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厚膜抵抗体開発の現状と問題点
厚膜抵抗体開発の現状と問題点 日大生産工 ○阿部 治 1 はじめに 厚膜抵抗体はスクリーン印刷→乾燥→焼成 といった行程を経て製作される。印刷に用い られる抵抗ペーストは、RuO2などの導電体成 分とこれらを結合させるとともに基板へ付着 させるための固結剤、印刷を容易にするため の樹脂、ペーストの粘度を維持する溶剤から 構成されている。このような単純な組成と製 作の容易さなどから、電子回路形成部品とし て広く用いられている。しかし、抵抗体内部 での詳細な導電メカニズムはいまだに解明さ れきっておらず、試行錯誤による特性向上が 図られている。本報告では、厚膜抵抗体の開 発目標と問題点について報告する。 2 厚膜抵抗体材料 厚膜抵抗体の主材料は導電成分と固結材で ある。導電成分として最も多く用いられてい るのがRuO2である。これは酸化物でありなが ら、およそ3×10−7Ωmという金属に近い抵抗 率を示し、熱的にも非常に安定であり、微細 な粉末を作製できるなどの多くの利点を持っ ている。図1は厚膜抵抗体に用いられている 平均粒径がおよそ40nmのRuO2粉末の走査電子 顕微鏡写真である。Ruは貴金属であるため、 相場の高騰によりペースト価格が上昇する。 このため、卑金属化・非金属化が求められて いる。筆者らは多くの卑金属を導電材料とし ての使用を試みたが、未だにRuO2なみの特性 が得られる材料は見つかっていない。固結剤 には導電成分および基板との濡れ性、基板の 熱膨張係数に近いことなどが要求されるた め、硼珪酸鉛ガラスが多く用いられてきた。 しかし、地球環境や人体へ悪影響を及ぼす材 料を排除するため鉛フリー化が求められてい る。このため、硼珪酸亜鉛ガラス等の鉛を含 まないガラスの使用が増加している。しかし、 鉛レスガラスは軟化温度が高く、抵抗体の焼 成温度を下げられない、RuO2との濡れ性が硼 珪酸鉛ガラスほど得られないなどの問題点も ある。 3 厚膜抵抗体の微細構造 ガラス粉末の大きさが違う場合の印刷され た抵抗体の乾燥後と焼成後の抵抗体の構造の 違いを示したのがを図2である。抵抗体の形 状を小さくするためには、微細なガラス粉末 の使用が求められることがわかる。 図2 図1 乾燥後と焼成後の微細構造 RuO2粉末のFE-SEM Current state and problems of thick film resistors Osamu ABE しかし、超微細なガラス粉末は非常に活性で あり、外部からのわずかなエネルギの注入に よりガラス粉末同士が固結してクラスタを形 成してしまい、大きなサイズのガラスと同様 のふるまいをするようになるため、扱いが困 難である。また、ペースト作製時にガラス粉 末の浮遊も問題となる。 抵抗体を微小化することにより材料のコ ストを減少することができる。このため、抵 抗体のサイズは年々小さくなり、現在の主流 は基板のサイズで1.0mm×0.50mmとなってい る。さらなる微細化が求められているが、す でにチップ抵抗では微細化が極限まで達して いるのが現状である。 4 厚膜抵抗体の導電機構 図3は厚膜抵抗体の微細構造の模式図で ある。RuO2濃度がおよそ40%以上の場合には 鎖状の導電路と周辺に生成された反応層の結 合による導電路ができる。このような場合で は電流の大部分が反応層よりも抵抗の低い鎖 状の導電路を流れるため、抵抗値のRuO2濃度 依存性はほとんど見られなくなる。RuO2の粒 子数が多いため、特に温度が低い状態では導 電粒子間の接触抵抗が主な抵抗の因子となっ ている。 RuO2の濃度がおよそ30%になると、RuO2の相 互接触による鎖状導電路が形成され、抵抗体 の電気的特性は導電粒子相互の接触状態と RuO2の持つ電気的特性に依存するようになる。 以上のように厚膜抵抗体の導電機構は鎖状 導電路による金属的な伝導性と反応層による 半導体的な伝導性から成立している。 5 厚膜抵抗体の微細化と低価格化 厚膜抵抗体は熱的・経時的に安定でなけれ ばならない。このため導電成分には熱的に安 定なRuO2が、固結剤にはガラスが用いられて きた。そこで、RuO2とガラスのリアクション により生成される反応層に着目し、反応層の みを用いた厚膜抵抗体開発を試みている。現 状では反応層の取り出しに成功し、抵抗体の 試作も行っている。しかし、反応層の抵抗率 はとガラスの混合比、焼成温度などによって 決定してしまうため、以後の抵抗値の調整が 必要になってくる。 図4 図3 厚膜抵抗体のRuO2濃度と微細構造 RuO2の濃度が数%の場合はRuO2粒子が孤立 分散しており、ガラス中に形成された反応層 が相互に接触することにより導電性を保つこ とができている。このため、抵抗体の電気伝 導は半導体的な特性を示す。 RuO2の濃度が15%程度の場合では、抵抗体 の伝導は電極の間を結ぶ連続した鎖状の導電 路と半導体的な特性を示す反応層の結合によ り作られた導電路との割合によって決定す る。RuO2の濃度が多めの場合では鎖状の導電 路が支配的であるが、RuO2濃度が少ない場合 では鎖状の導電路が切断され、反応層の連結 による電気伝導が主流となる。 添加物効果 抵抗体へ添加物を加えた場合の抵抗温度係 数と抵抗値の変化を図4に示す。抵抗体ペー スト中へ添加物を混合することによって、抵 抗体の抵抗値と温度特性を制御することがで きる。反応層のみを用いて作製した抵抗体で も、各種の元素を添加することにより、RuO2と ガラス粉末を混合した抵抗体と同様に添加効 果および重ね合わせ効果が得られている。こ のため、数μm角の超微細な抵抗体作製が期 待できる。また、チップ抵抗として使用する 場合は、抵抗体の超微細化により、現在使用 されている基板上に数十個から数百個の抵抗 体を形成し、抵抗アレイとしての使用も可能 となるため、抵抗体部品の低価格化が実現で きる。