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各種半導体素子と応用回路
パワーエレクトロニクス(電気電子回路演習) 講義資料 2013.05.16 (木) 6.各種電力半導体デバイスと応用回路 6.1 半導体とは? 半導体(semiconductor)の名は、物質固有の電気抵抗率が導体と絶縁体の中間であることに由来している。電 流を流しやすい物質(電気抵抗の小さい物質)の代表としては銀(Ag)や銅(Cu)があり、これらを導体とよぶ。 一方、電流が流れにくい物質としてはゴムやガラスがあり、これらを絶縁体という。しかし、この導体と絶縁体の区 別ははっきりと定まっているわけではなく、中間的な物質としてこれらを半導体とよぶ。代表的な半導体物質として は、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)がある。シリコンやゲルマニウムの単結晶を真性半導体とよび、これに対して シリコンやゲルマニウムにアンチモン(Sb)やインジウム(In)などの金属を少量混入させたものを不純物半導体とよ ぶ。ダイオードやトランジスタなどの半導体デバイスは、この不純物半導体で構成されている。 6.2 真性半導体の導電機構 原子は、原子核(陽子、中性子、その他からなる)とその周りを周回する電子で構成されている。シリコンの原子は、 電子の周回軌道の最も外側の軌道に4個の電子があり、この軌道にはさらに4個の共有電子座席数(ここに電子が 埋まると、エネルギー的に安定な状態となります)がある。 シリコンの単結晶では、原子同士が隣の原子からの4個の電子を共有して強固に結びついている。(共有結合) 図1に、シリコン原子をモデル化して示す。このシリコン電子の結合力は、1.1 eV である。(1 eV とは1V の電位差 中で電子が得るエネルギーで 1.602×10-19 (J)) シリコン単結晶に、外部からエネルギー(熱あるいは電界な ど)を加えると、電子は共有結合から離れ、結晶中を自由に動 Si Si Si くことができる自由電子となる。このとき、電子の抜けた部分を 正孔(ホール)とよび、+1.602×10-19 (C) の電荷をもつ粒子 として扱うことができる。従って、半導体では、電荷を運ぶもの Si Si Si として電子と正孔の二種類があり、これらをキャリアとよぶ。 6.3 不純物半導体 図 1 シリコン原子モデル [1] N型半導体 シリコン結晶中に5価(最外郭電子数が5)の不純物、たとえばアンチモン(Sb)やヒ素(As)など、を注入したものを N形半導体とよび、その原子モデルを図2に示す。シリコンとアンチモンが共有結合するとき、アンチモンの1個の電 子はシリコンと結びつくことができないため、この電子(余剰電子)は小さなエネルギーを得てアンチモン原子から離 れ、自由に動き回ることができる自由電子となることができる。従って、N形半導体は、自由電子を多く持つ半導体と 考えることができる。 [2] P型半導体 シリコン結晶中に3価(最外郭電子数が3)の不純物、たとえばインジウム(In)やガリウム(Ga)など、を注入したもの をP形半導体とよび、その原子モデルを図3に示します。シリコンとインジウムが共有結合するためには、インジウム に1個の電子が不足するため、これがホール(正孔)となります。このホールは、比較的小さなエネルギーで隣の原 子の電子(あるいは自由電子)が埋まるため、ホール自体が移動しているように見える。従って、P形半導体は、正 孔を多く持つ半導体と考えることができる。 不純物 不純物 Si Si Sb Si 正孔 余剰電子 Si Si Si In Si Si 図2 N形半導体の原子モデル Si Si 図3 P形半導体の原子モデル -1- 6.4 PN接合とその電気的特性 P型とN型の半導体を、原子レベルで接触させたものをPN接合とよぶ。図4に、PN接合におけるキャリア(P型で は正孔、N型では電子)の状態を示す。接合面がつくられた瞬間、同図(a)に示すように、拡散現象(濃度の高いと ころから低いところに物質が移動する現象で、煙や水槽内のインクが拡がっていく現象も拡散)によりキャリアは互い の領域に移動し始める。この拡散により、同図(b)のように、P型領域に電子、N型領域に正孔が移動すると、この電 子と正孔によってつくられる電界が、それ以上の拡散を妨げ、平衡状態になる。このとき、接合面付近では電子も正 孔もない領域ができ、これを空乏層とよぶ。 PN接合半導体のP型とN型のそれぞれに電極を設け、電極間に電圧を加えると、電圧の極性によりPN接合間 を流れる電流の大きさが異なる。 図5(a)は、P型にプラスの電圧を加えた場合を示したもので、これを順方向バイアスとよぶ。順方向バイアスでは、 電圧 VC により発生する電界は空乏層の電界と反対方向のため、電圧 VC により発生する電界が空乏層の電界を打 ち消すと、N型の電子がP型領域に、P型の正孔がN型領域にそれぞれ空乏層を超えて移動するため、回路に電 流が流れる。 一方、図5(b)は、N型にプラスの電圧を加えた場合を示したもので、これを逆方向バイアスとよぶ。逆方向バイア スでは、電圧 VC により発生する電界と空乏層の電界は同じ方向である。正孔がP型の電極側に、電子がN型の電 極側に引きつけられるため、回路に電流が流れ難くなる。 図6は、PN接合半導体における電圧電流特性の概略図を示したものである。ただし、 VC 0 の領域は順方向バ イアスであり、 VC 0 は逆方向バイアスの特性を表している。 PN接合半導体の電圧電流特性を利用したデバイスをダイオード(diode)といい、整流回路などに利用されている。 接合面 正孔 N型 P型 空乏層の電界 空乏層 電子 N型 P型 - + (a) (b) 図4 PN 接合における電子と正孔 P型 N型 I VCによる電界 P型 VC N型 VCによる電界 VC (a) (b) 図5 PN 接合の順方向・逆方向バイアス Id P N Is 0 Id VC VC (a) (b) 図6 PN接合における電圧電流特性の概略図 -2- 6.5 接合トランジスタ (Bipolar transistor) 接合トランジスタとは、P型とN型の半導体をPNPあるいはNPNの3層構造として、増幅機能やスイッチング機能 を持たせた能動素子である。接合トランジスタは、電子と正孔(ホール)の2種類のキャリアの相互作用によって電流 が流れ、動作するトランジスタという意味で、バイポーラトランジスタとも呼ばれる。図7は、NPN型トランジスタの構 造を概略的に示したものである。NPNの各層に端子を付け、それぞれエミッタ(E)、ベース(B)及びコレクタ(C)と 呼ぶ。ベース領域は他の領域に比べて狭く(数十ミクロン程度)作られている。また、エミッタとコレクタ領域は、とも にN型半導体ですが、エミッタのキャリア密度がコレクタに比べて多くなるように作られている。 図8(a)に、NPN型トランジスタの構成モデルとその電気回路記号を示し、PNP型トランジスタの構成モデルと電 気回路記号を同図(b) に示す。電子回路記号において、エミッタとコレクタを区別するため、エミッタ側に図示のよう な矢印を付ける。 [1] ベース接地とエミッタ接地回路 接合トランジスタにおける電子と正孔の振る舞いを説明するとき、一般に、ベース端子の電位を零としたベース接 地による電気回路が使用される。 図9に、ベース接地でNPN型トランジスタの基本回路を示す。エミッタとベース間には、図示のように順方向バイ アス電圧 VB が加えられ、コレクタとベース間には逆方向バイアス電圧 VC が加えられる。各々の端子に流れ込む(あ るいは流出する)電流を IE, IB 及び IC とする。 コレクタ( C) エミッタ(E) ベース(B) C コレクタ( C) 電子 正孔 N P C P N N ベース(B) N C N B B B E E P P エミッタ(E) E (NPN型) (b) (a) 図7 NPN トランジスタの構造 N型 (PNP型) 図8 NPN, PNP トランジスタの構成モデルと記号図 P型 N型 正孔 電子 C E IE IC IE VBE IB VCB VBE IC IB B VCB 図9 ベース接地 NPN トランジスタの電子と正孔 ① エミッタとベース間が順方向バイアスであるため、電圧 VB により、エミッタ領域の電子はベース領域に加速され て入り込む。このとき、エミッタ領域で不足した電子は、図示のように、エミッタ端子から供給され、これがエミッタ 電流 IE となる。 ② ベース領域に入り込んだ電子は、ベース領域の幅が狭く作られているためベース領域の正孔とほとんど結合せ ず、コレクタ領域に通り抜けてしまう。なお、ベース領域に入り込んだ電子の一部はベース領域の正孔と結合し、 このとき不足した正孔はベース端子から供給され、これがベース電流 IB となる。 ③ 上記①によりコレクタに到達した電子は、コレクタとベース間の逆方向バイアス電圧 VC によりコレクタ端子側に 引きつけられ、コレクタ端子から注入された正孔と結合して消滅する。このときコレクタ端子から注入された正孔 がコレクタ電流 IC となる。 一方、エミッタ、ベース及びコレクタ端子の電流については、IC + IB = IE の関係(電流の連続性)が成り立つ。また、 上記の動作よりエミッタ電流 IE の一部がベース電流 IB となり、残りがコレクタ電流 IC となることがわかる。通常、ベー ス電流はエミッタ電流の5%から10%程度となるようにつくられているため、入力電流を IE、出力電流を IC とした場 合の電流増幅率αは、 -3- IC 0.95 0.99 IE (1) で与えられ、ベース接地では増幅機能を持たないことがわかる。このトランジスタを増幅器として利用する場合には、 次のベース電流を入力とするエミッタ接地で使用しなければならない。 図10に、図9に示すベース接地トランジスタ回路をエミッタ接地に変更した回路を示す。 VCB IC IC C C VCE IB B B IB E VBE IE IE E VCE =VCB +VBE VBE (b) (a) 図10 エミッタ接地回路 エミッタ接地で、入力電流を IB とし出力電流を IC としたときの電流増幅率をβとすると、βは(1)式のαを用いて、 次式のように表すことができる。 IC IC IE I B IC I E I E I E 1 (2) (2)式より、α=0.95~0.99 の場合β=19~99 であり、増幅機能を持つことがわかる。 6.6 サイリスタ (Thyristor) サイリスタは、1957年アメリカG.E社からSCR(Silicon Controlled Rectifier)の商品名で発売され、その後正 式名称サイリスタ(Tyristor)として呼ばれるようになった。その構造モデルは、図11(a)のようにPNPN層からなる。 アノードとカソード間に電圧を加え(アノードが+)、ゲートに電流を流すとアノードとカソード間が導通(短絡)する。 このサイリスタの導通機構は、図11(b)のように構造モデルを変換し、PNP型とNPN型のトランジスタと考えると 説明できる。図11(c)に等価回路を示す。 いま、A(+)、K(-)に電圧が加えられ、ゲート電流がゼロの場合、AとK間に電流が流れない。(NPの逆方向 バイアスのため)一方、微少なゲート電流を流す(GK間)と、増幅された Tr1 のコレクタ電流が流れる。このコレクタ 電流は Tr2 にとってはベース電流であるため、Tr1 のベース電流が大きくなり更に大きくなる。このように内部で正 帰還が働いて遂にはAK間が導通する。この導通状態は、ベース電流をゼロにしても続く。 図12(左図)に電圧電流特性の概略を示します。ゲート電流を流すことにより、ブレークオーバー電圧を下げるこ とができます。図12(a)及び(b)は、サイリスタの簡単な使用方法と、入力・出力電圧波形の概略を示したものであ る。図示のように、電源電圧の正期間の任意の時刻に Ig を流すとサイリスタはオン状態となり、以後 Ig=0 としてオン 状態を続ける。(自己阻止能力なし) A(Anode) P Tr2 N G(Gate) P G) Tr2 P N P ( N (A) (A) N Tr1 P N K(Kathode) (a) Tr1 (G) (K) (K) (b) (c) 図11 サイリスタの構造モデル、等価回路及び記号図 -4- (d) I v1 Ig v2 Ig VAK v Ig>0 0 0 Ig=0 v1 v2 VAK v1 Ig 0 (a) (b) 図12 サイリスタの電圧電流特性及び簡単な使用法 6.7 GTO (Gate Turn-Off Thyristor) (A) サイリスタは、自己阻止能力がない。そこで、基本構造は サイリスタと同じだがゲート電極とカソード電極を改良して、 ゲート信号で素子をオフ状態に出来るようにしたものが GTO(Gate Turn-OFF Thyristor)と呼ばれるデバイスで ある。 図13に、構造モデルと記号図を示す。GTOをオンさせる ためにはゲート電流を流し、これをオフさせるためにはゲー トとカソード間に逆電圧(ゲートに-、カソードに+)を加え る。 P N (G) P N (K) (a) (b) 図13 GTOの構造モデルと記号図 6.8 電界効果トランジスタ (Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor) 電界効果トランジスタは、図14(a)に示すように、P層内にN層を設けN層に電極を設けてドレイン(D)とソース (S)とする。ゲート(G1とG2)は酸化膜(SiO2)によりP及びN層と絶縁されている。 VD を加えると、逆バイアスされたPN接合部に空乏層が形成されます。VG を加えるとゲート電極近傍に電子が集 中する領域(これをNチャネル、反転層と呼びます)が生成され、この反転層を通してドレインからソースに向かって 電流が流れる。この電流 ID の大きさは、ゲート電圧 VG の大きさにより反転層の厚さが変化するため、VG により制御 できます。図14(b)と(c)に、MOSFETの記号図と電圧電流特性の概略を示す。MOSFETの特徴は、 1) ゲートが酸化膜で絶縁されているため入力インピーダンスが極めて大きく、ゲート電圧 VG によりドレイン電流 ID を制御することが出来る。 2) 小数キャリア(NPN型トランジスタではベース領域の電子)の蓄積効果がないため、スイッチング速度がバイポ ーラトランジスタに比べて優れている。 現在、パワーMOSFETとしては、900Vで50A程度のものが実用化されている。 酸化膜 G(Gate) D(Drain) S(Source) ID VG D ID VG N N G Nチャネル (電子) P 0 S VD VD (b) (a) 図14 電界効果トランジスタの構造モデル、記号図及び特性 -5- (c) 6.9 IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor) C トランジスタは、コレクタ電流が流れているとき、コレクタとエミッ タ間の電圧が殆どゼロとなるが、コレクタ電流を流すためにベー ス電流が必要で、入力インピーダンスが小さい。一方、MOSFE Tはゲート電圧により、ドレイン電流を制御できるが、ドレインとソ ース間の電圧が比較的大きい。IGBTは、この両者の特徴を兼 ね備えたデバイスであり、図15にその等価回路と記号図を示 す。 IGBTは、入力インピーダンスが大きく、高速スイッチングが可 能であること、及びコレクタ・エミッタ間電圧が小さいという特徴を 持っているため、近年インバータ等の装置に多用されている。 C G G E E 図15 IGBTの等価回路と記号図 6.10 各デバイスの使用範囲について 図16に各デバイスの使用範囲の概略を示す。横軸が使用周波数(Hz)で縦軸が制御容量(VA)を示している。こ のように、制御容量ではGTOがおおきく、MOSFETは10kHz以上の高い周波数でも使用可能である。数kHz、 数百 VA 以下ではトランジスタやIGBTが使用可能である。 Electric Power (VA) 107 GTO 106 105 Transistor IGBT 104 MOSFET 103 102 101 102 103 104 frequency 105 (Hz) 図16 各素子の使用範囲(概略) -6- 106