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負帰還回路の基礎理論と 定数設計

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負帰還回路の基礎理論と 定数設計
特集*はじめてのパーツ選びと定数設計
第5章
ひずみや周波数特性を改善する
基本テクニックをマスタしよう!
負帰還回路の基礎理論と
定数設計
黒田 徹
Tooru Kuroda
負帰還(negative feedback)は出力の一部を入力に
逆位相で戻し特性を改善する技術です.ほとんどのア
● 定値制御の例…安定化電源
ワットの蒸気機関のように,出力を一定の目標値に
ナログ回路は負帰還を掛けています.ただし負帰還は
保つ負帰還を定値制御といい,安定化電源もその一つ
両刀の剣です.一歩間違えれば発振するからです.本
章では,安定に負帰還を掛けるための基礎理論と定数
です.図 3 の基準電圧が目標値で,誤差増幅器は目標
値からの偏差を増幅します.出力電圧 V out を計算し
設計法を取り上げます.
ましょう.制御トランジスタに関し,
Vout = V1 − VBE …………………………………(1)
負帰還の起源と安定化電源回路
● ワットの蒸気機関(1)
18 世紀のワットの蒸気機関は回転数を一定に保つ
ため,図 1 に示す遠心調速機を備えていました.それ
は次のように働きます.
「蒸気機関の回転に連動し遠心振子(ガバナ)が回る.
何かの理由で回転数が増すと球 A,B に作用する遠心
力で振子の角度θが増し,てこを介して蒸気弁が絞ら
れ,回転数が低下する.逆に回転数が落ちると,回転
数を上げるように調速器が機能する」
.
このメカニズムは,今風に言えばフィードバック制
ただし,V1 :誤差増幅器の出力電圧
Vout は分圧されてゲイン A の誤差増幅器に加えられ,
V1 = A(Vref −βVout ) …………………………(2)
R1
ただし,β=
= 0.5
R1 + R2
(3)
が得られます.
式(1),(2)から V1 を消去すると,式
A
VBE
Vref −
……………
(3)
1 + Aβ
1 + Aβ
外乱が出力電圧 Vout に与える影響
安定化電源の主な外乱は,入力電源電圧の変動と負
Vout =
荷電流の変動です.さて,負荷電流が 2 倍に増えたと
外乱
御(負帰還)です.遠心調速機のブロック線図を図 2 に
示します.
回転速度
目標値
比較
+ 誤差
蒸気弁
蒸気流量
(入力)
検出回転速度
遠心振子
(ガバナ)
回転速度
(出力)
蒸気
機関
−
ガバナ
(センサ)
図 2 ワットの遠心調速機のブロック線図
θ θ
シリンダに行く蒸気
Vout
制御トランジスタ
球A
球B
C
E
誤差増幅器
蒸気弁
上がる
てこ
下がる
ボイラから送
られた蒸気
13V
V1
Vref
基準電圧
回転軸
土台
R2
10k
B
C1
Rload
470μ 200Ω
R1
10k
V2
5V
図 1 ワットの遠心調速機の模式図
回転速度が上昇すると各部の位置が矢印の方向へ動く
2004 年 6 月号
図 3 安定化電源回路は定値制御システムである
171
しましょう.Tr1 が理想トランジスタならば,このと
き V BE は 18 mV 増加します(コラム参照).もし,誤
差増幅器の出力電圧 V 1 が一定ならば,式(1)に従い
Vout は 18 mV 低下します.しかし,Vout が低下すると
R1 + R2
Vref
=
Vref …………………(5)
R1
β
となります.
Vout =
負帰還増幅回路の基礎
式(2)によって V1 が上昇するので低下分はほとんど相
殺され,最終的に式(3)が成り立ちます.式(3)から
Vout の変化分は,
(1 + Aβ)
ΔVout =−ΔVBE /
(4)
=− 18 mV/
(1 + Aβ) …………………
(3)
(4)
(5)
(6)
● 負帰還をかけることで得られる効果(2)
増幅器に負帰還を掛ける手法は,電話線路の中継増
幅器のひずみを減らす方法を模索していた H. S. Black
となります.例えば A = 1000 で,負荷電流が 50 mA
が 1927 年に考案しました.負帰還増幅器の原理を図
から 100 mA に増えると,Vout は,
− 18 mV ÷
(1 + 1000 × 0.5)≒− 36 μV
4 に示します.ひずみ Vd があっても出力電圧 Vout は,
A
Vd
Vin +
……………
(6)
1 + Aβ
1 + Aβ
(1+ Aβ)
となります.つまり,ゲイン A とひずみ Vd が1/
Vout =
と,約 36 μV 低下します.
帰還量
式(3)の分母である(1 + Aβ)を帰還量といいます.
一般に,負帰還を掛けると外乱によって生じる出力の
変動が(1/帰還量)に減少します.A →∞ならば,
に減少します.式
(3)
と式(6)を比べると類似性は明ら
かです.式(6)の(1 + Aβ)は帰還量ですから,外乱
の影響(ゲインの変動,出力雑音,ひずみなど)
が「1/
ベース−エミッタ間電圧とコレクタ電流およびエミッタ電流の関係
理想トランジスタのベース−エミッタ間電圧 VBE
とコレクタ電流 IC の間には次の関係があります.
IC = IS eVBE /VT …………………………………(A)
ただし,IS :飽和電流,VT :熱電圧
飽和電流 I S は温度に依存する定数で,常温にお
いて 10 − 12 ∼ 10 − 18 A 程度です.熱電圧 VT は絶対
温度に比例する定数で,300 K(26.85 ℃)において
25.85 mV です.式(A)は,VBE が 25.85 mV 増える
ごとに I C が 2.718 倍増えることを意味します(図 A
参照).
エミッタ共通回路では VBE を与えると式(A)によ
って I C が定まりますが,コレクタ共通回路やベー
ス共通回路ではエミッタ電流を与えると VBE が定ま
コレクタ電流 I C [A]
10m
1m
Tj =27℃
100μ
I S =10−14A
して計算できます.
まず,コレクタ電流 I C とエミッタ電流 I E の間に
次の関係があります.
IC =αIE ………………………………………(B)
ただし,α : ベース共通回路の電流増幅率
αは一般に 0.99 ∼ 0.999 程度です.式(B)を式(A)
に代入して VBE について解くと,
VBE = VT ln(αIE/IS ) ………………………(C)
となります.VBE は IE の増加関数です.IE が 2 倍に
増えたときの VBE の増加量ΔVBE を計算してみまし
ょう.式(C)から,
ΔVBE = VT ln(2 αIE/IS )− VT ln(αIE/IS )
2 αIE/IS
= VT ln
αIE/IS
= VT ln2 = 25.85 mV × 0.693 = 17.9 mV
すなわち,エミッタ電流が 2 倍に増えると VBE は約
18 mV 増加します.これは飽和電流の値と無関係
I S =10−15A
10μ
1μ
ります.例えば,図 B の回路の V BE は次のように
I S =10−16A
に成り立ちます.
100n
10n
1n
100p
400
図A
VBE
450
500
550
600
650
ベース-エミッタ間電圧 VBE [mV]
700
13V
IE
理想トランジスタの IC 対 VBE 特性
VBE が 25.85 mV 増えるごとに IC は 2.718 倍増加する.この性質は
飽和電流 IS の値と無関係に成り立つ
172
10V
図 B コレクタ共通回路の VBE は
エミッタ電流 IE に従属して定まる
2004 年 6 月号
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