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マルチエージェントシミュレーションを用いた 京王

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マルチエージェントシミュレーションを用いた 京王
マルチエージェントシミュレーションを用いた
京王井の頭線の各車両における混雑率の平準化
東京大学教養学部広域科学科広域システム分科
坂上詩織 那珂将人 南條貴紀 二本垣裕太
指導教官:山口和紀
概要
京王井の頭線は、朝の通勤ラッシュ時に非常に混雑率が高い。京王井の頭線の朝の
主要区間における混雑率は 139%に上る[1]。この混雑によって、列車の運行の遅れ、
体調不良者の発生といった問題がしばしば発生している。しかし、井の頭線の場合単
に混雑率が高いだけではなく、混雑率が一部の車両に大きく偏っていることに問題が
あると考えた。混雑状況を改善するために、例えば列車の運行数を増やすというのは、
すでに通勤ラッシュ時の1時間に約30本の電車が運行している事から現実的ではな
いのに加え、電車の本数を増やすことでは混雑率の偏りに関しては解決することがで
きない。実際に通勤ラッシュ時の井の頭線の上り電車に乗車して各車両での乗車率の
記録を行ったところ、渋谷寄りの車両が極めて混雑している一方、吉祥寺寄りの車両
は比較的空いていることが分かった。この混雑率の偏りを減らすことで、乗客のスム
ーズな乗降、車内環境の良化が実現できると考えた。 渋谷寄りの車両が極端に混雑する大きな原因としては、(1)利用客の多い渋谷駅
での改札への近さ、(2)途中駅での階段位置が渋谷寄りに多く設置されている事、
が考えられる。これらの駅構造に関する要因を改善する事によって混雑率の偏りを平
準化する。この時、様々な改良案を事前に検討することが必須である。そこで本研究
では、コンピュータシミュレーション[2]を用いて通勤ラッシュ時の井の頭線の上り電
車の状況を再現した上で、各駅の階段の位置を変化させることにより、各車両の混雑
状況を分析し、混雑率の平準化を実現する駅構造の探索と評価を行った。
保城ら[2]は、マルチエージェントシミュレーションを利用し、JR 東日本山手線内回
りの各車両の混雑状況の偏りを分析した。本研究ではこの山手線モデルに、井の頭線
の車両数・ドアの数、各駅の階段の位置、各駅での乗降者数等の反映と乗客の動きに
関するルールの改良を行なった。このモデルを用いたシミュレーションで現実を模倣
した後に、主要乗換駅である明大前駅と下北沢駅の階段の位置を変更し、車両間の混
雑の偏りを平準化できる駅構造の探索を行った。混雑率の偏りの程度は、平均混雑率
が一定値を超えている区間での、各車両における乗車人数の分散を算出し、その最大
値を用いて比較した。
今回の実験からは、明大前の5号車1ドア前の階段を1号車4ドア前へ、下北沢の4
号車1ドア前の階段を1号車4ドア前、又は2号車3ドア前に位置を移動させた時に
各車両の乗車人数の偏りを初期条件と比べ非常に低く抑えることが出来るという結果
が得られた。
1
目次
1 はじめに..................................................................................................................................... 3
2 井の頭線について....................................................................................................................... 4
2.1 井の頭線の概要.........................................................................................................................4
2.2 井の頭線の朝ラッシュ時の混雑..............................................................................................5
2.3 混雑の平準化の必要性...........................................................................................................15
2.4 混雑に偏りが生じる原因とその対策....................................................................................16
2.4.1 乗客の特性に起因する混雑の偏り..............................................................................16
2.4.2 途中駅の構造に起因する混雑の偏り..........................................................................16
2.4.3 対策とその比較......................................................................................................... 18
3 研究手法.................................................................................................................................. 20
3.1 シミュレータを利用することの利点....................................................................................20
3.2 マルチエージェントシミュレーション................................................................................20
3.3 研究の手順..............................................................................................................................20
4 シミュレータの構築................................................................................................................... 21
4.1 山手線シミュレータ(先行研究)の概要............................................................................21
4.2 井の頭線の現状模倣...............................................................................................................22
4.3 シミュレーションに必要となるデータの収集.....................................................................27
4.4 シミュレータの妥当性検証...................................................................................................35
5 シミュレータによる対策の評価...................................................................................................42
5.1 実験条件..................................................................................................................................42
5.2 実験方法..................................................................................................................................43
5.2.1 階段位置の変更方法.................................................................................................43
5.2.2 評価方法................................................................................................................... 45
5.3 実験結果..................................................................................................................................46
6 考察......................................................................................................................................... 56
6.1 シミュレータに関して...........................................................................................................56
6.2 パラメータの設定に関して...................................................................................................58
7 結論・将来の展望..................................................................................................................... 59
2
1 はじめに
首都圏の鉄道では、朝の通勤時間帯に混雑が激しく、列車の遅延や体調不良者の発
生に影響を与えていると考えられる。京王井の頭線も朝ラッシュ時に混雑する路線の
1つである。本研究では、乗車経験や乗車率データの実測から、先頭車両と後方車両
で混雑の度合いに差が存在することに着目した。
現存の設備を利用しながら混雑によって生じる不利益を減少させるためには、乗客
を全ての車両に分散させて混雑の偏りを平準化するという対策が低コストである。
京王電鉄も乗客の特定車両への集中が存在することを認めている[3]。対策として、
(1)乗客に対する分散乗車の呼びかけ、(2)車両大型化による輸送力増強、(3)旅
客導線の変更などの施設改善、に取り組んでいるとのことである。
本研究では、駅構造の改良によって、現在は特定車両へ集中している乗客を 5 両の
車両に分散乗車させ、混雑の偏りの平準化を実現することを目指した。
本論文においては、第 2 章の「井の頭線について」において混雑に偏りが存在する
ことと、その偏りを平準化するためには駅構造に改良を施すことの有効性について論
じる。
駅構造改良に先立って、どのような改良が混雑の平準化を最も実現するかを吟味す
る必要がある。そこで我々が着想したのが、コンピュータシミュレーションの利用で
ある。コンピュータ上に駅・電車・乗客などの複数のエージェントを発生させ、それ
ぞれの振る舞いを変数として設定した上でシミュレーションを実行するというマルチ
エージェントシミュレーションの手法を用いることを第 3 章で述べる。
第 4 章では実際に構築した井の頭線シミュレータの紹介を行う。先行研究で山手線
を模倣したモデルが存在したので、その改良と、井の頭線への適用を行った。また、
構築したシミュレータの精度を向上させるための妥当性検証も行った。第 5 章では、
妥当性検証の完了したシミュレータを用いて、駅構造の改良が混雑の偏りの平準化に
対して与える影響を再現する実験に関して、その方法と結果を述べている。第 6 章及
び第 7 章では今回の研究の考察と、将来に向けての提言を行った。首都圏では長期的
には人口は減少に転じるが、今後 10 年程度は人口増加が続くと予想されている[4]。そ
のため、鉄道会社としては複々線化・車両編成の拡張・新路線開業などの、輸送力増
大策を取ったとしても、将来的には過剰設備投資となってしまう可能性が高い。従っ
て、既存の設備の改良によって混雑率の偏りを平準化することを目指した本研究は時
代に即したものと言えるだろう。
3
2 井の頭線について
2.1 井の頭線の概要
京王電鉄井の頭線(以下、井の頭線)は、吉祥寺(東京都武蔵野市)と渋谷駅(渋
谷区)の間を結ぶ全長 12.7km の鉄道路線である。沿線の自治体は、武蔵野市、三鷹市、
杉並区、世田谷区、目黒区、渋谷区と、住宅地が中心であり、東京近郊を走る通勤路
線と表現して差し支えない。
始点の吉祥寺駅においては JR 中央線、終点の渋谷駅においては JR 山手線・埼京線、
東急電鉄東横線・田園都市線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線と乗り換えが
でき、途中の明大前と下北沢の両駅においては、それぞれ京王線、小田急線と接続し
ている。駅数は両端を含めて 17 駅であり、一日の利用客数(上り方面の乗車人数の合
計)は約 33 万人である[5]。
このような高密度路線である他に、井の頭線の特徴として考えられるのはその編成の
短さである。他の首都圏の鉄道路線では、大量の乗客を収容するために 1 編成あたり 8
両~10 両程度で運行されている。例えば、小田急線は各駅停車が 8 両編成、急行系が
10 両編成であり、山手線は全車両 11 両編成で運行されている。これに対して、京王
井の頭線は全車両が 5 両編成であり、他の路線に比べて短いと言える。
次に井の頭線における利用動態の概要を述べる。上り方面(吉祥寺から渋谷の方面)
に関して述べると、一日の平均乗車人数(吉祥寺から神泉駅での乗車人数の合計)は約
33 万人であるのに対し、降車人数が最も多い駅は渋谷駅で、約 20 万人という数字で
ある[1]。これは、井の頭線の利用者の 3 分の 2 が渋谷駅を目的地としていることを示
す。この数字は一日の合計であるが、ラッシュ時にも同様の傾向が見られると推察で
きる。
4
2.2 井の頭線の朝ラッシュ時の混雑
多くの首都圏の鉄道と同様に、井の頭線も朝の通勤時間帯における混雑が激しい。
具体的には、[1]によると、井の頭線の通勤ラッシュ時における主要区間は、上り電車
の神泉~渋谷間であり、最混雑時間帯 1 時間における平均混雑率は 139%(平成 22
年)である。通勤時間帯の 1 時間に同区間を通過する電車は約 30 本設定されており、
標準輸送力(すなわち混雑率 100%)が 21,000 人なのに対して、利用者数は 29,800
人である[6]。
乗車率の数値と混雑の状態の目安は以下のように示されている。すなわち、100%は
「定員乗車(座席につくか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができ
る)」、150%は「広げて楽に新聞を読むことができる」、180%は「折りたたむなど
無理をすれば新聞を読める」、200%は「体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程
度ならなんとか読める」、250%は「電車がゆれるたびに体が斜めになって身動きがで
きず、手も動かせない」である[7]。井の頭線の平均混雑率 139%という数字をこの目
安に照らし合わせると、井の頭線の朝通勤ラッシュ時における状態は、150%の「広げ
て楽に新聞を読むことができる」に近い。
図 1:混雑率の目安[7]
5
この 139%という数値は各車両の混雑率を平均化したものである。現実には車両間
の混雑率にはばらつきが存在する。そこで、実際の数字でもって実態を確かめるため
に、ラッシュ時の井の頭線に乗車して車掌室モニターに表示される各車両の乗車率を
調査した。車掌室には、車掌が車内の状態(混雑度、空調の設定など)を随時確認す
るためのモニターが設置されている。本研究では、2 月上旬の 3 日間に渡って、朝 7 時
50 分から 8 時 50 分の間に吉祥寺駅を出発する 3 本の電車に乗車してモニターに表示
される各車両の乗車率を記録した。なお、モニターに表示される乗車率は、車軸にか
かる重量から該当車両における乗車人数を推定し、算出されたものである[8]。
記録した乗車率の推移を、乗車した電車ごとにグラフに表示した。横軸は区間、縦
軸は乗車率である(図 2~図 4)。
図 2:井の頭線吉祥寺 8 時 44 分発における乗車率の推移
(計測日:2 月 13 日)
6
図 3:井の頭線吉祥寺 8 時 34 分発における乗車率の推移
(計測日:2 月 14 日)
図 4:井の頭線吉祥寺 7 時 51 分発における乗車率の推移
(計測日:2 月 20 日)
7
これらのグラフからは、
(1)吉祥寺から渋谷方面に進むに従って 5 両の平均乗車率が概ね上昇する(すなわち、
1 編成の電車に乗車している乗客数が増えていく)。
ということが分かる。
3 本の電車の各区間での乗車率を、車両ごとに平均したものの推移が図 5 である。図
の見やすさを考慮して、5車両の平均は載せていない。
図 5:3 本の電車の乗車率の平均値の推移
8
図 5 からは、以下の 3 点が言える。
(2)吉祥寺を出発した時点では吉祥寺寄りの車両の乗車率が渋谷寄りよりも高いのに
対して、渋谷に近づくに従って渋谷寄りの先頭車両の乗車率が他の車両よりも高くな
っていく。
(3)終点渋谷に到着する時点で、先頭の 5 号車の乗車率が約 200%であるのに対して、
最後尾の 1 号車は約 100%、中間の 2 号車から 4 号車は約 150%である。
(4)最も混雑率が高くなるのは、池ノ上駅から駒場東大前駅の間における、5 号車で
ある。
また、8 時 44 分発、8 時 34 分発、7 時 51 分発の 3 本の電車に関して、1 号車(吉
祥寺寄り)から 5 号車(渋谷寄り)と、5 両の平均の乗車率の推移をグラフにしたのが
以下の 6 つである(図 6~図 11)。
9
図 6:全車両(1 号車から 5 号車)
平均乗車率の推移
図 7:1 号車(吉祥寺寄り)における乗
車率の推移
図 8:2 号車における乗車率の推移
10
図 9:3 号車における乗車率の推移
図 10:4 号車における乗車率の推移
図 11:5 号車(渋谷寄り)における乗
車率の推移
11
図 6~図 11 は、電車ごとに乗車率の差はあったとしても、各車両の乗車率の分布や
増減の傾向は 3 本で似通っているということが分かった。3 本の電車で共通した傾向を、
車両ごとに示すと、
<5 両の平均>
(5)吉祥寺から渋谷にかけて増加傾向にある。
(6)東松原から新代田間で極大となる。新代田出発後、一時的に下がるが次の下北沢
を発車する時点で再び上昇する。
(7)池ノ上から駒場東大前間で最大となる。
<1 号車(吉祥寺寄り)>
(8)途中の増減はあるが、概ね 100%の前後である。
(9)駒場東大前から神泉間で極大となる。次の神泉から渋谷間で乗車率は下降する。
<2 号車>
(10)東松原から新代田間で最大となる。
<3 号車>
(11)東松原から新代田間で極大となる。
<4 号車>
(12)吉祥寺から渋谷にかけて増加傾向にある。
(13)浜田山から西永福間で極大を取る。
(14)下北沢から池ノ上、もしくは池ノ上から駒場東大前の区間で最大となる。
<5 号車>
(15)吉祥寺から渋谷にかけて増加傾向にある。吉祥寺から渋谷での増加の割合は、5
両で最大である(4~5 倍)。
(16)池ノ上から駒場東大前間で最大となる。その後、駒場東大前発車時点で一時的
に下降するが、神泉から渋谷間で再び上昇する。
最後に、横軸に車両の号車番号、縦軸に乗車率をとり、いくつかの区間で乗車率の
分布にどれだけのばらつきがあるのかを示したグラフを作成した(図 12~図 14)。
区間は全部で 16 個存在するが、このグラフでは代表的な「吉祥寺-井の頭公園」「久
12
我山-富士見ヶ丘」「永福町-明大前」「明大前-東松原」「東松原-新代田」「下北沢-池
ノ上」「池ノ上-駒場東大前」「神泉-渋谷」の 8 区間を表示した。
この 8 区間を選んだ理由は、以下の 4 点である。
1. 「吉祥寺-井の頭公園」「久我山-富士見ヶ丘」「永福町-明大前」「明大前-東松
原」「下北沢-池ノ上」の 5 区間は、井の頭線で日中走る急行電車の停車駅(す
なわち主要駅)を発車した後の区間である
2. 「東松原-新代田」は 2 号車と 3 号車においては乗車率が最大となる区間である
3. 「池ノ上-駒場東大前」は全車両の平均乗車率が最大となる区間である
4. 「神泉-渋谷」は[1]において井の頭線の主要区間と定められている
図 12:吉祥寺駅 8 時 44 分発電車における区間ごとの各車両の混雑率のばらつき
13
図 13:吉祥寺駅 8 時 34 分発電車における区間ごとの各車両の乗車率のばらつき
図 14:吉祥寺駅 7 時 51 分発電車における区間ごとの各車両の乗車率のばらつき
14
図 12~図 14 から、車両間の乗車率の偏りが存在することが分かる。区間ごとのグ
ラフが水平に近ければ近いほどその区間での車両間の乗車率の偏りは小さいと言える。
今回観測した 3 本の電車では、前方車両と後方車両で乗車率の比が最大で 3~4 倍存在
することが分かった。
2.3 混雑の平準化の必要性
乗車率が高い、即ち混雑しているという状況では、以下の2つを例に、鉄道事業
体・利用者双方に不利益が生じていると考えられる。
(1)乗り降りに要する時間が延びることによって列車の遅延が発生する
(2)車内の密集度が高くなることで体調不良者が発生する
これらの問題を解決することは、利用者にとっては利便性・快適性の向上に繋がり、
その結果、鉄道事業者にとっては顧客満足度向上、ひいては企業の価値向上に繋がる。
よって、混雑の解消は鉄道会社が取るべき重要な課題のひとつであり、我々の研究で
も混雑の解消を目的とした。
井の頭線の混雑には「車両間の乗車率の偏り」が特徴として存在することを 2.2 にお
いて実証した。全体の乗車率が最も高くなる下北沢駅から渋谷駅の付近においては、
先頭の渋谷寄りに乗客が集中している。
仮に、この偏りを平準化するための対策を打たずして全体の乗車率を下げる努力を
払ったとしても無意味である。その理由は、全車両の平均乗車率が低下したとしても、
先頭車両の乗車率が今の水準のままであると、(1)列車遅延の問題に関しては、先頭
車両での乗り降りの時間に列車運行が影響を受けてしまう、(2)体調不良者の発生に
関しては、先頭車両の車内環境が変わらないと体調不良者は依然発生すると予想でき
るからである。
以上の理由により、我々の研究グループは井の頭線の混雑の偏りを平準化するため
の対策に関して提言を行うことを目標として設定した。
15
2.4 混雑に偏りが生じる原因とその対策
前節において、井の頭線で現在偏りが存在する混雑を平準化することの必要性を論
じた。本節では混雑に偏りが生じる原因を、1°乗客の特性、2°途中駅の構造に二分し
てそれぞれ分析する。その後、その対策を原因ごとに列挙し、比較する。
2.4.1 乗客の特性に起因する混雑の偏り
混雑に偏りが生じる原因は、ひとつには乗客の特性が考えられる。2.1 で述べたよう
に、1 日における井の頭線上り方面利用者数のうち 3 分の 2 は渋谷駅を目的とする。そ
して、渋谷駅を目的とする乗客の行動は 2 種類考えられ、(1)渋谷駅で降車後、渋谷
のオフィス・学校などへ向かう、(2)渋谷駅で他路線に乗り換える、である。
[9]によると、「定期券利用」の乗客に関しては、朝 7 時 45 分~8 時 44 分の 1 時間
に渋谷駅に到着する井の頭線からの到着人員のうち、渋谷駅を最終目的地とする乗客
は約 23%で、残りの約 77%は、渋谷駅で接続する各路線に乗り換える。定期利用以外
の、普通乗車券にて井の頭線を利用した乗客の、渋谷駅降車後の動向は不明であるが、
朝の通勤時間帯においては乗客の多くが定期利用であると考えられるので、渋谷駅の
到着人員の 4 分の 3 程度は乗換え目的であると考えられる。
ここで渋谷駅の構造を考察すると、以下の 2 点の特徴が考えられる。
・複数の路線が集積する渋谷駅の中で、井の頭線の駅舎が最も西に位置する。
・井の頭線から他路線に乗り換えるのに便利な主要改札は、先頭車両の近くに位置す
る。
以上の乗客の特性と、渋谷駅の構造上の特徴によって、「吉祥寺から神泉の各駅で
乗車し、途中駅で降りずに渋谷を目指した乗客が、乗換えに要する時間や距離を短縮
するために、他路線に乗り換えやすい渋谷寄りの車両に乗車する」という仮説をたて
た。
2.4.2 途中駅の構造に起因する混雑の偏り
乗客の特性、及び終点の渋谷駅の構造から導かれる偏りの原因の他に、途中駅の構
造も、混雑の偏りの原因として挙げることができる。
表 1 は、井の頭線の吉祥寺駅から神泉駅における改札や乗換え口の位置を表したも
のである。行はそれぞれの駅、列は 1 車両におけるそれぞれのドアを示している。井
16
の頭線は 5 両編成で、全ての車両が 4 ドアであるので、最も吉祥寺寄りのドアを 1、最
も渋谷よりのドアを 20 とドアごとに番号をつけた。表の中で、■は改札からホームに
至る階段やエスカレータなどの位置、◎は他路線との乗換えが存在する場合に、乗換
え口となっている場合にその位置を示した。したがって、◎の位置からも、乗換え客
ではない、「その駅で初乗りする人員」も乗車してくることに注意されたい。なお、
駅によってはこの他にエレベータが設置されているものも存在するが、エレベータの
場合は利用する人も、一度に乗れる人数も少ないので今回は無視した。
ドア番号(1 が最も吉祥寺側)
駅名
1
吉祥寺
◎
2
3
井の頭公園
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
16
17
18
19
20
■
久我山
■
■
富士見ヶ丘
■
高井戸
■
■
■
浜田山
■
西永福
■
永福町
■
明大前
■
■
◎
東松原
■
◎
■
新代田
■
下北沢
■
◎
池ノ上
◎
■
■
■
神泉
合計
15
■
三鷹台
駒場東大前
14
■
2
0
0
2
1
2
0
4
2
1
1
1
2
1
1
2
2
0
0
表 1:井の頭線駅ごとの階段位置
この表を見ると、井の頭線全体としては、改札口からホームに繋がる通路は、吉祥
寺寄りの車両近く、渋谷よりの車両近くのどちらにも設置されているように見える。
しかし、路線の中で乗降者数の多い下北沢・明大前などの主要な乗換え駅に関して抜
き出すと、渋谷寄りの車両に近い場所に、より多くの乗換え通路が設置されているこ
とが分かった。
17
2
具体的な乗車人数としては、1 日の乗車数約 30 万のうち、明大前からの乗車人数が
約 8 万、吉祥寺からの乗車人数が約 7 万 5 千、下北沢からの乗車人数が約 4 万 5 千で、
この 3 駅で全体の乗車人数のおよそ 3 分の 2 を占めている[5]。特に、合計で路線中
40%の利用者数を抱える明大前駅と下北沢駅の乗り換え口が渋谷寄りの先頭車両に近
い場所に設置されていることは、乗客の先頭車両への集中させる大きな原因と考えら
れる。
また、下北沢・明大前のような乗換駅に限らずとも、渋谷寄りに改札からホームに
繋がる通路が設置されている駅では、改札を通ってホームに出た乗客がそのまま先頭
付近の車両に乗車して、先頭車両への混雑の偏りをさらに悪化させているだろう。
2.4.3 対策とその比較
乗客の特性と駅構造の問題が、井の頭線における先頭車両への混雑の偏りの原因と
なっていると我々は考えた。次に、混雑の偏りを平準化し、結果として特定の車両で
の集中的な混雑を緩和するために、これらの原因の解決策を考案する。
そのために、2 つの原因に対する対策をいくつか考え、それらを比較検討する。
まず、乗客の特性に関連する混雑平準化策としては、
1. そもそも乗客の目的地を渋谷以外とする。
2. 井の頭線の渋谷駅を現在より東に移設して、後方の車両に乗車しても乗り換え
時間が短い状態を作る。
などが考えられる。
次に、途中駅の構造に関連する混雑平準化策としては、
1. 改札からホームに至る階段の位置を、吉祥寺寄りに移設する。
2. 下北沢、明大前の乗換駅に関しては、接続路線からの乗換口を、吉祥寺寄りに
移設する。
などが挙げられる。
乗客の目的地を変更することは、旅客サービス上不可能であると考えられる。仮に、
別の路線を新たに敷設して、乗客を分散させたとしても、新路線敷設には莫大な費用
が発生する上に、井の頭線の旅客収入が減額するので現実的でない。
18
また、渋谷駅を東寄りに移設することも、現在の多くの路線が集積する渋谷一帯で
そのような大規模な工事を行うことは現実的ではないと考えられる。
一方で、途中駅の構造に改良を施すことによって、駅に入場した乗客や他路線から
井の頭線に乗り換えてきた乗客がホームに降り立つ地点を、現在より吉祥寺寄りに移
設することで先頭車両に乗車している乗客の一部を吉祥寺寄りの後方車両に誘導する
ことはできる。このような工事の場合は、渋谷駅の移設と比べて影響する機関・人が
少ないために進めやすいという利点が存在する。
以上の理由により、井の頭線の混雑の偏りを平準化するために、渋谷までの途中駅
で改札位置や階段位置の変更などの駅構造改良工事を施すことが有効な策であると考
えた。
19
3 研究手法
3.1 シミュレータを利用することの利 点
本研究の目標は井の頭線の偏った混雑を平準化させるために有効な駅構造改良の手
法を提案することである。しかし、駅改良工事には予算と時間が必要であるために、
事前の効果予測が不可欠である。そのため、現実を模倣したシミュレータを利用して、
複数の組合わせが想定できる駅改良工事の効果をシミュレーションすることは効果的
であると言える。
3.2 マルチエージェントシミュレーション
エージェントが複数存在するシミュレーションで、個々のエージェントごとに、あ
る場面での行動をあらかじめ決めておき、全体としてどのような動きをするのか見る
シミュレーション。
基本的には、エージェントのパラメータ設定とパラメータの妥当性検証の繰り返し
を行う。
3.3 研究の手順
手順としては、まず現状の井の頭線を再現したシミュレータを構築する。この際に
シミュレータの変数設定に必要となる数値は、官公庁が公表している統計資料や、実
際に井の頭線の駅構内や電車内で計測したデータを用いた。
作成したシミュレータが現実、本実験では井の頭線での振る舞い、を模倣している
かを確かめるために、妥当性検証を行う。今回の研究では、井の頭線の車掌室のモニ
ターに表示された、各車両における乗車率の推移と、シミュレータ上での乗車率の推
移の傾向を比較することによって妥当性検証を行った。
現実を模倣したシミュレータを用いて、次に変数を動かしてシミュレーション全体
の挙動にどのような変化が現れるかを観察する。今回の研究では駅構造改良の効果を
調べることが目的であるので、シミュレータの変数のうち、階段や乗換口の位置(す
なわち乗客エージェントの発生位置)を動かす。
階段位置の変数を動かすと、乗車率の推移が変動するはずである。一定の評価基準
を設けて、「混雑の偏りを平準化する」という目的に一番適した変数の組み合わせを
探す実験となる。
20
4 シミュレータの構築
4.1 山手線シミュレータ(先行研究)の概要
本研究と同様に、マルチエージェントシミュレーションの手法を用いて、JR 東日本
山手線における鉄道車両の混雑率の変化を観察した研究[2]が挙げられる。マルチエー
ジェントシミュレーションでは、ステップごとにエージェントがその時点での状況を
もとにルールにしたがって行動するように設定されている。この先行研究では、ある
一つの車両に注目し、駅を移動するたびに乗客の乗降を行い続けるモデル(以下、山
手線モデル)でシミュレーションを行っている。
山手線モデルでは、100 ステップ毎に次の駅への移動を行う。次の駅に移動すると、
その駅の改札への通路がある位置に、その駅から当車両に乗車する乗客エージェント
が生成される。各駅から発生する乗客エージェントの総数は、各駅の旅客乗車数の比
に基づいて調整されており、どの改札への通路から発生するかは無作為に決定される。
また、乗客は列車に乗車するときに、様々な事柄を考慮して乗り込む車両を決定する。
山手線モデルでは、3 種類の異なる性格を持つ乗客エージェントが設定されている。性
格は、目的地指向型、現状地維持型、混雑回避型の 3 種類で、その発生比率は試験的
に 2:2:1 とされている。以下に、各性格の特徴を示す。
1.目的地指向型
降車駅のホームから改札への通路がどこにあるかを知っており、降りるときにそこ
に近くなるように乗車車両を選ぶ性格である。通勤や通学を目的として、列車を利用
している乗客に多くみられるであろう性格である。この性格の乗客エージェントは発
生すると同時に、各駅の旅客降車数の比に基づいて降車する駅を決定し、その降車駅
のどの改札への通路を利用するかを無作為に決定する。そして、その通路に一番近い
車両に乗車する。
2.現状地維持型
乗車駅における自分の発生位置から、一番近い位置にある車両を選ぶ性格である。
駆け込み乗車をする乗客を表している。この性格の乗客エージェントは発生すると同
時に、一番近い位置にある車両に乗車する。
3.混雑回避型
21
基本的には目的地指向型と同じ行動を取るが、混雑車両を回避する性格である。目
的地指向型と同様に乗車する車両を仮決定するが、その車両が一定以上混雑している
と、隣の車両に乗車する。隣も混雑している場合は、更に隣の車両に乗車する。
各乗客エージェントは、目的駅に到着すると降車し、数ステップ後に消える。上記
の試行を繰り返すことで、各車両の混雑状況をシミュレートしている。
4.2 井の頭線の現状模倣
保城らのシミュレータは、大まかな混雑率の変化を分析するためには、有効な道具
であったが、山手線と井の頭線での路線の特徴の違いや現実に合わないパラメータ設
定があったため、改良が必要である。
吉祥寺を出発してから渋谷に到着するまで、各駅で乗客エージェントを発生させ、乗
車降車をさせ、各車両での混雑率の変化を観察する。
以下にあげる特徴をシミュレーションに実装した。
●
ホーム上電車到着前
○
乗客エージェントの動きは実数値を用いる
○
進むときに、前の乗客エージェントの有無を進行速度に影響させる
○
列に並んでから乗車する
■ 列の長さを見て隣の列が自分の列よりある程度少なければ隣の列
に並ぶ
●
電車到着後から出発まで
近くのドアに駆け込む
○
●
乗車中
ドア間である程度の差ができると乗客が移動し平準化する
○ 座席が空いている時は、乗客が座ろうと移動する
○
上記の特徴をシミュレーションに組み込むために以下のパラメータを決定する。
○
駅ごとの乗客エージェント発生位置
○
乗客エージェント歩くスピード
○
電車の間隔
ドアの開いている時間
○ 乗客エージェントの種類の比
○ 乗客エージェントの各駅での発生数
○ 乗客エージェントの乗車駅と降車駅
○
22
前進
乗客が前に進むときには、前にいる人が大きく乗客の動きを左右する。たとえば、前
に誰もいなければ、乗客は走って乗りたい電車のドアまでたどり着くことができるが、
前に他の乗客が溢れている場合は、前の乗客に合わせて進むことしかできなくなる。
また、前に他の乗客がいる場合には、なるべく空いている方を通って進もうとする。
今回のシミュレーションでは、これを反映するために、以下のアルゴリズムを使った。
前進(){
前 = 前の乗客の数を数える()
右前 = 右斜め前の乗客の数を数える()
左前 = 左斜め前の乗客の数を数える()
if(前 == 0 ) then
forward(前進距離)
elseif(右前==0)
then
if(左前==0) then
my.direction = 半分の確率で右前か左前
forward(前進距離)
else
my.direction = 右前
forward(前進距離)
end if
elseif(左前==0) then
my.direction = 左前
forward(前進距離)
else
my.direction = arg min 人数
forward(前進距離 2)
end if
}
ただし、進む距離は進む方向に別の乗客がいないときのスピードで、進む距離 2 は進
行方向に別の乗客がいるときに進める距離である。
23
列に並ぶ
実際のホームを考えてみると、電車の扉位置がホーム上に記されていて、乗客はそこ
に並んでいる。さらに深く考えると、列の長さを見て自分がどのドアから乗るのかを
臨機応変に決める。また、列が長くなりすぎたために、人の流れを遮る障害ともなり
うる。
今回のシミュレーションでは、以下のアルゴリズムによって列の並びを実現した。
ドアに並んだ列に最後尾を Door_Line[ドア]とする。
列に並ぶ(){
if 目的ドア== i then
Direction == 現在の座標から Door_Line[目的ドア]の座標への向き
前進()
end if
if Coodinate == door_line[目的ドア] then
Door_Line[目的ドア]を一人分ホーム端から遠ざける
end if
}
ただし、Direction は各エージェントの向きを表わしていて、前進()は前進アルゴリズ
ムを示している。
並ぶドアを決定
並ぶ列を決めるときに、自分のもともと並びたいドアの前の列に並ぶが、もしもその
列の隣を見て、その列が空いている場合には、隣の列に並んでもいいと考える場合が
多い。その動きを以下のアルゴリズムを利用して、シミュレーションに実装する。
並ぶドアを決定(){
if(並んでいるドアの列の長さが隣ドアの列の長さよりある程度以上長い) then
my.目的ドア = 隣のドア
end if
}
近くのドアに駆け込む
24
電車が到着後、ドアが開くとホーム上の乗客はドアに向かって歩く。列に並んでいた
人たちは、列に対応するドアから乗車し、
近くのドアに駆け込む(){
目的ドア=一番近いドア
Direction = 目的ドアの向き
Forward(前進距離 3)
}
各ドアの乗れる人数の制限
現実を考えると、同じ車両内のドア間で乗車人数が大きく違うことは考えがたい。一
つのドアに集中して乗ったとしても、隣のドアの前がすいていれば、そちらに人が流
れていくからである。この上限をつけておくことで、同一車両内での乗客の非現実的
な偏りをあらかじめ防ぐことができる。
各ドアに乗れる人数の制限(){
if (my.目的ドアが隣のドアより一定人数多い) then
一部の乗客が隣のドアに移動()
end if
}
座席が開いていれば座る
電車を利用する祭に、ほとんどの乗客が席が空いていれば座る。特に朝の時間帯は席
が空いて立っている人がいるということは珍しい。そこで、電車にある程度人が乗る
までは、電車に乗ったエージェントが、席が埋まるまではその車両内で分散して座る
ようなモデルとした。
座席が開いていれば座る(){
if(ドアに対応する座席の数 < ドアにいる乗客の数 && 隣ドアに対応する座席の
数 > ドアにいる乗客の数) then
一定の乗客が隣のドアに移動()
end if
}
25
これによって、特に吉祥寺での 1 号車 1 番ドアの爆発的な混み具合を緩和することが
できる。実際の経験上、吉祥寺で乗客が電車出発のぎりぎりで乗る場合、乗客は 1 番
ドアから乗車するが、その後、前方へ歩いてドア間を移動していくのでこの関数を使
うことで、この現象をシミュレーション内に実装することができる。
パラメータ決定に関して
歩くスピード
実際に歩くスピードから、シミュレーション内の時間と空間のスケールに合わせる。
●
(1ステップで進むセルの量)=
(歩くスピード)×(シミュレーション内での1駅あたりのステップ数)
( 実 際 に 電 車 が 駅 に 到 着 す る 間 隔 )
電車の間隔
実験する際に適切な値。大きすぎると、実験の回数ができず、小さいとステップ数で
●
歩くスピードを左右するので、荒いものとなってしまう。
ドアの開いている時間
実際にデータを計測し、平均あいている時間を利用。実際には駅ごとに異なるが今回
は、全て同一の値を利用。
●
エージェントの種類の比決定方法
今回は、エージェントの型の比を正確に求めることが目標ではないので、全体として、
混雑率が現実的な値となるものを利用。
●
エージェントの各駅での発生数決定方法
各駅での乗降者数のデータと計測した各駅の階段から出てくる乗客の比と京王電鉄か
●
ら取得した輸送量データから推定
エージェントの乗車駅と降車駅のペアの決定方法
各駅での乗降者数のデータと各駅間での乗車人数のデータを利用し、渋谷から順に割
り振った。次節のデータの部分で詳細を述べる。
●
26
4.3 シミュレーションに必要となるデータの 収集
井の頭線を模倣するために、以下の7つのデータを用いた。
①各駅の階段と下りエスカレータの位置
②ホーム上の乗客の歩く速度
③各駅でのドアが開いている時間
④各駅ごとの乗客数
⑤階段やエスカレータが2つ以上ある駅での、各階段ごとの乗客数の比
⑥各区間、各車両ごとの乗車率
⑦エージェントの乗車駅と降車駅のペア
これらのデータの測定・入手方法と、シミュレーションに実装するために行ったデー
タの加工方法を以下で述べる。
①各駅の階段と下りエスカレータの位置
乗客の発生位置・目的地思考型エージェントの目的位置としてシミュレーションに
反映させるため、各駅の階段とエスカレータの位置を、実験者が駅を実際に見て調べ
た。本研究は渋谷行きの電車を対象としているため、エスカレータに関しては、改札
からホーム行きのエスカレータの位置のみを調べた。エレベータは、一度に乗れる人
数が少なく利用する人が少ないと考えられるため、考慮しないことにした。
次の表は,井の頭線の吉祥寺駅から神泉駅における、ホーム上の階段と下りエスカ
レータの位置を、最も近い渋谷行きの車両のドアで分類したものである。行はそれぞ
れの駅、列は1車両におけるそれぞれの対応するドアを示している。井の頭線は5両
編成で全車両が 4 ドアであり、最も吉祥寺寄りのドアを1、最も渋谷よりのドアを 20
としてドアごとに番号をつけた。
■は改札からホームに至る階段やエスカレータなどの位置、◎は他路線との乗換え
が存在する場合に、乗換え口となっている場合にその位置を示したものである。した
がって、◎の位置からも、乗換え客ではない、その駅で初乗りする乗客も乗車してく
ることに注意されたい。
27
1
吉祥寺
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
15
16
17
18
19
20
◎
■
井の頭公園
■
三鷹台
■
久我山
■
■
富士見が丘
■
■
高井戸
■
浜田山
■
西永福
■
永福町
■
明大前
■
■
◎
■
東松原
◎
■
■
新代田
■
下北沢
◎
◎
■
池の上
駒場東大前
14
■
■
■
神泉
計
2
0
0
2
1
2
0
4
2
1
1
1
2
1
1
2
2
0
0
2
ドアの番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
表 2:各駅における階段の位置
②歩く速度
シミュレーション上で乗客エージェントがホーム上を移動するスピードを、人が実
際にホームを移動するスピードを参考にして決定した。人がホームを歩く速度は、ピ
ーク時:38m/分、オフピーク時 51.7m/分である[10]。本研究のシミュレーション
では、通常時の乗客エージェントの歩くスピードを 50m/分と仮定した。
28
実際の電車が来る間隔は2分、シミュレーション内でひと駅に費やすステップ数は
400とした。また、電車の全長100メートルを、シミュレーション内では120
セルと表現した。エージェントが1ステップで移動する距離を、
(1ステップで進むセルの量)=
(歩くスピード)×(シミュレーション内での1駅あたりのステップ数)
( 実 際 に 電 車 が 駅 に 到 着 す る 間 隔 )
として計算し、0.3 セル/ステップと決めた。また、エージェントの前に別のエージェ
ントがいない場合といる場合で場合分けして、それぞれの場合のエージェントが移動
する距離をそれぞれ決定した。エージェントの前に別のエージェントがいない場合は、
0.3 セル/ステップ、いない場合を 0.06 セル/ステップ、と決めた。
③各駅でのドアが開いている時間
2 月 14 日の 8 時 34 分(ラッシュ時)吉祥寺発の電車で、各停車駅について、完全
にドアが開いた状態から、ドアが閉まり始めるまでを計測した。これをドアが開いて
いる時間とした。車両ごとの時間の差は考慮しないことにした各駅でドアが開いてい
る時間が異なるが、シミュレーションでは各駅の平均の時間を利用し、これをタイム
スケールに合わせて用いた。
停
車
駅
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
久
我
山
富
士
見
が
丘
高
井
戸
浜
田
山
西
永
福
永
福
町
明
大
前
東
松
原
新
代
田
下
北
沢
池
の
上
駒
場
東
大
前
神
泉
平
均
T
11
14
23
13
12
12
16
16
37
18
9
60
11
17
18
19
表 3:各停車駅とその停車駅でドアが開いている時間(s) (2 月 14 日 8 時 34 分吉祥寺発の電車)
T:ドアが開いている時間(秒)
29
また、各エージェントの発生場所(各駅の各階段位置に対応する)ごとの発生数の比
を求めるために以下の④と⑤、すなわち各駅ごとの乗降車数と階段が2つ以上ある駅
についての階段ごとの乗客数のデータを用いた。
④各駅ごとの乗降数
各駅ごとの一日あたりの乗車人数を調べた[5]。このデータから、各駅ごとの乗客数
の比を求めた。
乗車駅
乗車人数/日
比
乗車駅
神泉
駒場東大前 池ノ上
下北沢
新代田
東松原
明大前
永福町
西永福
2,696
15,720
4,318
47,075
3,581
6,297
79,294
14,993
11,686
0.0083
0.0481
0.0132
0.1441
0.0110
0.0193
0.2428
0.0459
0.0358
浜田山
高井戸
富士見ヶ丘 久我山
三鷹台
井の頭公園 吉祥寺
乗車人数/日
13,410
17,021
8,450
13,978
9,839
2,597
75,629
比
0.0411
0.0521
0.0259
0.0428
0.0301
0.0080
0.2316
合計
326,584
表 4:各駅の一日あたりの乗車人数とそれから求めた乗客数の比
⑤階段や下りエスカレータが 2 つ以上ある駅について、各階段ごとの乗客数の比
ラッシュ時(8時15分から8時45分)のうちの15分間(例:8時 20 分から8
時 35 分まで計測)に、階段口からホームに入る乗客の数を、実際に数えることで計測
した。
2つ以上ある駅は久我山、富士見が丘、高井戸、西永福、永福町、明大前、東松原、下北沢、
駒場東大前の9駅である。
次の表は、各階段ごとの乗客の数の割合を示したものである。吉祥寺に近い階段から①,②,
③と番号をつけた
駅名
久我山
富士見が丘
高井戸
西永福
永福町
明大前
東松原
下北沢
表 5:階段ごとの利用 駒場東大前
①での割合 ②での割合 ③での割合
0.3
0.7
0.2
0.8
0.3
0.7
0.3
0.7
0.4
0.6
0.5
0.5
0.4
0.6
0.1
0.4
0.5
0.8
0.2
者数と利用者総数とそれぞれの割合 (久我山、富士見が丘:2012 年1月 12 日、下北沢:
2012 年 1 月 13 日、高井戸、西永福:2012 年1月 16 日、永福町、明大前:2012 年1月 18 日 東松原、駒場東大前:2012 年1月 23 日に測定)
30
⑥各区間、各車両ごとの乗車率
車掌室のモニタに「乗車率」と示されたものを、実験者が見て調べた。本研究のシ
ミュレーションが、現実をよく模倣しているかを確かめるために用いた。
この乗車率の計算方法は、乗客の重量を用いて計算されていると推測され、それは
以下のようにわかる。
既存の乗車率の測定方法は次の5種類の方法がある。[11]
・目視測定
・応荷重装置を利用した混雑率測定装置
・自動改札データを用いた方法
・ひずみゲージを利用した混雑率測定装置
・OD 調査を用いた方法
今回見たモニタ上の「乗車率」の変化は、電車が走っている間はほぼ変化がなく、
電車のドアが相手から閉まるまでの間に激しく変化し、電車のドアが閉まってすぐに
変化がおさまることから、このパネルに表示された乗車率は、すぐに計算されている
ものと考えられる。
今回問題にする乗車率の測定方法について考える。目視測定は、人が目で見て乗客
数を数えるものであるが、特に各車両に人の数を数えている人はいなかったので、こ
の乗車率は目視測定によるものではないと考えられる。また、車両ごとの乗車率を表
示していることから、自動改札データを用いたものではないと考えられる。また、OD
調査では一般に、利用者の中からサンプルを抽出して、その動向を追い、集計した後
に分析することから、結果がすぐに計算されている今回の乗車率の測定方法ではない
と考えられる。残る2つの、応荷重装置を利用した混雑率測定装置とひずみゲージを
利用した混雑率測定装置は、両方共すぐに結果を与える装置であり、また、重量が鍵
となる測定方法である。
以下は実験者が、3回にわけて、モニタの表示を目で見ることで得た、乗車率のデー
タである。
31
区間
吉祥寺-井の頭公園
井の頭公園-三鷹台
三鷹台-久我山
久我山-富士見ヶ 丘
富士見ヶ 丘-高井戸
高井戸-浜田山
浜田山-西永福
西永福-永福町
永福町-明大前
明大前-東松原
東松原-新代田
新代田-下北沢
下北沢-池ノ 上
池ノ 上-駒場東大前
駒場東大前-神泉
神泉-渋谷
1 号車
2 号車
151
145
156
172
122
111
99
87
105
116
105
116
134
116
134
105
3 号車
143
112
127
126
116
116
121
127
115
132
176
127
132
160
154
143
4 号車
77
96
83
87
87
89
121
132
116
121
162
105
154
143
160
154
5 号車
68
59
77
94
127
138
176
143
149
143
160
149
215
215
198
198
全車両平均
47
38
71
95
89
107
142
130
130
183
183
195
213
255
219
237
分散
97.2
90
102.8
114.8
108.2
112.2
131.8
123.8
123
139
157.2
138.4
169.6
177.8
173
167.4
1754.56
1442
1096.96
998.96
284.56
249.36
673.36
367.76
232.4
570.8
754.96
1012.64
1373.84
2538.16
958.4
2089.84
表 5:7 時 51 分発の電車の各区間の各車両ごとの乗車率の実測値(%)
(2012 年 2 月 13 日測定)
吉祥寺-井の頭公園
井の頭公園-三鷹台
三鷹台-久我山
久我山-富士見ヶ 丘
富士見ヶ 丘-高井戸
高井戸-浜田山
浜田山-西永福
西永福-永福町
永福町-明大前
明大前-東松原
東松原-新代田
新代田-下北沢
下北沢-池ノ 上
池ノ 上-駒場東大前
駒場東大前-神泉
神泉-渋谷
90
102
87
99
81
71
67
42
81
69
50
71
88
66
116
80
75
88
98
102
90
77
74
96
97
117
156
112
104
130
140
131
60
37
94
107
94
98
131
133
111
147
216
129
156
144
152
139
48
44
63
94
85
107
140
111
128
136
156
148
186
153
134
128
45
38
57
80
72
90
116
92
96
163
175
173
147
208
163
190
表 6:8 時 44 分発の電車の各区間の各車両ごとの乗車率の実測値(%)
(2012 年 2 月 13 日測定)
32
63.6
61.8
79.8
96.4
84.4
88.6
105.6
94.8
102.6
126.4
150.6
126.6
136.2
140.2
141
133.6
285.84
760.16
277.36
85.04
57.84
174.64
885.04
903.76
251.44
1047.84
3010.24
1184.24
1269.76
2076.96
256
1224.24
区間
吉祥寺-井の頭公園
井の頭公園-三鷹台
三鷹台-久我山
久我山-富士見ヶ 丘
富士見ヶ 丘-高井戸
高井戸-浜田山
浜田山-西永福
西永福-永福町
永福町-明大前
明大前-東松原
東松原-新代田
新代田-下北沢
下北沢-池ノ 上
池ノ 上-駒場東大前
駒場東大前-神泉
神泉-渋谷
1 号車
2 号車
94
102
81
94
91
73
70
49
98
93
84
102
124
97
154
114
3 号車
76
90
97
116
100
86
78
94
135
125
159
118
138
160
162
149
4 号車
75
43
84
87
85
90
119
118
105
131
191
115
161
153
161
143
5 号車
60
50
82
105
104
119
153
121
91
121
152
141
169
179
154
141
全車両平均
50
46
75
89
76
83
114
97
99
146
154
148
169
223
175
182
分散
71
66.2
83.8
98.2
91.2
90.2
106.8
95.8
105.6
123.2
148
124.8
152.2
162.4
161.2
145.8
226.4
611.36
52.56
118.16
102.16
238.96
903.76
664.56
235.84
300.16
1223.6
292.56
327.76
1663.84
58.96
472.56
表 7:8 時 34 分発の電車の各区間の各車両ごとの乗車率の実測値(%)
(2012 年 2 月 20 日測定)
⑦エージェントの乗車駅と降車駅のペア
各駅で発生したエージェントは、発生時に降車駅が決定される。本実験では、各駅における乗客のう
ち何名が、井の頭線のどの駅で降車するかについてのデータが入手できなかったので、各駅での一日
当たりの乗降者数に基づいて各駅での目的駅別の乗客数の推定を行った。
まず、吉祥寺から渋谷まで 1~17 の番号を順に割り当てる。
i 番目の駅で乗り、j 番目の駅で下りる乗客の数を a(i,j)とする。
上り電車のみを考えるので、
a(i , j)=0(i≥ j)
である。
i 番目の駅での乗車数と j 番目の駅での降車数をそれぞれ I(i),O(j)とすると、
17
∑ a(i , j)=O( j)
i=1
17
∑ a(i , j)=I(i)
i =1
である。
エージェントの乗車駅と降車駅のペアを得るために、a(i,j)を i=16 から i=1 に向かって順に帰納的に
決定した。
まず、神泉で乗った乗客は必ず渋谷でおりるため
a(16,17)=I(16)
a(k,j)が k<j なる任意の j に対して決まっているとき、a(k­1,j)を決めることを考える。
33
17
∑ a( k−1, j)=I (k−1)
j=k
なので、I(k­1)を分配する a(k­1,j)の比を推定すればよい。I(k­1)の分配は、O(j)からその時点において
決定されている a(k­1,j)を k について足し算したものを引いたものの比と一致するように行う。
つまり
17
17
a( k−1, k ):a(k−1, k+1):…:a(k−1,17)=O(k ):O (k−1)−∑ a(i ,k+1):…:O(17)−∑ a(i ,17)
i=k
i=k
とする。
以上より、二つの条件 O(j),I(i)をともに満たすすべての a(i,j)を決定することができる。表 8 は、以上の
計算から求めた。
乗車駅
神泉
駒場東大前 池ノ上
下北沢
新代田
東松原
明大前
永福町
西永福
浜田山
高井戸
富士見ヶ丘 久我山
三鷹台
井の頭公園
井の頭公園
2003.00
三鷹台
久我山
223.59
6338.94
364.31
86.80
2460.75
362.45
575.02
366.15
87.24
2473.15
394.53
187.46
297.40
189.37
45.12
1279.12
219.24
271.83
129.16
204.91
130.48
31.09
881.31
389.92
440.13
545.70
259.29
411.36
261.94
62.41
1769.25
浜田山
西永福
明大前
4788.51
3607.77
4072.33
5049.11
2399.09
3806.14
2423.57
577.42
16370.07
1108.35
142.64
107.47
121.30
150.40
71.46
113.37
72.19
17.20
487.62
53.50
664.23
85.48
64.40
72.70
90.13
42.83
67.94
43.26
10.31
292.22
1020.97
12676.75
1631.40
1229.13
1387.40
1720.18
817.35
1296.71
825.68
196.72
5577.12
東松原
新代田
下北沢
585.59
池ノ上
駒場東大前
神泉
388.92
7168.16
938.47
高井戸
永福町
252.84
572.14
富士見ヶ丘
降
車
駅
吉祥寺
401.46
25.55
44.54
553.00
71.17
53.62
60.52
75.04
35.66
56.57
36.02
8.58
243.29
351.81
3802.69
241.97
421.87
5238.11
674.10
507.88
573.28
710.79
337.73
535.81
341.18
81.29
2304.50
98.13
1060.66
67.49
117.67
1461.03
188.02
141.66
159.90
198.26
94.20
149.45
95.16
22.67
642.78
渋谷
2696.00
15331.08
3868.07 41810.20
2660.41
4638.45
57592.53
7411.69
5584.14
6303.19
7815.05
3713.33
5891.17
3751.22
893.73
25337.73
乗車数合計
2696
15720
4318
3581
6297
79294
47075
14993
11686
13410
17021
8450
13978
表 8:1 日あたりの各駅間の乗客数推定値
34
9839
2597
75629
降車数合計
2003
7421
7501
3484
3864
2393
1868
4140
43094
2392
1487
28965
1665
16123
4886
195298
4.4 シミュレータの妥当性検証
妥当性検証を行うために、
1. 車掌室のモニターから取得した乗車率を乗車人数に変換したものの変化
2. シミュレータでの乗車人数の変化
を比較する。ただし、車掌室のモニターの乗車率は、重さによって計測され、そこか
ら乗車率 100%を 140 人として計算する。
以下、図 15 から図 19 は、1号車から5号車に関する実測とシミュレーションにおけ
る乗車人数の変化のグラフである。
300
250
200
8-44
8-34
7-51
シミュレーション
150
100
50
0
久我山 - 富士見ヶ丘
明大前 - 東松原
神泉 - 渋谷
吉祥寺 - 井の頭公園
浜田山 - 西永福
下北沢 - 池ノ上
図 15:1 号車(実測3本とシミュレーション)の乗車人数の変化
1号車について
実測の値は、大まかな乗車人数の変化はどの時刻をとっても似通った形をしている
が、時刻が少し異なるだけで、乗車人数が変化していることがわかる。一方シミュレ
ーション上での乗車人数の変化は、実測3本とほぼ同じ形をしていることが見て取れ
る。
35
300
250
200
8-44
8-34
7-51
シミュレーション
シミュレーション+80人
150
100
50
0
久我山 - 富士見ヶ丘 明大前 - 東松原
神泉 - 渋谷
吉祥寺 - 井の頭公園 浜田山 - 西永福
下北沢 - 池ノ上
図 16:2 号車(実測3本とシミュレーション)の乗車人数の変化
2号車について
実測では、吉祥寺の駅に近い駅では、時刻によって乗車人数にばらつきが見られる
が、渋谷に行くにつれてそのばらつきは小さくなっている。グラフの形もほとんど同
じものとなっている。一方シミュレーションの結果では、明らかに人数が少ない。こ
れは、乗客エージェントを発生させる際に、小数点が切り落とされてしまっているこ
とが、大きな原因として考えられる。シミュレーション+80人の部分からは、大ま
かな形としては、実測から大きく離れることはなかった。しかし、実測で見られる東
松原の大きな乗車人数の変化に関しては、シミュレーションでは全く見られなかった。
36
350
300
250
200
8-44
8-34
7-51
シミュレーション
150
100
50
0
久我山 - 富士見ヶ丘
明大前 - 東松原
神泉 - 渋谷
吉祥寺 - 井の頭公園
浜田山 - 西永福
下北沢 - 池ノ上
図 17:3号車(実測とシミュレーション)の乗車人数の変化
3号車について
実測では、時刻の違いによる差はほとんど見られなかった。また、東松原での大き
なピークは2号車同様であった。一方シミュレーション上では、2号車に引き続き、
乗車人数が少ないということが見て取れる。2号車の所で記した理由と同じことが考
えられる。
37
350
300
250
200
8-34
7-51
8-44
シミュレーション
150
100
50
0
久我山 - 富士見ヶ丘
明大前 - 東松原
神泉 - 渋谷
吉祥寺 - 井の頭公園
浜田山 - 西永福
下北沢 - 池ノ上
図 18:4 号車(実測とシミュレーション)の乗車人数の変化
4号車について
実測では、明大前と終点渋谷付近で時刻毎の乗車人数の差が大きい。しかし、他の
区間に関しては乗車人数のばらつきは極めて小さい。また、形にも時刻毎の大きな変
化はない。一方シミュレーションでは、吉祥寺から明大前までの区間では明らかに乗
客数が少ない。これは、シミュレーション上では乗客が車両間を移動することができ
ないため、吉祥寺で1号車から乗車した乗客が、実際では、4号車まで移動して到達
することができるがシミュレーション上ではそういった現象が起きなかったためにに
実測とシミュレーションに上記の差異が生じた。しかし、明大前以降では、実測値に
挟まれるような妥当なものとなっている。
38
400
350
300
250
8-44
8-34
7-51
シミュレーション
200
150
100
50
0
久我山 - 富士見ヶ丘
明大前 - 東松原
神泉 - 渋谷
吉祥寺 - 井の頭公園
浜田山 - 西永福
下北沢 - 池ノ上
図 19:5号車(実測とシミュレーション)の乗車人数
5号車について
実測では、吉祥寺から渋谷に近づくに連れて、右肩上がりに乗車人数が増えていく
様子がわかる。時刻間の乗車人数の差も小さい。一方シミュレーションでは、4号車
同様、吉祥寺から明大前の区間においての乗車人数が少ない。前述同様、乗客の車両
間の移動がなかったためであると考えられる。しかし、明大前以降の後半では、乗車
率の変化は実測の間に挟まれる形になっていて、妥当性が言える。
39
1~5号車全体に関して
全体的に見ると、以下の2つの差異が見て取れる。
差異1.実測では、車両の乗車率の駅ごとの上下動が激しいのに対し、シミュレーシ
ョンの結果では、上下動は少なく、なめらかな曲線となっている。
差異2.実測の乗車人数よりもシミュレーションの乗車人数のほうが少ない。
この実測とシミュレーションでの 2 つの差異について原因と実験への影響を考える。
まず実測とシミュレーションそれぞれ実際の乗車率からずれが生じる原因について考
察する。
実測値の誤差
1. 電車は動いているため、重量計は不安定で重量ですら、真の値からずれやすい。
2. 計測時に電車が傾いていると真の重さよりも軽く測定されてしまう。
3. 重量から人数を算出するために、正確な人数の値ではない。
シミュレーションの誤差
1. 発生させる乗降車数は、平成 17 年のデータ[5]を参考にしているために、現在の
乗降車数と異なる可能性がある。
駅ごとに発生する乗客数は、各駅一日の合計乗降車数の比を用いているため、
駅ごとの会社員、学生などのラッシュ時に利用する乗客が駅ごとの総利用者に
対する割合が同じと仮定している。
2. 乗車中の乗客が車両間を移動しない設定になっている。
3. 乗客が降車するときに、乗車する乗客が乗る階段ごとの比を降りるときの比に
も利用している。
4. 乗客を発生させる際に、データの部分で述べたように何度か比を利用して発生
数を決定しているためと、各駅での乗客を何回かに分けて発生させるために、
乗客の発生数が少数になり、切り捨てられてしまう。
上記の誤差から、実測値とシミュレーション結果の違いの原因を改めて考察すると、
差異1に関しては、シミュレーションでの誤差の2つ目の要素が、大きく影響してい
ると考えられた。実測を行った際にも、シミュレーションで使うエージェントの乗降
車数と実測中に見られた現象にも異なる部分があった。また、実測値の誤差の1つ目
40
の要素によることも考えられる。乗降車数の少ない駅でもあるにも関わらず乗車人数
の実測値が変化している場合には、重量が正しく計測させれていない可能性が考えら
れるからである。
差異2に関しては、シミュレーションの誤差の4つ目が大きく影響した。この問題に
関しては、改善することができる。
妥当性について
最後に、本実験で構築したシミュレータの妥当性に関して全体から考察すると、
1. 実測値とシミュレーションの乗車率の全体の変化は似通っている
2. 実測値とシミュレーションの乗車率の変化は、明大前から渋谷の区間では、近
いものである。
3. 実測値とシミュレーションの差が4,5号車では小さい。
4. 本実験では、ラッシュ時の混雑している車両、つまり、明大前以降、かつ4,
5号車に注目する
という4点をあげることができ、シミュレーション上で階段の位置を変化させること
で、各車両の乗車率を平準化するためにはある程度の妥当性をもっていると言える。
41
5 シミュレータによる対策の評価
5.1 実験条件
パラメータの値
一駅:400 ステップ
駅に電車が止まっている時間:66 ステップ
電車一両のサイズ:30
通常時の人の歩くスピード:0.3
人が前にいるときのスピード:0.06
現状維持型と目的地志向型のエージェントの比: 1:1
エージェントの発生方法:駅にいる間に 10 回に等分して発生
乗車率 100%:140 人
座席満員:1 号車と 5 号車で 50 人、2,3,4 号車で 58 人
ドア間の乗客数の差の最大値:50 人
一つのドアの許容できる人数:105 人
車両の乗車率 100%は 140 人である。これは大体、座席が満席、吊かわのすべてをⅠ
人一つつかんでいる状態である。乗車率 321%というのが、限界という実験がある
[12]。しかし、この時には、電車を実際に動かしてはいないので、動く電車ではもう少
し少ない 300%ほどであると近似し、140 人の 300%は 420 人でそれを一つのドア当
たりで割った 105 人/1 ドアという制約を設けた。
42
5.2 実験方法
作成したシミュレータを用いて実験を行った。実験では、シミュレータにおいてパ
ラメータとして設定されている、各駅の階段位置(すなわちエージェントの発生地
点)を様々な組合せで動かし、それぞれにおいてシミュレーションを行った。始発駅
の吉祥寺駅から渋谷まで運行していく中で、各車両の混雑率の分布がどのように変化
していくかを観察し、標準状態(現実の階段位置で設定した場合の結果)と比較して、
混雑率の偏りがどの程度変化したかを評価した。
5.2.1 階段位置の変更方法
このシミュレータでは、ホーム上の階段の位置を自由に設定することが出来る。本
研究では、階段位置を一番近い車両のドアによって区別しており、シミュレータの
(各ドアに対応するx座標 , 0)の位置から乗客が発生する。(図 20)各ドアの位置を
示す x 座標は、1号車1ドアが2、5号車4ドアが116、ドアの間隔は6と設定した。
階段の位置の例を挙げると、明大前駅では、3号車2ドアに近い位置にホームへ向か
うエスカレータ、5号車1ドアに近い位置に階段があるので、x=50,98 から乗客が発
生する。
今回の検討では階段の位置を20通りのドアの位置の中から選んで変更した。以降、
ドアの位置を、2.4.2 の表 1 と同様に1号車1ドアを1番、1号車2ドアを2番、5号
車4ドアを20番といったように呼ぶ。
43
Y
X
O
図 20:シミュレータの空間と座標
シミュレータは、120*40 の大きさの二次元空間を持っている。座標(x,y)は、
x=0~119、y=0~39 の値をとり、座標軸の向きは図 20 に示した通りで左下の O を原点
としている。左側が吉祥寺方面、右側が渋谷方面で、階段位置は y=0 上の x=2 から左
側から順に1番から20番まで、間隔 6 で並んでいる。
44
5.2.2 評価方法
各車両における混雑率の偏りの程度を評価する指標として、一定の乗車人数を超え
た車両の数、乗車人数の平均値と各車両における乗車人数の差の絶対値の総和、各車
両における乗車人数の分散などが考えられる。今回の研究の目的は、各車両間の乗車
人数の偏りを減らすことであるので、乗車人数の偏りを大きく反映出来る値である乗
車人数の分散を用いることとした。よって、各条件下での混雑率の偏り度合いを、各
駅区間における車両の乗車人数の分散を用いて評価した。まず、シミュレーションの
試行毎に、400 ステップ毎における各車両における乗車人数を用いて、それぞれ分散
の値 V を算出した。(式1)本研究では、混雑している状況での混雑率の平準化を
目的としているため、全車両での乗車人数が少ない時の偏りを対象としない。そのた
め、平均乗車人数が 100 を超える区間での V の最大値によって、試行した条件下に
おける混雑率の偏り度を比較する。この値を混雑偏り度 maxV 1 (式2)として、他
の条件下での試行における値と比較することで、混雑率の偏り度合いが低くなる階段
位置を探索した。また、乗客の行動に無作為性が含まれているため、同じ条件でもシ
ミュレーションの試行毎に各ステップでの V の値が異なり、 maxV 1 も変化する。
そのため、同一条件のシミュレーションを3回を行い、 maxV 1 の平均値を用いて比
較した。
5
V=
1
∑ (( n号車の乗車人数 )−( 平均乗車人数 ))2 (式1)
5 n=1
maxV 1=( 平均乗車人数が 100以上の区間での Vの最大値) (式2)
45
5.3 実験結果
なるべく少ない変更回数で各車両の混雑率の平準化を実行するためには、乗降客が
多く、混雑率の偏りを作っている駅の階段位置を変更する事が肝要である。今回の検
討では、主要乗換駅で乗客数が他の駅と比べ多い明大前駅と下北沢駅の階段位置を変
更した。よって、今回の検討では、明大前駅の3号車2ドア前(10番)、5号車1
ドア前(17番)、下北沢駅の2号車2ドア前(6番)、4号車1ドア前(13番)、
5号車4ドア前(20番)の計5つの階段位置を変更の対象とした。4.4 の標準状態で
のシミュレーションの結果から、明大前駅以降において4号車・5号車への乗客の偏
りが観察されたので、初めに変更対象の5つの階段位置をそれぞれ一つずつ吉祥寺側
のいくつかの座標に動かすという予備実験を行った。その結果、明大前駅の17番の
階段位置を変更すると、他の4つの階段位置と比較して大きく平準化に向かうように
見えた。そのため、初めに明大前駅の17番にある階段の位置のみを変更し、それぞ
れの変更位置での混雑偏り度 maxV 1 を 5.2.2 の方法で求め、比較した。
7000
6000
混雑偏り度
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
階段の位置番号
図 21:明大前の 5 番ドア 1 ドア前(17 番)階段の位置を変更させた時の混雑偏り度 maxV 1
誤差範囲は、 maxV 1 (N=3)の母集団の標準偏差の推定値
46
今回の実験では、明大前駅の17番の階段を吉祥寺側に移動させることで、
maxV 1 が図 21 のように変化した。初期位置の17番では maxV 1 =6393.67±809.06
だが、階段の位置を吉祥寺側に移動させていくと maxV 1 が減少していき、1号車4
ドア正面の4番に設定したときに最小値 maxV 1 =826±150.37 をとった。4.4.の
乗車人数
標準状態における乗車人数の推移と比較すると、変更前では明大前駅で四・五号車へ
多くの乗客が乗り込んでいたが、変更後は、二・三号車に多くの乗客が乗り込むよう
に変化した事が分かる。(図 22)階段位置をより吉祥寺側に移動させた、1番、2番、
3番の3つの条件は4番より高い maxV 1 を示した。1番におけるシミュレーション
の実行結果を見てみると、下北沢駅以降での二号車の乗車人数が低くなり、駒場東大前
-神泉、神泉-渋谷における V を上昇させている事が分かった。(図 23)それと比較
すると、4番では、二号車の乗客が多く下北沢以降の V は低く抑えられている。
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
図 22:明大前の 17 番の階段を 4 番に変更した時の乗車人数の推移
47
一号車
二号車
三号車
四号車
五号車
乗車人数
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
一号車
二号車
三号車
四号車
五号車
図 23:明大前の 17 番の階段を 1 番に変更した時の乗車人数の推移
更に、 maxV 1 を低くするために、明大前の17番の階段位置を4番に固定した状
態で、下北沢の13番の階段位置を変更し、先ほどと同様に混雑偏り度 maxV 1 を求
めた。
1200
1000
混雑偏り度
800
600
400
200
0
2
4
6
8
10
12
14
階段の位置番号
図 24:下北沢の5号車1ドア前(13番)階段の位置を変更させた時の混雑偏り度
誤差範囲は、 maxV 1 (N=3)の母集団の標準偏差の推定値
48
今回も階段位置を吉祥寺側に移していく事で、 maxV 1 が下がっていくという傾向
が見られた。(図 24)4番が最小値 maxV 1 =575.33±134.44 となった。この結果(図
25)を明大前で17番から4番への変更のみを行った結果(図 22)と比較すると、下
北沢で13番から4番への変更を行ったことで下北沢以降の乗車人数のばらつきを広
げることなく、明大前-下北沢間のばらつきが抑えられている事で maxV 1 が低くなっ
乗車人数
たという事が分かった。
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
一号車
二号車
三号車
四号車
五号車
図 25:下北沢の 13 番の階段を 4 番に変更した時の乗車人数の推移
前述の通り下北沢の13番を4番に変更した事で maxV 1 は下がったが、図 25 を見
ると、最も混雑している下北沢以降の区間における乗車人数のばらつきは、下北沢変
更前の図 22 とあまり変化していない。そこで最混雑区間における混雑率の平準化がを
よく実現出来ている条件を検討するために、異なる混雑偏り度 maxV 2 による比較・
検討を行う。(図 26) maxV 1 が平均乗車人数が100人以上となる全ての区間での
V の最大値であったのに対し、 maxV 2 は下北沢以降の区間における V の最大値
である。
maxV 2=下北沢以降の区間でのVの最大値 (式3)
49
1200
1000
混雑偏り度
800
600
400
200
0
2
4
6
8
10
12
14
階段の位置番号
図 26:下北沢の13番階段の位置を変更させた時の混雑偏り度
誤差範囲は、(N=3)の母集団の標準偏差の推定値
下北沢以降の区間のばらつきのみを計算に含める maxV 2 による評価では、7番に
変更することで最小値 maxV 2=388±124.17 が得られた。この7番(図 27)を 4 番(図
25)と比べると、7番では、明大前-下北沢間での乗車人数のばらつきは大きくなって
いるが、下北沢以降の区間で乗車人数のばらつきが少なく混雑率の平準化がなされて
いる事が分かる。
50
乗車人数
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
一号車
二号車
三号車
四号車
五号車
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
図 27:下北沢の13番の階段を7番に変更した時の乗車人数の推移
51
明大前の 17 番を 4 番に移動させた状態で、下北沢の 13 番の階段を 4 番に移動させた
時と(図 25)、下北沢の 13 番の階段を 7 番に移動させた時(図 27)を各車両ごとで比較し
250
200
150
100
一号車 7
一号車 4
50
0
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
図 28:明大前 17⇒4 での下北沢 13⇒4,7 の一号車における乗車人数の推移
た。
52
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
二号車 7
二号車 4
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
図 29:明大前 17⇒4 での下北沢 13⇒4,7 の二号車における乗車人数の推移
180
160
140
120
100
80
60
三号車 7
三号車 4
40
20
0
吉
祥
寺
井
の
頭
公
園
井
の
頭
公
園
三
鷹
台
三
鷹
台
久
我
山
久
我
山
富
士
見
ヶ
丘
富
士
見
ヶ
丘
高
井
戸
高
井
戸
浜
田
山
浜
田
山
西
永
福
西
永
福
永
福
町
永
福
町
明
大
前
明
大
前
東
松
原
東
松
原
新
代
田
新
代
田
下
北
沢
下
北
沢
池
ノ
上
池
ノ
上
駒
場
東
大
前
駒
場
東
大
前
神
泉
神
泉
渋
谷
図 30:明大前 17⇒4 での下北沢 13⇒4,7 の三号車における乗車人数の推移
53
180
160
140
120
100
四号車 7
四号車 4
80
60
40
20
0
三鷹台 - 久我山
浜田山 - 西永福
東松原 - 新代田
駒場東大前 - 神泉
吉祥寺 - 井の頭公園 富士見ヶ丘 - 高井戸
永福町 - 明大前
下北沢 - 池ノ上
図 31:明大前 17⇒4 での下北沢 13⇒4,7 の四号車における乗車人数の推移
200
180
160
140
120
100
五号車 7
五号車 4
80
60
40
20
0
三鷹台 - 久我山
浜田山 - 西永福
東松原 - 新代田
駒場東大前 - 神泉
吉祥寺 - 井の頭公園
富士見ヶ丘 - 高井戸
永福町 - 明大前
下北沢 - 池ノ上
図 32:明大前 17⇒4 での下北沢 13⇒4,7 の五号車における乗車人数の推移
54
図 31,32 より、下北沢の 13 番階段の位置が 4 番でも 7 番でも四号車と五号車の乗車人
数の推移は大きく変化しないことが分かった。これは下北沢における四・五号車の乗車人数の
急激な上昇が、下北沢の 20 番階段による影響であるためと考えられる。一方、図 28 より、一
号車における乗車人数は下北沢 13⇒4 と比べて下北沢 13⇒7 では下北沢以降の区間で減
少している事が分かる。これは、下北沢 13⇒4 の時は、下北沢の一号車に乗車しやすいが、下
北沢 13⇒7 の時は一号車との距離が離れることにより、乗客が減ったと考えられる。この減っ
た乗客は、代わりに二号車や三号車に乗車していることが図 29,30 から分かる。
55
6 考察
6.1 シミュレータに関して
シミュレータについての課題と改善案について述べる。
●
列に並ぶと隣から隣からの隣ともともとの目的ドアから離れたドアの前の列に
並んでしまう場合がある。例えば、ある駅において20番のドアを目的ドアと
する乗客が多くいる場合、その乗客たちは初め全員20番のドアの正面の列に
並ぼうとし、その列が混雑していれば19番のドアの正面の列へ並ぼうとする。
そして、19番のドアの正面の列も混雑していれば、更に隣の18番のドアの
正面の列へ、といったように初めの目的ドアであった20番のドアからどんど
ん遠ざかってしまう。しかし、多くの人が並んでいる場合に隣の列に並ぶアル
ゴリズムを使わないと、自分のもとの目的ドアに固執し過ぎて列ごとの長さの
差が大きくなりすぎてしまう。これを改善するためには、初めの目的ドアと、
近隣の列の空き具合の両方から判断して、並ぶ列を決定する事が必要である。
●
本シミュレータでは、階段の向きを考慮していない。階段の向きは、乗客がど
のドアから乗車するかに大きな影響を与えると想定される。特に電車の出発し
そうなときには、階段を降りてホームへ向かった乗客が階段と逆の方向に歩い
ていって乗車しようとする事は、乗客の視野や移動のしやすさの面から起こり
にくい現象であると考えられる。階段の向きを考慮し、適切な初速度を乗客エ
ージェントに与える事でこの問題を改善する事が出来るだろう。
●
本シミュレータにおける、乗客エージェントは大きさを持っていない。実際の
乗客にはサイズがあり、ある一定空間内に存在することのできる人数の上限が
ある。しかし今回用いたシミュレータでは、乗客エージェント同士が重なって
存在することも許す。そのため、現実に混雑しているホームでは、人間が障害
となる事で乗客が思った通りに歩く事が出来なくなるといった現象がしばしば
発生していると考えられるが、本シミュレータではそのような現象を再現する
ことが出来ない。本研究では、人が障害となる現象を再現するための処置とし
て、周りに乗客エージェントがいる時には、乗客の1ステップ当たりの移動距
離を小さくするという機能を実装した。これにより、混み合ったホーム上で乗
客同士が障害となり移動が妨げられるという現象を再現しようとした。乗客が
56
を全て同じスケールで縮約した上で、柱や階段などの障害物を設定し、乗客自
身にも大きさを持たせる事が必要である。
57
6.2 パラメータの設定に関して
●
今回車掌室のパネルより得た各車両の混雑率のデータによれば駒場東大前~神
泉間では各車両の乗車人数の分散は小さいが、神泉~渋谷間で一気に分散が大
きくなることが分かった。これより、神泉で乗る人は少しの乗車時間なので混
雑も我慢して先頭車両に乗るが、神泉で降りる人はわざわざ混雑している車両
に乗る必要はないので、後方車両に乗る傾向があると推測される。今回のシミ
ュレーションでは、各駅において発生する乗客エージェントが持つ性格の割合
は全て一定値とした。そのため、この例のように駅によって乗客の考え方が変
わる事を扱っていない。シミュレーションでこのような現象を再現したい場合、
各駅における列に並んでいる人数の調査、各駅の乗客がどのように並ぶ列を決
定するかについての意識調査などを行い、それに基づいて乗客エージェントの
性格や発生比率を決定するとよいだろう。
●
今回のシミュレーションでは、各駅における乗客の発生数や降車人数が、ラッ
シュ時の実際の状況と異なっている可能性がある。本モデルでは、一日の累計
の各駅乗降者数のデータを用いて、通勤ラッシュ時の乗客発生数や各駅の乗客
が目的とする駅を決定したためである。通勤ラッシュ時の各駅における乗降者
数、各駅の乗客が下車する駅の割合のデータを利用する事が出来れば、この問
題は解決する。
●
本研究では、乗客の発生位置と、発生位置間での乗客数の比をデータを測定し
て求めた。しかし、乗客が降車する改札への通路の利用人数の比については測
定しなかった。そのため、目的地指向型が利用したいと考える降車位置の比は、
その降車駅における発生位置間での乗客数の比と一致させた。これはいくつか
の駅に対して、現実にそぐわない仮定となっている。例として、駒場東大前に
は一号車側と五号車側に二つの改札への通路がある。今回の測定結果より、当
駅から渋谷方面に向かう乗客は 8 割程度が一号車側の改札を利用している。な
ので、モデル上では駒場東大前で降車する目的地指向型の乗客も 8 割程度が一
号車側の改札を利用する。しかし、実際の朝の駒場東大前駅では、五号車側の
改札を利用している降車客の方が多いと思われる。通勤ラッシュ時に各駅の改
札への通路を通過する人数を測定すれば、乗客が降車する改札への通路の利用
人数の比が分かり、この問題を解決することが出来る。
58
7 結論・将来の展望
本研究では、井の頭線の通勤ラッシュ時の混雑を、車両間の混雑率の偏りを減らす
ことにより軽減する提案をしてきた。具体的には、マルチエージェントシミュレーシ
ョンを用いて、井の頭線の現状を模倣した後に、乗降者数の多く影響力の大きい明大前
駅と下北沢駅の階段位置を移動させ、各階段位置における混雑率の偏りを評価し、そ
れを減らす事の出来る駅構造の探索を行った。
本研究は、以下の二つの大きな柱がある。
1. 現状模倣
1. 井の頭線の駅構造と乗客人数
2. 乗客エージェントの性格
2. 駅構造の変更
1. 下北沢
2. 明大前
現状模倣では、井の頭線の乗客数、駅の構造等を出来る限り実装した。具体的には、
各駅・各階段における乗客エージェントの発生数は、公表されているデータ[5]と各階
段の利用人数を実際に計測する事で、ある程度の精度を持って実装することが出来た。
各駅での乗客の発生場所に関しては、ほぼ完璧に現実を再現できた。一方で、各駅で
の幅、休憩所の場所などの細かい部分は実装出来なかった。電車が駅に来る間隔は、
時刻表の時間より決定した。また、電車のドアが開いている時間は、通勤ラッシュ時に
各駅で測定したものの平均値を利用した。以上のデータの精度は高いに越したことは
ないが、今回のシミュレーションでは乗客エージェントの性格に比べれば、そこまで
大きな影響を結果に及ぼす事はなかった。今回の実験を行う中で、乗客の性格を変える
事で各車両における乗車人数が大きく変化した。乗客の性格の決定に関しては、実際に
電車を利用する際に、どのような点に気を使って乗車するドアを決めるのかを考え、
シミュレーション内に実装した。例えば、
「自分の降車駅の改札に近いドア位置で出来れば乗りたいが、そのドア位置における
乗車待ちの列が混雑しすぎていれば諦めてもう少し空いている場所に乗る。」
59
といったように考えて乗車する性格が考えられる。具体的に述べると、目的とするド
アの位置は元々決まっていて、それに乗車出来る列に並ぼうとするが、その列に人が
余りにも多く並んでいれば、他の近い列に並んで乗ろうとする。本研究では、目的地
指向型の乗客エージェントの性格としてこれを実装した。また、目の前に人が溢れか
えっているときは、ほとんど周りに人がいない時に比べて乗客の歩行速度はかなり落
ちる。これらを、前進()、列に並ぶ()などの関数を定義することでシミュレータに
実装した。実際には、どれほど混雑していても自分の乗車したい位置のドアから乗る人
や、とにかく混雑していない車両に乗りたい人など、様々な性格を持った乗客がいる。
しかし、本シミュレータに多様な性格の乗客をそれぞれ実装するのは、困難であった。
本研究では、乗客の性格を現状維持型、目的地指向型、混雑回避型の3種類に分類する
事で、乗客の集団に偏った指向性を持たせないようにした。これら3種類の乗客エー
ジェントの発生割合を変化させながらシミュレーションを繰り返し、結果を実測の混
雑率と比較し、乗客の性格の比を決定した。今回の検討では、現状維持型と目的地指
向型と混雑回避型の比を5:5:1とした時に、実測の混雑率を一定の程度で再現す
る事が出来た。実際の乗客の性格の割合は知る事が出来ないが、本研究が対象として
いるのは各車両の混雑率であるため、乗客の性格の比が真の値からずれている事が大
きな問題ではなく、混雑率が適切な値をとっている事が重要である。
次に、下北沢と明大前の階段位置変更を行った。本実験では、混雑率の偏り度合いを
車両ごとの乗車人数の分散を用いて評価した。初めに、明大前の 17 番の階段位置を 4
番に変更することで、偏り度合いが最小になった。次に、下北沢の 3 番の階段位置を 7
番に変更することで今回の検討の中での最小の偏り度合いにすることが出来た。この
値が最小値であるとは言えないが、変更前が混雑率最大 300%ほどであったのに対し
200%ほどまで下げることが出来たので、大きな効果があったと言える。
本実験を通して明らかになった課題は以下の 2 点である。
1. 現実模倣の際の乗客の性格の決定
2. 最も偏りが小さくなる駅の改築案を抽出する手法
1に関しては、実際には乗客の性格は 3 つに分けられるものではなく、より複雑であ
るという問題が挙げられる。そこで、より精緻な乗客の性格の設定を行うために、性格
1、性格2、性格 3 という特徴を作り、それぞれの乗客に 3 つの性格が線形結合された
性格を持たせる事を考えた。これをシミュレータに実装する事が出来れば、その線形
結合の係数を変化させる事によって様々な乗客の性格が実装でき、現実により近づける
事が出来るだろう。2に関しては、全ての駅における階段位置の変更を総当たりで行
う事で、混雑率の偏りの最小値をもたらす駅構造を特定する事が出来るが、数は膨大
60
であり時間がかかるという問題である。今回の実験では、影響力が大きいと考えられ
る駅においてのみ、手作業で駅構造を変更しての検討を行った。全ての場合の数にお
いて自動的に実行するようにプログラムを組む事や、効率的に混雑偏り度が最小とな
る駅構造を抽出するアルゴリズムの検討等は将来の展望へ回す。
61
謝辞
本論文は作者が東京大学教養学部広域科学科広域システムに在籍中に卒業論文とし
てまとめたものである。教授山口和紀先生には指導教官として本研究の機会を与えて
いただき、その遂行にあたり終始ご指導戴いた。ここに深謝の意を表する。京王電鉄
には、突然の連絡にも関わらず、丁寧な返答と貴重な情報を戴いた。ここに感謝の意
を表する。(株)構造計画研究所には、Artisoc を教育目的として無償貸与していただい
た。ここに感謝の意を表する。
62
参考文献
[1]: 三大都市圏における主要区間の混雑率 ,http://www.mlit.go.jp/common/000161489.pdf,(最終ア
クセス日:2012.2.18)
[2]: 保城, 環状型旅客列車の混雑率を平準化するための一試論 ―JR 東日本山手線のシミュレーショ
ン分析―, 2004
[3]: 京王電鉄株式会社 鉄道事業本部 計画管理部, 2012.2.22
[4]: 都道府県別将来推計人口 ,http://www.ipss.go.jp/pp-fuken/j/fuken2007/yoshi.pdf,(最終アクセ
ス日:2012.2.18)
[5]: 駅別発着・駅間通過人員表 ,http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kotu_census10/17siryou.html,
(最終アクセス日:2012.2.18)
[6]: 京王電鉄株式会社への私信, 2012.2.16
[7]: 3 大都市圏における主要区間の平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移
,http://www.mlit.go.jp/common/000161112.pdf,(最終アクセス:2012.2.18)
[8]: 乗車率 ,http://t-words.jp/w/E4B997E8BB8AE78E87.html,(最終アクセス:2012.2.18)
[9]: ターミナル別乗換人員数 ,http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kotu_census10/17siryou.html,(最
終アクセス日:2012.2.18)
[10]: 第 10 回大都市交通センサス ,http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/product/tpsr/bn/pdf/no4205.pdf,2006
[11]: 都市鉄道の混雑率の測定方法
,http://www.jterc.or.jp/topics/josei_shinpo3.14/8_konzatu_ritu.pdf,(最終アクセス日:2 月 18 日)
[12]: 必見目が点!ライブラリー 科学で克服満員電車
,http://www.ntv.co.jp/megaten/library/date/98/4/0419.html,(最終アクセス日:2012.2.18)
63
64
Fly UP