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SAMPLE - 日経BPクリーンテック研究所
世界水素インフラプロジェクト総覧 世界水素インフラプロジェクト総覧 エグゼクティブサマリー 「水素社会」への扉は開くか 「水素社会」への扉は開くか 水素を 2 次エネルギーとして社会全体に流通させる「水素社会」への期待が高まっている。水 素社会が到来すると言われて久しいが、今度こそ本物ではないかと期待されている理由は、水素 の用途(図 図 1)、製造法(図 図 2)共に多様化し、拡大する機運を見せているためである。 用途については、現時点では工業用途や定置用燃料電池(家庭用・業務)程度だが、スマート コミュニティや業務用はデータセンターや工場まで広がり、発電所としての可能性も広がる。後 続距離が長い燃料電池車(FCV)の優位性が再認識され、日米欧の自動車メーカーが 2015 年から FCV の発売に踏み切り、そのための水素ステーションなどのインフラ整備計画も発表された。再 生可能エネルギーの大量導入が着実に進むにつれて、電力網の需給バランスを維持する必要が出 てきて、大容量の電力を長期間貯められる水素ストレージへのニーズも高い。CO2 フリー水素を 使ったゼロエミッションタイプの火力発電の用途も 2030 年以降は拡大すると期待される。 水素製造については、現在は副生水素や化石燃料の改質が中心だが、海外の天然ガス田や炭田 で水素を製造すると共に CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)で CO2 フリーにして、液化 やハイドライドに固定して水素を輸送するモデルが提唱されている。また、再生可能エネルギー の電力から水の電気分解で CO2 フリー水素を製造するプロジェクトも活発化している。将来的に は太陽エネルギーから直接水素を製造する研究開発も活発化している。 図 1 多様化する水素用途 (作成:日経 BP クリーンテッ ク研究所) 図 2 多様化する水素製造 方法(作成:日経 BP クリー ンテック研究所) 2 Copyright © 2013 Nikkei BP, Inc. All rights reserved 世界水素インフラプロジェクト総覧 世界水素インフラプロジェクト総覧 エグゼクティブサマリー 70 プロジェクトとシナリオ分析 水素社会へのシナリオを分析するために、現在進行している世界の水素インフラ関連のプロジ ェクトを広く調査したところ、代表的なものは 70 プロジェクトを数えた(表 表 1、次ページ)。国・ 、次ページ 地域別に見ると、米国 16、カナダ 5、欧州 24、中国 7、日本 13 となった。先進国で多いのは、2050 年までに先進国全体の CO2 排出量を 80%削減する合意があるからである。 特に先進国では、燃料電池車(FCV)と定置型燃料電池の用途が広がる。各国の自動車メーカー が一斉に 2015 年以降に FCV を本格市場投入すると発表、各国で水素ステーションのプロジェクト が本格化している。定置型燃料電池は工場などに普及すると共に、分散電源として、1 万 kW 前後 の燃料電池発電所の設置も始まっている。 再生可能エネルギーの大量導入も始まっており、特に欧州では将来を先取りするように、風力 の余剰電力による基幹送電線への悪影響を軽減する必要に迫られ、余剰電力で、水を電気分解し て水素を製造し、天然ガス(メタン)やバイオガスに混ぜて利用するプロジェクトが始まってい る。水素燃料の究極的な姿が火力発電所向けである。天然ガスと水素の混合燃料を使ったタービ ンを使う方法から始まり、将来的には 100%水素を使うタービンによる火力発電が可能になる。 水素として使うだけでなく、そこからメタンを作ったり、液体化学燃料をつくろうという動きも 出てきた。CO2 フリーの水素を使えば、天然ガスなどのインフラを使ったまま CO2 フリー化でき ることから有望視する向きもある。 もう一つ注目されるのは、天然ガス田や炭田で CCS を介して水素を製造するプロセスが 2030 年 以降に拡大してくことである。CO2 フリー水素が安価に大量供給できる可能性を秘めている。欧 米では域内で製造するが、日本の場合は海外で製造して輸入するグローバルな水素チェーンを構 築しようとしている。本レポートでは、将来の産業、家庭、自動車部門のエネルギーシステム構 成ごとに水素エネルギーがどのような流れになるかを各国ごとに見ている。図 図 2 はその典型とし て米国における 2030~2050 年におけるエネルギーシステム構成の姿を示した。 図 3 北米における 2030 ~ 2050 年の各部門のエ ネルギーシステム構成 他の先進国でもほぼ同 じだが、欧州では地域熱 供給が普及し、日本では 前分離 CCS が海外で実施 される(作成:日経 BP クリーンテック研究所) 3 Copyright © 2013 Nikkei BP, Inc. All rights reserved 世界水素インフラプロジェクト総覧 世界水素インフラプロジェクト総覧 エグゼクティブサマリー 表 1 世界の主要水素インフラプロジェクト 70 国・地域 米国 (1)Electrofuels プログラム、(2)カリフォルニア燃料電池パートナーシップ、(3)カリ フォルニア水素ハイウェイ・ネットワーク、(4)FuelCell Energy 社燃料電池・電力・ 水素サービス、(5)Bloom Energy 社燃料電池・電力サービス、(6)GM プロジェクト・ド ライブウェイ、 (7)サンフランシスコ FC バス デモンストレーション、 (8)トヨタ・ パイプライン型水素ステーション、(9)再生可能水素による水素ステーション試験、 (10) 家庭用ソーラー水素ステーション実証実験、(11) オハイオ州 Fisrt Energy プロ ジェクト、(12) 中継局バックアップ電源プロジェクト、(13) 燃料電池式フォークリ フト導入プロジェクト、(14) ハワイ水素利用プロジェクト、(15) 燃料電池パーク、 (16)Solid State Energy Conversion Alliance 計画 カナダ (1) HARP(Hydrogen Assisted Renewable Power)プロジェクト、(2) BC Tranist FC バス デモンストレーションプロジェクト、(3) ハイブリッド燃料電池発電プラント、 (4) 燃料電池式フォークリフト導入、 (5)トリジェネレーション計画 欧州 (1) 北海パワー・ツー・ガス・プラットフォーム、 (2)DESTA プロジェクト、(3) ecoisland、(4)仮想発電所プロジェクト、(5)ロラン島水素ストレージプロジェクト、 (6)プレンツラウ風力水素プロジェクト、(7)アウディ e-gas プロジェクト、(8)CEP (Clean Energy Partnership) 、(9)H2 Mobility、(10)Solar Fuel、(11)ベルリン空港 CO2 フリープロジェクト、(12)風力水素・蓄エネルギープロジェクト、 (13)風力向け 水素ストレージプロジェクト(RH2-WKA)、(14)NEMO ネットワークイニシアチブ、 (15)Greenpeace Energy 社・パワー・ツー・ガス、(16)Eon 社・パワー・ツー・ガス、 (17)グリセリン改質プロジェクト、(18)EuWak 社・下水汚泥由来水素プロジェクト、 (19)h s energieanlagen 社・下水汚泥水素プロジェクト、(20)HyCologne プロジェク ト、(21)MYRET プラットフォームプロジェクト、(22)ハイドロジェン・パーク、 (23)Environment Park、(24)green valley of Europe、 中国 (1)北京水素ステーション、 (2)上海安亭水素ステーション、(3)北京オリンピック 水素ステーション、(4)上海万博水素ステーション、(5)深セン・ユニバーシアード水 素ステーション、(6)広州アジア大会・水素充填施設、 (7)副生水素精製プロジェク ト 日本 (1)CO2 フリー水素チェーン構想、(2)「SPERA 水素」サプライチェーン事業、(3)トヨ タ自動車 FCV 量産プロジェクト、(4)ソーラー水素ステーション、(5)水素タウンプロ ジェクト、(6)水素ハイウェイプロジェクト、 (7)北九州スマートコミュニティ創造 事業、 (8)燃料電池社宅、(9)「Smart Melit」プロジェクト、 (10)ブルーチャレン ジプロジェクト、(11)マグ水素(MgH2)事業、(12)関西国際空港・スマート愛ランド 推進計画、(13)水素吸蔵合金・冷水製造システム その他 (1)マイクロコージェネ・プロジェクト(オーストラリア) 、(2)サー・サミュエル・ グリフィスセンター(オーストラリア)、(3)HySA プロジェクト(南アフリカ)、(4) 燃料電池パーク(韓国) 、(5)ウインドパーク・プロジェクト(アルゼンチン) 4 Copyright © 2013 Nikkei BP, Inc. All rights reserved 世界水素インフラプロジェクト総覧 世界水素インフラプロジェクト総覧 エグゼクティブサマリー 市場ポテンシャル ・水素インフラ市場は 2050 年に 160 兆円 世界の水素インフラの 70 プロジェクトの動向分析と未来を予測するシナリオ分析の結果を基 に、水素インフラの構成要素である燃料電池車、水素ステーション、定置型燃料電池、水素発電 所、水素基地やパイプラインなどの周辺インフラについて、世界全体の市場を積算して求めた。 単年で 2015 年に約 7 兆円程度だったのものが、2050 年には 160 兆円にもなると予測した(図 図 1)。 項目別に見ると、2015 年は供給水素基地やタンクローリーなどの周辺インフラが多く、用途とし ては定置型燃料電池がほとんどだ。その後、燃料電池車がエコカーの主流として販売台数を伸ば し、2030 年からは水素発電所が増え始め、それらを支える周辺インフラの市場も拡大する。 国・地域別に見ると、欧米市場が市場をけん引する(図 図 2) 。特に、欧州が高い CO2 削減目標を 持っていることから、再生可能エネルギーと共に水素インフラへの投資を活発化させる。日本市 場は、欧米に比べると市場そのものは小さいが、水素インフラの普及率は高い。中国など新興国 市場は、CO2 削減目標はまだないものの、中国のように水素ステーションを積極的に導入する国 も現れており、2020 年以降は世界をけん引する大市場となっていくだろう。 (兆円) 180 160 140 120 周辺インフラ 100 水素発電所 定置型燃料電池 80 燃料電池車 図 1 項目別水素イン 項目別 水素イン 60 フラ市場(作成:日経 フラ市場 40 BP クリーンテック研究 20 所) 0 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年 (兆円) 180 160 140 その他 120 北米 100 欧州 80 インド 60 中国 図 2 地域別水素イン 地域別 水素イン 日本 フラ市場(作成:日経 フラ市場 40 BP クリーンテック研究 20 所) 0 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年 5 Copyright © 2013 Nikkei BP, Inc. All rights reserved