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大問題となってきた海洋油・ガス生産施設廃棄
大問題となってきた海洋油・ガス生産施設廃棄 −プラットフォーム撤去規制が経済性と将来の生産能力を左右− 企画調査部 技 術 部* 石油関連の環境問題としてはCO2や汚染物質の排出があるが,石油・天然ガスの上流部門で は海洋生産プラットホームの撤去問題(いわゆるdecommissioningの問題。以下「撤去」とい う。 )が顕在化してきた。個々の既存上流プロジェクトの経済性に大きな影響を与え出しただけ ではなく,将来の海洋油・ガス田開発投資,そして,特に北海油田の生産能力に与える影響が 懸念される事態となってきている。 RD/Shell社が保有していた北海のBrent Spar生産施設の海洋投棄案が,95年に国際環境NGO のグリンピースによって阻止されて以来,北海では関係政府が従来よりも格段に厳しい撤去規 制を採用するようになった。北海での新しい規制が世界の他の地域に波及する可能性が高くな ってきており,アジアや中東等でのオペレーター案件,また北海等でのノン・オペレーター案 件をもつ日本の上流業界にとっても極めて重要な問題となる可能性が出てきた。 同時に,撤去に関するリスクやコストを軽減する新たな保険制度や新技術も開発されつつあ る。 本レポートでは,重大化する本問題に関して,最新の規制・技術及び今後の見通しについて, 英国の専門コンサルタント会社の4Rs Decommissioning Consultantsに調査依頼を行いレポート として取りまとめた。3部構成となっており,Ⅰ部は撤去関連規制と上流事業への影響,そし て,Ⅱ部及びⅢ部はプラットホームやその関連施設の撤去に関する技術トレンドを解説してい る。 部 世界の海洋生産施設の撤去関連規制と上 流事業への影響 設は40年代に建造されたものであり,すでに 1000以上になっているが,施設の全部または一 部に手を加えて生産施設として再利用・販売で きる場合には,撤去事業は利益の大きい事業と はじめに なりうる。推計では世界全体での撤去費用は 世界には53カ国の大陸棚に約7000カ所の石 油・ガス海洋生産施設があり,そのうちアメリ 600億ドルから800億ドルに上り,そのうちの カのメキシコ湾に4000以上,アジアに900,中 ヨーロッパ海域では北海南部の英国沖合で35 カ所撤去されている。いずれも小規模,軽量の 東に700,北海と北東大西洋に600あるといわれ ている。明確な数字は国際石油・ガス製造業者 協会(OGP)により近く発表される予定であ る。これら海洋生産施設は使用されなくなった 65%は北海に集中しているとみられる。 鉄鋼構造物で,しかも比較的浅海地域にあった。 すべて当時の法規制に基づき完全撤去され,再 ら,環境保護に責任をもった方法で撤去されな 利用ないし廃棄された。 しかし,これからは海流の激しい深海に設置 くてはならない。これまでに撤去された生産施 されている重量級の鉄鋼・セメント構造物が撤 * 部 及 び 部 は ( 現 地 質 調 査 部 ) 石 川 正 紀 ( E-mail : [email protected])が担当した。 去の時期を迎える。それらの多くは北海北部, スコットランド沖とノルウェー沖にあり,残り ― 73 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 がカリフォルニア沖とメキシコ湾にある。 撤去にあたって考慮すべき点は,①法的枠組, 海洋生産施設に関する国際的な枠組みと協定 ②世論,③環境と安全性,④技術,⑤経済的側 ①ジュネーブ協定(1958年成立) ジュネーブ協定の第5条では海洋生産施設の 面である。さらに政治的な配慮も必要となる。 完全撤去をうたっているが,本協定は深海での なかでも現在では,世論が重要な要素となって 施設の建造が始まる以前に取り決められたもの いる。特に,1995年のRD/ShellのBrent Spar 問題を契機としてグリンピースの台頭が目立 である。現在の基準は,同協定を基礎とする初 ち,この年までは撤去については誰も関心を示 ②UNCLOS(国連海洋法条約) 期の協定から進展したものである。 していなかったがこの年を境にして撤去に関す る環境が大きく変化した。1995年以後,グリン ピースの世論形成力が高まり,国際基準の策定 や北海,カリフォルニアでの事業行為に監視の ジュネーブ協定に代わり,1982年に成立した。 第60条 でIMOの基準を満たした場合,一部 のみの撤去を許可している。 目を注がれるようになり,関係各国政府にも圧 ③IMO(国際海事機関) (本部−ロンドン) 大陸棚と排他的経済海域での海洋施設と構造 力をかけられるようになった。それまでの30年 物の撤去に関する1989年のIMO指針では,次 間はIMO(国際海事機構)の基準に基づき撤 去が規制されていたが,それは海上部分の撤去 の諸点を定めている。 ・海面上に突出している施設または構造物及び に限定した義務であり,かなり穏当なものであ った。しかし,北西大西洋を範囲とする現行の その一部を適切に管理する。 ・航行の安全をはかるため,一部撤去した施設 OSPAR(Oslo-Paris Commission 北西ヨーロ の残骸の上部と水面との間に最低55メートル ッパ沖合の汚染防止に関する欧州15カ国の政府 を確保する。 ・設置地点,測量深度,全面撤去していない施 間会議。1998年7月,当該地域での海洋投棄の 全面禁止,鉄鋼プラットフォームの完全撤去を 基本原則とする条約に合意。1999年2月9日発 効。)条約は海底部分までの完全撤去を義務付 けるようになり,技術的に困難な問題に挑むこ とになるし,コスト面の大幅上昇を引き起こす ことにもなる。他の地域での協定においても今 設の規模を海図に明記し,必要な場合には, 残骸についても航行補助具つきの適切な標識 をつける。 ・航行補助具の管理責任者ならびに残骸状況の 監視責任者を明確にする。 ・将来発生しうる損害に対応する賠償責任につ いて明確にしておく。 後この厳しいOSPAR協定に追随する可能性は 大いにあると思われる。 以下,今後の撤去にあたって考慮すべき諸点を ・1998年1月1日以降に設置するものについて 検討していく。 ・OSPAR条約の撤去例外条項が適用される場 は,設計の段階で完全撤去を想定し製造する。 合には,IMOの指針と基準が適用される。 ④ロンドン(海洋投棄)協定 海洋投棄その他による汚染の防止に関して 1.法的枠組 撤去に関する国際法には以下のようなものが ある。撤去でも設備を他の場所に移動するもの 1972年に成立したIMOの協定であり,73カ国 が批准している。海洋投棄の対象となる廃棄物 と廃棄するものとでは別の基準が適用される。 等の新査定指針案が2000年秋までに作成される 両方とも重なる部分があるが,移動については, ことになっている。 航行の安全と海洋の他の利用者との関係に関連 する法律・協定等が適用され,施設の廃棄につ いては環境汚染の防止に関する法律・協定等が 地域協定 国際的な法的枠組の他に,各地域ごとに廃棄に 適用される。 関する協定がある。(東南アジア,上部南西大 西洋,北西太平洋,北東太平洋,北極海にはな 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 74 ― い。)ただし,油・ガス海洋生産施設の撤棄に 設を設置してある大陸棚の領有国にあるが,他 ついて規定している地域協定は北東大西洋,グ のOSPAR調印国と大幅に異なる方針をとるわけ リーンランド沿岸から欧州大陸の西岸まで,北 にはいかない。1998年のOSPARポルトガル閣僚 極海からジブラルタルまでを範囲とする 会議に出席した環境担当大臣は,2003年開催予 定の次回会議で例外条項をさらに厳しくするこ OSPAR条約だけである。 <OSPAR条約とは> OSPAR条約は,船舶からの廃棄物に関する とを目指して1998年3月の決定事項を見直すこ とに合意した。英国とノルウェーの大陸棚にあ オスロ協定(1972年)と陸地からの排出に関す る大型施設について遵守すべき規則はOSPA るパリ協定(1974年)に代わるもので,北西ヨ ーロッパ沖合を海洋汚染から保護するために R条約だけだが,これからはこれら2カ国が詳 1998年に採択され,1999年2月に発効した。調 印国はベルギー,デンマーク,フィンランド, 要がある。 細な大型構造物に関する撤去指針を提示する必 フランス,ドイツ,アイルランド,オランダ, OSPAR調印国以外の国においてプラットフ ォームを撤去する場合は,それが移動である場 ポルトガル,スペイン,スウェーデン,英国, 合はIMO,撤去の場合はロンドン(海洋投棄) ルクセンブルグ,ノルウェー,アイスランドと 協定の指針に準拠することになる。 欧州委員会である。 1995年6月までは,OSPAR条約では,他の 地域協定と同様,使わなくなった生産施設の一 パイプラインの撤去に関する法的枠組 パイプラインの撤去については,現状では 部または全施設の海底または深海での廃棄を許 可していた。各施設の廃棄計画はそのつど検討 OSPAR条約でも国際規則でも免除されており, 国内法の規制を受けるだけである。ノルウェー され,構造物の事情を勘案した上で決定されて では同国の大陸棚にあるパイプラインはそのま いた。1998年7月,OSPARの閣僚会議がポル トガルのシントラで開催され,海洋生産施設の まに放置しておくことを当面の方針として決定 廃棄関連条項を見直し,新たに指針が追加され 「放置」の中から,個々のケースごとに環境的 (1998年3月決定事項) ,1999年2月に発効した。 に最良の選択をすることであり,結果として同 した。英国の方針は,「撤去」,「埋め込み」, 主な合意内容は次のとおりである。 国の大陸棚からかなり多くのパイプラインが撤 ・海面上の部分を撤去し,陸上で廃棄する。 ・重量1万トン以下のジャケットの鉄鋼部分は 去されることになるであろう。2003年以降は, OSPAR条約に盛り込まれると考えられる。 完全撤去し,再利用あるいは陸上で廃棄する。 ・重量1万トン以上のジャケットの鉄鋼部分に 国内法 持続可能な発展を促進するため,再利用によ ついては基礎部分をそのままにしておくこと も考慮の対象とすることができる。 ・コンクリート製の施設に関しては,全部また り海洋構造物の廃棄量を削減し,再利用できな は一部をそのままにしておくことも考慮の 向である。廃棄物の処理,保管,処分は,各国 対象とできる。 の法律,ならびに国境を越える廃棄物輸送に関 いものを廃棄するというのが現在の一般的な傾 ・1999年2月9日以降に設置した施設は完全撤 するバーゼル条約に準ずる。英国の主要な撤去 去する。 つまり,重量のある鉄鋼・コンクリート構造 関連国内法は,1998年の石油法であり,第IV 部で大陸棚にある使わなくなった施設とパイプ 物については,撤去が困難な場合もあることを ラインの秩序ある廃棄の枠組みを制定してい 認めて撤去例外条項を備えている。ただし,こ の例外条項の適用の申請条件は厳しく,技術, る。ノルウェーの主要関連法は1996年の石油法 で,撤去に関するものとしては汚染防止法,港 環境,安全または費用の面での理由を説明しな 湾・航行法,作業環境法がある。英国ではまた, ければならない。海洋廃棄の最終認可権限は施 環境保護法にもとづき,Duty of Care(管理責 ― 75 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 任)が課せられる。廃棄物管理の監督機関は環 原則」と「汚染原因者の経費負担」を楯に抗議 境機関とスコットランド環境保護機関である。 行動を起こした。その後の成り行きは周知のと ノルウェーでも同様なシステムが採用されてお おりである。その後インターネットの発展もあ り,撤去を要するプロジェクトの建造・解体, ってグリンピースの影響力は増大し,EU加盟 排出,アプローチと水路の使用などについて申 国の国会で議席を占めるようにもなり政治力も 請・承認の手続きを通して管理している。 増した。これが厳しい基準を課している理由で 調達にあたって,英国はEUのUtilities Directives 93/38/EECと92/13/EECを遵守しな ければならないが,ノルウェーへの同規則適用 はない。 撤去費用については,英国では状況に応じて ある。他に,OSPAR条約にはオランダ,ドイ ツ,デンマークといったグリーン政策に力を入 れている国が調印していることも,理由の一つ と考えられる。ただし,これら国は大型施設の 20%から60%が非課税対象となる。これに対し 撤去に多額を投じる必要はない国でもある。 深海への投棄が環境面で最も被害の少ない処 て,ノルウェーのそれは70%から72%である。 分方法であることは科学者も認めていたのだ が,これを契機に,北西ヨーロッパ沖合での深 OSPAR条約の影響 英国の貿易産業省(DTI)は1999年,海洋構造 物の撤去に関するガイドラインを発表した。こ れはOSPAR条約に準拠する新たな指針である。 OSPAR条約を採用した際の撤去費用につい 海への投棄は1998年3月の新指針決定まで一時 停止となった。この新指針は,撤去の方法につ いてある程度明確に示している。現在のところ, 北海で新指針どおりの撤去作業は実施されてい ないし,他の海域にはこの指針の対象となるよ て,M. Corcoran氏はQuarterly Review of the うな大型施設はない。したがって,技術,安全, North Sea Abandonment Market Vol.3-NO.2の 中で,オランダ,ドイツ,デンマークでは変化 費用の面からのこの指針が妥当かどうかを判断 ないものの,ノルウェーでは12%,英国では する材料はいまのところない。 指針で示されている1万トンの制限にはなん 14%の上昇につながる。特にジャケットの撤去 ら科学的根拠はない。線引きをするにあたって, にかかる費用はノルウェーでは14%,英国では 業界には技術的な問題を克服できるかどうか相 22%増額すると推計している。一方,Reverse 談があったが,決定当時には実例がなく,とり Engineering社はこれを過小評価であるとして あえず賛同し,2003年の次回会議での見直しを いる。2010年から2014年の間をピークとする向 待つことにした。2003年までには大型鉄鋼設備 こう25年間に廃鉱事業が集中することが予想さ れるため,同社はコスト節減の方法として,北 が撤去される予定だが,これは重量が11万トン もあるが最初から再浮上させて曳航するよう設 海にある施設の共同廃棄を実施することを提案 計された例外的なもので,撤去の実例になると している。 は言いがたい。この他若干のコンクリート構造 物が向こう4,5年の間で撤去される予定であ 2.世 論 り,所有会社は2001年中に例外申請をするもの と思われる。大型固定鉄鋼構造物に,より注意 OSPAR条約と世論 が向けられることになるが,2003年以前に撤去 なぜOSPARがそこまで厳しい指針を示して いるのか。背景に政治的配慮があるのは確かで されるものはない。 OSPAR条約の撤去例外申請と世論 ある。契機となったのは,1995年,RD/Shell とESSOが共同所有していた浮遊式貯蔵施設 Brent Sparを英国政府の認可を得て,深海投棄 のため曳航を開始したことだ。これを待ち構え ていたのがグリンピースで,「予防策を講じる 石油/天然ガス レビュー ’01・5 OSPAR条約には,derogationと呼ばれる 「構造物の完全撤去に例外を認めてもらう申請」 がある。構造的な損壊または劣化,あるいはそ れに匹敵する問題から発生する例外的かつ予測 ― 76 ― できない状況のもとでは,海洋構造物の全部ま れを理由に説得するのは難しい。ただし,コン たは一部をそのまま放置することもありうるこ クリート構造物は例外とされる可能性はある。 とを1998年3月に承認した。 この申請を審査し認定証を交付するのは,英 <環境に与える影響> ここで問題になるのは,構造物の海洋放置が環 国の通商産業省(DTI)とノルウェー石油監督 境に有害かどうかではなく,一般に「きれいな 局(NPD)である。英国では,通常の廃棄は 海」が求められていることである。 不可能であるので,DTIから例外条項の適用の 承認を取得する必要がある。申請の査定では, <莫大な費用> この点を気にしているのは,石油会社だけであ 海洋環境への影響,移動と撤廃の両方の安全性 ろう。第三者からみれば,石油会社はこれまで を比較し,さらに撤棄に係る費用とエネルギー 十分すぎるほど利益を上げており,“自身のゴ についても考慮される。最も重要なのは,作業 ミの清掃の費用節約”を理由に説得するのは難 が技術的に不可能であると証明することであ しい。 る。仮に英国政府が基礎部分の海洋放置を許可 したとしても,OSPAR事務局を通して他の調 印国の承認を得る必要があり,申請手続には半 年はかかる。 英国政府に放置認可申請をする際には, OSPAR条約に対する関係者の反応 ①英国政府の姿勢 英国政府は基準を厳しくすることに抵抗した がその意見を反映することはできなかった。英 Brent Sparの海洋投棄論争を念頭に置いておく 必要がある。業界は関係者との協議と透明性を 国政府は1998年の会議以前から何らかの国際基準 の必要性は認めていたものの,個々のケースに 高める努力をしているものの,認可を容易に取 ついて技術,安全性,環境,経済を勘案しなが 得できる保証は全くない。最近行われている北 ら審査するとの方針をとっていた。しかし,英 海のあるオペレーターと環境保護団体との撤去 国政府は新しい基準により納税者負担が20億ポン 計画についての話し合いでは,環境への影響に ドも増大することを知りながら,1998年3月の決 ついて科学的な見解が分かれた。他の調印国か 定に調印し,2003年以降,定期的に再検討するこ ら反対があった場合,英国政府が放置許可を出 とにも合意した。1998年3月の会議の声明には 「鉄鋼プラットフォームの基礎部分の撤去に例外 す可能性は少なくなる。 また,撤去予定施設の保有者は自社イメージ 規定を適用することを避けるようこの決定事項 を大切にするので,鉄鋼構造物の例外申請をす を随時見直していく」とある。このことから, る最初の会社にはなりたくはないと考えている 現在1万トンで線引きしてある例外申請の重量 はずである。さらに,例外申請をするにあたっ が,2万トンに引き上げられるのは必至で,英 ては,構造物を所管する政府に対し,その会社 国政府もそれに合意することになろう。 を代理してOSPARに申請してもらうよう説得 しなければならず,政府は他の強硬な調印国相 ②EUの姿勢 手に一戦構えなくてはならなくなる。その際, も考慮する必要がある。EUは1995年まで 撤去を予定している石油会社はEUの姿勢に 説得できる理由づけは次にあげる項目の一つ以 OSPARに加盟していなかった。Brent Spar問題 上を満たす場合である。 以来,オスロ協定の調印国の多くがOSPARの 決定が新たに制定されるまで海洋施設の海洋廃 <技術的困難性> 石油業界は技術志向が高く,常に技術の向上を 棄を一時停止することを決定したが,その際, 図っていることで知られているため,これを理 ECはこれを支援した。その後,国際的な枠組 由に説得するのは難しい。 を設ける必要性を認め,EC独自のものを制定 するかどうか検討した結果,既存の国際協定に <作業の安全性確保> 十分な資金を投じたら,どんな作業も安全にで きる,というのが一般的な考えであるため,こ 加盟することにし,OSPARの一員となったの である。 ― 77 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ECはOSPARに加盟したものの,使わなく なった施設は他の廃棄物と同様,ECの規則体 系のもと,環境,エネルギー,漁業政策に沿っ て処分されることを望んでいる。 1995年のEU委員会技術検討部会では, るが,英国政府は黙秘している。 こうして,理性的な議論の余地もなく, OSPARが実行されることになった。実際に撤 去が実施されたら,その結果は環境団体にとっ ても政府にとっても狼狽するようなものにな OSPARは海洋での処分よりも陸地での処分を 優先する決定を下すべきであるという結論に達 り,関係者ならびに一般国民が教訓を得て,科 した。これはOSPARの1998年の決定が認めら になろう。 どの企業も安全対策,環境保護,世論,社会 れたことを意味する。 さらにEU委員会は,撤去される施設の処分 学に基づいた透明性の高い検討につながること での評判,革新技術,株価など自社の価値につ についてはECが所管すべきであると主張して いて公表しているが,それは探鉱開発,生産, いる。OSPARにおいてもEU加盟国を代表して 下流部門の事業についてであって,撤去を念頭 EC委員会が会議に出席することを了承した。 においたものはない。廃鉱作業は将来,必ず行 海洋施設の処分にEUが今後,どのような役割 われなければならないことであり,計画的に実 を果たしていくのか,見守る必要がある。 施できるものであるが,同時に石油会社のイメ EUと英国およびノルウェーが見解を異にし ージが損なわれる恐れのあることでもある。会 ているのは,北西ヨーロッパ沖合でのOSPAR 社の示したこのような価値に疑義を唱えよう 条約による追加コストがむこう25年間で英国が と,撤去作業の始まりを虎視眈々と待ち構えて 32億ポンドと見積もっているのに対し,EUは 20億ポンドと見積もっている点である。 いる向きが多いからだ。 また,マスコミの理解や同情を得るのは難し ③石油業界の姿勢 い。環境への影響,安全性と長期的補償責任に 石油業界としては1995年以降,撤去作業にあ たってケース・バイ・ケースの原則を維持する 慢と社会に対する侮辱」と批判されることにな よう政府に働きかけ,一般の支持を得るため出 版物の発行や報告の発表の努力をしてきた。 ついて明示しない限り,「自然環境に対する怠 る。 調査によると,多くのオペレーターとパート 1998年3月のOSPAR会議の際にもロビー活動 を繰り広げたが,業界の意見を通すことはでき ナーは,廃鉱に関して会社のイメージを保つた なかった。ここにもBrent Sparの記憶とグリン またBrent Sparの先例があるにもかかわらず, ピースの存在が大きく影を落した。 社内での注目度は低い。 グリンピース主導の世論形成を押し戻そうと OSPARは環境面から必要とされたのではな く,政治的な産物である。環境団体に共鳴して いる姿勢を見せることだった。 めの十分な備えがない。莫大な費用がかかり, いう試みもあった。1998年8月,OSPARに直 接は参加していなかった環境保護団体が「プラ 石油業界はOSPARには不満があり,かつグ リンピースの主張に対して「海洋の環境保護の ットフォームを放置しても環境面に多大な影響 偉大な一歩」などではないことを論破できたの にもかかわらず沈黙を保ってきた。 OSPARを支持する根拠となった調査報告の提 示を求めた。しかし,関係者の証言によると, 学界の一部もOSPARには落胆している。最 近の学者,技術者,科学者は環境に対する科学 1998年3月の決定事項の裏付けとなる調査報告 などなく,環境団体に圧された「政治的決断」 的比較調査が不足しているとの理由から比較分 だったことが判明した。 析を実施するまで,OSPARに基づく決定の実 施を先延ばしするよう英国政府に嘆願書を提出 2000年初頭から,上記の環境保護団体と業界 の関係者も含めた合同チームで,講演,関係誌 したが,受け入れられなかった。科学者や技術 紙への記事掲載をとおしてOSPARの代案を提 者は嘆願書その他の意見発表をして批判してい 示する活動を行なっている。 石油/天然ガス レビュー ’01・5 はなく,OSPARには驚いた」と発表し, ― 78 ― 環境団体と世論形成 ①グリンピースの台頭 スがRD/Shellのボイコット運動を実施し,同 社のドイツでのガソリンの売り上げが1週間で Brent Spar以前は撤去作業に係る環境問題に 関して世間の目が注がれたことはなく,リグを 30%落ちたことが石油会社の脳裏に刻み込ま れ,その後,グリンピースの発言に対して弱腰 配置したまま漁礁にすることもできた。しかし, その後グリンピースは「きれいな海」キャンペ になった。 大型構造物の完全撤去の例外認可申請をする ーンを開始し,「排出物質,掘削砕片,プラッ 石油会社に監視の目を注ぐようになるはずであ トフォームの残骸が海洋を汚染する」と廃鉱に る。プラットフォームの撤去についてはすでに 厳しい規制を課すよう運動を始めた。別の環境 妥当なものとなっており,今後の狙いは掘削砕 保護団体は海面下の施設は漁礁として放置した 片やパイプラインの完全撤去を企業がどのよう 方が良いと言っているが,グリンピースの抗議 に扱うかに移っていくだろう。これらを撤去し の声は大きく,世論を左右するほど有力なもの た場合と放置した場合の環境への影響について である。 環境保護を目的とする団体はいくつかある 科学的な裏付けのないまま,撤去運動をしてく が,ヨーロッパの石油・ガス業界およびOSPAR に直接的な影響力,資金力,政治力をもち,目 透明性のある比較調査を実施し,それを世界に 立った活動を繰り広げ,マスコミの扱いも大き OSPAR条約ならびに該当国の法律に沿った これまでの撤去例をみると,プラットフォーム い点でグリンピースに勝るものはない。 良心的な会社が法律を守り,最良の方法で撤 去作業をしても,グリンピースの批判を受けな いという保証はない。グリンピースは60年代, 放射性廃棄物の海洋投棄に反対する運動から始 まり,その後,「海の守護神」として海をゴミ ると思われる。したがって,石油業界としては 示していく必要がある。 が海上で廃棄処理される場合,撤去作業に必要 なエネルギー需要とCO2排出量が,再利用とリ サイクル用に回収される物質の量と見合う場合 にのみ撤去は正当化されることを示している。 捨て場にしないことをスローガンに「きれいな エネルギーとCO2の発生が最も便利でわかりや すい環境への影響尺度として用いられている 海」キャンペーンを繰り広げ,化学製品製造会 が,これは便利な方法ではある一方,異論のあ 社を石油業界を標的とした。グリンピースは るところでもある。撤去作業の環境への影響が OSPARの前身であるオスロ委員会とパリ委員 明らかになれば,撤去の正当性そのものが論議 会にそれぞれ1985年と1981年に非公認のオブザ ーバーとして承認された。当初,同団体は文書 の的になるはずである。 を提出するだけの権利をもち,その文書を配布 1998年のOSPAR会議の準備段階で石油業界 の代表は「グリーン基金」を設立し,環境保護 するかどうかは事務局に決定権があった。とこ 事業を政府,業界,環境保護組織の三者で運用 ろが両委員会がOSPARに吸収された時,同団 体は正式なオブザーバーとしての地位を獲得 することを申し出た。原資はプラットフォーム し,事務局を通して文書の提出・配付する権利 金を基金に入れようというものだった。しかし を取得した。グリンピースは環境保護の民間組 これもグリンピースの反対にあって幻の基金と 織として個別に参加しているのに加えて,環境 なってしまった。石油業界が本提案を公表して 関連15団体を束ねたOGJLEG(石油・ガス合同 連携環境グループ)を結成しているので, いたなら,世論の関心を引き,違った方向に進 OSPAR内での影響力は無視できないものがあ る。特に「グリーン政策」をとっている姿勢を ②グリンピースの今後の活動予測 今後,グリンピースがどのような活動を展開 みせたいと考えている英国の労働党政権は,同 するか予測は難しいが,ここ数年の活動から, 団体の発言を過剰に意識するきらいがある。ま 次の諸点に力を入れていくことになると考えら た,Brent Spar海洋廃棄に反対するグリンピー れる。 の撤去条件を緩和することにより節約できた資 展していたかもしれない。 ― 79 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ・気候変動 いる。こうした組織が各国や各地域での法規制 ・原子力(使用済み核燃料の再処理,核兵器) の成立過程に大いなる力を発揮するようになる。 ・有害物質 <金持ち中流階級の台頭> 資源保有国には資金が入り,それが教育に回 ・海洋資源(商業捕鯨,流し網,過剰捕獲) ・海洋廃棄(化学物質と核廃棄物−石油を含 るようになって,中流階級層が厚くなる。この 層はやがて時間的余裕と力をもつようになり, む) ・遺伝子工学 環境保護意識も高くなる。 ・森林破壊 なかでも気候変動に対する運動と関連して, <メディアのグローバル化> フロンガスの使用禁止,ポリ塩化ビニールの使 WTOシアトル会議開催時におけるのデモやヨ ーロッパ中で繰り広げられた石油税導入への反 用禁止,廃棄物の海洋投棄禁止,化石燃料と気 対運動の例をあげるまでもなく,最近のメディ 候変動との因果関係の調査,エネルギー効率の アによる情報伝達の迅速さとそれに対応する圧 向上,沖合での再生技術の推進などのキャンペ 力グループの動員の早さには目を見張るものが ーンを消費者の立場を代表すると称して実施す ある。共通の敵に立ち向かう時には言語や文化 るだろう。 の壁は決して障壁とはならない。とはいえ,一 枚岩にみえる環境前線にも亀裂がないわけでは 今後の世論とOSPAR条約 現在の重量1万トン以下のジャケットについ ては鉄鋼部分の完全撤去を実施するという制限 なく,向こう2,3年の内に指導陣が入れ替わ り,現在ほど急進的でない人たちが取って代わ る可能性がある。 値が次回会議で引き上げられるか,という点に ついては「恐らく」としか答えようがない。そ の理由として,ある会社が11万トンの構造物の ジャケットの再浮上作業をそれまでに完了して いる見込みであること,新しい撤去技術が開発 され,圧力団体が規則をさらに厳しくするよう 撤去計画と世論対策 撤去作業を計画している石油会社は,政府・ 業界関係者,NGO,一般社会に対し綿密かつ, 十分な“根回し計画”を作成しなければならな 運動するであろうからである。おそらく制限値 い。1998年以前には必要なかった事だが,これ からは世論対策を撤去戦略の中心とせざるを得 は2万トン以下に引き上げられ,例外条項の対 ず,政府への申請前に2∼3年の時間をかける 象となる構造物の数はさらに減少するであろう。 必要がある。代表的な折衝計画には次の諸要素 OSPARの規制が今後一層厳しくなる方向に あることに疑問の余地はないが,北西ヨーロッ を含めること。 ・根回し(協議手続,偶発事故防止計画策定, パ沖合の規制が他の地域の海域にも波及するか メッセージ考案,政府との折衝,業界との折 どうかが問題である。これを判断するには,次 衝) ・活動(作業部会設立,調査,評価,メディア の社会経済的要因とその政治的影響を考慮する 必要がある。 <環境保護> 海洋環境を未来世代のために保護しようとす る願望。1982年のリオデジャネイロの環境サミ ットのアジェンダ21協定を遵守すべきだという との折衝) ・伝達手段(インターネット,ビデオニュース, 映像ライブラリー,パンフレット,説明書, CD-ROM) ・義務的協議(対話集会,世論調査,フォーカ 圧力は高まると思われる。 ス・グループ) <グリンピースの地域的な活動の強化> 「世界規模で考え,地元で行動する」必要性 通常,企業の方針決定から実施までの過程に は,「方針の定義」,「査定」,「他の選択肢・問 を認めたグリーンピースは最新の通信技術を駆 題点の検討」 , 「方針の採択」 , 「実施」 , 「実施過 使して各国で組織を強化し,世論形成に努めて 程での監視」が含まれ,この中で環境・安全性 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 80 ― を検討する。この過程を撤去作業に当てはめる の際の想定される質問を次に挙げる。各社とも と,「他の選択肢・問題点の検討」の場面で, 世界での事業方針と整合性をもった回答を用意 会社全体の経験不足から,発生しうる問題を思 する必要がある。 質問を見ても,会社の評判を落とさないこと い浮かべる想像力に欠ける点があるようだ。 北海やカリフォルニアのような慎重を要する が撤去作業の大事な側面であることがわかる。 地域で撤去作業を実施するには,マスコミ対策 回答は安全,環境,従業員,営業および社会に (つまり世論対策)が最も重要である。マスコ 対する会社の方針を反映するものでなくてはな ミは石油会社の発表した方針に何か裏があるの らない。請負業者に出す技術計画書とは別に, ではないかと考え,矛盾を突こうと試みる。こ 公表した会社の方針を厳格な目で見直し,必要 項 目 想 定 さ れ る 質 問 時 期 ・いつ撤去作業に取りかかるのか。 ・北海にプラットフォームを建造したとき,解体または撤去を予定に組んでいたか。 ・いつ撤去作業を開始するのか。その際プラットフォーム上で稼働中の設備にどのような影響が あるのか。 ・RD/Shellは,Brent Sparの廃棄の時にグリンピースにより強い批判を受けた。同様な批判に対 応するためにはどうすれば良いか。 砕片と食 物連鎖 ・海底放置を予定している残滓が食物連鎖に影響を及ぼさないと保証できるか。 ・砕片堆積が拡散せず,問題を起こすことはないと保証できるか。 ・監視を何年続けるのか。 ・ロンドンのレストランに行って、北海で取れた魚またはイガイがメニューにあったらそれを注 文したいと思うだろうか。 ・世界での砕片の処理手順はどうなっているか。なぜ、それらに一貫性がないのか。 ・グリンピースは、海洋は互いに結びついた生きた環境であり、海洋の食物連鎖を通して人体に 有毒・有害・廃棄物を戻すことになると言っているが、あなたもそう思うか。 ・北海でプラットフォームを解体する際、砕片をどのように処理するつもりか。 ・そもそもなぜ砕片を海洋に放置したのか。 ・砕片は不活性で無害であると言ってきたのに、突然、現在の位置から動かすと有害だと言い出 したのはなぜか。 ・技術的に安全に砕片を撤去できることを示したら、10年後にはどうなるだろうか。 ・実際にそうするつもりか。 パイプラ イン ・プラットフォームないしジャケットの撤去作業について話してきたが、プラットフォームとつ ながるパイプラインについてはどうなのか。 ・埋めたままのパイプラインがそのまま埋まったままでいると保証できるか。 ・パイプラインが将来破損したとしたら、誰が除去し、漁網損害の補償をするのか。 コスト対 自然環境 ・株主への配当を考えたら、環境保護のために最小限度のことをするのが石油会社にとって最も 利益になるのではないか。 ・コストが真の関心事だというのが本当ではないのか。 ・トラブルを避けるためだけに海底に建造したプラットフォームの撤去を実行するのか。 請負業者 請負業者の中には、安全にプラットフォームの完全撤去を実施し、環境や安全性の問題もなしに 陸上まで運搬することができるといっているところもある。これに対する貴社の反応は? 環境保護 団体 ・これまでの廃鉱作業(海面までの構造物のみ撤去)が環境保護につながるというのなら、環境 保護団体が同調していないのはなぜか。 ・グリンピースその他の団体がいまでも設置した全構造物を陸上まで運搬するよう主張している のはなぜか。 ・経済的な決断を正当化しようとして、石油会社から解雇されたり、石油会社に雇用されたりし た科学者を採用しているのか。 安全問題 ・NW Huttonのプラットフォームを撤去するのは非常に危険だと考えられている。これは本当か ・北海にプラットフォームを問題なく建造し、そこで得た石油で多額の利益を上げたにもかかわ らず、撤去するとなるとうまくできないのはなぜか。 ・安全性が未確認の状況で、廃鉱にゴーサインを出すか。 ― 81 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 なら撤去作業がもたらす問題と整合性をもたせ ニウム,鉛,亜鉛,銅,錫である。堆積量は場 るよう変更も必要となる。最近の調査によると, 所によって異なるが,何千トンまたは何千立方 石油会社のほとんどは撤去作業に関する会社の メートルはある。通常は,プラットフォーム付 イメージに関する管理の備えが不足している。 近に堆積しているが,波によっては,拡散範囲 もかなり広い。問題は,これらの有毒物質が海 洋生物にどのような影響を及ぼすかという点で 3.環境と安全性 あり,また堆積物をどのように処理するかとい 海洋生産施設 ジャケットの撤去作業が掘削砕片の堆積に振 うことである。 処理方法としては,1)放置,2)除去,3) 動を与えることになる。これ一つからも 砂利などによる被覆がある。除去するには,堆 OSPAR協定がいかに浅薄な環境保護意識に根 ざしているかがわかる。堆積物の周囲に鉄鋼フ 積量の倍の砕片の除去,脱水,有毒沈績物の安 レームを放置した方が砕片が散乱せず環境に良 も多大なもので,結果として,CO2の排出も大 い場合もある。北海での海洋生産施設建設の際, 作業員の中に犠牲者が出た。その後の経済発展 量である。 環境団体が全面撤去を主張することは容易に につながる作業であったため,世間も許容した 想像できる。ただし,実際にどの程度,生物的 が,巨額を投じて行なう撤去作業で人命が犠牲 な影響があるのかは未だに解明されておらず, となったら,どんな言い訳ができるだろうか。 何千トンもの鉄鋼設備を入港,陸揚げ,解体す 目下,英国の沖合オペレーター協会(UKOOA) が実施している合同計画と連携して個々の石油 るのだが,騒音,煙,悪臭に対する地元住民の 会社が検討している。その結果は,「生物に影 苦情なしに実施できる敷地を探すのは難しい。 響を与える」というもの,「ほとんど影響はな また,1千トンの鉄鋼を陸上輸送するには最低 い」というものの両派に分かれ,環境協議会 でも大型トラック30台が必要であり,地元の交 通インフラに多大な影響を与える。また埋め立 (Environment Council)などで折衷案を探るよ 全管理に莫大な費用がかかる。エネルギー消費 て容量はプラットフォームの材料の3%程度で うになるだろう。 石油会社が世間の批判にさらされているとは 非常に少ないと言われているが,これはすでに いえ,砕片撤去にかかる巨額の費用に対する理 埋め立て容量がパンク状況にある英国にとって 解を得ることができるに違いない。したがって, は多大な負担となる。特にウラン・スケールの この問題が表面化する向こう2,3年の間に石 廃棄が認められているイングランド北西部セラ 油業界は次のような手段を講じておくことが肝 フィールドの南にあるドリグは,現在,予想さ 要である。 れている撤去作業からの放射線廃棄物で一杯に ・掘削砕片の影響についてUKOOA主導の調査 なると予測される。Brent Sparからの放射線廃 棄物はスコットランドの北部のドウンリー核処 を補完するような分析を実施する。 ・分析結果にもとづく業界としての方針を確立 分場に輸送する計画だったが,グリンピースが する。 これに反対,RD/Shellにはさらに厳しい再利 ・政府並びにOSPAR加盟国と話し合いの場を 用後の管理計画を課した。 もつ。 ・いくつかの環境保護団体と話し合いの場をも 掘削砕片と将来 原油やガスの目的層まで掘削する際に生ずる つ。 ・掘削砕片管理費用の一部を充当して環境基金 砕片の堆積は掘削過程で使用する潤滑油その他 の設立を申し出て,環境保護団体と共同管理 の物質で汚染されたり,炭化水素資源を海底地 し,海洋環境の修復と沖合の再生可能エネル 層を通して掘り起こす際に汚染されたりしてい ギー問題を追求する。 る。一般的に,クロム,ニッケル,水銀,カド 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 82 ― 4.技術的考察 得る』 『過程』である」 。 これらのカッコ内の用語について石油会社が 撤去作業の定義と石油会社の問題の理解 撤去作業の難しさは現在,広く受け入れられ それぞれの「健康・安全方針」に照らして関連 づけることは難しいと思われる。次に,各用語 ているその定義を検討してみるとわかる。 について検討してみると下表のとおりである その定義とは, 「撤去作業とは沖合油田またはガス田の生産 が,いずれも撤去作業が現実になった場合に直 施設の『オペレーター』が,施設が現在の目的 る。また,海域により,優先項目も異なる。 面する技術,手続き,費用,管理上の問題であ のために『必要でなくなった』時に,それを 『清掃』 , 『移動』 , 『廃棄処分』または『再利用』 する作業を実施することを『計画』し『承認を OSPAR決定による戦略の見直し 業界では,OSPAR1998年3月の決定事項の 用 語 検 討 オペレー ター 施設の共同所有者の中でオペレーターが代表を務めることを意味する。実際には、オペレーター がパートナーたちに計画を納得してもらい、異なる環境、安全管理形態に適合させる。技術的方 法やコスト見積もりをするのに相当の時間と努力を払う。 必要でな くなった プラットフォーム建造に冗長性をもたせるべきだとの意見にはどのような経済的根拠があるのか。 石油価格か、それとも費用なのか。撤去時期は運用よりも北海における評判を配慮すべきなのか。 共同事業者はパートナーたちの利益よりも自社の利益を重んじるオペレーターの決定に従うべき なのか。 清 掃 どの程度きれいにすれば良いか。掘削砕片を撤去するとして、海底から砕片、重金属、有毒物質 を取り除くのはいつか。廃棄処分する機材の清潔度はどの程度許容されるのか。場所によるその 程度の違いはどの程度なのか。普遍的な基準はあるのか、オペレーターが自分で基準づくりをす るのか,それとも所在国の基準に従うのか。環境団体が企業の基準値にどのような反応をしてく るか。「環境に害を与えない」というのは、「きれい」といえるのか。 撤去作業 誰がどのようにすべきなのか。現在のクレーン船で将来の需要を満たせるのか、それとも需要が 多くて価格が跳ね上がるのか。オペレーターは新技術に投資すべきか、それとも他の会社が投資 するのを待つべきか。技術開発は必要なのか、それとも将来の重量級のクレーン船が使えるのを 期待すべきなのか。 廃棄処分 場所、方法及び費用の問題の他にも様々な問題がある。カリフォルニアや北海の有毒砕片堆積の 問題をどうするか。生産資機材から発生する低レベル放射性物質の処分はどうするか。OSPAR 条約適用範囲外のプラットフォームは倒壊させるべきか、それとも北海の人為的な基準を他の海 域にも応用すべきか。OSPARはロンドン協定にどの程度影響を及ぼすか。海底に物を放置する 場合、その所有者はどの程度の賠償責任を考えるべきか。所在国政府はその賠償責任を肩代わり するのか。 再利用 プラットフォームの再利用にはどんな方法が最適だろうか。深海設備の設置が将来、再利用され るだろうか。持続可能性という世界全体の動きはこの再利用の考えと合うのだろうか。再利用す ることでどの程度の節約になるのか。既存の技術で充分だろうか。 計 画 これには撤去作業の知識やプロジェクト管理能力を必要とする。撤去作業の知識には国際規則、 国内での必要条件、技術的要件、経済的手段、安全性および環境影響調査が含まれる。油田やガ ス田の所在国の政治的承認を得るために、撤去作業チームはこうした要件を満たし、かつ世論や 環境グループからの圧力、社内の経営陣からの圧力もある。 承認を得 る 誰の承認のことか。政府か一般国民なのか。いつ、誰がこれを始めるか、どのように展開するか。 こうした点をオペレーターが考えなくてはならない。北海では承認手順がはっきりしているが西 アフリカでは規則は全くない。 過 程 会社のほとんどは撤去作業を目的、時期及び支出の限定されたプロジェクトだと考えているよう だが、撤去作業とは施設の解体作業の何年も前から始まる一連の作業である。規制を理解し、経 済性を考察し、戦略を考え、広報活動をするには相当の年数がかかる。 ― 83 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 解釈の見直しと海面上の構造物ならびにジャケ を念頭において,安全,環境,技術,費用を考 ットの撤去戦略の見直しが必要であるとみてい 慮しなくてはならなくなった。ここでの最大の る。 関心事は,撤去を技術的に完遂することの難し <海上構造物> 海上構造物は陸上に運んでリサイクルに付す さであり,ジャケットの下部を撤去する費用で という以前の規制と大差はない。何回かに分け とすると,一般社会や関係者の間で会社のイメ て作業をするか,一回で撤去するかという点で ージが打撃を受けることになる。撤去により陸 も変更はない。ただし深海廃棄が禁じられてい 上での雇用機会が発生することは歓迎されるだ るため,撤去作業業者が競争価格を提示するの ろうが,その雇用人員数は少なく,そのための は難しい。このことは1998年以前にもわかって いたため,業者は一括撤去の技術の開発を行っ 費用は高い。また,一時的なもので地元経済に ある。もしジャケットの脚部の撤去ができない は大して貢献しそうにない。 撤去作業にかかる費用は200億ポンドと巨額 ている。 <ジャケット> 1万トン以上と以下,コンクリート重量基礎 で,このうち120億ポンドは税金ないし,石油 製品への価格の上乗せにより一般消費者に負担 部分の有無によって扱いが違う。例外措置が認 を強いることになり,一般消費者と株主からの められれば良いが,そうでない場合は鉄鋼ジャ ケットを全部陸上まで運んでリサイクルする必 批判は免れない。 撤去作業を実施するとなると次の諸点につい 要があり,費用見積もりにはリスクと安全性分 て考えなくてはならない。 析にかかる費用も含む必要がある。総合的な海 ・誰が撤去作業を行うのか。 ・ジャケットを撤去することによる掘削砕片の 洋環境と撤去した場合の廃棄場所での環境影響 分散による影響とその管理 調査もしなくてはならない。 <パイプライン> 現在のOSPAR決定事項ではパイプラインに ついては何も触れていないが,これも撤去作業 ・作業員の危険性 ・リサイクル用にプラットフォームを受け入れ ることになる地域での騒音,悪臭,輸送によ の一部であり,オペレーターは同決定事項がど のような影響を与えるか警戒している。具体的 な戦略についてはこれから考案しなくてはなら る被害 ・輸送による影響 ・陸上での廃棄物管理問題。とくに低レベル放 射性廃棄物として扱われるウラン・スケー ないが,直径16インチ以上のものは,接続をは ずし,炭化水素その他の有毒物質をすべて除去 ルの処理をどうするか。 し,海水で満たして両端を処置して,そのまま ・陸上での作業 海底に置いたままにして良いことになるという ・巨額な費用に対する株主の反応 のが大方の予想である。16インチ以下のもので 現在,海底に埋まっており,安定した状態にあ ・費用に対する一般消費者の反応 石油メジャーが自社イメージを保つ上で心し ることを証明したものについても放置すること なくてはならないのは北海における撤去作業で が認められるだろう。16インチ以下のもので現 在海底面に露出しているものは,撤去するか, ある。北海での撤去費用が世界全体の費用の 再度埋め直すか,岩盤やコンクリートの沈床で 65%を占め,またヨーロッパ諸国の環境基準が 厳しいため,北海における撤去作業での失敗は 安定させて放置することを求められることにな 安全と環境の両面において会社のイメージに傷 るだろう。また連結物と細いパイプラインは撤 がつくこととなり,撤去費用よりも大きな損失 去することになろう。 につながる。 撤去 厳しい新規制の結果,業界としては全面撤去 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 84 ― 北海での代表的な廃鉱計画例 これまでに撤去の対象となった最大のプラッ トフォームは7,300トン級のもので,1万トン を越えるものはまだ廃鉱の対象になっていな し,撤去作業を同じレベルで理解していないと い。英国政府は BP AmocoのNorth Sea Donan 油田生産施設とパイプラインの廃鉱計画を許可 業について目的意識,安全意識を持ち,環境基 計画自体に齟齬をきたす。パートナーも撤去作 した。国内の石油会社と政府が掘削砕片の処置 準,安全基準を共有する必要がある。 実際の廃鉱の業務の中心となるのは重機をも に関する全欧を対象とした調査を財政支援して つ請負業者である。北海でこれまでの最大の廃 おり,エンジニアリング会社が撤去技術を開発 するのを支援している。ノルウェーでは 鉱作業は6∼7千トンだが,OSPARの規則の 遂行,技術的困難によるコストの超過をめぐっ Albuskjell 1/6A上の居住モジュールの付け替 て,請負業者とオペレーターとの軋轢が始まっ え,Frigg FPの全面撤去,North East Frigg ている。したがって,撤去計画には請負業者の Control Station の全面撤去,Odin鉄鋼ジャケ ット・プラットフォームの全面撤去を実施し 選択とその業者との話し合いを十分にすること た。オランダは,鉄鋼ジャケット・プラットフ が重要である。もうすぐ廃鉱になる施設は1970 年代当時の技術で建造されたもので基礎部分が ォ ー ム の Wintershall K13-D, 同 じ く 特に重くできており,撤去にはそれに対応でき Wintershall K13-C-Production, Wintershall る重機が必要だが,装置を所有している請負業 K13-C-Wellhead, Wintershall K13-Bを全面撤去 者は限定されており,費用も高くつく。撤去後 した。 の施設の処分,陸上までの輸送,陸揚げについ 同調査報告書では,プラットフォームの98% までが再利用またはリサイクルされた北海南部 て,両者の綿密な打ち合わせが必要となる。 また,北海にある施設の多くは「再利用」で のガス田での成功を例として,Conoco Viking きると考える関係者が多い。廃鉱計画の段階で, A の施設の廃鉱作業の内容・規模・段階的作 業手順,撤去手続き,プラットフォームの撤去 再利用の可能性(特にジーゼル装置,ガスター 準備,重量クレーン船の動員,海上構造物・ジ ターとスイッチ・ギア,掘削施設プラットフォ ャケットの撤去方法,陸上での解体・処分・再 ーム,クレーン,汲み上げ装置,クレーン,居 利用・リサイクルの方法,作業スケジュール, 住設備,ポンプ,救命ボート)を検討し,市場 費用,教訓を示してある。また,北部海域での を開拓を進める。 オペレーターと請負業者が撤去作業の計画段 代表的な例としてOdinプラットフォームを示 ビン,管理室装置,浄化装置,ケーブル,モー した。 今後,北海で予定されている廃鉱計画には, 階からパートナー関係を確立するのが肝要であ Maureen Alpha(Phillips Petroleum UK), 有権なし」と「株主所有権あり」の「パートナ Frigg Field(Total Fina Elf)それにEkofisk ー運営体制」,あるいは「請負業者がオペレー Field Central(Philips Norway)がある。ただ し,それぞれの実施時期を予測するのは難しい。 ターとなる」こともありうる。 る。その形態には「共同管理チーム」 , 「株主所 採油技術が発展して,それぞれの坑井の寿命が 伸びる可能性もある。新しい海底システムを活 OSPAR条約適用後の廃鉱過程 撤去作業には,計画立案に2年9カ月,認可 用して小規模の周辺油ガス田を開発し既存の施 手続きに9カ月,広報・マスコミ対策,環境団 設を生かすことが進めば,施設の寿命が伸びる 体との折衝に2年半,廃鉱作業に1年半と,全 ことになる。原油価格も考慮すべき要因の一つ 体で約7年半かかる。このうちの計画段階,ま である。以上から,北海で廃鉱が集中するのは, たはそれ以前に,条約と照らして,環境アセス 2005年と2020年の間と思われる。 メントと撤去の方法の検討を3段階で実施する 必要がある。 撤去の際のオペレーターとパートナーの関係 撤去時にオペレーターとパートナーが協調 ― 85 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 新技術 重量級の生産施設の撤去に関する新技術に めとするいろいろな決定や変化の重要度の分 析」を行ない,撤去時期を決定する。 は,バーサトラス,スマートレッグ,オフショ ア・シャトル,可変型浮揚システム,ピータ ー・シェルト,マスターマリーン,MPUヘビ 経 費 ー・リフター(オールセン・システム)がある。 北海の北部には433基のプラットフォームが あり,うち1万トン以上のジャケットを有する バイプライン関連では,敷設後埋設プラウと噴 ものは33基ある。現在の推計では,撤去費用は 射推進式スキッド,ジェット推進式溝掘り機が 総額で約3500億ドルで,世界全体の撤去費用の ある。 65%にあたる。 ノルウェー政府は,経済的に油田の寿命の終 5.経済的側面 わる時点で全施設の所有を引き受ける。このた 後期フィールド・ライフの運営と撤去作業を め,ノルウェーの各事業者は,約24億ドルの撤 去費用を負担することになる。英国では,政府 計画する際の経済的決定要因 石油・ガス田のライフサイクルは,「生産施 の関心は過去における油田毎の税金のレベルで 設建造」(全面投資時期),「立ちあげ期」(生産 見積もられるがその50%の約140億ドルが事業 からの収益と追加設備への投資時期), 「安定期」 (生産ピーク時,追加坑井および改修に対する 継続的投資),「減衰期」ならびに「終末期」に 分かれる。減衰期は,追加投資に見合う収益が ある。英国での撤去費用の総額は270億ドルと 者の負担となるとみられる。 OSPAR条約が大きく影響を及ぼすのは深海 にプラットフォームをもつ英国とノルウェーで ある。英国には基礎部分や掘削砕片の堆積を撤 上がらなくなる時期である。石油・ガス田によ 去する困難な作業の代案として例外申請しても って毎年30∼40%と急速に減少するものから 良いと思われるプラットフォームが27基,ノル ウェーには6基ある。IMO時代は一部撤去で 2,3%と遅いものもある。 キャッシュフローをみると,初期投資の回収 が済むまで赤字が続き,収益時期を経て,何年 よかったが現在は完全撤去すべき水深100メー か経過すると生産が続いていたとしてもコスト トルのプラットフォームが何基もある。 現在,北海には,1万トン以下の鉄鋼製のプ の方が高くなり,その後の撤去費用を計算する ラットフォームが500基あり,1万トン以上の と収益がさらに落ち込む時期がくる。最後の段 階で,オペレーターとパートナーは,今後の生 ものが33基,コンクリート製のものが24基ある。 内訳は下記のとおりで,これでみるとおり, 産見通し,近隣での新たな開発の可能性,坑井 OSPAR条約の影響を最も受けるのは,英国で から炭化水素を分離するコストと時期,ケーシ ある。 ング類の回収にあたって必要となる坑井の塞栓 に関するコストと時期,生産施設撤去の費用と 基礎部分の撤去には,1基あたり3000万ドル, 全部で8億ドル以上かかる。これには基礎部分 時期,資金調達方法,税制,オペレーターの責 を掘削砕片の処分コストは含んでいない。基礎 任,撤去作業の期間を決める諸要素,経済的限 部分を撤去するのなら掘削砕片も同時撤去でき 度について検討する必要がある。また,フィー るという議論もあろう。その方法はまちまちだ ルドライフを評価する方法として, 「確率分析」 , が,コストが一層高くなることは間違いない。 「リスク分析」,「トルネード・チャートをはじ タ イ プ 鉄鋼1万t以下 鉄鋼1万t以上 コンクリート イギリス 210基 27基 8基 石油/天然ガス レビュー ’01・5 掘削砕片の撤去には1基あたり2700万ドル,英 ノルウェー 72基 6基 14基 ― 86 ― オランダ 108基 0基 2基 その他 12基 0基 0基 国にある大型プラットフォーム27基の合計では 費用を見積もる必要がある。また,基礎部分の 7億ドルかかる。 撤去には掘削砕片の撤去も含まれ,今後,科学 英国は水深100メートルにある中型プラット 技術的研究と費用節減方法について研究してい フォーム(ジャケット重量4千から1万トン) く必要がある。ちなみに,費用は,目安として の完全撤去コストに加えて,総計15億ドルの拠 メキシコ湾で設置費用の3.5倍,アジアで2倍, 出をすることになる。1998年に政府はOSPAR 北海では2.1倍かかる。北海の廃鉱例では,パ イプラインを放置するのと撤去するのでは, 条約による業界の追加コストはむこう25年間に 32億ドルに昇ると見積もった。OSPAR条約の ノルウェーの企業に対する影響は英国ほどでは ない。同条約により,コンクリートブラビィテ ィベ−スジャケットの上部の撤去が必要になっ た。ノルウェーのプラットフォームのほとんど 25%前後の違いがある。 2003年のOSPAR会議では,これまでの深海 での廃鉱事例を検討することになっている。 1998年の決定事項の見直しをするかどうかはま だわからない。それまでに石油業界としては, は75−100メートルの水深にあり,IMO協定で も全面撤去の対象となっていた。政府は撤去費 生産施設の一部撤去,完全撤去,海底放置の各 用の70%まで負担することになっているが,こ の結果をもとに,マスコミ対策,広報活動を実 の点については現在再検討中である。 いずれにせよ,1万トン以上のジャケットを 施し,かたよりがちな世論の引き戻しを図り, 有するノルウェーと英国の事業者は,構造物の るよう環境づくりをする必要がある。 レベルでの環境への影響を科学的に調査し,そ 中立で理性的な判断にもとづき規則が定められ 完全撤去にかかる技術的作業の増大を考慮して 部及び 部の概要 全世界には,様々なタイプ・様々なサイズのプラットフォームが分布しており,設置技術・ 方法と同様に,撤去技術も非常に様々である。本レポートは,現存するプラットフォームの種 類と分布,それらの撤去技術の現状,北海における費用試算方法の順に紹介している。その分 布状況調査によると,全体の98%はスチールジャケットタイププラットフォームであり,この 撤去技術に関して理解すれば,あらゆる種類の海洋施設撤去技術の理解を助けるはずであると して,その中でも最も設置環境・稼働環境の厳しい北海北部域に現存するタイプのプラットフ ォームの撤去方法,技術,潜在的問題点及びその対策技術現状,費用評価について述べている。 また,海洋油・ガス田の開発とは,海洋プラットフォームのみでなく,海底パイプラインや 海底坑口装置,これらを保護するためのサブシーストラクチャなどからなるサブシーファシリ ティも重要な要素として必要とする。海洋油・ガス田の廃鉱時にはこれらの撤去も行わなけれ ばならず,そこには技術が必要で,当然コストが掛かってくる。このレポートでは,サブシー ファシリティの撤去技術やツールス,撤去に伴い発生する可能性のある問題とその対策などに 関する説明,コスト評価に関しても述べている。 さらに,2000年現在,登場している新技術,あるいは今後登場を予定している新技術を紹介し, これらにより解決できうる諸問題および,可能となるコスト削減などについて紹介している。 て設置技術・方法も様々である。同様に撤去技 術もそのタイプ,規模,あるいは設置環境に応 部.海洋プラットフォームの撤去について じて大きく異なっている。現存するプラットフ 全世界には,様々なタイプ・様々なサイズの プラットフォームが存在しており,それに応じ ォームの種類と分布,それらの撤去技術現状, 北海におけるコスト試算方法の順に紹介する。 ― 87 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 した原油をタンカーに移送する前の貯蔵庫や, 様々な物資の貯蔵庫として使用できる。この種 1 海洋プラットフォームの種類と分布 のプラットフォームは,高い鉄鋼技術がなかっ たノルウェーにおいて考案されたのであるが, 海洋プラットフォームの種類(図1) 海洋プラットフォームは,コンダクターを守 あまり浸透していないところを見るとコストが るための建造物,生産した油を処理し貯蔵する 掛かるのだろうか。このタイプは全世界にわず 設備,地上までパイプライン輸送する際の昇圧 か33基(そのうち14基がノルウェー)しか建造 機などの設備あるいはタンカーにより運び出す されていない。 ための設備,もしくは作業員の居住設備など, 様々な目的をもった施設であるため,これの機 ③スチールグラビティベースストラクチャ スチールジャケットプラットフォームを発展 材を積載するための充分なスペースと強度を持 させたタイプであるが,脚部に鋼製のグラビテ つ必要がある。また,設置環境・条件も様々で ィを取り付けてある。このグラビティは,曳航 あり,これらの条件に応じるため,多様なタイ 中には浮力体として使用でき,到着後はコンク プに分かれている。そのタイプは下記の①∼⑥ リートグラビティベースと同様に油の貯蔵庫と のタイプに分けられるが,分布状況は様々な条 して使用できる。また,海底面にパイリングを 件により異なっている。 行わずに定位置に固定されているため,撤去が ①&⑤スチールジャケットプラットフォーム もっともポピュラーなタイプのプラットフォ 比較的容易であり,環境への影響も少ない。し ームである。作業区,居住区となるトップサイ 4基,英国に1基存在するだけである。 ドと,これを支えるジャケット(海底に打ち込 まれたパイルとこれにはめ込んで接続した鋼鉄 ④Floating Production System(FPS) 深海域における油・ガスフィールドでは,海 製の脚)により構成される。北海北部における 面までコンダクターを立ち上げ,固定し,さら プラットフォームもほとんどがこのタイプであ にそのコンダクターを支えるためのジャケット るが,その環境条件の過酷さに耐久する必要か を建造するには莫大な費用が必要である。もち ら,より巨大なタイプが主流となっている。 ろん超巨大フィールドであればそのようなジャ ②コンクリートグラビティベースストラクチャ 脚部となるコンクリートグラビティは,生産 ケットプラットフォームを建造することも可能 かしながら,現在このタイプはコンゴ共和国に であるが,そうでない場合に有効となるのがこ 表1 Worldwide Distribution of Ofshore Platforms Platform Type Area Concrete Concrete Floating FPSO Floating Africa 1 America 2 4 Jack up Steel Steel Steel Self Tension Gravity Jackets Floating Leg Platform 2 12 4 24 6 4 6,868 1 8 293 302 9 529 538 Mediterranean Middle East North Sea 1 Tot. Ratio 611 4 11 2 1 2 2 4 33 37 32 27 5 9,924 11 7 0.04% 0.33% 0.37% 0.32% 0.27% 0.05% 98.45% 0.11% 0.07% ― 88 ― 438 3 10 石油/天然ガス レビュー ’01・5 1 585 27 Pacific/Indian Oceans Total 4 Total 8 3 1,211 6,912 499 1,218 10,080 のタイプのオフショアファシリティである。こ 2 現状における海洋施設の撤去技術 のシステムは,深海底部に設置したサブシーウ ェルヘッド及び,生産施設や貯油施設,積み出 次に,プラットフォームの撤去技術に関する し施設を有した浮遊基地(FPSO)までを繋ぐ フレキシブルラインから構成される。利点とし 説明をする。撤去作業とは非常に簡潔にいえば, ては,環境への影響も少なく,また設置や撤去 ップサイド取り外し,③運搬バージなどへの積 を容易に,短期間に行うことができることも挙 載,④陸上への輸送,⑤廃棄・その他,という げられるが,コストセーブにより小規模油田で 一連の作業である。ここでは,この作業のうち, も開発が可能となることである。 主に海上で行われるプラットフォーム分解・撤 ⑥Tension Leg Platforms(TLP) 去作業に使用されている機器・技術の説明をす TLPは,セミサブ型掘削リグを改良した生産 プラットフォームもしくは生産施設のみを載せ る。 た小型の浮遊基地を,複数のテンションレッグ クレーン船 まず,代表的なクレーン船を紹介する。クレー で固定した浮遊生産施設である。深海開発を進 ①坑井の廃坑,②プラットフォームの分解,ト めていく過程で,固定型生産基地から,FPSO に移行するまでの中間技術として位置付けられ ン船は解体されたプラットフォームの構成部品 るものである。 で運搬する機器である。吊り上げる対象が非常 を運搬バージに積み替えたえり,もしくは自分 に多岐にわたっているため,それに応じて様々 海洋施設,プラットフォームの分布 上記のように,様々なタイプのオフショアフ な種類がある。しかし使用する時期や吊り上げ ァシリティが存在するが,その分布状況は表1 効率が低いため,常に最適なクレーン船の庸船 を参照のとおりである。先述のとおり全世界の 計画を立案することが重要である。 約98%がJacketed Type Platformである。 ・Shearlegs:船体よりも巨大なA型フレーム クレーンをデッキ上に備えており,その特殊な る対象物がその能力レンジに合致しないと作業 図1 Types of Existing Offshore Structures(Source : E & P Forum) ― 89 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 形状ゆえ,自重と同じだけの重量物(3,200ton) を吊り上げることができるよう設計されてい して表2を示す。この表には,費用比,人体・ 環境への影響なども示してある。 る。物を吊り上げたらそのまま移動し,降ろす ためのものである。天候の変化には極めて弱い Platform Removal トップサイドのように巨大なストラクチャは ため,離岸距離20海里以上のオフショアでは使 用されていない。 通常,陸上に運び込み,設置したときの逆の手 ・Monohull Heavy Lift Vessels:デッキ上に回 転するリフティングクレーンを持っているた 順で解体するのが普通である。巨大なストラク め,船体を動かさずに吊り上げた物を移動させ ることができる。また,大型のデッキを備えて る時にもFloat Overにより取り外されるのが一 般的である。また小型のジャケットストラクチ いるため運搬バージとしても使えるし,デッキ ャなどはクレーン船によって吊り出されるので 上でその吊り上げたモジュール等の分解作業も あるが,先述の通り作業の高効率化には,最適 行える。しかし天候には弱く,北海などでは夏 なクレーン船を選択・使用することが重要であ 季しか使用されていない。 る。 チャは設置されたときと同様に,撤去作業をす ・Semi-Submersible Crane Vessel(SSCV): 海洋開発の推進に伴い,クレーン船にもリフト Disposal of Offshore Platforms 撤去作業時には施設や資機材の売却益が見込 キャパ上昇や,オペレーション可能な天候条件 めるという考え方が従来はなされてきたが,こ の拡大が要求され,登場したのがこのSSCVで ある。吊り上げ能力の増加により,吊り上げ回 れは間違いで,それらをいかに安く処分・廃棄 数の減少,クレーン作業の時間短縮が可能にな が,最近の動向である。処分法の例として次の った。 ようなことが考えられる。 ・中古品として他のフィールドでの使用を継続 できるかを探す方が賢明な判断であるというの Float over プラットフォームのトップサイドなどの巨大 する。 この方法は石油開発業界,特に開発技術の進 構造物を吊り上げて,ジャケット上に設置する 歩により,リザバーの経済寿命が延びている ことはクレーン船では不可能なため考え出され メキシコ湾や北海においては一般的である。 た方法である。重量物をジャケットやグラビテ ・その他の利用法(Platformとして) 例えば,トップサイドやジャケットのような ィベースの高さまで持ち上げた状態で運んでい き,設置位置に来たらバラストして船体を下げ, 品物は石油業界以外の場所でも使える。その ジャケットやグラビティの上に設置する手法で 場所の例として, 娯楽用施設:健康施設,スポーツフィシン ある。 Subsea Cutting Technology 水中切断技術も海洋での廃鉱において非常に 重要な技術である。この作業に掛かる時間及び 費用は撤去費用全体の50%∼65%を占めると考 えられる。ということは,この技術の向上は費 グ場,アドベンチャーセンターなど 研究施設:気象台,化学プラント,危険物 質処分場など 新エネルギー生産所:風力発電所 などが考えられる。もしこれらのような使用 法が見出せなかった場合でも,モジュール全 用の縮小に大きく寄与するということであり, 体では使用法がないにしても,部分的には使 最適化が非常に重要な作業である。水中切断テ 用できる場所もあると考えられる。しかし注 クニックは大きく分けて,火薬破断,メカニカ 意すべきことは,いずれの方法にせよ再利用 ル,研磨切断,熱切断の4通りあるが,各使用 するときには,内部の洗浄を完全に実施しな 箇所,切断対象により最適な器具を選ぶことが いと,環境汚染につながるということを忘れ 重要である。これを簡単に行うための早見表と てはならないということである。 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 90 ― 表2 Comparison of the Effects of Cutting Techniques CONSIDERATION EXPLOSIVES MECHANICAL CUTTING ABRASIVE CUTTING HOT CUTTING 1.0 1.5 1.3 1.7 Current industry practise for platforms in water deeper than 50 feet. Used in shallow water where large lifting equipment is not required. Same as ROV system would mechanical cutting need to be but less experience. developed unknown Improving reliability. technology and shows promise in Dependent on skill limited applications. of diver for traditional methods. Economics and Operations* Cost Ratio:Explosive=1 (based on unweighted costs for different water depths) Reliability Regarded as most predicatable and flexible. Lowest probability of delaying removal. More likely to cause delays than explosives. Ability to cut well conductors effeciently is questionable. Used for shallowwater pile cutting and large caissons. 15 foot-depth requirement complicate use. Human Health and Safety Least health and safety risk. Lack of deployment and experience. Same as mechanical. Risk of explosive gas build-up. More use of divers. Additional risks created by highpressure hoses and piping. Considerable risks inherent to diving. Remoto detonation. Diverless. Diving risks increase with depth. Environment Effect on Fish and Marine Life Kills fish, including highly valued and overfished species. No significant fish kill. No significant fish kill. No significant fish kill. Possibility for Mitigation of Damage to Marine Life Acoustic'scare' devices might prove efective. None needed. None needed. None needed. *All cost estimates assume a trouble-free operation. This assumption may result in underestimation of the cost advantage of explosive techniques in light of the reliability problems of non-explosive techniques. ・Artificial Reefs: プラットフォームジャケットをそのまま横倒 簡単に紹介したが,このセクションでは北海北 しにして海中に完全に沈めてしまえば,漁場 2)廃鉱の例を紹介し,そのコスト試算方法を や防波堤,ゴミ処分場などとしても使用でき 紹介する。 北海北部においてはその設置環境,稼動環境 る。 部において典型的な巨大プラットフォーム(図 が非常に苛酷であること,基地間の移動が制限 3 北海北部において典型的な大規模プラット されることなどから,一ヶ所のプラットフォー フォームの廃鉱技術 海洋プラットフォームの一般的な撤去技術を ムに数多くの坑井の坑口設備,生産施設,居住 区,あるいは掘削リグに至るまでの全ての機 ― 91 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 能・装置が内包される必要がある。それゆえプ せなければならない。また,排水溝・処理施設 ラットフォームは総じて大規模タイプになる。 の取り外しは最後に行わなければならない,な 巨大であるがゆえに,その設置コストも巨大で ぜなら各機材の洗浄用揮発油系溶剤を海洋に捨 あり,技術の発達により削減できるコストも非 てるわけにはいかないからである。ただし,そ 常に大きい。それゆえもっとも技術の発達が要 れらの溶剤を回収し,地上の廃棄場まで運搬す 求され,進歩している領域といえる。撤去技術 るルートや手段を確保している場合には,その についても同様である。そこで,北海北部にお 方法をとってもよい。あるいは地下圧入してし ける撤去状況・コストを理解すれば,世界の他 てしまうという方法もあるが,その場合はその の地域における廃鉱・廃山の状況を理解する上 ための機材およびポンプの設置をしなければな で有用と考えられる。 らないし,当然許認可をとる必要もある。 ジャケット解体の準備 ジャケット解体準備作業は,以下のように三 プランニングフェイズ 巨大プラットフォームを解体するとなると, 当然ながらその費用も非常に大きなものとなる ため,プランニング段階から詳細な検討を実施 つのパートに分けて考えることができる。 ・検査:坑井が的確に廃坑されており,正しい するのが普通で,この他に関係各所への届け出 方法でアイソレートされているかチェックす や許認可の取得,サブコン選択・入札などをあ るフェイズである。また,この段階で全ての わせると,撤去作業を開始するまでに,2年の エクイップメントのインスペクションを実施 年月が掛かるのが一般的である。 し,廃坑作業が完了されており,陸上での解 体作業に持ち込んでも良い状況にあるか,否 かを判定する。例として,危険物の存在を知 プラットフォームコンダクタ撤去 キルウェル&プラギング作業により油層の遮 断が完了した後は,ケーシングパイプを切断し, 引き抜かねばならない。北海の主な地域におい らせるタグを付けたり,トップサイドモジュ ールのレイアウトや作業詳細を記しておく。 ・資機材運び出し準備:このフェイズでは,取 り外されたプラットフォームの機材を運び出 ては海底面下5m以深の位置で全てのケーシン グを切断し,回収しなければならないという規 制が敷かれている。また,切断されたコンダク すSSCVやクレーンベッセルがロケーション に到着する前に,各機器に監識の取り付けを ターおよびケーシングはすべて抜管・回収・処 実施し,クレーン作業の簡易化をするフェイ 分をしなければならない。 ズである。同時にモジュール内のコネクショ ン,電気ケーブルなどあらゆる接続を全て外 汚染物質,危険物質の確認 貯蔵庫やパイプラインとして使用していたエ しておく。 ・撤去フェイズ:トップサイドモジュールが二 クイップメントには有毒で危険な物質が付着し 段になっている場合,アッパーモジュールの ている可能性がある。また,重金属や有機溶剤 下面などには監識を取り付けておくことがで コンパウンド,放射性物質など,様々な物質が 付着している可能性もある。当然,これらを解 きないが,モジュールのTop Layerが取り外 されている間に,モジュールの下半分に監識 体する前にそういった物質の回収および洗浄を を取り付けることは可能である。この作業は 完全に実施しておくことも必要である。表3に 大変忙しい作業で,溶接屋と溶断屋,巻き上 可能性のある付着物質のリストを挙げる。 げ係りなどクレーンベッセルで働いているチ ーム全員で行う作業である。 プラットフォームのシャットダウンと洗浄 ストラクチャの解体,撤去を行う前に,プラ ットフォームのシャットダウン,洗浄を完了さ 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 92 ― トップサイド取り外し 準備が完了したらトップサイドを解体・撤去 表3 Sources of Hazardous Residues & Material CATEGORY MAIN SOURCES PRINCIPAL COMPONENT MATERIALS Heavy Metals Anodes Al, Zn and some Pb Batteries Ni, Cd, Pb Lights Hg Pipework(seawater service) Cu, Ni Wiring Cu Electrical Equipment Cu, Sn Plated Bolts Cd Paints, coatings structure and cladding on Pb, Zn, Cu, Al Sediments adhere to vessels/equipment Fe, Pb, Zn, Cu, Hg Oils Storage tanks, other vessels/equipment, Sediments, wax, and residual process pipework, rotating equipment, lifting oils including lube oil and hydraulic oil, equipment, and drilling equipment diesel and other oils. Halogenated Organics Transformers(& fluorescent light fittings) PCBs Fire Fighting Equipment Halon AC/Refrigerators Freons Biocides Chemical Injection and Structual Fill Various(generally Systems aldehyde based) Other Materials Chemical Injection, Bulk and Warehouse Various chemicals Storage quaternary or Flare stack, gas lines, oil and water H2O(pyrophoric materials) injection systems, separators and vents Gaskets(possibly Pipework Insulation, Asbestos(fibrous/board ) Bulkhead Insulation) Hoses, cabling and as lining in some Rubber pipes Radioactive Materials Process Pipework, tubulars, Xmas Trees/Manifold, Separators, Oily Water Treatment System, process Vessels and storage tanks Luminous Signs Naturally occurring radioactive material(NORM) in the form of Low specific Activity(LSA) scale(Barium and Strontium & Calcium Sulphate & Calcium Carbonate, Radium 226, Actinium 238 and progency i. e. Lead 210(daughter isopes of Uranium 238 and Thorium 232) Smoke Detectors Tritium Level Control Devices Americium 241 Portable Equipment Caesium 137 Caesium 137, Iridium 192, Cobalt 60 and Americium/Beryllium することになる。トップサイドなどの大型構造 を運び出すには数ヶ月が必要となる。 物を運び出す場合にはSSCVを使うことが多い が,天候条件のよい夏であっても全ての資機材 ― 93 ― ジャケット解体 石油/天然ガス レビュー ’01・5 典型的な北海北部におけるプラットフォーム ジャケットは,クレーンベッセルの吊り下げ可 能重量や持ち揚げ可能高さなどの要因に応じて いくつかに切断され,引き揚げ,撤去されるこ とになる。ジャケット全体の運び出し作業には, 大きなメインリフト10基と,多数の小型リフト が必要である。 海底の点検と清掃 プラットフォーム撤去後の海底に汚染物質や 残存資材が落ちていないか確認し,ある場合は それらの撤去を行い。規制に沿うまで清掃を行 う。 陸上での廃棄 陸上に運搬完了したトップサイドモジュール 図2 Northern North Sea Production Platform は,分解・点検され,使用可能なものについて は再利用,廃棄など様々な方法で処分される。 ・ジャケットストラクチャは,8本脚で,それ ぞれの脚は周囲にパイル群を打ち込まれてい 4 北海北部において典型的な大規模プラット る。そのパイルの直径は60インチで海底に フォームの撤去費用 このセクションでは,北海北部の典型的なプ 40mも打ち込まれている。このパイルは海底 に掘り込まれたスリーブ内にセメント固定さ ラットフォームを廃鉱する際の条件を以下のよ れている。ストラクチャ高さは153mで,引 うに設定し,費用試算をする。 き抜くには17,200tonの引っ張り力が必要で 対象プラットフォームスペック ここで例にあげ,費用試算をする英国領北海 ある。 ・ジャケットベースにはドリリングテンプレー トがパイリングされている。 北部に実在するプラットフォーム(図2)のデ ータを記す。 ・設置箇所の水深は140mである。 ・トップサイドには以下の各ストラクチャが付 費用算出法 北海北部において典型的なプラットフォーム 随しており,総重量は23,500tonである。 の撤去費用試算をする前に,REL社が費用評価 を行う際にとる一般的な方法について紹介す ・放散ブーム る。なお,このシステムは費用の重複を避け, ・排気塔 入力データの追跡・確認が容易にできるよう ・掘削装置 に,以下の費用コード分類を設定している。 ・掘削やぐら プラットフォーム撤去作業を4段階に分ける。 ・居住区,ヘリポート AF10:Well Abandonment ・コンプレッサー室 AF20:Systems Decommissioning ・油貯蔵庫 AF30:Topside Removal & Disposal ・発電機 AF40:Jacket Removal & Disposal ・坑口装置 この大きな分類項目(Phase)をAF(Activity ・セパレーター Functions)と呼ぶ。さらにこの各AFを, ・モジュールサポートフレーム AE10:Project Management 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 94 ― ・現在,英国沖大陸棚や英国の規制が効力を有 AE20:Design & Engineering AE30:Supply & Fabrication する地域に存在するプラットフォームを対象 AE40:Offshore Personnel & Spread としている。他の地域でのオペレーション費 AE50:Onshore Personnel & Spread 用算定には適用すべきではない ・ここで見積もった費用のほとんどは,的確な AE60:Other Project Charges AEX0:Contingency 調査とエンジニアリングに基づいており,そ 7つのAE(Analysis Element)に分類し,各 のコスト評価方法は,廃鉱に先立ち,経済的 AEに対してCI(Cost Item Elements)を定め, 各エレメントのコスト評価・単価設定をする。 かつ技術的に充分正当性が確認された方法で あるが,Pipelineの埋設や移動,不慮の事態 による損傷などによる費用増は考えられてい 例えば,AF10:Well Abandonment Phase, 用はAE30-50を合計した時間・コストの5%程 ない。 ・明確な費用算定ができないため,ドリルドカ 度と見込まれる,とかAE20はAE30-50合計の ッティングスなどの回収・撤去・処分費はこ 10%程度と見込まれる,というような情報及び 資材単価情報などを元に,各作業の単価や工数 こで見込む費用に含んでいない。 ・ケーシングアニュラスに残存しているオイル (時間)を見積り,工数に単価を乗じて合計し, 各作業の費用を算定評価する。また,典型的な ベースマッドの除去は見込んでいない。 ・坑井のプラグアンドアバンダンが完了した AE10:Project Managementに掛かる時間・費 コンティンジェンシーを以下のように見込む。 ら,海底面付近でセバリングを実施し,コン ・Well Abandonment:10% ダクターおよびケーシングの撤去を開始す ・System Decommissioning:10% る。 ・Preparations for Removal:30% ・全て通貨はイギリスポンド表記である。 ・Topside Removal:30% ・作業ごとにコストを見積もっている。 ・多くの経費は計画・予算ベースで求めてい ・Jacket Removal:30% る。また競争原理や入札の可能性については ・Onshore Disposal:10% 考慮していない。 General Costing Assumptions 今回のコスト試算時の前提として,以下のこ ・SSCVやHLVなどのマリンエクイップメント を供給するのはコントラクターであり,その とが成立しているとする。 ・撤去するファシリティやロケーションにより 選定やネゴシエーションには充分な時間があ 条件がそれぞれ異なるため,一般的な費用算 ると前提する。 ・動復員費には人員,機材,船体の輸送費およ 定法を適用しようとするのは根本的に間違っ びクレーンベッセルの作動テストその他機材 ている。 インスペクション費用などを含んでいる。 表4 Summary of Estimated Decommissioning Costs Cost Estimate Table Estimated Cost (£Million) AF 10 Well Abandonment Table 2.4.04 15.93 AF 20 System Decommissioning Table 2.4.06 1.05 AF 30 Topside Removal & Onshore Disposal Table 2.4.10 46.53 AF 40 Jacket Removal & Onshore Disposal Table 2.4.13 67.53 Total Estimated Cost 131.24 Activity Function ― 95 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ・動復員費はランプサム方式ではなく適切なデ 問題点の解決につながるような新技術について イレート見積りから算出している。 ・必要に応じて製作される物品については,特 紹介している。 記事項がない限りは重量に応じてコスト算定 1 サブシーエクイップメントの種類 する。 ・特記事項がない限り,各ベッセルのオペレー 一口にサブシーエクイップメントといっても ティングコストには使用するアイテムのレー 非常に多岐にわたっており,例えばサブシース トが含まれる。 トラクチャ(坑口保護構造物など)ひとつとっ ・オフショアにおけるクルーは3直2交代の12 時間勤務で,交代期間は14日とする。 ・必要に応じてヘリコプターを使用するとした が,ヘリコプターの動復員費は考慮していな い。 ・オフショアオペレーションおよびオンショア ても,重量が数tonのものから1,000tonのものま での広い幅持つ。同様に,パイプラインには数 km程度のフレキシブルパイプもあれば, 100km以上の長さをもつソリッドパイプもあ る。この多様性は,海洋開発が促進され,開発 環境が変化(大水深域や遠隔地への移行など) ディスポ−ザルに関する許認可は全て取得し していくにつれ,開発会社やサービスコントラ ている。 クタに要求される内容が多様化していったこと により生じたものと考えられる。これと同時に, 北海北部型大規模プラットフォームの撤去費 撤去・回収する技術も当然ながら細分化されつ 用試算について 上記の方法・前提により算出した各フェイズ つ,発展してきている。 のコスト評価をして,これらを合計したものが 表.4である。詳細については,本レポートを参 ①坑井(生産井/圧入井) ここでいう坑井とは,ケーシング(図3) ,仕 照いただきたいが,北海において のような条 件の北海北部において典型的な大規模プラット 上げ機器,坑口装置(図4)など,つまりは坑 フォームを撤去し,地上に廃棄する費用は合計 崩壊を抑え,坑壁を保つためのパイプであるが, で約£131.2MM=約US$189.2MMという莫大な 同時に地層間の導通を遮断し生産流体と地層水 額になると試算される。 などのコンタミを防止する,という目的ももっ 井の痕跡のことである。ケーシングとは地層の ている。そのためケーシングはセメントコラム 部 サブシーエクイップメント・ストラクチ によりパーマネントに固定されている。しかし, ャの撤去費用及び今後のデコミッショニ 長期にわたって油・ガスの生産をしてきた坑井 ング技術について も,いつかは産油層・産ガス層の圧力が低下し, 経済生産が不可能になるわけで,それが不可能 オフショアにおける廃鉱作業とは,プラット になった時点で廃坑されることになるものであ フォームのように海面上に存在する機器の撤去 る。そしてその際には,油層とつながった空間 と同時に,海底に設置されているサブシーウェ であるケーシングが環境汚染を引き起こす可能 ルヘッドやパイプライン,その他のサブシーエ 性を無くすため,坑井の廃坑時には,的確な処 クイップメントの完全な撤去も含んでいる。本 報告書の第Ⅲ部では現状におけるサブシーデコ 理による油層と地表との遮断,海底面下何m以 浅のケーシング抜管を実施しなければならない。 ミッショニング技術について述べている。ここ 当然各国において厳しい義務・規制が存在して では,これらサブシーエクイップメントにはど いる。同時に,坑内に挿入されている仕上げ機 のようなものがあるのかを紹介し,概略を説明 材やプロダクションチュービング,クリスマス してから,それらの撤去技術の現状について述 ツリー(図5)や坑口装置などの坑口装置の撤 べている。また最後に,海洋廃鉱技術の様々な 去に関しても厳しい規制が存在する。 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 96 ― 図3 Sample Well Status Diagram ― 97 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 図4 Typical Wellhead Detail (Source : ABB Vetco Gray) 図6 Pipeline Installation Using S-lay (Source : EMC) 障害が考えられる,つまりは従来,パイプライ ンの設置深度が制限されてきたのはこの理由に よるものだったのである。 これに対して,現状では,製鋼技術も進んだた め,リジッドパイプであっても一本のストリン グにしてリールに巻きつけ,設置するときには 図5 Schematic of Christmas Tree Components それを延ばしながら海底に降ろしていくという ②パイプラインシステム 油・ガス井からプラットフォームまでをつな ものが主流となっており,大深度域にでもパイ ぐフローラインもあれば,プラットフォームか ら地上までつなぐパイプラインもあるが,これ ③チューブ類,ケーブル類 油層内にケミカルを注入したり,各バルブ制 には大きく分けてリジッドタイプのものとフレ 御装置に潤滑油を注入したりするための導管な キシブルタイプの二通りがあり,それぞれ用 どを一まとめにしたチューブ類や,送電線を束 途・設置条件が異なっているが,この文では主 ねたケーブル類である。 流となっているリジッドタイプに限って説明す ④サブシーストラクチャ 海洋開発にはサブシーテンプレートやサブシ る。従来は,設置時に図6に示すようなS-lay と呼ばれる機器を使用してきた。この装置はデ プラインの設置が可能となっている。 ーバルブユニットなどのサブシーストラクチャ ッキ上で次々とパイプを溶接していき,海中に が欠かせないものであり,その種類も非常に多 降ろしていく装置である。海中に入ったパイプ い。典型的なものが図7に示すようなサブシー は海中に吊り下がっていくのであるが,水深が ウェルヘッド保護構造物やパイプラインマニホ 深くなると,パイプの強度以上のテンションが ールドなどである。これらの構造物はトローリ かかり,パイプが切断もしくは展長するという ング漁船の底引き網や落下物の衝突に耐え,坑 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 98 ― 図7 Subsea Development with Manifold, Subsea Wellheads & Bundle (Source : Britannia Operators Limited) 口装置などを守るように設計されている。また, 理を実施し,プラグを設置しなければならな 巨大な水圧にも耐えられるように,あるいは設 いことは前項までに説明しているとおりであ 置作業を行いやすいようにパイプ類を組み合わ る。各国において様々な規制があるが,この せて構成されており,重量は20ton程度のもの レポートではUKOOA ガイドラインに従っ た撤去方法・技術について説明している。こ から900-1000tonを超えるものまで様々である。 そのため,小型のものであればDSVやサポー トベッセルでも設置可能であるが,巨大なスト の規制は基本的に, ・浸透性のある層はすべてそれぞれ分断し,ま ラクチャを設置するとなるとSSCV Heavy Lift た表層とも完全に遮断すること ・炭化水素産出層には少なくとも二重のシール Vesselのような機器が必要となる。 を施さなければならない。 サブシーデコミッショニング技術の現状 前項で説明したように,サブシーエクイップ ・ケーシングは海底面下3m以深の部分を除い て,全て抜管・回収しなければならない。当 メントは多岐にわたっており,それぞれが複雑 に発達している。当然それにあわせて撤去技術 然坑口装置は全て回収しなければならない。 というものであるが,廃坑作業自体は基本的 も細分化され,それぞれについて最適化がなさ に地上の坑井と同じため省略する。 れている。この項ではそれらを紹介していく。 ①坑井の廃坑 ・生産が不可能となった生産井やそれ以上の圧 入ができなくなった圧入井は,完全に廃坑処 ②パイプラインの撤去 現状では,英国領海域においてはパイプライ ンを全て回収するか,あるいはそのまま放って おくかの判断はケースバイケースとなってい ― 99 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 る。従来であれば,パイプラインのデコミッシ 品は,疲労も激しく再利用は難しいのが現状で ョニングとはそのまま放っておくことを意味し ある。 ていた。それは技術的な問題など様々な要因に よっていた。しかし,リーリングやReverse S- 2 北海におけるサブシーエクイップメント撤 lay,Subsea Sectioning and Lift等のような技 術の発達とともに,放置しておくのではなく回 去費用評価 サブシーエクイップメントの撤去費用の正確 収する,というのがパイプラインデコミッショ な評価は,高度なエンジニアリングに基づく評 ニング方法の主流となってきている。この作業 価によって初めて可能となる。このレポートの は,パイプラインとプラットフォームライザー 目的の1つは,北海における一般的な撤去費用 とサブシーストラクチャを結びつけるタイ・イ を明らかにするということであったので,以下 ンスプールを切断・回収する作業に始まる。そ に北海における撤去費用の算定・評価の例を紹 の後パイプラインを洋上に引き揚げ,Reverse 介する。 S-Lay上で切断していくか,Reel Vesselにより フィールド設定 巻き上げていくかして回収していく。 ③サブシーストラクチャ サブシーストラクチャの規模や重量に幅があ アバディーン東方220km,水深約90m,5つの 海底仕上げ坑井から1つのセントラルマニホー ることは説明済みであるが,これらの回収作業 ルドにタイ・インし,油・ガスを生産する油・ を簡単に説明する。坑井の廃坑,システムのデ コミッショニングが完了したら,サブシースト ガス田である。生産した油・ガスは12km離れ たプラットフォームに送られ,脱湿等の処理を ラクチャの回収を行うことができる。ここでは 行った後,第三者のパイプラインによって運び ハイドロカーボンの流出事故の可能性は無視 出される。各部のコントロールはプラットフォ し,また圧力も払われており電気の供給も終わ ームから伸びた電気ケーブルとハイドロリッ っている,またあらゆるケーブルも回収済みで ク/ケミカルインジェクションホースにより行 あるとする。サブシーストラクチャを回収する われている。また,油層に圧入される水やメタ 際にはまず,DSVをストラクチャー上に配置 し,ストイラクチャパイルを規制に準じた位置 ノールもパイプラインによってプラットフォー で切断する。このあとコストの低いDSVや リプロピレンコーティングシステムにより外部 MSVでは吊り上げ能力が不足であるため, と絶縁され,全長に渡り溝に埋められている。 Heavy Lift Vesselを利用して引き揚げ,HLV 水・メタノール圧入Lineはコーティングが, のDeck上に載せるか,バージ(運搬船)に移 して陸上まで運ぶ。このときどちらの運搬方法 Fusion Bonded Epoxyコーティングであるがこ の点以外はプロダクションラインと同一であ を選ぶかは天候の状況次第である。先述のとお る。なおこれらのパイプラインは先述のReel り,HLVは悪天候に弱いので,天候が悪く吊 り上げ作業ができそうになければ,わざわざ新 たなバージを庸船せずHLVで運べばよいし, ムから送られている。生産用パイプラインはポ Lay Techniqueにより敷設されたものである。 Pipeline Tie-inとWell Jumper部分だけにはフ レキシブルパイプが使用されている。またプラ 天候条件がよけければHLVで迅速に引き揚げ てしまい,コストの低いバージを庸船して次々 ットフォームやマニホルド周辺の交差箇所やフ に運び出せばよい。このように最適な方法でサ マットレスを敷いてある。またパイプラインや ブシーストラクチャの搬出を実施する。 アンビリカルの設置時にはRock Dumpは使用 されていなかった。また,アンビリカルのター ④陸上での廃棄 プラットフォームモジュールと同様に,陸上 に運搬し使用可能であれば再利用等も考えられ レキシブルパイプとの接続点にはパイプライン ミナルがプラットフォームのそばには設置され ている。 るが,海底の環境下で長期に使用されてきた物 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ― 100 ― 表5 Summary of Estimated Decommissioning Costs Estimated Cost Activity Function Cost Estimate Table Pipeline Abandonment Pipeline Removal AF 10 Well Abandonment Table 3.3.04 4.89 4.89 AF 20 System Decommissioning Table 3.3.05 0.18 0.18 AF 30 Subsea Structure Removal Table 3.3.08 6.43 6.43 AF 40 Pipeline Abandonment/Removal Table 3.3.16/ Table3.3.17 3.82 8.97 15.32 20.47 Total Estimated Cost(£Million) コスト算定法の説明 北海におけるサブシーファシリティの撤去費 用試算をする前に,REL社が費用評価を行う際 にとる一般的な方法について紹介する。なお, ①Versatruss Lifting System Versatruss Lifting Systemは,トップサイド ストラクチャやジャケットストラクチャのよう な巨大で重量の大きいものを吊り上げるための また,この際のコード分類や,諸前提はプラッ 技術である。メキシコ湾における実績では,海 トフォーム撤去費用算定時とほぼ同じなため説 上にある物体であれば30,000tonまでつること が可能で,水中のジャケットストラクチャであ 明を省略する。なお,各作業の費用に見込むコ ンティンジェンシーは以下のように見込んでい る。 っても4,000tonまで引き揚げることができるよ うになる。一回の吊り上げ重量が大きくなれば, ・Well Abandonment:20% 吊り上げ作業の回数が減り,当然コスト削減が ・System Decommissioning:10% ・Subsea Structure Removal:20% できる。現状におけるVersatrussには,もっと 動復員の容易化,ストレッジコストの低減が求 ・Onshore Disposal:10% められているが,北海南部方の小型プラットフ ・Pipeline Abandonment / Removal:20% ォームの撤去費用については30%以上の低減が 可能と見積もられている。また,北海北部方の コスト試算の前提 プラットフォームの撤去コスト算定法と同 大規模プラットフォームの撤去費用の削減も充 分可能となる見込みである。 ②Smart-Leg Deck Lifting System オフショアプラットフォームの巨大化に伴 一。 サブシーデコミッショニングコスト試算 上記の方法・前提により算出した各フェイズ い,設置するべき資機材重量が増えてきており, それには巨大なバージや多数のクレーン船を使 の費用算定をして,これらを合計したものが表 用しなければならない。そこで運搬船に,巨大 5である。詳細については,本レポートを参照 なパイルされた脚部を備え付け,巨大な構造物 いただきたいが,北海において のような条件 のサブシーファシリティをデコミッションする を吊り上げることができるようにしてしまう技 費用は合計で約£35.8MM=約US$51.6MMと試 によりSmart-Legを備え付けてしまえば, 算される。 20,000tonの可載重量を持つようになる。当然 廃坑時の時間短縮・費用削減を可能とする技術 3 海洋プラットフォームの撤去技術最新動向 である。しかし,現状においては解体計画への について 術である。従来型の運搬バージであっても改造 適用を目的として開発しているコントラクター はないため,費用試算はできない。 ― 101 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5 ③CVBS Jacket Lifting System 巨大なジャケット構造物を海中から引き揚げ イルドチュービング技術を使用すればキルウ るのはHeavy Lift Vesselの能力でも不可能であ る。そのため,設置時にジャケットにフロート る。これはリグタイムの大幅な節減につなが を取り付けてあるのが通例である。ジャケット ・Plug Leakage:セメントプラグのリークは よく見られる問題で,問題箇所の把握・修正 を引き揚げ,曳航するときにはCVB ェルを実施しないままの状態で実施可能とな り,それによりコストの削減が可能となる。 (Controlled Variable Buoyancy)の中に空気を 注入して膨らませ,フロートとして使用するも に余分な時間がとられることが多いが,あら のことができる。この技術は安全性を増し,コ の状況がわかっていれば,その状況に合わせ ストの効果的削減を可能とする技術として開 たセメントスラリー性状の選択やセメンチン 発・発達が進行中であり,コストを35-40%削 グ計画をたてることができ,失敗が減るはず かじめリザバーやチュービング,ケーシング 減できると見込んでいる。 である。この問題はnano-Technologyの発達 ④Pieter Schelte により解消が可能と考えられる。 Topside & Jacket Lifting System オランダの造船会社がプラットフォーム建 ・Downhole Operations:各ツールスの信頼性 が増し,チュービングやケーシングの切断作 造・撤去のために建造を計画している船であ る。巨大なタンカーを二つ並べたような形状を しており,船体の後方に巨大なクレーンを備え ている。設計コンセプトは1987年に立てられた が,建造が完了しオイルフィールドに登場する のは2002年の夏を予定している。デコミッショ ニングの際にはプラットフォームを二つの船体 業の効率化が進むはずである。 ②System Decommissioning Technology パイプラインシステムを撤去する上で大きな 課題となっているのは,環境汚染を防止し, HSEリスクを減らすもしくは無くすことであ る。この問題は,残留可燃性炭化水素,有毒ガ ス,低比重固体スケール,自然発火性スケール, の間に挟んで停泊し,その場でトップサイドを ハイドレートなどにより引き起こされている。 巨大クレーンで吊り上げ,ジャケットとの切り そのため,これらの問題を解決するには以下の 離し作業を行い,デッキ上に積載し陸上に運ん 新技術の発展が有効と考えられる。 でしまう。その後再びロケーションに戻り,残 ったジャケットを引き抜く。この船の登場によ ・Data Capture Technology:インスペクショ ン精度が向上すれば,パイプラインの内側の り,トップサイドの解体・運搬という長時間を 状況を正確にチェックできて,環境汚染の可 要し,費用の掛かる作業が,一度の切断・吊り 能性を低減できる。 上げ・運搬作業となり,コストの削減が可能と なる。またジャケット引き抜きに付いても同様 ・Pig Development:最近では,海底パイプラ インにピグを通せるようになっているため, である。この他にも巨大プラットフォームを解 スクレーピングもしくはブラッシングを実施 体 す る 機 器 は 数 種 ( Mastermind Topside してパイプライン内面の固形分を削ぎ落とす Lifting System,MPUなど)が生まれ,いずれ 必要がなくなっている。現在はパイプ内径の も費用削減を可能とする見込みである。 98%程度のピグ外径が限界であるが,将来的 4 サブシーエクイップメントの撤去技術最新 にはより高いレベル(100%)のピグを使用で きるようになり,パイプライン洗浄効果も向 動向について 上するだろう。 ・Surfactance:界面活性剤合成技術の発達に より,危険性の低いケミカルの使用が可能と ①Well Abandonment Technology なり,環境汚染の可能性を減らすことができ ・Kill Well:従来はキルマッドのブルヘッディ ングによりキルウェルを実施してから行って いた油層へのセメントプラギング作業は,コ 石油/天然ガス レビュー ’01・5 るだろう。 ②Subsea Structure Removing Technology ― 102 ― 上記の のような技術の発達により,巨大な サブシーストラクチャの設置・撤去が可能とな 術の一部を紹介する。 ・パイプライン再利用:海底からパイプライン ったことにより,作業の迅速化・効率化・費用 を回収し,他の分野での再利用を図る技術に の削減が可能となってきている。 ③Pipeline Abandonment & Removal Technology 従来,パイプラインの設置・撤去においては, ついても発達を見せている。 ・パイプライン再加工:腐食などの作用によ り,油田寿命が尽きる前にパイプ寿命が尽き そのパイプラインのスペックやロケーション状 てしまった場合,あるいはパイプ寿命が尽き 況,作業の進捗状況など多くの要因により,そ る前に油田寿命が尽き,他のフィールドにそ れぞれ特集な機器を使い分けることで対応して のパイプを転用する場合,パイプラインの内 きた。この流れは今後も変わることはなく,更 面に重合体皮膜を形成するような再加工を施 に発展していくと思われる。以下にこれら新技 す技術も生まれている。 ― 103 ― 石油/天然ガス レビュー ’01・5