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不正薬物用抗体の作製及び簡易的検出のための抗体標識法に関する研究

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不正薬物用抗体の作製及び簡易的検出のための抗体標識法に関する研究
課題名:不正薬物用抗体の作製及び簡易的検出のための抗体標識法に関する研究
(事後評価)
1.課題の概要(背景及び目標)
不正薬物であると思料される組成不詳の錠剤及び粉体等(以下「不詳物質」という。)を識別
する手法として使用している簡易鑑定試薬については、識別対象薬物ではない一部の物質に対
して陽性反応(以下「偽陽性」という。
)を示すことが知られている。
このため、税関では不詳物質をより正確に識別することができる簡易な検査手法の導入が望
まれている。
こうした中で、抗原抗体反応を利用した抗体の物質認識能力とセンサー技術を組み合わせた
バイオセンサーの研究が進展しており、不正薬物を選択性が高くかつ高感度に識別が可能な税
関の検査装置として応用することができる可能性があると考えられた。
不正薬物を含む低分子物質に対する抗体を作製する一般的な手法として、過去においては主
として「ハプテン‐担体複合体」が用いられていたが、目的とするハプテン(薬物)部分より
も担体(キャリアタンパク質)部分に対して高い結合性を有する抗体ができやすかったため、
結果的に選択性が低くなっていたことから、検査装置に応用するには十分な能力を有していな
かった。一方、近年では抗体作製技術の急激な進歩により、
「ハプテン‐担体複合体」を用いな
い新技術が実用化されている。
以上のことから、関税中央分析所(以下「中分」という。)においては、麻薬、覚醒剤等の不
正薬物の識別に高い選択性を有するハプテン-担体複合体を用いない抗体を作製し、
これを測定
原理として不正薬物を簡易かつ迅速に検出することができる装置を開発するための研究を外部
機関に行わせたものである。
2.本研究の結果概要
平成 24 年度において、蛍光色素によって標識し、特定の不正薬物等(抗原)に選択的に結合
するよう設計した抗体(以下、
「Q-body」という。)及び Q-body の蛍光量の変化を測定するため
の識別装置(以下、
「Q-body 検査装置」という。)を作製した。
Q-body は抗原非存在下では蛍光色素が抗体内に取り込まれているために蛍光発光は微弱で
あるが、抗原が抗体と結合する抗原抗体反応が起きると蛍光色素の配置が変わることにより蛍
光量が変化するものである。
平成 25 年度において、中分における検証として、対象とする不正薬物の識別能力、他の物質
に対する偽陽性についての検証を行った。
また、平成 26 年度において、税関における実証試験として、装置を使用しての性能評価を行
った。
本研究の結果概要については以下のとおりである。
(1)Q-body 及び Q-body 検査装置の作製
ア Q-body の作製
覚醒剤類(以下「覚醒剤」という。
)
、コカイン、アヘンアルカロイド類(以下「アヘンア
ルカロイド」という。
)
、テトラヒドロカンナビノール(以下「THC」という。
)及びケタミン
(以下「識別対象薬物」という。
)に選択的に結合する Q-body を作製した。
イ
試薬セルの作製
不詳物質と Q-body の反応による蛍光量の変化を測定するために、上層に検査試料を溶かす
ためのリン酸緩衝溶液、下層に Q-body を含む少量の溶液を封入した容器(以下「試薬セル」
という。
)を作製した。
試薬セルは、
「覚醒剤用」
、
「コカイン用」
、
「アヘンアルカロイド用」
、
「THC 用」、
「ケタミン
用」及び「スクリーニング用」の 6 種類である。
「覚醒剤用」はメタンフェタミン、MDMA 等を対象としている。「アヘンアルカロイド用」
はヘロイン及びモルヒネ等を対象としているが、個々の薬物を識別することはできない。ま
た、「スクリーニング用」は覚醒剤、コカイン及びアヘンアルカロイド用の試薬セルの機能
を包括したものであるが、個々の試薬を識別することはできない。
ウ
Q-body 検査装置の作製
試薬セル内での Q-body の蛍光量の変化を測定するための Q-body 検査装置を作製した。
重量約 250g、外形寸法約 90(W)×152(H)×31(D)mm であり、カラーディスプレイを
装備しており、操作手順及び測定結果が画面表示される。バッテリーで動作し、連続駆動時
間は 7 時間以上(単三型乾電池 2 本)である。
(2)中分での検証
識別対象薬物に対する識別能力を確認するため、識別対象薬物 14 種、それ以外の規制薬物
14 種及び指定薬物を含む危険ドラッグ 40 種並びに洗剤類、食料、飲料、医薬品、香水等の
一般物質 87 種に対する反応についての検証を行った。
その結果、識別対象薬物について、全てを適正に識別した。
識別対象薬物以外の規制薬物について、簡易鑑定試薬と比較すると偽陽性は大幅に少ない
ものの、覚醒剤用試薬セルでは、向精神薬 1 種及び覚醒剤原料 1 種、アヘンアルカロイド用
試薬セルでは、向精神薬 1 種及び覚醒剤原料 1 種、コカイン用試薬セルでは、麻薬 1 種と、
識別対象薬物以外の一部の覚醒剤原料及び麻薬等に対して偽陽性を示すことが判明した。各
試薬セルを包括しているスクリーニング用試薬セルでも同様である。
また、危険ドラッグ 40 種類に対する反応について検証を行ったところ、覚醒剤用試薬セル
では、識別対象薬物に化学構造が類似する物質 10 種類に偽陽性を示した。スクリーニング用
でも同様である。
一般物質についても、簡易鑑定試薬と比較すると偽陽性は大幅に少ないものの、蛍光性の
着色料を含む入浴剤及びインク等に偽陽性を示す場合があることが判明した。
これらの結果から、識別対象薬物に化学構造が類似する物質及び蛍光性の着色料を含む物
質等に対して偽陽性を示すことが判明した。
なお、識別対象薬物に化学構造が類似する物質に対する偽陽性は個々の Q-body の識別能力
に起因するものであり、蛍光性の着色料を含む物質に対する偽陽性は Q-body 検査装置が
Q-body の反応による蛍光と試料そのものの蛍光を区別することができないことに起因する
ものである。
(3)税関における実証試験
税関の現場において、Q-body 及び Q-body 検査装置を使用しての性能評価を行った。
実証試験においては、蛍光性の着色料を含む物質以外の一般物質についても偽陽性を示す
場合があることが判明した。
実証試験に携わった職員 54 名により、
「装置の起動時間」、
「大きさ・重さ」、
「操作性」、
「バ
ッテリー寿命」
、
「デザイン」
、
「表示内容」、「画面デザイン」
、
「測定時間」及び「測定性能」
の 9 項目について、
「良い」
、
「やや良い」
、
「普通」、
「やや悪い」及び「悪い」の 5 段階で評価
を行った。また、
「装置の配備希望」について、「配備すべき」
、
「必要」及び「必要ない」の
3 段階で評価を行った。
5 段階評価の項目については、
「やや良い」以上の合計が約 3 割以上となったのは 1 項目で
あり、
「普通」以上の合計が 8 割以上となったのは 6 項目であった。一方、「やや悪い」以下
の合計が約 3 割以上となったのは 2 項目であった。また、3 段階評価の項目については、
「必
要ない」が約 7 割であった。
本装置に対する税関職員の評価を総括すると、概ね低い評価であったことが確認された。
なお、実証試験における本装置に対する意見を集約したところ、偽陽性に対して否定的な
意見が多く、改善が必要な事項等として、識別能力が十分ではない点、個別の薬物の識別が
できない点及び操作手順が煩雑な点等複数の課題が挙げられた。
(4)中分及び税関における検証により把握した課題
平成 27 年 4 月 1 日より、
指定薬物が関税法上の輸入してはならない貨物になったことから、
不正薬物をより一層厳密に識別するための手法が必要となっている。
Q-body の識別能力に加えて、
Q-body 検査装置についても蛍光性の着色料を含む物質への対
策、操作手順の簡素化等複数の改善を要する課題があり、これらが解決されなければ、税関
の検査装置として使用することは困難であると考えられる。
3.自己点検
(1)必要性
現在、税関においては、不詳物質を識別する手法として簡易鑑定試薬を使用しているが、
一部の物質に対して偽陽性を示すことから、不詳物質をより正確に識別することができる検
査手法の導入が望まれている。
このため、不詳物質をより正確に識別することができる識別手法の研究を行う本研究は必
要であった。
(2)効率性
本研究は、Q-body 及び Q-body 検査装置の作製は専門知識及び作製技術を有する外部機関
が行った。
また、識別能力の検証は規制薬物の標準品を保有しており、性能評価を行うための知見、
環境及び能力を有する中分が行い、実証試験は実際に検査装置を使用する現場である税関に
おいて行ったことから、本研究は効率よく行われた。
(3)有効性
本研究は、一部の物質に対して偽陽性を示す簡易鑑定試薬の課題に対し、不詳物質をより
正確に識別することができる検査手法を導入することを目標としており、Q-body 及び Q-body
検査装置を作製し、中分における性能評価及び税関における実証試験を行い、その性能につ
いて検証を行ったうえで、識別能力を評価したことから有効であった。
一方、指定薬物が新たに輸入してはならない貨物になった現状において、税関の検査現場
における識別においても、個々の不正薬物に対してより厳密な識別能力が求められることと
なり、Q-body を簡易鑑定試薬に替わる検査手法とするには識別能力が十分なものではない。
また、Q-body 検査装置についても、個別の薬物の識別ができない点及び操作手順が煩雑な
点等複数の改善を要する課題があり、Q-body の識別能力を含めて解決すべき課題が多いこと
が判明した。
このため、不詳物質をより正確に識別することができる検査手法を導入するという目標の
達成面においては有効ではなかったと評価する。
4.外部専門家評価
本研究は、簡易鑑定試薬に替わり、不詳物質をより正確に識別することができる検査手法の
導入についての研究を行ったものであるが、Q-body は識別対象薬物を適正に識別し、簡易鑑定
試薬と比較すると、偽陽性が少ないことが確認された。
他方、指定薬物が輸入してはならない貨物となったことから、より多くの種類の不正薬物に
対してより厳密な識別能力が求められることとなり、現状においては、Q-body を簡易鑑定試薬
に替わる検査手法とするには識別能力が十分ではないことも判明した。
以上により、本研究については、必要性、効率性及び有効性が認められる。
なお、不詳物質をより正確に識別することができる検査手法を導入するという目標を達成で
きなかったことから、抗体を用いて不正薬物を正確に識別する検査手法の研究を終了すること
が適当である。
但し、民間におけるバイオセンサー技術の研究及び産業利用の状況、抗体作製技術の進歩を
踏まえると、今後においても研究機関及び産業界における動向の把握及び情報収集を継続して
いくことが適当である。
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