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新世紀の健康心理学の行方

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新世紀の健康心理学の行方
新世紀の健康心理学の行方
日本健康心理学会常任理事
小玉正博
新世紀を迎え、健康心理学はこれからどのよう
とを指摘し、これまで心理学はあまりにも人間の
な方向性を求めていくのであろうか。ヒトゲノム
ネガティブな側面にのみ目を奪われすぎてきてい
計画、クローン技術、宇宙ステーション建設、ヒ
ることに憂慮を表明している。
ト型ロボットの開発などに見るように、遺伝子工
こうしたセリグマンの考えは、自らがゲスト編
学や宇宙工学、ロボット工学などの急速な進歩に
集者としてかかわった『アメリカン・サイコロジ
よって、一〇年後、二〇年後の世界はおそらく我々
スト』誌(二〇〇〇年一月号)の特集「ポジティ
の想像をはるかに超えたものとなるに違いない。
ブ心理学」の中で詳しく論議されている。同誌に
まさに「手塚治虫ワールド」が展開されることで
は幸福感や主観的ウェルビーイング、オプティミ
あろう。
ズム、肯定的感情と身体的健康、創造性などを主
そうしたSF的世界の到来によって、はたして
題とした論文一五編が収録されているが、そこで
我々は健康で幸せな人生を営むことができている
展開されている論議は、これからの健康心理学の
のだろうか。そしてそのとき「健康心理学」はど
進むべき一つの方向を示唆しているようにも思わ
のような社会的役割と意義を持つことになるので
れたのである。
あろうか。
これまで心理学は、不適応問題の解明や病理行
ポジティブ心理学の基本的立場は主観的ウェル
ビーイングを中心に据え、人生を豊かなものにす
動の治療と改善など、もっぱら人間行動の暗い側
るように個人のポジティブな能力を開発・強化し、
面に関心を向けてきた。もちろん、そのこと自体
より理想的な社会を実現させていこうというもの
は非常に重要かつ有意義であるし、これからもそ
である。
のニーズは高まるであろう。しかしその一方で、
一方、健康心理学の大きな目標と課題は、我々
心理学はもっと人間行動の明るい側面に目を向け
の心身の健康状態の維持増進、病気予防にかかわ
るべきではないかという主張も、近年高まってき
る心理学的諸現象の解明と、より効果的な解決法
ている。
の構築である。とりわけ、健康心理学を他の臨床
たとえばセリグマンは、
『サイコロジー・トゥデ
領域の心理学から峻別するものは、
「負の状態にあ
イ』誌(二〇〇〇年六月号)で、過去三〇年間の
る」心身機能を「もとに戻す」ことではなく、
「よ
心理学論文五万四〇四〇編を検索した結果、抑う
り正の状態、ポジティブな段階」に発展させてい
つや不安などの否定的で不適応的な心理状態を論
こうとする姿勢にある。
文のキーワードとするものが四万一四一六編であ
こうしてみると、ポジティブ心理学と健康心理
るのに対し、
「喜び」のような肯定的な心理状態を
学の進もうとする方向には、重なり合う部分が非
キーワードとするのはわずか四一五編であったこ
常に大きいことがわかるのである。
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