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ヨーロッパと日本

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ヨーロッパと日本
日欧シンポジウム
が導入されたことのみのように思われます。
ヨーロッパと日本
日本では証券取引法は,大規模公開会社に対
―企業・資本市場・市民社会の現在と未来―
する会社法の性質を有すると言われています。
第3部
証券取引法は会社法によるよりも詳細な情報
開示を発行者に求めておりますし,公認会計
〇上村達男:おはようございます。日欧シン
士による監査証明制度は証券取引法適用会社
ポジウムの2日目のプログラムを開始いたし
から始まりました。他方,日本では証券取引
ます。昨日は大変有意義な―日本にとって有
法と会社法の役割分担も意識されておりまし
意義なのはもちろんですが,ヨーロッパの
て,例えば公開買付けについては,投資者保
方々もイギリスとドイツとフランス相互のや
護のための手続きを証券取引法において定め,
りとりは大変有益であったと思います。今日
対象会社が取り得る買収防衛策や買収に直面
も楽しみにしております。今日は早稲田祭で
した企業経営者の責任は,会社法の問題であ
して,学生がお祭り騒ぎをしておりますが,
るという考え方が一般的です。
学生には,勉強の企画はほとんどなく,食べ
証券取引法の守備範囲は国によってさまざ
物・飲み物専門ですが,われわれは一生懸命
まですが,日本ではディスクロージャー制度,
勉強してまいりたいと思います。それでは,
不公正取引の禁止,証券業の規制の3つから
第3部の最初は早稲田大学の黒沼教授から,
成ると考えられています。前二者は投資者の
「日本における資本市場法制改革の現状と課
保護ないし,市場を通じた適正な資源配分の
題」ということでお話いただきます。黒沼教
ために不可欠な要素ですが,それに対して証
授は皆さんご紹介するまでもありませんが,
券業の規制は証券取引法だけで完結するもの
日本の証券取引法,あるいはアメリカ証券取
ではなく,投資信託,あるいは集団投資ス
引法の第1人者でいらっしゃいます。それで
キームと言ったほうが良いかもしれませんが,
はよろしくお願い致します。
投資信託にかかる業者規制は投資信託・投資
〇黒沼悦郎(早稲田大学法務研究科教授):
法人法が,投資顧問の規制は投資顧問業法が
おはようございます。早稲田大学の黒沼です。
担っており,証券取引法からこれらの業法を
私からは日本における資本市場構成の改革状
分離して別の法律にまとめることにも合理性
況についてご紹介し,あわせて今後の課題に
があると思われます。
ついて若干の検討を加えたいと思います。
最近の資本市場法制の改革を,証券取引法
まず報告の前提として,日本の資本市場法
を中心にまとめてみますと,レジュメの2に
制の枠組みを簡単に説明しておきます。日本
記載したようになります。それぞれの改正項
の資本市場法制を構成するシステムとしては,
目の右側に網掛けで記してありますのは,改
レジュメに掲げた諸法律が挙げられます。こ
正の背景や目的と考えられる事項です。これ
のうち,資本市場法制の中核を担う証券取引
らを見ると,いくつかの政策が最近の改革を
法 は , 1948 年 に 米 国 の 連 邦 証 券 規 制 に な
推し進めてきたことを指摘することができま
らって制定されたものでして,その後も米国
す。レジュメでは,3以降に政策をいくつか
の連邦法の影響を受けて度々改正されてきま
ピックアップしておいたのですが,その第1
した。私が見るところ,米国法以外を参考に
は,市場間競争の促進です。1998 年に行わ
した改正は 1990 年に公開買付けについて買
れた取引所集中原則の撤廃,私設取引システ
付け後に議決権の3分の1を超えるような買
ムの導入,これはかつて PTS と呼んでおり
付けは公開買付けによらなければならないと
ましたが,最近では EU にならって,MTF と
する強制的公開買付け制度,3分の1ルール
呼ぶことが多いようです。それに引き続く取
― 79 ―
引所取引と,取引所外取引のイコールフッ
りません。
ティングのための諸政策,さらには非上場証
第4として,国内の経済情勢が立法政策に
券の取引の場であるグリーンシート市場の整
影響を与えることがいつの時代にもあります。
備がこれに当たります。日本においても
1990 年代後半から 2000 年代前半の日本では,
1990 年代からベンチャー企業向けの新興市
不況に伴う事業再編,リストラクチャリング
場が複数登場しておりまして,法はそれらに
を円滑に行わせるという観点から 2002 年,
ついても取引所の自主規制の競争,もちろん
2003 年に強制的公開買付け制度の見直しが
それは法的な監督のもとにおかれているもの
検討され,ベンチャー企業が資金調達を円滑
ですが,そういった自主規制の競争によって
に行えるよう,2003 年に私募の範囲が拡大
ディスクロージャーの質や不公正取引に対す
されました。
る取締りのレベルが維持されることを期待し
ていると言えます。
最後に国外の改革や国際的なルールの統一
化によって引き起こされた項目として,エン
改革を推進した第 2 の政策は,国際競争力
ロン事件やその後のサーベンス・オックス
の確保・強化です。2000 年改正による取引
リー法の制定に促された,2003 年のディス
所の株式会社化の許容,2003 年改正による
クロージャーの強化,公認会計士法の改正を
取引所持株会社の許容,国内取引所が海外か
挙げることができます。内部統制報告書の作
らリモートメンバーシップを受け入れる際の
成やその監査のあり方も現在検討が進められ
ルール作りなどがこれに当たります。取引所
ているところです。
が国際的な市場間競争に巻き込まれるように
このように最近の資本市場法制の改革は特
なったときに,公共財である証券市場の機能
定の政策目標を達成するために行われてきた
を維持し,そこで取引をする投資家を保護す
と言えるのですが,その際投資者の保護や資
ることは当然重要なことでありますが,取引
本市場の機能の維持といった資本市場法制の
所の国際的競争力を強化すること,それ自体
根幹を成す理念が否定されているわけではあ
が政策目標になることには違和感もあります。
りません。学者としては,これらの理念が後
レジュメでは 2004 年改正の銀行による証券
退することのないよう監視していかなければ
仲介業と 2005 年改正の英文開示の導入も国
ならないと考えております。現在検討中の課
際競争力の確保に分類し,前者には「?」を
題,改正課題はレジュメの2の(6)に挙げ
付けておきましたが,これらについては後で
ておきました。その最大のものは投資サービ
触れたいと思います。
ス法の制定でして,これについては松尾さん
第3に,投資家層の拡大を狙った諸改革が
の報告に委ねたいと思います。一言だけコメ
あります。2003 年の証券仲介業制度の創設,
ントをしておきますと,私は投資サービス法
2004 年 の 投 資 信 託 の 目 論 見 書 の 改 革 , グ
に改組された場合も,証券取引法の性格は変
リーンシート市場の振興策をこれに分類して
わらないと考えておりますが,それでも考え
おきましたが,レジュメで,投資商品の多様
方の整理が必要になるのではないかと思って
化という項目に分類したものも,多様な投資
おります。すなわち,投資サービス法は投資
商品を投資者に提供できるようにすることで
者の資産運用の対象となるものを投資商品と
すから,投資家層の拡大につながると思われ
捉えて,規制を加えるものであり,そこには
ます。政府はこれを「貯蓄から投資へ」とい
必ずしも企業の資金調達と関係ないものも
うスローガンで表現していますが,立法に
入ってきます。また,そのような投資商品が
よって貯蓄から投資へ国民の金融資産をシフ
たとえ上場されても,当該投資商品の市場は,
トすることができるのか,疑問がないではあ
企業経営を監視し規律するという機能を果た
― 80 ―
しません。したがって,企業の資金調達を通
ことができ,結果として投資家の利益につな
じた資源の効率的配分や市場による企業経営
がるとも考えられます。今後,世界的な規模
の規律といった資本市場の機能を維持するこ
での資金調達が盛んになるにつれ,市場主義
とは,依然として一定の投資商品については
と本国主義のいずれをとるべきかが問題にな
法の目的となるものの,投資サービス法全体
るように思われます。
を通じた目的ではなくなるのではないかとい
うことです。
仮に本国主義をとるほうが合理的であると
した場合,私は次のような問題があるのでは
公開買付け制度の改正は,企業買収事例の
ないかと考えております。すなわち,当該国
増加といった経済環境からそういった問題に
または市場において,投資判断にとって重要
対処しようとするものですが,従来顕在化し
な情報が新たに生じた場合,開示について本
ていなかっただけでして,普遍性のある課題
国主義をとっていると,新たな情報の開示に
です。これについては昨日久保田さんから報
よる恩恵を迅速に市場に行き渡らせることが
告があったところです。四半期開示制度につ
できないのではないかということです。例え
いては,導入の方向が決定されていますが,
ば日本では,西武鉄道の虚偽記載事件をきっ
四半期財務諸表の作成基準や,公認会計士等
かけに,上場会社の親会社に対して情報開示
による保証手続きについて,現在検討が進め
が義務付けられましたが,親会社情報が重要
られています。内部統制報告書についてもそ
かどうかは,国または市場によって異なると
の作成基準や検証基準の明確化が検討されて
思われます。また最近の改正では,コーポ
いるところであり,これらも普遍性のある
レート・ガバナンスに関する開示の充実が図
テーマであると思います。
られてきましたが,以前は,ガバナンス情報
そこで以下では,こういったディスクロー
は投資判断にとってそれほど重要でないと考
ジャーの問題を含め,今後の資本市場法制の
えられていたわけでして,これは時代ととも
あり方について私なりに検討を加えたいと存
にディスクロージャーの内容が変化すること
じます。ディスクロージャーについては,ま
を示す例です。もちろん開示について本国主
ずその基本的なあり方を論じてみたいと思い
義をとる場合であっても,統一的に要求され
ます。日本では自国の投資家保護を図るとい
る開示に加えて,各国が開示項目を付加する
う観点から,外国企業についても日本法の定
ことが可能ですが,やはりその国,その市場
める内容の情報を開示することを要求するこ
で取引を行う投資家の保護に欠ける場合が出
とを前提としつつ,開示義務の負担軽減のた
てくるのではないか。問題をより広く捉えま
めに一定の要件を満たした場合に本国基準に
すと,開示内容の世界的な統一という傾向は,
よる開示および英語による開示を許容する改
各法域がディスクロージャーを改善するス
正が 2005 年に行われました。もっとも外国
ピードを鈍らせるのではないかということで
会社の開示の特例は段階的に進めるとされて
す。この点は問題提起に留め,皆様のご意見
おりまして,発行開示については日本語によ
をうかがいたいところであります。
る,日本基準の開示が求められますので,い
次に投資サービス法による包括的な立法が
わゆるグローバル・オファリングには対応で
実現しますと,要請される開示情報の性質が
きません。EU では発行開示,流通市場開示
今以上に分かれてくる可能性があります。従
ともに,できるだけ開示内容を統一した上で
来日本では,企業内容の開示のことをディス
本国基準による開示が認められていると認識
クロージャーと呼んできましたが,投資サー
しております。本国基準による開示を認めれ
ビス法では各種のファンドのように資産の内
ば,規制の重複や過大なコスト負担を避ける
容に関する情報や,運用者,運用サービスの
― 81 ―
内容に関する情報が重要となりますので,そ
引として禁止するかを理論によって決するこ
のような企業内容以外の情報開示の枠組みを
とはできません。そこで,この場合ではイン
工夫する必要が生じます。投資サービス法の
サイダー取引となりますが,その取引が許容
規制対象である投資商品を,情報開示さえす
されているような市場では取引したくないと
れば売ってよい商品と捉えますと,そこには
多くの投資家が考える取引や行為を,禁止の
各種のデリバティブ取引が含まれてきます。
対象とすべきことになりますが,一般の投資
現在の日本の証券取引法でも証券デリバティ
家が何を不公正と感じるかは,国民性によっ
ブ取引は規制対象となっておりますが,証券
て異なる可能性があります。また市場の機能
デリバティブ取引にはいわゆるディスクロー
を発揮させるのに,一般投資家の参加を必要
ジャー制度は適用されません。そこで,投資
としているかどうかによって,規制の要否が
サービス法において情報開示さえすれば売っ
分かれ得ると言えます。したがって,規制の
てよい商品というときの開示対象となる情報
国際的競争によって最善のルールを発見する
とはどのようなものか。その開示をどう行わ
ことが困難であるように思われます。インサ
せるかが,今後の大きな課題であると考えら
イダー取引規制については,米国と EU とで
れます。加えて,現在の証券取引法は流通性
考え方に隔たりがあると私は思っておりまし
の高い証券を中心に組み立てられているため,
て,日本は米国に近い,より正確に言えば,
米国法に習い,投資家に対する開示書類はす
立法化された 1988 年頃の米国法に近い立場
べて財務局に届出させ,公衆縦覧型の開示が
をとっております。ルールが国際的に収斂す
行われています。これに対して投資サービス
るかどうかが注目されているところです。
第3として,ルールのエンフォースメント
法では,流通性の乏しい証券,例えば譲渡制
限が付された組合持分も規制対象となります。
を取り上げます。日本では従来ディスクロー
流通性の乏しい証券の開示も公募に該当すれ
ジャー違反や不公正取引について刑事罰によ
ばすべて財務局に届出させ,公衆縦覧型の開
る制裁しか実際上発動されてこず,エン
示を行わせることになるのか,それより証券
フォースメントの手段に乏しいと言われてき
保有者に対する直接開示のほうが良いのでは
ました。そこで 2004 年の改正では相場操縦,
ないかといったことが検討対象になると思わ
インサイダー取引,および発行開示違反につ
れます。
いて行政手続きによって制裁金を課す課徴金
次に不公正取引の規制については,個々に
制度が導入されました。もっとも課徴金の額
改善すべき点は多いのですが,ここでも法域
は,違反者が得た経済的利得相当額に限定さ
の立法競争によって,最善の不公正取引規制,
れており,抑止力は乏しいという批判がなさ
EU 指 令 の 用 語 で い う と マ ー ケ ッ ト ・ ア
れています。この点について,政府は経済的
ビュースの規制を発見することができるのか
利得を超える課徴金を課すと憲法が定める二
という問題だけ取り上げたいと思います。不
重処罰の禁止に違反すると考えているようで
公正取引のうち,相場操縦規制は市場の効率
ありまして,2005 年に継続開示違反に対す
性および公正性を維持するものでありますか
る課徴金制度が追加的に導入された時にも,
ら,市場の原理が,国または法域によって異
課徴金の額から罰金額を除くという配慮をし
ならない以上最善の規制は存在すると考えら
ています。課徴金制度は EU 諸国でも採用さ
れます。それに対してインサイダー取引規制
れていると聞いておりまして,二重処罰の禁
のように,規制の主たる目的が,一般投資家
止との関係をどう考えられているか,ご意見
の市場に対する信頼を確保することにあるも
を承りたいところです。
のについては,どのような行為を不公正な取
― 82 ―
投資家による民事責任の追及がエンフォー
スメントの重要な手段であることは,米国に
エンフォースメントの問題は,ルールの内
おいて強調されているところです。特にディ
容の問題ではなく,ルール執行の手段とその
スクロージャーについては投資家による損害
執行のレベルの問題であります。もしエン
賠償請求が発行者等による違反を抑止する効
フォースメントが過剰であって弊害を生じる
果を発揮すると言われています。日本の証券
のであれば,それはエンフォースメントの対
取引法では,過失の立証責任を被告に負わせ
象であるルールが悪いだけでして,ルールを
るなど,制度上の工夫をしておりますが,こ
直せば良いはずです。したがって,誰にエン
れまでは企業のディスクロージャー違反が
フォースメントを担わせるのか,すなわち政
あっても,発行者やその役員,公認会計士に
府か,裁判所か,自主規制機関か,という問
対する民事責任の追及はほとんど行われてき
題を含め,エンフォースメントのあり方は国
ませんでした。そこで 2004 年の改正では,
際的な市場間競争になじむものと私は考えて
継続開示違反があった場合に,発行者の無過
おります。
失責任を定め,損害額の推定規定をおきまし
最後に証券業の規制について少しだけ触れ
た。最近では,2004 年に発覚した西武鉄道
ておきます。日本では米国のグラス・ス
の有価証券報告書虚偽記載事件に関連して,
ティーガル法にならい,銀行による証券業務
関係者の民事責任を追及する訴訟が提起され
は厳しく制限されてきました。その趣旨は,
ておりまして,虚偽記載に対する投資家や企
銀行の預金者を保護することにあるのですが,
業経営者の意識が高くなってきたように見受
結果として第二次大戦後の日本の資本市場の
けられます。ところが日本には,いわゆるク
育成に寄与してきたと思われます。日本の企
ラス・アクション制度がないため,民事責任
業の自己資本比率は依然として低く,資金を
の追及によるエンフォースメントは依然とし
銀行借入れに頼っておりますが,それでも資
て低い水準に留まっています。ドイツでは投
本市場の規模はユニバーサル・バンキング・
資家保護のために,クラス・アクション類似
システムを採用してきた欧州大陸諸国よりは
の制度が導入されたと言っています。日本で
大きなものになっていると思われます。銀行
クラス・アクションの導入が真剣に議論され
による証券業務の禁止はその後徐々に緩和さ
ないのは,おそらくそれが民事訴訟制度の大
れ,銀行は子会社や金融持ち株会社傘下の証
きな変更になること,および証券訴訟にだけ
券会社を通じて,フルラインの証券業を営む
導入することへの抵抗があるからではないか
ことができるようになっています。2004年
と思われます。しかし虚偽の情報開示から投
の改正では,証券仲介業が銀行にも解禁され,
資家が保護されないまま放置されることは,
銀行の顧客を系列証券会社へ誘導することが
日本のディスクロージャーの質を低めるとい
できるようになりました。このような事態を
うことを自覚すべきであると考えます。
どう評価し,今後あるべき姿をどう考えたら
尚,再建中のカネボウが過去に粉飾決算を
良いかという問題が残されています。金融業
続けていたのみならず,それに公認会計士が
の国際的競争が激化する中,日本の金融機関
かかわっていたことが大きな議論を呼んでい
に国際的競争力を付けるためにユニバーサ
ます。この事件は,本日午後の尾崎先生の報
ル・バンキング・システムに移行すべきだと
告で扱われると思われますが,私は日本のエ
いう見方もあるでしょう。しかし,そのこと
ンロン事件とも言い得るものであると思って
が資本市場に及ぼす影響を冷静に見極めなく
おりまして,この事件をきっかけに,ディス
てはなりません。また投資家保護の目的から
クロージャーの質を高めるための改革が行わ
は,証券業を営む者が銀行か証券会社かとい
れることを期待しております。
うことは重要ではなく,ましてや両者の国籍
― 83 ―
は重要ではありません。資本市場を担う証券
のことです。したがいまして,日本の制度構
業のあり方について私は十分な知見を有して
築にあたっては,第1に,外国の制度を大い
おりませんので,この問題についても皆様の
に参考にする必要があるということです。2
ご意見をうかがいたいと思っております。以
番目のポイントといたしまして,黒沼先生の
上,日本の資本市場法制改革の現状について,
お話にありましたように,日本は従来制度構
他の報告者が扱わない分野を中心に紹介し,
築にあたりまして,外国の制度の中では主に
主として市場間競争,あるいは国際的競争の
アメリカの制度を参考にいたしてきておりま
観点から,将来の課題について私の見方を述
す。最近の変化は, EU(欧州連合)の 2005
べさせていただきました。ご静聴ありがとう
年域内金融市場の統合に伴いまして,EU の
ございました。
制度を参考にする度合が以前より相当増した
〇上村:黒沼先生,ありがとうございました。
ということです。この点については,投資
ヨーロッパ側に対するいくつかのご質問,あ
サービス法もそうですし,公開買付け規制の
るいはこういった問題についてどう考えたら
見直しにあたりましても,EU の制度あるい
良いのかといったお話をうかがいまして,こ
はイギリスの制度を参考にしております。
3番目の点といたしまして,日本の制度は,
れは後ほど質疑の中で先生方からご感想をお
聞きしたいと思っております。引き続きまし
黒沼先生のお話にありましたように,戦後,
て,金融庁の松尾さんから,「投資サービス
証券取引法を基に構築してきたわけですが,
法をめぐる論議をめぐって」と題してお話を
実は基本的な法律の概念は,以前のドイツ法
いただきます。松尾さんはこの問題を直接担
をベースにしているものが多いです。これは
当している責任者でいらっしゃいます。では
私も専門ではありませんが,ドイツ的な考え
よろしくお願いいたします。
の土台にアメリカ的な制度を築いてきたとい
〇松尾直彦(金融庁総務企画局政策課法務室
うことです。実はこの仕組みが,状況の変化
長,市場課投資サービス法令準備室長):ご
に対応して立法を実際にするにあたってなか
紹介いただきました,金融庁の松尾です。パ
なか難しい問題を提起しております。特に最
ワーポイントは英語で記載されておりますが,
近感じておりますのは,もともと私どもが日
本のベースにしていたドイツ法が,EU の統
説明は日本語で行わさせていただきます。
私は,ただ今上村先生からご紹介いただき
合に伴いましてだんだん−この理解が正確か
ましたように,金融庁で投資サービス法制の
どうか後でご意見いただきたいのですが−何
構築を担当しております。少し申し上げたい
となくイギリスの影響が増しているといった
のは,直前の3年間にわたって,金融庁にお
印象を受けております。つまりドイツの考え
きまして市場関係の国際関係の仕事をしてお
方が,ある意味で柔軟化している現状がある
りました。その過程で,欧州委員会( EC)
一方,日本は日本的な概念のベースに,いま
や欧州証券規制当局委員会( CESR),英国
だに従来のドイツの考え方がありまして,立
の金融サービス機構(FSA)やフランスの金
法にあたって大変苦労しているといったのが
融市場庁( AMF)やドイツの連邦金融監督
ありまして,こうした点について EU の方々
庁 ( BaFin ), ア メ リ カ の 証 券 取 引 委 員 会
が見てどう思われるか,EU の現状はどうか
( SEC)や商品先物取引委員会( CFTC)な
をあわせて教えていただきたいと思っており
どの多くの当局の方々とお付き合いをさせて
ます。
いただきました。その過程で感じましたのは,
では,投資サービス法の話に行かせていた
黒沼先生のお話にありましたように,市場が
だきたいと思います。まず今日のご説明では,
大変グローバル化しているという,当たり前
第1に投資サービス法とは何か。第2にその
― 84 ―
概要,3番目にそのカバレージ,4番目に規
い新しい投資商品の出現があります。例えば
制の内容,5番目に集団投資スキームとファ
組合型,パートナーシップ型の投資サービス
ンド,そして4番目に市場の制度ということ
が出てまいりましたので,これは実は黒沼先
で,あとは立法の準備があります。次のペー
生のレジュメにもありますが,法改正によっ
ジお願いします。
て証券取引法の対象にしています。FX(外為
まず,投資サービス法とは何かということ
証拠金取引)につきましても,これはアメリ
です。投資サービス法という名称はあくまで
カでもそうだったらしいのですが,被害が急
仮称であり,また,後で詳細は説明しますが,
増いたしまして,金融先物取引法の改正に
幅広い金融商品を対象として,利用者保護の
よって今年の7月施行で対処しています。し
ための包括的かつ横断的なフレームワークを
かしながら先ほど申し上げましたアイドル・
設けるということです。既存の法律の対象に
ファンドやラーメン・ファンドは,依然とし
なっていない新しい金融商品も対象にしたい
て対象外でして,やはり利用者保護の包括的
ということです。投資サービス法につきまし
なフレームワークが必要ということです。
ては,今年6月に定められている政府の基本
もう1点は,新しい金融商品に対して既存
方針におきまして早期の法制化がうたわれて
の法律でうまく対応できていないということ
おります。私ども金融庁といたしましては,
があります。その典型がラップ・アカウント
できれば来年の通常国会に,具体的には来年
です。ラップ・アカウントは,特に最近富裕
3 月に関係の法案を提出したいと思っており
層ビジネスとして,投資家から,例えば証券
まして,現在準備をしているところです。尚,
会社がお金を預かって,個々の取引ではなく
一言申し上げたいのですが,多くの国は財務
て預かり資産に応じた手数料を受け取って,
省,大蔵省が法案を提出しているのですが,
証券会社が運用を任されるというものですが,
日本では財政・金融分離の結果,金融庁が法
現在この業務を行うためには,複数の登録あ
案を作成し,閣議決定を経て国会に提出され
るいは届出が必要となっています。したがい
ています。次のページをお願いします。
まして時間がかかる,プロセスがカンバーサ
投資サービス法の考え方と言いますか目的
ム(手間がかかる)というのもありまして,
ですが,ここにありますように日本にはいろ
これを簡素化する必要があると思います。こ
いろな法律がありまして,左側にある証券取
こでは“simplify and clarify regulation”と,
引法,右側のほうに金融先物取引法,その他
新しい金融商品の提供を促進するという目的
があって法律が細かく分かれています。とこ
があります。
ろが最近既存の法律の対象になっていない新
6番目,次のページになります。ページの
しい商品がどんどん出できています。特に真
6です。では投資家の目的は何かと言うと,
ん中のところにある Loopholes between the
キーワードが3つありまして,1つは活力,
Laws,法の隙間とありますが,新しいファ
ンドとして出てきているアイドル・ファンド,
ラーメン・ファンドといったファンドについ
ては,規制の対象になっていないのが本当に
良いのだろうかが課題となっています。次の
ページをお願いします。
次のページは,では投資サービス法がなぜ
必要かということですが,先ほど申し上げま
したように,既存の法律の対象となっていな
vitalize,2番目は市場というキーワードで
market function,3番目がユーザー,利用
者保護です。黒沼先生の報告でいろいろな目
的というご指摘がありますが,そのとおりで
して,私どもはこうした複数の目的をうまく
両立させたいと思っております。第1に,や
はり市場の発展のためには利用者が安心して
投資できる環境の整備があります。したがい
まして,規制の対象外の新しい金融商品に対
― 85 ―
する利用者保護の制度が必要です。第2に利
いているものですから,狭いです。例えばア
用者の利便性の向上でして,ユーザーが安心
メリカは,銀行証券,保険の縦割りにはなっ
して投資できるようになりましたら,利便性
ているのですが, SEC の所掌対象になって
が向上し,また金融イノベーションも促進さ
いるセキュリティは日本の概念より広いとい
れることになります。3番目が貯蓄から投資
うのがあります。UK につきましては,金融
へという理念の下での市場機能の強化です。
サービス・市場法(FSMA)における invest-
黒沼先生のお話にありましたように,政府が
ments( 投 資 物 件 ) や regulated activities
音頭を取ってどこまで進むかは,ご指摘の通
(規制業務)は預金や保険も含むものすごく
りでして,実際どこまで進むかは,あくまで
広 い も の で す 。 EU の 金 融 商 品 市 場 指 令
も利用者と市場関係者の行動に左右されるわ
( MiFID)は中間的でして,預金や保険は含
けです。ただ政府の役割としましては,貯蓄
まれないのですが,例えばデリバティブは商
から投資に移行するような環境を整備するこ
品デリバティブも含むものになっていまして,
とであると考えています。たとえば市場制度
日本より広いということです。金融商品,
の整備,証券税制の改革などが典型です。今
financial instruments という概念があります
し,“investment services and activities とい
う概念があって,日本より広いものとなって
います。われわれとしてはこうした外国の例
を参考にして,できるだけ広い商品の概念,
それから広い業の概念をとらえたいと思いま
す。
ここは投資サービス法の概要ですが,7つ
書いてあります。第1に,幅広い,広範な金
融商品を対象とするということです。第2に,
現行の証券取引法は販売・勧誘に着目してお
りますが,この業務の範囲に投資助言,資産
運用と資産管理を加えたいと思っております。
また,業のセクターにかかわらず,投資サー
ビス法に基づく業者の販売・勧誘ルールを一
般法としてすべての投資商品に適用すること
を目的としています。
4番目は先ほど申し上げましたように,顧
客のタイプによって規制を分けることです。
こ れ は ま さ に イ ギ リ ス の FSMA や EU の
MiFID を大変参考にしているところでして,
プロフェッショナルについては規制緩和,ノ
ン・プロフェッショナル,アマチュアの−日
本ではアマチュアなどと言っていますが−投
資家を保護することです。
と。
5番目は業の参入規制です。例えば MiFID
では認可(authorisation)で一律ですが,日
回の投資サービス法の整備もそうした取組み
の一環です。
最後は国際化への対応ということで,先ほ
ど申し上げたテーマです。7ページです。7
ページは今まで申し上げたことを図解にした
ものです。実はこの右側の左側の securities
というのがありますが,今の日本の証券取引
法はいったんセキュリティーズ(有価証券)
に該当しますと,割と画一的なディスクロー
ジャー規制,証券業の規制,販売・勧誘規制
が全部かかります。新しい金融商品はどんど
ん出てきた場合,黒沼先生のお話にもありま
したが,画一的な規制がうまくいかないので
はないかというのがありまして,規制の柔軟
化をしたいと考えております。例えばここで
書 い て お り ま す の は , 投 資 家 を ordinary
investors ( 一 般 投 資 家 ) と professional
investors(プロ投資家)に区分して, ordinary investors につきましてはしっかり保護
する一方,professional investors については
規制を緩和して,経済の活性化をするという
ように,多元的な目的を推進することにして
います。
次に8ページですが,これはまさに教えて
いただきたい海外の動きです。つまり,日本
のセキュリティーズ(有価証券)の概念は,
私法におけるセキュリティーズの概念に基づ
― 86 ―
本は証券業などは登録制で,一部認可制など
バティブの所掌のあるべき姿をどうお考えに
がありますが,できるだけ登録制でそろえて
なるかを1つ教えていただければと思います。
11ページですが,業者の参入規制につい
新規参入を促進したいと考えております。
6番目は collective investment scheme の
ては,業の登録制を3段階に分けまして,例
えば仲介業だけ行う業者,流通性の低い商品
問題で,これは後ほどお話いただきます。
7番目は黒沼先生のご指摘があったディス
だけを扱う業者に分けて,それぞれ規制の段
クロージャーのルールの見直しです。今は一
階を区分します。例えば一番上の幅広い業務
律に有価証券に当たれば公衆縦覧型のディス
を行う業者については,自己資本比率規制,
クロージャーがかかるようになっています。
EU は 全 部 バ ー ゼ ル Ⅱ を 入 れ て い ま す が ,
バーゼルⅡに近い自己資本比率規制を適用し
ます。プロとアマですが,ここはイギリスや
EU にならって,選べるようにしたいと思っ
ているのですが,一番難しいのは個人の扱い
です。 EU の MiFID を見ていますと,例えば
資産が 50万ユーロを超える個人は,他の要
件もありますが,プロになることができるこ
とになっています。,ただ日本ではやはり消
費者保護を重んじる方からするとそれはハー
ドルが低すぎる,もっと厳しくするのだとい
うことで,例えばこういう意見がありました。
預金を除く投資資産だけで3億円,ですから
今の相場で言うと 200万ユーロ,そういう意
見もありました。この個人がプロになるため
の基準は,相当議論になると思います。
次のページをお願いします。後5分程度で
すが,実はファンドについては国際的に課題
になっていまして,ヘッジファンドをどうす
るか,プライベートエクイティファンドをど
うするかなど大変議論があるところです。
EU でもここは統一がなくて,例えばドイツ
は新しいヘッジファンドの規制を入れたと聞
い て お り ま す 。 ア メ リ カ の SEC も ヘ ッ ジ
ファンドのアドバイザーの登録義務を始めた
ようです。では日本はどうするのか,という
のがありまして,日本はヘッジファンドに限
らずファンド,これはパートナーシップも含
めて大変流行っております。ここでは,例え
ばファンド自体の届出,あるいは登録制など
を課し,分別管理義務を導入しようというこ
となどが提言されています。ただ例えば投資
家が,プロフェッショナルのみからなるファ
ここは,例えば黒沼先生がご指摘のいわゆる
企業金融型ではなくて,資産金融型と言いま
すか,流動性の低い資産金融型の商品につい
ては例えば公衆縦覧でなくても良いのではな
いか,という議論がありまして,来週の金融
審議第1部会で議論する予定になっています。
10 ページ目は,今申し上げたことを図解
したものでして,要はセキュリティーズ,左
側の有価証券,セキュリティーズの概念を広
げて,ファイナンシャル・プロダクト(金融
商品)にするということです。セキュリ
ティーズ・サービシーズの概念も EU 的にイ
ンベストメント・サービシーズの概念に広げ
るということです。ここで2色になっており
ますファイナンシャル・プロダクトの下の預
金, deposits や insurance の取扱いですが,
イギリスは全部対象になっている一方, EU
では MiFID の対象になっていません。では
日本はどうするか。今議論していますのは,
預金や保険であっても例えば変額保険のよう
に投資性の強いものがあるのではないかとい
う観点から議論しています。あとはデリバ
ティブズのところですが,実は日本は com-
modity derivatives(商品デリバティブ)は
金融庁の所管ではなくて,経済産業省と農水
省が共管しております商品取引所法に基づく
ものです。アメリカでは実は SEC と CFTC
と,権限が分かれているところです。EU で
は一つの当局だけです。証券当局,市場当局
がみているところです。皆さんもご想像でき
ると思いますが,ここがなかなか難しいとこ
ろでして,この辺は EU の方々,やはりデリ
― 87 ―
ンドについて果たして厳しい規制が必要なの
時間を十分かけて良く考える必要があろうか
かというある意味でもっともなご意見もあり
と個人的には思います。ただ私ども行政の人
まして,ここをどうするかにつき今大きな課
間はどうしても当面の課題で忙殺されがちで
題になっており,今後詰める必要があると思
すので,その辺はぜひとも先生方にお考えい
います。次をお願いします。
ただければありがたいと思っております。以
これは市場やディスクロージャーの関係で
上です。
すが,これは天野常務などに委ねたいと思い
〇上村:松尾さんありがとうございました。
ますので,割愛させていただきます。
後ほどまたいろいろな観点から議論をさせて
最後のページを少し説明させていただきま
いただきたいと思います。引き続きまして,
す。今何をしているかと言いますと,まず投
東京証券取引所の天野常務取締役から,「証
資サービス法に向けて金融審議会第一部会に
券取引所の自主規制をめぐって」ということ
おきまして議論を継続しております。ここに
でお話をいただきます。どうぞよろしくお願
おられる黒沼先生もメンバーでして,ご参加
いいたします。
していただいております。あと TOB につき
〇天野富夫(東京証券取引所常務取締役):
ましては公開買付制度等ワーキング・グルー
プで議論しておりまして,早稲田大学からは
証券取引所の天野です。よろしくお願いし
ます。
岸田先生がメンバーになっておられます。こ
今日は,証券取引所の自主規制をめぐる動
ういう審議会での議論を通じまして,今投資
きについて少しお話をさせていただきます。
サービス法の準備をしておりまして,できれ
レジュメがあると思いますが,大きく2つお
ば来年の通常国会に関係法案を提出したいと
話を差し上げたいと思います。1つは,証券
考えております。実は私ども,今回投資サー
取引所の自主規制機能についてです。現在ど
ビス法の法制化を行いたいと考えております
のようになっているのか現状と,それから最
が,これで課題がすべて尽きていくとは必ず
近話題になっておりますが,証券取引所の組
しも考えておりません。黒沼先生がまさにご
織形態のあり方に関する議論を含めて申し上
指摘になったように,法制度の課題は尽きな
げます。それから2番目はちょうどここ1年
いわけでして,例えば以前から課題になって
くらいのことですが,さまざまな出来事が起
おります不公正取引規制についても,いずれ
こっておりまして,その中での取引所のアク
取り組む必要があると思われます。また現在
ションについてお話させていただきます。証
の証券取引法は,いろいろな,たとえばディ
券取引所の自主規制を論じる場合に,具体的
スクロージャーや業の規制,行為規制などす
にどのような問題が発生して,その問題に証
べて入っている法律になっていまして,今回
券取引所がどう対処したか,あるいはどう対
の投資サービス法においても証券取引法を改
処するべきであったかを検証することで,こ
組しますので,そこは同じ構成となります。
れからの自主規制のあり方や方向性が明らか
ところが例えばドイツなどを見ていますと,
になるという認識があります。ただ時間の制
例えば目論見書法など,ディスクロージャー
約がありますので,この2つについてポイン
を扱っている部分と,例えば取引所法,証券
トをごく絞ってお話をしたいと思います。
取引法,これは公正取引などを扱っている別
資料がいくつかあると思います。まず資料
の法律になっているということで,EU の指
の1を見ていただきたいのですが,非常に基
令もディスクロージャーと MiFID が分かれ
本的なところで恐縮ですが,ここでは証券取
ているわけでして,はたして日本の法体系と
引所の自主規制の概念を示しています。大き
してどのようなものが良いのかも,おいおい
く分類しまして自主規制,狭義の概念から広
― 88 ―
義の概念,それからさらに広い意味での概念
かって左側に取引の公正確保に関する業務を
になると思います。狭義の自主規制としまし
担当する売買審査部というところと,それか
ては,市場内での取引の公正確保に関する部
ら考査部を示しています。これはいわば狭義
分でして,不公正取引の防止やその摘発に絡
の自主規制部門です。また右側の上のほうに
むもの,そしてそうした取引の媒介をする証
上場部門がありますが,上場会社の適時開示
券会社の管理体制などの検査に関するもので
や上場適格性を審査する部門で,これが広義
す。一般にこの分野は最もポピュラーな自主
の自主規制部門です。さらに右の下にマー
規制分野と言うことができると思いますが,
ケット部門がありますが,これはさらに広い
市場内での取引の状況,インサイダーに関す
意味での自主規制に当たると考えています。
る情報発生などを受けて,証券取引所が売買
次の資料3がそうした証券取引のガバナン
の形態を分析したり調査することで,不公正
スの図です。ちょうど取締役会の下の社長の
取引の有無を判断し,必要に応じてサンク
右下ですが, CRO,規制部門の最高責任者
ションを行うというものです。世界的に見ま
がおかれています。現在は狭義の意味の自主
して,およそどこの証券取引所でもこの分野
規制部門である売買審査や考査を統括する責
については同じような業務をしているのでは
任者として存在していますが,この後お話い
ないかと思います。それから次にやや広義の
たします今後の自主規制体制の議論において
自主規制ですが,これも今日的には誰もがこ
は,広義の自主規制であります上場部門も,
の分野を自主規制と認識していると思います
この CRO の管轄下に入る予定です。 CRO は
が,上場証券や上場会社に関する規制です。
規制部門の最高責任者として,担当業務に対
特にこの分野では上場適格性の他に,上場企
する決定権限と責任を持ちます。さらにその
業に対するディスクロージャーや企業のコー
右上に取締役会の諮問機関として,自主規制
ポレート・ガバナンスが中心になっています。
委員会と規律委員会があります。自主規制委
イギリスでは,上場に関する規則の権限をロ
員会は,売買審査などの業務の執行状況につ
ンドンの取引所から FSA に移管したと言わ
いて定期的に報告を受けるほか,ルールの作
れていますが,世界全体を見ますとやはり取
成や制度構築について諮問を受けます。そし
引所自身が上場に関するルールを定め,上場
て必要に応じて助言や建議を取締役会に行う
物件の適格性を審査するのが一般的だと思い
権限を有しています。これらの諮問委員会は
ます。また最近では,上場会社の適格性の意
形式的には取締役会の諮問機関ですから,取
味で,コーポレート・ガバナンスについて何
締役会は最終的にはこれらの委員会の意見や
らかの形で証券取引所が関与すべきという認
決定に従う必要はありませんが,しかし実際
識が広まっていると思います。
に東証の定款では,自主規制委員会の意見を
3番目が最も広い概念としての自主規制で
尊重しなければならないといった決まりがあ
して,ここには考え方としてですが,売買に
りまして,事実上取締役会が委員会の結論を
関するルールや決済の仕組みなどすべてが包
覆すことは容易ではない仕組みになっていま
含されます。取引所の業務そのものが,自主
す。例えば規律委員会は参加者に対するサン
規制であるという考え方にたてば,すべての
クションを行う場所ですが,取締役会がサン
市場運営にかかる規制は自主規制の概念に含
クションをする場合については,必ず規律委
まれることが言えます。資料の2と3は,こ
員会に諮問をしなければいけないとなってお
うした自主規制業務が,東京証券取引所にお
りまして,やはり事実上,規律委員会の決定
いてどのように行われているかということで
が取締役会の決定になるという仕組みがここ
体制を示したものです。資料の2では,向
に載っております。以上が現在の東京証券取
― 89 ―
引所の自主規制に関するガバナンスの姿であ
によるルール・メイクが1つ。2番目は,そ
ると言えると思います。後ほどこれが現在話
のルール・メイクの参加者への遵守の義務付
題になっている取引所の自主規制,組織形態
け。3番目がルールの遵守状況についての調
のあり方に関係してまいります。
査。そして4番目がサンクションです。法は
その前に,ほんの少しだけ日本の証券取引
それぞれの要素について定款への必要記載事
法における自主規制概念について見てみたい
項とするなど,具体的に規定することで,権
と思います。時間がありませんから簡単に申
能の内容を明確にしていると考えられます。
し上げますと,そもそも自主規制という言葉
例えばですが,証券取引法 87条では,証券
は,日本の証券取引法のどこにも出ていませ
取引所は,会員などが法令などを遵守しなけ
ん。法律上明確な定義が存在するわけではあ
ればならない旨を定めなければならないと規
りません。しかし法がそういった概念をまっ
定しています。考えてみますと,会員のみな
たく持っていないかと言えばそうでもないよ
らず,何人も法令は遵守しなければいけない
うに考えられます。一般に自主規制の概念を
のですから,わざわざ証券取引法が法令遵守
「特定の団体などが公益などの目的のために,
の義務付けを行わせる必要性は乏しいという
何らかの行為規制を自ら行う」と仮に規定し
見方もできると思います。しかし法律はあえ
た場合に,証券取引法は,そのような観点で
てこのような規定をおくことで,証券取引所
いくつかの規定をおいていると考えられます。
が参加者などの法令遵守を強制する立場にあ
関連する規定はいくつかあるのですが,大き
ることを明示しているとも考えられるわけで
く自主規制の目的や証券取引所の自主規制に
す。また自主規制の主体と客体についても,
関する権能の内容,あるいはその具体的な行
法の規定ぶりは 152条において証券取引所を
為,規制の主体と客体,法令の範囲などです。
規定の主体に,そして証券会社や上場会社を
少し飛んで恐縮ですが資料の6に自主規制の
客体にすることで,明確に当事者の間の関係
法的枠組を示しています。簡単に紹介します
を定めています。その他,さまざまな目的な
と,第1に,自主規制に関する証券取引所の
どがありますが,本日は規定の時間の制約も
権能です。証券取引法 152 条は,この点に関
ありまして,詳細な説明は省略させていただ
しまして会員などが法令に違反する行為をし
きます。いずれにせよ法律はこういった個々
たにもかかわらず,これらのものに対し証券
の規定を通じて全体として自主規制の概念を
取引所が法令などにより認められた権能を行
明らかにしているものと考えられます。そし
使しないときは,国は証券取引所に対しその
て特徴的でありますのは,証券取引所が行う
免許の取消しなどの処分を行うことが決めら
ことなどについては基本的には法律は詳細に
れています。法律は会員などの法令違反に対
わたって定めるのではなく,取引所の自主的,
する適切な権能発揮を取引所に求めることを
自律的な判断に委ねているところです。自主
通じて,法の目的である取引の公正確保など
規制の基本観がそこに表われていると考えら
を実現しようとしていると考えられます。そ
れます。
もそも 152条は,取引所に対する監督に関す
次に,最近における自主規制の話題として,
る規則ですが,内容としては,自主規制につ
東京証券取引所の組織形態についての動きで
いての取引所の権能の存在を示す規定である
す。資料の7を付けてありますので,見てい
とも言えると思います。
ただきたいと思います。これはマスコミでも
そこでこの場合の権能とは何かですが,私
いろいろと取り上げられておりますので,よ
はいくつかの要素に区分されていると考えて
くご存じの方が多いと思いますが,少し経緯
います。具体的には4つでして,証券取引所
と現在の状況についてお話します。東京証券
― 90 ―
取引所は,今からちょうど 4 年前に組織を変
疑念がないわけではありませんが,さまざま
更しまして,株式会社組織にしました。さら
な環境の変化に伴って,利益相反に対する
に本年の経営計画では,今年度中に東証自身
人々の見解が厳しくなってきたことは,やは
の市場に株式を上場することを計画していま
り事実であろうと思います。そうした環境を
した。そうした中で東証を取り巻く環境は,
踏まえてだろうと思いますが,今年の5月に
特に最近大きく変化をしております。まずそ
金融庁から東京証券取引所に対し,証券取引
の変化をいくつかご紹介しますと,昨年の秋,
法 151条に基づく報告書の徴求がありました。
大手上場会社に有価証券の虚偽記載がありま
その内容の中に,自主規制と利益追求の相反
して,わが国の証券市場における適時開示が
の懸念に対して,東証としてどう方策を講じ
必ずしも十分行われていなかったのではない
るのかが含まれていたと思います。東証では
か,そういう疑念が世間一般に出てきました。
先ほど説明しましたようにすでに自主規制委
そして東証が十分な役割を果たしていたかど
員会などを設置し,さらに CRO を独立性の
うかが問われることとなりました。さらに東
高い監督責任者として位置付けるなど,自主
証より一足早く上場会社となりました大阪証
規制部門の機能の強化などを図っていました。
券取引所の株式を,特定の投資家,いわゆる
したがってこの報告の微求に対しては,現在
投資ファンドと言われておりますが,ここが
のガバナンスを前提に自主規制部門の一層の
保有しまして,大阪証券取引所に対し自主規
独立性を確保することを中心に,対応策をま
制の重要な一部分でありますコンペンセー
とめ回答としています。ただ報告書ではそれ
ション・ファンド,違約損失補償準備金を株
だけではなく,最近の状況変化を踏まえて,
主の配当金に回すべきだといった要請をする
そのような自主規制機能をさらに十分に発揮
事件が発生しました。さらに東京証券取引所
していくための組織形態として,どのような
と同じように,将来の株式公開を目指す
ものが適当であるかを検討するために,特別
ニューヨークの証券取引所が, Archipelago
の委員会を設置することをあわせて盛り込ん
との合併を契機に,自主規制部門と市場運営
でいます。この特別委員会は,今回の会議の
部門を別の会社にするという方式を選択しま
第1部で報告された東京大学の江頭先生に座
した。これについては,上場による利益の追
長をお願いしました。また,このシンポジウ
求と自主規制が相反するのではないか,そし
ムの主幹であられます上村先生にもメンバー
てそれを回避する趣旨で行われたのではない
として参加をしていただいています。
かという見方が一般的な見地です。
資料の7の図ですが,特別委員会では組織
そうした環境の変化を通じて,改めて東証
形態について主に議論が行われまして,ご覧
に対しましては,自主規制の重要性と上場に
いただきますと,①から⑤までの姿を想定し
よって株主から求められる利益の追求との相
た議論が行われました。議論の過程ですが,
反を,明確に回避するための方策を講じるべ
まず一番右の⑤の組織につきましては,自主
きという意見が多く出てきました。株式会社
規制を全く別の会社に委ねるものですので,
に組織を変更することで,株主に対する責任
そもそも市場との関係が全く失われてしまう,
と自主規制機能を十全することが相反するも
市場に近いものが現場主義の見地で規制を行
のなのか,あるいは相反するとして,どのよ
うという自主規制の概念からはほど遠いとい
うな対策を持ってそのような問題を解決する
うことで,候補としては最初に姿を消しまし
かは,すでに4年前に証券取引法を改正する
た。逆に一番左端の①は,現在の組織をベー
作業の過程で議論されたことです。今更なが
スに自主規制機能の独立性を更に高める方式
ら,同じ問題が取り上げられることに若干の
です。これについては,実は私は個人的に最
― 91 ―
も適した形だと思っているのですが,特別委
例えばですが,取締役会の決議要件を過半
員会では外から見た姿として,独立性の説明
数ではなくて,取締役の3分の2以上とする
がつきにくいという観点で選択されませんで
ことなどです。そして証券取引所の定款は国
した。また真ん中の③の図ですが,これは
の認可事項でありますから,そういった定款
オーストラリアの証券取引所の組織をモデル
の規定は株主の決議だけでは容易に変更でき
にしたものです。持ち株会社の下に自主規制
ないことが,その案のみその部分になってき
業務を監督するだけの会社を作るというもの
ます。以上が特別委員会の議論と結論の簡単
ですが,監督会社の独立性や監督権限につい
な紹介です。東証では,この答申を受け,今
て必ずしも十分ではないのではないかという
後委員会等設置会社に組織変更していくこと
ことで,やはり採択されませんでした。その
を基本としまして,この後行われる金融審議
結果,②の委員会等設置会社を取る方法と,
会等にかかってまいりたいと考えております。
④の持ち株会社の下に市場運営会社と自主規
最後に2番目のテーマですが,最近ここ1
制会社を置くという,持ち株会社の方式,こ
年程度の証券市場をめぐる動きとその中での
の2つが残りまして,その是非について相当
東証のアクションについてお話します。最初
時間をかけた議論が展開されました。結論的
に,昨年 10月,日本の代表的上場会社であ
にはこの2つの比較において情報の共有など,
りました西武鉄道,これは先ほど黒沼先生の
自主規制を実効的に機能させていく点で,②
お話などにも出てきましたが,この西武鉄道
の方式がやや勝っているという意見が大勢と
が有価証券報告書の虚偽記載を行ったという
なりまして,この方式が採択されたものです。
事件が起こりました。虚偽記載の内容は主要
④につきましては,ニューヨークの証券取引
株主に関するものでして,長年にわたり実際
所が同じ姿を模索していることや,外から見
には株主でない個人名を記載していたという
た姿で2つの会社が別々に存在する点で,独
ものです。証券取引所の上場規則では,固定
立性が確保されているという印象が強いもの
株比率がありますが,この基準をクリアする
と思われます。ただ,親会社の株主が子会社
ために架空の株主を作り上げたのではないか
である自主規制会社の取締役をコントロール
と言われております。こうした虚偽記載が日
することができるかなど,本来のガバナンス
本を代表する会社において行われたというこ
がきちんと働くかどうかの問題も指摘される
とで,社会全体を揺るがす事件となりました。
ところです。また②の委員会等設置会社につ
また西武鉄道と同じような虚偽記載が他の上
きましても,その中にある自主規制委員会の
場会社でも行われていたということから,有
位置付けが,法律で言ういわゆる三委員会と
価証券報告書への記載に関し,真性な事実を
同じように機能させ得るかという点で,相当
記載する意識が上場会社において十分ではな
の工夫が求められるものです。取締役会が自
かったのではないかという疑念が広がり,事
主規制委員会の結論を簡単に覆してしまうよ
態は1つの会社における問題ではなく,有価
うであれば,自主規制に関する業務や制度の
証券報告書制度,あるいは適時開示制度その
独立性はあやふやなものとなってしまいます。
ものの信頼性にまで拡大することになったわ
法定の三委員会と同じように,取締役会に対
けです。東証ではこの事件を契機に適時開示
する独立性が担保されることが必要でありま
制度全体に対する信頼を確保するために,上
して,特別委員会では定款の定めとして取締
場規定に適時開示の理念を明確に示しました。
役会が自主規制委員会の結論を覆すための要
そして上場会社に対し,適時開示に関する誓
件を,厳しいものにするという案が出されて
約書の提出を求め,また上場会社の代表者に
います。
対しては,有価証券報告書への記載について
― 92 ―
不実の記載がないと認識している旨,そして
これも一種の制度疲労と言うことができると
その理由を書いた確認書の提出を義務付けま
思いますが,自主規制の観点からこれを見ま
した。この事件を契機に,上場会社のガバナ
すと,本来自主規制がどのように受け入れら
ンスや適時開示が市場の信頼の根幹であって,
れ,利用者たちがどのような態度でこれを
市場を運営する証券取引所がそのような信頼
守っていかなければならないのかという問題
確保のために上場会社を適切に指導していく
になるように思います。規制の当事者には規
ことが,自主規制の中心分野であるという認
制をする者とこれを守る者,規制を受ける者
識が一層強まることになったと私は考えてい
に分かれるわけですが,双方が合意のもとで
ます。そして東証がその際に行った規則改正
両者が規制を守っていくことを考えなければ
が,極めて好意的に社会に受け入れられたこ
いけないと思います。そのように考えますと,
とは,証券市場の重要性とその中で市場開設
本来利用者は規制の趣旨が何であるかをもっ
者が行う自主規制の重要性が一般に認知され
とわきまえるべきであろうと思います。そう
たことを物語っていると言えると思います。
でなければ法よりも緩やかではありますが,
東証をめぐる動きの第2は,今年に入り公
十分に機能していくという現場での規制が効
開買い付けが行われている上場会社の株式が,
果を失ってしまいますし,結果として法律の
その公開買い付け期間中に取引所のトスト
規制が強化され,市場のダイナミズムが損な
ネットという市場を利用して大量に取得され
われるところに至るのではないかと懸念して
ることがありました。株式を大量に取得した
います。
株主が,発行会社に対する支配行動に出たこ
最後に最近の動きの1つとして,敵対的買
とから,事態は会社と大株主との支配権争い
収とその防衛をめぐる問題があります。これ
に発展し,東証のトストネット市場が公開買
は今お話した公開買付制度との関連でも出て
い付け制度の潜脱的行為に利用されたのでは
きたことですが,今年の会社法改正の中で最
ないかと。公開買い付け規制の範囲が実態に
も社会的には関心を集めた部分であったと思
照らしてどうであったかが問いただされまし
います。背景として企業買収が頻繁に行われ
た。ご承知のように,その後証券取引法が改
るようになったことがありますが,市場の観
正されまして,トストネット市場は公開買い
点からは,法が企業に対して認める防衛策の
付け規制の対象となりました。この事件をめ
すべてが許容されるわけではありません。市
ぐっては,トストネット市場が開設された当
場の秩序や投資家の保護からは適当でない防
時予想していたこととはまったく違う目的で
衛策もあります。そのような場合,自主規制
利用され,結果として,市場の信頼性を損な
はどのように機能すれば良いのでしょうか。
う事態に発展したことが教訓として残された
法がそのすべてをうまく調整することができ
ように私は思います。つまりいろいろな制度
れば良いと思いますが,会社法と証券取引法
がその時々の要請に応えるために,時々の目
を調整しても,それだけでは完全にそのよう
的を持って導入されるものですが,当然のこ
な対応を取ることは難しいと思います。やは
とながら時間の経過とともに別の目的,ある
り自主規制がその中にあってうまく機能する
いは趣旨のために利用されるようになります。
ことが重要だと思います。東証では今年の4
そして時としてその利用のされ方が市場の信
月,企業の防衛策に対する要請を行いました。
頼や投資家の利益を損なう方向に行ったわけ
その中には上場会社として株主の意思を第一
です。そして制度としては有効なため,直ち
に尊重すべきという点のほかに,市場や投資
にはそういった問題を排除できない状況が生
家の保護の視点で市場が許容する防衛策とそ
まれてしまうということだろうと思います。
うでないものを峻別しています。この中身を
― 93 ―
詳しく説明することは,別の機会に譲ります
絶対的に正しいとか間違っているということ
が,このことは自主規制がこれから受け持た
は必ずしもできないと思うので,相当注意し
なくてはならない方向を示しているように思
て,不安を覚えながらの答えであることを明
います。つまり公開会社が公開会社であるが
言しておきたいと思います。その時々におい
故に求められる分野と,市場の要請を実践す
て起こる市場規制への異なるアプローチがあ
る市場開設者の使命がキーワードになると私
り,全ての状況に必ず正しいという絶対的な
は考えています。少し長くなりましたが,私
回答を私が公式化することは,適切でも,可
のお話は以上です。ありがとうございました。
能でもありません。
〇上村:天野さんありがとうございました。
今朝のスピーチは興味深く拝聴しました。
取引上はルール・メイク法ですが,このよう
特に,市場規制における東京証券取引所の役
な重みをヨーロッパにおいて持っていたのか,
割に関し天野氏がおっしゃったこと,そして
いろいろなことをまた教えていただきたいと
例えば,市場における虚偽の情報開示に関す
思 い ま す 。 そ れ で は 続 き ま し て , FSA の
る多くの問題を扱わなければならないという
チーフ・カウンセルでいらっしゃいますウィ
事実に,強い印象を受けました。専門の会社
リーさんから,「英国における資本市場−自
や,市場の利用者による,不正直な行動全て
主規制の将来」という課題でお話いただきま
を根絶し,取り除くことは,例え,最も優れ
す。それではよろしくお願いいたします。
た規制システムでさえ,不可能でしょう。最
〇スチュアート・ウィリー(金融サービス機
大限希望できることは,今持っている制度が,
構法務部次長):上村教授,どうもありがと
起こりうる不正を防ぎ,もし起こったら適切
うございます。会社法における様々なポリ
な行動をとるために,市場の能力を最適化す
シー,リーガル・アプローチ,そして資本市
るということですが,絶対安全な制度はあり
場規制について比較検討する,このようなシ
えなく,どんな制度も不正や詐欺を防ぐこと
ンポジウムに招かれ,そこに貢献できますこ
はできません。
とは,大変嬉しく,光栄に思っています。特
ポール・デービス教授がここにおられます
に,日本の金融庁の松尾氏とその同僚の皆様
ので,彼の以前の同僚の,ロンドン大学のジ
にお会いし,お話ができる素晴らしい機会を
ム・ガワー教授が使った言葉を思い出しまし
与えてくれたことに感謝致します。小田教授
た。彼は,会社法の非常に有名な教授で,英
と上村教授が,このように面白いアジェンダ
国の 1986 年金融サービス法の起草者であり,
を作られ,素晴らしいパネル・スピーカーを
どのレベルの規制が適切かを決定する際にフ
お招きになっていることに,心からお祝いを
レーズを作りました。彼は,愚か者が,お金
申し上げたいと思います。
と引き離されることを防ぐことは決してでき
さて,今朝私は,2つのことを話すように
ないが,人々が騙されることを防ぐよう助け
頼まれています。1つは,英国の資本市場規
ることはできる,と言いました。それは,多
制についての基本的なアレンジメントです。
くの規制が,非常に複雑な問題を規制するた
そして,さらに重要なことは,資本市場にお
めの,相応の,適切な方法を採用し,適用し
ける自主規制の役割であり,英国でそれがど
ようとしているというスピリットとアプロー
の程度,制定法の規制に吸収,あるいはそこ
チをとてもよく捉えていると思います。しか
に至っているのか,そして自主規制には資本
し,ガワー教授が指摘したように,目標は,
市場規制において未来があるのかどうかと
人々がお金を必然としてもうけたり失ったり
いった問題を提起することです。そうした疑
することを防ぐことではなく,むしろ,人々
問に答えようと思いますが,この領域では,
が騙されることを防ぐことなのです。
― 94 ―
そうした前置きはさて置き,英国資本市場,
行為への利用を全て防ぐという絶対的な要求
金融サービス機構の役割,この機構が英国の
ではありません。明らかに,それは不可能で
他機関の役割とどう関わっているかについて,
す。
述べたいと思います。そうすることで,FSA
こうした目的を達成するため,効率的な,
が,主要な地位を占めていることが分かるで
秩序ある,公正な市場を促進し,消費者に
しょう。自主規制は継続して重要な影響を
とって,公正な取引の達成と同時に,ビジネ
持っていますが,資本市場の規制に貢献して
スの能力や効果の向上の実現を,我々は目指
いる様々な組織が, EU 指令のハーモナイ
しています。効率的な,秩序ある,公正な市
ゼーションの視野に入っているため,この影
場を促進するという最初の目的の戦略は,企
響は少しずつ少なくなっています。このこと
業が財政的に健全で,うまく経営され,規制
は,すでに松尾氏が触れましたが,おそらく,
義務を遵守することの保障に努めることです。
後ほど議論の中でもう少しお話しすることが
企業や他のステークホルダーが市場運営の中
できるでしょう。
で起こってくるリスクを理解し軽減する必要
まず,金融サービス機構(FSA)について,
がありますが,それをバランスのとれた方法
少し紹介します。我々は,総合的な金融サー
で行うために,金融市場が弾力性,持続性そ
ビス規制機関です。証券の上場や,目論見書
して国際的に魅力的であることを保障するよ
の承認,そして,投資会社,商品先物会社,
う努めています。
銀行,保険会社,保険ブローカー,不動産会
規制に対する我々のアプローチは,効果的
社,不動産仲介者の規制などの責務を持って
な市場は,消費者と金融サービスの提供者双
います。特に,権限を与える役割があります
方の利益を供する最善の手段であるという信
が,技術的に正確に言うと,証券取引を認可
念に導かれています。この原則を適用するに
し,監督する,そして,システムをクリアに
際し,我々は,例えばヨーロッパ法で規制を
して,証券取引をサポートするシステムを安
要求されたのでなければ,市場の失敗の事前
定させるという役割です。さらに狭義に,証
証拠がある場合のみ規制手段に訴えます。ク
券規制機関の役割を定義している立法を通じ
ロスベネフィット分析を行ない,相応しい解
て我々が設立されたことで, FSA がこうし
決方法を特定するよう努力します。監督につ
た技術的問題を避けることが可能になってい
いてはリスクベースのアプローチを取ってお
ます。指令関連で触れる必要がある部分につ
り,金融機関内で起きているリスクの起こり
いては,後ほどセッションの中で,再度討議
うるインパクトを計算し,測定します。その
できると思います。私は,特に,預金の規制,
インパクトがどのようなものか,起こるリス
コモディティ・デリバティブの規制について
クの可能性はどのようなものか,そこから,
の質問に注目しました。事実,これら両方と
どこに我々のリソースを置くか決定するリス
も,他の規制機関にも問題を起こし,英国で
ク測定を行います。失敗ゼロの体制を運営し
も問題となっています。
ているわけではなく,英国の国際的な競争的
FSA の権能は,英国議会によって決めら
地位を考慮しています。
れ,次の4つのことが要求されています。金
我々のアプローチは,また, FSA が,企
融システムの信頼を維持する,金融システム
業あるいは機関が出くわすかもしれない全て
の一般的理解を促進する,消費者保護を適切
の特別な状況に応じたルールを表現すること
なレベルで保証する,最後に,金融システム
は不可能であり,望ましくないという考えに
が金融犯罪の目的で使われる可能性を減少さ
支えられています。この本質は,いわゆる原
せる,ということです。最後のものは,犯罪
則ベースのアプローチであり,規範的なルー
― 95 ―
ルよりも,柔軟性のある環境での優れた判断
る専門サービス会社から引っ張られてきたり,
のほうが,より良い結論が出せる可能性が高
時にはそこへ戻っている人たちです。スタッ
いということです。今年,6つの新しい上場
フの半分以上が,産業界から来ており,いつ
原則を導入しました。上場原則の目的は,す
でも 100人程度が,産業界や他の機関から,
でに提供されていたこと,詳細な上場ルール
派遣されています。
で要求されていたことを一緒に表現すること
FSA がどういった機関か,そして我々の
規制に対するアプローチを説明してきました
が,特に資本市場規制, FSA の役割,自主
規制が果たし続けている役割についてさらに
申し上げようと思います。ここに定義につい
ての質問がありますが,資本市場規制といっ
たとき,正確には何を意味しているのでしょ
うか?他国と同様に英国では,資本市場規制
は,1つの機関の管轄ではなく,いくつもの
機関に分けられています。スライドに,資本
市場規制の要素と思うものをリストアップし
ましたが,スライドでは,どの機関がどこに
責任があるかも示しました。
まず,資本市場規制は,会社法,そして,
証券の発行・定義・認可のための法制度に支
えられています。それは,会社法を通じて,
英国政府の機能です。
2番目に,通常,株式公開を規制するシス
テムがあります。これは,いま FSA の管轄
であり,ヨーロッパ法のもとで,株式公開の
目論見書を承認することを要求されています。
株式公開と同様に,証券は,市場で取引さ
れることを認められます。たいていのシステ
ムでは,株式上場のアレンジメントがありま
すが,もっと詳細に説明すると, FSA は,
株が正式に上場されることを認める,株式上
場に関する責任を負っています。しかし,証
券取引所で取引される行為について責任があ
るのは,証券取引所です。
ここでは,コーポレート・ガバナンスと呼
ばれるもの,資本市場のもう1つの要素につ
いて,2つの点を挙げています。英国のコー
ポレート・ガバナンスもまた,部分的には,
政府とコモンローの管轄である,会社法から
取り出されています。自主的な規制である,
コーポレート・ガバナンスのコンバインド・
でしたが,こうした新しいルールの精神と意
図を捉えることが,その遵守に役立つことを
望んでいます。このスライドで例を挙げてい
ますが,第5上場原則では,「上場会社は,
上場した株式の株主,そして潜在的株主を,
その株式に付随した権利において,同じ地位
で,平等に扱うことを保証しなければならな
い」としています。
FSA の権限や義務,組織は法律で決めら
れており,政府と独立して運営されています。
FSA は,政府の大臣がトップを勤めている
のではなく,政府によって任命された,議長,
最高執行責任者,取締役会が運営しています。
取締役会の過半数は,非業務執行取締役でな
ければなりません。 FSA は,金融政策の実
施に加え,銀行間のポンド支払や,証券市場
を妨害するものを含む決済システムの監督責
任を持つイングランド銀行とは分離して運営
されています。 FSA とイングランド銀行と
財務省は,共に,協力と情報共有の三者合意
を持っています。これは,主要な運用上の混
乱や,制度的金融効果を生むかもしれない金
融危機を扱う手段の示唆を含みます。
FSA は,税金からではなく,我々が監督
する 25,000の会社や機関に対する賦課金でま
かなわれています。2005/6 年のトータルコス
トは,2億 6,650 万ポンドで,この直接規制
コストは,案分されて監督する会社及び機関
へ配分されます。間接コストという意味では,
FSA の要求を遵守するのに会社が負担しな
ければならないものですが,これらは一社の
トータルオペレーティングコストの平均
1.6 %と計算されています。我々は,2,600 人
のスタッフを雇用しており,規制されている
会社,あるいは,会社にアドバイスをしてい
― 96 ―
コードは重要なもので,コーポレート・ガバ
ています。申し上げたように, FSA は,会
ナンスの自主規制コードと呼ぶこともできま
計基準の設定や,公開会社の監査役の監督に
す。コンバインド・コードは,今や,財務報
は責任はありません。それは, FRC 内の構
告評議会(the Financial Reporting Council,
the FRC)と呼ばれる機関の管轄で,それは
英国では極めて新しい機関です。その名前が
示しているように,公開企業の財務報告の
様々な面に責任を持ちます。特に,英国にお
ける会計基準の設置と監査基準の監督に責任
があります。例えば SEC と異なり,英国の
FSA は,監査役の監督には責任を持ちませ
んし,会計基準の設置にも責任がありません。
これら二つの機能は,財務報告評議会と呼ば
れる新しい機関の責任であり,それは言い換
えると, the Accounting Standards Board,
the Auditing Practicing Board, the Financial Reporting Review Panel といった,たく
さんの異なる機関で構成される包括的な組織
です。ですから, FRC は,英国法で認めら
れている包括組織です。企業の財務報告と会
計基準のあらゆる面を扱います。
資本市場規制の要素に戻りたいと思います。
資本市場規制は,市場のユーザーによる,市
場運営のモニタリングを含まねばなりません。
それは, FSA の責務ですが,証券取引所の
責務でもあります。証券取引所は,天野氏が
おっしゃったように,彼らが運営している市
場に関連して,重要な監視義務を持ち続けま
すが, FSA は,英国市場の market abuse に
関しては,主要な,第一の地位を占めていま
す。最後に,株式会社の M&A について述べ
たいと思います。すでに話されてきましたよ
うに,これは,会社法の,英国では,テイク
オーバー・パネルの機能となります。
まとめて表現すると, FSA は,資本市場
の標準を共に規制する英国の規制機関の1つ
であると言えます。例えば,ロンドン証券取
引所と, FSA によって認可されている他の
証券取引所は,彼等の市場で取引されている
株の適切な市場が存在することを保証すると
いう視点で,市場監視を行うことを要求され
成機関の責務です。要するに, FSA の資本
市場での主な責務は,市場の信頼性の維持と
言えますが,株式公開そして,規制市場で認
められた株式の発行者である場合は,継続し
て,必要ならば,発行者による財務又は他の
情報開示のための,適切な基準を強制します。
FSA はまた,内部情報の不正使用や,発行
者,公衆の双方による市場操作の監視にも重
要な役割を果たしており,適切な場合は,ア
クションを起こさねばなりません。
小田教授と上村教授が示唆された質問に答
えますと,一般論として,その本質,スケー
ル,重要性では, FSA の任務は必ずしも他
の資本市場規制機関と同じである必要はあり
ませんが, FSA の任務は,自主規制機関に
よって最も効果的に実現するような任務では
ありません。その理由を言う前に,自主規制
といったとき何を意味するのか,どのように
他のモデルと区別されるのか,という定義的
な問題をしばらく考えるべきだと思います。
自主規制は,多くの性質を持っていますし,
自主規制と反対のいわゆる法的規制から区別
して表現するものがこの性質だということを
示唆したいと思います。まず,メンバーシッ
プは,通常自発的なものであり,これは法的
スキームによる義務的ライセンシングや,許
認可体制と対比されます。自発的メンバー
シップの要素は,会社にとってはほとんど選
択肢がないが,証券取引所に属さなければな
らないといったことのために,誇張されてい
るかもしれません。証券取引のメンバーシッ
プが自発的であるという考えは,過度に強調
するべきではありません。英国では,昨年,
特に,競合機関による,取引所の必要性を強
調しようとする動きがありましたが,独占的
なサービスの提供ではなくて,実際に,複数
の取引所を許可し,競争させることを企図し
たものでした。
― 97 ―
2番目に,自主規制機関の構成と権限です
いる人間に関係することがしばしばあり,
が,通常,私法によって統治されます。時々
FSA はそうした人間を捜査し措置を講じる
公法の中で扱われますが,自主規制機関は私
ことが許されています。私法のもとで構成さ
法の元で運営されるよう制限されているため,
れた自主規制機関は,そうした人間がたまた
犯罪調査を強制する権限は持つことはないで
ま自分たちのメンバーである場合にのみ,捜
しょう。自主規制機関のガバナンスは,通常,
査,懲罰の力を持つことになるでしょう。自
産業界の代表によって率いられておりますが,
主規制機関は,一度彼らがメンバーであるこ
独立した公的利益が関わっていることもしば
とを止めたら,彼らに対する管轄を失うで
しばあります。これは,もし,政府にリンク
しょうし,懲罰や,賠償請求の手段を講じる
していたら政府の機能を通じて,あるいは,
目的で,彼らをメンバーとして留めておく力
英国 FSA のケースのように,政府によって
はほとんど,あるいは全くないでしょう。こ
指名された役員メンバーを持つ独立した役員
れは,自主規制機関が無力であるという意味
会を通じて働く,法定機関のガバナンスに匹
では必ずしもありませんが,もし,市場の違
敵するものです。最後に,自主規制機関は,
法行為に対する捜査が,悪党と思われるやつ
営利的な目的を持つかもしれなく,これは,
らとの取っ組み合いをする段階まできたら,
通常は,法定の規制機関にはないものです。
調査や他のプロセスを他の強制機関に渡す必
資本市場規制が,自主規制機関よりも法定
要があるでしょう。警察や検察官が,自分た
機関によって行なわれたほうが良いと私が提
ちなりのやり方,優先順位で,そうした操作
案する理由は,次のようなものです。まず,
の完了に影響を与えていくでしょう。
資本市場規制機関は,規制する企業や人々の,
資本市場規制機関は,市場濫用違反の可能
規模や重要性に相応しい,調査や強制の権限
性を見つけ,調査し,被規制企業により行な
を持つ必要があります。監督する市場と人々
われた,株式およびデリバティブ市場での取
と同等の,洗練され,優れた分析のツール,
引報告を受け取り分析する必要があります。
システム,人材も必要です。理想的には,強
企業は,この情報を直接 FSA に提供するか,
制力の範囲は,規制されている会社や上場株
通常よく取られている方法では,市場が彼ら
式の発行者を超えるべきです。インサイダー
のかわりにそうすることに委ねなければなり
取引や市場濫用に関しては,これがより力を
ません。期待されているように, FSA はコ
発揮するでしょう。法的効力に関しては,
ンピューターのハードウェアやソフトウェア
FSA は,尋問への出席強制,情報提出,文
を,この取引報告データの収集と審問のため
書作成を強制できる力を持っています。これ
に 保 持 し て い ま す 。 the EU Markets and
は,究極には,収監につながる法廷侮辱罪の
Financial Instruments Directive は,将来の
手続きとして,裁判所によって強制されるこ
ために,この種のシステムが他 EU 各国のシ
とができます。治安判事が, FSA の申請で,
ステムとネットワークでつながれることを要
家宅捜索の令状を発行できます。 FSA 自体
請しています。他の規制機関につながるネッ
もまた,刑事裁判で,例えば,インサイダー
トワークを備えた,取引データの収集と分析
取引やマネーロンダリングを起訴するために,
に必要とされるシステムのための,拡大する
訴追を行えます。 FSA の捜査と訴追の力は,
費用と高度化する知識は,どの機関にとって
誰かがインサイダー取引の違法行為を行った
も,財政的な制約となっていくでしょう。し
場合や市場濫用が起きた場合に実行されます。
ばしば,営利的な優先事項の存在する自主規
実際,市場操作やインサイダー取引に対す
制機関にとっては,そのことがさらに当ては
る取調べには,規制下のコミュニティの外に
まるかもしれません。
― 98 ―
FSA の,調査力や,市場濫用や他の行為
に対する効力が,必要とされる基準を下回っ
ているとするケースが,増えているといわれ
ています。特に,シェルとシティグループの
ケース, FSA の会社役員に対する最近の刑
事訴訟で有罪判決となったものが挙げられま
す。ここでは詳細については説明しませんが,
討論セッションか,別の機会に喜んでお話い
たします。
制定法に基づく規制を支持する2番目の理
由は,EU 証券法が,加盟国に,監督強制機
関の装備を要求していることで,その機関は,
自主規制機関では決して,あるいは十分な方
法では持ちえない,法的効力と義務とステー
タスを持つというものです。例えば,目論見
書指令( the Prospectus Directive)は,能
力を有する監督機関は,「完全に全ての市場
参加者から独立している」,そして the Markets in Financial Instruments Directive は,
それが,「公的な監督機関であるべきである」
とし,Market Abuse Directive は,加盟国が,
指令が適用されることを保証するために,単
一の行政監督機関を設置しなければならない
と要求しています。
制定法に基づくの単一規制機関を擁護する
3番目の理由は,国内でも国際的にも,その
方が,より大きな監督者と話ができる可能性
が高いということです。特に,企業や資本市
場を監督するために必要とされる国際的な局
面は,ビジネスの世界的な性質から生まれる
ものであり,そのことは,世界中の規制機関
や監督機関が,お互いに,迅速に効果的にコ
ミュニケーションできることが,より重要に
なってくることを意味します。おそらく,断
片的な,前 FSMA の自主規制制度の下では,
これは不可能でした。単一の,統一された規
制機関は,いわゆる Lamfalussy プロセス下
で助言とガイダンスを与える役割を持つ,新
しい欧州証券監督者委員会に参加することも
容易です。例えば,会計基準の国際的な統合
もまた,国内,国外の規制制度間の対話を必
要とするものでしょう。国際財務報告基準の
統合は,また,英国では達成が容易ではない
ものですが, SRO 規制は申し上げたように,
非常に断片的でした。
資本市場が,証券取引所による自主規制へ
の信頼から,法定規制機関による規制へ向か
う動きは,最初に,株式上場で見られました。
株式の上場は,利用可能な情報開示の質,な
らびに,一定の規模や取引記録基準を満たす
発行者の行為などを通じて,市場の信頼を支
えるという意図を持つ,投資家保護の手段と
いえます。上場は,投資家が信頼を置ける品
質のマークあるいは,標準を現しています。
実際に,例えば,流通市場(2次市場)にお
ける上場株式の仲介は,通常制限が減らされ
ており,ポートフォリオマネージャーや他の
受託者への委任は,通常,もっと自由に,上
場株式のより高い割合で投資することを許可
しています。
株式上場,証券規制は,投資家保護と市場
信頼という双方の目的を達成するための規制
機能だと見ることができます。英国,そして
いくつかの国では,上場は,証券取引所より
も,証券規制機関の機能となってきています。
これは,部分的には,証券取引所が,取引
サービスの独占的供給者で相互会社的組織で
あることをやめ,むしろ,自らが上場会社と
なり取引所ビジネスの競合者となったからで
す。ロンドン証券取引所から FSA への上場
監督権限の移譲は,2000 年5月に行われ,
相互会社にならず,営利会社になるとしたら,
上場監督機関であり続けることはできないと
いう取引所自身の決断に続くものでした。こ
れは,ロンドン証券取引所に,証券の取引許
可機能を残し,この目的で,証券取引所は,
FSA の上場ルールと並行して機能する,許可,
適正性,情報開示のルールを適用します。こ
れは,しかし,普遍的なアプローチではありま
せん。例えばヨーロッパでは,the Euronext
Amsterdam と,the Deutsche Böerse が,東
京証券取引所と同じように,上場機能を保持
― 99 ―
ます。例えば,Stock Lending Code of Best
しています。
これらのアプローチの違いと並行に,全て
の市場や証券の市場区分が,上場のステータ
スを持つとは限らない,ということに言及す
る価値があります。情報開示,規模,取引記
録基準がもっと煩雑ではない基準で,非上場
証券の取引を認める,英国の the Alternative
Investment Market のような,second-tier の
市場があります。新しい EU 証券指令のもと
で進めると,上場と非上場の区別は,規制さ
れている市場とされていない市場の区別と並
行でしょうが,完全に同じゴールではないで
しょう。非上場証券と,非規制市場では,取
引所による自主規制がさらに検討され続ける
でしょう。ロンドンや他の優れた投資市場は,
取引所が規制している市場として知られてい
ます。
私の発言の締めくくりとして,もし制定法
に基づく資本市場規制が必要であるならば,
EU 法制によってさらに義務化され,ある意
味では,自主規制モデルよりも効果的である
ということになりますが,それでもなお,自
主規制に信頼を置き続けて,英国資本市場が,
規制されていくことがあるかどうかという質
問をしなければなりません。私は,そうであ
ると思います。 FSA の詳細ルールよりも原
則を利用するという目的と一致して,業界に
支えられた,そして,しばしば実務家によっ
て引き出される自主的規範と実践は,ある場
合には,企業が,自分たちが適用すべき基準
を見出すことに,柔軟な,効果的な手段を提
供することができます。コーポレート・ガバ
ナンスのコンバインド・コードが,これの良
い例です。コードの条項は,強制ではありま
せんが,上場企業は年次報告書に,コンバイ
ンド・コードを遵守するかどうか明記するこ
とを要求されています。もし,コードの全て
の条項を遵守しないのなら,どうしてそうな
のかと,なぜかを説明しなければなりません。
FSA のハイレベル原則の有用な背景となる
ような,現在運用されている他の規範もあり
Practice は , 最 近 the International Corporate Governance Network によって発表され
ました。また,英国では,機関投資家が,英
国 保 険 業 協 会 ( the Association of British
Insurers) と the National Association of
Pension Planners が発行したガイドラインを
通じて,上場企業に影響を及ぼすことを意図
しています。彼らは,昨日ポール・デービス
教授が言及されていた機関投資家です。FSA
の詳細なルールメイキングの代替として,業
界規範により大きな信頼を寄せる動きが高
まっていることは,法定と自主規制面の共生
を視野に入れての規制モデルを示唆していま
す。
最後に,金融市場は,それ自体,コント
ロールの源であり,自主規制であるという点
を明言せねばなりません。市場は,しばしば,
株式価格の動きにおいて,金融情報を十分に
提示しなかったり,無分別に行ったりする発
行者を罰することで,素早く対応します。で
すから,このことは,規制機関はこうした種
類の判断を投資家にさせるためには,過剰に
指図を出すべきではないことを,示唆してい
ます。そして,共存する自主的,あるいは自
然発生の市場規律の同じ流れの中で,トップ
にクリームが入ったおいしい黒い飲み物と同
じように,透明性や情報開示も,あなたに
とって良いものだ,ということも忘れてはな
りません。例えば,比較的不十分な金融情報
開示ならびに報告と,高いビッド展開ならび
に低い取引ボリュームの間には相互関係があ
ることを示す経済調査があります。言い換え
ると,不十分な情報開示と透明性は,実際に,
資本コストを増加させます。これは,高水準
の市場運営を支持している最も明確かつ説得
力のある論拠ですが,それはまた,自然発生
的な自主規制と規律が市場で働くことを認め
る,規制機関の必要性も示しています。どう
もありがとうございました。
〇上村:どうもありがとうございました。日
100 ―
― 本ではイギリスは自主規制をやめて法規制に
彼らは全部をやり直しました。何の理論もな
なったと理解されていました。それがまたさ
く,ここには何の絶対的な理論はなく,です
らにいろいろと議論がなされています。
から私の見方では,日本法は,解決方法のど
それでは,ヒルテ先生から今の4人のご報
れか一方を追うべきではないのです。
告に対してコメントをお願いしたいと思いま
前提として,申し上げたいもう1つの点が
す。どうぞよろしくお願いいたします。
あります。これまで,誰もインターネットの
〇ヒルテ:アカデミックな観点から,このト
ことに言及していませんでしたが,インター
ピックについて,2,3の前提となるコメン
ネットファイリングや,インターネットを介
トをしたいと思います。実は少なくともドイ
しての情報開示に関して,多くの規制があり
ツでは,金融サービスと金融市場規制は,典
ます。昨日の会社法に関する討論でもわかり
型的なアカデミックなトピックではありませ
ましたが,日本でも,同様に,インターネッ
ん。理由は,スチュアート・ウィリー氏が
トを介して,会議や株主総会が行なわれてい
ちょうどおっしゃったように,それは,主に
るということも言われていました。情報開示
行政機関で規制されており,彼が言ったよう
については,過去,おそらく5年か 10年の
に,法定ベースでそれを持つこと,行政機関
間の発展は,インターネットの発達とは切り
によって規制されることには,正当な理由が
離せないでしょう。誰もが,情報開示の高い
あります。このことは,会社法と違って,少
重要性を思い描いてきましたが,この情報開
なくとも,ドイツでは,従来の会社法とは異
示は,技術的手段を使って,始めて,現在そ
なっており,行政規制機関が互いにもっと話
うあるべく機能することができます。従って,
し合い,ここでもそう聞いたように,日本の
技術の発達は,法律の発達と同じような速度
規制機関がドイツの規制機関,英国の規制機
で見られねばなりません。
関と,例えばドイツの学者を通じてよりも
この前置きの後,ここでそれぞれの話で挙
もっとよく話をしているということです。フ
げられた疑問を,ざっと見ていきたいと思い
ランスについてはそうしているかどうかわか
ます。最初の点は,黒沼教授が報告の中で挙
りませんが,これは,例えば,クラウス・ホ
げた,コーポレート・ガバナンスの情報開示
プト氏が私と共有した経験ですが,学者は,
です。それは,ウィンター・コミッションの
今,利益グループとステークホルダーの利益
提案で,我々が今も取り上げている活動であ
コントロールに影響を受けているかもしれな
り,部分的には,買収指令の中で,成立して
いので,それは非常に良い点です。これは,
います。ここで気がついたことは,ドイツで
昨日の議論への良い橋渡しですが,国会の討
は典型的に,このタイプのステートメントの
論や,また,ある程度はアカデミックな討論
中に,従業員への影響を含めるということで
にも影響を及ぼすロビーグループから独立し
す。買収の際に関心が持たれる問題であり,
ていた場合,ステークホルダー利益において
買収側・被買収側の文書の中に,そして,防
のコントロールは,より可能かもしれません。
御の文書の中にも見られるものです。しかし,
前提としての2番目のポイントは,何が規
一般的には,コーポレート・ガバナンス・
制の適切な形態であるか,どのように資本市
ディスクロージャー・ステートメントの中に
場を規制する法律を区別するかということで
もあります。
す。私は,良い方法はないと思います。 EC
2番目の点は,証券法の適用領域です。日
の金融指令に戻りますと,彼らが,異なる問
本法では,やや,典型的ではない問題にも拡
題をどうやって結び付けようかと,行ったり
大されていると言われましたが,同じことが,
きたりしているのが分かります。そして結局,
ドイツでも数ヶ月前起こりました。何人かの
101 ―
― 方はご存知かもしれませんが,ドイツで資本
を知ることは非常に重要であると思います。
を調達する大変重要な方法は,かつて,無限
不法行為法について最近の解説である
Münchener Kommenta のゲルハルト・ワー
グナーによる解説を引用したいと思います。
彼は,不法行為法が伝統的に2つの機能を
持っていたとし,1つは補償であり,もう1
つは予防である,と説明しました。今日,補
償は,典型的には,保険など,その他の手段
で,あるいは自家保険で,行なわれますので,
不法行為法にとって,唯一残された機能は,
予防である,と彼は言います。もしこれが真
実なら,これは,ドイツ民法の近代的視点で
すが,3倍賠償は,不法行為を機能させるた
めに,必要な条件であることは完全に明白で
す。いまだに論争を引き起こしていますが,
多かれ少なかれ,政治的な理由でそうなのだ
と思います。
この問題に関連して,クラスアクションに
話を移すと,我々は昨日ディナーをともにし
ている時に,この問題について話をしました。
面白いことには,昨日,我々がちょうど最近,
証券のためのクラスアクションについての特
別法を導入したと申し上げました。従って,
あなたの質問に対する答えは,証券のためだ
けの,特別のクラスアクションを持つことは
可能か?答えは,イエスです。理由は,面白
いのですが,学者が,クラスアクションの理
由があると考えたからではありませんでした。
およそ 10年か 15年前に,議論したことがあ
るのですが,私が,クラスアクションの実行
には,憲法上の論点があると言ったとき,
人々は非難の声をあげました。それについて
は,非常に批判的だったのです。ドイツにク
ラスアクションが導入された理由は,ドイツ
産業にとってのコストが理由であります。ド
イツテレコムを訴えた個人は,25,000人いた
と思いまが,そのほとんどがハンブルグの裁
判所とフランクフルトの裁判所でした。何人
か,追加の判事を雇わなければならなかった
でしょう。ですから,この規模の個人訴訟に
出くわした場合,国にとってのコストは,法
責任社員のいる,有限責任会社である合資会
社の GmBH と CoKG でした。我々の資本市
場法は,公開市場にある株式資本や債券だけ
に着目しており,この種の金融は,正式な目
論見書不実開示責任によっては,全く統制さ
れていませんでした。そして,金融市場当局
の監督下にはありませんでした。このことは,
この種の金融手法の濫用が投資家の損害につ
ながった2,3のケースの後に,ごく最近変
更されました。アメリカ法と同様,それは,
資本市場法のより一般的なアプローチへ向か
うアプローチだと思います。
不当取引ですが,不当取引は,論理では定
義できないという,うまい言い回しがありま
した。正しいと私は思います。異なる文化的,
国家的な文脈でも,そのような見解が見られ,
慣例となっているようですが,私は若干違う
意見を持っています。我々はみんな,インサ
イダー取引が良いか悪いか,という議論を
知っていますが,エコノミストは弁護士の立
場には同意しません。問題は,市場が世界中
で同じ扱いを期待しているとい点であり,お
そらく,ですから,何らかの種類の調和への
気運があります。それは,正式な調和ではな
いに違いありませんが,市場がおそらく調和
に向かって進んでいるのです。
私にとって,最も興味深い問題は,皆さん
の,制裁や民事手続に対する関心です。これ
までのところ,ヨーロッパでは,3倍賠償あ
るいは追徴金が,二重処罰ルールと対立する
かどうかという議論は見られませんでした。
これらに関する批判的な見方があり,典型的
には,アメリカの救済策についてですが,金
融業界において,罰金が高額になってきたこ
とで,自分が罰金を支払うに際して文句を言
うのと同様であるのです。私の目には,適切
な批判であるようには見えません。もっと理
論的に言えば,もし不法行為法が,救済策の
1つとして使われるなら,不法行為法の機能
102 ―
― 改正の牽引力となります。事実,アメリカで
グ・システムが存在してきたからです。ただ
も同じ理由が歴史的にありました。でも,
言えることは,他方,これは,昨日デービス
フォーラムを想像して見てください。今や,
教授がおっしゃったことだと思いますが,銀
株主の利益と相当量の株式とを結びつける,
行間の争いの後,一方では,証券を売り,他
株主のインターネットフォーラムが存在しま
方では議決権の代理行使を担当する,という
す。おそらく,数ヶ月以内に,同じ状況で,
ことです。
個々の株主利益と名前を,確認することも可
能になるでしょう。
2,3のほかのポイントですが,英国の影
響が挙げられます。ドイツ人がドイツの影響
昨日,取締役の報酬について討議を行ない
について,どう考えているかですが,これに
ましたが,もし,ドイツで最高額の取締役報
ついては昨日話がありました。私は,これは
酬を提供している会社を探すならば,常に共
世代の問題だと思いますが,日本でも同じか
同決定会社であることが分かるでしょう。売
と思います。昨日の資本の問題ですが,教授
上利益があり,お互いに依存しあっており,
世代の年配の世代は,資本規制を緩和すると
ドイツテレコムとかフォルクスワーゲン,ド
いう英国アプローチに反対するもの,独立し
イツ証券取引所といった国営企業となるわけ
た資本制度を排除するというものまで,様々
ですが,国に対して大きな利益を有し,国の
です。若い世代は,イギリスのやっているよ
利益に対して高い関心と強いつながりを持つ
うにしてはどうだろうというでしょう。ドイ
からです。典型的には,ドイツポストとか,
ツでは,法律顧問の分野の主要なプレーヤー
ドイツ鉄道,これらの企業は,最高の給与を
たちは,国際的ローファームであることを知
維持しているのです。それは,興味深い点で
る必要があります。彼らは,多かれ少なかれ,
あり,取締役員の報酬が,監査役員の報酬の
以前は英国の会社でもあり,それがほとんど
牽引力ともなり,なぜ監査役会が取締役会の
だとは言いませんが,例えば,フレッシュ
高い報酬を認めるのかも想像できます。
フィールズとかファースト・ハンド・アン
制裁の議論に関して,クラスアクションか
ド・アレン・アンド・オヴェリーなど,英語
ら,欧州裁判所に話を戻しましょう。民事訴
の名前を持っています。英国法は,英国アプ
訟における当事者適格の問題は,難しく,
ローチが使われやすいように,より受け入れ
ヨーロッパ法とドイツ法においても,金融
やすく,自明のものとなっています。昨日申
サービス規制が遵守されていない場合,これ
し上げたように,ブルーブックは,おそらく
に対して民事訴訟を提起する個人の権利があ
ドイツ人の間では,少なくとも裁判所よりは,
るかどうか,あるいは,適用されるのは行政
学者や実務家の間で受け入れられています。
法規のみであるのかどうかについて,特に活
〇上村:ありがとうございました。今イギリ
発な議論がなされています。これは重要な質
スを例に取るという話が出ましたが,1986
問で,もし最初の質問に,それが,個人を保
年の金融サービス法は,ハワード教授が,大変
護すると答えたら,民事救済策,クラスアク
長い時間をかけてじっくり考えて,作られた
ションへの扉を開けることになります。最初
法であると理解しております。アメリカはこ
の質問が違う答えとなるなら,個別の救済策
れからわれわれがモデルにしようと思ってい
だけということになります。
ますが,体系的に構成されていないものです
最後の点は,ユニバーサル・バンキング・
から,なかなかモデルにしづらい。
やはりじっ
システムです。ドイツ人として,私はこれに
くり考えられているものがモデルになるのか
はうまく答えることができません。なぜなら,
なと思ったわけです。松尾さんからウィリー
ドイツには,長い間ユニバーサル・バンキン
さんに何か,先ほどの話との関係でお聞きい
103 ―
― ただけることがもしおありでしたらどうぞ。
らかに,両方のシステムがメリットを持って
〇松尾:ありがとうございます。少し私が話
おり,自主規制は,市場に実際近いという点
しをした投資サービスから離れていきたいの
で利点があります。私の考えでは,エンロン,
ですが,自主規制についていろいろ議論があ
ワールドコム,米国の Sarbanes-Oxley 立法
りました。日本は自主規制につきましては実
への反応として,ヨーロッパの立法レベルで
は主にアメリカにならって,90 年代以降,
は,監査役,そして,会計士に対してさえも,
自主規制機能を強化してきた歴史があります。
公的に監視するための立法への動きが確かに
特に 90 年代の終わりの金融ビッグバンの動
ありました。ヨーロッパのレベルで,法定規
きに,それまでは例えば上場,例えば個別の
制の様々な強制形態が増えていることは確か
株式の上場につきましては当時の大蔵省の認
です。
可だったのですが届け出制に変えたというこ
証券取引に関しては,上場機能が取引所に
とです。ですから上場の適否についてはむし
残されるべきかどうかという点について,い
ろ例えば東京証券取引所が判断することに
まだに異なっています。異なるプラクティス
なっておりまして,実はイギリスとは逆のア
があるといえると私も思いますが,私の見解
プローチを取っております。自主規制機関と
では,エンロン,ワールドコム後のヨーロッ
しては取引所だけではなくて,証券業協会が
パの反応は,資本市場の重要プレーヤーのた
あります。Japan Securities Dealers Associ-
めの制定法による規制を,より重視していく
ation と呼んでおりますが,これにつきまし
てもアメリカの全米証券業協会(NASD)に
ならって自主規制機能を強化していくように
なりました。今回の投資サービス法におきま
しても,自主規制機能の議論がありました。
ヨーロッパなどは自主規制はやめて,当局の
権限を強化する方向でして,特に監査法人の
監督の世界では世界的にその傾向にあるわけ
です。ですから証券の世界では今2つの流れ
が国際的にあり,1つはアメリカと日本のよ
うに自主規制機能を引き続き大事にしてしっ
かりやってもらおうという流れと,もう1つ
は,ヨーロッパやイギリスのように自主規制
機能はやめた,当局がやるのだという流れが
あります。もともと自主規制機能を日本でも
重視してきたのは,やはりその市場に近い主
体が専門性あるいは技術性を持って,当局で
手が及ばないところを補うという思想があっ
たと思いますが,こういう思想はヨーロッパ
ではなくなってしまったのかということを少
しご教示いただければと思います。
〇ウィリー:ヨーロッパでも,どこの国でも,
自主規制に反対するものとして法定規制を主
張する普遍的なアプローチはありません。明
ことにつながっています。
〇松尾:すみません,せっかくの機会なので
もう1点お願いします。ウィリーさんは
FSA のアプローチにつきまして,プリンシ
プル・ベース,原則ベースとおっしゃってい
ます。実はこの問題は特にエンロン事件以来,
会計基準でプリンシプル・ベースが良いのか,
アメリカ的なルール・ベースが良いのかとい
う議論をしました。イギリスでは,会計基準
以外の規制のベースでもプリンシプル・ベー
スということを聞いております。私の個人的
な感じでも,プリンシプル・ベースが良いと
思うのですが,日本ではやはり解釈の明確化
が実務界からの要請が第一に強くて,できる
だけ法律,政令,内閣府令,あるいは金融庁
のガイドラインで細かく解釈を明示してほし
いという要請があります。したがいまして,
なかなかそうなるとルール・ベース的になっ
てしまいます。もう1つは先ほどドイツ的と
申し上げたのですが,罪刑法定主義のなかで,
刑罰の対象となるものについては明確でない
といけないというのが日本ではありまして,
ですから黒沼先生もよくおっしゃっています
が,何がインサイダー・トレーディングにお
104 ―
― けるインサイダー情報に当たるのかについて,
な場合に,アプローチをミックスして使うと
日本では法令で事細かに規定しております。
いう問題だと思います。
ですからこれがやや立法上の限界的なところ
〇上村:日本はどうも緊張関係までも行って
につながってくるわけでして,個人的にはプ
いないという感じがします。天野さんどうぞ。
リンシプル・ベースで良いとは思いますが,
〇天野:今ウィリーさんが言われた通りで,
現実に実務界からの解釈の明確化の要請や刑
どちらの方式が良いかという決定的に偏るも
事罰の対象となるものの明確化の必要性から
のではないと思います。調和と言いますか,
するとなかなか難しいのが実態です。この辺
両方が2つそれぞれの機能を果たすというこ
イギリスは明確化の要請はあるのか,ないの
とで良い結果が生まれるのだと思います。た
か。仮にあるとしたらどのように対応されて
だその際に,漠然とそう思うのではなくて,
いるのかを教えていただきたいと思います。
それぞれの長所と限界といったものを考えて
〇ウィリー:全ての規制機関にとって本当の
おかなければいけないのだと思います。若干
問題は,一方で,柔軟性を持とうとし,異な
自主規制が限界的だというのは言われており
る状況で適切なアプローチを採用しようとし,
まして,それはその通りのものがあるのです
そして同時に,企業に,規制機関の基準を遵
が,プラスの部分も当然あります。それはこ
守するためにどうするかが分かるよう,ほど
れまでも出てきていますように,現場に近い
ほどの確実性を提供しなければならない,と
ところで非常にきめ細かく規制を実現できる
いう2つの間の緊張関係にあります。刑事制
部分もありますし,これまで出てこなかった
裁の場合は,合理的な予測可能性がさらに重
点で言うとコストの面でもあります。大きな
要です。もし,誰かが,刑事犯罪行為をおこ
政府を指向して公的な規制に委ねていくこと
なって,事前に,どういったことが禁じられ
になりますと,当然コストは政府が負担する
ているかを知っているという合理的な予測可
ような流れになりますが,できるだけ受益者
能性がなければ,問題になります。
が負担していくことになると,自主規制が有
それはさておき,私はまた,全ての規制が
意義に活用されなければならないという考え
原則ベースの方向の中で動くべきだと言う普
方につながっていくのだと思います。それか
遍的アプローチをとることはできないと思い
ら大きなことのもう1つには,未然の予防的
ます。しかし,規制機関として,我々は,原
な効果があります。法令の点で言うと,法的
則ベースの規制アプローチを,それができる
効果はなかなか出てこないわけで,もちろん
場所では,使う機会を持っておくべきでしょ
サンクションの程度によって未然防止の効果
う。業界や実務家による自主的規範や,ガイ
が期待される部分もありますが,自主規制と
ドライン,そして,基準が達成されるための
いうのは単純に悪い,良い,の判断だけでは
適切で詳細なガイダンスがある場合は,我々
なくて,それ以前の段階,違法性の少し手前
は,そうしたものに頼ることにも備えねばな
の段階でまさしく自主的にやめていくといっ
りません。
た効果も期待できるわけで,つまり限界的な
しかし,また,これは,あなたがおっ
ことがあるけれども,自主規制が持っている
しゃった理由での普遍的アプローチにはなり
さまざまな良い点もあるわけで,どちらでな
えませんが,そうできるような適切な場合を
くてはならないという議論よりも,両方の良
特定する意欲はあるはずだと思います。少し
い点をうまくミックスして生かしていくとい
臆病な答えですが,こうした緊張関係がある
う考え方のほうが私は良いのではないかと思
こと,正しい答えは1つではないとあなたが
います。
おっしゃったことは正しいと思います。適切
〇上村:ありがとうございます。ウィリーさ
105 ―
― んに確認させて頂きたいのですが,日本では,
前提を損ねる意図はありません。いわゆる自
イギリスでは従来は自主規制が大変重視され
主規制,という面があり,それは,アプロー
ていましたが, FSA になって自主規制には
チの柔軟性を有し,また,適切なものとして,
むしろ限界があったと認識されたのだと受け
法定規制機関が採用すべきものであれば,業
止められているのですが,現実に先ほどの
界規範を信頼することなどへつながります。
ウィリーさんのお話では自主規制では足りな
それが,私の発言の見方です。
いところ,あるいはぴったりしないところを
FSA が担当しているのだということでした。
それから取引所はあくまでも市場を規制する
のだともおっしゃっておられました。やはり
現実の英国の自主規制が持っている重みとい
うのは十分あると理解して良いのでしょうか。
それが1つです。それからもう1つは,FSA
はカンパニーですよね。 FSA はカンパニー
であって費用も業者が負担して,運営にも業
界からの人が関わっている。ということは,
FSA 自身が巨大な自主規制機関だったので
はないかという面もあるのかなと。それは少
し違うのでしょうか。ホームページを見ます
と,ガバメントとなっているのですが,形態
を見るとカンパニーでして。少しそれは考え
過ぎかなとも思ったのですが,少しその辺コ
メントをいただければと思います。
〇ウィリー:第1に,私が指摘したことを繰
り返したいのですが,もしこの形態を法的な
観点から見るのであれば,自主規制機関が,
規制分野,特に資本市場規制の分野で効果的
に行動できる能力に関して,間違いなく,
はっきりとした意味があります。なぜなら,
調査には多大な時間が必要であり,訴追のた
めには,蓄積された権限が必要です。例えば,
訴追の権限も,他の機関に留保されている裁
判管轄では,治安判事の役割のために,裁判
所の非常に混乱した姿を見るはめになるかも
しれませんし,もしあなたがニューヨークに
いたら,ニューヨークの地方判事のスパイ
ツァー氏は規制者的な方法での投資家保護に
非常に熱心な方ですが,彼がその役割を担っ
ています。
しかし,私の意見は,法的規制は,選挙
カードの役に立つ恩恵を与える,という基本
最後の側面は,定義的なものですが,FSA
は,実際に自主規制機関であるのでしょう
か?羊の皮をかぶった狼なのでしょうか?あ
るいは,狼の皮をかぶった羊なのでしょう
か?どれが正しい表現なのか分かりません。
法定規制機関かのように仮面をかぶっている
のでしょうか?事実,我々は自主規制機関で
す。いい質問なのですが,あなたが仰ったと
おり,我々の費用は,我々が監督している業
界から集められており,そのことが,我々を
法定規制モデルの一部であることから外して
いると言えるかもしれません。これは,英国
特有の方法の一例ですが,我々は決して1つ
の陣営に深く入り込まず,別の陣営にも入り
込まず,真ん中であろうとする傾向がありま
す。規制機関の英国モデルは,政府の一部で
もなく,自主規制機関でもなく,しかし,2
つの間のどこかにあって,英国で決められた
ものなのです。特別に,ある定義によって規
制する人々によって資金を供給される機関が,
自主規制機関という標準を満たすわけではな
い,といえるかもしれないと思います。しか
し, FSA の権限を見てみれば,我々は刑事
訴追機関であり,国務大臣や,公訴局長官に
尋ねなくても刑事訴追を行うことができると
いう事実は,我々を,法定規制機関の陣営へ
確実に押しやっていると思います。もっと時
間があればお話したかもしれないのですが,
シェルとシティグループや,他のケースで,
彼らはおそらく,法定規制機関に襟を掴まれ
たと感じたと言うでしょう。
〇シモン:ヒルテさんがクラスアクションと
不法行為法について仰ったことにちょっと触
れたいのですが,まず,クラスアクションで
すが,フランスでも現在同様の議論が行なわ
106 ―
― れています。フランス法にクラスアクション
裁がある意味,民事であるために,人権法で
を導入すべきかどうか?経済団体が,アメリ
の加害者,犯罪者と分類することはできない
カのクラスアクション,あるいはカナダのク
かもしれません。そして,その重要性は,
ラスアクションを導入することに熱心である
FSA が,民事制裁を課する前に満たさねば
ことに驚かれるかもしれません。英国とドイ
ならない証拠の水準に関わってきます。その
ツでまず導入したのだと思っていますが,そ
証拠は,民事制裁を課すことに関連して,
れは,正確にはクラスアクションではなく,
FSA の規制枠組内で提供されなければなら
オプトアウトの可能性のあるオンデマンドの
ない異議申立の構造についてであり,また,
ものとして導入されたものではありません。
彼らが,民事制裁の可能性から身を守るため
しかし,おそらく,控訴院が,多くの同様の
に, FSA が必要な資金を提供する必要性に
ケースで判断を下す可能性があります。その
ついてです。非常に広範な領域がそこにはあ
後,どのような解決方法を採用するかは,そ
ります。そして,それは,法律が導入された
れぞれのケースで個別に決定されることにな
際,英国では非常に活発な議論のテーマでし
るでしょう。ですから,最後には大きな違い
た。ありがとうございました。
が出てきます。それが,米国で起こっている
〇上村:私はウィリーさんのお話で,やはり
ケースでのような悪用を防ぐかもしれないと
大事なことは馬鹿にされないようにするとい
思います。もし私がよく理解していたなら,
うふうに思いました。日本ではどうも馬鹿に
これがポイントだと私は考えています。
されまくっているのではないかという,これ
不法行為法の評価に関してのお言葉ですが,
は天野さんや松尾さんを前にしてこのような
懲罰的損害賠償を導入するかどうかというこ
ことを言うのは本当に失礼にあたることなの
とはフランスでも議論になっています。市場
ですが,しかし今そういうきちんとした制度
の制裁について少し言ってよろしければ,フ
に向けて頑張っておられますので,あえて
ランスでも同じような制度を持っています。
エールを送らせていただきます。日本ではほ
同じ事案において,刑事制裁を課され,
んの一瞬のうちに,それも大借金で 38%の
AMF による,行政的罰金を課せられるかも
しれないわけです。それは,必ずしも,2つ
の制裁を意味しませんが,最も厳しいものが
宣告されるでしょう。それは,異なるルール
によって,2つの審理があることを意味し,
よい制度であるとは思いません。ですが,不
運なことに,我々の憲法裁判所は,2つの異
なる制裁を有することが憲法に反していない
と判断しました。ありがとうございました。
〇デービス:簡単に,最後のポイントに戻っ
て,二重処罰について黒沼教授が仰ったこと
を取り上げてもよろしいでしょうか?ヨー
ロッパでは,現在,二重処罰に関する議論は
あまり進んでいませんが,それは本当だと思
います。しかし,民事制裁と人権法の関係に
ついて,民事制裁が導入された際,英国では,
非常に活発な議論がありました。こうした制
株を買った人間が「株があるから支配者です」
ということが許されています。あるいはファ
ンドがやたらと誰の出資かよくわからないま
ま大量に株式を買って,それもまたかなり成
功者と見なされているます。こういう部分,
しかもその人が将来総理大臣になりたいなど
と言っているという事態を,私は昨日,今日
のお話を聞きましても非常に憂いる気持ちが
強いわけですので,ぜひ,頑張っていただき
たいと思っております。
報告者の皆さんは本当にありがとうござい
ました。
107 ―
― 
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