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バイオマス資源循環利用 診断モデルの解析ソフト
第Ⅰ部/地域レベルのバイオマス利活用の診断モデル 第2章 バイオマス資源循環利用 診断モデルの解析ソフト 本章では,第1章で紹介した「バイオマス資源循環利用診断モデル」の 解析ソフトをユーザーが実際に使用する場合の操作手順や方法,解析結果の 見方のポイントを説明する。 【2−1】解析ソフトの概要 (2)解析ソフトの概要 解析ソフトの操作法は,利用マニュアル10)と,事 1.解析ソフトの使用に当たって 例地区での解析結果が入ったサンプル版を用いるこ とにより,2∼3日間程度の講習を通してマスター (1)解析ソフト使用上の注意 できるレベルのものである。利用マニュアルには, 「バイオマス資源循環利用診断モデル」の解析ソ データの効率的入手・入力方法,基本コンパートメ フト(プログラム)は,開発途中から説明会や操作 ントやフローの構成の変更方法,解析結果の見方が 実習講習会を数多く開催し,120名を越える参加者に 含まれている。この解析ソフトを用いることにより, 試行して頂きながら改良を行い,開発したものであ 地区全体の物質フロー図の作成および表示,任意の る。図Ⅰ-8は,モデル操作実習講習会の様子である。 コンパートメントをカテゴリー化しての結果表示, 解析ソフトは,つぎの通りプログラムとして著作 年または月単位のコンパートメント別流入・流出・ 物登録を行っている。解析ソフトを使うことによる 収支のグラフ表示,バイオマスの利用率や廃棄率お あらゆる影響に対し,システム化サブチームは責任 よび水質環境や地球温暖化への影響などをとりまと を負いかねる。解析ソフトは,必要な手続きをして めることができる。これらの結果から,地区の状況 頂いた上で,使用者の責任において御使用頂く。 を理解することができ,適切なバイオマスの変換方 法,変換施設の規模・機能分担,新たな営農体系な 【バイオマス資源循環利用診断プログラム】 著作者の氏名:独立行政法人農業工学研究所,独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構,独立行 政法人森林総合研究所,独立行政法人農業環 境技術研究所,独立行政法人国際農林水産業 研究センター,独立行政法人食品総合研究所, 独立行政法人水産総合研究センター,財団法 人日本農業土木総合研究所,内外エンジニア リング株式会社 登 録 日:平成16年8月10日 登 録 番 号:P第8357号−1 【図Ⅰー8】モデル操作実習講習会の様子 どを検討することができる。 各地区のモデルを作成していくにためには,総合 的な視点をもつことが必要になる。さまざまな専門 分野の関係者からデータの提供を受けたり,解析結 果の妥当性を吟味してもらうなどして,精度を高め る努力を望みたい。 2.解析に必要なパソコンの性能とソフトウエア (1)パソコンの基本動作環境 解析ソフトを作動させるために必要なパソコンの 基本動作環境はつぎの通りである。 CPU O S メモリ Pentium 400MHz以上 Windows 2000Pro/XP日本語版 128MB以上(Windows XPの場合, できれば256MB以上) H D D 500MB以上の空き容量 モニタ 1024×768ドット以上,High Color以上 CD-ROM付(CD-ROMより解析ソフトをインストールするため) 20 (2)解析ソフトの構成および使用市販ソフトウエア 【図Ⅰー10】利用マニュアル目次(モデル操作方法の一部) 本解析ソフトは,物質量・移動量・成分量などを表 計算するワークシートと,物質の移動状況を表示す 1 インストールの方法 るフロー図の二つで構成されている。表計算とフロ 2 ファイル属性のチェック ー図作成はリンクしており,表計算で求めた物質量 3 セキュリティレベル設定 の収支計算をフロー図から制御している。これによ 2 基本データの入力 り複雑な物質移動計算を自動化し,その結果を視覚 3 計算シート(Excel)の操作 的に表現できる。また,フロー図を変更・追加した 1 計算シートの起動 ときも,変更・追加後のフローで収支計算を自動的 2 シート入力 3 メモシートの入力 4 新規シートの追加 に行うことができる。解析ソフトには, 基本デー タファイル・計算シートファイル・基礎原単位ファ イルを準備している。 市販アプリケーションソフトウエアとしては,以 下を用いる。 第 Ⅰ 部 1 インストール 第 Ⅱ 部 4 フロー図(Visio)の操作 1 フロー図(Visio)の起動 2 基本設定 3 図形の追加 第 Ⅲ 部 3.1 フローおよび特殊フロー ◎表計算ソフト:Microsoft Excel 2000以上 ◎フロー図作成ソフト:Microsoft Visio 2002 (Standard以上) 3.2 GASフローおよび特殊GASフロー 3.3 コンパートメントおよびカテゴリー 3.4 揮散コンパートメント 3.5 ステンシルの表示 第 Ⅳ 部 3.6 カスタムプロパティの表示 3.解析の手順 (1)解析の全般的手順 解析の全般的手順は,図Ⅰ-9に示す通りである。 利用マニュアルのモデルの主だった操作方法を説明 する部分の目次を,図Ⅰ-10に示す。 基本データ入力シートの先頭部分を,図Ⅰ-11に示 す。また,計算シートのメニュー画面と計算シート 4 計算式の表示 5 計算前のExcelデータ読込み 6 各種計算 7 文字の移動 8 グラフの作成 9 地区名・タイトル等の入力 11 フロー図(Visio)の印刷 12 フロー図(Visio)の保存 13 フロー図(Visio)の終了 14 特殊フローおよび特殊GASフローで使用する条件式(関数) 5 フロー図作成の考え方 作成状況一覧は, 図Ⅰ-12および図Ⅰ-13の通りである。 1 フロー図の構成(ストックとフロー) ①基本データファイルへの入力 2 コンパートメントの配置 3 配色, 線の区分, 文字 「基本データ」ファイルの「基本データ」を始め 【図Ⅰー9】解析の全般的手順 第 Ⅴ 部 10 計算結果 4 計算シートの割当 5 特殊フローおよび特殊ガスフローの使用方法 6 基本フロー図と堆肥センターの追加 7 コンパートメント別特記事項 付 属 資 料 7.1 農地関連 7.2 家畜関連 基本フロー図の作成 7.3 食品産業 7.4 人間 7.5 水域 8 ワークシートにデータ入力 堆肥化施設の追加方法 6 ファイルおよびシート間のリンク状況 7 Q&A 計算 フロー図の印刷 フロー図変更 グラフや表の 自動作成, 印刷 1 出力の整理方法 2 畜産頭羽数が月によって変化する場合の対処法 3 資源循環改善のための方策案 4 利活用できる資源 5 データ未入力のエラー表示 6 産業廃棄物汚泥有機性(食品産業系)と無機性(建設系)の区分 7 農地における窒素施用量の上限 8 フロー図.vsd(Visio)プログラム構成 21 第Ⅰ部/地域レベルのバイオマス利活用の診断モデル 【図Ⅰー11】基本データ入力シート冒頭部 22 【図Ⅰー12】計算シートのメニュー画面 とする複数のシートに,個別フロー量・賦存量計算 に共通する基礎的データを,指示にしたがって入力 する。データ入力方法はシート内に赤字で記載して いる。なお,モデルの基礎データは,2000年時点の 第 Ⅰ 部 市町村単位で構成している。 【入力に際して準備が必要なデータソース】 入力に必要なほとんどのデータは,都道府県別の 農林水産統計年報に記載されている。ただし,生活 排水処理関連のデータは,各自治体の生活排水処理 第 Ⅱ 部 計画書などを調べるか,担当者への聞き取りによっ て情報を得る必要がある。また,家畜の区分別頭数 も,各自治体へ聞き取りを行い,情報を得る。区分 が収集したデータと一致していない場合は,都道府 【図Ⅰー13】個別計算シート作成状況一覧(例) 第 Ⅲ 部 県の畜産統計にある区分別頭数で案分する。 【入力が必須のデータセル】 入力セルのうち,青色で着色したセルへは入力が 必須である。たとえば,農産物生産量では,面積と 生産量を入力することによって,面積当たりの生産 第 Ⅳ 部 量や成分量を計算し,これに全農地面積を乗じてい る。このような原単位方式を採用しているシートと, 直接データを入力するシートがある。原単位方式で は,計算結果への影響度の小さいデータについては 必ずしも入力する必要はない。 第 Ⅴ 部 【デフォルト値を準備しているが 入力が望ましいデータセル】 緑色で着色したセルへは,地区の実情に合った原 単位データ・月別割合および耕作月を入力する。でき るだけ地区独自の値を入力して精度を向上させるこ とが望ましい。データを見つけられない場合は,準備 しているデフォルト値を使用しても計算可能である。 ②計算シートファイルへの入力 個別フロー量・賦存量の計算は,「計算シート」 ファイルで行っている。このシートには基本的に青 色表示の入力必須セルはない。また,入力が望まし い緑色のセルについては, 「基本データ」の場合と 同様である。 黄色に着色したセルは,地区差が少ない原単位デ ータと成分割合データを示している。今後さらに精 度を向上させていくべき項目もあり,多くのユーザ ーによるデータ収集が期待される。 ピンクに着色したセルは,他のシートやファイル とリンクしているセルを表す。着色されていないセ ルは,計算式のあるセルを表す。これらのセルにデ ータが入力されると,計算間違いのもとになるので 注意が必要である。 23 付 属 資 料 第Ⅰ部/地域レベルのバイオマス利活用の診断モデル に月別の割合を乗ずることで求める。 ◎デフォルト値の根拠および文献を各シートにできる だけ記載する。 ◎運搬距離を入力できるものとする。ただし,現時点 では,距離データは1または0としている。今後の拡 張が期待されている部分である。 ◎ワークシートは追加可能とする。 ◎ワークシート名称は番号とする。 ③基礎原単位ファイル 複数の計算シートで使用する原単位計算は, 「基 礎原単位」ファイルで行っている。デフォルト値が 格納されており,このファイルへのデータ入力は必 要ない。セルの着色については計算シートと同様の 表記としている。2000年を基準とした都道府県や地 方別のデータベースを用意している。 例として,畑地農作物主産物収穫に関するシート (2)計算表の作成 (H1)を図Ⅰ-14に示す。 計算表は,つぎに示す考え方またはルールで作 (3)ユーザーによるフロー図作成 成する。 ◎賦存量およびフロー量計算は,ワークシートで表計 算する。これにより計算過程が見やすくなり,ユー ザーによる変更・追加が容易となる。 ◎計算結果をワークシートの決まった位置に配置する ことで,フロー図作成ソフト(Visio)とのリンクを 確実なものにする。 ◎表計算の基本は,物質量(生重量)であり,これを 窒素(N)・炭素(C)などの成分量に換算する。 ◎一つのシートに複数の項目(生重量・窒素量など) を表示する。 ◎フロー量の月別計算は,年単位で計算してその結果 フロー図作成の考え方は,つぎの通りである。 ◎データ入力の初期段階で,ユーザーは想定するバイ オマス利活用のフロー図を作成する。 ◎フロー図においては,コンパートメントとフロー (矢印線)を任意配置できるものとする。 ◎フロー図は,標準フロー図などを用いてユーザーが 設計する。 ◎フローに移動量計算表を割りあてる。Excelのワー クシート名称がVisio上でのコンパートメントやフロ ーの番号となる(たとえば,Excelワークシートの 名称が「10」の場合,Visio上ではH10と表示され 【図Ⅰー14】畑地農作物主産物収穫データシート(一部分) 農作物作付け延面積 (水田, 桑, 飼肥料作物・果樹を除く)工芸作物含む 長井地区 614 ha 基本データ 原単位計算及び収穫量, 成分量計算 例 陸稲 999 原単位計算の対象としないもの, データが不足するものは作物名称下に999を入力する。 平均の対象とならない。 窒素率が0の場合は, 平均計算の対象とならない。考慮すべき農産物が下記にない場合は, 行をコピー挿入して追加する。最終行の集計対象になっているか確認すること。 粗たんぱく質含量=窒素量×6. 25 (窒素係数) 窒素率(%)=たんぱく質率(%)÷換算係数 収穫窒素量(tN)=(収穫量×窒素率)÷100 出典 陸稲 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 0 0 39 43 0 1 六条大麦 作付面積(ha) 収穫量(t) 0 0 大豆 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 104 206 4 4 かんしょ 作付面積(ha) 収穫量(t) 2 31 そば かぶ 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 115 60 13 496 2 にんじん 収穫量(t) 作付面積(ha) 52 2 さといも 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 21 1 13 5 やまのいも 収穫量(t) 作付面積(ha) 29 1 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 小麦 二条大麦 備考 水分(%) たんぱく 換算係数 窒素率(%) 乾物重量(t) 質率(%) 15.5 10 5.95 1.6807 12.5 10.6 5.83 1.8182 14 10.9 5.83 1.8696 37.625 収穫窒素量(tN) リン100 リン率(%) g中∼mg リン量(t) カリウム100 カリウム率 脂質率 炭水化物 カリウム量 炭素率 g中∼mg (%) (%) 率(%) 炭素量 0 290 0.29 0 230 0.23 0 2.7 70.6 35.62 0.00 0.781818182 350 0.35 0.1505 470 0.47 0.2021 3.1 72.2 36.89 15.86 0.018696398 180 0.32 0.0032 220 0.32 0.0032 2.1 72.1 36.23 0.36 炭素のみ大麦 炭素のみ大麦 14 12.9 5.83 2.2127 0.32 0 2.1 72.1 37.29 0.00 12.5 35.3 5.71 6.1821 180.25 12.7352014 580 0.58 1.1948 1900 1.9 3.914 19 28.2 44.62 91.92 15.5 20.3 6.25 3.248 3.38 0.12992 350 0.35 0.014 1500 1.5 0.06 2.2 58.7 35.93 1.44 66.1 1.2 6.25 0.192 10.509 0.05952 46 0.046 0.01426 470 0.47 0.1457 0.2 31.5 13.39 4.15 13.5 12 6.25 1.92 51.9 1.152 400 0.4 0.24 410 0.41 0.246 3.1 69.6 36.59 21.95 根, 皮付き, 生 94.6 0.5 6.25 0.08 26.784 0.3968 18 0.018 0.08928 230 0.23 1.1408 0.1 4.1 1.98 9.83 根, 皮付き, 生 93.9 0.7 6.25 0.112 3.172 0.05824 28 0.028 0.01456 280 0.28 0.1456 0.1 4.6 2.29 1.19 根, 皮付き, 生 89.5 0.6 6.25 0.096 2.205 0.02016 25 0.025 0.00525 280 0.28 0.0588 0.1 9.1 4.04 0.85 五訂食品成分表 ごぼう 81.7 1.8 6.25 0.288 2.379 0.03744 62 0.062 0.00806 320 0.32 0.0416 0.1 15.4 7.19 0.93 五訂食品成分表 さといも−球根, 生 84.1 1.5 6.25 0.24 4.611 0.0696 55 0.055 0.01595 640 0.64 0.1856 0.1 13.1 6.11 1.77 7 9 326 5 五訂食品成分表 いちょういも−塊根, 生 71.1 4.5 6.25 0.72 2.023 0.0504 65 0.065 0.00455 590 0.59 0.0413 0.5 22.6 11.81 0.83 五訂食品成分表 給球葉, 生 95.2 0.8 6.25 0.128 15.648 0.41728 33 0.033 0.10758 220 0.22 0.7172 0.1 3.2 1.78 5.81 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 111 4 43 五訂食品成分表 給球葉, 生 92.7 1.3 6.25 0.208 8.103 0.23088 27 0.027 0.02997 200 0.2 0.222 0.2 5.2 2.92 3.24 五訂食品成分表 葉, 生 92.4 2.2 6.25 0.352 3.268 0.15136 47 0.047 0.02021 690 0.69 0.2967 0.4 3.1 2.71 1.17 作付面積(ha) 収穫量(t) 作付面積(ha) 収穫量(t) 12 205 1 9 五訂食品成分表 根, 深ねぎ−葉, 軟白, 生 91.7 0.5 6.25 0.08 17.015 0.164 26 0.026 0.0533 180 0.18 0.369 0.1 7.2 3.22 6.61 五訂食品成分表 りん茎, 生 89.7 1 6.25 0.16 0.927 0.0144 33 0.033 0.00297 150 0.15 0.0135 0.1 8.8 4.13 0.37 なす 作付面積(ha) 収穫量(t) 15 195 五訂食品成分表 果実, 生 93.2 1.1 6.25 0.176 13.26 0.3432 30 0.03 0.0585 220 0.22 0.429 0.1 5.1 2.70 5.27 トマト 作付面積(ha) 収穫量(t) 4 105 五訂食品成分表 果実, 生 94 0.7 6.25 0.112 6.3 0.1176 26 0.026 0.0273 210 0.21 0.2205 0.1 4.7 2.33 2.44 小豆 だいこん ごぼう はくさい キャベツ ほうれんそう ねぎ たまねぎ 24 尾和尚人 0 0.32 0 る。フローのカスタムプロパティに「H10+ H11*0.8」と入力すると,そのフローは,Excelワ ークシート「10」の値とワークシート「11」の 80%の合計量を表す) 。 ◎コンパートメントに賦存量表計算を,フローと同様 にして割りあてる。 ◎項目(生重量,窒素など)によってフローが変わる ことはないものとする。 ◎いくつかのコンパートメントを囲んで,各コンパー トメントの収支を集計する枠をカテゴリーと称する。 ◎カテゴリーに直接フローが接することはないものと する。 ◎INの合計からフロー量(消費量や損失量)を計算す るフローを特殊フローと称する。また,特殊フロー と同じ計算方法で,終点を揮散コンパートメントに 固定したフローを特殊ガスフローと称する。特殊フ ロー・特殊ガスフローは,Visio内でサブプログラム を作成し計算する。 【図Ⅰー16】コンパートメントとフローの関係 第 Ⅰ 部 揮散 青は入力する計算式 赤は自動計算(コンパートメント) IN = H30 OUT= 0 フロー2 H11+H12 ガスフロー H30 コンパート メントA H1+H2 フロー1 H10 IN = H10+H11+H12 BLC = IN _OUT FIX = H1+H2 フロー3 H20 第 Ⅱ 部 コンパート メントB H20 第 Ⅲ 部 OUT = H20+H21+H22+H30 フロー4 H21+H22 コンパート メントC H30+H31 例として,フロー図に名称計算式を表示させてい る状況を図Ⅰ-15に示す。図Ⅰ-15の右下にあるのは 「操作パネル」と呼んでいるもので,種々の操作を 注:ガスフローは,出口を「揮散」コンパートメントとしたフローである。 第 Ⅳ 部 効率的に行えるよう,工夫している。 【図Ⅰー17】コンパートメントとカテゴリーとフローの関係 【図Ⅰー15】フロー図への名称・計算式の表示例 第 Ⅴ 部 青は入力する計算式 赤は自動計算(コンパートメント) IN = IN(A)+IN(B)+IN(C) OUT = OUT(A)+OUT(B)+OUT(C) BLC = STOCK(A)+ STOCK(B)+ STOCK(C) FIX = FIX(A)+ FIX(B) 緑は自動計算(カテゴリー) 名称・計算式の表示 ガスフロー H30 付 属 資 料 IN(A) = H10+H11 OUT(A) = H20 BLC(A) = IN(A)-OUT(A) FIX(A) = H1+H2 コンパート メントA H1+H2 コンパート メントA H1+H2 コンパート メントA H1+H2 (4)計算のイメージ コンパートメントとフローの関係,コンパートメ IN(B) = H12 OUT(B) = H21+H22 BLC(B) = IN(B)-OUT(B) FIX(B) = H3+H4 IN(C) = H13+H14 OUT(C) = H23+H24 BLC(C) = IN(C)-OUT(C) FIX(C) = H5 ントとカテゴリーとフローの関係,特殊フローおよ び特殊ガスフローのイメージを,図Ⅰ-16から図Ⅰ18に示す。 25 第Ⅰ部/地域レベルのバイオマス利活用の診断モデル 【図Ⅰー18】特殊フローおよび特殊ガスフロー 青は入力する計算式 赤は自動計算(コンパートメント) ガスフロー H30 フロー1 H10 フロー2 H11+H12 コンパート メントA H1+H2 IN = H10+H11+H12 OUT = H20+H21+H22+H30 フロー4 H21+H22 コンパート メントC H30+H31 注:ガスフローは,出口を「揮散」 コンパートメントとしたフローである。 フロー3 H20 BLC = IN _OUT FIX = H1+H2 コンパート メントB H20 (例) IN= H10+H11+H12 INの物量をW(IN), 窒素をN(IN), 炭素をC(IN), リンP(IN), カリウムK(IN) W=W(IN)*0.27 K=K(IN) P=P(IN) C/N>20のとき N=N(IN)*0.8 C=N*20 20>C/N>8のとき C=C(IN)*0.8 N=N(IN)*0.8 C/N<8のとき C=C(IN)*0.8 N=C*8 【図Ⅰー19】計算結果の表示例 成分表示モードでの気体は,炭素(C)や窒素の成 分量を重量(t)で表示する。 ②コンパートメント(□)および カテゴリー(□)の表示 ◎流入量の合計を「in」で示す。 ◎流出量の合計を「out」で示す。 ◎「in」と「out」の差し引きをバランス量とし「blc」 で示す。 ◎賦存量の合計を「fix」で示す。 ③全体の表示 ◎一つの項目当たりフロー図は1月∼12月と年計の 13枚である。 ◎流入あるいは流出のどちらかがないコンパートメン トの「in総量−out総量」をフロー図の上部に表示す る。 ◎成分別に,コンパートメントごとの流入量と流出量 およびバランス量(blc=in−out)の年間変動を表 示するグラフを自動作成する。 ◎面積または人口を入力することにより,面積当たり または人口当たりの量の表示を行う。 ◎入力数値の精度(信頼度)は3段階で入力可能であ る。文字は3色に色分け可能である。 ◎成分別にフロー量,コンパートメント内の数値(in, out,blc,fix)をExcelのワークシートに自動作成 する。年間計算結果のみと年間および月間の両計算 結果の表を作成可能である。 ◎溶脱量を反映した地下水の硝酸態窒素(NO3-N)濃 度を3通りの方法で計算し,結果をExcelのワークシ ートに自動作成する。 【2−2】解析のポイント 1.全般的留意事項 (1)モデルを使用した方策の検討方法 「バイオマス資源循環利用診断モデル」は,数多 (5)計算結果の表示 くのデータを用いて,バイオマスの利活用がもたら 表示される計算結果の意味と表示に関するオプシ す広範な影響を,地区レベルで明らかにするツール ョンを以下に示す。また,表示例を図Ⅰ-19に示す。 である。このため,第1章の図Ⅰ-3に示した標準 ①フロー(→)の表示 フロー図には,堆肥化施設やメタン発酵施設を建設 ◎矢印の向きでに物質が動く方向を示す。 ◎フローの線の太さは,量の相対的な大きさによって 3段階に表示する。 ◎実線は,人為的運搬が可能なフローを示す。 ◎破線は,水や大気を介して移動するフローを示す。 ◎数値の大小により,コンパートメント枠の大きさが 変化することはない。 ◎重量(生)表示モードでは,二酸化炭素(CO2)や 窒素(N)など気体の重量はゼロと表示する。一方, 26 するなどの事業検討を行う際には必要のない事項ま で含まれている。これは, 「バイオマスの利活用は 環境保全に資する形で進めるべき」という使命感か らである。どんな施策もすべてに良い影響をもたら すとは限らないことから,全体像を理解した上で合 意形成をはかる必要がある。たとえば,新たにバイ オマス変換施設を導入しようという場合,水域(表 層および地下)への影響・大気への影響・廃棄物処 理量への影響・地区外への影響は,一般的にトレー 【図Ⅰー20】計算結果のとりまとめ例(M地区での窒素フロー)11) ドオフとなる。第Ⅲ部・第Ⅳ部に関係するが,各種 第 Ⅰ 部 のバイオマス利活用推進のための方策(アイデア) を検討する場合は,表Ⅰ-5のようにまとめて比較す ると良い。 【表Ⅰー5】バイオマス利活用方策の比較検討イメージ 方法 廃棄量 水質へ の影響 大気へ の影響 化石資源 の使用量 経済性 ○ 現況 × × ○ △ 方策A ◎ ◎ ◎ × × 方策B △ ○ × ◎ ◎ 方策C ○ △ ○ ○ △ 第 Ⅱ 部 注:良い状態を◎,悪い状態を×で表示。 第 Ⅲ 部 (2)結果の検証方法 ユーザーは,モデルの特徴や限界を認識する必要 がある。発生量や移動量は,月単位で求めているが, モデルは厳密にタイムラグを表現することはできな 第 Ⅳ 部 い。たとえば,農地に施用された堆肥や液肥は,月 という時間単位を越えて蓄積,作物の吸収,水域へ 流出,溶脱,揮散するが,その収支計算は,物理・ 単位:tN/年 化学・生物学的メカニズムを踏まえたものではな い。ユーザーによる工夫や結果の解釈時における留 意が必要である。月単位の計算結果に大きな意味が 第 Ⅴ 部 2.解析結果の着目点 あるものや,年単位の計算結果のみに注目すべきも のもある。標準フロー図が複雑かどうかは,ユーザ バイオマスの堆肥化と農地での利用を念頭におい ーの主観によるところだが,ユーザーにとって膨大 た物質フローの解析および評価に関して,図Ⅰ-21を なデータを一つ一つ点検していくことは困難であ 用いていくつかポイントを示す。図Ⅰ-21の数値は, る。違和感のある計算結果が出た場合,その原因と 農地面積当たりkgN/ha/年の単位で示している。 して,解析ソフトのバグによる場合,あるいはユー ザーの入力ミスや解釈の間違いによる場合が考えら (1)廃棄 れる。意図通りに正しく計算が行われているかどう 「廃棄」は,利用の可能性があるバイオマスのう かは,まず,地区全体での収支が妥当かどうかを点 ち,利用されずに廃棄されている量である。環境に 検する必要がある。そして,各コンパートメントに 負荷を与えるとみなせるので,これは少ないほど良 おける連続条件が満たされているかどうかを点検 いと評価できる。 し,さらに,各数値が常識の範囲かどうかについて, 人口当たりまたは面積当たりの計算結果を表示させ て点検すると良い。 (2)蓄積・溶脱 「蓄積・溶脱」のうちの一部は,農地に蓄積され ると思われるが,その他は溶脱し環境に負荷を与え (3)結果のとりまとめ方法 ることになるので,これが少ないほど良いと評価で ユーザーは,標準フロー図を加工して,目的に合 きる。ここで,ある程度は農地に蓄積できるのでは うモデルを作成していくと良い。また,結果の解釈 ないか,溶脱するといっても害のおよぶほどではな を容易にするためには,フロー図を図Ⅰ-20に示すよ いのではないかとも考えられる。確かに,農地には うに簡略化する方法もある。特に,地区の関係者間 蓄積機能があり,溶脱して地下へ移行するうちに脱 で合意形成をはかるための資料としては,計算結果 窒されることもある。これについては,現地をよく のとりまとめ方が重要になる。 知る農業研究者に聞くことが望ましい。ただし,蓄 27 付 属 資 料 第Ⅰ部/地域レベルのバイオマス利活用の診断モデル 【図Ⅰー21】茨城県牛久沼集水域における窒素フロー(1985年)12) と,系外(地区外)から窒素(N)がもち込まれて いることが分かる。しかし,その量は廃棄や蓄積・ 溶脱ほど多くない。したがって,地区外からの購入 食飼料の多いことが環境負荷の原因ではなく,経路 の問題,すなわち,廃棄物(バイオマス)の管理上 の問題であるといえる。もちろん,地区外からの購 入食飼料が出荷よりはるかに多い地区の場合は,そ れが多い現状に原因を求めることになる。また,化 学肥料が出荷農産物を支えている一方で,それが蓄 積・溶脱の窒素量を多くしているともいえる。すな わち,農地における施肥管理上の問題があると考え られる。 (5)バイオマス資源の中身 対策を見据えると,フローの中身をより詳しく理 解することができる。廃棄されているバイオマス資 源を有効利用するための対策を考えてみる。この場 合は,人からのし尿・生ごみをどのように利用でき るかが課題となる。また,家畜ふん尿をいかに利用 できるかが課題となる。多様な対策が考えられるが, 積・溶脱量が化学肥料施用量に迫り,廃棄量より多 それらの対策が量的にどれだけ効果を与えるのか, い場合は,問題として認識する必要がある。 それらの効果を本当に発揮できるのかということを 検討すると良い。たとえば,生ごみをすべて堆肥化 (3)廃棄と蓄積・溶脱の源 「廃棄」および「蓄積・溶脱」が多い場合,どこ から来ているのかを確認することが重要である。図 するとしても,廃棄の窒素(N)量は大きく減少す ることはない。さらに,し尿と家畜ふんの問題は残 ることになる。 Ⅰ-21の例では,廃棄の大半は人からの窒素(N)で あり,人へ供給される窒素のほとんどが購入食料で (6)対策に関して あることが分かる。 「蓄積・溶脱」は,化学肥料に 農地における過剰な蓄積・溶脱をなくす対策が必 起因するところが大きく,また,農地投入も大きい 要であることは,いうまでもない。廃棄されている ことが分かる。農地投入は,農作物副産物・堆肥・ バイオマス資源を農地に施用するとなると,さらに 購入堆肥からの窒素である。堆肥は家畜からの窒素 多くの窒素(N)が農地に投入されることになる。 であり,家畜への窒素は購入飼料が源になっている 化学肥料施用量を少量化することは,対策の一つで ことが分かる。 ある。また,他の地区に還元することも考えられる。 こうしてみると,購入食料→人→廃棄,購入飼料 さまざまなアイデアが提案されるだろうが,ある対 →家畜→堆肥→農地→蓄積・溶脱,購入堆肥→農地 策がある問題解決に効果があるとしても,循環の観 →蓄積・溶脱,化学肥料→農地→蓄積・溶脱,農地 点からみると問題解決になっていないことを明らか →農作物副産物→農地という経路がみえてくる。こ にするのも,本診断が必要とされるところである。 の他に,窒素量が多い経路としては,農地→農作物 そして,有効にバイオマスを利活用できる方策を立 主産物→出荷がある。農作物副産物を経由する経路 案する必要がある。 は地区内での循環系であり,これ以外は地区外から もち込まれる窒素である。 一方,現地の状況を踏まえると,たとえば,豚ぷ んを利用したいが,豚の飼育頭数が多く,堆肥量が 過剰になり,施用しきれない場合がある。さらに, (4)地区外との出入り 農畜産物の出荷と購入食飼料を差し引きでみる 28 水田がほとんどを占める地区の場合,地区内で豚ぷ んを循環利用することは難しい。こういった場合に は,当然,適正処理という対策を取るべき場面も出 てくる。 3.地球温暖化への影響の解析例 (1)解析方法 バイオマスの利活用がもたらす各種の効果や影響 のうち,地球温暖化への影響を例としてとりあげる。 解析対象は,土井ら13)の考え方にもとづき,温室効 果ガス(GHG)のうち,メタンガス(CH4)および 一酸化二窒素(N2O)を対象とする。二酸化炭素 (CO2)は排出量が相対的に多いと思われるが,バイ オマスに関するカーボン・ニュートラルという特性 つぎのように想定した。 ◎メタン発酵施設では,年間,家畜ふん尿約11,400t と生ごみ約1,100tを混合してメタン発酵させる。 施設建設以前は,生ごみは廃棄物として焼却処理さ れていた。 ◎家畜ふん尿は,メタン発酵施設建設以前は堆積発酵 されていた。 ◎メタン発酵施設で発生するメタン発酵消化液は,地 区内の農地で液肥として利用され,その成分含有量 に見合った化学肥料の施用量が減じられる。 ◎生活排水の大部分は,K町外の下水道処理場で処理 される。 ◎メタン発酵施設の敷地内に,堆肥化施設が併設され ている。堆肥化によるGHG排出量については,施設 建設前後で変化がないものとする。 第 Ⅰ 部 第 Ⅱ 部 第 Ⅲ 部 から,吸収量に比べて排出量が同等以下になるので, GHG削減量の過大評価を防ぐ意味と,境界条件の設 (2)解析結果 定が難しい。よって,利活用にともなう増減量の比 このような条件のもとで,GHG排出量を算出した 較対象からは除外した。GHG排出係数としては,環 結果を表Ⅰ-7に示す。メタン発酵施設の建設前後の 境省のガイドライン を用いた。 比較では,設定した条件下で,GHGは約14%のCO2 14) 事例地区としたK町は,物質循環の観点から,畜 換算排出量減少となった。家畜ふん尿の利用方法を 産と耕種農業のバランスのとれた地区である。家畜 堆肥化からメタン発酵・液肥化に変更したこと,生ご ふん尿と生ごみを原料とするメタン発酵施設を建設 みの焼却量を減少したことが要因としてあげられる。 している。メタン発酵消化液は,水田と畑地に液肥 以上のことから, 消化液を液肥として利用するメ 利用するものとしている。 タン発酵システムは,GHG排出量削減に有効である 消化液を液肥として利用するメタン発酵システム 第 Ⅳ 部 第 Ⅴ 部 といえる。 について,GHG排出量をモデルの計算結果と関連づ けるために,表Ⅰ-6に示す条件設定を行った。 また,GHG排出量推計のために,地区固有条件を 【表Ⅰー6】GHG排出係数をモデルに適用する上での条件設定 メタン発酵システムにお ける大気への排出物質 メタン発酵の過程では, メタンと一酸化二窒素 は大気中へ揮散しないものとする。 消化液(液肥)の農地施 用に関する排出係数 消化液(液肥)を施用した農地からのGHG排 出量は, 有機肥料を施用した農地からの排出量 の計算に用いるGHG排出係数を準用する。 引用文献 10)農林水産バイオリサイクル研究「システム化サブチーム」: 「バイオマス資源循環利用診断モデル」利用マニュアル,2005 11)戸嶋龍・姫野靖彦・柚山義人:都城盆地地域におけるバイオマス資源循 環利用の診断,平成17年度農業土木学会大会講演要旨集,岐阜,480481,2005 12)松本成夫:地域における窒素フローの推定方法の確立とこれによる環境 負荷の評価,農業環境技術研究所報告,18,81-152,2000 13)土井和之・柚山義人・姫野靖彦・戸嶋龍:バイオマスの利活用による温 室効果ガスの増減予測,平成17年度農業土木学会大会講演要旨集,岐 阜,484-485,2005 14)環境省地球環境局:地球温暖化対策地域推進計画策定ガイドライン, 2003 【図Ⅰー7】GHG(メタンと一酸化二窒素)排出量の推計結果 活 動 の 区 分 単位: t/年 メタン 家畜の飼養(反すう等) 家畜ふん尿処理(堆肥化・メタン発酵) 農業 廃棄物 水田における稲の栽培 施設建設後の排出ガス量 施設建設前の排出ガス量 一酸化二窒素 CO2換算 メタン 一酸化二窒素 CO2換算 120.90 0.00 2,554 120.90 0.00 2,554 9.03 6.18 2,107 4.64 3.18 1,083 75.68 0.00 1,589 75.68 0.00 1,589 農地への化学肥料の使用 0.00 3.46 1,072 0.00 2.69 833 農作物の栽培への有機肥料の使用 0.00 3.20 991 0.00 3.52 1,090 生活排水の処理 2.33 0.12 88 2.33 0.12 88 一般廃棄物の焼却 0.05 0.04 14 0.01 0.01 3 産業廃棄物の焼却 0.02 1.58 492 0.01 1.25 389 208.01 14.59 8,907 203.58 10.77 7,629 計 29 付 属 資 料