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解説4 自動車用軸受の最新技術動向
特集 小型・軽量・高速化を実現! 機械の性能を高める軸受・案内要素の最前線 解説 4 自動車用軸受の最新技術動向 ジェイテクト 河村 基司* *かわむら もとし:軸受事業本部 軸受技術部 部長 1.はじめに 2.自動車用軸受を取り巻く環境 60 年の節目を迎えたことも話題となった東京 自動車の規制は,主に地球温暖化に対応する モーターショー 2015 も盛り上がりの中幕を閉じ CO2 規制と大気の汚れに対応する排ガス規制があ た。多くの新しい技術に感動し車の未来にわくわ る。世界各地の道路環境もあいまって,これら規 くした方も大勢おられたものと思う。各社が注力 制をクリアするためにさまざまな技術が開発され, していたのは,不注意や高齢化による能力低下な 市場投入されている。 どその原因の 9 割が人のミスとされる交通事故を 日本では市街地走行時の燃費向上効果が大きい なくすための自動運転や運転支援機能,これとあ HV が,欧州では国を跨いだ長距離移動も多く, る意味対極にも位置づけられる,走る楽しみを追 優遇税制による安価な軽油価格もあり,ディーゼ 求したスポーツカー,さらに両者の動きも包み込 ルやダウンサイジングエンジン+ターボが多い特 む環境問題への対応技術が挙げられるのではない 徴がある。また,北米では安価なガソリン価格と だろうか。 比較的緩い燃費規制,規制値の基準となる車両区 世界的な自動車生産台数の増加に対応して地球 分が重量でなく投影面積であることなどから,軽 環境保全のための規制も強化の一途を辿っている。 量化は進めるが大型車が多いと言った特徴がある。 我々軸受メーカーは世の中の回転を支え,そのエ ただし,大気汚染に悩むカリフォルニア州では ネルギーロス低減に貢献して来たと自負している ZEV 規制により EV⊘PHV⊘FCV の販売台数を義務 が,さらに厳しくなる環境規制へ対応して行くこ 化しており,今後の環境規制の方向性を示してい とを社会的責務と捉え,さまざまな技術開発を行 ると言われている。また中国でも大気汚染問題は っている。 深刻で国を挙げた EV⊘PHV の流れが,さらに CO2 今回,自動車の燃費向上に貢献できる技術を中 低減のためにディーゼルエンジン比率を高めて来 心に,走る楽しみに貢献できる技術と東京モータ た欧州でも,悪化する大気汚染問題に対応するた ーショー 2015 で好評を得た技術を併せて紹介す めに PHV の動きが活発化している。 る。 上記より,自動車の大きな技術動向としては電 動化の流れにあると言えよう。EV や FCV に代表 されるパワーユニットとしての電動化と,当分の 間は大多数を占めるエンジン活用車における徹底 第 60 巻 第 1 号(2016 年 1 月号) 35 的なエンジン効率向上のための電動化。これに加 持器材料の耐熱性向上を実施,さらにセラミック え,先進国では環境に優しいだけでなく,走る楽 ボールを採用したターボ用玉軸受を 98 年に世界 しさや車を所有しライフスタイルを変える事も大 で初めて実用化した(図 1) 。また最近では,さら きな価値と認められつつあり,このような満足感 なるターボ効率向上のために電動タイプの過給機 を提供出来る技術開発も必要となっていると考え も検討されており,急激な加減速回転に対応でき られる。 る軸受が求められている。 その他のエンジンの燃費向上技術としては,可 変バルブシステムが挙げられる。このシステムに 3.自動車用軸受の技術動向 はバルブのタイミング可変とストローク量可変の このような自動車の技術動向に対応し,軸受も る。軸受は電動アクチュエータの主軸や減速ギヤ 得意の低トルク化技術に磨きをかけ,また小型軽 部に使用されており,低トルク⊘高剛性⊘小型化が 量化技術の開発を進めて来た。さらに CO2 規制や 必要とされる。ジェイテクトはその必要性能に対 排ガス規制に対応する新機構への技術開発を行っ 応するため,高剛性な軸受内部設計や耐油性に優 ており,これらの取組みを以下に述べる。 れる樹脂保持器,清浄度を向上した長寿命材料を 2 種類があり,両システム共に電動化が進んでい 織込んだ軸受を開発し量産化している(図 2) 。 3⊖1.パワートレーン用 補機を活用した燃費向上技術としては,始動⊘ 欧州から始まったガソリンエンジンのダウンサ 発電⊘動力アシストを目的とした ISG(Integrated イジングが,最近では国内でも進められ,すでに Starter Generator)が量産化されており,その主 量産化されている。このダウンサイジングには, 軸支持用として 2 個の玉軸受が使用されている。 ターボチャージャ(以下、ターボ)による過給技 軸受の要求性能としては,オルタネータ用として 術が必須である。また,従来からディーゼルエン 必要な性能(高温高速耐久性,耐振動剥離性,耐 ジンにもターボが使用されているが,CO2 や排ガ 水性,低トルク性)に加えてアイドルストップで ス規制対策としてターボ効率の向上が必要となっ の頻繁な始動や長期耐久性を加味した軸受設計が ており,その流れに対応したタービンシャフト支 必要となる。ジェイテクトは独自の高性能グリー 持部への転がり軸受採用が拡大している。 スや高密封シール,低トルク保持器開発により ターボ用軸受は,超高速(MAX20 万回転),高 ISG の優れた性能に貢献している(図 3)。 温(MAX350℃)の非常に過酷な条件で使用される。 ジェイテクトは軸受内部の最適設計や軌道輪/保 3⊖2.ドライブトレーン用 電動化の流れにおいて現時点で最も影響を受け ているのは変速機構ではないだろうか。コンベン 吸気 排気ガス コンプレッサ側 タービン側 転がり軸受 ※東京モーターショー2015 出展 図 1 ターボ転がり化構造例 36 従来品 開発品 ※東京モーターショー2015 出展 図 2 電動可変バルブ用軸受 機 械 設 計