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戯歌
新 興 童謠 と児 童自 由詩 北 原 白 秋 序 小 目 次 童謠 の諸相 につ いて 童謠 の意義 と其 の開 展 童謡復興迄 一、新 興 童謠 に就 いて 幼児 の詩 児童 の生活感情 と詩 成 人と児童 の觀照 自由律 の必然性 自由律と定型 童謠 と兒 童自由詩 運動 の經 過 二、 兒 童自 由詩 運 動 小 序 此 の文 の意 圖 す る と ころ は 大 正期 より 昭 和 の今 日 に到 る 童謠 界 全般 に亙 る新 興 童謠 と兒 童 白 由詩 の歴 史 で はな い。 些 か 此 の藝 術 と教 育 と の新 運 動 の本 流 にあ る と思 ふわ た く し 自 身 の主 張 な り 經 過 な り を 、主 と し て 總括 し 統 一し て置 く べく 意 圖 し たも のに外 な ら ぬ。 史 的 に 觀 察 し 考證 し批 判 す る には 別 に人 が あ ら う。 此 の種 の事 は 此 の新 運 動 の渦 中 に あ る私 とし ては 、他 の諸 家 に對 し な か な か に書 き辛 い の であ る。自 身 のみ の事 な らば 肅 々と し て 云 へる十 分 の責 任 童 謠 復 興 迄 新 興 童 謠 に就 い て をも 持 て る、 旗幟 の闡 明 にも な り 得 る 。安 ん じ て書 け る の であ る。 一 1 日本 童 謠 の淵 源 は極 め て古 い。 上 古 に 於 け る か の ﹁わ ざ う た﹂ が さ う であ つた 。 併 し な が ら 、 か の ﹁わ ざ うた ﹂な る も のは 、 本質 に觀 ても 、 流 行 相 の上 か ら 察 し て も、 眞 の童謡 と し ては認 め難 いも ので あ つた 。 主 と し て支 那童 謠 の 亞流 と は 云は な いま でも 、 之 に稍 庶 いも のであ つた 。 即 ち時 事 の諷 刺 や批 判 や或 は 豫 言 的歌 謡 であ つた 。所 謂 神 の謡 はし め るも のと し て の暗 示性 を 多 量 に含 ん で ゐた 。 神 意 と 童 子 語 と は相 通 す る。 そ れ故 に成 人 が或 る諷 意 を 成す に當 つて、 お のつ か ら に そ の聲 を 童 子 の 口唱 に 託 した と 竜見 ら れ る 。何 れ に し ても 流 行 唄 に は ち が ひな か つた 。 か う し て 新興童謠 と兒童自由詩 四 愈 々に童 男 童 女 の間 にも 喧 傳 さ れた も の であ ら う 。 童 謠 とし て の純 粹 な童 子 の歌 謠 はそ の後 に起 つた と 云 つて い い。 而 も 之 等 は民 謠 の興 隆 に蓮 れ て發 生 し た自 然 現 象 でな い こと は な い。 從 つ て、成 人 の作 ると ころ も尠 か らす 兒 童 に與 へられ た 。而 も 何 れ も が 、 一二 の例 外を 除 い て は、 作 者 未 詳 のも ので あ つた 。 童 謠或 は民 謡 の本 質 か ら 考 へても 、 さ う した 竜 のか と 思 は れ る。 粉 雪 、 た ま れ 粉 雪 、 垣 や 木 の股 に﹂ のみ が 文 獻 に遺 さ れ てあ る のみ であ る。 而も 窒 町以 童 謠 が 童謡 と し て歌 はれ た 初 期 のそ れ ら に就 いて は 、記 録 の上 にも 可 な り の湮 滅 が あ る こと は 肯 はれ る。 た だ 鳥 朋 天皇 御 幼 時 の童謠 ﹁ふれく 降 、 徳川 期 に 於 て愈 々諷 謡 され 、 ま た 盛 ん に 流 行も した 自 然 童謠 、 歳 時 唄、 子守 唄、 遊 戲 唄 の如 き 、 引 き績 いて兒 童 か ら兒 童 に ま で 、 田 園 とな く 、 市 井 と な く 、多 々釜 々に傳 唱 さ れ 、 さ う し て明 治 期 にま で 及ん だ ので あ る。 本 來 、 童 子 そ のも の の歌 謠 は 、 極 め て率直 で あ り 、端 的 であ り 、 暗 示 性 を潛 め て ゐ る。 成 人 の成 す と こ ろ のも のは 、 優 れ て慈 愛 に 滿 ち 、調 律 に 鳩洗 練 さ れ てゐ るも の の 、 過ぎ て は猥 雜 な 民謡 の卑 俗 と淫 風 と に混. 淆す る に到 つ て、途 に はま ー人を し て顰蹙 さ せ るそ れ ら の多 く が 、兒 童 の嬉 戲 歌 にも 浸 潤 し て來 た .時 には 、 何 ら の藝 術 的香 氣 の無 い道 歌 教. 訓歌 の如 き を 、 強 ひ ても 琴 曲 な ど に 合 せす に は與 へられ な か つた 。 當 然 の成 行 であ つた ら う。 明治 の小 學 歉 育 は 、墮 落 し た 童謠 の 一面 の みを 見 て、 傳 統 ある 正 し い よ い童謡 を も 排 斥 し 去 つた 。 さ う し て之 に換 ふ る に風 土 習慣 の全然 異 つた 泰 西 の歌 調 と 、兒 童 の生 活感 情 に 對 し て あま り に無識 な 小學 唱歌 、 或 は軍歌 の歌 調 を 以 て した 。 か う し て兒 童 の生活 は 、 ま さ しく 學 校 と家 庭 に於 て 二 分 さ れた 。 何 等 の流 通 をも 共 處 に は見 ら れな か つた 。 この敏 育 方針 はた し か に 過 つて ゐ た。 何 故 か なら 日本 の兒 童 は 、 日本 の兒童 以 外 の何者 でも な いか ら で あ る。 社國 の 山 川 を揺 籠 と し て育 つ べき 我 が 民族 の子 弟 が 、 ほ し いま ま に 組國 の傳 統 か ら 隔 離 され 、 そ の常 に直 面 し て ゐ る郷 土 の 白 然 か ら 遮 斷 さ れ て、眞 に白 由 に生 き得 る途 と てあ る筈 は な いか ら であ る。 こ こに 於 て、 大 正 の 童議 復 興 は確 か に意 義 あ る開展 を 示 した 。 從 つて ま た 、 一般 の藝 術 教 育 運 動 が 、 世 の兒 童 の爲 の光 輝 と な り 、救 ひ とな つた 、 尤 も 、 小 學 唱歌 以外 に、 兒 童 の讀 物 と し て の唱 歌 用 のも のは 、 これま で に無 い こと は な か つた 。 併 し 、 藝 術作 晶 と し て の香 氣 を 欲 ぎ 、低 劣 であ つた こと に つい て 、 それ ら は 今 日 の童 謠 と同 一に見 る べき で な い。 而 も、 之 等 は 童謠 流 行 の機 遐 に乘 じ て 、同 じく 童謠 と自 稱 し 混 入 し て、却 つ て、 對俗 關係 に於 て宣 傳 これ 努 む る に 到 つた 。 由 々し き僣 越 と思 はれ る 。 之 等 は 、往 々にし てま た 、 曾 つて の小 學 唱 歌 よ り も 、晶 質 に於 て粗 悪 だ つた か ら で あ る。 か く の如 き は 問題 と す べき で な い。 傳 統 と し て の こ の在 來 の童 謠 を承 け て 、そ の詩 人 とし て の本 質 の上 か ら 、 明治 の末 期 に も若 干 の作 家 に、 これ に庶 い作 晶 が 自 然 に流 露 し た 事 は あ つた 。例 へばそ の重 な るも のは薄 田 泣菫 、泉 鏡 花 、横 瀬 夜 雨 、 河井 醉茗 、 野 口雨 情 、 木下 杢 太 郎 、相 馬 御風 、 小 川 未 明 、 西條 八 十、 そ の他 の作 品中 に散 見 さ れ る。 た だ 、 此 の時代 に於 て は、 獪 未 だ童 謠 と い ふ稱 呼 は 無 か つた 。 子 守 唄 と 云 ひ 、童 心歌 など と 云 つた 。 ま た 寧 ろ 民謠 味 の勝 つた も のも あ つた 。 私 自 身 の童謡 も亦 如 上 の諸家 のそ れ等 と相 前 後 し た 。 特 に 明 治 四 十 五年 に上 粹 し た 抒情 小 曲集 ﹃思 ひ禺 ﹄ こそ は 、 今 日 の我 が 童謠 の本 源た るも の であ つた 。 こ の中 に牧 めた 詩 の多 く は雅 語 脈 の小 曲 であ つ て、 必す しも 童謠 と し ての 童 語 の歌謠 體 で はな いが 、 そ の幼 時 を追 憶 した も の には そ の歌 調 さ へ日語 に飜 せば 、 そ の儘 に童 謠 と な る べき 内容 で あ つた 。 肉 身 の 母以 外 の母 を 慕 ひ 、 こ の世 の外 の薄 明 にさ だ か な ら ぬ追 憶 の所 縁 を 持 ち 、 未 生 以前 、 若 しく は 未 知 の 世 界 に對す る幼 い思 念 、或 は 現 當 の夕暮 に 、 かく れ ん ぼ の遊 び に 、囚 れ て はま た ほ のか な 物 の 花を 覗 き 見す るご と き も ので あ る。' か う した 内 容 に於 け る童 謡 味 の み でな く 、 私 は確 か に こ の中 に、 私 の前 期童 謡 と爲す べき ﹁曼 珠 沙華 ﹂ を も 作 し て ゐ る の であ る。 同 じ 年 にまた ﹁李 さん 尚 鄭 さん 支 那 服 さ ん﹂﹁屋 根 の│風見 ︽ら ﹂等 ︾ を 雜 誌 ﹁朱 │欒﹂ ︽ザ にム 載ボせアた︾。 之 等 は後 に詩 集 ﹃東 京 景 物詩 ﹄ に編 入 し 、童 謠 集 ﹃とん ぼ の眼 玉 ﹄ にも收 めた 。 11 童 謠 の 意 義 と 其 の 開 展 童 謡 は童 心童 語 の歌 謠 であ る。 此 の本 義 と開 展 と に就 い て、 茲 に何 が し かを 書 き得 る こと は 、 わ た く し の本 意 であ るQ 日本 大 正 期 に 於 け る藝 術 童謠 の提 供 は 、 初 め て日本 の諸 詩 人 た ち に よ つて、 自 覺 され 、共 力 され た 一つの 大な る新 運 動 であ つた 。 此 の新 運動 の精 神 と し た と こ ろ は何 か 。 意 圖 し た と ころ は 何 か。 祗國 愛 であ る。 日 本 童議 の傳 統 の開 展 であ る。 而 し て 、か の非 藝 術 的 であ り功 利 的 であ る小 學 唱 歌 の排 撃 で あ る。 即 ち 日本 兒 童 への童 謠 生 活 時代 の復 興 であ り 、 更 に純粹 な る藝 術 歌 謠 と し て の創 作 童謡 の提 供 であ る。 更 に叉 、童 心を 通じ 、 叡 智 を 通 じ 、感 覺 を通 じ て の 此 の 日本 の新 時代 の童 謠 體 を 開 拓 し 、 一に は成 人た る詩 人 自 身 の内 な る 思 無 邪境 を 開 顯 し 、 二 には そ の自 ら の 愛 と香 氣 と滋 味 と を 以 つて 、稚 き兒 童 の世 界 と交 感 し 、結 果 に於 て、 彼 等兒 童 の世 界 を 愈 々豐 滿 な ら し め る に 到 る こと を 歡 び と す るに あ る。 無 論 そ の本 義 とす る と こ ろ は、 純 粹 な る藝 術 の感 與 を感 興 と し 、そ の價 値 を價 値 とす る にあ る。 詩 は先 づ 童謠 に還 れ であ つた 。 童 謠 はま さ し く復 興 し た 。 而も 、 か の大 正 期 に 於 け る藝 術童 謠 の提 唱 と 進 展 と は 、 此 の昭 和期 に引 績 き 、 か の 兒童 自 由詩 の與 隆 と 相俟 つて 、茲 に前 代 未 聞 の開 花 を 成す に 至 った の であ る。 而 も 本來 歌謠 體 と し て の童 謠 が、 一方 自 由 律 の童 詩 を も 派 生 し 、更 にま た 、 そ の香 氣 と氣 晶 と 律 格 の整 齊 と に於 て、 歌謠 以 上 の詩 の最 高 義 と す る象 徴 の風 韻 に ま で向 上 し つ ﹄あ る ので あ る。 こ の 現在 を 思 ふと踴 躍 さ れ る。 此 の藝 術 童 謡 蓮 動 は 、 何 に よ つ て提 起 さ れ、 而 も 劃 期 的 に兒 童 術 、 及び 敏 育 界 を 衝撃 し 、 風靡 し得 た か 、 而 恐 愈 々 日本 兒 童 への輝 やか し い祝祭 の 氾 濫 を成 し 得 た か 。 云 ふま でも な く 、此 等 の主 因 は 、 か の雜 誌 ﹃赤 い鳥 ﹄ の創 刊 に あ る。 而 し て ﹃赤 い鳥 ﹄ の童謠 は 、絡 始 この蓮 動 の本 流 にあ つ て、そ の 正 し い舵 手 であ り 、 照 明 で あ つた ことを 事實 に 於 て體 現 した と思 へる 。 ﹃赤 い鳥 ﹄ は人 も 知 るご と く 、鈴 木 三 重吉 氏 によ つ て經營 さ れ、 主 宰 され た 香 氣 高 き 童 話童 謡 の雜 誌 であ つた 。大 正七 年 七 月 の創 刊 であ つた 。私 は そ の初 め、 氏 の切 な る慫 慂 を受 け 、 共 に提 携 し て、 乃 ち童 謠 革 新 の 一道 に 向 つて わ た く し の脚 點 を 出發 し た。 此 の ﹃赤 い鳥 ﹄ の運 動 の第 一歩 に於 て、 競 ひ立 つた 作家 は私 の み では な く 、 文壇 及 び詩 壇 の若 干 者 が あ つた。 そ の 初 號 に ﹁あ の紫 は ﹂ の 一篇 を提 供 した 泉 鏡 花 、 次 で 、 小 川 未 明、 三木 露 風 等 で あ る。 併 しな が ら、 此 の ﹃赤 い鳥 ﹄ 誌 上 に於 て、 私 の外 に 、 一の洋 風 の清 新 體 を 樹 て て、 そ の誌 の爲 に、 又 童謠 の爲 に 、大 正 八年 以來 、 そ の初 期 の 共力 を 惜 し まな か つた 人 に、 西條 八 ト が あ つた 。 そ の功 績 は感 謝 さ れ てい い。 君 が 退 いて 以來 、﹃赤 い鳥 ﹄誌 上 に於 け る作 家 と し て の童 謠 は 、 專 ら わ た く し 一人 のみ の純 一と 潔癖 と を保 た れた 。 わ た く し はそ の誌 上 でま た 、 薪 人 の誘 導 に努 め た 。 か く し て、 昭 和 四年 の三 月 に 至 つた 。 さ う し て ﹃赤 い鳥 ﹄ は、 や む な き 事情 に よ り、 一時 の休刊 を 聲 明 した 。 併 し ま た昭 和 六年 の 一月 に 復 活 し 、 今 日 に 至 つ て ゐ る 、 こ の十數 年 に亘 る ﹃赤 い鳥 ﹄ の事 業 に於 て、 私 の分擔 した 童 謠 の世 界 のみ に つ い ても 、 私 は 、希 望 と歡 喜 と に燃 え つづけ た 私 自 身 を 幸 輻 とす る。 詩 の上 に、 更 に新 ら し い覗 野 の 一つが 、 ま た私 に開 か れ た ので あ る 。 そ の間 に お のづ か ら に、﹃赤 い鳥 ﹄童謠 の新 風 が育 ま れ 、豫 期 以 上 の兒童 自 由詩 の發 展 と 、 並日及 と を見 る に至 つた の であ る。 ﹃赤 い鳥 ﹄ 創 刊 以來 の、 私 自身 の作 、 及 び 作 風 に つい て は 、既 に實 證 に於 て 幾 多 の童 謠 集 を 世 に公 にした 。 ただ 私 の誘導 の 下 に、 信 じ て、 わ た く し の道 とす ると ころ にそ の所縁 を 求 め 、 そ の本 質 を 練磨 し 、 そ れ自 ら を光 あ ら し め つ つ精 進 し來 つた 幾 多 の新 人 を 、 今 も な ほ此 の眼 前 に見 得 る こと は 、 わた く し の歡 び であ る。 自 著 の主 な るも の には ﹃と ん ぼ の眼 玉﹄ (大正八年) ﹃兎 の電 報 ﹄ (大 正+年) ﹃ま ざあ ・ぐ う す ﹄ (大 正十 一年∪ ﹃祭 の 留 ﹄ (大 正十 一年) ﹃花 嘆 爺 さ ん﹄ (大 正十二年)﹃子 供 の村 ﹄ (大 正十三年)﹃二 重 虹﹄ (大 正十五年)﹃象 の子 ﹄(大正十五年) ﹃月 と 胡 桃 ﹄(昭和五年) があ り 、 選集 に は ﹃か らた ち の花 ﹄(大 正十五年)﹃日本 新 童謡 集 ﹄(昭和二年) 等 、 總合 集 には ﹃白 秋 童謡 集﹄ 第 一卷 (大 正± 二年)﹃白 秋 全 集 ﹄(昭和五年) 中 の 皿 、 X 、 M の三 卷 が あ る 、そ の中 ∬ 卷 には 、 單行 集 と し て未公 刊 の分 、 ﹃驢 馬 の 耳﹄ ﹃赤 いブ イ﹄ の 二 冊分 を 附 加 し た 。 そ の後 の新 作 百五 十 餘 篇 、 全 體 を 通 じ て 一干篇 内 外 と な る であ ら うQ ﹃赤 い鳥 ﹄ の新 人 の詞華 集 に は ﹃赤 い鳥 童謠 集 ﹄(昭和五年) が あ る。 此 の ﹃赤 い鳥 ﹄ 以外 に應 じ て起 つた 他 の同 種 の雜 誌 ﹃金 の船 ﹄ そ の 改 題 ﹃金 の星 ﹄﹃童 謡 ﹄、或 は ﹃コド モの國 ﹄ そ の他 多 數 の誌 上 に 於 て 、續 々と 此 の新童 謡 の機 運 に乘 じ た 詩 人 の中 、 そ の最 も 主 要 な る人 々に、 前 記 の 西條 八十 、 野 口雨 情 兩 者 が あ り 、或 は 三木 露 風 、島 木赤 彦 、河 井 醉 茗 、 若 山 牧 水 、相 馬 御 風 、 川 路 柳 虹 、 白 鳥 省 吾 、濱 田廣 介 、 そ の他 舊 人 は 還 り 、新 人 も 雲 のご とく 起 つた 。 而 し て 各流 各 派 の童 謡 集 が花 火 の如 く に 入 り亂 れた 。 此 の藝 術 達 動 は 爾後 數 ヶ年 の 間 に 、豫想 外 の隆 盛 を成 した 。 寧 ろ 眞 實 者 には 、 困 惑 と苦 笑 とを さ へも催 さ し め る ほ ど の俗 悪 な 流 行 とま で に墮 ち か け て來 た 。藝 術 兒 童 雜 誌 の濫 行 、 童 謡 童 曲 集 の頻 々た る出 版 、 和 洋 童 謠 踊 の試 演 、 レ コード の吹込 、 ラヂ オ の放 途 、途 に は無 理解 と 亂 擾 と僣 童 謠 と の混 雜 と 喧 騒 と が 、眞 の正 し い藝 術 童謠 をも 猥り に冒 漬 し 、眞 の兒 童 自 由 詩 の向 上 を も 却 つ て徒 に阻 止 し つ つあ つた 。 追 從 者 と 雷 同者 の過 つた 模 倣 と利 用 と 億 、實 に童 心 の思 無 邪 境 を し て、刻 々に俗 情 の地 獄 た ら し め む と し つ つ あ つた 。 而 し て殆 ど墮 力 的 に此 の昭 和 の初 頭 ま で 及 んだ の であ る。 大 正 の童 謠 運動 にも 早 く も 衰 頽 の芽 ざ し が 現 れ初 めた のも そ の時 以來 で あ つた 。 嚢 頽す べき は嚢 頽 さ し た が い い。 眞 の傑 れ た童 謠 は 、而 も な ほ本 質 の光 輝を 光 輝 とす る であ ら う 。 正 し い差 別 も 批 判 も 成 さ れ る で あ ら う。 な ほ、 附 記 し て置 きた い こ と は、 大 正 十四 年 六 月 、 日本 に於 け る童謠 作家 の連 疊 で あ る童 議 詩 人會 よ り 、そ の年 刊 集 ﹃日本 童謠 集 ﹄ 第 一卷 が 上梓 され た 。 續 い てそ の翌 年 そ の第 二卷 が版 行 さ れ た 。 但 し 、其 後 は續 か す 、 そ の會 も 有 名 無實 のも のと な つ て、 現在 に及 ん でゐ る 。 皿 童 謠 の 諳 相 に つ い て 親 らし い日本 の童 謡 は 、根 本 を 在 來 の 日本 の童謠 に 置 く 。 日本 風 土 、傳 統 、 童 心 を 忘 れた 小 學 唱 歌 と の相違 は 、 こ こに あ る の であ る、從 つ てま た、 單 に藝 術 的 唱 歌 と い ふ見 地 のみ ょり 、 新 童 謠 の語 義 を 定 め よ う とす る人 々に、 私 は 伍 み せ ぬ。 西 洋 の詩 、 若 く は童 謡 を そ のまま 日本 に將 來 し よ う とす る のも 謬 つ て ゐ る。 見 識 あ る攝 取 と融 合 は い ゝ。然 し 、身 に 染 みた 産 土 の にほ ぴ 、風 俗 と い ふ も の は 、決 し て等 閑 にす べ き で は な い。 これ を 思 は ね ばな らな い。 た f時 代 の種 々相 は 、 時 と とも に推 移 し、 複雜化 す る。 日本 の童 謠 の形式 も 、 對 境 も 、時 と とも に變 化 し 、擴 廓す る。 か く の如 き は 、 世 々 の作 家 の自 由 に委す べき で あ る。 然 し 、萬 代 を 通 じ て、 日 本 の童 謡 に は、 日本 の童謠 と し て の不 易 性 が 、 一貫 し てゐな け れば な ら ぬ。 眞實 の意味 に 於 ても 、ま た 、民 族 的 にも 。 * 私 の童謠 は、 幼 年 時 代 の私 自 身 の體 驗 か ら得 た も の が 多 い。 あ ゝ、 郷愁 ! 郷 愁 こそ は、 入 間本 來 の、 最 も 眞 純 な る靈 の愛 着 で あ る。 此 の生 れ た風 土 山川 を 慕 ふ心 は 、進 ん で、 寂 光常 樂 の彼 岸 を 慕 ふ信 と 行 と に自 分 を高 め、 生 み の母 を 戀 ふる 涙 はま た 、 途 に神 への憧 憬 とな る。 此 の郷 愁 の素 囚 は 、 未 生以 前 にあ る。 こ の郷愁 こそ、 依 然 とし て續 き 、 更 に高 い意 味 のも のと な つて 、常 住 、私 の救 ひと た つ てゐ る。 * 童 謡 は 、 單 に とり と め のな い、兒 童 の美 し い幻 想を 歌 ふ の み であ る筈 は な い。時 に よ り 、物 に應 じ て、實 相 の觀 照 は飽 迄 も 正 しく 、 童 心 とそ の感覺 と に於 ては 、常 に眞 純 素 朴 であ ら ね ば な ら ぬ。而 し て 、此 の萬 有 流 通 の眞 生 命 に直 面す る 、児 童 の精 神 的 歡喜 を 思 はな け れ ば なら な い。而 も成 人 は、 更 に深 き 法 悗 と感 謝 とを 以 て、 そ の蒼 室 に 、高 く ま しま す 彼 等 の神 を 膽 仰す る事 を。 兒 童 は 成 人 の 父 で あ る と 日 ふ。 い か な る 成 人 た り と も 、 畢 竟 は 本 性 と し て の 童 心 を 失 ひ 得 る も の で は な い 。 そ れ 故 に こ そ 人 間 の尊 さ は あ る で あ ら う 。 詩 人 は 殊 に 此 の 童 心 を 豐 か に 保 存 し て ゐ る 。 更 に ま た 童 讌 作 家 と し て の 資 格 は 此 の 童 心 に最 も 富 ん で あ ら ね ば な ら ぬ 筈 で あ る 。 ' * 此 の、 童 心 に還 る こと の、 最 も 繁 き 成 人 こそ は 幸 さ れ て ゐ る。 私 は よ く 、 童 心 に 還 れ と 云 っ、 た 。 然 し 、 此 の 意 味 は た ゞ 、 兒 童 の無 智 を よ し と す る 謂 で は な い 。 こ と さ ら に兒 戲 を 摸 し 、 兒 童 に 阿 る 謂 で は な い 。 眞 の 思 無 邪 の 境 涯 に ま で 、 そ の童 心 を 通 じ て 徹 せ よ と 云 ふ の で あ る . 恍 惚 た る忘 我 の 一瞬 に於 て 、 眞 の 自 然 と 渾 融 せ よ と 云 ふ こ と で あ る 。 * 此 の境 地 は 、 自 然 觀 照 の場 合 に 於 て も 、 絡 に は 藝 術 の本 義 と 合 致 す る 。 童 謠 に 於 て の み な ら す 、 詩 歌 俳 句 に 於 け る 究 竟 道 と 同 一で あ る 。 こ の 故 に 私 は つ く づ く と 諦 語 し た . 今 は 私 は 強 ひ て 、 童 心 に 還 る 要 も な い の だ と 。 眞 を 眞 ど す れ ば よ い 。 こ の儘 の 觀 照 でよ い 。在 る が儘 でよ い。 童 謡 は 、 そ の内 容 と表 現 と に於 て、 も と よ り兒 童 に解 し 易 く 、 而 も 成 人 に と つて は更 に深 く 高 き 想 念 に、彼 等 を 遊 ぱ しむ るも の でな け れ ば な ら な い。 表 現 は無 論 、兒 童 の言 葉 を 以 てす る ので あ る。 * 世 に、 童 心 と し て の叡 智 的想 像 と 、成 人 と し て機 智 的想 像 と を 、混 同 す る人 が あ る 。 いか に放 恣 な る兒 童 の想 像 と 雖も 、貫 の感 覺 の暦 積 を經 ざ る想 像 な るも のは あ り 得 な い ので あ る。 暦 積 の度 深 け れ ば 深 き ほ ど 、そ の想 像 は 複 雜 と 豐 富 とを 増す 。 而 も叡 智 な るも のは 此 の感 覺 の所 縁 によ つ て増 し 、 此 の濾 過 あ つ て初 め て燦 々と し てそ の奥 より 光 る ので あ る。 美 に 對す る知 覺 の尊 む べき は、感 覺 の背 後 に於 け る尊 む べき靈 魂 の認 知 な る が故 であ る。 而 も 此 の感 覺 の重 んす べ き は 、 そ は靈 魂 への關 門 そ のも のだ か ら で あ る。 * 絶 え ざ る好 奇 と 、. 未 見 の物 に寄 す る憧憬 と 期待 と を 、兒 童 の 心 理 に常 に見 る私 逹 は 、 ま た私 達 自 身 にも 、 そ の生 長 せん とす る絶 え ぎ る靈 魂 の衝 動 と 向 上慾 とを 見 出 す 。 而 も 此 の叡 智 的想 像 は 、 肉體 の感 覺 を 度 外硯 した る と ころ よ り は生 ぜ ぬ。 現 在 を 以 て將 來 を 推 知 し、 實 を 以 て虚 を 放 つ。 眞 の神 祕 は 、單 な る架 室 の幻 想 に宿 る も のでな い。 實 在 そ のも のに あ る 、從 つ て兒童 の幻想 と 雖 、所 依 す ると ころあ つ て 、初 め て、 そ の美 は し い翼 を 室 に飜 し得 る の であ る. 、 儼 た る感 覺 の因 由 無 き想 像 は、 單 に小 才 の機 智 とな る のみ であ る。 純眞 た る童 謠 に は、 こ. と に 此 の機 智を 忌 む 。 私 の幻 想 的 童謡 も 、 主 と し て此 の感 覺 的 暦 積 を 經 たも の から來 る。童 謠 の表 現 に觀 念 的 間 接 法 を 避け 、 一に感 覺 的 直接 法を 探 る理 由 であ る。 * 茲 に 云 ふ べき は 、 童謠 の表 現 に は、 感 覺 的 直 接 法を 提 唱 した 私 の所説 が 、 單 に童 心 を忘 れた 感 覺 のみ の復 歸 と 誣 ひ ら れ た事 で あ る 、之 を 非 議 し て、或 人 は感 覺 の復 歸 は 、成 人 に は 不可 能 だ と 云 ふ。 無 論絶 封 の復 歸 は 、成 人 に あり 能 は ぬ事 であ る。 これ は 感 覺 の上 ば か り でな い。 精 神 上 に も で あ る .ま た 思 ふ に、 既 に成 人 と 兒 童 と の間 に 、精 神 上 の 一致 點 を も認 め るな ら ば 、感 覺 の上 にも 、同 じ 程 度 の 一致 點 は認 め ら る べき であ る。 殊 に 、 永遠 の兒 童 性 を最 も 多 量 に有 す る詩 人 にと つ ては 、感 覺 の 記憶 に つ い ても 、最 も多 量 に保 有 さ れ 、 而 も な ほ愈 々に洗 練 さ れ 、愈 々に 研磨 され る。 こ の故 に 、常 に清 新 であ り 、常 に兒 童 性 の驚 異 を 失 は ぬ。 茲 に童 謠 詩 人 と し て の衿 持 が あ る べき では な いか 。 殊 に、成 人 と し て のあ ら ゆ る酸 苦 、雜 行 、 雜 念 を振 り落 し て、眞 に永 遠 の兒 童 にま で超 越 し得 る時 、 そ の人 は 、 無 白 覺 な る児 童 以 上 の兒 童性 の法 悦境 に、 己 れを 見 出す であ ら う。 此 の尊 む べき大 愚 に到 る事 の至 難 な る は、 私 自 身 常 に深 き董 恥 と⋮ 懺悔 とを 感す る。 而 も 愈 々の精 進 を 覺 悟 せ し め る。 機 刺た る兒 童 の生 活 感情 を、 私 は多 く 直 寫す る。 之 を 以 て寫 實 卞 義 と し て 目す る 入 があ る。 私 の童 謠 は 決 し て寫 實 の み にな い。 然 し 如何 な る神 祕 、幻 想 と い ふと 雖 、實 相 に徹 した 上 の蝉 脱 でな け れ ばな ら ぬ事 は 、 私 の常 に念 とす る と ころ で あ る。 兒 童 は書 も夢見 る 。 然 しそ の晝 の夢 た るや 、 凡 て 現實 の歡 樂 か ら來 な いも のは な い。 こ の時 、 赫 灼 た る太 陽 は 彼等 の慈 父 であ る。兒 童 は夜 の夢 を 怖 れ 、 また 悲 し み美 は しむ 。 然 し な が ら 、 そ の夜 の夢 た る や、 等 しく 現 實 の哀 愁 か ら 誘 は れ ぬも のは な い 。 この縹 渺 た る、 或 は 燦 爛 た る 月 と星 と は彼 等 の慈 母 であ り 、ま た 兄 弟 姉 妹 であ る。 児 童 の詩 的 幻 想 を 誘 引す るも の は 、決 し て單 な る手 品 の鳩 や 、造 花 の美 々し さ では な い。 生氣 あ る薫 香 であ り 、音 樂 あ り 光 耀 あ る と ころ に 、常 に追 憶 の所 縁 を 持 ち 、 期待 の明 日 を願 ひ 、而 し て夢 は想 像 の翼 に 乘 つて翔 る。 兒 童 の肉 體 に は 晝 も夜 も常 に無 邪 氣 な る靈 魂 の祭 が行 はれ て ゐ る の であ る。 私 の童謡 に は ま た 、泥 にま みれ た 兒 童 の手 のやう な 親 し さと 、 な ま な ま し さ とを 欲 す る。 草 の汁 、 昆 蟲 の肢 、果 實 の薫 り 、 乳 のねば り 、 花 粉 、 汗 、 そ れ ら が手 にも 頭 にも 頬 にも 、 着 物 にも 、 露 は な膝 にも 、足 の裏 にも薫 る如 き こと を 欲 す る。 自 然 の中 にあ り の儘 に放 た れ た 兒 童 そ のも のの眞 純 な 生 活 、 そ れ さな が ら の香 氣 と 生 彩 と を 、私 は私 の童 謠 に希 つ てゐ る。 私 は よ く兒 童 の溌 刺 た る感 情 動 作 を 、そ のま ま の韻 律 を 以 て表 現 しよ う とす る。 兒 童 本來 の心状 が 、主 と し てか う した 動 的 の、 激變 的 のも のだ か ら であ る。 歉 喜 と 與 奮 、 驚異 、 ま た は憤 怒 と鳴 咽 、 そ の他 に 於 て。 然 し な が ら 、私 も 兒 童 の心 猷 に於 け る種 々の複 雜 相 を 知 ら ぬわけ はな い。 自 身 の幼 時 を 顧 れば 、 今 更 の如 く 思 はれ る。 孤 獨 、友 愛 、 羨 望 、 嫉 幌 、盜 心 、殘 虐 、 相 剋 、 憐 愍 、哀 傷 、 思慕 、 後 悔 、 そ の他 に 於 て、 而 も 最 も 靜 的 な る も の は、 ほ のか に蒼 ざ めた 面 貌 を 以 て、 と あ る 幽所 の 一樹 の蔭 にも 佇 ん で ゐ る。 そ れを 見 逃す には 、 私 の幼 年 時 代 も 、 あ ま り に感傷 的 で あ り過 ぎ た 。 * た だ 茲 に考 ふ べき は、 兒 童 の感 傷 と か哀 傷 とか い ふも が 、決 し て、 か の輕 佻 な 子 女 の甘美 な詩 ら し いそ れ で な い と い ふ こと で あ る。 兒 童 は事 ご と に直 感 的 であ つ て、 意 識 し て詩 情 を弄 ぶす べを 知 ら ぬ 。詩 の 世界 と い ふも のを 、塞 間 的 の、 淨 遊 し た 、極 め て粉 飾 さ れ た 、何 か現 實 以 外 に特 殊 に存 在 し て ゐ る と い ふ風 の、藝 術好 み の子 女 のそ れ ら は 、 ま こと に 齒 を酸 く さ せ るも ので あ る。 世 の高 貴 な る情緒 と い ふや う なも のも 、實 に徹 せ ぬ。た だ美 辭 麗 句 だ け の幻想 であ つた ら ば 、 さ う し た子 女 の嗜 好 に諛 つた 手 晶 風 の機 智 や 、 才 氣 を專 ら に した 童 謠 で あ る な らば 、 さう し た素 質 に 於 て作 者 の童 心 は容 易 に疑 は れ て い い であ ら う。 ま た 、.私 の童 謠 が 感 覺 に於 て、或 は特 殊 であ る にも せよ 、 そ れ を 以 て、私 の童 謡 を 一に感 覺藝 術 と見 る人 も 、` あま り に 理解 が な さ 過 ぎ る 、 い つた い感 覺詩 人 と か 、感 覺 藝 術 と か い ふ不熟 な言 葉 が 許 さ れ る も の であ ら う か 。 私 は童 心 を 童 心 と し て尊 重 す る。 而 も童 謠 の價 値 を 藝 術 の價 値 と す る。 童 謠 制 作 の第 一義 は 自 己 の童 心 に より 自 ら に し て眞純 の歌 謠 を 成 す べき であ る。 か ゝる場 合 に於 て、 童謠 は 教 育 の方 便 でも な く 、 他 の目 的 の爲 に成 さ れ る譯 で はな いQ 、私 は兒 童 の殘虐 そ のも のを 肯 定す るも の で はな い。 然 し兒 童 の殘 虐 性 そ のも の はあ り 得 る事 であ る。 而も そ の殘 虐 た る や畢 竟 の殘虐 で はな い。 成 長 力 の 一蠻 態 であ る。 美 で あり詩 であ る の み で あ る 、た ゞ に悪 し とす るは成 人 の不 純 な 道 徳 觀 念 に外 な ら ぬ。 * 單 に童 謠 は 、諧 謔 的 なも の と思 惟 し てゐ る人 があ る。 ま た 何 等 か さ う い ふ要素 を含 ん で ゐな け れ ば 、童 謠 でな いと し て、故 ら に作 爲す る作家 が あ る、 尤. も 眞 の無 邪 な 滑稽 體 は、時 と し て童謠 に は 必要 で あ る。 何 と な れ ば 、 そ の種 の 流 露 は 、兒 童 の天 眞 そ のも のか ら來 る。 然 し 、 兒 童 生 活 の凡 て、 本 質 と し て の童謠 の 凡 て が さう であ ると思 ふ の は謬 つて ゐ る。 童謠 に於 け る ユー モ アと い ふ こと に就 ては 、常 に 無 邪 で、 蟄 實 で、 極 め て自 然 な 流露 を私 は 願 つて ゐ る。 でな け れ ば 諧 謔 の諧 謔 で了 る成 人 の機 智 が 、兒 童 本 來 の性情 を傷 け る の みだ から で あ る、 擬 入 法 も時 に よ つ て必 要 で あ る。 何 とた れば 、 兒 童 は 人 間 と し ての自 己 と 、 他 の生 物 非 生物 とを 、 そ の親 和 の心憐 か ら敢 て異 種族 と し て區 別 を せ ぬ。 凡 てに自 己 の心 を 移 し 、自 己 の姿 を 見 る。 か う し た と ころか らま こ と に微 笑す べ き ユー モアも 流 れ て來 る。 な ほ 的確 な る、詩 と し ての擬 音 の使 用 に つ い ては 、私ば これ を 是 認す る 。童 謠 に於 け る、 實 に端 的 な此 の擬 音 の效 果 を 侮 る時 は 、 か な り の繁 煩 な 表 現 を 外 に求 め ね ばな ら ぬ。 既 に兄 童 は 此 の擬 音 に於 け る天 才 的 創 造者 であ る。 ま た 何 の意 味 あ る言 葉 を も 知 らす 、 口 にす る能 は ざ る嬰 兒 も よく 、 鴉 のか あ か あ を摸 し 、雀 の ちゆ う ち ゆ うを 擬 す る。 ま た 他 のそ れ等 を 聞 く を 喜 ぶ。 これを 思 はた く ては な ら な い。 だ が、 擬 音 の使 用 を 既 に非 音 樂 的 であ り 却 つ て含 蓄 を 失 ひ、 幽 趣 を 損 ふ と い ふ人 が あ る。 然 し 、童 謠 の凡 てが專 門 の音 樂 家 の手 で作 曲 さ れ た 上 で 、諸 種 の器 樂 の作 奏 に蓮 れ て歌 ふ べき も の とす る は謬 り であ る。 時 に は在 來 の童謠 の如 く 、兒 童 自 身 の身 ぶ り 手拍 .子 を 以 て自 由 に素 朴 に歌 は る べ ぎも の であ る 。 この時 、 兒 童 の喜 ぶ擬 音 は最 直接 に兒 童 を う つ。 た だ 放 埒 に 過 ぎ る事 多 き を 以 て、 愼 しむ べし とな す ので あ る。 * 童 謠 には 、時 と し て無 意 味 の恍 惚も 必 要 であ る。 老 予 にも 無 用 の川 と 云 ふ こと が あ る 。 此 の無意 味 の恍 惚 た る や、 單 な る無 意味 で はな い。 善 く 云 へば 、 か の天 の蒼 穹 を 母 とす る幼 兒 の笑 ひ であ る。 無 邪 の獨 語 で あ る 、手 にを ど る手 毬 の無 我 で あ る。 あ あ、 そ の無 用 の無 我 の無意 味 の無 爲 、 大 き な 白 然 の心。 た だ茲 に言 ひ添 へた い こと は 、 此 の無 意 味 と 言 ふも 、 か の在 來 の手 毬 唄 、 乃 至 、 尻 取 唄 の ご と き、 單 な る無 意味 、 單 な る縁 語 、綺 語 の弄 び を さす ので はた い。 * 慈 母 の愛 は 、 か の春 雨 の ふり そ そ ぐ が ご とく 、 こま やか にそ の愛 兒 の上 に、 や さ しく あ ます と ころ な く 、 ふりそ そ が ね ば な ら ぬ。 子 守 唄 はま た ゆ る く 、暖 かく 、暢 や か に、 そ の.子 の夢 を 出 のあ な た に遊 ば し め ねば な ら ぬ。 私 は さ う し た 心 を 以 て歌 つた 十 守 唄. を望む。 子 守 唄 のし ら べか ら 、初 め て幼兒 は 人 の世 に夢 見 る事 の うれ し さを 知 る 。 さ う し て詩 を 知 り 、音 樂 を 知 る。 いか に 年 老 い、 他 郷 に流 離 す る とも 、 忘 れ が た き は 此 の二 つた ぎ生 み の 母親 の子 守 唄 と 恩 愛 と で た く て何 で あ らう 。 * 私 は普 に就 い て、數 に就 い て、ま た 言 葉 の精靈 に就 いて 、而 も また 、 天體 に就 い て、 鳥 類 に就 い て、花 の形 態 各 種 の昆 蟲爬 蟲 類 の卵 に つい て、或 は鳥 と蟲 の 朋書 に饗す る感 覺 、自 然 界 の私 語 、 生物 の歡 喜 、 更 に進 ん で 人 間 の 生 死 に つ いて 、各 種 の藝 術 と 科 學 と の融 合 、幻 想 と寫 生 と の虚 實 を 念 と し て産 み出 した そ れ ら の新 風 の童 謠 を も 生 ん だ。 感 覺 の み に て は如 何 に雋 鋭 で あ ら う と 、尊 く あ る筈 は た い。 要 は そ の感 覺 の奥 に潛 む 叡 智 の光度 如 何 で あ る 。詩 人 の叡 智 は 、 そ の研ぎ 澄 ま し た感 覺 を通 じ て、 萬 象 の生 命 、 そ の個 々の眞 の本質 を 一に 直觀 す る。 眞 にそ の. 生命 の光 煩 を直 觀 し 得 る詩 人 でな け れ ば 眞 に 傑 れ た 詩 人 と は い へた い であ ら う 。 無 論 、 詩 人 とし ても 、 一方 に 、自 然 界 の實 相 に就 て、 直 觀 以外 、相 當 にそ れ ら の知識 は 、基 礎 學 とし て體 得 し得 な け れば 、 眞 の偉 大 に は 達 せ られ な い。 神 祕 は實 相 の中 に こそあ れ 、 決 し てそ の以外 にあ る筈 は な い ので あ る 。 ・所 謂 祕 密 莊 嚴 と は 此 の謂 であ らう 。 * 童 謡 は童 心 童 語 の歌 謠 であ る。 但 し歌 謡 は歌 謡 であ つ て、 そ の爲 に調 律 を 整 齊 し 作 曲 の+ よ り 、若 く ば 兒竜 本 然 の 手拍 子 足 拍 子 を 以 て歌 ふべき も のと す る 制 作 上 の規 約 があ る。 か うし た 歌 ふ べき童 謠 以 外 に、 し つ か に讀 ま せ、 ま た は 默 し て味 は す べき 詩 童 詩 も兒 童 に輿 ふ べぎ で あ ら うo 竜 謡 は 童 心童 語 の歌 謠 であ る。童 詩 は童 心童 語 の詩 で あ る。童 謡 は謠 ふべ 身も の であ り 、童 詩 は寧 ろ靜 に讃 み 、感 じ さ せる も のであ る。 童 謡 の表 現 に は 、歌 ふべ ぎも のと し て の調 律 の整 齊 を 要 し 、 童 詩 の表 現 に は寧 ろ 極 め て 幽 かた 感情 の波 動 を 心 より 心 に響 か せ 、 さ うし て さな がら の自 由 律を も認 容 す る。 これ は成 人 自 ら のも のと し て の歌 謡 と 詩 と の區別 を 見 れ ばす ぐ にも 肯 げ る こと であ る。 た ゞそ の甲間 のも の とな る、 し、何 の線 ま で が童 謠 で 何 の紛 か ら が童 詩 で あ る かゐ或 は 外 見 に は判 然 と し な いも のが あ ら う。 二 つ の物 體 の二 つの陰 影 の交 錯す ると ころ は 、ま た 、微 妙 な陰 影 がぼ か さ れ る。 そ れと 同 じ 理 で あ ら う。 然 し 、何 にし ても 、 これ ら は創 作 時 の態度 如 何 に 、 お のつ か ら な 本質 の差 別 を見 る べ ぎ であ る。 ・童謠 は 小鳥 の ごと く 歌 ひ 、童 詩 は草 の葉 のそ よ ぎ の如 く 、響 か ふも ので あ ら う か。 ま し てま た 、 そ の最 高 な るも の は 花 の匂 ふ が ご とく 匂 ひ 、室 氣 の息 づ く が ご と く に息 づ く も の であ ら う か。 童謡 は童 謠 とし て、 一方 に童 詩 の新 境 地 を開 拓 す る こと は 、新 人 のよ ろ こび でな く て何 であ ら う 。 * 童謡 の表 現 に つ い ては 、歌 謠 と し て の手 法 を 相 當 に體 得 しな け れ ば な ら な い。 先 づ童 謠 は 、傳 統 に於 て民謡 の 一⋮ 皚 であ る故 に 、記 紀 の歌謠 か ら 、萬 葉 、催 馬 樂 、 田樂 、神 事 唄 、地 方 唄 、 風 俗 、 今 様 、宴 曲 、謠 曲 、小 謡 、小 歌 、 箏 唄 等 か ら 、俗 曲 と し ては 小 唄 、 長 唄 、 一甲 、 新 内 、淨 瑠 璃 、 端 唄 、流 行 唄 等 々のあ ら ゆ る 形式 に 亙 つて 、 十分 に會 得 し 、 各 時 代 の童謡 の傾向 推 移 等 を 知 り 、 而 もま た 明 治 以 後 の新 詩 の諸 形式 や手 法 に及 び 、 一方 泰 西 の童 謠 を も 參 酌 し な け れ ば な ら な いも のだ と思 へる。童 詩 に於 ては 、 特 に定 型 律 に初ま つ て、自 由 律 の作 詩 の經 驗 を相 當 に積 む 必 要 が あ ら ︾ つo * 童 謡 は 詩 の 一つ の 道 で あ る 。 此 の童 謡 の道 こそ は 霹 く 、 極 め てま た 至 難 事 で あ る と 覺 悟 さ れ る 。 そ れ は 少 く と も 、 詩 人 が 、 そ の年 齡 相 営 の詩 を 自 身 に成 す より も 以 上 の心靈 、 並び に感 覺 の洗 練 を 要す る 。 表 現 の素 朴 と 、 無 邪 と 、 單 純 化 と を 要 す る 。 面 も ま た 考 ふ る に 、 詩 の 凡 て に 流 通 す る も のは 冖で あ る 。 其 處 に ま た 、 お の つ か ら な 本 質 の 開 顯 が 成 さ れ る て あ ら う。 再 び 云 ふ 、童 謡 も詩 の中 の 一つ の道 であ る、 この道 を 正 しく 自 覺 し 、 正 しく 稚 く 行 ふ者 に こそ 、眞 の童 謠 詩 人 と し て の境 涯 が定 ま る であ ら う。 兒 童 自 由 詩 蓮 動 こ の境 涯 の童 心 に、常 仆 す る と いふ こ と は容 易 では な い。 詩 人 と し て の寧 ろ 最奥 處 の 生活 であ ると さ へ黒 はれ る。 二 日本 の大 正 中 期 に於 け る新 童謠 の蓮 動 が 、 か の雜 誌 ﹃赤 い烏 ﹄ によ つ て開 展 さ れ て以來 、私 の新 た な事 業 とし て の 詩 敏育 は、 必然 的 に兒 童 自 由 詩 の提 唱 と 指導 と に向 はね ば な ら な か つた 、此 の新 事業 はま た雜 誌 ﹃藝 術 自 由敏 育 ﹄(片 上伸 、 山 本 鼎 、 北 原 白 秋 共同 編 輯 ) にょ つて も私 の分 擔 す ると ころ で あ つた が、 主 と し ては こ の十數 年 に亙 つ て ﹃赤 い鳥﹄ に於 て成 さ れた の で あ る。 兒 童自 由 詩 の確 立 と統 一、 此 の 一大 事 に就 い て は、 私 は 私自 身 の童 謠 創 作 以 外 の、 畢 生 の事 業 と し て、 今 日 に 至 るま で、 私 の精 魂 を つく し て從 つ てゐ る 。 少く とも 私 の熱 誠 は 酬 ひ ら れ、 私 の十 工張 は達 成 し つ つあ る。 現 在 に於 て、 日本 全 國 の學齡 以 上 の兒 童 は 詩 の何 た る かを 知 り 、詩 を 作 る こと の歡 び を 自 覺 し た 上 に 於 て、 彼 等 の日常 生 活 を高 め 、彼 等 の自 由 詩 形 を 生 み つ つあ る。 そ の生 活感 情 の把 握 に於 て、 又 は自 然 觀 照 の正 確 さ に於 て、 彼等 の優 秀 作 晶 は 、 そ の價 値 に於 て、 成 人 の詩 歌 を も 時 に凌駕 し雁 行 し つ つ、 愈 汝釜 々多種 多 樣 の自 由 形 を 採 φ つ つ、 そ の詩 の世 界 を擴 廓 し つ つあ る ので あ る。 之等 はま た 私 の共 力者 た る 日本 全 國 の小學 校 に於 け る指 導者 達 の功 績 と す ると ころ で あ る。 が、 一方 に 叉 、 此 の氣 勢 に應 じ て立 った 詩 壇 の諸 家 、新 聞 雜 誌 等 の社會 的聲 援 を も 多と せぬ ばな らな い。 思 ふ に、 世 界 の何 處 に、 そ の全 國 の小學 生 が詩 を 知 り 、詩 の作 者 で あ る國 があ ら うか 。 課日 の と し て實 際 的 指 導 に當 つ てゐ る小學 校 があ る であ ら , ・-か 。 これ こそ 全 く 日本 學 童 の光榮 でな く て何 であ ら う そ . 而 もま た 、兒 章自 由 詩 の開 拓 は、,更 に學 齢 以 下 の幼 時 の詩 にま で 、そ の光 芒 を 放 射 し た 。私 は微 笑 し つ つ、歡 喜 し 至 運 動 .の 經 過 つ つ、 此 の兒 童 自 由詩 運 動 の經 過 と信 條 と鑑 賞 と に就 いて 記 録 し て置く 。 ﹃赤 い鳥 ﹄ では 、 創刊 と共 に文 壇 及び 詩 壇 の諸 家 に、 そ の童 謠 の創 作 を 求 め て、 之 を發 表 し て新 童 謡 蓮 動 の魁 を 成 し た。 同 時 に 一般 の投 書 を も募 集 し、 私 にそ の選者 た る こと を依 囑 し た 。 爾 來 今 H に迄 到 つて ゐ る が、 そ の初 め は 投 書 無 ぎ爲 、 私 と私 と の周圍 が匿 名 を 以 て投書 の童謡 をも 作 成 した 。 之 に勵 ま さ れ て 一般 の應募 童 謡 が次 第 に山. 積 し、 新 竜識 運 動 の機 蓮 が愈 々に醗 成 さ れ るに到 つた 。 そ の問 に、兒 童 自 身 の作 ると ころ の童謡 の投 悲日が之 等 に混 清 ー、 、 朱つ た のも自 然 の趨 勢 で あ つた 。私 は此 の發 見 に驚 いて 、改 め て成 人 以 外 の兒 童 作 晶欄 を設 け 、 そ の投 書 を 慫 慂 し た 。 そ の後 、 之等 の作 品 の甲 、特 に秀 拔 た るも のは 推奬 作 と し て大 い に優 待す ると ころ が あ つた 。 此 の 一事 か ら、 そ の後 個 人 の投書 より も 、 各 小 學校 の 一括 した 投 書 と た つて 激塘 し、 氣 邏 が追 々 に私 の思 ふと ころ に向 つ て來た 。 之 等 の參加 小 學 校 の中 、搖 籃時 代 に於 て最 も 光輝 あ る成 績 を 墾・ げ た の は 由梨 、 長 野 、 干葉 、茨 城 の諸 學 校 であ つた こと は 、如 何 に そ れ 等 の地 方 が 進 取 の氣 に富 み 、新 代 の藝 術 教 育 に 共鳴 す る と こ ろ多 か つた か を 十 分 に物 語 る。 併 した が ら 、 そ の初 め 、兒 童 作 晶 の殆 ど は 、 成人 作 の童 謡 の模 倣 であ つた 。部 ち調 子 本 位 の童謡 で あ つた。 之 等 の 模 倣童 謡 より 一轉 し て 、兒 童 本 然 の感 動 のリ ズ ム、 そ の自 由律 の 形 式 を 以 て現 れた 作 品 を 見 た 私 の驚馭 と歡 喜 と はど ん な だ つた が 。 彼 等 は全 く H本詩 壇 の自 由詩 運 動 を 知 ると ころた く 、自 ら に彼 等 の自 由詩 を漉 刺 と生 み 出 した の であ る。 これ は 特筆 大書 す る に足 る事實 と し て文 獻 に記 録 さ れ てあ ら ねば な ら な い。 た だ 之を 鑑 賞 し 、指 導 し .開展 させ た誘 導 體 と し て の私 が詩 壇 に於 て の自 由詩 入 の 一人 であ つた 事 が 、 よ き機 縁 であ つた。 而 し て私 は、 そ の自 由詩 入 で あ る私 自 身 の自 由詩 a本 義 とす る も の を 以 て 、之 に臨 み 、之 を 以 て改 め て兒 童 自 由 詩 の新 風 に茄 眼 し 、 提 唱 を成 し 、 此 の運 動 の端 を開 いた 譯 で あ つた 。 私 は 全 く 感謝 す る。 爾 來 、 私 の提 唱 した 兒 童 自 南 詩 は 、 山 本鼎 の開 拓 にか か る自 由 書 と共 に、 藝 術 敏 育 の二 大潮 流 と な り 、 又 、鈴 木 三 重吉 の指 導す る基 準 的 綴 方 と 交 流す る も の と な つた 。併 し な が ら 、此 の兒 童 自 由 詩 も 、當 分 は童 謡 瀾 の中 に 牧録 した も の であ つた 。兒 童 の作 晶 に、 漸 く 調 子 本 " の童 謡 が 影 を 潛 め 、自 由詩 の確 立 を 見 るに 及 ん で、 初 め てそ の稱 呼 を確 立 し た 。 た だ ﹃赤 い鳥 ﹄ 内 では 單 に 鯛自 由詩 ﹂ と し てゐ るが 、外 に向 つ て兒 童 の二 字 を 之 に冠 し てゐ る。 本質 は自 由 詩 であ り 、成 人作 と斑 別 す る.時 に は兒 童 臼 由 詩 とな る の であ る。 ● 現 在 に於 ては確 定 した 此 の ﹁兒 童 自 由 詩 ﹂ の稱 呼 も 、當 時 、﹃赤 い鳥 ﹄以 外 の他 の共鳴 者 の聞 に於 ては單 に ﹁童 謡 ﹂ とし 、﹁幼 年 詩﹂とし 、﹁ヂ供 の歌 ﹂ ﹁兒 童 詩 ﹂ 等 區 々別 々で あ つた 。 而 も 一方 に於、ては兄 童 心理 の研究 家 や教 育 家 の中 でも 、 本來 の童 謡 と 兒 童 自 由 詩 と の判 珊 も つか ぬ人 の多 く があ つた 。 驚 く に價す る が 、獪 未 だ に童謠 と し て探 録 し て ゐ る新 聞 な ど が今 日 にも 散 見す る こと は 、あ ま り に兒 童自 由詩 の發 達 に就 い て迂遠 過 ぎ よ う。 詩 は 立 派 に兒 童 のも のと な つた 。 否 、兒 童 そ れ自 身 が詩 人 であ る こと を 兒 童 は確 實 に證 明 した 、日 本 の兒 童 達 はか う した 立派 に詩 の作 品 を 輝 か し て來 た 。 こ の全 國 的 に旺 る兒 童 自 由 詩 の運 動 は 、ま さ しく 一つ の新 ら し い波 濤 を 世 界 に騰 げ つ つあ る。 11 童 謠 と 兒 童 自 由 詩 身の∴ 藻 艨 ての黶 ての 鰐 (私のー ( 私の 言竟 蓄 詩) 世 に童謡 と稱 す るも のを 、 表 に し て大 別 す れ ば 、 先 づ 左 の通 りだ と 云 へよ う。 藩 立 黒、 謠∼ 鍼駄のの創作に轟 さ う し て何 れも が童 心 ・童 語 の歌 謠 で あ り 、自 由 詩 で あ る べ き であ る。 ︽●︾│ 嚴 密 に言 へば ,そ れ ら の歌謠 體 のも のが 、本 來 の童 謠 であ る。 兒 童 自身 の自 由詩 と成 人 の自 由 詩 であ る童 詩 と は、 の兒童耳 ・ 童謡 復 興 と 共 に、 新 に提 唱 さ れ 開 拓 さ れた も の であ つ て、 此 等 は 所 謂歌 謠 とし て の童 謠 とは 判 然 と 區別 す べく 、 決 し て彼 我 混 同 し て はな ら ぬ の であ る 、 で 、截 然 と か く あ る べき であ る。 ∼成人の創作に成る童詩{ 膳 鯉 童謠{ 籍崩 鷺蠱 寺 の兒童畠 詩 言 兒 童自 由詩 は成 人 の自 由 詩 と 同 じく 、飽 迄 も 自 由 律 の詩 形 で な け れ ばな ら な い。 童 謠 作 家 の巾 で も 、歌 謡 とし て の 童 謡 のみ を、 兒 童 にも奬 め て 、自 由律 の詩 に思 を 致 さ ぬ人 も あ るが 、 これ は偏 見 で あ つ て、 詩 に就 いて の 一大 事 な 根 本 の理解 が 無 いと 見 ね ば な らな い。 兒 童 の自 由 律發 想 こ そそ の本 然 の感動 に因 據 す る。 確 然 と 云 ふ。 兒 童 自 由 詩 は 童謡 で は な い ので あ る。 詩 であ る、 自 由 詩 であ る。 委 し く 云 へば 、 歌 謠 は調 子 本 位 のも の、 詩 は 主 と し て韻 律 本 位 のも ので あ る。 ^ 畢 竟す る に、 歌 謠 は 歌 謠 であ つて 、何 よ り も 先 づ調 子 の整 齊 と い ふ こと を 形式 上 の重要 な る約 束 とす る。 そ の創 作 態 度 は 歌 は る べく 初 め か ら調 律 し な け れ ば な ら ぬも ので あ る。 殊 に作 曲 せ し め や う とす る に は、 二聯 以 上 のも のは 、 各 聯 のそ れ ぞ れ の同 行 に於 け る語 々句 々の字 脚 な り│ 抑 揚音︽ とア のクシ セン ンメ トト ︾リ ーを 十 分 に考 慮 され な け れ ば な ら ぬ。 で、 音 樂 的圖 案 を構 成 す る 。 時 と し て不 自 然 が來 る。 詩 の第 一義 は そ れ自 身 に詩 であ り 、 言 葉 の音 樂 であ ら ね ば な ら ぬ。 歌 ふ と い ふよ り も 、寧 ろ靜 か に味 ふ べく 、 心讀 す べき も ので あ る 。 そ の韻律 は 、馨 を 以 て歌 ふに は あま り に 深 い内 面 の リズ ムを 織 る。 幽微 微 韻 に し て、 そ の 一々の 言 葉 や詩 句 の持 つそ の韻 律 は 、自 ら に音 樂 以 上 の深 い音 樂 で あ る べく 、 そ の香 氣 、 香韻 、氣 晶、 氣 韻 等 の微 に至 つて は、 切 に無 言 の、 思議 以 上 の妙 を 極 め る。 以 心 傳 神 の も の で あ る。 象 徴 詩 、 今 日 の短歌 (短歌 も 昔 は歌 謠 と し て歌 つ たも の であ るが 、 近 代 のそ れ は 、殊 に自 然 觀 照 の幽 玄 體 に至 つて は 格調 の美 以 上 の語 韻 の細 緻 を 極 め る) 俳 句 、或 は 各種 の自 由 詩 が此 の部 類 に屬ず る。 詩 と し て の定型 律 と自 由 律 が是 であ る。 就 中 、内 面感 情 の リズ ムを そ れ さ な が ら に表 現 し よ う と す る自 由 詩 の運 動 は 、佛 蘭 西 象 徴 詩 汳 そ の他 の自 由 詩 運 動 か ら 刺 戟さ れ て、 既 に 日本 の詩 壇 で は 一般 的 の詩 風 と さ へ普 通 化 さ れ て ゐ るも の で あ る。 新 ら し い短 唱、 新 傾 向 の俳 句 等 は 此 の自 由詩 の 影響 を 受 け て、 在來 の定型 以外 に出 でよ う とす る そ れ ぞ れ の 革新 であ つた 。兒 童 の詩 も 主 と し て 此 の自 由 律 の詩 の精 神 を精 神 とす る に生 れ 、 そ の本 來 の感 動 律 の表 現 を表 現 とす る .成 人 の童謠 も 亦、 童 謠 以外 に、 詩 と し て の定 型 の詩 、 こと に自 由詩 と し て の讀 む べ く味 ふべ き 童 心童 語 の詩 を 將 來 し よ う と す る の であ る。 此 の童詩 は定 型 に於 ても歌 謠 以外 の幽 趣 微 韻 を 搖 曳 す る。 そ の自 由詩 に 至 つて は亦 、自 山 詩 本來 の味讀 體 を成 す 。 私 も 夙 に之 自 由律 と 定型 等 の、 兩様 の詩 を 作 り 、﹃赤 い鳥 ﹄に於 ても 一時 は籏 出 した . .此 の新 風 の興 隆 を も私 は所 期 し て ゐ る。 皿 兒 童 は兒 童 の詩 を 作 る、 こ の事 は成 人 が 成 人 自 身 の詩 を 作 る と 同 一でな け れば な ら ぬ。 否 、 成 人 の詩 よ りも 兒 童 の 詩 により 本 然 の眞 純 性 を 見 る 。 そ の發想 に於 ても 兒 童 の詩 こそ は 、眞 正 の 自 由詩 で あ る。 彼 等 兒 童 の 一言 一句 が さな が ら の内 在 律 であ り 、 詩 と し ても 正 し く 自 由詩 の精 神 に・ 即してゐる。 無論 、彼 等 は 生 れ てあ り のま ま の詩 人 であ ると共 に、 彼 等 の言 葉 も あ り のま ま に、本 質 的 に自 由 の詩 の發 想 を 成す 。 兒 童 の發 想 は 必す し 蔦單 純 な 歌謠 は 成 さ ぬも のであ る。 た だ、 か の幼 兒 ほ ど詩 と歌 謡 と が そ の言 語 律 の 上 に、揮 融 さ れ す 、 幾 分 か つづ 分 解 し てゆ く 。 そ れ に 、兒 童 の感 情 が複 雜 にな り 、 觀 照態 度 が高 ま れ ば高 ま る ほど 、 歌 謡 以 外 の更 に 内 觀 的 の詩 の發 相ハ を 必 然 に篇 る に到 る . 、決 し て單 な る童 謡 では な い。 自 由 詩 へま で の進 化 で あ る 、 か く の如 く 、兒 童 の詩 は、 そ の精 神 に於 て 、詩 壇 に於 け る自 由 詩 の信 條 を そ の基 準 とす る事 が 最 も 正 し い。 而 も 成 人 の詩 壇 で行 は る ると ころ の自 由 詩 と 稱す る も の が、 多 く は 粗 雜 な る散 文 律 、或 は そ れ 以 下 の行 を 換 へた だ け の悪 文 に過 ぎ な い時 に 、児 童 の自 由 律 は却 つ て内 在律 そ のま ま で あり 、 詩 であ り 、 容 易 に散 文律 の干 調 に了 ら ぬ こと は 珍重 す べき で あ る。 何 故 か な ら ば 、 兒 童 の生 活 、 日常 の些 細 な 行 爲 言 語 に於 て 、 彼 等 は 綏 漫 な る散 文 律 を遣 らす 、主 と し て韻 文 律 に動 く 。感 情 に於 て も 、感 覺 に於 ても 、常 に大 地 か ら生 えた ま ま の野 茱 と 清新 に 、生 れ た て の昆 蟲 のご と く 纖 細 で あ る か ら であ る。 そ の 一例 を擧 げ てみ よ う 。 ρ高等 二年) 夜 風、 風 螢 と枯草 のにほひが 夜 つ い て る よ、 あ あ 、 探 海 燈 に 李 が 光 つ た よ 、 ' 犬 を 僕 は 足 で た で て ゐ る、 春 ( D 尋常 六年 ) 友 だ ち は そ の 手 で な で て ゐ る。 春 が 來 た た あ 、 み ん な 等 、 あ つ ち で ひ ば り さ い つ つ て ら あ、 は あ 、 春 が 來 た ん だ な あ。 臥 駿 (日語歌調し 而 も ま た 、 兒 童 の詩 の中 に愁 、 お のつ か ら に正 し い律 格 の詩 を 生す る こと が あ る。 例 へば 、 竹 の葉 に 蟻 が 這 つ て た わ た く し が ざ く ろ (同 上し つ づ り か た を か い て ゐ た 前 の 竹 に 赤 い ざ く ろ、 そ つ と く だ け ば 顔 に 飛 ぶ 冷 い つ ゆ の 朝 風 冷童謠 調) 秋 の朝 です 。 朝 風 ふ く よ、 雀 も 鳴 く よ、 牛 小 屋 の 牛 も す ゐ の 方 に ゐ る ・ . よ。 あ ぜ ま め (同上 ) あ ぜ 豆 が ゆ れ る よ、 凉 し さ う に ゆ れ る よ、 秋 風 に ゆ れ る よ、 向 う か ら 電 車 が く る よQ 之 等 は 嚴 密 に 云 へば 自 由 律 では な い。 定 型 と し て の完成 が あ る。 併 し な が ら、 初 め か ら定 型 の律 格 詩 を 作 る意 圖 無 く し て自 ら に 、自 由 に行 つ てた ま た ま 之 等 に合 致 した の であ る。 諸 形 式 の第 一作 を成 す 時 と同 じ き自 然 の發 想 で あ る。 とす れ ば 、 や は り自 由詩 の精 神 にょ つ て成 つた にち が ひな い ので あ る。 で、 之 等 も そ の精 神を 基 準 と し て見 る 方 が 穩 が ん 當 で あ らう 。 が ん ノ\ い そ げ 、 諏 訪 の 湖 水 が 光 る ぞ。 右 の如 ぎも ,﹁夕 燒 小 燒 、 あ した 天氣 にな あ れ ﹂と同 じ く 、 自 由 詩 と歌 謠 と の渾融 であ る 。 ひ し と が つ た ひ し の み、 う ら で、 も す が な い た 。 雁 焚 火 ト ロ ノ\ 、 廣 い野 原 室 に 雁 が 散 る。 廣 い 野 原 に、 赤 く さ ち よ ぼ ノ\ 。 之 等 は 今 日行 は ると ころ の新 俳 句 と さ した 相 違 は な い ので あ る。 而 も 兒 童 は か の自由 律 を 知 ら す し て、自 己 の詩 を 成 し た ので あ る。 自 由詩 、自 由 詩 を こそ 兒 童 に奬 む べき であ る。 これ に 反 した 既 成 形 式 と し ての表 現を 強 いて模 擬 さ せ る事 は 、根 本 的 に罪 過を 兒 童 に犯す 。 今 日 の小 學兒 童 に、 調 子 本 位 の童 謠 、 三十 一音 の短歌 、 十 七音 の俳 句 等 の定 格 の詩 形 を 示し て、 彼 等 の内 觀 を そ の限 定 内 に続 せ し め よ うと し、調 律 を 整 へさし た り 強 ふ る こと は 、 とり もた ほ さ す 、 彼 等 の感 動 律 に對す る虐 殺 と な る。 彼 等 はそ の爲 に無 用 の、 不 自 然 の苦 し みを 苦 し み 、 形式 の枷 に絞 め られ て、 殆 ど 何 等 の興味 無 き 所 謂歌 作 り 俳 句 作 り に、細 心 の詩 情 を傷 け ら る べく、 從 つ て生 氣 精彩 を失 ひ 、威 人 型 に歪 み 、 調 子 や音 數 の みを 指 に數 へる で あ らう 。 生 き た 詩 の うま れ る筈 が な い の であ る。 つま り 死 調 で あ つ て、 形式 の爲 の形 式 に過 ぎ なく な る であ ら う。 短 歌 の 一例 を引 いて み る。 , 進 む 汽 車 立 つ て 見 遞 る か が し を ば 僕 ら は そ れ を 指 ざ し 笑 ふ , 童 謠 の 一例 ふ と ん 物 十 竿 に さ が つ て る 風 が吹 く た び に 赤 い ふ と ん は の ん き も の、 'そ よ く ふ ら /\ う こ い て み ん な で な か よ く ひ な た ぼ つ こ。 思 ふに 短歌 俳 句 のご と き格 律 の 正し い定 型 詩 は 、 日本 詩 歌 の傳 統 を 相 當 に研鑽 し た後 に作 す べき で あ る。 定 型 に於 け る内觀 の統 一、 律 動 の自 在 に到 つ て は、 修業 十年 の徒 も 禾だし く 、 嶮 岨 の道 に喘 ぐ の で あ る。 これ を 兒 童 に強 ひ て、 本 然 の内 在律 の表 現 を 殺 し 、 單 に音 數 を 數 へし め 、 個 性 無 き 死調 を爲 さし む るは 無謀 と 云 は ねば な るま い. 童謡 調 の 如 き も 同 じ 理由 によ る の であ る 。 兒 童 には自 由詩 であ る。 私 は 斷 然小 學 兒 童 の定 型詩 敏育 を 排 繋 す る。 卿 自 由 律 の 必 然 性 天體 天象 、 兒 童 が臼 由 詩 を 作 る に到 つて 、彼 等 自 身 が 個 の光 輝 を愈 々強 め つつ あ る事 は 、 儼た る事 實 であ る。 彼 等 は自 由を 知 つた 。 詩 を 知 つ た 。 詩 に よ つ て 、 釜 々 自 己 の 内 觀 を 深 く し た 。 而 も 自 常 の 彼 等 の 生 活 に於 て 、 そ の 周 圍 ー 郷 土 、 動 植 物 、 金 石 、 人間 感 情 、 社 會 相 等 に就 ても 智覺 を 豐 富 にし 、 觀 照 を高 め 、美 と 眞 と 善 と に對す る信 愛 、ま た 夢 魔 と幻 想 への可憐 な る憧 憬 を も何 時 か ら とな く よ く 識 る や う に な つた 。 彼 等 は 個 と し て天 眞 の自 れ を 解放 さ廓 た 喜 び に 、 恐 らく わく わ く した で あ ら う。 彼 等 はし ん /\ と し て生長 す る も の の幸 輻 を 、 詩 を 通 じ て 、 彌 が 十 に意 識 し て 來 た 。私 は 聽 い てゐ る。 ま るで仔 鹿 の やう な 彼 等 の小 跳 り と 足音 とを の 私 は此 の十數 年 間 、﹃赤 い鳥 ﹄で、 彼 等 の自 由 詩 を導 い て來 た 。毎 月勲 は 二 千人 以 上 の兒 童 の詩 を 通覽 す る こ と に於 て 、常 に彼 等 の友 人 で あ る こと の幸 幅 を 味 ひ つ つあ る。而 も 彼等 と共 に喜 び、 彼 等 と 共 に驚 き 、 彼 等 と 共 に憤 り 、 笑 ひ、 悲 し ん で ゐ る。 彼 等 こそ 純 眞 の使 徒 で あ る 。 些 も 彼等 の感 情 を 僞 ら ぬ。 彼 等 の叡 智 は鋭 い。 彼等 の 直覺 は 鋭 い。 無 邪 です 。 彼 等 の氣 稟 は 、雪 のご と く、 若 草 のご と く 、 野 茨 のご と く薫 る。 私 は彼 等 の詩 稿 を 一枚 一枚 めく る。 そ の書式 、書 體 、詩 風を 一日 見 ると 、 殆 ど 、 彼 等 の稟 質 、 仆格 、智 覺 の程 度 、 體 格 、 家 庭 等 ま で 、凡 そ は 直 覺 し 得 るほ ど に な つた 。不 思 議 の や う であ るが 、 多 年 の經 驗 で觀 相 家 と同 様 の判 斷 が 下 せ る やう にな つた。 三 十萬 篇 以上 は 既 に見 て來 た か ら であ る。 書 式 書 體 墨 色 でわ か る の は觀 相 の部 に屬 す るか も 知 れ な い。 併 し詩 風 を見 て判 別 し得 る の は極 め て合 理 的 で あ る。 何故 か な らば 、 そ の感 情 の 表 現 が 、 一に内 在 律 そ のま ま の發 想 であ るか ら で あ る。 整 齊 した 調 律 の童謠 詩 歌 俳 句 な ら ば、 た だ 形 式 のみ の死調 と なり 干篇 一律 萬 人 一態 で 、 生 温 るく ぼか され て了 ふ。 自 由律 はそ れ さ な が ら で あ る故 、 兒 童 のそ の詩 作 時 の顏 付 や動 作 、性 格 ま でが瞭 然 と 目 に 浮 ぶ 有 幅 た家 の兒 、貧 突 の兒 、 兩 親或 は 片親 のあ る兄 、 孤 兒 、 同 胞 のあ る兄 、繼 子或 は養 子 、か う し た表 面 的 の こと は 、 そ の詩 句 の 上 に明 ら か に露 は れ る の で少 しも 奇 とす る に足 り な いが 、 そ の初 句 の ぶ つけ 方 、 一行 の長 さ 、行 の切 り 方 、末 行 の 止め 方 で陽 性 か 、陰 性 と か、 激 情 し 易 いか 、 忍 耐 強 い か 、 恐 ろ し い癇 癪 持 か 、 飄輕 者 か等 々 々が 、そ の 身 振 と共 に必す 表 現 さ れ て ゐ るか ら であ る 、 これ こそ 全 く 自 由律 の詩 の美 徳 で あら う 。 そ れ 以上 の細 微 に到 つて は、 より 複 雜 な 論 明 を 一々の詩 に つ い て要 し よ う。 私 は感 知す る。 かく し て こそ 、兒 童 もそ の詩 を 通 じ て光 る。 幸 幅 であ る。 成 人 の散 文派 の自 由 詩 には 、感 動律 そ のま ま の發 想 な る も のが、 本 質 的 で な く 、 と もす ると 理 知 的 に行 4 0を切 るか 、 冗 漫 か 、論 明 か 、 比喩 の過 剩 か 、 言辭 の粉 飾 が きら き ら し いか 、 可 なり に的 確 でな い場 合 が あ る。 そ こ へゆ く と兒 童 の白 由 詩 は本 物 で あ る、率 直 で あ る。 詩 の韻 律 と し て. 一本 氣 で感情 のま ま に波 う つ てゆ く。 言 葉 を 飾 らな い、 第 一印象 です ば り と や る。 無 用 の訂 正を し な い。感 覺 的 で あ つて、 論 明 や粉飾 を しな い。 最 も自 由詩 の眞 骨 頂 を 體 得 し てゐ る か の如 く 、本 然 に彼 等 の正 し い表 現 を 示す 。 兒 童 に は自 由詩 を こそ 創作 せ しむ べき であ る 。 V 成 人 と 児 童 の 觀 照 ﹃赤 い鳥 ﹄ の兒 童 の自 然觀 照 が、 いか に 正確 で新 鮮 な感 覺 に滿 ち てゐ るか 、 ま た いか に叡 智 に富 み 、 想感 的 に光 つ た も ので あ る か と い ふ こと に つ いて 、私 は改 め てこ こ に例 證 し て見 よ う と思 ふ。 た し か に 彼 等 の寫 生 の態 度 は 進 ん で 來 て ゐ る。 兒 童 は 決 し て多 く の世 間 人 が 見 る や うな 、單 な る感傷 家 で はな いの であ る。 ま た 成 人 く さ い機 智 とか 面 白 が り と かを 離 れ て 、眞 の正 し い自 然 を 觀 、白 己 の生 活を 觀 ると い ふ眞 實 の態 度 に よ つて こそ 、 初 め て正 し い詩 の世 界 を 知 り、 ま た 詩 を 生 み得 る の だと い ふ こと を 、彼 等 は た し か に會 得 し て來 た 。 これ は傑 れ た詩 人 た ち の信 條 を信 條 とす るも の であ つ て、兒 童 だ か ら と いつ て、 詩 の道 とす る と ころ は少. しも蠻り は な い。 兒 童 は 直 面す る と こ ろ のも のを 確 か に觀 る。 簡 潔 に い へば 、 竹 は 竹 と觀 、松 とも 棕 櫚 と も觀 る こと はな い。 成 人 が 竹 と 觀 るも の は兒 童 にも 竹 と 見 え る 。た だ成 人 の詩 家 は 境 涯 と し て の深 い心 よ り 觀 、兒 童 は觀 た ま ま で本 質 を直 觀 す る。 そ れ だ け の相 逹 であ る。 で、 あ ら ゆ る兒 童 は觀 て、 ま た觀 る と こ ろ のも の の墫 さ を 自覺 し得 す 、 片 端 か ら 忘 れ て 了 ふ如 き であ る。 さ う し てま た 、 通 俗 な 、雜 念 の多 い成 人 か ら 胡魔 化 され て了 ふ。 だ が 、 些 か で も自 然 を 觀 る こと に 於 て 、自 己 の眞實 を翼 實 とす る自 覺 が つ い て來 て、 初 め て兒 童 の詩 の價 値 と し て の光 輝 を 、 彼 等 の目 前 に展 いて來 る ので あ る 、こ の自 覺を 得 せ し め る事 が、 自 由詩 誘 導 の第 一要 訣 だ ら う と 思 ふ。 兒 童 もす ぐ れた 詩歌 人 と 同 じく 正 しく觀 ると い ふ こと に つい て五 六 の例 證 を 左 に擧 げ て見 る ことと す る 、 (高 一) ρ長 塚 節し ゆ く り な く 拗 切 り て み つ る 蠶 豆 の 青 臭 ふき とり く し て 懐 か し き か も ふ き を た く さ ん 舳 と つ た 手 が ふ き く さ く な つ た。 ○ わ か 竹 の う は 葉 が 落 す 露 の た ま し の の め 深 く 下 葉 に 鳴 る も .. ・ 篠 竹 の う は 葉 の 露 の こ ぼ れ 來 れ ば 下 葉 も と も に 鹽 嚇 つ ゆ (窪 田空穗Ψ β尋⊥ C 露 こぼ し つ つ 櫻 の 葉 に つ ゆ が た ま つ て る。 つ ぎ の 葉 へう つ る た ん び に こ ぼ れ る、 ま た 、 こ ぼ れ る ○ な ん ど で も こ ぼ れ た。 β尋 六し (北原白 秋) 雨 ふ れ ば晴 れ し御 室 ぞ な つか し きそ の 雨 青 室 も さ び し と 思 へど 日 和 が つづ け ば 雨 ふ つ て ほ し い。 雨 ふり つづ け ば に く ら し い。 ○ 獨 樂 ふ た つ觸 れ て か な し も 獨 樂 ふ た つ 廻 り 澄 み つ つ 觸 れ て か な し も 廻 る よ 廻 る よ 、 獨 樂 ふ た つ、 (白 秋) (白 秋 ) さ は れ よ さ は れ よ 、 獨 樂 ふ た つ、 ○ う な れ よ、 う た れ よ。 日 を あ げ 百 姓 、 (高 二し 雀 が 木 か ら こ ぼ る る こ ぼ る る つ ば め の子 つ ば め の 子 が 大 き く な つ て、 ○ 巛 果か ら こ ぼ れ さ う だ。 (白 秋し 日 に 見 え て 冬 の 日 遠 く た り に け り き の ふも 冬 の 日 け ふ も 薄 く み ぞ れ し て 冬 の 日 は 遠 い よ、 山 の 雪 が 光 る よ、 ○ す ぐ 暮 れ る よ。 (木下利玄) 牡 丹 花 は嘆 き 定 ま り て靜 か な り 花 の占 め た る 位 置 のた し か さ (同) 花 び ら の匂 ひ 映 り あ ひく れ な ゐ の 牡 丹 の奥 の か が よ いの濃 さ (同) 花 に な り 紅 澄 め る鉢 の 牡 丹 し ん とし て を り 時 ゆくまま に (高 二) (同) 牡 丹 花 の大 き な 花 び ら 蕚 は な れ 低 木 の 下 の ぼたん 地に移りた る 夕 日 の光 に て ら さ れ た ぼ た ん は 赤 く 光 つ て る。 光りな がらう こいて 花 び ら 一枚 ○ お ち た。 家 い で て 我 は 來 ・し と き 澁 谷 川 に 卵 の か ら の さ か な の う ろ こ が 風 が 吹 い て 來 た 、 明 日 の 晩 ま で ペ ン キ の か め に お つ こ ち た。 昨 日 の ば ん に ペ ン キ 屋 さ ん の 青 蛙 ハ芥川 龍 之 助) が な れ ゐ に け り (齋藤 茂 吉) 川 流 れ て 來 た。 へも ペ ン キ 塗 り た て か 青 蛙 お ま ○ い た づ ら よ そ より 育 蛙 (尋、 ) ' 兒 童 の 自 然 觀 照 自 然 觀 照 の 兒 童 自 由 詩 が 如 何 な る も の か 、 更 に そ の 片 鱗 を 例 證 し て 、 そ の高 度 を 檢 べ て み ょ う お 星 樣 ( 尋 四) と 思 ふ。 以 下 解 論 す べ き で あ る が 紙 數 に 制 限 が あ る 故 、 略 す る 。 十 分 に 味 つ て 戴 き た い 。 お 星 さ ま ピ カ ピ カ 枝 の鳥 (尋 三) あ み の お さ か な だ。 霜 ふ り て、 白 く な り た る か れ 枝 に、 名 も 知 ら ぬ 鳥 の よ き こ ゑ よ。 き く と す す め (尋 六) か れ た き く に ほ こ り が た ま る 風 の あ た る 木 に (尋 五U す す め の こ ゑ。 月 小 川 に う つ る 月 流 れ る や う な 月 牛 乳 く ば り。 百 日 .紅 の鼎 化 (尋 六) 道 を あ る く と、 ほ こ り が あ つ い、 ほ こ り の 上 に (尋 六) 百 日 紅 の 花 が お ち て ゐ る。 と ん ぼ 竹 の て つ ぺ ん へ と ま つ た と ん ぼ、 へと ま つ た。 竹 の 先 が ま が つ た の で、 次 の 竹 へと ま つ た。 竹 の 先 が ま が つ た 叉 次 の 竹 か ぞ へ る や う に、 .ど の 竹 へ も と ま り つ つ (尋 三) う れ し さ う に 飛 ん で ゐ る。 花 花 が さ い て ゐ る、 影 が う つ つ て ゐ る。 ま つ く ろ な 影 光 つ て 來 た。 影 が し も (尋 五) 淌 え て つ た。 し も が 降 る、 す う ん と し て、 し つ か な 中 に、 と り の な く こ ゑ 、 こ け つ こo 麥 こな し ( ︺ 口 回二) こ け つ こ、 隣 で 麥 こ な し、 麥 が ら が 吹 い て く る、 夕 立 雲。 菊 を ん ど り が は ば た き し た ら 動 いた。 ひ ら き か け の 菊 が ぞ は く W 児 童 の生 活 感 情 と 詩 兒 童 には 兒童 の世 界が あ る 。 彼 等 の生 活感 情 の素 朴 で純眞 で 、而 も 常 に鮮 新 であ る こと は 、 而 も また 驚 く べ ぎ黌 富 であ る こと は 、彼 等 が 如 何 に自 然 の寵 兒 であ り 、 人 生 の光 輝 で あ る か が わか る。 か の兒 童 の自 然 觀 照 は 、 ま た 單 に季 節 と 風 景 と の寫 生 のみ に 畢 らす 、 彼 等 の内 觀 と 渾 融 し 、 生 活 と蓮 關 す べ き は當 然 の こ と であ る 。 ま た 自 然 觀 照 以 外 、純 粹 抒 情 詩 と し て の作 口聞も 、 お のつ か ら彼 等 の生 活 か ら 生 み出 し て來 べ き ことも 必 然 の こと で あ る。 か う し て 凡 て に於 て、 詩 境 は實 相 を觀 る こと よ り展 開 され る こと を 、愈 々兒 童 逹 が識 り 、 そ の生 活感 情 の機 微 を も 捉 へて 詩 と成 す こ と の修 練 を 愈 々に積 ん で來 た こと は指導 者 た る私 とし て欣 喜 に堪 え な い ので あ る。 よく こ の高 處 ま で向 上 し てく れた と思 ふ、 今 や日 本 の子供 は 立派 に彼 等 自 身 の詩 を成 す こと を知 り 得 た の であ る。 さ て抒 情 味 の勝 つた 彼 等 の作品 に つい て例 證 し てみ よ う。 雨 (尋四、貧し い勞働者 の子) あ め 、 や め 、 あ め、 や め、 あ め が や ま ね ば つ ば き (尋 三) か つ ゑ ま す。 つ ば き 、 つ ば き 、 は や く さ け、 夜 (尋 六) お ま つ り が く るo 弟 が う そ 字 を 書 い て ゐ る、 妹 が 菓 子 を た べ て ゐ る、 朝 (尋 六) が ん の 聲 が 近 づ い た。 霧 が ぼ ん や り か か つ た、 つば め が 二 羽 と ほ つた 、 思 ひ 出 し て さ よ り 賣 (高 一) 臺 所 を は い た。 ' へ も ど れ ば ど な ら れ る。 さ よ り は 賣 れ ん、 家 西 の 山 へ (尋 六) 一人 で よ ん で 見 た 。 な つか し い手 紙 日 は 這 入 つ た。 幾 度 も 姉 さ ん か ら 來 た 手 紙 、 あ ふ む け に な つ て、 赤 い 夕 日 を 見 て ゐ た が、 何 だ か な つ か し い。 一度 よ ま うo 酒 の に ほ ひ (亠 口 回一) も う 一人 で 寢 て ゐ た 、 誰 か も ぐ り 込 ん だ の で、 日 が さ め た、 お 父 さ ん だ つ た。 酒 が に ほ つ て ぬく い日 ρ高二) 眠 ら れ な か つ た。 ぬ く い 光 が 倉 の 戸 に あ た る。 戸 に も た れ て ゐ た ら、 思 ひ出 蕁 五) ひ と り で 笑 へ て來 た。 け ん く わ を し て 歸 る 道、 坂 の 上 ま で 行 つ た と き、 ひ よ つ と 後 ろ を 見 た ら ば、 そ の 子 も 新 曲 牙 (古 回二し こ ち ら を 見 て ゐ た。 は か つ て 見 た、 お 裁 縫 の 歸 り、 雨 上 り の、 ば ら の 新 芽、 あ た ら し い も の さ し。 お む か へ (尋 二) f き し や が ぼ う つ と 來 たo か あ さ ん が 來 た か な。 あ、 よ そ の を ぢ さ ん の う し ろ か ら、 ち ら つ と 見 え た。 む ね が 電 き つ と し て、 う れ し か つ た。 お 友 達 (尋 四一 ) よ こ を 向 ひ て る お 友 だ ち、 ほ ほ の や は ら か い・ 細 い 毛 がう 白 く 光 つ て ゐ る、 思 は す さ は り た く た る。 ゐ る と、 自 い 蛋賀 (尋 二) 夕 方 、 , 凧 を あ げ て あ の 白 い 雲 は、 徳 ち や ん も あ げ に き て、 ﹁通 さ ん 、 風 だ よ ﹂ と 云 つ た 。 わ か れ た 路 Ω口 回一) へ來 た。 さ よ な ら と 別 れ た 路 あ の 時 こ の家 に は ひ ひ ら ぎ の 花 が こ ぼ れ て ゐ た つ け、 な ど と 考 へ な が ら、 私 は 朝 も や の 中 を、 汽 車 の一 音 (高 一) , う め も ど き の 垣 に 滑 つ て 行 つ た。 い つ も 聞 え な い 汽 車 の 一 音 が、 姉 さ ん の 歸 る 日 に は ﹂な ま い き (尋 五) ぬ 日 聞 え た。 お れ が し ゆ ん ち や ん を か ま つ た ら 、 し ゆ ん ち や ん が お れ の 頭 を た た い た。 お れ が う そ な き を し た ら、 或 日 (尋 五) ・ や ら う が 困 つ て な あ な あ と 云 つ た。 あ あ、 或 日、 い や な 日、 通 知 簿 で、 杣 脇堺 hソ (越 尋亠 ハ)﹂ 叱 ら れ た 日。 學 校 の 歸 り 、 ひ よ い と う し ろ を 向 い た ら、 花 ち や ん と 時 ち や ん が ひ そ ひ そ と 話 し て ゐ るQ 私 は ひ と り で 小 春 日 和 ( 尋 六) ' す ん す ん 歸 つ て し ま つ た。 め ん ど り が な い た よ、 弗 が 卵 を 持 つ て、 ど や の 中 か ら 、 笑 ひ な が ら 出 て 來 た。 な ん と な く ゆ 兄 さ ん を 途 つ た 時 (尋 六﹄ ) あ, た た か な る 日。 へ い た い 逡 り の か へ り み ち、 ぶ う と,に ほ つ た 、 (尋 六) ば ら の 花。 、 友 だ ち 泣 き た い ほ ど ぶ つ つ か つ た 友 だ ち と 二 人 で 笑 つた 、 幼 兒 放 課 後 の ⋮ 數 室 の 轟 入 口。 皿 の 詩 兒 童自 由 詩 運 動 は 、 ま た更 に幼 時 の詩 に於 け る提 言 、 蒐 集 、 研 究 、誘 發 等 の派 生 的事 業 を 、 私 に齎 ら し た。 此 の + 年 間 の こと であ る。 そ の結 果 は 、 曾そ 雜 誌 ﹁コド モノ ク ニ﹂ 等 に於 て募 集 し嚴 選 し、 後 に私 の編 纂 し た 日 本 最 初 の (恐 らく 世 界 でも )幼 兒 の綜 合 詞 華 集 であ る と ころ の ﹃日本 幼 兒 詩 集﹄ ρ昭和七年 版) に そ の選 良 のみ を 牧録 し た。 既 に小 學 兒 童 の自 由詩 が開 顯 され 、 從 つ て學齡 以 下 の幼 兒 の詩 にま で、 そ の副 射 が及 ぶ こと■ は ま た 當 然 の成 行 であ る。 幼 兒 の 言葉 の音樂 が 、詩 が、 私 の奬 慂 に よ つて 、 そ の よき 保 姆 や 父 兄 た ち に發 見 され 、 董 育 され 、 向 上 され つ つ、 着 々と し て成 果 を あ げ つ つ ある こと は 、私 の喜 び で あ る 。 幼 兒 は囀 る。 そ のお ぼ つかな 片 言 のそ も そ も か ら 、 そ の囀 む は 、 彼 等 白 身 、 生 れた 者 の麗 質 を 以 てす る。 内 か ら の 發 光 が繁 く な る に つれ て 、彼 等 はま た 複 雜 に 自 在 に そ の感 動 の生 々律 を 言葉 の文 に移 し得 る。 彼 等 は 文 字 を 以 て綴 ら ぬ。 言葉 そ のも のを 以 て歌 ふ。 眼 で見 る詩 で無 く 、 耳 で 聽く 本 來 の言 葉 の音樂 を 以 てす る。 彼 等 の詩 が 一に お のつ か らな 歌 謠 體 で あ るば かり でな く 、 正し い意 味 の自 由詩 と の混 淆體 であ る ことも 十分 認 識 さ れ て あ ら ね ばな ら ぬ。 童 謡 を 包 括 し た 童 心童 語 の詩 が 之 等 の幼 兜 の詩 で あ る と 思 ふ。 幼 兒 は いか な る詩 の天 オ 者 と も 、 そ の光 輝 を爭 ふ に相 當 な素 質 を 現す 。 幼 兒 こ そ 生 のま ま の詩 人 で あ る とも 云 へる。 求め られす し て彼等 は歌 ひ、 そ れ 自 身 の詩 をま た知 る と こ ろな く 忘 れ てゆ く。 さう し た 瞬 間 を 、 そ の保 護 者 の手 で永 遠 に留 め て置 いた 詩 、 さ う した 詩 が之 等 の詩 であ る。 幼 兄 を幼 兒 の世 界 に認 め 、花 瓶 の位 置 に据 ゑ よ で あ る。 幼 児 は 囀 る。 か の天 才者 の光 を聲 と し 、律 と す る 、併 し な が ら、 彼 等 の獨 語 は、 時 と し て落 葉 松 の風 のご とく 幽 か に、 紋 白 蝶 の翅 の粉 の ご とく 細 か であ る。時 と し て は軌 道 を 逸 し た 豆汽 車 のご とく 走 り 、埒 も な き木 琴 の撥 のご と く 躍 り 跳 ね るで あ ら う 。 如何 に し て眞 に聽 き 取 り 、 如何 に し ガ し詩 と し て│ 仕 切す ︽カ るッ かトに︾つい ては 、 日常 の愛 と 、細 緻 な 注 意 と 、 さ う し て藝 術 鑑 賞 の犀 利 と高 度 と が必 要 であ る。・ で 、之 等 の幼 兒 のす ぐ れた 詩 のあ ると ころ には 、 そ の保 育 者 た ち のす ぐ れた 愛 と詩 魂 と 敏養 と が常 に滿 ち てゐ る 。 さ う した 環 境 こそ は 惠 ま れ てい い。 の詩 を囀 つて ゐ る。 不 幸 にし て そ の詩 を 自 らも 知 らす 周 圍 も 知 ると ころ な く 而 も ま た 、 あ な がち さう し た 惠 ま れ た環 境 の幼 兒 た ち のみ が 、 そ の詩 的 天 分 の保 持 者 で な いと いふ こと で あ る。 つ ま り 凡 ての幼 兒 は お な じく 常 にそ れ く し て取 り逃 が し て了 ふ こと が多 い の であ 惹。小 學兒 童 は既 に自 ら詩 を書 き、 そ の感 動 を何 等 か の詩 の 形 に留 め て置 く こと を 知 る。 故 に如 何 に貧 し い家 庭 の兒 童 も 、 光 る べき は 光り 、 進 む べき は 進 み つ つあ る。 寧 ろ 有 幅 な 都會 の兒 童 よ り も 、か の山 間僻 地 の兒 童 の方 が 、兒 童 と し て のよ り 眞實 性 に 生 き、 自 然 のよ り 正 し い觀 照者 であ るか と い ふ 尸︺と に 驚 か れ る。 但 し 、幼 兒 の言 語 藝 術 は よ き保 護 者 が無 け れ ば 、 折角 の詩 の白 い翼 も 瞬 間 に淌 え行 つ て了 ふ。 さ て 、` 私 は 、 幼 兒 の詩 が、 如 何 に天 眞 の流露 と 、感 覺 の鮮 新 性 と 、 必然 の憾 動 律 と 、 そ の表 現 の自 由 であ るか を 、 日本 の幼兒 た ち の詩 に於 て發 見 した 。 何 處 の地 上 に これ ほ ど の幼 い詩 人 た ち の合 唱 が聽 か れ 得 た か 。 さ う し て、 此 の 豐 か な 果 樹 園 のや うな 香 氣 と 光 と が釀 さ れた か 。 フ エア リ ーは 、 踊 る であ ら う 。 此 の美 し い 、 邪 心 の無 い緑 のそ よ ぎ の中 で。 終 り にま た 少 々例 證 さ し て戴 く 。 朋 蟲 の舞 (二歳 i 三歳) 蟲︽ 、わち︾ 蟲. 蟲、 蟲︾ ﹂ , ・ 蟲. 蟲 , ・蟲 、 蟲 . 、 蟲、 蟲. し 蟲. 蟲. 蟲. 蟲、 蟲. ,, , ご つ ち よ ち や ま (二歳ー 三 歳) ご つ ち よ ち や ま。 パ パ ご つ ち よ ち や ま。 . マ マ 坊 や .岬 ご つ ち よ ち や ま。 お 葡 萄 ご つ ち よ ち や ま。 お 月 樣 (四 歳 ) 噛 ,, , み ん な み ん な ご つ ち よ ー ち や ま。 お 月 樣 と と だ な、 あ を 筌 お よ い で る 雪 こ を (四 歳 ∪ 、 註 ﹁と と ﹂は 魚 こ ん 雪 か う 。 に 行 と り ん と に ふ 早 く 行 か 砂 て し ま の 中 か く れ 、 、 .、 、 , ., , ﹂ t. . ご ほ ろ ぎ (四 歳 ) こ ろ、 こ ろ。 こ ろ. ぎ よ . こ ろ. ご ろ , に . (四 藏 )、 ふ ろ よ。 ふ ろ う べ お し た お ゆ ま は ひ り お か あ さ ん お ふ ろ の な か に お つ ば い を し づ め た で し よ, お つ ば い が ぬ れ た で し よ。 そ し て ま た お み つ ざ あ つ て か け た わ。 蚊 帳 (四歳) お も し ろ か つ た わ ね。 蚊 帳 を つ つ た ら, 草 の よ な 飛 行 機 (四歳 ) に ほ ひ が す る。 桃 ん へ、 畑, う 飛 行 機 、 お 豆 腐 屋 さ ん 今五歳 ) 註 ﹃桃 ん﹄.は 桃 の 飛 行 機。 と う ふ、 と う ふ て 坊 や。 お 豆 腐 屋 さ ん て。 つ ち や う だ い て。 は ア い つ て。 お 豆 腐二 ト ン ト ン ト ン て 津 川 の 町 あ む い (六歳 ) 雨 が 降 つ て こ ま り ま す つ て。 津 川 は 、 さ む い ざ む いざ 雪 は ふ る. ふ る,ふ う る. 冬 は な が い な が い、 な あ が い。 雨 雲か ら (七歳し ぶだうが ぼろぼろ 白牡丹 (七歳Ψ ふ つ て き た。 お 日樣 が て ら て ら 光 つ て る, そ こ に 嘆 いた き れ いな 白 牡 丹 あ れ あ れ き れ いな ふた つの 足 (八歳し 自 牡丹 お 布 團 の 中 で は、 ふ た つ の 足 が. 遊 ん で ゐ る や う だ ね. 、