4 ポイント分が貸付の増加によるものであることを認めている17。
この結果、1998 年末には 3、106 億元しかなかった不動産貸付残高は 2004 年末には 2.6
兆元にまで急増し、貸付総額の 14.7%を占めるに至っている。特に上海の不動産投資は問
題になっており、人民銀行上海分行(支店)は、2005 年初に不動産貸付が新規貸付増の 76%
を占め、かつ個人住宅ローンの中長期新規貸付増に占める比重が 48%に高まっており、不
動産市場のリスクが銀行貸出のリスクに転化する可能性があると警告している18。銀行業監
督管理委員会によれば、2005 年末の不動産業向け不良債権残高は 1093 億元に達している
のである。
2.2.2 産業構造のアンバランス
2005 年の産業別付加価値は第1次産業が 2 兆 3070 億元(5.2%増)、第 2 次産業が 8 兆
7047 億元(11.7%増)、第 3 次産業が7兆 2968 億元(10%増)であり、名目GDP18 兆
3085 億元のうち、第 1 次・2 次・3 次産業のシェアはそれぞれ 12.6%、47.5%、39.9%と
なっている。通常高度成長が一定期間続くと第 3 次産業が急速に発達してくるものである
この典型的な例が 2004 年 4 月 28 日に表面化した江蘇省の鉄本鋼鉄事件である。この
事件では同社が常州市・揚中市政府及び中国銀行常州分行等と結託し、840 万トンのプロジ
ェクトを 22 に細分化し、中央の許可を得ずに建設を行ったものである。(2004 年 4 月 28
日新華社北京電)
17
2004 年 3 月 11 日の内外記者会見。
18 新華社上海電 2005 年 1 月 27 日、中国経営報 2005 年 2 月 6 日。なお、2006 年に入り、
固定資産投資・銀行貸出は急拡大しており、不動産価格も大連・深圳・フフホト・福州・
北京等全国各地で上昇している。
16
22
が、中国では依然第 2 次産業偏重の成長が続いており、これが雇用の吸収力を弱めている。
国家統計局の李徳水局長によれば、先進諸国の第 3 次産業の対GDP比は、米国 75%、イ
ギリス・フランス・ドイツ・日本はいずれも 60%以上 70%前後であり、インドでも 51.2%
である(人民網北京電 2005 年 12 月 20 日)。
このように中国において第 3 次産業の発達が遅れた原因としては、以下の点が挙げられ
よう。
(a) もともと社会主義経済においては、生産第一主義であるので、第 3 次産業の地位は相対
的に低い。しかも、中国の場合儒教の伝統的価値観も加わり、第 3 次産業はさらに軽視
される傾向にあった。
(b) 第 3 次産業の主たる担い手は中小企業であり、個人・私営企業であるが、中国の産業政
策は国有大中企業中心であり、私有財産の保護も法的に十分保障されていなかったので、
その発展が阻害された。
(c) 金融機関は信用力の低い中小企業、個人・私営企業に融資をしたがらない傾向があった。
(d) 創業のための許認可手続が煩雑であった。
(e) 地方政府の地域封鎖・保護主義により、中国の市場は分断されており、広域流通業の発
展が阻害された。
2.2.3 経済成長と資源・エネルギー・輸送のアンバランス
2003 年の経済成長率が 10.0%、2004 年も 10.1%であったのに対し、電力消費は 2003
年対前年比 15%増、2004 年 14.9%増と成長をはるかに上回ったため、2003 年夏以来電力
不足が深刻化した。国家発展・改革委の張国宝副主任によれば、2003 年末で 21 の省で電
力が逼迫し、うち7省はかなり深刻であった。2004 年も 24 の省(区・市)で電力制限が
行われ、夏季の電力不足は 3500 万キロワットを超えた。2005 年も 2500 万キロワットの不
足が生じたが、年末には電力制限の省は年初の 26 省から 12 省に減少した。張副主任によ
れば、2006 年夏のピーク時には電力不足が発生するものの、下半期には電力制限は基本的
に発生しないものと予想されている(人民網北京電 2006 年 6 月8日)
。
また、2003 年の原油消費量が 2 億 7389 万 2000 トン(対前年比 11.52%増)と急増した
ため、原油輸入量は 9112 万 6300 トン(同 31.29%増)と世界2位になった。2004 年も原
油輸入は対前年比 41.5%増となり、原油と精製油のネットの輸入でも 36.5%増となった。
これにより中国の石油輸入依存度は 40.7%となった(2005 年の原油消費は 3 億トンであり、
対前年比 2.1%増)。また石炭は 2005 年 21.9 億トンを生産し、
対前年比 9.9%増であったが、
工業と電力が石炭を取り合ったため、消費は 21.4 億トン(対前年比 10.6%増)と依然逼迫
状況が続いている。これに伴い鉄道輸送も逼迫していたが、石炭輸送のボトルネックは 2005
年下半期に至り、緩和傾向を示している。2005 年のエネルギー総消費量は 22.2 億トン標準
炭であり、対前年比 9.5%増であった。
国家統計局の李徳水局長によれば、2004 年において中国のGDPが世界に占めるシェア
23
は 4.4%に過ぎないのに対し、原油消費は世界の 7.4%、石炭消費は 31%、
鉄鉱石消費は 30%、
アルミ消費は 27%、セメント消費は 40%を占めている(人民網北京電 2005 年 12 月 20 日)。
また、建設部によれば単位建築面積当たりのエネルギー消費は先進国の 2−3 倍であり、建
築が直接・間接に消費するエネルギーは全社会エネルギー消費の 46.7%にも及ぶ(中国青
年報 2005 年 5 月 25 日)。さらに、国務院発展研究センター中国エネルギー総合発展戦略・
政策研究課題小組が発表した「国家エネルギー戦略の基本構想」によれば、現在中国のエ
ネルギー支出はGDPの 13%を占め、米国の約 2 倍の高率である。また、GDP1万元あ
たりのエネルギー消費は日本の 9.7 倍、世界平均の 3.4 倍である。即ち中国の成長はエネル
ギー・資源多消費型の成長なのである。
2.2.4 経済成長とマネー・サプライのアンバランス
2003 年に銀行貸出は急激な伸び(ピークは 8 月末で前年同期比 23.9%増、12 月末では
同 21.4%増)を示したが、これは地方政府と金融機関の癒着の結果であり、銀行業監督管
理委員会が要求する不良債権比率引下げのノルマを、貸出しの急拡大により達成しようと
した結果でもある。このため、人民銀行・銀行業監督管理委は 2004 年 4 月末から過熱業種
への貸出しを厳しく制限し、銀行の新規貸出増は 2.26 兆元(対前年比 4800 億元余の減)
となり、目標の 2.7 兆元を下回った。しかし、貸出しが減少したのは、短期・民間企業向け
との指摘もある。
マネー・サプライの増加はこの金融機関の行動に加え、人民元切上げ予測が高まりホッ
ト・マネーが大量に海外から流入し、これが人民元に交換されていることにもよる。特に、
2004 年 10 月以降は外貨準備が月平均 300 億ドルのペースで急増(1―9 月期は月平均 120
億ドル)したのである(2005 年 1 月 18 日付け国際金融報)
。このため、人民銀行は手形を
発行し市場からのマネー回収に努めるとともに、預金準備率・金利を引き上げることによ
り、これ以上のマネー・サプライ増加を懸命に食い止めており、2004 年のM2の伸びは
14.6%と、目標の 17%の範囲内に収まった。だが 2005 年の M2 の伸びは 17.6%であり、
目標の 15%を上回っており、貸出しについては 2.5 兆元増の目標と同額(対前年比 12.8%
増)になっている。
2006 年については、人民銀行は、人民銀行工作会議において、M1は 14%、M2は 16%
増、銀行新規貸出増は 2.5 兆元に抑えることを決定した。しかし、6月末の実績では、M2
の伸びは 18.43%と抑制目標を上回っており、新規貸出増も 2.18 兆元と、既に年間抑制目
標の 87%にまで達している。このため、人民銀行は 2004 年 10 月に続き、2006 年 4 月 28
日に 2 度目の利上げ(1 年物貸出基準金利 0.27%引上げ)に踏み切るとともに、7 月 5 日、
8 月 15 日と 2 回にわたり 0.5 ポイントずつ預金準備率を引き上げ、さらに 8 月 19 日から
は 3 度目の利上げ(1 年物貸出・預金基準金利 0.27%引上げ)に踏み切った。
2.2.5 経済成長と失業率のアンバランス
24
下記の成長率と失業率の推移を見ても分かるように、中国では成長率が高まるにつれて
失業率も上昇傾向にある。
2000
2001
2002
2003
2004
2005
実質成長率
8.4%
8.3%
9.1%
10.0%
10.1%
10.2%
失業率
3.1%
3.6%
4.0%
4.3%
4.2%
4.2%
これは、国有企業でリストラが進んでいること、これまで失業統計に入っていなかった
一時帰休者が失業統計に移りつつあること、高等教育機関の未内定者が増大していること、
雇用を吸収すべき第 3 次産業・中小企業・非公有制経済の発達が十分でないことが挙げら
れる。しかし、失業統計には都市出稼ぎ農民がカウントされておらず、これに一時帰休者・
未登録の失業者を加えると、実質的な失業率は 10%近くに達するのではないかとも言われ
ている。
2004 年は高成長の成果もあり、4.2%と 10 年来で最初の失業率低下となった。2005 年も
同水準である。労働・社会保障部によれば、GDP1 ポイント増で 80−100 万の就業機会が
もたらされるとしている(新華社北京電 2005 年 1 月 27 日)。しかし同部は 2006 年の失業
率については 4.6%以内と高率の抑制目標を設定しており、警戒を緩めてはいない。
2.3 経済成長の制約要因
このように現在の高成長には様々なひずみが存在するが、中長期的に中国経済の順調な
発展を阻害する経済・社会的要因としては、以下のものが想定される。現実問題としては、
このいくつかが相互連関しながら同時に顕在化する可能性が高いのではないかと考えられ
る。
2.3.1 経済的要因
(1)エネルギー・資源・電力不足
上述のとおり、中国経済の発展に石油・天然ガス等のエネルギーや資源の確保が追いつ
かないおそれがある。国務院発展研究センターの予測では、中国の主要鉱産資源 45 品目の
うち、2010 年に自給できるのは 11 品目、2020 年には 9 品目、2030 年には 2、3 品目と減
少していくだろうとしている。またこのままの石油消費が続くと、2020 年の石油需要は 4.5
−6 億トンにも達すると見られている。2005 年で中国の原油生産量は 1.81 億トンにすぎず、
今後これを 2.0 億トンまで拡大し、石油需要を 4.5 億トンに抑えこんだとしても、中国の石
油輸入依存度は 55−60%に達すると見られている。
今後の需給バランス次第では近い将来東アジア地域において資源・エネルギー争奪戦が
発生するおそれもあり、国際相場にも大きな影響が出よう。東シナ海や尖閣・南沙諸島周
辺海域の海洋資源が更に政治問題化する可能性もある。
(2)水不足
建設部によれば中国の 1 人当たり水資源は世界平均の 4 分の1(2005 年で 2098 立方メ
25
ートル)しかなく、世界の 7%の水資源で 21%の人口を養っている。都市の水不足の総量
は 60 億立方メートルに達し、全国 660 の都市のうち 400 余りが水不足であり、110 はかな
り深刻である。またGDP当たりの水使用率は世界平均の 5 倍である。
2030 年に中国の人口はピークの 16 億人に達するとの予測もあるが、この場合 1 人当た
り水資源は 1750 立方メートルにすぎず、中国は深刻な水不足の国家になると予想されてい
る。とくに北部の水不足は深刻化しており、黄河は 1997 年に総延長 700 キロ、連続 226
日間にわたって断流が発生した。華北は全国の 3 分の1の人口を占めているにもかかわら
ず、水資源は 6%しかないのである。北京では地下水の汲みすぎにより、毎年地下水位が 1
メートル下降し地盤沈下が発生している。これが工業の発展をストップさせ、都市機能を
麻痺させるおそれがある。現在進められている「南水北調」プロジェクト(長江の水を北
部に誘導するもの)がこれに間に合い、水不足を一気に解決する保証はない。
国家林業局の祝列克副局長は、中国の砂漠化した土地は国土面積の 18.12%に相当する
173 万 9700 平方キロに達し、4 億人近くの生産と生活に影響を与え、砂漠化による直接的
経済損失は年間 540 億元に達するとしている(新華社北京電 2006 年 6 月 17 日)。
(3)投資過熱の反動不況
2006 年に入り不動産開発など固定資産投資が再過熱しており、この傾向が十分抑制でき
ず 2008 年北京オリンピック・2010 年上海万博まで継続すると、その後の反動不況が深刻
化するおそれがある。日本・韓国においても、オリンピックの後に経済停滞が発生してお
り、特に中華民族の威信をかけたオリンピック・万博においては、政府主導により過大投
資が行われる危険性が大きい。
北京オリンピック経済研究会(北京経済社会発展センター(北京市政府研究室)、北京社
会主義学院、北京オリンピック有限責任公司によって作られた社団)の『2005 年北京オリ
ンピック経済報告』によれば、2002−2008 年に北京市がオリンピック関連で行う投資総規
模は 2800 億元、うち直接オリンピック関連施設に用いる固定資産投資新規増は約 1349 億
元とされ、全北京の累計総投資は 1 兆 8000 億元を突破するものと予想されている(中華工
商時報 2006 年 5 月 29 日)。なお、2010 年上海万博については、300 億元の投資を事務局
が見込んでいる(新華社北京電 2004 年 5 月 29 日)。
(4)金融危機
中国経済の最大の問題の1つは、金融体制改革の遅れ・金融システムの未整備である。
特に深刻なのは金融機関の不良債権が巨額なことであり、2003 年末の4大国有商業銀行の
不良債権比率は 20.36%(1.92 兆元)、主要金融機関全体では 17.80%(2.4 兆元)にも及ん
だ。日本の不良債権問題が最も問題にされたときでもその比率は 8%程度であるから、いか
に中国の問題が深刻であるかが分かるであろう。現在政府は、国有商業銀行の株式制化・
上場を推進し、国有色を薄める方向であり、既に建設銀行・中国銀行・工商銀行は株式会
社化し、建設銀行は香港に上場しているが、預金保険制度等のセイフティ・ネットは未整
備のままである。また、不良債権処理は債権管理会社への移管により見かけ上進展し、2004
26
年末の 4 大国有商業銀行の不良債権比率は 15.6%に低下し、主要 16 行では 13.2%に低下
した。2005 年末には 4 大国有商業銀行の不良債権比率は 10.5%に低下(2006 年 3 月末で
は 9.8%)し、主要行は更に 8.9%に低下(2006 年 3 月末では 8.3%)した。
しかしこれについては、最近の過熱業種への過剰貸出が潜在的な不良債権となっている
おそれがある。1998 年末には 3106 億元しかなかった不動産貸付残高は 2004 年末には 3.07
兆元にまで急増し、貸付総額の 14.84%、GDP の 16.75%を占めるに至っている(新華社北
京電 2006 年 5 月 3 日)
。2005 年初の段階で人民銀行上海分行は、不動産貸付が新規貸付増
の 76%を占め、かつ個人住宅ローンの中長期新規貸付け増に占める比重が 48%に高まって
おり、不動産市場のリスクが銀行貸出しリスクに転化する可能性があると警告しているの
である(新華社上海電 2005 年 1 月 27 日、中国経営報 2005 年 2 月 6 日)。2005 年末で商
業性個人住宅ローンの貸付残高は 1.84 兆億元、貸付残高の 8.9%、GDP の 10%に達してお
り(新華社北京電 2006 年 5 月 3 日)
、人民銀行は 2005 年 3 月 17 日から個人住宅ローンの
優遇金利廃止に踏み切った。銀行業監督管理委によれば、2005 年末の不動産業向け不良債
権残高は既に 1093 億元に達した。個人住宅ローンの不良債権比率はまだ 1.5%前後である
が、上昇傾向にある(人民網北京 2006 年 4 月 20 日)。
国民は銀行が国有であるからこそ経営内容が悪くても預金を引き出さないのであり、
2006 年末から外資系金融機関が本格的に中国で営業を開始すると、大量の預金・人材シフ
トにより、経営基盤が弱体な一部の国有商業銀行やその他の金融機関が深刻な経営危機に
陥るおそれがある。また、米国の圧力に押され、資本取引の自由化を中国政府が加速した
場合には、上記の金融危機とあいまって、人民元の急落が発生するおそれもある。この場
合、中国発第 2 次アジア通貨危機に発展する可能性すらなしとしない。
(5)賃金の急上昇・失業の増大
今後胡錦涛・温家宝体制の所得格差解消策が強化され、産業の高度化・情報化が進めば、
農村出稼ぎ熟練労働者の賃金引上げ圧力につながり、中国製品の価格優位性は次第に失わ
れることになる。すでに広東省や上海の低賃金の工場では、2004 年以降出稼ぎ労働者の不
足が発生している。
他方、現在の急激な経済構造変革(産業の高度化・情報化)は、都市における中高年の
一時帰休・失業者や技術・教育水準の低い農村出稼ぎ労働者の就職・再就職を困難にし、
雇用のミスマッチによる失業の増加が都市の社会不安を誘発するおそれがある。
2.3.2 社会的要因
(1)高齢化
労働・社会保障部によれば、中国は 2004 年末で 60 歳以上の老齢人口は既に 1.45 億人と
総人口の11%を占めており、その後も老齢人口は年 3.3%のペースで増加するとみられて
いる。2005 年末で 65 歳以上の人口は 1 億人、人口比は 7.7%となっている。2020 年には
60 歳以上の人口は 2.43 億人、全人口の 17%を占めるに至ると予想されている(法制晩報
27
2005 年 3 月 17 日)。このように高齢化が急速であるにもかかわらず、社会保障制度の整備
(特に農村)が遅れており、全国社会保障基金理事会の項懐誠理事長によれば 2001 年から
2075 年にかけての年金の積み立て不足は 9.15 兆元にも及ぶとされる。これが一方で財政圧
力をもたらし、他方で社会不安を増大させるおそれがある。
また、1 人っ子政策が長期に継続されてことにより、男女の産み分けが常態化しており、
2005 年末の男女比率は 106.3:100 となっている。これは若年世代ではより深刻化してお
り結婚難による急激な少子化が発生する可能性もある。
(2)感染症の拡大
エイズなど感染症患者の急拡大が中国の社会混乱や直接投資の減少を招くおそれも否定
し得ない。衛生部の発表によれば、2005 年においてエイズ感染者は約 65 万人であり、う
ち発病は約 7 万 5000 人、新たな感染者は 6−8 万人、死亡者は 2.5 万人となっている。こ
のほかにも、2005 年の法定伝染病報告は 442 万 8548 例に及び、死亡者は 1 万 3263 人で
あり、発病率は対前年比 12.7%上昇、死亡率は同 81.92%上昇している。死亡の上位は肺結
核・狂犬病・エイズ・B 型肝炎・新生児破傷風であり、これで死亡総数の 89.40%を占めて
いる。これも農村における貧困と衛生医療体制の未整備が主要な原因である。
(3)環境破壊
国家発展・改革委の馬凱主任は、2003 年 12 月 22 日の人民日報インタビューで中国の粉
塵排出量は世界先進水準の 10 倍であることを認めている。また、国務院発展研究センター
によれば、中国のNO2、CO2の排出量はそれぞれ世界1位(2005 年 2549 万トン)、世
界 2 位であり、酸性雨が降る国土面積は、80 年代から 90 年代半ばにかけて 100 万平方キ
ロ余り拡大した。国家環境保護総局が全国 696 ヶ所で調査したところ、半数以上の 357 ヶ
所で酸性雨が観測されている(共同 2006 年 8 月 3 日)。温家宝総理は 2006 年 4 月 17 日の
全国環境保護大会において、「5 分の 1 の都市の大気汚染が深刻であり、3 分の 1 の国土面
積が酸性雨の影響を受けている。全国水土流出面積は 356 万平方キロ、砂漠化土地面積は
17 万 4 平方キロであり、90%以上の天然草原が退化し、生物の多様性が減少している」と
指摘している(新華社北京電 2006 年 4 月 23 日)。国家環境保護総局によれば、環境汚染が
もたらす経済損失は、2004 年で 5118 億元(GDPの 3%)に及ぶとされる(共同 2006 年
9 月 7 日)。
また、これ以外にも水質汚濁の問題は、使用可能な水量を必要以上に減少させている。
水利部によれば、現在中国農村の 3 億人分の飲料水が安全を欠き、うち 6300 万人の飲料水
のフッ素含有量が衛生基準を上回り、骨の変型や骨粗鬆症等により労働困難に陥る者も現
れている(新華社北京電 2005 年 3 月 21 日)。また毎年未処理の汚水が 2000 億トン排出さ
れることにより、都市の水質汚染率は 90%以上、湖沼の 75%は富栄養化している。(新華
社北京電 2005 年 3 月 22 日、人民網 2005 年 6 月 7 日)。2005 年 6 月に国家環境保護総局
が発表した 2004 年環境状況報告によれば、7 大河川流域(遼河・海河・淮河・松花江・珠
江・黄河・長江)のうち、
飲料水源となりうる I 類から III 類の河川断面の割合は平均で 36.3%
28
にすぎず、最も少ない淮河では 19.8%である。また、利水機能を喪失した劣 V 類の河川断
面の割合は平均で 32.6%、最も割合が大きい海河では 56.7%である。さらに、2005 年以降
全国で大規模な水質汚染事故(松花江のベンゼン汚染、広東省・湖南省のカドミウム汚染
等)も頻発している。国家環境保護総局の周生賢局長は、2005 年に 5.1 万件の環境紛争が
発生し、松花江汚染事件以降の突発的な環境事故は全国で 76 件発生しており、平均 2 日に
1 件事故が発生していると報告している(新華社北京電 2006 年 4 月 19 日)。
国家環境保護総局の解振華局長(当時)は、「粗放型の経済成長方式が生態環問題の根本
原因である」とし、今後 15 年の環境問題として、(1)製紙・醸造・電力・化学工業・建材・
冶金等の工業の継続発展による汚染、(2)石炭を主とするエネルギー構造が長期に存在する
ことによる二酸化硫黄、窒素酸化物、CO2、煤煙、粉塵、(3)都市化の過程で発生する大量
のゴミ・汚水、(4)農業・農村発展における化学肥料・農薬の不合理な使用、養殖業の無秩
序な発展、遅れた農村衛生、汚水灌漑、工業の移転、(5)社会消費の転換における電子・電
気器具廃棄物、排気ガス、有害建築材料、ハウス・シッキング、(6)遺伝子組み替え産品・
新化学物質等の新技術・新産品による潜在的リスク、の6点を指摘している(人民日報 2005
年 6 月 6 日)
。
3.第11次5ヵ年計画の策定経緯
5 ヵ年計画は、通常 2−3 年の期間をかけて策定される。第 1 段階は、計画開始前年の党
中央委員会全体会議までで、ここで新 5 ヵ年計画に関する党中央建議が決定される。中国
においては、共産党の決定は絶対であり、この時点で 5 ヵ年計画の基本的方向・指導理念
は確定する。第 2 段階は、計画開始年の 3 月に開催される全人代までで、ここで5ヵ年計
画の政府要綱が確定する。党中央建議から政府要綱確定までには、中央経済工作会議、全
国発展・改革会議(以前は、「全国計画会議」と呼ばれた)をはじめ、多くの全国レベルの
会議が開催され、各論が固められていくのである。
今回の計画策定に当たっては、新華社北京電 2005 年 10 月 26 日、新京報 2006 年 3 月 6
日、京華時報同 3 月 13 日、新華社北京電同 3 月 16 日が、政府要綱の誕生記を詳細に紹介
している。これも中国の経済政策決定過程を知る重要資料であるので、内容を整理して紹
介しておきたい。
3.1 党中央建議まで
3.1.1 時系列
2003 年 7 月 8 日
9 月
国務院は第 11 次 5 ヵ年計画の起草作業を開始。
党中央・国務院の統一的な手配により、国家発展・改革委は初めて入札形式により、
国家・各地域・各部門の重要な研究機関、世界銀行・国連の駐在機関等を組織し、第 11
次 5 ヵ年計画期間の重大発展課題について研究を行い、数百万字の研究成果を提出した。
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