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NGOとの協働授業 - 公益財団法人国際文化フォーラム
国際文化フォーラム通信 no. 62 2004年4月 見る聞く考えるやってみる授業 ── @3 NGOとの協働授業 ――フィリピンの子どもたちとの出会い 東京都江戸川区立西葛西中学校社会科教諭* 佐藤智彦 *この実践は、著者が東京都武蔵野市立第三中学校在職中のものです。 1 NGOとの出会い 2000年度より(財)武蔵野市国際交流協会(MIA)で実施して いる「教員ワークショップ」に参加し、市内在住の外国人ととも をねらいとした。 「日本人」 「フィリピン人」 ではなく、個人の名前で 呼び合える関係を築き、テレビや新聞で取り上げられる国家と しての「フィリピン」 「日本」ではなく、同年代の生活から見たフィ リピンや日本をお互いに理解しあうことをめざした。 につくる授業を実践してきた。ワークショップの大きなテーマを 授業は、フィリピンの現状を知るところから始まり、ビデオで互 「学校と地域がつくる国際理解教育」 として、1年目は 「理念や地 いの国の文化を紹介しあい、その成果を地域の大人たちに発 域リソースを知る」 、2年目は 「地域に暮らす外国人とともにつくる 表するというステップで行った(詳しくは別表の1∼5のステップを参照)。 授業」というように具体的なテーマを設定し、実践研究を行っ た。3年目の2002年度からは、NGOとの協働による授業実践 を行うことをめざしたが、正直に言って年度当初はとまどいがあ 3 NGOとの授業での利点 った。そのとまどいとは、NGOとの授業で募金集めをされたら 今回の実践は、NGO団体(ACTION)が間に入っていてくれた どうしようか、皆正義感に燃えていて学校側に過度の要望を出 ので、ビデオのやりとりは、ACTIONのスタッフがフィリピンに行 すのではないか、また生徒に一方的な価値観を押しつけるので くときに本校で撮影したビデオを持っていき、フィリピンの学校 はないか、などといったことであった。しかし、そのような思いこ で上映後、現地で撮ったビデオを持ち帰るという方法をとるこ みもNGOの方々と意見交換を繰り返す中で変わっていった。 とができた。またビデオだけでの交流ではなく、ビデオの中で 多くのNGOスタッフの方々が、授業を通して、まず世界の現状 (民芸品、自分のお気に入り 作った折り紙などを現地に送ったり、物 に生徒たちが気づき、その現状に政府だけではなく個人として のものなど)のやりとりも可能であった。またNGOの方にその場 どのようにかかわっていけるのかを考えていくことが第一歩であ で質問ができるので、映像だけではわからない情報も聞くこと り、それだけでも十分意義があると思っていることがわかったか ができ、理解を深めることができた。 らである。 NGOとの授業づくりにおいて考慮した点は、以下の点であ る。 「一度だけ授業にきてもらって、話をして、感想を書いて終 わりとするのではなく、継続的な活動を行うことができないか」 4 課題と2年目の取り組み 交流は英語を用いたため、語学力の点から考えると3年生で 「NGOの方たちの活動のリアリティをどう生かすか」 「個人の顔 の実施が望ましいが、3年生の3学期は受験があるため、生徒 が見える活動をどのようにして行うのか(国と国ではなく、人と人との交 の活動に余裕がなくなってしまう。また入試などで思うように日 流をめざす) 」 。こうした中、教員ワークショップに参加をしていた、 程がとれないこともでてくる。そういう点から考えると中高一貫の 武蔵野市内に事務所を置くNGO「特定非営利活動法人 学校か、高校1年生での実施が実際的かもしれない。 ACTION( 」子どもたちの生活向上をめざし、フィリピン・ルーマニアで活動する 実施2年目にあたる2003年度は、さまざまな角度からフィリピン 団体) の横田宗代表と出会い、ACTIONの協力を得て 「フィリピ に対する知識を深め、日本に住むフィリピンの方々との交流も行 ンの子どもたちとのビデオレター」 を行うこととなった。この授業 っていくこととした。まず1年間を通してACTIONと連携して、代 (2003年度は17 は、国際交流をテーマとした3年生の「選択社会」 表の横田氏には定期的に来校してもらい、さまざまな問題を提 名、週2時間)の時間に、1年間を通して実施した。 起してもらったり、フィリピンの日常的な会話を学んだりした。ま た、市内在住のフィリピンの方とともにフィリピン料理をつくった 2 12 NGOとの協働の授業をめざして り、アジアプレスのフィリピン人ジャーナリストの方からビデオ撮 ∼互いの国の人々の顔が見える交流を 影のレクチャーを受けたりといった活動を行った。さらに海外で 本取り組みでは、自分たちと同年代のフィリピンの人たちとの のボランティア活動をした大学生との交流会や、地域のコミュニ ビデオレターを通して、お互いの「顔が見える交流」を行うこと ティーセンターでの発表会など、学校外の人たちとの交流を積 国際文化フォーラム通信 no. 62 2004年4月 極的に行い、自分たちも地域社会の一員であるという意識をも るさまざまな人々に出会い、身近なところから国際貢献ができ てるような学習活動を行った。 ることを知るだけでなく、自分の意見をしっかりといえる力が確 この2年間の取り組みを通し、生徒たちは国際交流にかかわ 実についてきており、成果は十分にあったと思われる。 学習の様子 第4ステップ:課題追究 3(ビデオ視聴) 第1ステップ:課題把握 フィリピン側からのビデオ(20∼25分程度)を視聴する(全 フィリピンについての基礎知識を学ぶ。 自分の興味ある内容を調べ、まとめる (歴史・地理・政治・産業など) 。 なぜフィリピンとの交流を行うのかを知る。 NGOの方からフィリピンの現状を報告してもらう。 。 部で3回) 自己紹介・学校の様子・地域の様子・家庭の様子 *フィリピンの生徒たちは全体的に明るく、自己表現がしっかりでき る生徒が多かった。事前学習で調べたとき、フィリピンの人たちが とても明るく友好的であるとあったが、実感できた。特に、家族の 紹介のビデオには生徒のみでなく、家族全員でビデオに登場し、家 の中を案内してくれるなど、とても親しみがもてた。 第2ステップ:課題追究1 (どのようなことをビデオで紹介す るのかを考える) 興味のあるテーマごとに4グループに分かれて、それぞれに 企画を立ててビデオを作成する。 第5ステップ:まとめと発展 [グループのテーマ] 1.私たちの住む地域の紹介(井の頭公園・武蔵野市役所・武蔵野 中央公園) 2.日本の伝統的な食事・おせち料理・日常の食事風景 3.私たちの中学校の紹介(学校生活・授業風景) 4.私たちの生活の紹介(正月・クリスマス・雪の風景) *グループごとに伝えるべきテーマの検討に入ると、そのこと自体 が 「自分たちの住む地域の特色は何か」 「自分たちは毎日をどのよう に過ごしているのだろうか」など、ふだん何気なく過ごしている日常 や地域の様子を振り返るよいきっかけになっていった。 まとめ:今回の交流をふりかえり、気づいたことを話し合う。 以下は生徒の感想から抜粋。 苦労したこと ● 伝えたいことを英語に直すこと。 ● ビデオで伝えたいことを表現する。 ● 自分の国をビデオで紹介するというスケールの大きさに困った。 ● 相手の英語を聞き取らなくてはいけない。 よかったこと ● 相手の人たちの生活の様子がよくわかった。 ● 自分の国のことをあらためて知ることができた。 ● 学校で軍事教練があることがわかって驚いた。 発展:3月に地域のコミュニティーセンターで地域の人たち 第3ステップ:課題追究2(ビデオ撮影) の前で発表を行う。 それぞれのグループに分かれてビデオの撮影を行い、それ をあわせて1回分20分程度にまとめたものを送付する。 コミュニティーセンターでの生徒のことばより: 「日本語を英語に、英語を日本語になおしたり、大変なことばかり *井の頭公園・市内の施設 (市役所・体育館・吉祥寺駅など) に行く でしたが、相手国のことを知り、自国のことを紹介することにより、 グループもあった。撮影場所や撮影する内容は企画書を事前に提 互いの文化にふれあいながら日本のこともあらためて考えるきっ 出させた。 かけになりました」 フィリピンの方との料理風景。 肉じゃがの作り方を書いた紙 (フィリピンへ送ったもの) 。 フィリピン人ジャーナリストのレクチャー風景。 13