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むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出業務 平成 25

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むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出業務 平成 25
青森県委託調査
むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出業務
平成 25 年度報告書
平成 26 年 3 月
一般財団法人
日本立地センター
2
はじめに〜平成 25 年度の成果のあらまし〜
本業務は、平成 25 年度に青森県エネルギー総合対策局エネルギー開発振興課から、日本
立地センターが受託し、平成 25 年 5 月から平成 26 年 3 月までの約 11 ヶ月間にわたり調査
研究した成果をとりまとめたものである。
本業務に関しては、平成 24 年度に、むつ小川原開発地区の利活用及び地域の産業振興を
図るためのプロジェクト創出業務が実施され、プロジェクト候補の提案が取りまとめられ
ている。本年度は、提案されたプロジェクト候補について、その意図・背景等を十分に踏
まえながら、これを具体化していくことを目的として、個別プロジェクトの方向性と課題
の整理、政策支援方策など、各プロジェクトの実現可能性の精査を行い、より具体的な方
向性を見出した。
検討にあたっては、大学や研究機関、産業界の専門家などへの個別ヒアリングを実施し、
また、一部プロジェクトについては専門家会議を設置した。さらに、それら専門家の意見
を踏まえ、むつ小川原開発地区への適合性、妥当性、将来性、事業性などの観点から評価
を行い、実現可能性の高いプロジェクトの絞り込みを行った。
検討の結果、平成 25 年度の成果として、各プロジェクトについての今後の方向性を見出
した。
【平成 25 年度の検討で得られたプロジェクトの方向性】
<実現に向けて推進>
1.
植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェクト
2.
大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト
<プロジェクト内容の精査と再構築>
3.
藻類バイオエネルギー研究開発拠点形成プロジェクト
<可能性が低い>
4.
太陽光発電システムと循環型社会の実現に関する実証研究拠点形成プロジェクト
3
今後、プロジェクトの実現に向けては、計画内容の一層の具体化を進め、推進体制とス
ケジュールを明確化した基本構想レベルまで精度を高めるとともに、県の取組体制を強化
し、実現に至るまでのロードマップを作成することが求められる。
なお、プロジェクトの検討結果は、平成 25 年度段階のものであり、今後実現に向けて取
り組みを進める中で、プロジェクトの内容は変化していく可能性がある。
4
目次
はじめに〜平成 25 年度の成果のあらまし〜 ............................. 3
第1章:業務概要 .................................................... 7
1. 業務の目的 ......................................................... 7
(1)むつ小川原開発地区の位置づけ ........................................... 7
(2)平成 24 年度の検討結果 .................................................. 7
(3)平成 25 年度業務の目的 .................................................. 8
2. 業務の期間 ......................................................... 8
3. 業務の内容 ......................................................... 9
4. 主な業務の経過 .................................................... 11
5. プロジェクトの方向性 .............................................. 12
第2章:各プロジェクトに関する今年度の取組と検討結果 ............... 22
1. 植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェクト ........... 22
1-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度の報告書より抜粋) ........... 22
1-2. 平成 25 年度の検討概要 ................................................ 23
(1)薬草を巡る国内の状況と日本の抱える課題 ................................ 24
(2)産業界や自治体などの動き .............................................. 26
(3)政府の動き ........................................................... 32
(4)薬草の栽培研究........................................................ 39
(5)専門家や企業のへのヒアリング .......................................... 40
(6)これまでの検討結果(中間評価) ........................................ 49
(7)専門家会議の立ち上げと検討内容 ........................................ 50
(8)平成 25 年度の検討結果 ................................................. 53
(9)取組方針 ............................................................. 59
2. 大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト ................... 62
2-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度の報告書より抜粋) ........... 62
2-2. 平成 25 年度の検討概要 ................................................ 63
(1)災害対策、防災・減災に関する政府の動き ................................ 63
(2)福島第一原子力発電所事故に伴う福島復興プロジェクトの動き .............. 65
(3)災害対応ロボットを取り巻く状況:必要性・使用目的・運用シーン .......... 67
(4)災害対応ロボットの専門家の見解 ........................................ 70
(5)これまでの検討結果(中間評価) ........................................ 78
(6)平成 25 年度の検討結果 ................................................. 80
(7)取組方針 ............................................................. 82
5
3. 藻類バイオエネルギー研究開発拠点形成プロジェクト ................... 84
3-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度報告書より抜粋) ............. 84
3-2. 平成 25 年度の検討概要 ................................................ 85
(1)藻類バイオ燃料を巡る国内外の状況と日本における取組 .................... 85
(2)微細藻類燃料開発を巡る国内の動向 ...................................... 87
(3)専門家、産業界の見方 .................................................. 92
(4)平成 25 年度の検討結果 ................................................. 96
4. 太陽光発電システムと循環型社会の実現に関する実証研究拠点形成プロジェク
ト .................................................................... 100
4-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度報告書より抜粋) ............ 100
4-2. 平成 25 年度の検討概要 ............................................... 101
(1)使用済み太陽光発電システムをめぐる国内の状況 ......................... 101
(2)国や自治体の動き..................................................... 103
(3)民間の動向 .......................................................... 104
(4)研究開発機関の取組状況 ............................................... 106
(5)平成 25 年度の検討結果 ................................................ 107
終わりに .......................................................... 110
参考文献一覧 ...................................................... 111
6
第1章:業務概要
1.
業務の目的
(1)むつ小川原開発地区の位置づけ
むつ小川原開発地区はこれまで、 科学技術創造圏の構築を基本方針に産学官金の協力の
下、エネルギー・環境プロジェクトや国際研究機関、関連産業の立地が進み、先進技術の
集積や情報発信地としての環境が整備されている。
具体的には、国家石油備蓄基地、原子燃料サイクル施設、国際熱核融合実験炉(ITER)
のエネルギー研究センター、国内最大級の風力発電施設、スマートグリッドの先進技術の
実証試験が行われるなど、全国でオンリーワンのエネルギー産業の集積拠点が形成されて
いる。さらに、今後は国内最大級のメガソーラー施設が建設される予定がある。こうした
技術研究に関するプロジェクトの立地は、研究者・技術者の人的資源の誘致と交流を活発
化し、むつ小川原開発地区ならではの科学技術の文化を醸成している。
しかしながら、日本は、東日本大震災以降の経済の低迷、TPP による国内農業への影響な
ど、厳しい社会経済状況に直面している。また地球温暖化防止のための低炭素社会の実現
やエネルギーの安定供給、食料自給率の向上など国際的に大きな課題を抱えている。
国家的事業として整備されたむつ小川原開発地区の広大な土地は、日本に残された数少
ない国の資産とも言え、多様な可能性を持った貴重な空間である。引き続き科学技術創造
圏の一層の深化を目指し、青森のみならず日本や国際社会が今後直面する社会的な課題の
解決に貢献できる空間として位置づけ、産学官金が一体となった先進技術の実証試験や社
会実験のモデル地区として関連プロジェクトを誘致することを目指さなければならない。
(2)平成 24 年度の検討結果
上記の背景を踏まえ、平成 24 年度に、「むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出
業務」が実施された。同業務では、むつ小川原開発地区の『強み』を活用することに留意
し、プロジェクト創出の理念や目標及び基本方針、創出の方法などを設定し、国や青森県、
関係機関の産業技術に関する研究成果の動向を把握した上で、まず複数のプロジェクト候
補が提示された。さらに、それらをむつ小川原開発地区の立地条件や特性と照らし合わせ、
当該地区への立地の適合性、妥当性、市場性、成長性、プレーヤーなどの観点から検討、
評価を行い、概ね 3~5 年程度で実現の目途がつくと想定される 4 つのプロジェクトが最終
的に提案された。
7
【平成 24 年度に提案された 4 つのプロジェクト】
1. 大規模災害支援及び防災研究・拠点基地形成プロジェクト
2. 植物工場を核とした新たな農業の展開及び創薬等の実証研究・展開プロジェクト
A.植物工場を活用した企業による先進的な大規模農業生産の構築
B.植物工場を活用した薬草栽培・医薬品原材料の製造
C.バイオテクノロジーと閉鎖型植物工場を活用した創薬・医薬品材料の製造
(※IT を最大限活用した新たな農業スタイルの展開~農業の IT 化とクラウド化の促進
~、特に A 事業に関連)
3. 藻類バイオエネルギー燃料の製造実証プロジェクト
4. 太陽光発電システムと循環型社会の実現に関する実証研究プロジェクト
(3)平成 25 年度業務の目的

平成 24 年度に提案されたプロジェクトについて、評価項目(社会的ニーズ・市場性、
技術進展、プレーヤー・担い手、地域特性・立地条件、資金調達、実用化までの時間、
政策・規制・法整備、関係機関との連携・協力、青森県への波及効果など)について、
関連企業や技術研究機関、大学等へヒアリングを行い、プロジェクトの内容や可能性
について精査を行い、各プロジェクトの方向性と課題を整理するとともに、プロジェ
クト別に今後の取組姿勢を明確化。

今後とも推進すべきプロジェクトについては、専門家等の意見を聞きながら、具体的
な事業内容や展開イメージを作成し、関係者の合意を獲得。
2.

業務の期間
平成 25 年 5 月 31 日~平成 26 年 3 月 20 日
8
3.
業務の内容
本年度の業務では、平成 24 年度に提案されたプロジェクト案の具体化に向けて、情報収
集活動を継続すると共に、大学、研究機関、産業界の専門家などへの個別ヒアリングを継
続的に行った。
これらの情報収集と専門家からの意見を踏まえ、むつ小川原開発地区への適合性、妥当
性、将来性、事業性などの観点から検討を行い、平成 24 年度に提案された事業のうち、来
年度以降重点的に取り組むべきプロジェクトの絞り込みを行った。
【業務内容一覧】
情報収集・文献調査
プロジェクト名
1.大規模災害支援
及び防災研究・拠点
基地形成プロジェ
クト
2.植物工場を核と
した新たな農業の
展開及び創薬等の
実証研究・展開プロ
ジェクト
※ 主要なもののみ掲載
※ 詳細は本報告書末尾の「参考文献一覧」を参照
 新聞、雑誌
 産業競争力懇談会(COCN)
『災害対応ロボ
ットと運用システムの在り方』
 産業競争力懇談会(COCN)
『災害対応ロボ
ットセンター設立構想』
 特定非営利活動法人国際レスキューシス
テム研究機構(IRS)ホームページ
 福島・国際研究産業都市(イノベーショ
ン・コースト)構想研究会 第 1 回、第 2
回研究会配布資料
 吉村晶子ほか「US&R 訓練施設の整備と運
用 に 関 す る 研 究 ― テ キ サ ス Disaster
City ®の調査を通じて」地域安全学会論
文集
 The Texas A&M Engineering Extension
Service (TEEX)ホームページ
 渡辺裕司(COCN 実行員)、浅間一(COCN
推進テーマリーダー)
「災害対応ロボット
センター設立構想」プロジェクト―イノ
ベーションコースト構想の実現に向け
て」
 新聞、雑誌
 経済産業省北海道経済産業局『北海道バ
イオイノベーション戦略 = バイオで拓
く新たな食・健康 =』
 公益財団法人日本特産農産物協会「特産
農産物に関する生産情報調査結果」
 厚生労働省、農林水産省ホームページ
 厚生労働省「薬用植物の国内生産拡大に
向けた厚生労働省の取り組み」
 農林水産省『「医福食農連携」取組事例集』
 農林水産省「薬用植物の産地化に向けた
ブロック会議」資料
 農林水産省「薬用植物に関する農林水産
省の取り組み」医福食農連携事例発表会
資料
9
関係機関への
ヒアリング
専門家
会議の
設置
 東北大学
 八戸工業大学
 (株)夕張ツムラ
 漢方薬メーカー
 公益財団法人北海道科
学技術総合センター
(ノーステック財団)
 公益財団法人 21 あおも
り産業総合支援センタ
ー
 地方独立行政法人青森
県産業技術センター
 独立行政法人産業技術
総合研究所北海道セン
ター
 弘前大学
 第1回
専門家
会議
 第2回
専門家
会議
3.藻類バイオエネ
ルギー燃料の製造
実証プロジェクト
 新聞、雑誌
 産業競争力懇談会(COCN) 『微細藻類を
利用した燃料の開発』
 藻類産業創生コンソーシアム ホームペ
ージ
 渡邉信・彼谷邦光研究室 ホームページ
 筑波大学
 藻類バイオに関する研
究機関(産業界)
 藻類バイオに関するセ
ミナー
4.太陽光発電シス
テムと循環型社会
の実現に関する実
証研究プロジェク
ト
 新聞、雑誌
 秋田県 東日本 PV リサイクルネットワー
ク構築検討委員会「秋田県における太陽
電池パネルリサイクルシステムへの取り
組み」
 一般社団法人太陽光発電協会 ホームペ
ージ
 一般財団法人太陽光発電システム鑑定協
会 ホームページ
 環境省 ホームページ
 公益財団法人北九州産業学術推進機構
ホームページ
 独立行政法人産業技術総合研究所 太陽
光発電工学研究センター ホームページ
 三菱総合研究所 平成 24 度環境省委託事
業『平成 24 年度使用済再生可能エネルギ
ー設備のリユース・リサイクル基礎調査
委託業務報告書』
 一般財団法人 太陽光
発電システム鑑定協会
【専門家会議の設置】
「植物工場を核とした新たな農業の展開及び創薬等の実証研究・展開プロジェクト」の
うち、「B.植物工場を活用した薬草栽培・医薬品原材料の製造プロジェクト」については、
弘前大学(農学生命科学部)、青森県産業技術センター、青森県エネルギー開発振興課、及
び、農林水産部の関係者からなる専門家会議を設置し、専門的、実務的な視点から検討を
行った。
メンバー

弘前大学(農学生命科学部)

青森県産業技術センター

青森県庁(青森県エネルギー開発振興課、農林水産部)

一般財団法人日本立地センター(エネルギー部)
開催

第 1 回 平成 26 年 2 月 6 日
(於)弘前大学

第 2 回 平成 26 年 3 月 11 日
(於)弘前大学
10
4.
主な業務の経過

平成 25 年 8 月 7 日
公益財団法人北海道科学技術総合センターヒアリング

平成 25 年 8 月 8 日
(株)夕張ツムラヒアリング

平成 25 年 8 月 20 日
公益財団法人 21 あおもり産業総合支援センターヒアリング

平成 25 年 9 月 13 日
筑波大学ヒアリング

平成 25 年 9 月 18 日
八戸工業大学ヒアリング

平成 25 年 10 月 8 日
漢方薬メーカーヒアリング

平成 25 年 10 月 25 日 弘前大学ヒアリング

平成 25 年 11 月 12 日 東北大学ヒアリング

平成 25 年 12 月 4 日

平成 25 年 12 月 24 日 藻類バイオ研究機関(産業界)ヒアリング

平成 26 年 1 月 28 日
八戸工業大学ヒアリング

平成 26 年 2 月 6 日
植物工場活用型の薬草栽培プロジェクト第 1 回専門家会議

平成 26 年 2 月 18 日
藻類バイオに関するセミナー参加

平成 26 年 2 月 28 日
一般財団法人太陽光発電システム鑑定協会ヒアリング

平成 26 年 3 月 6 日
第 74 回むつ小川原開発推進協議会(六者協)WG での説明

平成 26 年 3 月 11 日
植物工場活用型の薬草栽培プロジェクト第 2 回専門家会議
漢方薬メーカーヒアリング
11
5.
プロジェクトの方向性
上述した情報収集・文献調査、関係者へのヒアリングを踏まえ、検討作業を行った結果、
平成 24 年度に提案された各プロジェクトについて、次のような方向性を見出した。
平成 24 年度に提案されたプロジェクト
1.植物工場を核とした新たな農業の展開
及び創薬等の実証研究・展開プロジェクト
今後の方向性

ェクトの実現可能性が高く、同プロジェク
A. 植物工場を活用した企業による先進的
な大規模農業生産の構築
B. 植物工場を活用した薬草栽培・医薬品
A~C のプロジェクトのうち、特に B プロジ
トを優先的に推進していく

B プロジェクトの名称を「植物工場活用型
の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェ
原材料の製造
クト」とし、具体的なロードマップの作成、
C. バイオテクノロジーと閉鎖型植物工場
推進体制の構築に向け取り組む
を活用した創薬・医薬品材料の製造

プロジェクトの実現可能性が高く、同プロ
ジェクトを優先的に推進していく

名称を「大規模災害対策・防災研究拠点基
地形成プロジェクト」とし、災害用ロボッ
2.大規模災害支援及び防災研究・拠点基地
トの研究開発、災害救助の演習、模擬施設
形成プロジェクト
を利用した過酷災害訓練などを行う研究拠
点基地形成構想とする

具体的なロードマップの作成、推進体制の
構築に向け取り組む

ジェット燃料製造実証試験をターゲットと
した平成 24 年度の構想を見直し、付加価値
3.藻類バイオエネルギー燃料の製造実証
の高い製品(化粧品、サプリメント)など
プロジェクト
を新たなターゲットとした構想を検討する

プロジェクトの再構築と、実現可能性の判
断に向け、情報収集を継続する

PV リサイクルの技術開発は、実証レベル
から既に実用化レベルにあり、政府の法整
4.太陽光発電(PV)システムと循環型社会
備も進み、業界でもリサイクル施設の立地
の実現に関する実証研究プロジェクト
選定段階にあることから、取り組むべき性
格のものではないと判断した
12
上記の方向性に基づき、今後は「植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロ
ジェクト」及び「大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト」について重点的
に取り組むとともに、「藻類バイオエネルギー燃料の製造実証プロジェクト」については、
構想の再構築を含めて精査を行うこととした。これらのプロジェクトの方向性と具体的な
事業内容・展開イメージを次ページ以降に示す。
13
【平成 26 年度以降重点的に取り組むプロジェクト①】
植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェクト
短期:むつ小川原開発地区における薬草栽培技術の研究開発拠点の形成
【事業の概要】

弘前大学農学生命科学部、青森大学薬学部、青森県産業技術センター等の青森の
関係機関や全国の漢方製剤企業の薬草栽培に関する知見、技術、ノウハウを活用
しながら、生薬、医薬品原料となる薬草栽培の研究開発や栽培の実証試験を行う。
具体的には、多種多様な薬草の優良系統品種を選別し日本薬局方(※)に準じた
薬効成分を生む優良な系統の選定を行ったり、適地適作の品種の選定や栽培方法
の検討などを行い、その成果を全国の漢方業界・企業に還元し、全国的でオンリ
ーワンの拠点として位置づける。

栽培技術の研究開発にあたっては、生育環境の異なる様々な品種の栽培研究に取
り組むことから、環境制御が可能な空間での試験研究が必要である。青森県の産
業技術センターではすでに政府(経済産業省)の支援を得て再生可能エネルギー
利用型・寒冷地型植物工場に関する実証研究を終え一定の成果を得ている。その
中には完全閉鎖型・環境制御型植物工場の実証試験にも取り組んだ実績があり、
今後その成果の実践的な活用の場が必要になっていることから、寒冷気候である
むつ小川原地域に適した植物工場実証プラントを設置して薬草栽培技術の研究開
発に有効活用することが望ましい。

研究開発拠点を進めるにあたっては、漢方製剤業界とのタイアップ、あるいは多
くの漢方製剤企業の参加が必要になる。このことは全国の漢方・生薬に関係する
技術者や研究者、また企業の営業マンなどがこの拠点に出入りすることになり、
人的な交流や情報の交流が活発化する。

すでに漢方に関する公的な研究開発機関として、独立行政法人
医療基盤研究所
薬用植物資源研究センターが存在しているが、当該機関との機能の補完関係と連
携協力による日本の薬草の研究開発機能のパワーアップを図ることも視野に入れ
つつ検討を進める。
14
※日本薬局方
日本薬局方は、薬事法第 41 条により、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労
働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書。日本薬局方の
構成は通則、生薬総則、製剤総則、一般試験法及び医薬品各条からなり、収載医薬品につ
いては我が国で繁用されている医薬品が中心となっている。
日本薬局方は 100 年有余の歴史があり、初版は明治 19 年 6 月に公布され、今日に至るま
で医薬品の開発、試験技術の向上に伴って改訂が重ねられ、現在では、第十六改正日本薬
局方、第一追補及び第二追補が公示されている。
(出所:厚生労働省 「日本薬局方」 ホームページ)
例えば、カンゾウについては、日本薬局方で次のように記されている。
甘草
Glycyrrhiza
GLYCYRRHIZAE RADIX
カンゾウ
本品は Glycyrrhiza uralensis Fischer 又は Glycyrrhizaglabra Linné(Leguminosae)
の根及びストロンで,ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)である.本品は定
量するとき,換算した生薬の乾燥物に対し,グリチルリチン酸(C42H62O16:822.93)2.5 %
以上を含む
(出所:第十六改正日本薬局方 p.1474)
15
16
【事業展開イメージ:短期】
中長期:青森県における薬草関連産業の創出
【事業の概要】

むつ小川原開発地区の実証試験後、事業性の確認、ビジネスモデルの確立がなされ
れば、同プラントで栽培された優良系統品種の種苗を県内農家・生産組合等に配布
する。医薬品メーカーへは販売する。

県内農家・生産組合等は優良系統品種の薬草の大量生産を行ない、医薬品メーカー
に販売。

薬効成分の低い薬草については、食品メーカー・化粧品メーカー等への販売、又は、
彼らとコラボレーションし、新たな事業展開を行なう。

将来的に、薬草栽培に係る医薬品メーカー、食品メーカー、化粧品メーカー等の工
場誘致や新産業の創出を目指す。
17
18
【事業展開イメージ:中長期】
【平成 26 年度以降重点的に取り組むプロジェクト②】
大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト

国が進める国土強靭化政策と関連し、大規模災害に備えて、東日本における大規模
災害対策・防災研究拠点基地を国家的なプロジェクトとして形成する。

災害救助の演習フィールドや大規模で過酷な災害用の訓練施設(模擬施設)を設置
し、災害救助の主体となる関係機関(政府関係機関、消防、警察、自衛隊、医療関
係者、自治体、大学・研究機関、NPO など)の実践的な訓練・演習を実施し、人材育
成に貢献する。実践的な訓練・演習は、まず地域レベルから開始し、県レベルのも
のに拡大し、最終的には、東日本・全国レベルの広域的なものも想定する。

人間の活動の及ばない過酷事故に備えた災害用ロボットの全国的な研究開発拠点を
整備し、様々な事故に対応したロボットの研究開発を行なう。研究開発にあたって
は、八戸工業大学、東北大学などでロボットの研究開発に取り組む研究者を中心に、
(NPO)国際レスキューシステム研究機構(※)などの協力を得ながら進めていく。

ロボットの研究開発に当たっては、実際の災害現場で有効に機能するロボットの開
発を目指すため、試作、実証、改良に力を入れる。また、実証試験が効果的に行な
えるように、実際の災害現場を模した施設や環境をつくる(例:米国ディザスター・
シティ)。

ロボットの研究開発にあたっては、必要な部品の製造等で地元のものづくり企業に
参画してもらい、地場のものづくり企業の技術向上に貢献するとともに、新たなビ
ジネスの種を発見する機会づくりに寄与する。

災害対応の訓練・演習、災害用ロボットの研究開発を支援すべく、災害シミュレー
ションにも力を入れる。その際には、当該地区に既に設置してあるスーパーコンピ
ューター「六ちゃん」を最大限活用する。

災害対応の訓練・演習、災害用ロボットの研究開発がスムーズに進むよう、センタ
ー機能施設を整備する。事務用オフィス、技術者・研究者用オフィス、会議室、資
料室、食堂・宿泊施設等を整備し、拠点基地利用者の受け入れ体制を整える。

なお、当初の構想では、災害用の資機材や食料の備蓄施設建設を含めていたが、む
つ小川原開発地区は緊急時防護措置準備区域(UPZ、原子力関連施設から概ね 30 ㎞
圏内)に入るため、緊急時に活用できない可能性があるとの指摘を受け、本プロジ
ェクトから除外することとした。
【事業の概要】
19
※(NPO)国際レスキューシステム研究機構
国際レスキューシステム研究機構(IRS)は、先端技術による災害対応の高度化と、その普
及を図ることを目的として設立された、研究者を中心とした産官学民による組織。様々な
人材や組織、機関の力を結集し、その協力によって、安全で安心して暮らせる社会の実現
に貢献することを目的とする。災害救助に関連する最先端テクノロジーの研究開発、調査
や学術会議の開催、学術啓蒙活動や国際協力の推進等を行う。
【設立】
・ 2002 年 4 月 18 日
【役員】
・ 会長:田所諭 (東北大学教授)
・ 副会長:松野文俊 (京都大学教授)
・ 理事長:北野宏明 (ソニーコンピュータサイエンス研究所取締役所長/ERATO-SORST 北
野共生システムプロジェクト総括責任者)
(出所:(NPO)国際レスキューシステム研究機構 ホームページ)
20
21
【事業展開イメージ】
第2章:各プロジェクトに関する今年度の取組と検討結果
1.
植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェクト
1-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度の報告書より抜粋)
【概要】





青森県産業技術センターで得られた再生可能エネルギー利用型・寒冷地型植物工場
に関する成果(データ)、栽培・経営ノウハウを活かしながら、むつ小川原開発地
区に適した植物工場実証プラントを設置する。
千葉大学や企業コンソーシアムの薬草栽培に関する知見やノウハウを活かしなが
ら、同プラントにて、医薬品原料となる薬草(主にカンゾウ)の生産実証を行なう。
その際、栽培する薬草の優良系統品種を選別し、優良な品種のみの生産を目指す。
また、同施設にて、栽培した薬草の薬効成分の評価や品質管理を行なう。
実証試験後、事業性の確認、ビジネスモデルの確立がなされれば、同プラントで栽
培された優良系統品種の種苗を県内農家・生産組合等に配布する。漢方薬メーカー
へはそれらを販売する。
県内農家・生産組合等は優良系統品種の薬草の大量生産を行ない、漢方薬メーカー
に販売する。薬効成分の低い薬草については、食品メーカー・化粧品メーカー等へ
の販売、又は、彼らとコラボレーションし新たな事業展開を行なう。
将来的に、薬草栽培による全県的な植物工場の展開、漢方薬メーカー、食品メーカ
ー、化粧品メーカー等の工場誘致を目指す。
22
1-2. 平成 25 年度の検討概要
平成 25 年度の成果をまとめるにあたっては、以下に示す情報収集や検討を行った。
【植物工場活用型薬草栽培プロジェクトの経緯】
年
月
日
訪問先/会議
19
弘前大学
大河原副学長、羽田学長補佐
19
(地独)青森県産業技術セン
ター
4
(独)産業技術総合研究所
北海道センター
5
北海道経済産業局
産業バイオ課
6月
7月
31
1
平
成
25
年
8月
7
8
20
9月
12 月
平
成
26
年
弘前大学
大河原副学長、羽田学長補佐
弘前大学
農学生命科学部
佐々木学部長ほか 4 先生
(公財)北海道科学技術総合
センター
(ノーステック財団)
(株)夕張ツムラ
(工場視察)
(公財)21 あおもり産業総合
支援センター 総合支援室
19
青森銀行
8
10
大手漢方薬メーカー
県庁中間報告会
25
弘前大学
農学生命科学部
10 月
4
内容
大手漢方薬メーカー
24 年度成果の説明とプロジェクト推進
における弘前大学等への依頼事項など
24 年度成果の説明、植物工場と薬草栽培
等について意見交換、プロジェクト推進
の考え方など
植物工場活用型の薬草栽培、及び動物用
ワクチン開発について情報収集
北海道内で進める医薬品原料の生産体制
と産学官連携、バイオクラスター計画に
ついて情報収集
植物工場と薬草栽培について情報交換
植物工場活用型の薬草栽培について意見
交換。佐々木学部長、前田准教授、丸居
准教授、森谷助教出席
バイオクラスター計画推進における産学
官連携の役割
北海道の薬草生産等の拠点であるツムラ
の工場見学と情報収集
青森県における産学官連携の現状と課題
について意見交換
青森県における産学官金連携の現状と課
題、むつ小川原開発地区におけるプロジ
ェクト推進における地元金融機関の役割
など意見交換
薬草栽培について意見交換
関課長、平松課長代理、伊藤 GM への報告
佐々木学部長、前田先生、丸居先生、森
谷先生への薬草専門家会議への参画依頼
⇒ 承諾を得る
薬草栽培、専門家会議などについての意
見交換
2月
6
植物工場活用型の薬草栽培プロジェクト第 1 回専門家会議
3月
6
第 74 回むつ小川原開発推進協議会(六者協)WG での説明
3月
11
植物工場活用型の薬草栽培プロジェクト第 2 回専門家会議
23
(1)薬草を巡る国内の状況と日本の抱える課題
【薬草の需要増加は確実】
漢方薬の需要増加、漢方薬メーカーの販売量増加の必要性などから、今後漢方薬の原材
料となる薬草への需要の高まりが確実視されている。
農林水産省の資料によると、国内医薬品生産金額 6 兆 9874 億円(平成 23 年)のうち、
漢方製剤(医療用と一般用)の占める割合は 2%(約 1400 億円)である。また、平成 19~
23 年の 5 年間における医療用漢方製剤の市場は 1.23 倍の伸びを示し、
漢方薬全体では 1.16
倍の伸びとなっている。
国内医薬品生産金額は 6 兆 9,874 億円(平成 23 年)、漢方製
国内医薬品に占める漢方薬
剤(医療用+一般用)が占める割合は 2%(約 1400 億円)
直近 5 年間(平成 19-23 年)、医療用漢方製剤の市場は 1.23
漢方薬市場の動向
倍の伸び(医療用医薬全体は 1.09 倍)、漢方薬全体でも 1.16
倍(医薬品全体では 1.08 倍)
(出所:農林水産省
「薬用植物に関する農林水産省の取り組み」
医福食農連携事例発
表会資料 2013 年 10 月 15 日)
また、2015 年には、漢方薬の国内市場規模が 2000 億円を超えるという予測もある。
(出所:森田哲明(野村総合研究所) 第 125 回 NRI メディアフォーラム プレゼン資料)
24
漢方製剤等の原料となる生薬の年間使用量は約 20,000t(平成 20 年度)。このうち、国産
は約 2,500t と全体の約 12%である。また、漢方製剤等は医療現場でのニーズが高まってお
り、その原料となる生薬の需要量は、今後とも増加が見込まれている。
(出所:農林水産省
「薬用植物に関する農林水産省の取り組み」
医福食農連携事例発
表会資料 2013 年 10 月 15 日)
【薬草の安定供給が脅かされるリスク】
漢方薬の原料となる薬草は現在 8 割以上を中国からの輸入に依存している。中国国内で
は、漢方薬の需要が増加し、乱獲により自生の薬草が減少していることなどから、一部薬
草の輸出規制を設けている。その結果、日本に輸入される生薬の輸入価格は近年上昇傾向
にある。また、日本と中国との外交上の課題を踏まえれば、今後、薬草の輸出制限が強化
される可能性もある。
(出所:農林水産省
「薬用植物に関する農林水産省の取り組み」
表会資料 2013 年 10 月 15 日)
25
医福食農連携事例発
(2)産業界や自治体などの動き
【産業界の動き】
このように、将来的に中国から薬草を安定的に輸入できない可能性があるため、国内の
漢方薬メーカーは、栽培技術の研究に取り組む一方で、国内に生産拠点をつくる動きを進
めている。
これまでの主な取り組みとしては、
(株)ツムラによる夕張市での薬草栽培や新日本製薬
(株)の 5 つの自治体と連携した(青森県新郷村も含む)カンゾウの試験栽培などが知ら
れている。また、2013 年 7 月には(株)龍角散が秋田県美郷町でカンゾウの試験栽培を開
始している。
こうした動きは、漢方薬メーカーによる薬草の国内栽培拡大の一部であり、水面下では
各メーカーが様々な地域で薬草栽培に向けた取り組みを強化しているという(専門家、企
業へのヒアリングより)
。
また、漢方薬メーカーで構成される日本漢方生薬製剤協会は、協会の重要な課題の一つ
として、
「生薬の国内生産振興」を掲げ、その課題解決に向けた取り組みに力を入れている。
その一つの動きとして、2013 年に、厚生労働省、農林水産省との連携により、
「薬用植物の
産地化に向けたブロック会議」が全国 8 ヶ所で開催された(※後述)
。
【各都道府県における薬草の栽培状況】
公益財団法人日本特産農産物協会が発表している「特産農産物に関する生産情報調査結
果」
(次ページ参照)には、各都道府県における薬草の栽培状況が記されている。それによ
ると、生産量の上位 3 県は島根、大分、福岡となっている。一方、下位 3 県を見てみると、
宮城県、長崎県、青森県となっており(データが不明な県を除く)、青森県は、薬草の生産
レベルに関しては低い現状にある。
26
【薬用作物の都道府県別栽培状況(平成21年産)
】
(単位:㎏)
産
生
都道府県名
栽培戸数 (戸) 栽培面積 (a)
量
転作面積(a)
北海道
契約面積(a)
収穫面積(a)
21,169
0
6,914
6,342
11
30
0
0
30
50
岩手
326
4,602
11
0
287
71,880
宮城
20
8
0
8
1
100
90
1
40
0
3,599
0
104
栃木
147
21,158
群馬
261
4,873
1
16
秋
田
152
青森
山形
福島
698,248
5
30
100
1,000
0
2,300
0
2,579
21,200
79,980
19,010
15,290
21,158
539,975
0
4,480
4,833
130,320
30
0
30
30
300
15
0
0
15
676
茨城
玉
埼
千葉
東京
神奈川
山梨
36
135
0
43
135
6,477
長野
276
6,816
0
0
8,923
267
静岡
62
284
60
284
146
447
新潟
106
1,042
507
475
1,434
37,660
富山
270
15,919
0
14,680
14,837
250,908
石川
20
630
600
0
620
12,200
福井
129
11,129
60
0
2,179
18,722
240
1,494
不明
190
18,984
1,700
岐阜
愛知
不明
0
不明
15
不明
不明
三重
滋賀
6
240
0
0
240
5,500
京都
66
30
30
0
28
531
大阪
兵庫
113
884
877
879
879
12,695
奈良
271
2,025
184
94
903
15,914
和歌山
1,265
19,640
245
1,305
1,145
164,080
鳥取
島根
46
336
2,190
21,626
10,216
340
13,649
15,505
48,045
1,753,839
岡山
43
665
118
431
548
192,236
広島
山口
徳島
香川
愛媛
79
983
0
1,060
1,033
8,816
高知
福岡
329
104
8,657
5,730
2,203
3,168
8,643
5,580
6,621
5,730
295,627
1,634,420
佐賀
長崎
2
20
0
20
0
40
熊本
172
5,388
285
4,910
5,370
1,061,776
大分
489
4,686
2,346
3,670
4,266
1,714,321
宮崎
7
110
10
100
110
767
287
6,225
672
5,879
6,200
342,295
鹿児島
沖縄
642
11,764
2,355
8,615
11,404
169,621
合計
6,372
183,896
43,151
99,694
123,824
9,311,548
(出所:公益財団法人日本特産農産物協会「特産農産物に関する生産情報調査結果」平成 23 年
12 月調査)
27
【自治体などの動き】
自治体の中には、新産業の創出と関連づけて、産業界や学術・研究機関と連携し、薬草
の産地形成や産業の創出に取り組むところもある。農林水産省が 2013 年にまとめた産地形
成の取り組み事例を以下に示す。
薬用作物国産化のニーズに応えた産地形成等に向けた取り組み
取組名
取組主体
都道府県
薬用作物生産による地域農業の振興の取組
名寄市薬用作物研究会
北海道
漢方製剤会社による薬用作物の生産
(株)夕張ツムラ北海道
北海道
製薬会社と提携した市場性の伴ったカンゾウ
(財)新郷村ふるさと活性化公社
青森県
甘茶の産地形成と新商品の開発
(株)九戸村ふるさと振興公社
岩手県
薬用作物を活かした健康まちづくり
生薬まちづくりの会
宮城県
被災地支援を薬用作物栽培で
(株)アミタ持続可能経済研究所
宮城県
生薬原料としての薬用作物の試験栽培
東京生薬協会
秋田県
製薬会社、大学と連携した薬用作物栽培
(有)新庄最上有機農業者協会
山形県
砂丘地で漢方薬の原料カンゾウ生産
胎内市
新潟県
シャクヤクの栽培普及による産地形成
富山県
富山県
薬草生産で地域おこし
金沢大学
石川県
漢方のメッカ推進プロジェクト
奈良県
奈良県
薬用作物の活用による中山間地域の振興
美馬市
徳島県
製薬企業との薬用作物の契約栽培
(農)ヒューマンライフ土佐
高知県
薬草を活用した島原半島活性化プロジェクト
島原薬食育プロモート協議会
長崎県
カンゾウ栽培への取組み
合志市
熊本県
契約栽培を通じた薬用作物の安定生産と加工
(有)沖縄長生薬草本社
沖縄県
栽培
品の品質向上
(出所:農林水産省 『
「医福食農連携」取組事例集』 2013 年 10 月)
【国家戦略特区を活用した取組】
自治体の一部には、政府が指定する国家戦略特区を活用して漢方の産業化に取り組むと
ころもある。神奈川県、横浜市、川崎市は、2013 年 9 月に「健康・未病産業と最先端医療
関連産業の創出による経済成長プラン」に「漢方薬産業の促進」を盛り込み、生薬栽培の
拡大などを提案している。
既述した薬用作物の都道府県別栽培状況(平成 21 年産)を見ると、神奈川県の数値は空
28
欄になっており正確な数値は不明であるが、神奈川県における取組内容を見てみると、薬
草栽培というよりは漢方薬の医療効果を科学的に証明するためのビッグデータ解析に焦点
を当てている点に特徴がある。
神奈川県の取組
【経緯】

2013 年 9 月、神奈川県、横浜市、川崎市が共同で、国家戦略特区に係る提案書「健
康・未病産業と最先端医療関連産業の創出による経済成長プラン ~ヘルスケア・
ニューフロンティアの実現に向けて~」を国に提出

同提案の中に、
「漢方産業化の促進プロジェクト」を盛り込む
【プロジェクト概要】
プロジェクト名

漢方産業化の促進プロジェクト
内容

漢方など東洋医療に関するエビデンス解析に向けたビッグデータ解析の推進 (※
科学的なエビデンスに基づく西洋医学に、漢方医学の未病治療という視点を融合
させるための情報活用基盤を構築)

生薬栽培の産業化の促進
実施主体

東洋医学に関するエビデンス解明のためのビッグデータ解析事業は慶應義塾大学
(湘南藤沢キャンパス)が実施する模様

生薬栽培の産業化の促進の実施主体は不明
奈良県は、都道府県の薬用作物の栽培において全国的に目立った位置にはないが、奈良
県は漢方薬や生薬製剤について、奈良時代に遡る文化的・歴史的厚みを持つとされ、地場
産業として配置薬産業が発展してきた歴史があるという。このような歴史的経緯を踏まえ
て、奈良県は、薬草の栽培、漢方の医学的根拠の確立、薬用植物の栽培指導の人材育成、6
次産業化まで幅広い取組を行う点に特徴がある。
29
奈良県の取り組み
【経緯】

2013 年 9 月、奈良県が国家戦略特区に係る提案書を国に提出(7 つの提案を行う)

7 つの提案の他に、奈良県が参画する漢方産業化推進研究会が、
「漢方産業化推進
に係るプロジェクト」を別途提案
【プロジェクト概要】
プロジェクト名

漢方産業化推進に係るプロジェクト
内容
 川上(栽培)での推進方策
 漢方の 6 次産業化を目指す農業法人等を育成支援
 農業総合センターでの良質で安定した栽培のための技術開発・支援
 農業総合センターでの優良種苗生産の技術開発・支援
 川下(製造)での推進方策
 川下(製薬メーカー等)のニーズの把握と新たな商品化の支援
実施主体

漢方産業化推進研究会

生薬、食品、流通、情報通信、医療機関など約 20 の企業・団体で構成され、奈良
県、神奈川県も参加

代表:渡辺賢治氏(慶応義塾大学医学部教授)
その他

奈良県は元々「漢方のメッカ推進プロジェクト」に取り組んでおり、
「良質な薬草
の安定した栽培」、「薬草を生薬に加工し、健康の薬として使用」の 2 分野を推進

渡辺賢治氏(慶応義塾大学医学部教授)は奈良県の漢方推進顧問
【北海道バイオイノベーション戦略における薬草栽培への取組】
北海道では、地域の良質な食資源、医療・医薬分野の研究シーズなどの強みを活かし、
農業・食・健康分野のイノベーション創出と関連産業の高付加価値化に取り組んでいる。
これらを実現すべく、3 つの先導的プロジェクトが進められているが、その一つに、
「生薬・
漢方薬製造の拠点形成と関連産業誘致」がある。
薬草栽培に向いているとされる冷涼な気候、(独)医薬基盤研究所や北海道医療大学等の
研究機関、
(独)産業技術総合研究所北海道センターの「完全密閉型植物工場」等の最先端
のバイオ技術という強みと、
(株)夕張ツムラという存在を活かし、北海道は、生薬の栽培・
生産拠点化を目指している。
30
北海道バイオイノベーション戦略における
「生薬・漢方薬製造の拠点形成と関連産業誘致」プロジェクト
Project2:生薬・漢方薬製造の拠点形成と関連産業誘致
日本国内のほか欧米など世界的に需要増大が見込まれ、安定的調達が課題となっている漢方
薬の原料(生薬)について、北海道を国内における生薬の栽培・生産拠点とすべく、品種及び
生産量の拡大を目指すとともに、栽培技術等に係る研究開発機能を強化する。さらに、生薬の
栽培から漢方薬の商品開発や生産、流通・販売に至るまで、製薬・製剤企業など関連産業の誘
致、集積を推進する。
○ 漢方薬の原料である生薬については、国内生産は 1 割程度にとどまり、6 割が中国、残り 3
○
○
○
○
割がその他の国からの輸入に依存している。また、近年、中国をはじめとする供給国では、
資源保護の動きを強めており、生薬の安定的調達手段の確保が喫緊の課題となっている。
北海道の冷涼な気候・風土は、漢方薬原料となる生薬の栽培に適していると言われている
ほか、十分な耕作地を有していること等の強みがある。2009 年に、漢方薬製造販売の国内
最大手企業が夕張市に子会社を設立し、生薬の栽培を開始するとともに、昨秋には加工及
び保管の機能を構築したことは、北海道が生薬生産拠点として優位性を有することを示す
ものと考えられる。
また、北海道内には、独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター(名寄市)
や、北海道医療大学(薬用植物園、北方系伝統薬物研究センター)などの機関が設置され、
生薬に関する研究が活発に行われているほか、生薬ライブラリー等も保有している。
今後、国内で生薬栽培を戦略的に進めるためには、新技術導入の検討も重要と考えられる。
上記の大学及び研究機関のほか、産業技術総合研究所北海道センター「完全密閉型植物工
場」の植物バイオ技術の活用や、同技術の農業生産者等への普及なども期待される。
これらの優位性を最大限に生かし、生薬の栽培・生産拠点を戦略的に形成することで、国
内自給率向上に寄与するとともに、高付加価値な製薬・製剤関連産業の誘致および集積の
実現を目指す。
<当面のアクションプラン>
 生薬栽培・研究拠点形成に係る産学官による研究会の設置
 生薬ライブラリー等の活用による新規機能の開発支援(競争的資金の獲得等)
 育種栽培等に係る新技術導入等の研究開発の促進
 関連産業誘致を促進するための支援措置の検討(設備投資に係る税制優遇、助成金など)
 新技術導入や医薬品製造に係る関係省庁の連携強化(農林水産省、厚生労働省、経済産業
省)
(出所:経済産業省北海道経済産業局 『北海道バイオイノベーション戦略 = バイオで拓
く新たな食・健康 =』 平成 23 年 5 月)
31
(3)政府の動き
薬草の安定供給が脅かされるリスクを踏まえ、国は、厚生労働省、農林水産省を中心に、
近年、薬用作物の国内栽培拡大に向けた取組を強化している。
平成 24 年度には、
「薬用作物に関する情報交換会」を開催し、漢方業界団体や生産団体、
地方自治体等と情報の共有を図っている。
また、上述したように、2013 年 8 月から、厚生労働省、農林水産省、日本漢方生薬製剤
協会が連携し、薬草の国内栽培拡大に向けて、「薬用植物の産地化に向けたブロック会議」
を全国 8 か所で開催し、生産者と使用者(漢方薬メーカー)とのマッチングを図っている。
【国による生産者と使用者(漢方薬メーカー)のマッチング】
〇需給情報の交換・共有
薬用作物の生産者側





何を栽培したらよいのか
種苗はどのように入手す
ればよいのか
どうやって作るのか
どこ(誰)が買ってくれ
るのか
いくらで売れるのか
(出所:農林水産省
薬用作物の使用者側

需給情報の
交換・共有



どこ(誰)が、何を栽培
するのか
数量、価格はどの程度か
安定供給はできるのか
日本薬局方の基準値はク
リアできるのか
「薬用植物に関する農林水産省の取り組み」
医福食農連携事例発
表会資料 2013 年 10 月 15 日)
また、ブロック会議で使用された資料の一部を次ページ以降に示す。
32
【ブロック会議で使用された資料①】
33
【ブロック会議で使用された資料②】
34
【ブロック会議で使用された資料③】
35
政策面での支援策としては、農林水産省の平成 25 年度予算において以下のような支援事
業が実施されている。
平成 25 年度農林水産省による薬用作物栽培支援関連事業
薬用作物の栽培技術の実証、生産技術力の強化に必要な農業用機械リース
に対する支援

産地活性化総合対策事業:23 億円
うち 産地収益力向上支援事業
うち 地域特産作物需要拡大技術確立推進事業
産地化支援
うち 農畜産業機械等リース支援事業
(例:新作物等の栽培実証ほ場の設置、加工技術の改良等)
水田における生産振興のための支援

水田活用の直接支払交付金のうち産地資金:539 億円
(地域で支援作物・単価を設定)
薬用作物の加工・乾燥調製等に必要な共同利用施設の整備等に対する支援

強い農業づくり交付金:244 億円

農山漁村活性化プロジェクト支援交付金:62 億円
(例:乾燥調製施設、集出荷貯蔵施設の整備等)
加工・流通の
高度化
薬用作物を活用した6次産業化・成長産業化の実現に対する支援

6次産業化支援対策:36 億円

農林漁業成長産業化ファンドの本格始動:350 億円
(財投資金)
荒廃した耕作放棄地を再生利用するための雑草・雑木除去や土づくり等の
取組への支援
その他

耕作放棄地再生利用緊急対策交付金:45 億円
(例:荒廃した耕作放棄地の再生(雑草等の除去)/再生農
地への薬用作物の導入耕作/放棄地の再生利用に必要
な基盤整備(用排水施設の整備等)
)
(出所:農林水産省
「薬用植物に関する農林水産省の取り組み」
表会資料 2013 年 10 月 15 日)
36
医福食農連携事例発
また、農林水産省は、平成 26 年度に「薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業」を実
施する。同事業の予算は 4 億円で、薬用作物の試験栽培等を通じて新たな薬用作物の産地
を創出し、国内生産量を 2016 年度までに 2010 年度比で 1.5 倍に拡大することを目標とし
ている。事業の主な内容は次の通りである。
薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業

予算規模:4 億円

目標:薬用作物の試験栽培等を通じて新たな薬用作物の産地を創出し、国内生産量
を 2016 年度までに 2010 年度比で 1.5 倍に拡大
(主な事業内容)

薬用作物など産地確立支援
薬用作物の産地化形成に向けて、以下の取組を支援

地域ごとの気候条件・土壌条件等に適した品種の選定や栽培マニュアルの作成

安定した生産に資する栽培技術確立のための実証ほ場の設置

低コスト生産体制の確立に向けた農業機械の改良 等

補助率:定額、1/2 以内

事業実施主体:民間団体等
(出所:農林水産省 「平成 26 年度 農林水産予算概算決定の概要」
)
37
38
(出所:農林水産省 「平成 26 年度 農林水産予算概算決定の概要」
)
(4)薬草の栽培研究
薬草は、近年日本で「レアプラント」とも呼ばれるようになり、「(3)政府の動き」で
述べたように、日本政府や公的研究機関、産業界は栽培技術の確立に向けた取組を進めて
おり、具体的な取組の一つとして、厚生労働省と(独)医薬基盤研究所(薬用植物資源研
究センター)が薬用植物の栽培技術の確立等に向けた研究等を進めている。
(出所:厚生労働省
「薬用植物の国内生産拡大に向けた厚生労働省の取り組み」
医福
食農連携事例発表会資料 2013 年 10 月 15 日)
また、鹿島建設、千葉大学、独立行政法人医薬基盤研究所は、共同で、薬草(カンゾウ)
の人工光型植物工場(一部太陽光併用型)での水耕栽培に取り組み、成果を上げている。
青森県においても平成 23 年 7 月に新郷村、新日本製薬、青森県産業技術センターの三者
により『青森県産薬用植物研究会』が設立され、降水量が少なく冷涼な気候で薬草栽培の
適地とされている新郷村での試験栽培が実施された実績がある。
公的研究機関
民間











カンゾウ国内栽培試験機関
(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部
北海道医療大学
九州大学薬学部・工学部・玄海町
千葉大学園芸学部
大阪薬科大学
奥羽大学薬学部
新日本製薬
三菱樹脂化学・グリーンイノベーション
武田薬品工業
ツムラ
鹿島建設
39
(出所:伊藤徳家(奥羽大学薬学部准教授) 「薬用植物の栽培方法・新資源開発」
情報機構主催セミナー資料 2012 年 11 月 19 日)
(5)専門家や企業のへのヒアリング
当該プロジェクトの実現可能性について精査・検討を行うため、既述した情報に加え、
薬草栽培の研究に携わる様々な専門家や企業、機関にヒアリングを行った。主なヒアリン
グ結果の概要を以下に示す。
40
(独)産業技術総合研究所北海道センター
植物工場を活用した薬草栽培は技術的にも事業的にも未開拓な領域

薬草には根茎類が多く、収穫まで数年かかるものが多い。一般的に、植物工場におけ
る水耕栽培で根菜類を栽培することは困難であり、また、植物工場は露地栽培に比べ
ランニングコストがかかることから、植物工場での薬草栽培はハードルが高い。
産総研の技術が確立すれば薬効成分の安定化、コスト削減が可能

産業技術総合研究所が取り組む以下の技術が確立すれば、薬効成分の安定化、コスト
削減の可能性も出てくるが、現時点では技術の確立が出来るかどうかは未定である。

薬草の種類の選抜

クローン技術の活用による優良系統品種の選抜

根菜類の植物工場での栽培

薬草の栽培期間の短縮

薬効成分の増加

光の制御により植物工場のランニングコストを削減
植物工場を活用した薬草栽培では圃場での栽培を取り入れることが必要

栽培の全工程を植物工場で行うとコストが高すぎるため、圃場での栽培が必要である。
日射量があまり多くなく冷涼な気候の青森県は薬草栽培に有利

生薬になる植物は日影を好む。その点では青森県の気候条件は有利に働く。
薬草栽培では適度なストレス環境が必要

生薬となる植物は苛酷な環境下で育ち、植物にストレスがかかることで薬効成分が生
じる。そのため、生育環境が良いと成長は早いが、薬効成分が少なくなる。栽培期間
を短くする場合には、植物工場で多少生育環境を良くして成長を早める一方、薬効成
分を確保するためにある程度のストレスを与える方法が良い。
その他

薬草は栽培条件が合えば、流通の面からの立地条件はあまり問題にはならない。その
ため、むつ小川原開発地区での薬草栽培は流通面では大きな問題はないのではないか。

植物工場でカンゾウを生産し出荷する構想は事業としては困難と思われる。カンゾウ
は工業用から甘味料まで幅広く使用されており、年間の使用量が膨大。使用量が多い
ものは、単価が安い。単価が安いものをコストのかかる植物工場で生産しても(全栽
培工程を植物工場で行った場合)採算が合わない可能性がある。
41
■参考:漢方薬と薬価について
薬価は国により決定される医療用医薬品の公定価格のことである。漢方薬についても薬
価によって価格が決められている。
西洋医学の新薬開発には莫大な予算がかかることから、新薬の薬価が高く設定されてい
る一方、漢方薬の場合には、歴史的に使われてきたものを製品化するという性格から、新
薬が開発されることは稀であり、実際ここ 20 年新薬は出ていない。その結果、漢方薬の薬
価は年々下がり続けている。薬価は 2 年に一度 3%程度下げられ、30 年で 3 割程度下がる
とされる。
薬価が下がり続ける一方で、生薬の原材料費は上がっている。現在の漢方薬の大部分は
中国から輸入されているが、中国の経済発展に伴う人件費向上、中国の通貨「元」の価値
の高まり等により、原材料費が上昇傾向にある。
日本漢方生薬製剤協会は、現行の薬価改定方式が続く限り恒常的に薬価は下がり続け、
早晩安定供給に重大な支障が生じるとし、保険医療上必要性の高い医薬品の安定供給のた
め、漢方製剤・生薬の新たな薬価改定方式の導入を重要な課題と位置づけている。
(参考:日本漢方生薬製剤協会
センター
ン
センター長)
ホームページ/渡辺賢治(慶應義塾大学医学部漢方医学
「漢方薬価
ここが変」
医療ガバナンス学会
臨時 vol.333/(株)夕張ツムラヒアリングなど)
42
メールマガジ
北海道経済産業局
「北海道バイオイノベーション戦略」で薬草栽培に取り組む

北海道では、地域の良質な食資源、医療・医薬分野の研究シーズなどの強みを活かし、
農業・食・健康分野のイノベーション創出と関連産業の高付加価値化に取り組んでい
る。これらを実現すべく、3 つの先導的プロジェクトが進められているが、その一つに、
「生薬・漢方薬製造の拠点形成と関連産業誘致」がある。

薬草栽培に向いているとされる冷涼な気候、
(独)医薬基盤研究所や北海道医療大等の
研究機関、
(独)産業技術総合研究所北海道センターの「完全密閉型植物工場」等の最
先端のバイオ技術という強みと、(株)夕張ツムラという存在を活かし、北海道は、生
薬の栽培・生産拠点化を目指している。
北海道での薬草栽培の歴史は古い

北海道の生薬栽培の歴史は古く、1734 年に松前藩がオタネニンジンを栽培したという
記録がある。
医薬基盤研究所や夕張ツムラなど薬草栽培のプレーヤーが揃う

名寄市には(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターがあり、スーパーカンゾ
ウ(薬用成分であるグルチルリチン酸を多く含むカンゾウ)を栽培したりしている。

2009 年には、夕張市に(株)夕張ツムラが立地した。JA等と栽培契約を結び生薬を
調達することに加え、夕張ツムラ自身が農業者から土地を借用し、自社栽培も行なっ
ている。2020 年には 2000t を超えるような生産を目指して取り組んでいる。
医薬品向けの薬草栽培ではメーカーの使用に合わせることが必須

医薬品向けの生薬については、作れば必ず売れるというわけではなく、医薬品メーカ
ーの仕様に合わせた、管理・栽培方法が求められる。

買い手をはっきりと確定させ、仕様にきちんと合うような形で栽培しなければビジネ
スにならない。そのため、薬用植物栽培に関心を持っているJA等にも注意喚起をす
るようにしている。また、薬用植物栽培に関心があるという話があればツムラを紹介
したりする。
医薬品以外の市場も視野に

薬用植物は漢方製剤以外にも健康食品や化粧品の原料としても使われている。そうい
った分野への活用も進めていくことも必要である。
43
(株)夕張ツムラ
会社概要

夕張ツムラは 2009 年 7 月 1 日に、株式会社ツムラの 100%子会社として設立された。
資本金は 8000 万円、ツムラ社だけが単一の株主となっている。

事業内容は、北海道内での生薬の調達と自社での栽培、道内でできた生薬や中国から
輸入した生薬の保管。

社内組織は現在 4 部体制になっており、ツムラの出向社員、夕張での採用社員を合わ
せて、合計 25 名体制。
業務内容

夕張ツムラは道内の農協などの生産団体が栽培したものを受け入れる。生薬の原料と
して収穫したものを社内で乾燥させて生薬にする。入ってきたものに関して概観検査
を行い倉庫に保管する。一部、中国から輸入されたものを引き受けて保管している。

北海道では、網走方面、十勝方面、石狩・空知方面が主要な産地となっている。それ
以外にも TPP の影響を受ける農協や興味を持つ農家が試験栽培を行なっている。2012
年の道内での生産の実績は約 700t。今後生薬の生産量は増やしていく方針。

夕張ツムラ自身も夕張市の中の農地を借り上げて栽培を行っている。
北海道で栽培されている生薬

北海道では夕張ツムラ以外でも多くの生薬が栽培されている。一番多いものが川芎(セ
ンキュウ)
。次いで、当帰(トウキ)
、大黄(ダイオウ)、鳥兜(トリカブト)
、薄荷(ハ
ッカ)や紫蘇(シソ)、芍薬(シャクヤク)などがある。

統計資料によれば、北海道では 2012 年では 250ha の栽培面積で、610tが生産されて
いる。現実的にはもっと生産量はあるものと考えらえる。
生薬を短期間に乾燥させることが薬効成分を安定化させる一つの鍵

生薬は収穫から乾燥させるまでの間が勝負であり、この間隔を短くしなければならな
い。一旦乾燥させると生薬の成分は安定する。

原料を生薬に加工する時期が一期間に集中してしまう。この集中を緩和することが課
題。北海道ではほとんどの生薬は雪が降る前の 10 月頃に収穫が行われるため、11〜12
月が工場の稼働のピークとなる。
地元農家による契約栽培

基本的にツムラが保有している種苗を使い、ツムラ社の栽培計画に基づいて栽培する。

栽培農家によって生産された薬草は、基本的には全量単価制で買い取る。

ツムラ社の仕様に基づいて栽培すれば、薬効成分などの条件はかなり満たすことはで
44
きる。そのため、基本的に栽培農家は安定した収入が見込める。

生薬は補助金に頼らない形で商売になるので、国の政策などには左右されないという
見方もある。

地元の農家との栽培契約に関しては、今後、ツムラ社の生産量が増加すれば増えてい
く見込み。

薬草は栽培技術が発達していない、確立していないものが多いため、北海道の農家は、
機械が使えないのであればもう少し様子を見ようというところがある。一方で、現在
ある機械が利用できる場合には、農家の参入意欲も高くなる。
栽培技術が確立された薬草は少ない

栽培技術が確立していない薬用植物はたくさんある。国内で栽培できている生薬の数
はもともと少ない。

生薬の栽培や栽培技術の研究を行なっている研究者は、おそらく国内では 100 人未満
ではないか。栽培技術が確立していない品目についても生産を順次増やす必要がある。

栽培技術が確立されていない品目は、ツムラ社としても研究開発に取り組んでいる。
植物工場を利用した薬草栽培に対する見方(担当者の私見)

植物工場で特定の品質のものを安定的につくれるのであれば、在庫の管理など、トー
タルなコストを考慮すると、採算性が出てくる可能性はある。

植物工場により栽培、収穫の時期をずらせるため、工場全体の稼働率向上もあり得る。

カンゾウについては、植物工場で水耕栽培をし大量生産が可能だという研究成果が出
ているが、実験室で出来てもそのまま大量生産につなげることはできない、コストと
して見合わない可能性がある。
その他

除草剤などの農薬関係の登録も、いろいろな法律の壁がある。農薬の登録については、
民間の試験データでは農林水産省に申請できない。大学や農業試験場、青森県であれ
ば産業技術センターなどの公的機関でなければ申請できない。

漢方薬は新薬が出てこない。そのため、今あるものをどう生かしていくかということ
になる。

薬草栽培のプロジェクトの場合には、スタートする段階からメーカーや企業とパート
ナーを組むことが大前提となる。生薬は市場に出せるわけではないので、売り先だけ
は決めておいた方が良い。また、メーカーによっても同じ生薬でも加工方法や形状な
どが少しずつ異なるので、そこに応じた形でつくらないといけない。
45
弘前大学農学生命科学部
青森県の冷涼な気候、根菜類の産地等は薬草栽培には有利

青森県の冷涼な気候は薬草栽培にはメリットになる。

青森県は根茎類の栽培技術に長けているという点が強みになる。カンゾウは多年草で
冬に枯れ、薬効成分は根の部分から取れる。そのため、冬を越す工夫や根の採取など
で、青森県の農家の知恵とノウハウが生かせる可能性がある。

北海道の医薬基盤研究所に視察に行った際に、
「青森で育つ薬草は他にもいろいろとあ
るので試してはどうか」と勧められたものが何種類かあった。青森県には土地がある
が現状では栽培を行う人がいない。

栽培する生薬の種類としてカンゾウは可能性としてあるが、採算が合うのかどうかは
現時点では不明。
プロジェクトの予算確保が課題

プロジェクトの予算については十分に検討する必要がある。また、競争的資金を勝ち
取っていくためには、オリジナリティーや新規性が必要であり、その点も十分に踏ま
えた検討が必要である。
弘前大学でも漢方薬の研究活動がなされていた

もとむらしげる
弘前大学には以前「漢方研究会」があった。薬理の元村先生(元 村 成
弘前大学大学
院医学研究科 病態薬理学講座教授、2012 年 3 月退官)が中心になって取り組まれて
いた。
(株)ツムラによる寄付講座を持っていたが、現在はない。また、現在は、前田
准教授やその研究室の学生が薬草栽培の研究に取り組んでいる。
その他

薬草の薬効成分については、作り方というよりも系統が重要。そのため、優良系統品
種を育種していくことが必要だ。

薬草については、国産だからといって値段を上げられないという点がビジネスモデル
として一番難しいところ。

九州大学では薬草栽培の研究に取り組んでいる。佐賀県玄海町で、カンゾウを栽培し、
薬草の町にするという取り組みがなされており、丸居准教授は前任の九州大学時代に
その取り組みに関与し、指導を行なっていた。
46
大手漢方薬メーカー
国内における生薬生産の適地条件

他に栽培する農作物がない場所、耕作放棄地・遊休地がある場所、多年草の栽培でも
受け入れてくれる場所などが適地になる。

既に国内で生産されている生薬については、栽培適地がある程度固定化されているが、
他地域に栽培を拡大する可能性はある。

薬草の大量生産、安定供給が可能なのは北海道と青森県くらいという見方もある。
青森県の生薬生産適地としての可能性

根菜類の栽培技術・ノウハウが活用できる。

育苗と乾燥がきちんとできれば、栽培面積拡大の可能性は高い。

むつ小川原開発地区に種苗栽培技術の研究機関を設置するのは良い。

薬草は収穫後に必ず乾燥させるので、冬場乾燥している太平洋側の方が一般的に有利。
しかし、日本海側でも機械による乾燥で代替することは可能。

青森県については、東側は畑作地域であり、同地域の農家はゴボウ、長芋、ニンニク
など比較的収入の良い農作物を栽培している。そのため、単価が比較的安く固定され
ている薬草栽培に同地域の農家が関心を示してくれるかどうかは調査が必要で、西側
の方が可能性があるのではないかという見方もある。

東側で生薬栽培に取り組む場合、輪作ができれば可能性が高くなるのではないか。ま
た、農産物生産に使用されている既存の機械が生薬生産にも使用できれば、新たな投
資の必要がなくなるので、同地域での生薬栽培の可能性は高まるだろう。

生薬栽培の機械化は一つの鍵であり、青森県に機械メーカーがあれば技術・ノウハウ
を活用できる可能性がある。

試験的な生薬栽培を進め、最終的に青森県に適した植物、量、価格を見定めていくと
いう考えはある。その延長線上に人の雇用や一次産業の活性化がある。実現のために
は、行政や生産者の協力が必要だ。
生薬の産地化を図るために必要な条件

窓口・ハブ機能を担う組織の設置:自治体の窓口の一本化

教育の場:新規の農業就業者に技術指導を行う学校や団体があれば、そのような場所
で薬草栽培の指導を行い、修了後一部の方に薬草栽培に従事してもらうという考えも
ある

候補地域の農業関連の情報提供(例:どこで畑作を行なっているか、現状はどうか等)

生薬についての啓蒙・啓発活動

利便性の確保
47
生薬の国内栽培拡大についての考え方

とにかく中国リスクを避けたい。中国では様々な予期しない規制がかかる。人件費が
高まりつつあるという点も問題。日本での栽培が一番安心という考え。国内生産の拡
大は是が非でも行いたいという考えを持つ。

上記の理由から、国内の幾つかの場所で試験栽培を始めており、青森県もその候補地
の一つという考え。そのため、今回のプロジェクトは大きな意義があるという認識。
企業にとってのメリットが明確になればプロジェクトへの参画の可能性は高い。

生薬栽培の国内栽培の拡大は、企業だけでは解決できない。行政や他の関連機関の力
添えがあってこそ実現可能だ。
植物工場における生薬栽培についての認識

最終製品までの全工程を植物工場で行う場合、現状ではコストが高く、露地栽培と比
較した場合、商業ベースの価格に合わない。そのため、植物工場のみでの生薬栽培は
難しいという認識を持つ。一方で、優良な種苗生産を植物工場で行い、その種苗を農
家に分けて露地栽培を行なえば採算が合う可能性もあるのではないか。
新規の産地を選ぶ際の主な基準

10ha 以上の土地があること

生薬栽培に携わる生産団体が存在すること(生産団体の積極的な参加が必要)

農薬登録での積極的な協力(生薬栽培のコストを下げるには農薬が必要/通常、他の
農産物の農薬登録が優先されてしまうため行政等の積極的な協力が必要)

助成金の確保

土地に合う作物があること(メーカーが求める品目を当該地域で栽培できること/
元々日本にはない中国由来の生薬を日本で初めて栽培するため、上手く栽培できない
可能性もある)

災害が少ない場所であること(例:近くに川があり頻繁に洪水が起こる場所での栽培
は困難) など
当該地区でプロジェクトを進めるのであれば全国的な種苗生産基地として位置づけるべき

種苗の生産工場をむつ小川原開発地区に設置しようとする場合、全国や海外輸出まで
視野に入れた種苗生産基地として位置づけることも一考ではないか。
企業の抱える課題

種苗の安定供給

生薬加工の機械化

収穫直後の生薬の保管
48
(6)これまでの検討結果(中間評価)
既述した文献情報やヒアリングから得られた情報を検討した結果、薬草栽培を巡る現状
について次のような認識に至った。
①薬草の需要増加は確実

漢方薬の需要増加、漢方薬メーカーの販売量増加の必要性から、今後漢方薬の原材料
となる薬草への需要の高まりが確実視されている。
②薬草の安定供給が脅かされるリスクあり

一方で、漢方薬の原材料となる薬草の 9 割以上が中国から輸入されており、また、供
給される薬草の大半は野生のものであるため、安定供給が脅かされるリスクが常に存
在する。
③安定供給の確保のために優良系統品種の選抜・栽培が必要/植物工場で実現可能

薬草の安定供給確保のためには、優良系統品種を選抜し、その種苗を安定的かつ大量
に栽培することが求められる。生育環境を制御できる植物工場では、それを実現する
ことができる。
④青森県にも栽培技術の研究に取り組む研究機関がある

薬草の栽培技術研究に取り組む研究機関には次のようなものがあり、技術の確立がな
されれば、優良系統品種の選別、薬効成分の安定化、大幅な栽培コスト削減等の可能
性がある。
•
弘前大学農学生命科学部:前田准教授、丸居准教授/青森県産業技術センターなど
•
千葉大学園芸学部:古在名誉教授(千葉大学と青森県は協力協定を締結)
⑤栽培技術の研究推進には産学官金の連携が必要

薬草の栽培技術の研究を確実に進めていくためには、漢方薬メーカー、大学・研究機
関のみならず、地元農家・生産団体、金融機関などを含めた産学官金の連携が必要で
ある。
⑥国内栽培拡大に向けた動きが加速

漢方薬メーカーは、栽培技術の研究に取り組む一方で、国内に生産拠点をつくる動き
を加速している。また、本年 8 月には、厚生労働省、農林水産省、日本漢方生薬製剤
協会が連携し、薬草の国内栽培拡大に向けた取り組みを開始している。
49
⑦青森県は薬草栽培の適地

青森県は、冷涼な気候や根菜類の栽培という農業の特色から、薬草栽培に適した地域
である。
⑧薬草栽培では漢方薬メーカーとのタイアップが不可欠

薬草栽培に取り組む場合、種苗の入手・確保、栽培する薬草の決定、流通・販路確保、
漢方薬メーカーとのタイアップが不可欠である。
⑨将来的には青森県の農業振興につなげられる可能性

日本の漢方薬産業が抱える課題を解決するための薬草栽培技術の確立をむつ小川原開
発地区で実践できる可能性がある。

さらに、青森県の地元農家や生産組合による薬草栽培につなげ、農業の振興を図れる
可能性がある。
(7)専門家会議の立ち上げと検討内容
以上の検討結果を踏まえ、プロジェクトの具体的な内容を専門的な観点から検討すると
ともに、その実現化に向けた取組体制など環境整備を図るため、関係分野の専門家からな
る検討会議を設置した。構成メンバーは次の通りである。
薬草専門家会議構成メンバー
前田智雄 准教授
弘前大学農学生命科学部
丸居篤
准教授
森谷慈宙 助教
青森県産業技術センター農業総合研究所
津川秀仁 企画経営監
オブザーバー
青森県農林水産部
青森県エネルギー開発振興課
事務局
(一財)日本立地センター
薬草専門家会議は、これまでに 2 回開催された。それらの議論の主な内容を以下に示す。
50
【専門家会議における議論の主な内容】
プロジェクト成功の鍵は優良種苗の入手と漢方薬メーカーの参画

このプロジェクトが成功する鍵は、優良種苗が入手できるかどうかにある。

プロジェクトの推進のためには漢方薬メーカーの参画が不可欠。企業間の合意形成も
必要になる。

漢方薬メーカーの持つ種苗や生産ノウハウは各社で異なるので、1社だけとの連携協
力ではプロジェクトが成立しにくい。全国の漢方薬メーカーと協定を結び、青森がそ
れを一手に引き受け品種改良や栽培技術の研究開発に取り組むダイナミックな構想が
望ましい。青森で得られた研究成果を漢方メーカーに還元していく、そのようなプロ
ジェクトのイメージ。

漢方薬メーカーが手掛ける薬草の中には、自社栽培するものと、外部の機関と連携し
て栽培するものがある。そのうち、外部の機関と連携して栽培するものについて当該
プロジェクトで取り組む。
医薬基盤研究所との差別化が必要

青森で技術研究に取り組む場合、
(独)医薬基盤研究所(基盤研)との差別化、役割分
担が不可欠。基盤研の手の届かない、できないこと、まだやっていないことを青森で
取り組むことが必要だ。植物工場なり研究施設を整備し、技術を集約し、研究者が集
う全国大の拠点作りの発想が必要だ。
青森県及び当該地区に相応しい薬草の育成技術の研究開発が必要

青森県に相応しい薬草の育成技術の研究開発、問題解決型のプロジェクトとしての位
置づけが求められる(露地栽培試験、植物工場を活用した課題解決など)
。

ハウス栽培(植物工場含む)に取り組む場合、青森に豊富に存在する地中熱(温泉熱、
地下水など)を活用することで、エネルギーコストの削減や青森らしさを出すことで
きる。

薬草の中には生薬のみに使用されるものと、食品など他の用途に使用可能なものがあ
る。そのため、ターゲットにする商品、市場をあらかじめ決めておく必要があるが、
本プロジェクトにおいては、むつ小川原開発地域の位置づけや開発理念を考慮すれば、
生薬をターゲットにするべきである。

青森県が過去にどのような薬草栽培に取り組み、成果を上げて来たのかを把握すべき
だ。それを土台にしてプロジェクトを進めることができるのではないか。
51
薬草の技術開発研究拠点と県内の薬草生産の拡大は区別して考えるべき

まずは、全国大の薬草の技術開発研究拠点形成と、県内農業生産への波及効果を考え
ることとは切り離した方が良い。

将来的にはその成果を活用し、青森県内での薬草栽培の拡大も視野に入れても良いの
で、そのような土台作りのためにも、農業従事者や関心を持つ他業種の人々に理解活
動を始めても良いのではないか。
プロジェクト推進のためには強力なリーダーシップが必要

プロジェクト推進のためには強力なリーダーシップが取れるプロジェクトコーディネ
ーター、プロジェクトマネージャーが必要だ。

リーダーシップが取れる人材を外部から探してくる場合には、青森県としての姿勢が
問われるので、その点を明確にしておく必要がある。
プロジェクト推進のためには産学官金の連携、政府への働きかけが必要

漢方の研究開発を政府の協力を得て取り組むには、青森県としての意思表示や生産環
境の整備、しっかりした構想をつくらねばならない。青森県が真剣にこのプロジェク
トに取り組むのであれば産学官金を参画させた協議会を作らねばならない。

金融機関についても、プロジェクトの初期の段階から関与してもらうべき。初期の段
階で関与してもらうことで将来的に大きな資金需要が生じた時に支援を得られる可能
性が高まる。
今後は計画書(ロードマップ)を作成する必要がある

今後はいつまでに誰が何を行うのかの計画書(ロードマップ)を作成する必要がある。
52
(8)平成 25 年度の検討結果
2 回の専門家会議での検討結果や漢方薬メーカーへのヒアリング・意見交換、最近の政府
の動向などを踏まえ、平成 24 年度に提案した当該プロジェクトについては、次のような新
たな展開を前提に取り組むことを提案する。
植物工場活用型の薬草栽培技術研究開発拠点形成プロジェクト
短期:むつ小川原開発地区における薬草栽培技術の研究開発拠点の形成
【事業の概要】

弘前大学農学生命科学部、青森大学薬学部、青森県産業技術センター等の青森の
関係機関や全国の漢方薬メーカーの薬草栽培に関する知見、技術、ノウハウを活
用しながら、生薬、医薬品原料となる薬草栽培の研究開発や栽培の実証試験を行
なう。具体的には、多種多様な薬草の優良系統品種を選別し国の薬局方に準じた
薬効成分を生む優良な系統の選定を行ったり、適地適作の品種の選定や栽培方法
の検討などを行い、その成果を全国の漢方業界・企業に還元し、全国的でオンリ
ーワンの拠点として位置づける。

栽培技術の研究開発にあたっては、生育環境の異なる様々な品種の栽培研究に取
り組むことから環境制御が可能な空間での試験研究が必要である。青森県の産業
技術センターではすでに政府(経済産業省)の支援を得て再生可能エネルギー利
用型・寒冷地型植物工場に関する実証研究を終え一定の成果を得ている。その中
には完全閉鎖型・環境制御型植物工場の実証試験にも取り組んだ実績があり、今
後その成果の実践的な活用の場が必要になっていることから、寒冷気候であるむ
つ小川原地区に適した植物工場実証プラントを設置して、薬草栽培技術の研究開
発に有効活用することが望ましい。

研究開発拠点を進めるにあたっては、漢方製剤業界とのタイアップ、あるいは多
くの漢方薬メーカーの参加が必要になる。このことは全国の漢方・生薬に関係す
る技術者や研究者、また企業の営業マンなどがこの拠点に出入りすることになり、
人的な交流や情報の交流が活発化する。

すでに漢方に関する公的な研究開発機関として、独立行政法人医薬基盤研究所薬
用植物資源研究センターが存在しているが、こことの機能の補完関係と連携協力
による日本の薬草の研究開発機能のパワーアップを図ることも視野に入れつつ検
討を進める。
53
【研究開発の内容】

国内生産重点品目(品種)の栽培技術の研究開発、栽培方法の確立

優良系統種苗の選抜方法の研究開発

露地栽培技術の研究開発

生産コスト削減方法や適地性に関する研究開発

大量生産技術の研究開発(クローンなど)

薬効成分の評価や品質管理の研究開発
など
【施設・機能の整備】

研究棟・事務管理棟
 技術者や研究者用の執務スペース(プロジェクト参加企業ごとに用意するか、
共有か)
 会議・研修スペース、資料室、広報センター
 食堂
 宿泊施設(小規模)

植物工場・ハウス施設
 環境制御型の植物工場 数棟
 青森県産業技術センターの技術を導入した施設を整備
 施設園芸ハウス 数棟
※再生エネルギー利用型(地中熱や雪氷熱などを導入することでコストダウンを
図る)

露地の実証フィールド
 研究開発で得られた優良系統の種苗を実際に露地に定植して試験栽培を行
い、生育状態や適正な生育環境(施肥、土壌、定植時期など)、薬効成分の含
有率などを調査分析
 将来、青森県内の農家で生産する場合の基礎データを収集分析し、生産マニ
ュアルを作成

簡易な保管・加工施設
 実際に露地栽培された薬草を乾燥、一次加工(せん断など)の整備
 漢方製剤にするのは参加企業各社が自社工場で実施
54
【推進体制】

産学官金の連携による推進協議会を想定
推進協議会の想定メンバー
【産】
【学】
【官】
【金】

全国の漢方薬メーカー、関連団体(日本漢方生薬製剤協会)

新むつ小川原株式会社

弘前大学(農学生命科学部、医学部)
、その他の大学

(地独)青森県産業技術センター(農林総合研究所)

(独)産業技術総合研究所

(独)医薬基盤研究所

政府(農林水産省、厚生労働省)

青森県(エネルギー総合対策局、農林水産部、商工労働部)

六ヶ所村

政策投資銀行、地元金融機関
【運営体制】

中核に青森県産業技術センターを想定

漢方製剤業界・企業の参加

医薬基盤研究所等の他の研究機関との連携
【資金】

政府の補助金・競争的資金や政策投資資金を想定

政府、業界、企業からの委託研究
55
56
【短期的な事業展開イメージ】
中長期:青森県における薬草関連産業の創出
【事業の概要】

むつ小川原開発地区の実証試験後、事業性の確認、ビジネスモデルの確立がなされ
れば、同プラントで栽培された優良系統品種の種・苗を県内農家・生産組合等に供
給する。漢方薬メーカーへは販売する。

県内農家・生産組合等は青森県に適した薬草の大量生産を行ない、漢方薬メーカー
に販売する。

薬効成分の低い薬草については、食品メーカー・化粧品メーカー等への販売、また
は、彼らとコラボレーションし、新たな事業展開を行ない、将来的に、薬草栽培に
係る工場誘致や新産業の創出を目指す。
57
58
【中長期的な事業展開イメージ】
(9)取組方針
今後プロジェクトを進めるにあたっては薬草の専門家をはじめ県行政、青森県産業技術
センター、弘前大学等の大学、漢方薬メーカー、地元金融機関など産学官金の連携協力の
下に取り組むことが必要で、これにより精度を高めた実現性の高いプロジェクトにできる
ものと考える。
次年度以降に解決すべき課題として以下のことがあげられる。これらの課題を解決する
ことで本プロジェクトを前進させ実現に近づけることができる。
① 産学官金連携による推進協議会の立ち上げ

このプロジェクトに絶対不可欠な種苗入手のためには漢方薬メーカーの参画は必須で
ある。しかも企業単体では保有する種苗に限りがあるので、可能な限り多種多様な種
苗を確保するために多くの企業の参入を求める。

また栽培技術の確立のためには薬草分野の専門家をはじめ農業土木・環境分野の研究
開発も必要なことから、弘前大学農学生命科学部、薬学部をもつ青森大学や北里大学
等との連携も必要になってくると思われる。

むつ小川原開発地区におけるプロジェクト開発であるため、青森県の関係部局はもち
ろん、薬草栽培の実績のある青森県産業技術センター、そのほか六ヶ所村役場、土地
所有者である新むつ小川原株式会社等の参画も必要である。

さらには、将来的な資金調達の観点から、政策投資銀行や地元金融機関の参画も早期
の段階から求めていくことが必要である。

その他、むつ小川原開発地区でのプロジェクトであることから、当然のことながらむ
つ小川原開発推進六者協議会の場においても検討の場を設け、関係省庁に協力を求め
ることも必要である。
② 漢方薬メーカーの参画

漢方製剤企業はそれぞれ得意とする種苗をもっているため、特定企業との連携は研究
開発の範囲が制約されることになるので、多くの企業との連携が研究開発の幅を広げ、
かつ全国的な研究開発拠点として成立しうる条件となる。今後は大手企業に加え栽培
技術に秀でた企業との連携を図ることが必要である。

日本漢方生薬製剤協会(2013 年 11 月現在の会員数 72 社)との連携を図り、協力を要
請することも是非必要である。
③ プロジェクトリーダーの起用

これまでの 2 年間は、青森県庁、弘前大学、青森県産業技術センターと当センターに
おいて情報収集や関係機関へのヒアリング等によりプロジェクト内容の精査に取り組
んできたが、今後は実現化に向けての事業可能性調査の段階にステップアップする必
59
要があるので、プロジェクトを強いリーダーシップをもって牽引し推進していく高い
理想と信念をもった人材をプロジェクトリーダーとして起用することが不可欠である。

適任者としては、新郷村におけるカンゾウ栽培プロジェクトの指導者であった草野源
次郎先生(東北大学薬学部から大阪薬科大学退官)
、植物工場の権威で植物工場におけ
る薬草栽培の実績をもつ千葉大学の古在豊樹先生等が挙げられる。
④ 青森県における薬草生産のポテンシャル把握

青森県における薬草生産は、昔から県内各地において農家の副業や、小遣い稼ぎとし
て生産が行われ、漢方薬メーカーへの販売などが行われていたが、企業の安価な買い
取りなどもあって衰退していったと言われている。現在、青森県の薬草生産は全国的
に低位にあり(栽培戸数 11 戸、栽培面積 30a、生産量 50kg)、薬草栽培の基盤や環境
は脆弱といわざるを得ない。そのような不利な条件・環境の中で薬草プロジェクトを
推進するためには、まずは現在の青森県内における生産状況の実態を把握した上でむ
つ小川原開発地区で進めるプロジェクトの優位性を見出す必要がある。
⑤ 薬草栽培プロジェクトの先行事例の実態把握

むつ小川原開発地区での当該プロジェクトの次の展開として、ここで得られた成果を
全国に向けて発信するとともに、青森県農政にも波及効果が及ぶような事業展開を中
長期的には考える必要がある(p.57-58 参照)
。県内の農業団体や農業者等に薬草生産
の啓発を図るためには、薬草生産が農業界や農家にどのようなメリットがあるのか、
デメリットも含めて示すことで理解と協力を得ることができると考えられる。

このため、たとえば薬草栽培の先行地である北海道の農業界(JAなど)や実際の生産
農家を訪問してその実態を調査することも必要になる。この調査を通じて青森県の農
家が生産を手がける際にどのような条件や環境、行政の支援措置などが必要なのかを
明らかにすることができる。
⑥ 県行政におけるプロジェクトの位置づけの明確化と庁内協力体制の構築

むつ小川原開発地区を対象としたプロジェクトのため、現在はエネルギー開発振興課
が中心となって取り組んでいるが、今後は青森県行政としての当該プロジェクトの位
置づけを明確にすることで漢方業界や政府等への対外的なアピールも可能になる。

そのためには早急に県庁内の関係部局との協議の場を設け連携協力体制を構築するこ
とが求められる。(例:まずは関係部局による勉強会的な会合からスタート)
⑦ ロードマップの作成

プロジェクトのイメージ作りと精度アップの段階からさらに実現に至る道筋、ロード
マップを作成することでプロジェクト関係者(推進協議会が立ち上がれば協議会)の
60
目標やスケジュール感の共有化が図られる。

また対外的には、青森県の意思表示が明確になり、政府や漢方業界等への説得力ある
プレンゼン資料になる。
⑧ 政府への働きかけと意思表示

むつ小川原開発地区は国家的な事業として開発された産業用地であり、将来日本が直
面する社会経済的な課題を解決するためのフィールドとして活用されるべきであるこ
とを踏まえれば、国家的な課題でありわが国の製薬産業にとって喫緊の課題である薬
草の国内生産の増大に寄与しようとするこの研究開発拠点プロジェクトは、当然政府
の支援を得てはじめて実現するものと考える。
61
2.
大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト
2-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度の報告書より抜粋)
【概要】

むつ小川原開発地区に国家プロジェクトとして、大規模な広域災害や過酷事故災害に
対応可能な、東日本における大規模災害支援及び研究・拠点基地を形成する。

災害救助の演習フィールドや大規模で過酷な災害用の訓練施設(模擬施設)を設置し、
災害救助の主体となる関係機関の実践的な訓練・演習を実施し、人材育成に貢献する。

災害用の資機材や食料の備蓄施設を建設するとともに、人間の活動の及ばない過酷事
故に備えた災害ロボットの開発などの研究も進める。食糧備蓄については、雪氷熱等
の再生可能エネルギーを利用した長期保存の研究を実施する。また、当該地区に設置
してあるスーパーコンピューター「六ちゃん」を活用して様々な災害シミュレーショ
ンを行い、災害用ロボット開発や過酷事故訓練に活かしていく。

この拠点基地形成を通じて、災害に強い国づくりという災害多発国日本の課題解決に
貢献する。また、アジアでの大規模災害救助支援拠点としての位置づけも想定する。
62
2-2. 平成 25 年度の検討概要
(1)災害対策、防災・減災に関する政府の動き
【国土強靭化に向けた政府の取組】
政府は東日本大震災の甚大な被害を受けて、平成 25 年 1 月に内閣官房に国土強靭化推進
室を設置、同年 12 月 17 日には「国土強靭化政策大綱(案)
」をまとめ、13 省庁にまたがる
45 の強靭化プログラム、約 5 兆円に及ぶ 26 年度予算案をまとめた。
それによると、基本的理念として、自然災害の多い国土の特性に鑑み、災害はそれを迎
えうつ社会のあり方によって被害の大きさが変わることから、平時からの事前の備えを行
うことが重要であると掲げられている。
そのため、我が国政府はいかなる大規模災害が発生しようとも

人命は何としても守り抜く

行政・経済社会を維持する重要な機能が致命的な損傷を負わない

財産・施設等に対する被害をできる限り軽減し、被害拡大を防止する

迅速な復旧・復興を可能にする
ことを基本方針とする『強くてしなやかな(強靭な)国づくり』を進めていくとしている。
そして、国土の強靭性を確保するために事前に備えるべき目標を設定し、その実現に向け
た予算措置を進めている。
その中に、大規模災害発生直後から救助・救急、医療活動が迅速に行なわれるようにす
るために、
「エネルギー・産業基盤災害対応のための消防ロボットの研究開発」や、災害現
場での救助・救急活動能力を高めるための「体制・装備資機材や訓練環境等の更なる充実
強化」が必要であるとしている。
また、分野横断的な研究開発・技術開発課題として、
「大規模災害に対応する車両・資機
材の研究開発」や「次世代社会インフラに対応するロボット開発」等を推進する必要があ
るとしている。
(出所:内閣官房 国土強靭化推進室 「平成 26 年度 国土強靭化関係予
算概算要求の概要」 2013 年 8 月)
本プロジェクトでは、こうした政府による国土強靭化計画の推進に沿って、むつ小川原
開発地区の広大な未利用地の活用を視野に、大規模災害救助の演習フィールドや人間の手
の及ばない過酷な災害現場を模した訓練施設(模擬施設:モックアップ施設)を整備し、
災害救助の主体となる関係機関の実践的な訓練・演習フィールドとして活用するとともに、
過酷事故に備えた災害ロボットの研究開発の拠点づくりに取り組むこととする。
63
なお、各省庁の平成 26 年度予算において現時点で確認できている当該プロジェクト関連
の事業を以下に示す。
【総 務 省】

災害対応のための消防ロボットの研究開発(2.1 億円)

スマートなインフラ維持管理に向けた ICT 基盤の確立(2.1 億円)
【経済産業省】

インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト(22.2 億円)
【防 衛 省】

原子力災害等の脅威下において活用可能なロボットの研究(9 億円)
64
(2)福島第一原子力発電所事故に伴う福島復興プロジェクトの動き
地震、津波、原子力事故との複合災害の被害を受け長期に及ぶ復興再生の道を余儀なく
されている福島県では、特に原子力地域で政府の避難指示が出された浜通り地域の復興の
グランドデザインを描くために、今年 1 月、政府主導の下に『福島・国際研究産業都市(イ
ノベーション・コースト)構想研究会』が設置された。この研究会は、赤羽一嘉経済産業
副大臣をトップとし、廃炉・防災研究関係の有識者はじめ経済産業省、復興庁、国土交通
省、農林水産省に加え、福島県副知事、いわき市、南相馬市、大熊町、飯舘村の首長らが
加わり、福島第一原子力発電所の廃炉作業の円滑化と地域振興策についての検討が行われ、
本年 6 月を目処に構想をまとめる予定である。
この研究会による復興策の中核的なプロジェクトの一つに「廃炉作業用ロボット研究開
発・実証拠点構想」が盛り込まれている。構想の骨子は「1.モックアップ試験施設に関連
した施設の集積」、
「2.ロボットテストフィールドの整備」、
「3.ロボット国際協議会の開催」
から構成されている。
「1.モックアップ試験施設に関連した施設の集積」では、喫緊の課題としては廃炉用の
ロボットの開発だが、中長期的には福島の産業振興に寄与する原子力緊急対応用ロボット
や医療用ロボットなど様々なロボットに関する技術基盤確立のための開発・実証拠点を整
備することが検討されている。
「2.福島ロボットテストフィールドの整備」では、実用性が高く、自立的に運営可能な
災害対応ロボットを開発・実証するフィールド整備が構想されており、
米国の Disaster City
(ディザスター・シティ)や Brayton Fire Training Field(ブレイトン・ファイアー・ト
レーニング・フィールド)のような施設が想定されている(※次ページ参照)。
「3.ロボット国際協議会の開催」では、DARPA Robotic Challenge(ダーパ・ロボッティ
ック・チャレンジ)
、NHK ロボコン、ロボカップ等の競技イベントを同拠点で開催すること
が検討されている。
むつ小川原開発地区での災害対策・防災研究拠点プロジェクトにおいても、人間の活動
の及ばない過酷事故に備えた災害ロボットの研究開発や実証するための演習フィールドの
整備を想定しており、この福島で検討されているイノベーションコースト構想と類似、共
通する部分も少なくない。
そのため、福島での研究会の動向を注視するとともに、検討されている構想内容との差
別化や役割分担などを図ることに留意しながら、むつ小川原開発地区での本プロジェクト
の具体化に向けた検討を行う必要がある。
65
■参考:米国「Disaster City(ディザスター・シティ)」について

米国テキサス州カレッジステーション市にある Texas A&M(テキサス・エー・アンド・
エム)大学キャンパスに隣接する消防・災害訓練用施設の一つ。

施設全体の敷地面積は約 120 万㎡。その中に、ブレイトン・ファイアー・トレーニン
グフィールド(消防訓練施設)、ディザスター・シティ、災害対策本部トレーニング
センター等の各種訓練施設がある。年間 8 万 4 千人が訓練を行う。

ディザスター・シティには各種建物(住宅、オフィス、商店街モール、劇場など)の
模擬倒壊現場や脱線車両などが配置されている。
(The Texas A&M Engineering Extension Service (TEEX)ホームページの情報を基に作成)
66
(3)災害対応ロボットを取り巻く状況:必要性・使用目的・運用シーン
【災害対応ロボットの必要性】
関東大震災や阪神淡路大震災を受けて、災害への対応は、コンクリート構造物の建設、
道路の拡幅、耐震強度の向上、防潮堤の建設等、
「事前防災(減災)機能の強化」に力点が
置かれてきた。
しかし、東日本大震災の経験や今後想定される大規模災害(首都圏直下型地震、東海・
東南海・南海地震など)を考えると、今後は「災害対応機能の強化」が重要になってくる
ことが明らかになった。政府が進める国土強靭化計画でも、
「いかなる大規模災害が発生し
ようとも人命は何としても守り抜く」という理念が掲げられ、防災基本計画にも「被災し
ても人命が失われないことを最重視する」ことが記されている。
災害対応機能の強化を考えた場合に求められるのは、
「インフラ途絶・荒天等の災害環境
下における津波・火災等の早期広域情報収集と避難誘導措置機能」と「火災・倒壊・津波
等による二次災害等の危険状況下での消火・人命捜索・救助支援、復旧支援機能」である。
実際の災害の現場では、極めて過酷な環境のために、必ずしも人間が入ることができな
い、活動することができない場面も多々出てくる。その際に、人間の代わりとなってこれ
らの機能を確保するのが災害対応ロボットである。
【災害対応ロボットの必要性:災害対応機能強化】
(出所:渡辺裕司、浅間一 「災害対応ロボットセンター設立構想」
)第 3 回福島・国際研
究開発都市構想研究会資料
2014 年 3 月 7 日)
67
【災害対応ロボットの使用目的】
災害には様々な種類があり、その結果生まれる被害状況、被害の対応に求められること
も多種多様である。また、災害発生から時間の経過とともに、必要とされることも変化し
ていく。災害現場の状況や時間の経過とともに変化する個別多様なニーズに合わせた対応
を行うことが災害対応ロボットには求められる。
【災害対応ロボットの使用目的・期待する能力・対応するロボットの種類】
区分
使用目的・期待する能力
無人飛行
ロボット
【使用目的】
(1) 発生直後の広域被災状況の調査
(2) 孤立地域等の細部被害状況の調査
(3) 津波からの避難支援(局地の情報収集・伝達)
【期待する能力】
(1) 夜間、悪天候における情報収集
(2) 映像、位置、生体反応等の情報をリアルタイムに災害
対策本部等へ伝送
(3) 津波からの避難に必要な情報・警報を住民に直接連絡
陸上探査・
作業ロボット
【使用目的】

余震・火災・水没等危険な時期・場所での調査・瓦礫除去・
救助活動支援
【期待する能力】
(1) 生体反応の感知等捜索能力
(2) 瓦礫、浸水、高温・火災等環境下での機動力
(3) 瓦礫等重量物の除去能力
水中探査
ロボット
【使用目的】

津波発生後の海洋における調査・瓦礫除去・救助活動支援
【期待する能力】
(1) 瓦礫、汚濁等劣悪環境下の海洋での探索能力
(2) 同上環境下における機動力、瓦礫除去能力
(3) 被災者等の救助能力
津波避難支援
ロボット
【使用目的】

津波からの災害弱者等の避難・誘導活動の支援
【期待する能力】
(1) 津波被害の予測・回避能力
(2) 避難住民を安全、迅速、努めて大量に輸送
(3) 居住地域、避難地域、避難経路の訓練
ロボットのイ
メージ
(参考:渡辺裕司、浅間一 「災害対応ロボットセンター設立構想」
)第 3 回福島・国際研
究開発都市構想研究会資料
2014 年 3 月 7 日)
68
【災害対応ロボットの運用シーン】
(参考:渡辺裕司、浅間一 「災害対応ロボットセンター設立構想」
)第 3 回福島・国際研
究開発都市構想研究会資料
2014 年 3 月 7 日)
69
(4)災害対応ロボットの専門家の見解
当該プロジェクトの実現可能性について精査・検討を行うため、既述の情報に加え、災
害用ロボットの研究に携わる専門家にヒアリングを行った。主なヒアリング結果の概要を
以下に示す。
八戸工業大学
ロボットの実証実験フィールドへのニーズは高い

米テキサス A&M 大学に「ディザスター・シティ」という施設がある。同施設には、様々
なガレキ(壊れた電車、航空機、自動車など)が置かれ、災害現場が再現されており、
ロボットの実証実験が行なえるようになっている。

現在、日本にはこのような施設がないため、日本のロボットの実証試験にも同施設は
活用されている。同様の施設をむつ小川原開発地区に設置すれば、全国のロボット研
究者が集まる可能性が高い。

南相馬市がロボット産業推進協議会を設けて、ディザスター・シティのような施設を
立地すべく活動している。
災害時の受け入れ機関としてのニーズあり

災害発生時に災害用ロボットを出動させるには受け入れ機関が必要。むつ小川原開発
地区に設置する組織が受け入れ機関の役割を果たすと良い。
今後求められる災害用ロボット技術

不整地走行技術

素材開発(耐火性、耐熱性、耐薬品性、耐放射線など)

災害発生時から復旧に至る各段階に合わせたロボット技術:エネルギー源の確保、通
信の確保、二次災害対応、災害復旧(輸送・物流、住居・食料等)

ロボット技術は軍事転用の問題等があるため、社会的なコンセンサスの獲得も必要

通常時でも利用できる、災害以外の分野にも使えるロボット技術(農業用ロボット、
林業用ロボット、除雪用ロボット、消防用ロボットなど)
ロボット研究に必要な環境

ロボット整備のための施設(体育館のようなもの)/宿泊施設(20 人程度の宿泊施設)

部品供給会社(又は、その倉庫)が近くにあること、部品供給会社が柔軟な対応をし
てくれること(迅速な対応、土日祝日でも対応可など)

ホームセンター、精密加工会社が近くにあること
70
規制緩和の必要性

日本は電波法の規制により、国が定めた基準を上回る電波を出すことができない。そ
れが、災害用ロボット研究開発の障害になっている。

災害用ロボットの遠隔操作のためには、映像等の大容量のデータ、及び、リアルタイ
ム性が重要なコマンドデータのための無線通信が不可欠である。災害時には、複数台
のロボットが共同で作業を進める必要があるが、現在の電波法で認められている無線
LAN 等の電波帯域は決定的に不足している。また、数 km 先の遠隔操作が求められてい
るが、認められた電波出力では不十分であると専門家は指摘している。

災害用ロボットの実証研究をむつ小川原開発地区で行う場合には、電波法の規制がか
からない特区にし、高い電波出力の許可がなされる必要がある。
災害用ロボットの研究開発拠点形成を念頭に置く

災害用ロボットに係る研究者・技術者が全国から当該地区に集まり、研究開発が行な
われ、ロボット文化のようなものが生まれ、様々な情報が発信されていくことを想定。

年に 1 度レスキューロボットコンテストのようなイベントを開催する。
当該地区の特徴を活かした研究開発拠点の形成
<原子力分野の災害対応ロボットの研究開発の可能性>

再処理を含む核燃料サイクルバックエンド関連の事業でもロボット技術が部分的に必
要になる可能性はある。また、それらの施設の安全性や危機対応能力の向上のために
ロボット研究を行うという位置付けもできる。

原子力災害用のロボット研究を行う場合には、福島県で行なわれているプロジェクト
との差別化が必要。
<災害対応訓練・演習フィールドの整備>

当該地区を防災訓練を行う拠点基地のような場所として位置づけることも出来る。県
民が利用でき、便益を受けられる施設にするとよい。日常の避難訓練を越えるような
体験(例:雪崩)が出来れば、様々な関係機関から予算を得られる可能性がある。
想定されるプロジェクトの規模、予算
<最低限必要とされるもの>

専従の研究者:2~3 名(機械の専門家、コンピューターの専門家など)

加工設備が整った施設(町工場のようなもの)

広い土地(ロボットの実証実験、演習フィールド用)

プロジェクトの期間としては 3〜5 年が目処
<想定される予算規模>

専従の職員 2〜3 人を雇う場合:数千万円/年
71

建屋建築:数億円

レスキューロボットのコスト:約 1000 万円/台→5 種類、各 2 台製作した場合は 1 億
円→2 年に 1 回更新すると 5000 万円/年。
想定される波及効果

青森県の地元企業と連携し災害用ロボットの部品を供給してもらったり、開発しても
らう可能性はある。当該地区には原子力産業が集積しており、部品等を供給できる関
連企業も立地していると考えられるため、それらの企業との連携の可能性はある。

災害状況に応じた一点ものが多く、大量生産の必要性が低い災害用ロボットだけでは
産業としては成り立たない。しかし、災害用ロボットの研究・開発過程で生まれた技
術や部品を地元企業の活動や他分野に生かすことは可能。
災害用ロボットの研究開発拠点形成に向けた課題
<住環境、交通の利便性、キャリア形成上のメリット>

当該地区の生活環境、住環境、キャリア形成上のメリット等で状況が改善されれば、
研究者にとっての魅力が高まる可能性がある。

訪問ベースであれば技術者・研究者が集まる可能性は高い。

若手の研究者にとっては、研究資金の確保は大きな魅力。それが確保されれば、5 年程
度定住する研究者は期待できる。
<プロジェクトの予算確保>

イニシャルコスト、ランニングコストを賄うための予算の確保が必要。
<消防、警察、自衛隊の関与と人材育成>

実際の災害現場でロボットが活用されるためには、研究者・開発者だけでなく、消防、
警察、自衛隊の方々も使えるようにならなければならない。

研究室レベルで開発したロボットが必ずしも災害現場で使えるとは限らない。多くの
人が実際の現場で利用できるようになるには、更なる研究や訓練が必要になる。

災害ロボットの研究開発時に、消防、警察、自衛隊が関係してくるためには、災害用
ロボットを常時配備するようなシステムが制度として確立している必要がある。
その他

災害用ロボットの研究に取り組む研究室は全国で 20 程度。研究者の人数としては 100
〜200 人。この研究者だけを対象として当該プロジェクトを進めるのは困難。

ロボット研究でスーパーコンピューターを利用することはほとんどないが、災害シミ
ュレーションであれば、多種多様な災害を再現するためにスーパーコンピューターを
活用する可能性はある。

プロジェクト継続には民間の産業部分とつながる必要がある。
72
東北大学
ロボット産業の市場性/日本のロボット産業について

ロボット産業とはロボット技術産業のこと。ロボット技術を活用していろいろなアウ
トプットが出てくる。必ずしもロボットが最終的なプロダクトではない。

ロボットについては、産業用ロボットなど幾つかのものを除いては、それほど大きな
産業にはなっていない。

日本にはロボットをきちんと作っているメーカーがあまりない。国内でロボットを使
用するのであれば、国内のメーカーが存在した方が良い。

ロボット製作に地元の企業が携わっていれば、有事の際にも緊急対応ができるだけで
なく、地元の企業の技術力を鍛えることにもつながっていく。
ディザスター・シティについて

ディザスター・シティは消防や防災の専門家の訓練施設。ロボットの研究開発が主た
る目的ではない。日本で言えば消防大学校のようなものであり、年間 20 万人が訓練を
する。

ディザスター・シティのような規模のものを日本につくるのは、あまり現実的ではな
く、必要性も高くない。

ただし、災害用ロボットが必要であることは間違いない。ロボットを使った訓練がで
きるところは、現時点では福井のみである。
災害対応ロボットセンター設立構想(※後述)

産業競争力懇談会(COCN)が災害対応ロボットセンター設立構想を発表した。

災害対応ロボットは特殊な機械であり、技術的な発展も遅れている。

センターという場でまとめて試験をし、出来ることと出来ないことの仕分けをし、訓
練メニューや免許の仕組みになどについても検討していく。その後、国土交通省の機
関などがそれを持ち帰り、自分達のニーズに合わせた追加的な訓練を行い、火災現場
で実際に使用するという提言を行なっている。
研究開発拠点形成上の課題

研究拠点を作るときの大きな課題は、良い人材の確保、集めた人材のキャリアパスの
明示、そして、その人材が長期間研究に携わり成果を出すことである。
六ヶ所再処理工場とロボット開発について

六ヶ所再処理工場は今後本格操業を予定している。その施設をより安全にするために
ロボット開発を行っていくのは非常にリーズナブルな考えで、事故が起きることを想
73
定し、起きた後の対応をあらかじめ備え、考えておくことが減災につながる。

放射性廃棄物を地下に埋設するための技術開発なども考えられる。それには自動化技
術が必要であり正にロボット技術だ。ロボットと呼ばなくとも技術的な共通性はある。

六ヶ所であれば、再処理施設と上手くマッチした形で準備することができ、西の拠点
である福井に対して、東の拠点として話を進めていくことができる。

作ったロボットはその場ですぐに試験をしながら改良していかないと上手く行かない。
原子力関連の災害用ロボットの研究開発を行う場合には、原子力関連施設がある場所
でなければならない。

現在、東北大のサテライト研究室が六ヶ所にあるので、人材は仙台から六ヶ所へ通い
ながら研究を行うというモデルが良いのではないか。

ロボット開発のための産学官金連携の環境をつくるへき。六ヶ所について言えば、八
戸工大や八戸高専が主体となって頑張るべきで、そこに、東北大学や企業も参加する
形が良いのではないか。
技術の共通性を活かした原子力以外の産業への波及効果

原発用ロボットを半自動で動かすという技術と、車イスの安全化を図るという技術は
同じもの。結局、外界をロボットのセンサーで認識し、ロボットがどう動くべきかを
評価、判断し、ロボットを動かす。

お金をかけられる所と、エンドプロダクトとしてお金がかけられない所を上手く共通
化し、そこで技術流通を図れるようにすると良いものが出来る。

手術用ロボットなどのアプローチもあるかと思う。例えば、原発施設で上手くドアを
開けたり、バルブの開閉を行ったりと、かなり器用なロボットを作らなければならな
い。器用にする技術は手術用ロボットにも使える。
福島復興に係るロボット研究拠点構想との差別化が必要

当該プロジェクトを進める場合、原子力関連施設などの六ヶ所の立地状況を活かし、
政府の理解と支援を得る努力をすることが必要だ。

現在、災害対応ロボット研究のセンターをつくる構想があり、福島県の南相馬市がそ
の誘致に向けて活動している。今回のプロジェクトと南相馬市の構想がどのように差
別化されるのかについては十分に考える必要がある。
74
■参考:産業競争力懇談会(COCN)による災害対応ロボットセンター構想

災害対応ロボットセンターは、災害対応ロボット利用推進本部、災害対応ロボット技術
センター、様々な機能評価・実証試験・オペレータ訓練を行うテストフィールドやモッ
クアップなどの施設(拠点)から成る。

災害対応ロボット利用推進本部は、国の防災システムを司る常設の組織であり、平時に
は、長期的な技術開発戦略を策定・推進し、有事の際の備えを体系的に整えるとともに、
有事には司令塔となり、各省庁と連携して災害対応のためのロボットや機器の配備にあ
たる。運営に当たって広範な組織との連携が必要なため、国の統括下におかれ、内閣府
の一組織として権限と責任を与えられるべきである。

また、災害対応ロボット技術センターは、平時において災害対応ロボットの技術開発、
実証試験・評価・認証、訓練、標準化・運用・配備の実業務を統括するとともに、有事
の際のオペレーション及びマネジメントの中核機能を有する。直轄の研究開発や実証試
験のための拠点も有するが、分散して存在する様々なテストフィールド・モックアップ
施設、外部機関と有機的に連携して活動する。また、技術データベースの管理も行う。
災害対応ロボット技術センターは、産官学連携のもと、民間法人または技術研究組合の
ような形態での組織化が好ましいと考えられる。
(出所:産業競争力懇談会(COCN) 『災害対応ロボットセンター設立構想』 2013 年 11
月 1 日)
75
※産業競争力懇談会とは
産業競争力懇談会(Council on Competitiveness-Nippon:COCN)は、日本の産業競争力
の強化に深い関心を持つ産業界や学術界の代表により構成されている。
その目的は、国の持続的発展の基盤となる産業競争力を高めるため、科学技術政策、産
業政策などの諸施策や官民の役割分担を、産官学協力のもと合同検討により政策提言とし
てとりまとめ、関連機関への働きかけを行い、実現を図ることである。
事業内容および会員を以下に示す。
【COCN の事業内容】

科学技術や産業政策等に関連する府省の大臣並びに国会議員との自由な意見交換の場
を設け、広くわが国の経済活性化のための意見交換を行い、必要な事項について下記
2 項に反映し推進をはかる。

産業競争力強化のため、国全体として推進すべき具体的テーマを産官(学)で設定し、
産官(学)協調して提言書をまとめる。

産業界出身の総合科学技術会議議員との連携をはかり、活動を推進する。

日本経済団体連合会、産業技術委員会担当常務理事と連携し、活動を推進する。

提言書の実現をはかるべく関連機関への働きかけを行う。
【COCN の会員】
企業会員
社名・法人名
株式会社 IHI
沖電気工業株式会社
鹿島建設株式会社
キヤノン株式会社
株式会社小松製作所
JSR 株式会社
JX ホールディング株式会社
清水建設株式会社
シャープ株式会社
新日鐵住金株式会社
住友化学株式会社
住友商事株式会社
住友電気工業株式会社
ソニー株式会社
第一三共株式会社
大日本印刷株式会社
中外製薬株式会社
東海旅客鉄道株式会社
東京エレクトロン株式会社
東京電力株式会社
役職
相談役
代表取締役社長
代表取締役社長
代表取締役会長兼社長 CEO
相談役・特別顧問
取締役相談役
相談役
相談役
代表取締役 取締役社長
相談役
代表取締役会長
相談役
社長
取締役 代表執行役 社長 兼
CEO
代表取締役会長
代表取締役社長
代表取締役会長、最高経営責任者
(CEO)
代表取締役副社長
代表取締役会長兼社長
取締役、代表執行役社長
76
会員名
伊藤源嗣
川崎秀一
中村満義
御手洗冨士夫
坂根正弘
吉田淑則
渡 文明
野村哲也
髙橋興三
三村明夫
米倉弘昌
岡 素之
松本正義
平井一夫
庄田 隆
北島義俊
永山 治
森村 勉
東 哲郎
廣瀬直己
大学・
独立法人
会員
株式会社東芝
東レ株式会社
トヨタ自動車株式会社
株式会社ニコン
日本電気株式会社
パナソニック株式会社
日立化成株式会社
株式会社日立製作所
富士通株式会社
富士電機株式会社
株式会社三菱ケミカルホール
ディングス
三菱重工業株式会社
国立大学法人 京都大学
独立行政法人 産業技術総合
研究所
国立大学法人 東京工業大学
国立大学法人 東京大学
学校法人 早稲田大学
(出所:産業競争力懇談会
取締役会長
代表取締役会長
相談役
代表取締役 兼 副社長執行役員
名誉顧問
代表取締役専務
執行役社長
取締役会長
取締役会長
代表取締役 執行役員副社長
代表取締役社長
西田 厚聰
榊原定征
渡辺捷昭
牛田一雄
佐々木元
宮田賀生
田中一行
川村 隆
間塚道義
重兼壽夫
小林喜光
取締役相談役
総長
理事長
佃 和夫
松本 紘
中鉢良治
学長
総長
総長
三島良直
濱田純一
鎌田 薫
ホームページ)
77
(5)これまでの検討結果(中間評価)
上述した文献情報やヒアリングから得られた情報を検討した結果、当該プロジェクトを
巡る現状について次のような認識に至った。
①災害用ロボットの開発・実用化へのニーズが高まっている

東日本大震災、及び、福島第一原子力発電所事故で国産ロボットが十分活躍できなか
った反省から、使える災害用ロボット開発へのニーズが高まっており、文部科学省や
経済産業省は 2012 年から予算をつけて研究開発に取り組んでいる。また災害用ロボッ
トの開発は、日本だけでなく世界における安全・安心の確保に不可欠とされている。
②災害用ロボットの研究では、実際の災害現場を再現した実証実験フィールドが求められ
ている

災害用ロボットの研究開発では、実証実験フィールド(例:ディザスター・シティ)
へのニーズが高いが、そのような本格的な施設は現状では日本にない。そのため、同
様の施設をむつ小川原開発地区に設置すれば、全国の災害用ロボット研究者が当該地
区に集まる可能性が高い。
③実証実験フィールドを電波法の規制が及ばない特区に/むつ小川原開発地区はその適地

日本は電波法の規制により強烈な電波を出すことができない。それが、災害用ロボッ
トの研究開発の障害になっている。災害用ロボットの実証研究をむつ小川原開発地区
で行う場合には、電波法の規制がかからない特区にすることが求められる。むつ小川
原開発地区には、国によって整備された利用可能な広大な土地があるため、電波法の
規制緩和などが必要となる実証実験フィールドの設置に適している。
④八戸工業大学には災害用ロボットの研究開発に取り組む専門家が在籍している

八戸工業大学は、「防災技術社会システム研究センター」を設立し、大学として防災
に関する研究に積極的に取り組んでいる。その中で、災害用ロボットの研究開発に取
り組む研究者もおり、「NPO 国際レスキューシステム研究機構」とのつながりも持つ。
※ NPO 国際レスキューシステム研究機構:先端技術による災害対応の高度化と、その普及を図るこ
とを目的として設立された、研究者を中心とした産官学民による組織(p.20 参照)
⑤東日本の拠点という地理的重要性/当該地区はその適地

阪神淡路大震災を受けて、防災関連の研究機関の多くが神戸を中心とした西日本を中
心に設置された。東日本大震災を経験した今日、防災関連の研究拠点を東日本に置く
必要性が高まっており、国家プロジェクトで整備されたむつ小川原開発地区はその適
地と考えられる。
78
⑥むつ小川原開発地区を災害用ロボット研究の開発拠点にし、社会的課題の解決を図り、
交流人口を増加させ、世界へ情報発信ができる可能性

防災、減災、災害時の人命救助等の社会的な課題を解決するために、当該地区に実証
実験フィールドを含む災害用ロボットの研究開発施設や、センター機能施設等を設置
することにより、同地区を災害用ロボット研究開発の拠点にすることができるポテン
シャルがある。その結果、技術者・研究者等の交流人口が増加し、地域に経済波及効
果を生み、研究成果を全国、世界に発信することができる可能性がある。
⑦他の事業は情報収集を継続し、内容の具体化を図る

現時点では、災害用ロボットの研究開発施設の設置が最も実現可能性が高いが、他の
事業(過酷事故用訓練施設設置、災害救助の演習フィールド整備、災害用資機材備蓄
施設設置、食料備蓄施設設置)についても、情報収集を継続し、内容の具体化を図る。
79
(6)平成 25 年度の検討結果
これまでの検討結果を踏まえ、当該プロジェクトについては、次のような方向性で推進
することとする。
【プロジェクト名】
大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プロジェクト
【事業の概要】

国が進める国土強靭化政策と関連し、大規模災害に備えて、東日本における大規模災
害対策・防災研究拠点基地を国家的なプロジェクトとして形成する。

災害救助の演習フィールドや大規模で過酷な災害用の訓練施設(模擬施設)を設置し、
災害救助の主体となる関係機関(政府関係機関、消防、警察、自衛隊、医療関係者、
自治体、大学・研究機関、NPO など)の実践的な訓練・演習を実施し、人材育成に貢
献する。実践的な訓連・演習は、まず地域レベルから開始し、県レベルのものに拡大
し、最終的には、東日本・全国レベルの広域的なものも想定する。

人間の活動の及ばない過酷事故に備えた災害用ロボットの全国的な研究開発拠点を
整備し、様々な事故に対応したロボットの研究開発を行なう。研究開発にあたっては、
八戸工業大学、東北大学などでロボットの研究開発に取り組む研究者を中心に、
(NPO)
国際レスキューシステム研究機構などの協力を得ながら進めていく。

ロボットの研究開発に当たっては、実際の災害現場で有効に機能するロボットの開発
を目指すため、試作、実証、改良に力を入れる。また、実証試験が効果的に行なえる
ように、実際の災害現場を模した施設や環境をつくる(例:ディザスター・シティ)。

ロボットの研究開発にあたっては、必要な部品の製造等で地元のものづくり企業に参
画してもらい、地場のものづくり企業の技術向上に貢献するとともに、新たなビジネ
スの種を発見する機会づくりに寄与する。

災害対応の訓練・演習、災害用ロボットの研究開発を支援すべく、災害シミュレーシ
ョンにも力を入れる。その際には、当該地区に既に設置してあるスーパーコンピュー
ター「六ちゃん」を最大限活用する。

災害対応の訓練・演習、災害用ロボットの研究開発がスムーズに進むよう、センター
機能施設を整備する。事務用オフィス、技術者・研究者用オフィス、会議室、資料室、
食堂・宿泊施設等を整備し、拠点基地利用者の受け入れ体制を整える。

なお、当初の構想では、災害用の資機材や食料の備蓄施設建設を含めていたが、むつ
小川原開発地区は緊急時防護措置準備区域(UPZ、原子力関連施設から概ね 30 ㎞圏内)
に入るため、緊急時に活用できない可能性があるとの指摘を受け、本プロジェクトか
ら除外することとした。
80
81
【事業展開イメージ】
(7)取組方針
本プロジェクトを今後進めるにあたって以下のような課題が考えられる。今後は、それ
らの課題を解決することにより、本プロジェクトを推進させていく。
【今後の課題】
①青森県の特殊性を活かした構想内容

青森県下北半島には原子力発電所(東通原子力発電所と大間原子力発電所)が立地、
あるいは建設中であり、また日本でオンリーワンの核燃料サイクル施設が立地する特
殊性がある。特に核燃料サイクル施設は再処理工場を含みプルトニウムを抽出する化
学工場でもあり、万が一の場合は人間の手の及ばない過酷事故も想定しなければなら
ない施設である。

想定される事故に備えるために、災害用ロボットの研究開発は不可欠と言え、核燃料
サイクル施設の災害対策用の研究開発拠点はこのむつ小川原開発地区への立地をおい
て他にないと考えられる。

また、当該地区には国家石油備蓄基地が立地するほか、三沢空港に近接し、大規模な
石油火災や航空機事故なども想定される。

こうしたむつ小川原開発地区の特殊性を強みとして、想定される災害を前提とした研
究開発拠点構想の具体化を図る。
②災害対策や防災・減災分野の研究機関や大学、その研究者のニーズの把握

八戸工業大学や八戸高専、東北大学等の大学、全国の災害分野における官民の研究機
関(ソフトやハード両面の)などのニーズを聞き取り、こうした施設の必要性や意義、
利用方法や頻度、研究開発内容などを調査し、それを踏まえた現実的な利用度の高い
構想づくりを目指す。
③消防、警察、自衛隊等のプロジェクトへの参画

現場での災害救助の主体となる消防、警察、自衛隊や防災・減災の司令塔であり研究
を司る防衛省や総務省、警察庁、国土交通省、経済産業省など関係省庁の協力なくし
てこのプロジェクトは成立し得ないので、青森県としての構想を早期に固めて、これ
ら機関への説明や意思表示をしていくことが必要である。
④構想の規模感・スケール感の具体化

プロジェクトの機能や施設整備のイメージ、事業主体や管理運営主体、建設費や施設
の維持費・運営費用、資金調達、要員計画、利用者の想定や利用頻度など、構想の規
模・スケールを具体化することが必要である。
82
⑤むつ小川原開発推進会議(六者協議会)における合意形成

構想の具体化にあたっては、六者協議会において定期的な意見交換を行って情報の共
有化を図り、構想に対する六者の関わり方や役割分担と責任所在を明確にしつつ、構
想を推進する当事者として活動することが求められる。
⑥福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想との差別化

福島で進められている構想づくりは今年 6 月策定を目標としていることから、ほぼ同
時並行的にむつ小川原開発地区での当該プロジェクトの具体化が進められることにな
るので、福島の構想づくりに留意することが必要である。あるロボット分野の有識者
の談によれば、ロボット研究開発拠点は国内に複数立地することも合理的である、と
のことなので、福島の構想との差別化を図りつつ、北東北の拠点としての位置づけを
意識しながら具体化することが必要である。
⑦実現までのロードマップの作成

プロジェクトのイメージ作りと精度アップの段階からさらに実現に至る道筋、青森県
行政や政府関係省庁の役割や活動内容、スケジュール等を示したロードマップを作成
することでプロジェクト関係者の目標やスケジュール感の共有化が図られる。

また対外的には、青森県の意思表示が明確になり、政府や大学・研究機関等への説得
力あるプレンゼン資料になる。
83
3.
藻類バイオエネルギー研究開発拠点形成プロジェクト
3-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度報告書より抜粋)
【概要】

炭化水素を産出する藻類を用いて燃料製造の実証を行う。

特に、バイオ燃料への取り組みに積極的な航空業界のジェット燃料製造を想定する。

事業性の担保のためにはスケールメリットが不可欠であり、むつ小川原地区の広大な
土地を利用した藻類の培養池・設備を整備する。

航空業界や自衛隊、米軍等と連携をはかりつつ、身近な三沢空港を利用して飛行試験
を行い研究データを蓄積する。

藻類を用いて新たなエネルギー源を生み出し、その事業展開によりむつ小川原開発地
区を藻類バイオ燃料の研究拠点とし、成果を全国に発信するとともに、エネルギー・
資源の確保や低炭素循環型社会の構築など産業社会の課題解決に貢献する。
84
3-2.
平成 25 年度の検討概要
(1)藻類バイオ燃料を巡る国内外の状況と日本における取組
【温暖化対策とエネルギーセキュリティの観点から運輸部門において藻類バイオ燃料に注
目が集まる】
地球温暖化対策としての CO2 削減は世界共通の課題であり、また、エネルギーセキュリ
ティの確保はいずれの国家にとっても重要な課題である。
エネルギーは様々な形で消費されるが、特に運輸部門では電気などへの動力源の転換が
難しい部分があり、そのほとんどが化石燃料を使用している。
2011 年度の日本における CO2 排出量を部門別に見た場合、運輸部門は全体の 18%を占め
る(左下図)。また 2011 年度の部門別最終エネルギー消費を見ると、運輸部門は約 23%を
占めている(右下図)。
このように、運輸部門における CO2 削減、及び、エネルギー(燃料)の確保は重要な課
題となっている。
(出所:全国地球温暖化防止活動推
(出所:経済産業省 資源エネルギ
進センター「4-4
ー庁 『平成 24 年度エネルギーに
日本の部門別二
酸化炭素排出量(2011 年度)」)
関する年次報告』)
運輸分野のうち、自動車分野については。2009 年にエネルギー供給構造高度化法の成立
により、石油精製業者に対して、2017 年度に原油換算で 50 万 kl/年のバイオエタノール
の利用が義務付けられている。
また、航空分野については、IATA(国際航空運送協会)が、2050 年までに 2005 年比で
85
50%の CO2 削減達成を目標としている。また、欧州委員会は 2011 年 3 月に、2050 年までの
将来の運輸に関するロードマップを策定しており、その中で、航空分野において 2050 年ま
でに全ジェット燃料の 40%を持続可能性のある低炭素燃料に置換する目標を掲げている。
藻類(特に微細藻類)を用いて製造される燃料は、光合成を行う種類(独立栄養性)の
藻類を使用した場合には、その栽培過程において CO2 を固定化するため、二酸化炭素の排
出抑制に寄与する。また、菜種やパーム等とは異なり、食料と競合することはない。さら
に、微細藻類は陸上植物よりも高い油脂生産性を持つ。このような特徴から、温暖化対策
とエネルギーセキュリティの確保に寄与するものとして藻類バイオ燃料に注目が集まって
いる。
産業競争力懇談会(COCN) 『微細藻類を利用した燃料の開発』
(2012 年 3 月 6 日)によ
れば、微細藻類燃料は次の効果が期待されているという。
 持続可能な輸送用燃料として温室効果ガス(GHG)排出量削減に寄与できる
 エネルギー資源の多様化や自主開発エネルギー源の獲得に貢献できる
 既存石油系燃料と同様に扱え、輸送機器や燃料供給インフラへの新規投資が不要
 抽出残渣は飼料等としての利用が期待でき、食料生産にも貢献できる可能性がある
【航空機燃料の電力化は技術的に困難なため、バイオジェット燃料への期待が高い】
現在、世界の CO2 の 2%が航空業界から発生している。国連の試算では、2050 年時点で
航空業界の CO2 発生量は現在の最大 5 倍に増加するとされている。
現在の航空機は基本的に化石燃料由来の液体燃料でしか飛行できず(電気では飛行でき
ない)
、代替となり得るエネルギーがない。そのため、CO2 削減のためには、バイオ燃料の
導入が不可欠となっている。故に、バイオ燃料の市場の将来性は大きい。資源エネルギー
庁の試算によると、2030 年にジェット燃料の販売量の 10%を藻類バイオ燃料で代替すると
想定すると、年産 140 万 kl、山手線内側の 3 分の 2 の栽培面積が必要になるという。
軍事分野でも CO2 削減を目標に化石燃料からバイオ燃料への転換が今後加速される見通
しである。米国国防総省・米軍では燃料費が大きな負担となっており、より安価な燃料へ
の転換が求められていることからバイオ燃料への転換が進められている。
【日本政府も微細藻類の技術開発に注目、科学技術イノベーション総合戦略に盛り込む】
2013 年 6 月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略」では、次世代エネル
ギー政策の重点分野に微細藻類を利用したバイオ燃料の開発が盛り込まれている。エネル
ギー源・資源の多様化に必要な技術として微細藻類由来の燃料製造技術を盛り込み、今後
重点的な予算配分がなされる予定である。
86
(2)微細藻類燃料開発を巡る国内の動向
【日本では、筑波大学、及び、複数の民間企業が微細藻類燃料の開発に取り組む】
日本では、筑波大学渡邉教授を中心としたグループ、(株)IHI を中心としたグループ、
JX 日鉱日石エネルギー(株)を中心としたグループ、
(株)デンソーを中心としたグループ
などが微細藻類燃料の開発に取り組んでいる。
実験室レベルでの技術は既に確立しており、今後は実規模での実証試験による採算性評
価やビジネスモデルの確立が求められている。
■藻類燃料を巡る日米企業の主な取り組み
日本
事業主体
JX日鉱日石
エネルギー
IHI
藻の名前
榎本藻
ユーグレナ
デンソー
その他
シュードコリシスチス
ボトリオ
コッカス
など
オーラン
チオキト
リウム
(
濃
淡
藻の研究・
開発
G&GT
分離・抽出
日
立
DIC
示
研
究
所
筑
波
大
学
IHI
度
合
大量培養
ー
関
与
ー
ー
)
航空機
(船舶、自動車も視
野)
産
ユーザー
出
光
興
JX
燃料化
航空機
波
化
学
自動車、航空機、工
場発電
• その他・研究:JFEエンジニアリング、ヤンマー、東大、京大、東北大、阪大、神戸大、茨城大、お茶
の水大、佐賀大、慶応大、中央大など (注)日本企業は事業化に向けた開発段階
米国
事業主体
米サファイア・エナ
ジー
主な提携相手
投資家
ビル・ゲイツ氏、
モサントなど
米アルジェノール・バ
イオフュエルズ
米ソラザ
イム
米シンセ
ティック・
ジェノミ
クス
印リライアンス・イン
ダストリーズ(RIL)
米ブンゲ
米エクソ
ン・モー
ビル
RILなど
(参考:日本経済新聞 電子版 「藻類から次世代燃料 「油 1 リットル 100 円以下」挑
む」 2012 年 9 月 16 日)
87
また、産学官が連携する「藻類産業創成コンソーシアム」や民間企業が連携した「微細
藻類開発推進協議会」が立ち上がっている。
(一社)藻類産業創成コンソーシアム
微細藻燃料開発推進協議会
2010 年 6 月
2012 年 5 月
設立
参画者
参画機関
【発起人・機関】
 JX 日鉱日石エネルギー(株)
 渡邉信(筑波大学教授)
 (株)IHI
 井上勲(筑波大学教授)
 (株)デンソー
 白岩善博(筑波大学教授)
 (株)日立プラントテクノロジー
 彼谷邦光(筑波大学教授)
 三菱商事(株)
 堀岡一彦(東京工業大学教授)
 出光興産(株)
 細矢憲(東北大学教授)
 (株)ユーグレナ
 河地正伸(国立環境研究所主任研究員)
 (株)ネオ・モルガン研究所
 (株)デンソー
 いであ(株)
 (株)コスモステクニカルセンター
 ヤンマー(株)
 巴工業(株)
※2014 年 6 月時点
 (株)ネオ・モルガン研究所
 三和農林(株)
 出光興産(株)
 (株)地球快適化インスティテュート
 キッコーマン(株)
 (株)旭リサーチセンター
 (株)豊田中央研究所
 (株)新産業創造研究所
 (株)熊谷組
 (株)TOZEN
 日揮(株)
 住友重機械工業(株)
※会員数は 80 以上
88
【産業界が中心となり微細藻類燃料製造の技術開発ロードマップを作成】
産業界の有志が中心となり産学官が連携して政策提言などを行う産業競争力懇談会
(COCN)は、2012 年 3 月に微細藻類燃料製造の技術開発ロードマップを公表した。それに
よると、国際競争力強化のためには、培養・分離・抽出・燃料化の各要素技術の開発に加
え、全体の最適化を図るべく、一貫生産システムの技術開発が必要としている。また、藻
類の株の培養に関する基盤技術も強化していく必要があるとする。これらを実現するため
には、産学官のオールジャパン体制での取組が求められるという。
また、
2020 年に海外の適地 3000ha で、
年間 10 万 kl の燃料を製造する目標を掲げている。
COCN が示した「要素技術及び基盤技術の課題と解決手法」
、及び「技術開発ロードマップ
を以下に示す。
要素技術及び基盤技術の課題と解決手法
項目
要素技術
培養
分離・抽出
燃料化
抽出残残渣
基盤技術
技術課題
屋外での生産性の維持
大量・高生産性培養技術
低コスト・省エネ技術の確立
水素化/異性化技術の油脂へ
の適用
抽出残渣の有効活用
さらに燃料生産に適した株の
獲得・改良
株の長期・安定的な保管
解決手法
ラボ培養⇔屋外培養間の相関デー
タの取得
培養条件の最適化
最適技術の選定
スケールアップ検証
水素化/異性化技術の最適化
飼料等への用途開発
株の評価・選抜手法の開発
微細藻類に適した遺伝子組換等の
手法開発
微細藻類に適した保管手法の確立
(出所:産業競争力懇談会(COCN 『微細藻類を利用した燃料の開発』2012 年 3 月 6 日)
■技術開発ロードマップ

前提:燃料生産規模 10 万 kl/年(培養面積 3000ha)、既存燃料比で CO2 排出量 50%削減

技術完成の目標:2020 年度末(開発期間は 2012~2020 年度の 9 年間)

コスト目標:既存水素化バイオ燃料(現状 120 円/l(1 ドル 80 円前提))と同等以下
開発の期間・ステップ・目的
期間(年度)
2012~2014
2015~2017
開発ステップ
要素技術開発
要素技術実証(小規模)
2018~2020
一貫生産システム開発
目的
最適な要素技術を選定
選定した要素技術の実証を踏まえ、要素技術
を確立
要素技術を組み合わせ、全体最適化を行い、
一貫生産システムとして技術完成させる
89
【ロードマップの重要前提①:従属栄養性藻類ではなく独立栄養性藻類での開発が前提】
COCN が公表している微細藻類燃料の技術開発において、重要な前提となっているのが、
従属栄養性藻類(光合成を行わない藻類)ではなく独立栄養性藻類(光合成を行う)を使
用することである。これは、微細藻類燃料の培養から燃料製造に至る工程の温室効果ガス
(GHG)を試算した結果、従属栄養性藻類では GHG 排出削減には寄与せず、持続可能性への
適合が難しいと判断されたためである。
【ロードマップの重要前提②:海外での培養を想定】
COCN が公表している微細藻類燃料の技術開発において、重要な前提となっているのが、
燃料事業を行う際の場所を国内ではなく海外と想定していることである。これは、GHG 削減
効果などの持続可能性を考慮した結果、使用する藻類は独立栄養性藻類(光合成を行う藻
類)となり、また、それらの培養の鍵となる日射量が豊富な場所で、オープンポンドで年
間 10 万 kl 生産するための 2500~3000ha の土地の確保という条件を考慮した場合、国内で
実施するのは困難という判断がなされたためである。
■参考:主なバイオ燃料の特徴
原料
糖質植物
(サトウキビ/甜菜)
澱粉質植物
(トウモロコシ)
草本セルロース
(ネビアグラス)
微細藻
燃料化への製法
燃料
バイオマス
生産性
Ton/ha/y
収率
Ton/ha
食糧との
競合緩和
エタノール発酵
エタノール
70
4.9
×
エタノール
10
3.8
×
エタノール
50
9.5
〇
炭化水素
47-140
(油脂分と
して)
33-98
〇
糖化
→エタノール発酵
前処理
→糖化
→エタノール発酵
濃縮乾燥
→抽出
→水素化・異性化
(出所:産業競争力懇談会(COCN) 『微細藻類を利用した燃料の開発』 2012 年 3 月 6 日)
90
■参考:日本企業が参画する主な微細藻類燃料開発プロジェクト






企業
電源開発
ヤマハ発動機
デンソー
トヨタ
トヨタ中研
マイクロアル
ジェ
 デンソー
 JX 日航日石
エネルギー
 ユーグレナ
 日立プラント
テクノロジー
 JFE エンジニア
リング
 IHI
 G&GT
 ネオ・モルガン
研究所
大学
Phase
対象株
環境
東農工大
ラボ
Fistulifera 属
海水
中央大
京大
お茶大
佐賀大
ラボ
Pseudochoricystis
ellipsoidea
淡水
中央大
ラボ
Pseudochoricystis
ellipsoidea
淡水
油脂
トリグリ
セリド
不飽和
炭化水素
燃料
Fund
ディーゼル
CREST
ディーゼル
MAFF
ディーゼル
NEDO
トリグリ
セリド
不飽和
炭化水素
トリグリ
セリド
慶応大
ラボ
Euglena gracilis
淡水
モノグリ
セリド
ジェット
燃料
NEDO
筑波大
ラボ
Botryococcus
braunii
淡水
炭化水素
重油相当
NEDO
ラボ
Botryococcus
braunii
淡水
炭化水素
ジェット
燃料
重油
(出所:産業競争力懇談会(COCN) 『微細藻類を利用した燃料の開発』 2012 年 3 月 6 日)
91
(3)専門家、産業界の見方
上述した情報を踏まえつつ、むつ小川原開発地区での藻類バイオ燃料実証プロジェクト
の実現可能性を精査するため、藻類バイオ燃料製造研究に取り組む大学や企業の専門家に
ヒアリングを行った。その結果、以下の点が明らかとなった。
最終生産物によりコストの許容範囲が変わる

微細藻類の用途は極めて広く、燃料だけでなく、化粧品やサプリメント、飼料など様々
な製品を開発することが可能である。その際に、何を生産するかによってコストの許
容範囲が変わってくる。
燃料は低価格が求められる商品であり、製造コスト削減が何よりも重要

一般に燃料として使われるものは、多くの人々によって莫大に消費されるものである
ため、低価格であることが求められる。そのため、微細藻類から燃料を生産する際に
もコストの削減が至上命題となる。
従属栄養性藻類による燃料製造はコスト的にも持続可能性の観点からも見合わない

微細藻類の中には、独立栄養性藻類(光合成を行う藻類)と従属栄養性藻類(光合成
を行わない藻類)がある。そのうち、オーランチオキトリウム等の従属栄養性藻類に
ついては、培養段階での生産能力は高いものの、最終的に燃料に変換する際の効率が
悪く、また、培養に必要な栄養や CO2 を極めて低コストで確保できない場合には、そ
れらの供給にランニングコストがかかる。さらに、光合成を行わないため、GHG の固
定化にはつながらない。これらの点を考慮すると、燃料製造の対象として従属栄養性
藻類を選択するのは困難であると考えられている。

海外では、米国のソラザイム社が従属栄養性藻類のみで藻類バイオ燃料の製造を行い、
米軍に納品しているが、価格は 650 円/l と高く、将来的には持続可能でないとの見
方が強い。
燃料製造に適しているのは独立栄養性藻類/気温、日照条件、CO2 の確保等で適地が決まる
/栽培地は日本よりも海外が有力

燃料製造を考えた場合に適する藻類は独立栄養性藻類(光合成を行う藻類)である。
独立栄養性藻類は、光合成を行う藻類であるため、日照条件が良い場所が栽培に適し
ている。また、気温、CO2 の確保なども重要な条件となる。このような条件を考慮し
た場合、微細藻類の培養を大規模に実施する場所は海外にならざるを得ないという見
方が有力になっている。

実際、既述のように、COCN が公表しているロードマップでも燃料事業を行う際の場所
として海外が想定されている。また、
(株)IHI は、2018 年より微細藻類を用いたジェ
92
ット燃料の量産を行う予定であるが、想定されている場所は、日照時間が長く、大規
模な工場が立地でき、CO2 が得やすい東南アジアやオーストラリアとなっている。
日照量、気温、CO2 から見ると、むつ小川原開発地区での大規模培養は困難という見方

むつ小川原開発地区における藻類バイオ燃料製造の実証試験実施に係る主な判断材料
として、以下の点が挙げられる。

日射量

気温(気温が低い場合でも、何らかの方法により水温が一定程度に保たれる
かどうか)

CO2 の確保

水の安定供給
これらの点についての対応表を以下に示す。
藻類バイオ燃料製造実証試験実施の主な判断材料と対応表
日照量
気温
(何らかの方法で水
温を一定程度に保つ
方法)

11〜12MJ/㎡・day(六ヶ所村、1981〜2009 年)

概ね全国平均と同水準だが、特段多いわけではない

年平均気温:9.2℃(六ヶ所村、1981〜2010 年)

平均最高気温:12〜14℃、

平均最低気温:5〜7℃

真冬の最低気温は-10℃を下回ることも

夏季には「ヤマセ(冷たく湿った北東風)」が吹く

11 月頃から降雪・積雪があることも、遅い時には 4 月まで雪
が残る時もある

地中熱利用技術の可能性あり

地中の温度は、年間を通じて 15〜20℃

地中熱技術を利用するには、地質条件の事前把握が必要、初
期コストも問題

現状、当該地区で大量の CO2 を安定的に確保できる術は見当
たらず
CO2 の確保

八戸地域には大量の CO2 を排出する火力発電所や工場の集積
があるが、当該地区で利用するには、発生した CO2 を液化な
どし、約 50km の距離を輸送する必要あり
水の安定供給

工業用水:給水能力 2,500 ㎥/日

上水道:取水可能量 11,500 ㎥/日
93
上記の対応表について、専門家からは次のような指摘があった。

加温が可能ならば試験場所としては可能性がある

しかし、3000ha が必要となる実際の生産場所としては想定できかねる

試験場所として、「国内にもっとふさわしい箇所があるのになぜむつ小川原
を選ぶのか」という疑問に回答できるほど有利性があるとは思えない

むつ小川原開発地区の場合、CO2 源が遠いのがネック(CO2 供給への投資また
はランニング費用はバイオ燃料生産で大きな問題)
94
■参考:藻類オイルの生産工程
(出所:一般社団法人 藻類産業創成コンソーシアム ホームページ)
大量培養
• 藻類(株)を増殖させ、大量培養を行う。
• 開放型のオープンポンドや閉鎖型のフォトバイオリアクターがある。
開放系:オープンポンド
閉鎖系:フォトバイオリアクター
濃縮・収穫・抽出
• 収穫・分離した藻類から油分の抽出を行う
濃縮後に取り出さ
れたオイルケーキ
オイルケーキを更
に濃縮し不純 を
取り除き、油分を
抽出
物
収穫した藻類から遠
心分離機で水分を
取り除き濃縮
精製
用
• 油分を 途に合わせて精製
• オーランチオキトリウムやボトリオコッカスからスクアレンやボトリオコッセン等
の油分が取り出され、さらに精製・加工することでバイオ燃料やバイオプラス
チック・医薬品・化粧品・健康食品などの商品になる
精製された
スクアレンと
ボトリオコッセン
95
(4)平成 25 年度の検討結果
既述の文献情報やヒアリングから得られた情報に基づき、以下のように複数の評価項目
について検討を行い、当該プロジェクトの今後の方向性を見出した。
社会的ニーズ・市場性
【低炭素社会に向けた取組、エネルギーセキュリティの観点から藻類バイオ燃料製造技術
の研究開発に取り組む意義は大きい】
藻類を用いて製造される燃料は、光合成を行う種類(独立栄養性)の藻類を使用した場
合には、その栽培過程において CO2 を固定化するため、二酸化炭素の排出抑制に寄与する。
また、高い油脂生産性を持ち食料と競合しないため、温暖化対策とエネルギーセキュリテ
ィの確保に寄与するものとして藻類バイオ燃料は重要であり、その生産技術の開発に取り
組む意義は大きい。
【航空業界での需要は大きい】
現在の航空機は基本的に化石燃料由来の液体燃料でしか飛行できず(電気では飛行でき
ない)
、代替となり得るエネルギーがない。そのため、CO2 削減のためにはバイオジェット
燃料の導入が不可欠となっている。
IHI の試算では、藻類バイオ燃料市場は 2020 年には 8000 億円/年(自動車向けも含む)
となり、また、そのうち航空機向けは 5000 億円/年とされている。そのため、ジェット燃
料の市場性は極めて高いと考えられる。
プレーヤー・技術進展
【日本ではプレーヤーは揃い、実規模の実証実験に向かう段階】
日本では複数の大学、民間企業が藻類バイオ燃料製造の研究開発に取り組んでいる。藻
類バイオ燃料製造は実験室レベルでの技術は確立しており、今後は実規模での実証実験に
入っていく段階である。COCN が発表したロードマップでは、2020 年に 3000ha で年間 10 万
kl の燃料製造を目指すとされている。
地域特性・立地条件
【将来的な大規模培養は海外が有力/むつ小川原開発地区での大規模培養は困難】
燃料製造を考えた場合、適する藻類は独立栄養性藻類(光合成を行う藻類)であるため、
日照条件が良く、CO2 の確保が容易な海外(東南アジアやオーストラリア)が大規模培養の
候補地となっている。
96
一方、むつ小川原開発地区は、日照量、気温、CO2 の確保からみて、海外はもとより、日
本国内の他の地域よりも優位であるとは言えない。
ジェット機燃料以外での産業化の可能性
【高付加価値製品を対象とすることでビジネスとして成り立つ可能性がある】
微細藻類の用途は極めて広く、燃料だけでなく、化粧品やサプリメントなど様々な製品
を開発することが可能である。一般的に、燃料は低価格が求められる一方、化粧品やサプ
リメントは高付加価値製品として高い価格で販売することが可能である。そのため、専門
家によれば、高付加価値の製品から攻めていくことで、微細藻類の培養をビジネスとして
成り立たせることが可能になる可能性があるという。
【従属栄養性藻類、再生可能エネルギー、地域資源の活用により条件の厳しい地域でも実
現の可能性】
従属栄養性藻類(光合成をしない藻類)
、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地中熱な
ど)
、地域資源(家畜の糞尿、廃材など)を活用することで、条件の厳しい地域でも藻類バ
イオ燃料の生産が実現できる可能性がある。
専門家によれば、従属栄養性藻類の一種であるオーランチオキトリウムは、青森湾から
も採取しており、青森湾産のものは、沖縄産のものよりもスクアレン(※)の生産効率が
高いという。また、再生可能エネルギーや地域資源も豊富なことから、それらを上手く活
用すれば、藻類バイオの生産の可能性が出てくる。
※スクアレン(スクワレン)とは
スクアレンは、もともと人間の体内で作られている抗酸化物質。サメの肝油に多量に含まれる成
分であり、化粧品や医薬品に使われている。主な効果・機能として、細胞賦活作用、老化防止作
用、免疫力の強化、抗酸化作用、鎮痛作用、殺菌作用などが指摘されている。
(出所:特定非営利活動法人
日本サプリメント評議会
ほか)
【青森県には藻類バイオ研究に必要な工学系の研究機関が存在】
藻類バイオプロジェクト推進には、工学系の専門家が必要である。青森県では、八戸工
業大学や青森県産業技術センターが有力なメンバーとなり得る。また、発酵技術の関係で
弘前大学も有力と言える。
97
総合評価と今後の方向性
【ジェット燃料の製造をターゲットとした従来の構想を軌道修正】
温暖化対策やエネルギーセキュリティの観点から藻類バイオ燃料製造技術の研究開発に
取り組む意義は大きく、ジェット燃料の市場性も将来的に有望である。また、日本には研
究開発に取り組む大学や民間企業が複数おり、実規模の実証試験の段階にまで研究を進め
ている。
しかし、燃料製造を考えた場合、適する藻類は独立栄養性藻類(光合成を行う藻類)で
あるため、日照条件が良く、CO2 の確保が容易な海外(東南アジアやオーストラリア)が大
規模培養の適地となる可能性が高い。また、むつ小川原開発地区は、日照量、気温、CO2 の
確保から見て、必ずしも優位性を持つとは言えない。
そのため、ジェット燃料の製造をターゲットとした従来の構想を見直すことが必要だと
考えられる。
【付加価値の高い製品を新たなターゲットとした構想を再構築すべく検討を継続】
一方で、高付加価値製品をターゲットとすることで、藻類バイオをビジネス化できる可
能性がある。また、青森県に固有の従属栄養性藻類や当該地区の豊富な再生可能エネルギ
ー、及び地域資源を活用し地元工学系の研究機関の協力を得ることで、条件の厳しい地域
でも藻類の培養ができる可能性がある。そのため、本プロジェクトを付加価値の高い製品
を新たなターゲットとした構想として再構築すべく、情報収集と検討を継続することが適
当だと考えられる。
98
■参考:ジェット燃料以外の用途開発の事例
藻類から抽出されるオイルはジェット燃料以外にも様々な用途に使われる。また、藻類
そのもの(藻体)やオイルを抽出した後の藻体残渣についても用途開発が検討されている。
【藻類から抽出されるオイルの用途のイメージ】
(出所:一般社団法人 藻類産業創成コンソーシアム ホームページ)
【藻類から得られるオイルの用途事例】

米海軍に藻類由来のジェット燃料を供給しているソラザイム社は、植物から得づらい
特別な機能のあるオイルを藻類に作らせるという取り組みを行なっている。
 ミリスチン酸原料油:ココナッツ、パーム核油に 15%程度含まれる。年間生産量
が 35 万 t しかないと言われる。化学処理をして界面活性剤にし、工業用途や化
粧品(シャンプーやリップクリームなど)に使われる。
 エルカ酸原料油:菜種、アラセイトウ、カラシ等の種より精製される植物油の 40
〜50%を占める。年間需要量 2 万 t と言われる。乳化剤、ポリマー添加剤など 1500
を超える用途特許が申請されており、大量供給されれば多くの用途に広がる素材。
(参考:情報機構主催セミナー「藻類の活用とビジネスチャンス」配布資料)
99
4. 太陽光発電システムと循環型社会の実現に関する実証研究拠点形成プロ
ジェクト
4-1. 平成 24 年度に提案された内容(平成 24 年度報告書より抜粋)
【概要】

近い将来社会問題となる可能性がある太陽光発電システム(Photovoltaic システム、
以下、PV システム)の処理・リサイクルについての研究・開発の拠点をむつ小川原
開発地区につくり、循環型社会構築のメッセージを青森県から発信する。

近年青森県において急増している太陽光発電事業において、PV システムの処理・リ
サイクルへの取り組みを、参入する事業者に求め、青森県内で PV システムが放置さ
れない仕組みを構築していく。

技術開発の進展状況、国内外の取り組み状況を見ながら事業性を見極め、実現可能性
があれば社会システムの実証研究に取り組む。
100
4-2.
平成 25 年度の検討概要
(1)使用済み太陽光発電システムをめぐる国内の状況
【将来的に使用済み設備が大量に排出される見込み】
太陽光発電システムについては、導入初期段階(1990 年代中頃)の設備が使用済みとな
って排出され始めているが、現時点ではその発生量は少ない状況にある。
しかし、
2012 年 7 月から開始された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度により、
近年急激に導入が進んでおり、将来的に排出される太陽光発電システムの量は加速度的に
増加すると見込まれている。
平成 24 度環境省委託事業『平成 24 年度使用済再生可能エネルギー設備のリユース・リ
サイクル基礎調査委託業務報告書』によれば、使用済みとなる太陽光発電設備の排出量は、
2015 年頃に約 7~9 万t/年となり、2030 年頃には 25~70 万t/年と推計されている。
(出所:三菱総合研究所 平成 24 度環境省委託事業『平成 24 年度使用済再生可能エネ
ルギー設備のリユース・リサイクル基礎調査委託業務報告書』 2013 年 3 月 25 日)
環境省の推計によると、1年間に使用済みとなる小型電子機器等(小型家電)の量は約 65
万tとされている。そのため、将来的に排出される使用済み太陽光発電設備の量は小型家
電の年間排出量に匹敵するものになると考えらえる。
101
【六ケ所村でも日本最大級のメガソーラー建設される予定】
日本国内で太陽光発電システムの導入が急速に進んでいるが、むつ小川原開発地区のあ
る六ヶ所村もその例外ではない。六ケ所村には今後国内最大級のメガソーラー施設が建設
される予定である。2015 年 11 月にはユーラスエナジーホールディングスが出力 11 万 5 千
kW の設備を、2016 年 11 月には双日が 7 万 1 千 kW の設備をそれぞれ操業開始予定である。
【適切な管理・処理・処分がなされなければ大きな社会問題になり得る】
「平成 24 年度むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出業務」報告書でも示された
ように、太陽電池は、その中に用いられている材料により、大まかに「シリコン系」
「化合
物系」
「有機系」の 3 つに分類できる。このうち、最も広く用いられているのがシリコン系
であり、最近量産され始めたのが化合物系、現在開発中で将来を期待されているのが有機
系である。
太陽電池のうち、最も古くから使われているものは結晶シリコン型であり、現在でも市
場の主流を占めている。今後の市場では、より安価な薄膜太陽電池、あるいは化合物系や
有機物系が台頭すると見られているものの、結晶シリコン太陽電池も当分は使われ続ける
と見られている。
(出所:産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター ホームページ)
102
これまでに生産されてきた太陽電池には有用資源(アルミ、銅、銀、シリコン、ガラス
等)や有害物質(カドミウム等)が含まれている。そのため、大量廃棄の時代が訪れる際
に、それらを適切に管理・処理・処分する技術と社会システムが確立していなければ、大
きな社会問題となることも懸念される。
【使用済み太陽光発電設備のリサイクルや処分についてはルールやシステムが未整備】
使用済み太陽光発電設備については、家電リサイクル法のようにリサイクルを義務付け
る法律はなく、現在は産業廃棄物として委託処理されているものが多いとされる。一部で
はリサイクルがなされているものの、基本的に一般産業廃棄物として処理・処分されてい
ると考えられる。
また、現時点では一部の民間業者が使用済み太陽光発電設備のリサイクルを行っている
が、社会的システム(耐用年数を迎えた設備の収集、輸送、管理、処理、有価物の抽出・
活用、有害物質の処理・処分等を制度的に行う)としては確立していない。
そのため、今後大量廃棄の時代を迎える際に、リサイクルに関する法整備、および社会
システムが確立されていなければ、使用済み太陽光発電設備は産業廃棄物として処理・処
分される可能性が高い。その場合、有価物の抽出・活用が十分になされないことはもちろ
んのこと、有害物質が適切に処理・処分されない可能性がある。
六ケ所村においても、今後メガソーラーが相次いで建設される予定であるため、将来的
には使用済み太陽光発電設備が村内で大量に発生することが予想される。そのため、リサ
イクルや処分のルール、システムが整備されていなければ、不法投棄による環境汚染など
村内において大きな問題になる可能性も否定できない。
(2)国や自治体の動き
【環境省がガイドライン作りに乗り出す】
このような状況を受け、環境省は今後予想される大量処分に備えて、本年度から撤去や
廃棄の方法を定めたガイドラインの作成に乗り出している。2013 年 8 月に環境省、経済産
業省、大学教授らで構成される検討会を設置して、検討を進め、平成 25 年度内にガイドラ
インをまとめる予定である。主な検討内容は次の通りである。

パネルの撤去方法

リサイクル可能な材料の取り外し方

リサイクル困難な部材の処分の仕方

安全な処理に必要な費用
103

リサイクル可能な資源の価値

有害物質の種類や含有量

パネルを埋め立て処理した場合の環境への影響

処理費用の負担方法 など
【自治体は一部を除いて国の動きを待つ姿勢】
使用済み太陽光発電システムが将来的に大きな社会問題になることを見据え、北九州市
や秋田県などの一部自治体が、リサイクル技術の開発や社会システムの確立に向けた取組
を始めている(詳細は後述)。
しかし、大分部の自治体ではそのような取組は行われていない。また、現在リサイクル
に関する法律が未整備であること、環境省でガイドライン策定のための検討が行われてい
ることなどを踏まえ、自治体が先行して独自に取組を行うのはリスクが高いと考え、基本
的に国の動きを待つ姿勢であるという((一財)太陽光発電システム鑑定協会ヒアリング)
。
(3)民間の動向
【太陽光発電システム鑑定協会が使用済みパネルの引き取り、処分のサービスを開始】
上述のように、環境省が中心となって、使用済み太陽光パネルの処理・処分に関するガ
イドラインづくりが始まっている一方、家電リサイクル法のような法律面での整備がなさ
れるまでには今後も時間がかることが予想されている。一部では、法整備までに今後 5~6
年を要するという指摘もある(
(一財)太陽光発電システム鑑定協会ヒアリング)
。
このような状況を踏まえ、民間では、国の法制化等を待たずに使用済み太陽光発電設備
にいち早く対処する動きが出ている。(一財)太陽光発電システム鑑定協会は、不要になっ
た太陽光パネルを引き取り、処分するサービスを 2014 年 1 月から始めた。不要になった太
陽光パネルを引き受け、一時保管して解体・再資源化を行う。
(出所:
(一財)太陽光発電システム鑑定協会 パンフレット)
104
同協会は、不要になった太陽光パネルを 1 枚当たり 1200 円(20 ㎏未満のパネルが対象、
個人や業者が保管場所にパネルを持ち込んだ場合)で引き受ける。回収したパネルは千葉
県内に確保した保管庫に一時保管する(約 6000 ㎡の用地、約 5000 枚の使用済み太陽光パ
ネルが保管可能)。その後、一定量のパネルが保管庫に集まった段階で、同協会が認定する
廃棄物処理業者(ガラス再資源会社や精錬会社なども含む)に引き渡す。引き渡されたパ
ネルは、まず解体・分別される。その結果出て来たアルミフレームはアルミ材としてリサ
イクルされ、ガラスはガラス再資源化工場に送られガラス材として再資源化される。また、
非鉄金属は精錬工場に送られ、有価金属の抽出や有害物質の分離を行う。
同協会によれば、民間の事業者が現在持っている技術でリサイクルは十分に可能である
という。また、同協会は、ガラス再資源化協議会や大手精錬会社と連携し、回収から再資
源化までを一貫して行う体制を一部地域で既に構築し、コスト的にも十分に成り立つとし
ている。
【輸送コスト、産業廃棄物に関するルール等から、都道府県単位のリサイクル体制が効率
的かつ現実的】
太陽光発電システム鑑定協会によれば、パネルの処分費用の大半は保管庫から再資源化
工場への輸送費であるため、地域ごとに運搬作業を集約することでコストを低減すること
が可能になるという。また、新たなリサイクル施設を建設するよりも、廃棄物処理関連の
各事業者が持つ既存施設を利用する方がコストを抑えられるという。
さらに、現在の使用済み太陽光パネルの保管処分は、廃棄物処理法に基づいており、ま
た、各都道府県が独自のルールを定めているため、都道府県をまたいだ広域的なリサイク
ル体制を構築することが難しい状況にある。
このような状況を踏まえ、同協会は、都道府県単位でリサイクル体制を構築することが
最も効率的かつ現実的であるという見方をしている。具体的には、各県に同協会認定の処
理工場を設け(既に各県に存在する解体・分別事業者、精錬会社等を同協会が認定する)、
都道府県単位で適切なリサイクルが行われる体制を構築していく構想を持っている。
【技術開発についての見方:既存技術でも十分対応可能だが、研究開発は今後も必要】
技術開発について同協会は、既にある技術で十分にリサイクルは可能であるが、メーカ
ーごとに異なるパネルを一括処理し、より効率的かつ低コストでリサイクルできる技術の
開発は必要だという。また、今後は有害物質の含有量が少なく、解体が困難なパネルが開
発されて市場に投入されることが予想され、将来的な技術開発の必要性については検討の
余地はあるとする。ただし、当面は既存のシリコン系パネルが大量に廃棄されるため、そ
の対策をきちんとしておくことが必要だという。
105
(4)研究開発機関の取組状況
【NEDO、経済産業省による技術開発/北九州地域、秋田県でも取組実施】
太陽光パネルのリサイクル技術については、
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)が 2010 年度より 5 年計画で「次世代高性能技術開発プロジェクト」を実施してお
り、このプロジェクトの中の「共通基盤技術分野」として、「PV システムの広域リサイク
ル手法に関する研究開発」が計画されている。この研究開発は「1980 年代以降設置の太陽
光発電 (PV)システム寿命が順次到来すること」、「今後の急速な普及,各社増産に伴う製造
工程での不良品等廃棄物が急増すること」、「CIS 系や薄膜 SI 系等の多品種・新製品に対
応可能なリサイクル処理システムの構築が必要なこと」という 3 点を背景として、リサイ
クル処理システムが未確立のままでは、埋設処理場の不足、廃棄物処理費用の高騰、それ
に伴う不法廃棄の増加が懸念され、さらには海外への不正流出などによる日本製商品の信
頼性失墜が問題点として予想されるとし、これらの問題点を解決するためには、リサイク
ル処理手法と合わせて、回収方法やリサイクル料金設定等を含めた社会システム構築を図
ることが急務との趣旨で計画がなされた。
この研究開発は、NEDO より(財)北九州産業学術推進機構(FAIS)に委託され、実施さ
れている。同プロジェクトでは、2014 年度までに処理技術を確立し、2015 年度以降に処理
センターを立ち上げ、事業性の検証等を行なっていく予定となっている。実際、2013 年 2
月には、北九州市若松区に、メーカーごとに構造・材料が異なる太陽電池モジュールに対
応し自動処理を行う一貫処理設備が整備され、処理技術の確立と実用化に向けた研究が進
められている。一部では、
「既に 95%以上のリサイクル率が達成されている」という情報も
ある(公益社団法人 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会主催シンポジウム
「太陽光発電の知恵袋」 2014 年 1 月 26 日 )
。
また、秋田県も 2011 年度に「東日本 PV リサイクルネットワーク構築事業」を立ち上げ、
経済産業省の補助を受けながら取組を進めている。平成 23 年度は、東北経済産業局の「地
域新成長産業創出促進事業」の補助金を受けて、インベントリー調査、政策・業界動向の
把握、事業性調査等を実施している。
秋田県のインベントリー調査では、シリコン系パネル 1 枚当たりの有価物質の価値や解
体コストが示されている。

アルミニウム:約 240 円

銀:約 1200 円

解体コスト:約 450 円(※収集コストは別途)
106
また、高価なアルミやシリコンはパネルの製造年が新しくなるにつれて減少し、その分
ガラスの割合が増加していく傾向にあるという。
経済産業省は平成 26 年度予算として、太陽光パネルのリサイクル技術に係る予算を計上
しており、技術開発の取組は今後も継続する。
平成 26 年度経済産業省予算

太陽光発電システム維持管理及びリサイクル技術開発
9.0 億円(新規)
 太陽光発電システム全体の効率向上を図るため、周辺機器の高機能化や維持管
理技術の開発を行う。また、廃棄物対策として、大量かつ様々な種類の使用
済み太陽光パネルの処理に係る低コストリサイクル技術の開発を行う。
(出所:経済産業省 「平成 26 年度 経済産業省関係予算の概要」)
(5)平成 25 年度の検討結果
上述した文献情報やヒアリングから得られた情報に基づき、以下のように複数の評価項
目について検討を行い、当該プロジェクトの今後の方向性を見出した。
社会的ニーズ・市場性
【使用済み太陽光パネルの適切な処理・処分は日本にとっての大きな課題】
上述のように、将来的に使用済み太陽光発電設備は大量に排出されることが予想され、
パネルに有害物質や有用金属が含まれることから、適切な処理・処分が行われなければ大
きな社会問題になることは明らかである。そのため、日本は適切な処理・処分を行える体
制を整えておく必要がある。
【民間ベースで取組が始まっておりコスト的にも見合う模様】
(一財)太陽光発電システム鑑定協会の取組のように、既に太陽光発電設備の回収・リ
サイクルサービスを始めているところもある。同協会は、コスト的には十分に見合うとし
ている。
また、秋田県の研究結果では、シリコン系パネル 1 枚当たりで、アルミニウムが約 240
円、銀が約 1200 円、解体コストが約 450 円となっており、収集コストを低減できれば事業
として採算が合う可能性があることがうかがえる。
107
技術進展
【課題解決に向けた技術開発は当面必要であるが、将来的なニーズには不透明感も】
NEDO の委託事業を実施している北九州では、リサイクルの低コスト化、各メーカーによ
って構造・材料が異なるパネルに対応可能な汎用処理技術の確立と実用化に取り組んでい
る。また、経済産業省も平成 26 年度予算で、太陽光パネルのリサイクル技術の研究開発を
行うとしている。これらのことから使用済み太陽光パネルのリサイクル技術の研究開発が
当面求められていることが分かる。
一方で、
(一財)太陽光発電システム鑑定協会のヒアリングでは、民間事業者の持つ既存
技術でリサイクルを行うことは十分に可能であるという見方が示された。また、今後は有
害物質の含有量が少なく、解体が困難なパネルが開発され、市場に投入される傾向があり、
将来的な技術開発の必要性については検討の余地があるとする。同様の意見が「平成 24 年
度むつ小川原開発地区強み活用プロジェクト創出業務」において設置された、創出会議の
委員からも聞かれた。
そのため、現在のシリコン系パネルを効率的かつ低コストで処理するための技術開発は
当面必要であるが、将来的に技術開発の必要性が継続するかという点については不透明な
ところがある。
プレーヤー・地域特性・立地条件
【リサイクル産業の基盤を持つ地域が技術の研究開発に取り組む】
日本国内でこれまでに使用済み太陽光発電設備のリサイクル技術の研究開発に取り組ん
でいる自治体は北九州市と秋田県くらいである。それらの地域は、環境・リサイクル産業
が集積していることで知られている。そのような産業基盤がある地域には、太陽光パネル
のリサイクルに活かせる技術やノウハウを持つ企業が存在するため、リサイクルの研究開
発において優位性を持つ。
また、研究開発を通じて技術が確立された場合、それを事業などに活かしてメリットを
多く享受できるのは、環境・リサイクル産業がすでに集積している地域であると考えられ
る。そのため、環境・リサイクル分野の産業基盤が十分に整っていない青森県が、仮に太
陽光パネルリサイクル技術の研究開発に取り組み、技術が実用化された場合でも、それを
活かしメリットを最大限享受できない可能性がある。
その他
【国の動きの前に自治体が先行して動くのはリスクがある可能性】
北九州市や秋田県などの一部自治体を除いて、大部分の自治体が太陽光発電設備のリサ
イクルに対しては目立った取り組みを行っていない。リサイクルに関する法律が未整備で
108
あること、環境省でガイドラインを策定中であることなどから、自治体が先行して独自に
取組を行うのはリスクが高いと考えているとされる。
北九州市や秋田県のように、技術開発が地域の産業に波及効果をもたらす可能性が高い
場合を除いては、規制環境が整う前に取組を行うのはリスクとなる可能性がある。
総合評価と今後の方向性
【当該プロジェクトの検討は一旦保留】
使用済み太陽光パネルの適切な処理・処分は日本にとっての大きな課題であり、その課
題解決の一助となるリサイクル技術の研究開発を、日本最大級のソーラー基地ともなるむ
つ小川原開発地区で実施し、研究成果を全国に普及させる意義は大きい。
また、既に民間で取組が始められているなど、技術開発後の事業展開についても十分に
可能性が見込まれる。
一方で、リサイクル技術の開発は当面必要であるが、将来的なニーズには不透明感もあ
る。
さらに、国や自治体が専用のリサイクル施設を設置し、公的に事業を展開しない場合、
開発された技術を利用するのは民間の解体・分別事業者、精錬会社等となる可能性が高い。
その場合、実用化された技術はそれらの企業が既に集積している地域(北九州や秋田など)
において最もメリットを生むことになる。また、青森県は環境・リサイクル分野の産業集
積が他県ほど優位でなく、青森県と岩手県境における産業廃棄物の不法投棄問題を多大な
予算を費やしてようやく解決したこともあり、当プロジェクトが妥当かどうかは高度な判
断を必要とする。青森県の行政としても、ガイドラインや法整備を待ってから具体的な取
組を始める方が合理的であると考えらえる。
むつ小川原開発地区では国内最大級のメガソーラーが建設されることになるが、当該地
区に設置された太陽光パネルが適切に処理・処分される必要があり、その課題に対しては
民間のサービスを利用することで対処できる可能性がある。
東北地域というマクロな視点で見た場合には、精錬会社を含む環境・リサイクル分野の
集積がある秋田県において、既にリサイクルに関する研究開発が進められており、同県が
将来的に東日本のリサイクル拠点となる可能性がある。
これらを総合的に考慮した結果、当該プロジェクトについては、むつ小川原開発地区で
取り組む性格のものではないと判断し、現時点で一旦検討を保留することが適切であると
評価した。
109
終わりに
本業務は、平成 24 年度、25 年度の 2 カ年にわたり検討を重ね、平成 24 年度に提案した
4 つのプロジェクトについて、政府、企業、学界等の動向及び専門家の意見を踏まえつつ引
き続きプロジェクト内容の精査を行うとともに、むつ小川原開発地区において実現化に向
けた可能性調査を行ったものである。
調査の結果、検討を継続して進めるべきプロジェクトとして、
「植物工場利用型の薬草栽
培技術研究開発拠点形成プロジェクト」及び「大規模災害対策・防災研究拠点基地形成プ
ロジェクト」の 2 つを、また、
「藻類バイオエネルギー研究開発拠点形成プロジェクト」に
ついては、当該地区の立地条件の適合性とバイオ燃料の市場性等の面からプロジェクト内
容の修正を図った上で検討を進めるべきものと判断した。
「太陽光発電システムと循環型社会の実現に関する実証研究拠点形成プロジェクト」に
ついては、ソーラーパネルのリサイクル処理技術がほぼ確立されてすでに民間が取り組ん
でいる段階にあり、それを推進するために政府が法整備を急いでいること、実証段階から
商業段階に事業のステージが移行していることなどから、当該地区で取り組むべき性格の
ものではないと判断した。
平成 26 年度以降は、これらプロジェクトの実現化に向けて構想の熟度を一層高め、その
ための推進組織を構築するとともに、プロジェクトを牽引することができる人材をプロジ
ェクトリーダーとして起用することが必要である。
また、企業等の参画も不可欠であり、プロジェクトを現実感が伴った精度にするととも
に実現度合いの向上を図ることが必要である。
そうした取組を積み重ねることでプロジェクトの熟度を高め、取組姿勢を明らかにし、
関係機関の連携協力体制を早い時期に構築すべきである。取組体制を明確化することで対
外的なアピールも強化することができ、プロジェクトのステージを高めることが可能とな
る。
今後、プロジェクトを実現していくためには、関係者間の意識・目標が共有化され、統
一されたロードマップを作成し、プロジェクトの実施可能な部分から少しずつ着手、実現
していくことが重要である。
最後に、本業務を進めるにあたってご指導とご協力をいただいた、弘前大学や八戸工業
大学の諸先生方、筑波大学の渡邉先生(藻類バイオ)、東北大学の田所先生(ロボット)
、
大手漢方薬メーカー等の企業、藻類バイオに関する産業界の研究機関、ノーステック財団
(北海道科学技術振興センター)、産業技術総合研究所北海道センター、北海道経済産業局、
太陽光発電システム鑑定協会など、大勢の皆様に御礼を申し上げます。
平成 26 年 3 月
一般財団法人 日本立地センター
110
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