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迷走神経刺激による 心不全治療の最適化
「健康研究成果の実用化加速のための研究・開発システム関連の 隘路解消を支援するプログラム」シンポジウム 迷走神経刺激による 心不全治療の最適化 九州大学 国立循環器病研究センター 砂川 賢二 杉町 勝 1 人類最大の死因・循環器疾患 予後不良の心不全が激増 80,000 75,000 心不全 死亡数(対10万人) 70,000 65,000 60,000 55,000 50,000 45,000 40,000 心筋梗塞 35,000 30,000 (年) Levy D et al, NEJM2002 慢性心不全の生命予後不良 40年間で15%しか改善せず 心不全による死亡が急増 薬剤治療には限界も⇒デバイス治療の開発 2 現状デバイス(除細動器)の問題点 問題点 解決策 大電力の苦痛 超低電力化・無痛化 意識消失 即時診断・即時除細動 長期管理困難 無線・ICTによる管理 心不全進行の 抑制できず 迷走神経刺激による 心不全進行予防 上流治療をめざしたものはこの解決策のみ 3 迷走神経の長期刺激による心不全治療 劇的な生命予後改善 Excessive activation Intelligent intervention 心不全治療のパラダイムシフト 過剰な交感神経系の抑制: 薬剤で可能 減少した迷走神経系の賦活: 未開発 Li et al, Circulation 2004 最適化の検証不充分 4 有効性の最適化実験: 実験用植込型刺激装置 刺激デバイス 刺激電極 仕様 神経刺激電圧 :0-12 V 神経刺激パルス幅 :60 μs~1 ms 刺激周期 :1~20 Hz プログラム :無線による 刺激パターン :任意 外形サイズ 28.2 mm(W)×45.1 mm(D)×10 mm(H) 使用電池:CR2430 300 mAh 動作寿命 12週 (12V 600 μs 10 Hz 負荷50 KΩ) 消費電流200 μA (負荷電流5 μA) 5 刺激強度の最適化 個体差のため、刺激強度は急性徐脈作用により規格化 従来の刺激条件 周波数: 20 Hz 強度: 0.1〜0.13 mA (≒3.0 V) パルス幅: 0.2 ms 間欠刺激: 10 s on 50 s off シャム刺激 ×1/4 ×1/2 ×1 従来強度 380 380 380 380 380 360 360 360 360 360 340 340 340 340 340 320 320 320 320 320 300 300 0 10 20 30 (s) 刺激 0 10 20 刺激 300 30 (s) 0 10 20 刺激 300 30 (s) 0 10 20 刺激 300 30 (s) 0 10 20 30 (s) 6 有効性実験プロトコール -3 -2 冠動脈閉塞 によるSDラット 心不全作成 -1 電極 植込み 0 1 刺激開始 電圧条件 ×1, × 1/2, × 1/4 2 3 4 週 血行動態評価 組織学的評価 7 刺激強度による平均心拍数の経過の差異 平均心拍数の低下は心不全の改善を示す 心拍数(bpm) 400 380 † † 360 340 320 300 シャム刺激 Sham ×1/4 Quarter ×1/2 Half ×1 Max 0 * * * ** 1 * p<0.05 from Sham 2 ** p<0.01 from Sham 3 * ** 4 週 †<0.05 from pretreatment values of Sham 8 刺激強度による血行動態の差異 左室重量 (mg/g) 30 * ** +LV dP/dt (mmHg/s) 左室拡張末期圧 (mmHg) 4 ** 3 7000 * 25 6000 * 20 5000 15 2 10 Sham Quarter シャム刺激 ×1/4 Half ×1/2 4000 Sham Quarter シャム刺激 ×1/4 Max ×1 Half ×1/2 Sham Quarter シャム刺激 ×1/4 Half ×1/2 Max×1 Max ×1 BNP (pg/mL) 肺重量 (mg/g) 12 -LV dP/dt (mmHg/s) 500 Sham Quarter Half Max -2000 400 -3000 10 300 ** 8 ** 200 ** 100 6 -4000 -5000 * 0 Sham Quarter シャム刺激 ×1/4 Half ×1/2 Max ×1 Sham Quarter シャム刺激 ×1/4 Half ×1/2 Max ×1 * -6000 p<0.05 vs Sham シャム刺激 ×1/4 ×1/2 ** p <0.01 vs Sham 9 ×1 長期刺激すると心拍不応答例増加 最大刺激による心拍数変化 刺激による心拍応答例の割合 (bpm) 380 シャム刺激 ×1/4 100% ×1/2 360 80% 340 VNS 60% 320 ×1 (s) 300 0 10 20 ※ 8~12 V 刺激 30 (週) 40% 0 7 1 14 2 21 3 28 4 10 4週間刺激後の神経組織 刺激なし ×1 Toluidine blue stain 大径有髄線維 (≧ 4 μm) 小径有髄線維 (< 4 μm) 50μm 11 4週間刺激後の神経数 小径有髄線維 (counts/bundle) (counts/bundle) 1600 大径有髄線維 500 400 1200 300 800 * 200 400 100 0 0 Sham Quarter ×1/4 シャム刺激 Half ×1/2 Max ×1 Sham Quarter ×1/4 シャム刺激 Half ×1/2 Max ×1 12 刺激強度最適化:小括 副作用発現閾値以下の刺激では直接 的な心拍数の低下は認めなかった ×1/2の強度の刺激が最も高い効果を 発揮した ×1の刺激で効果が減弱した原因とし ては電気刺激による神経障害が考え られる 13 迷走神経刺激を薬理学的に模擬 薬理学的刺激 電気刺激 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬=ドネペジル (%) (%) 100 100 迷走神経刺激 (n=22) ドネペジル (n= 35) 80 生存率 生存率 80 P=0.008 60 60 P=0.03 40 MI 対照 (n= 31) 対照 (n=30) 刺激期間 40 20 14 0 20 40 60 80 100 120 140 0 日数 Li M et al. Circulation. 2004;109:120-124 20 40 60 80 100 120 140 日数 Li M et al. Circ J. 2013; 77: 2519-2525 機序考察 14 迷走神経電気刺激の機序 心拍数低下を介する効果は少ない(ムスカリン受容体) • 心拍数低下は<10% • 経過とともに心不全改善による心拍数低下 • 同程度徐脈のベータ遮断薬よりも効果大 中枢を介する効果の可能性 • • AVP分泌も低下 食塩嗜好性も低下 ⇒アセチルコリンエステラーゼ阻害薬も 中枢移行性のいいものを選択 15 薬理学的刺激を用いて機序検討 ドネペジルを経口投与(中枢移行) • 炎症に関与するα7ニコチン受容器の関与? • 重要なα7ニコチン受容器は中枢?末梢? ドネペジルを中枢投与 • • 中枢投与でも効果? 中枢投与でも 重要なα7ニコチン受容器は末梢? 16 実験方法(ドネペジル経口投与) 手術1 手術2 手術3 iPRECIOインフュージョン ポンプ (中枢用) 広範心筋梗塞 生存動物 生存動物 6日 7日 ECG テレメトリ SDラット (8週齢, オス) 左冠動脈結紮 浸透圧ミニポンプ (末梢用) 17 (拍/分) 平均心拍数 UT SPDT a7PDT 450 心重量 (g/kg) 400 +45% # 3 # # # # ,* 2 3 25 # 4 1 20 0 15 UT SPDT a7PDT # 心拍出量 150 脳性利尿ペプチド +14% +44% (mmHg/s) 4000 120 (pg/ml) # 800 -36% #, * 3000 -49% 90 #, * SPDT a7PDT UT dP/dtmax # -43% # ,* 週数 (ml/min/kg) 30 # # ,* 250 1 * * 2 300 0 拡張末期圧 35 4 -9% 350 (mmHg) 600 2000 400 1000 200 0 0 * # 60 30 0 UT SPDT a7PDT UT SPDT a7PDT UT SPDTa7PDT 18 a 線維化・血管新生への影響 Oral (4wk) b 10(%) SPDT a7PDT 8 Fibrosis UT * 6 4 # 2 0 UT a b (/field) 1000 SPDT a7PDT Capillary density UT SPDT a 7PDT # 800 600 400 * 200 0 UT SPDT a 7PDT 19 機序考察:小括1 ドネペジルの経口投与には心不全ラットの 予後改善に必要な種々の心保護作用 が見られた (ドネペジルは末梢?中枢?に作用) • 末梢のα7ニコチン受容器遮断によって これらの作用は消失した • 中枢のα7ニコチン受容器遮断によって これらの作用は影響されなかった 20 実験方法(ドネペジル中枢投与) 手術1 手術2 手術3 iPRECIOインフュージョン ポンプ (中枢用) 広範心筋梗塞 生存動物 生存動物 7日 SDラット (8週齢, オス) 左冠動脈結紮 ECG テレメトリ 6日 BP テレメトリ 浸透圧ミニポンプ (末梢用) 21 結果:心拍数変化 (beats/min) (beats/min) 450 400 3 4 ‡ 300 ‡* ‡* 250 ‡* 2 ‡* 1 ‡* ‡* ‡* ‡ 300 ‡* ‡ 350 ‡ 350 ‡ 400 心拍数 a7DT SDT 450 CST CDT 5 6 250 0 1 2 3 週数 4 5 6 0 週数 22 結果:心拍出量 +25% (ml/min/kg) * 200 (ml/min/kg) 200 心拍出量(新係数) -33% 150 150 100 100 50 50 0 0 CST CDT * SDT a7DT 23 機序考察:小括2 ドネペジルは中枢投与でも心不全ラットの 予後改善に必要な種々の心保護作用 が見られた • ドネペジル中枢投与でのこれらの作用も 末梢のα7ニコチン受容器遮断によって 消失した 24 これらの実験から考えられる 作用機序 経口投与したドネペジルも主たる効果は 中枢を介するものである 中枢に作用したドネペジルは迷走神経の 賦活を介して末梢に作用する 迷走神経の作用は末梢α7ニコチン受容体 を介する効果が主である 抗炎症・血管新生などから抗リモデリング 心保護作用が生じる 25 有害事象把握のための喉頭筋電図 頚部刺激 胸部刺激 刺激電圧(V) 心拍数低下率 喉頭筋電位(μV) • 喉頭筋電図の解析から頚部刺激に比し、胸腔内 刺激の有害事象が同一心拍数減少では少ないこ とが示されている 頚部刺激 胸部刺激 刺激電圧(V) 26 頚部刺激 vs. 胸腔内刺激 [頚部] パルス電圧(V) 行動 1 2 3 4 5 6 7 8 9 6 7 8 9 口をもぐもぐ動かす 舌を出す、口をなめる 咳き込む 頭を上げる(頭を下げる) 立ち上がる(しゃがむ) [胸部] パルス電圧(V) 行動 1 2 3 4 5 口をもぐもぐ動かす 舌を出す、口をなめる 咳き込む 頭を上げる(頭を下げる) 立ち上がる(しゃがむ) 27 胸腔内刺激 近位 遠位 28 遠位胸腔内刺激の有害事象 心拍低下率(%) 50 麻酔下 刺激頻度 20Hz パルス幅 0.1ms 40 30 植込み時 最大心拍低下率(%) 20 最大心拍低下率(%) 4日後 最大心拍低下率(%) 7日後 覚醒下に 最大心拍低下率(%) 11日後 有害事象発生 10 0 0 2 4 6 刺激強度(mA) 29 安全性評価:小括 イヌでの検討では、迷走神経の刺激 部位を選択することによって、有害事 象の発現なく心拍数の10%低下を確 認できた 胸腔内遠位刺激で、有効域に対して 最も大きな安全域を確保できた 単極刺激では安全域は減少した 30 海外での臨床試験 Parameter Current (mA) NECTAR-HF Mean: 1.3 ± 0.8 (range 0.3-3.5) INOVATE-HF ANTHEM-HF Unknown Unknown Frequency (Hz) 20 1-2Hz (inter-pulse interval 4-20Hz) 10 Duty Cycle (%) 17 ~21 17.5 ON / OFF (sec) 10 / 50 ~2-10 / 10-30 14 / 66 Pulses per minute 200 < 100 105 Cardiac Lead NO YES (RV) NO ECG Synch NO YES (timed to ECG at a 70325ms delay from R-wave) NO Afferent block NO YES (Quasi-Trapezoidal waveform; requires >4mA) NO Electrode Bipolar helical cuff Bipolar, multipolar "splitcylinder" cuff Bipolar helical cuff 95 例での二重盲検 ランダム化試験 有効性:証明できず 進行中 60 例でのオープン ランダム化試験 有効性:EF改善 31 実用化に向けて より短期間での迷走神経刺激によ る上流治療 心不全の病態が固定する前に治療 植込みデバイスを要しない 国内・海外含めた企業と進行中 32