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携帯型薬物検査装置の利用可能性及び拡張性の調査 (事後評価)

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携帯型薬物検査装置の利用可能性及び拡張性の調査 (事後評価)
課題名:携帯型薬物検査装置の利用可能性及び拡張性の調査
(事後評価)
1.課題の概要(背景及び目標)
近年、取締対象となる薬物が多様化しており、旅客携帯品及び国際郵便物等の税関検査にお
いては、貨物の内容物に組成不詳の錠剤及び粉体等(以下「不詳物質」という。)が含まれてい
る場合があり、これらを識別するためには詳細な分析が必要となる場合がある。
この際、分析を行うためにその一部を消費することから、輸入者の了解を得る必要があり、
また、分析の結果を得るまでには相応の時間を要することになる。
このため、税関では組成不明物質を現場で簡易、迅速かつ非破壊で識別することができる検
査装置の導入が望まれている。
関税中央分析所(以下「中分」という。
)では、平成 23 年度において、ラマン分光法を用い
た液状薬物探知装置についての委託研究(以下「平成 23 年度研究」という。)を行った。
平成 23 年度研究においては、
ラマン分光法は液状薬物の識別には有効であることが判明した。
しかしながら、密輸手口の悪質巧妙化により、税関の現場においては液状ばかりではなく錠剤
や粉体に対しての識別能力が求められるようになった。
こうした中で、簡便な操作で包装された物質を非破壊で識別することが可能なラマン分光法
を用いた携帯型薬物検査装置が開発、実用化されており、税関の検査装置として転用できる可
能性があると考えられた。
ラマン分光法は入射光の振動数ν 0 に対して分子振動の振動数νだけ振動数がシフトしたラ
マン散乱光(振動数ν 0 -ν)を観測する手法である。入射光及びラマン散乱光ともに可視から
近赤外の波長の光であり、透光性があるプラスチックやガラスの包装及び容器を透過できるた
め、これらの包装及び容器内の物質を未開封で識別することが可能である。
以上のことから、携帯型薬物検査装置の利用可能性及び拡張性に関する調査を行うため、携
帯型ラマン分光装置を調達し、中分における検証及び税関における実証試験等を行ったもので
ある。
2.本調査の結果概要
平成 26 年度において、不詳物質を現場で簡易、迅速かつ非破壊で識別することができる可能
性のある携帯型ラマン分光装置を調達した。
中分における検証として、多数の薬物及び一般物質の識別能力、混合物の識別能力、測定時
間、レーザー照射による試料の燃焼の可能性、ライブラリの拡張性についての検証を行った。
また、税関における実証試験として、装置を使用しての性能評価を行った。
本調査の結果概要については以下のとおりである。
(1)装置の概要
重量約 600g、外形寸法約 163(W)×105(H)×55(D)mm であり、カラーディスプレイ
を装備しており、操作手順及び測定結果が画面表示される。内臓バッテリーで動作し、連続
駆動時間は 10 時間以上である。
主な仕様は、レーザー光源の波長 785nm出力 250mW、分解能 7~10.5cm-1、スペクトル領域
250~2875 cm-1である。
(2)中分での検証
ア
多数の規制薬物及び一般物質の識別能力
本装置のライブラリに登録されている麻薬、覚醒剤等及び指定薬物等(以下、「規制薬物」
という。
)52 種並びにビタミン C、カフェイン及びスクロース等の一般物質 81 種の識別能力
について検証を行った。測定は主に透光性があるプラスチック容器及びガラス容器内の物質
について容器の外側から行った。
その結果、規制薬物 52 種について、1 種を除く 51 種を適正に識別した。
当該 1 種については、照射したレーザーによる当該物質の蛍光波長がラマン散乱光の波長
に重なってしまうことから識別することは難しかったが、本装置のオプションとして用意さ
れている表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)のキットを用い
て測定した結果、適正に識別した。なお、本キットを使用する場合には、測定を行うために
試料の一部を消費する必要がある。
また、一般物質 81 種について、全てを適正に識別した。
これらの結果から、本装置は透光性があるプラスチック容器及びガラス容器内の様々な規
制薬物及び一般物質を非破壊で適正に識別することができる性能を有することを確認した。
イ 混合物の識別能力
本装置においては、2 種類の規制薬物が混合されている場合には、これらの同時識別が可
能となっている。また、規制薬物と一般物質が混合されている場合には、規制薬物の測定結
果が優先的に表示される仕様となっている。
本装置により、規制薬物 2 種の混合物及び規制薬物と一般物質の混合物を測定したところ、
適正に識別した。
これらの結果から、本装置は規制薬物の混合物を適正に識別することができる性能を有す
ることを確認した。
ウ 測定時間
本装置の測定時間は概ね数秒から 2 分程度である。
本装置はラマン散乱光の信号強度の積算値が一定の値に到達するまで測定が行われるため、
試料によって測定時間が異なる。
測定対象物が黒色系のガラス瓶等の中にある場合には、光が瓶に吸収されてラマン散乱光
の信号強度が小さくなるために測定時間は長くなる傾向があり、測定時間が 2 分を超える場
合には、最終的に識別できないことが多いことを確認した。
エ
レーザー照射による試料の燃焼の可能性
測定対象物又はその容器が黒色系、青色系、緑色系及び茶色系の濃い色であって、粉末、
紙及びプラスチック等の素材である場合には、レーザー照射によって焦げることがあること
を確認した。
また、コーヒー豆、茶葉及び一味唐辛子等の植物性生産品である場合にも、レーザー照射
によって焦げることがあることを確認した。
オ ライブラリの拡張性
本装置は使用者によるライブラリへのデータ追加ができない仕様となっており、新たなデ
ータの追加については、新規物質の流通及び使用者からの要望等を踏まえて製造元が更新を
行っている。
規制薬物の登録数としては、2013年が77件であったのに対し、2014年は120件となっている。
ライブラリは毎年拡張されてはいるが、使用者によるデータ追加ができないため、即応性
には劣る面がある。
(3)税関における実証試験
税関の現場において、本装置を使用しての性能評価を行った。
実証試験においても、規制薬物及び一般物質を適正に識別している。
実証試験に携わった職員73名により、
「装置の起動時間」、
「大きさ・重さ」、
「操作性」
、
「バ
ッテリー寿命」
、
「デザイン」
、
「表示内容」、「画面デザイン」、
「測定時間」及び「測定性能」
の9項目について、
「良い」
、
「やや良い」、
「普通」、
「やや悪い」及び「悪い」の5段階で評価を
行った。また、
「装置の配備希望」について、
「配備すべき」
、
「必要」及び「必要ない」の3
段階で評価を行った。
5段階評価の項目については、
「やや良い」以上の合計が約3割以上となったのは全項目であ
り、
「普通」以上の合計が8割以上となったのは8項目であった。一方、
「やや悪い」以下の合
計が約3割以上となったのは1項目であった。また、3段階評価の項目については、「必要」以
上の合計が約8割であった。
本装置に対する税関職員の評価を総括すると、概ね高い評価であったことが確認された。
なお、実証試験における本装置に対する意見を集約したところ、特に評価の高かった意見
として、測定対象物の一部を消費することなく非破壊で測定が可能なことであった。
他方、改良されることが好ましい事項等として、レーザー照射により燃焼する試料には使
用できない点、黒色系のガラス容器等試料によっては測定時間が長くなる点、使用者による
ライブラリへのデータ追加ができない点等複数の課題が挙げられた。
3.自己点検
(1)必要性
現在、税関検査においては、不詳物質を識別するために詳細な分析が必要となる場合があ
り、分析を行うためにその一部を消費することから、輸入者の了解を得る必要がある。
また、分析の結果を得るまでには相応の時間を要していることから、不詳物質を現場で簡
易、迅速かつ非破壊で識別することができる検査装置の導入が望まれている。
このため、不詳物質を現場で簡易、迅速かつ非破壊で識別することができる携帯型の薬物
検査装置の利用可能性等の調査を行う本調査は必要であった。
(2)効率性
本研究は、平成 23 年度研究における知見及びこれを踏まえた基礎調査により得られた情報
を裏付けとして実施した。
既に民間において実用化されている装置の税関への導入を検討するのにあたり、過去にお
ける研究の成果を活用することにより、その利用可能性等について検証を行うことは適切で
ある。
また、識別能力の検証は、規制薬物の標準品を保有しており、性能評価を行うための知見、
環境及び能力を有する中分が行い、実証試験は実際に検査装置を使用する現場である税関に
おいて行ったことから、本調査は効率よく行われた。
(3)有効性
本調査は、税関の現場で不詳物質を識別することができる検査装置の導入をするという課
題に対し、携帯型薬物検査装置の利用可能性等について調査を行うことを目標としており、
その目標を達成したことから、有効な調査であったと評価する。
また、本装置が税関の現場に導入されることとなれば、不詳物質を識別するための時間の
大幅な短縮によって、
迅速な通関が図られることから、
本調査の波及効果は高いものである。
4.外部専門家評価
本調査は、税関の現場において不詳物質を簡易、迅速及び非破壊で識別することができる携
帯型の薬物検査装置の利用可能性等についての調査を行ったものであるが、
本装置が規制薬物、
一般物質及び混合物の識別能力を有するなど、税関の検査装置としての性能を有していること
が確認された。
ライブラリの拡張性について即応性に劣ること、レーザー照射により燃焼する試料には使用
できないこと等の課題を抽出し、また、税関の現場における実証試験を行い、その結果に基づ
くアンケート調査により、税関職員の評価を把握したうえで、本装置の実用化の可能性の評価
を行っている。
また、本研究は、過去の研究における知見を活用することによって、短期間で成果を得るこ
とができている。
以上により、本調査については、必要性、効率性及び有効性が認められる。
なお、本調査により抽出された上記課題の解決に向けて、今後においても国内の研究機関及
び産業界における動向の把握を行うとともに、世界税関機構及び各国税関等とのネットワーク
を活用し、有効な情報収集を継続していくことが適当である。
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