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彼女が教えてくれたこと

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彼女が教えてくれたこと
平成 22 年度人権作文コンテスト
最優秀賞(高知県人権擁護委員連合会長賞
最優秀賞(高知県人権擁護委員連合会長賞)
高知県人権擁護委員連合会長賞)
彼女が教えてくれたこと
香南市立夜須中学校3年 吉永 和未
人の命ってこんなにもはかないものなんだな、二年前私は、「命」という言葉の重
みを知りました。
最近、テレビのニュースなどで「自殺」という言葉を耳にします。そのたび私は、
いつも胸が痛くなり、同時にどうしてなんだろうと疑問に思います。身体的・精神的
苦痛から逃れるため、というのはよく聞きますが、私はどうしても納得ができません。
私は精神的に強い人間ではありません。今、自分のいる場所から逃れたくて、三年ま
で、ほとんど教室で授業を受けていませんでした。そのため失くしたものもありまし
たが、大切な物を得ることもできたと思っています。自分という人間を知ることがで
きたから。大切な人を見つけることができたから。だから今、私はこうして教室の中
で、みんなと一緒に生活ができています。私よりずっとずっと苦しんでいる人が世の
中にはたくさんいると思います。でも、苦しいから、もうダメだから、そう思って命
を捨てるのは、やっぱりいけません。死を考える前に、自分だって誰かに望まれて生
まれてきたことを思い出してほしいです。死んでいい人なんて、本当はどこにもいな
いはずだから。
私はもう、自分の前から誰かがいなくなるのはたえられません。中一の夏、私は病
気にかかり二ヶ月もの間高知大学附属病院で過ごしていました。周りを見れば、病気
と闘う人達ばかりで、私のいままでいた場所とは全く別の世界でした。そこは小児科
病棟で、小さな子ども達がたくさんいました。見た目は健康そうでも、想像をこえる
重い病気をもった子ども達もいました。そんな場所にいると、自分が今まで健康であ
ったことはすごいことなのかもしれない、そう思わずにはいられませんでした。
八月の上旬、私は一人の女の子に出会いました。たまたま病室が同じになり仲良く
なったのです。彼女は私の一つ上で中学二年生でした。とっても明るく気さくで、笑
顔がかわいい女の子。活発で病気なんてないんじゃないかと思ってしまうほどでした。
けれど彼女はとても重い病気を抱えて生きていました。
「アメリカとかの古い本にしかない病気なが。」と彼女は言っていました。そんな病
気を抱えながら、どうして笑っていられるんだろうと私は思っていました。きっとす
ごくつらいはずなのに、彼女はそんなことみじんも感じさせないくらい、明るく私に
接してくれたのです。毎日、私達は楽しく過ごしていました。ケンカもしたし、いろ
んな話もしたし、つまらなかった生活がとっても楽しくなりました。そして八月十四
日、私は病院をあとにしました。そのときは、彼女とケンカをしていたので、ほとん
ど話さぬまま、帰ってしまいました。今となっては、そのことが非常にくやまれます。
一期一会とはこのことだと思いました。
あれから一年がたった秋、私の元に一通の手紙が届きました。差出人は彼女の母親。
いやな予感がしました。手紙をあけると、白い紙と私へあてた彼女からの手紙が入っ
ていました。私はまず白い手紙を見ました。するとそこには、私の予感通り、衝撃的
な文が書かれてありました。「九月十一日深夜、急に永眠致しました」
しばらく言葉がでませんでした。あとからあとから、涙だけが流れていました。も
う一つの彼女からの手紙を読むと、もう涙が止まらなくなってずっと泣いていました。
彼女の手紙には、新しい治療法ができて、冬休みに手術をする予定、そう書かれてあ
りました。どうして、どうしてこうなんだろう。私はつらくて、しばらく何もする気
がおきませんでした。ふと、病院で言っていた彼女の言葉を思い出しました。
「いつか病気を治して、バスケットしたいなぁ。」バスケットのゴールを見ながら言
った彼女に私も「治ったら一緒にやろうね。」そう言いました。でもこの約束は果さ
れることはありませんでした。生きたいと願っていた彼女は、もう私の前にはいない
のです。未来に希望を感じ、新しい一歩をふみ出すはずだったのに・・・。
彼女の死は、私に命という、はかなくて大切なものを教えてくれました。だから、
私は自殺なんて絶対に許せません。生きることは、時にはつらく悲しいものです。で
もあきらめたら、そこで終わってしまいます。これからもっともっと楽しいことがあ
るかもしれないのに。彼女のように、懸命に生きていた人がいることを知ってほしい
です。今、自分が健康に生きていることを大事にして、前向きになってほしいです。
簡単なことではないけれど、少しでも自殺する人が少なくなってくれればと願ってい
ます。みんなが笑っていられることが一番だと思います。
彼女とすごした日々は、私にとってかけがえのないものです。私は一生、彼女のこ
とを忘れません。命と、生きることの大切さを教えてくれた彼女のことを。
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