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その3(PDF形式:637KB)

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その3(PDF形式:637KB)
第3章
雇用・社会保障と家計行動
【第1節】労働市場の構造変化と家計行動
•
1
非正規雇用化が進んだ労働市場
非正規雇用者はすう勢的に増加し、その比率は3分の1に上昇した。2002
年から 2007 年にかけて、製造業などで、正社員を削減し、派遣社員を増加
させる動きが目立った。
派遣社員等の非正規雇用者は失職のリスクが高いなど大きなリスクに直面
している。
2000 年以降、失業給付受給者の伸びが失業者数の伸びを下回るなど、セーフ
ティネットのあり方につき注意を要する点も見られる。
•
•
第3-1-3図
性別・年齢別就業率の変化
第3-1-6図
若年で正社員が減少し、非正規が増加
60歳以降は正社員、非正規ともに増加
従業上の地位別失業率の推移
地位別失業率を見ると、派遣社員は水準も高い上、
2008 年後半以降、急上昇
2002年から2008年の就業率の変化(男性)
(%)
12
労働者派遣事業所
10
の派遣労働者
パート・
契約社員・嘱託
8
アルバイト
6
その他
(%)
25
20
派遣社員
15
4
正社員
パート・
アルバイト
2
10
0
-2
5
-4
就業者
役員
-6
自営家従等
正規の職員・従業員
-8
0
2002
15-19 25-29 35-39 45-49 55-59 65-69 75以上
失業 者数と失業給付受給者の推移
第3-1-7図
15
失業者数
0
-5
-10
-15
-20
失業給付
受給者数
08
09
08
(年度)
(備考)総務省「労働力調査」、厚生労働省「雇用保険事業統計」
により作成。
- 19 -
サービス業
07
医療・福祉
06
卸売・小売業
05
運輸業
04
情報通信業
03
07
産業別雇用形態別雇用者数の動向
製造業
02
建設業
-25
2000 01
06
雇用形態別にみた雇用者数の増減
(2002年から2007年)
(差、万人)
120
100
契約・嘱託
その他
80
60
40 派遣
20
0
-20
-40
正社員
-60
アルバイト
-80
パート
-100
(前年比、%)
5
05
医療・福祉で雇用者数増、
製造業では正社員減、派遣社員や契約・嘱託社員増
2000 年以降、失業給付受給者数の伸びは
失業者数の伸びを下回る傾向
10
04
(備考)「労働力調査(詳細集計)」により作成。
地位別失業率は前職の失業者数から仮定的に計算。
(備考)「労働力調査(詳細集計)」により作成。
コラム3-1図
03
(備考)総務省「就業構造基本統計調査」により作成。
2
雇用形態の変化と家計
•
非正規化の動きは、先進国で共通の動きであるが、雇用保護規制が厳しいと、
非正規雇用への依存が高まる傾向にある。もっとも、我が国は雇用保護規制
の度合いは緩めであるが、非正規化が進んでいる。
雇用保護規制が厳しい国では、平均失業期間が長期化する傾向がある。
我が国のデータによると、世帯主が非正規雇用者の場合、家計貯蓄率が相対
的に高くなる傾向がある。
•
•
第3-1-10 図
先進各国における非正規雇用者比率
この 10 年間で、主要国の多くで非正規比率は上昇
(1)OECD諸国における雇用者に占める非正規労働者の比率の変化
(%)
35
30
25
20
15
10
5
0
2007年
1997年
スペイン
ポルトガル
オランダ
スウェーデン
フィンランド
E U平 均
ドイツ
日本
フランス
イタリア
スイス
カナダ
G 7平 均
アイスランド
トルコ
ノルウェー
デンマーク
アイルランド
オーストリア
ベルギー
チェコ
ハンガリー
ルクセンブルク
イギリス
スロバキア
アメリカ
(備考)“OECD Stat.”により作成。アメリカは 2005 年。それ以外の国は 2007 年。非正規比率は、各国
比較の便宜上、temporary employment の比率を用いた。
第3-1-13 図
雇用保護規制の度合いと非正規雇用比率
第3-1-17 図
非正規雇用が家計に与える影響
解雇規制の強い国では非正規雇用比率が高い傾向
世帯主が非正規雇用者と見られる世帯ほど貯蓄率が高い
非正規雇用による貯蓄率押し上げ
(%)
(%)
非
正
規
雇
用
比
率
9
30
8
25
7
6
20
ドイツ
日本
15
5.9%
5
フランス
4
カナダ
10
7.8%
3
2
5
アメリカ
英国
1
0
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
世帯主の収入が
理論値よりも
15%以上低い場合
3.5
雇用保護指標(総合評価;第二指標)
(備考)"OECD.Stat"により作成。
世帯主の収入が
理論値よりも
25%以上低い場合
(備考)総務省「家計調査(貯蓄負債編)」の特別集計
により作成。実際の世帯主収入が賃金関数による理論
値を下回った場合に、非正規雇用世帯とみなした。
- 20 -
3
•
•
雇用形態の変化と雇用調整
非正規雇用比率が高まるほど、雇用調整速度は速くなり、解雇規制が強い
ほど、雇用調整速度は遅くなる傾向が見られる。
多くの国で、非正規雇用の増加や雇用保護規制の緩和により、経済にショ
ックが生じたときの雇用調整が速まっている。我が国の雇用調整速度は国
際比較の観点からは依然低い。各国で雇用調整が進む中、GDPの減少率
との対比で失業率の動きを評価すると、我が国はドイツ等よりは調整が早
いが、アメリカ等と比べ遅いようである。
第3-1-19 図
雇用調整速度と非正規雇用比率、雇用保護規制の度合い
雇用調整速度と非正規比率には正の関係、雇用調整速度と解雇規制には負の関係
(1)雇用調整速度と非正規雇用比率
(2)雇用調整速度と雇用保護規制
1.0
1.0
0.9
0.9
0.8
雇
用
調
整
速
度
0.8
雇
用
調
整
速
度
0.7
0.6
0.5
0.4
日本
(1995~2007)
0.3
0.7
0.6
0.5
0.4
日本
(1995~2007)
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
日本(1980~94)
0.0
0
10
日本(1980~94)
0.0
20
0
30
1
2
3
4
雇用保護指標(総合評価;第一指標)
非正規比率
(備考)"OECD.Stat"により作成。色抜きのポイントは 1980~94 年、色付きの点は 1995~2007 年。
第3-1-21 図
今回の後退局面における就業者数、失業者数の実質GDP弾性値
就業者数の実質GDP弾性値は、日本は比較的小さい
失業者数の実質GDP弾性値は、日本はほとんどゼロに近い
(1)就業者数の対GDP弾性値
(2)失業者数の対GDP弾性値
0
2.5
-10
2.0
-20
-30
1.5
-40
1.0
-50
-60
0.5
-70
ド
オ
ス
日
ベ
韓
フ
ハ
イ
ト
ギ
ポ
チ
フ
英
オ
ス
ル
ス
カ
デ
ニ
ア
ア
ス
ア
オ
ノ
-80
ス
ノ
ア
ア
ギ
ハ
ア
カ
ポ
デ
ニ
ス
英
ト
オ
ス
イ
韓
フ
日
ベ
0.0
イ
ラ
ロ
本
ル
国
ィ
ン
タ
ル
リ
ル
ェ
ラ
国
ー
ウ
ク
イ
ナ
ン
ュ
イ
メ
ペ
イ
ー
ル
ペ
ル
イ
メ
リ
ン
イ
ナ
ル
ン
ュ
ウ
国
ル
ー
ロ
タ
国
ラ
本
ル
ツ
ン ダ
バ キ ア
ラ ン ド
リ ー
ア
ス
ャ
ガ ル
ト リ ア
ー デ ン
ン ブ ル グ
ン ド
ラ リ ア
ー
ク
ー ラ ン ド
ン ド
ー
ン ド
ー
ジ
ラ
カ
ン
ラ
ト
ェ
ン
ェ
ラ
カ
ャ
リ
ラ
ル
ク
ー ラ ン ド
デ ン
ー
ン ド
ガ
ー
ジ
ー
ギ ー
ン
ガ
リ
コ
シ
ト
コ
ン
ス
ェ
セ
ス
ダ
マ
ー
ル
リ
イ
ス
ス
ウ
イ
ウ
ス
リ
シ
ガ
ル
ダ
ト
マ
ー
ェ
コ
ス ト ラ リ ア
バ キ ア
リ ア
ン ス
ギ ー
(備考)"OECD.stat"により作成。就業者数弾性値=(07 年以降の就業者数のピーク値とボトム値の変化率)÷(07 年以降
の実質 GDP のピーク値とボトム値の変化率)
- 21 -
【第2節】賃金・所得格差と再分配効果
•
•
1
賃金・所得格差の現状
賃金、家計所得(再分配前)の格差の拡大傾向は続いている。
賃金格差の拡大には、非正規化が寄与したと見られるが、家計所得に関して
は、引き続き高齢化等の人口動態要因が格差拡大方向に寄与している。
第3-2-2図
労働所得の格差の要因分解
労働所得の格差は緩やかに拡大しており、雇用の非正規化がその主因
(1)労働所得のMLDの推移
(2)最近の変化の要因分解
0.04
0.33
0.32
格差拡大
0.31
正規・非正規の構成比変化
0.03
同一雇用形態内
の格差の変化
0.02
縮小
0.30
0.01
0.29
0.00
0.28
-0.01
0.27
-0.02
1987 1992 1997 2002 2007
正規・非正規の差
1997-2002
2002-2007
(備考)「就業構造基本調査」より作成。役員と正規雇用者を一グループとして計算。
第3-2-5図
家計所得の格差の要因分解
(ポイント) 家計の所得格差については、高齢化等の年齢構成の変化が押上げに寄与
0.020
年齢構成の変化
0.015
0.010
0.005
0.000
-0.005
-0.010
-0.015
-0.020
同一年齢階層
内部の格差の
変化
1989年→94年
異なる年齢階層
間の格差の変化
94年→99年
99年→2004年
2004年→08年
(備考)総務省「全国消費実態調査」「家計調査」を特別集計し推計。2004 年→2008 年のみ、家計調査に基づく
ことに留意が必要。総世帯の年間収入(公的年金・恩給を含む)に関する平均対数偏差(MLD)の要因分解。
- 22 -
2
•
•
景気後退と所得格差
所得格差拡大や相対的貧困率に対し、失業の増加は大きな影響を与える。失
業を加味した所得格差を見ると、景気回復局面で格差は縮小した。
長期失業はキャリアの中断により中長期的な賃金格差の拡大につながる。景
気回復こそが最大の格差対策であると考えられる。
第3-2-9図
失業を加味した賃金格差の推移
失業率の改善により労働所得の格差が縮小
(1)失業者を考慮したジニ係数
(2)失業者を考慮したMLDの要因分解(2002→2007 年)
0.02
0.44
0.43
構成比変化
0.01
雇用者と失業者
0.42
同一グループ
内の格差変化
0.00
0.41
-0.01
0.40
-0.02
0.39
雇用者
0.38
異なるグループ
の格差の変化
-0.03
1987 1992 1997 2002 2007
一般
雇用者
失業者
を考慮
(備考)
「就業構造基本調査」、
「労働力調査」より作成。一般雇用者のMLDの要因分解では、正規およびそれ以外の2つ
のグループに分割。失業者を考慮したMLDの要因分解では、1年以上の長期失業者を3つめのグループとして計上。
第3-2-10 図
失業が賃金に与える影響
失業を経験すると賃金面で大きな不利
年齢と年収
(年収・万円)
900
800
700
パターン1
パターン2
600
500
400
300
200
100
パターン3
パターン4
0
18
23
28
33
38
43
48
パターン5
53
58
(年齢・歳)
生涯賃金
(百万円)
250
200
150
100
パターン1
失業なし
パターン2
30歳で失業
再就職は
正社員
パターン3
40歳で失業
再就職は
正社員
パターン4
30歳で失業
再就職は
非正規
パターン5
40歳で失業
再就職は
非正規
(備考)厚生労働省「平成 19 年賃金構造基本統計」により作成。データ上、失業と転職は区別されて
いない。高卒男性。
- 23 -
3
•
•
税・社会保障による所得再分配
所得再分配が格差縮小に果たす役割は高まっている。税については再分配機
能が低下しているが、高齢化の影響から社会保障による再分配は見かけ上、
高まっている。
再分配の様子をやや詳しく見ると、高齢者以外の年齢層では再分配後もほと
んど格差は変わらない。再分配効果が低下する中で、公的年金中心の現行の
再分配制度は現役世代の格差是正という観点からは限界がある。
第3-2-11 図
再分配前後の所得格差(ジニ係数)と改善度の推移
所得再分配による改善度は年々高まっているが、社会保障による改善が中心
(1)再分配前後のジニ係数と改善度の推移
(改善度・%)
27
(ジニ係数)
0.6
ジニ係数の改善度
(右軸)
当初所得
再分配所得
0.5
0.4
24
21
0.3
0.2
18
15
0.1
12
0
1981
84
87
90
93
96
99
2002
9
05 (年)
(2)ジニ係数の改善度寄与度分解
(ジニ係数改善度・%)
30
社会保障による改善度
25
20
15
10
税による改善度
5
0
1981
84
87
90
93
96
99
2002
05
(年)
(備考)厚生労働省「所得再分配調査」により作成。(2)図の細線は旧方式、太線は 2005 年以降公表の新方式による。
第3-2-16 図
年齢別再分配前後の所得格差(ジニ係数)の変化
乏しい若年層における再分配効果
(ジニ係数)
(ジニ係数改善度・%)
50
0.9
0.8
0.6
45
ジニ係数の改善度
(右軸)
再配分所得
0.7
当初所得
40
35
30
0.5
25
0.4
20
0.3
15
0.2
10
0.1
5
0
0
29歳
以下
30~
34歳
35~
39歳
40~
44歳
45~
49歳
50~
54歳
55~
59歳
60~
64歳
65~
69歳
70~
74歳
75歳
以上
(備考)厚生労働省「所得再分配調査」により作成。2005 年調査の値。世帯主の年齢階級別。
- 24 -
【第3節】不確実性、社会保障制度と家計行動
•
•
•
1
家計を取り巻く不確実性と貯蓄
家計の貯蓄動機を尋ねると、
「病気などへの備え」
「老後の生活資金」と答え
るものが多い。
我が国のマクロ貯蓄率はすう勢的に低下してきた。これは高齢化の影響が大
きく効いており、その要因を除くと 2000 年以降緩やかな上昇傾向となって
いる。実際、30 歳代、40 歳代に着目すると、貯蓄率は上昇傾向にある。
雇用環境の不透明さが貯蓄率の上昇に寄与している可能性がある。
第3-3-4図
我が国の年齢階級別貯蓄動機
貯蓄目的として、20 歳代では「老後の生活資金」との回答が増加
(2)2008 年調査と 1998 年調査のかい離幅
(%ポイント)
15
20歳代
10
60歳代
5
0
-5
30歳代
-10
70歳以上
-15
50歳代
-20
40歳代
-25
-30
病気や不時の
災害への備え
老後の生活
資金
住宅の取得
または増築
耐久消費財
の購入資金
旅行・レジャー
の資金
(備考)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」により作成。
第3-3-8図
勤労者世帯(年齢別)と無職世帯の貯蓄率
貯蓄率は 30 歳代、40 歳代で高く、60 歳以上、無職世帯で低い
(%)
40
(%)
0
30歳代(16.3%)
35
40歳代(19.4%)
-5
-10
30
-15
25
-20
20
50歳代(18.8%)
15
30歳未満(2.4%)
60歳以上(10.1%)
無職世帯
(目盛右、33.0%)
10
5
1986
88
90
92
94
96
98
2000
02
-25
-30
-35
04
06
-40
08 (年)
(備考)総務省「家計調査」により作成。二人以上世帯で、2000 年以降は農林漁家世帯を含む。勤労者
世帯は年齢別。括弧内の数値は勤労者世帯と無職世帯の世帯数合計に対する割合。
- 25 -
2
社会保障制度の現状と国民の意識
•
•
国民経済に占める社会保障給付の割合は、高齢化等のため一貫して増大し
てきている。これは先進国共通であり、各国で給付の抑制等を通じて制度
の持続可能性を高めるための改革が進められている。
我が国の世論調査によれば、現在の社会保障制度に対する国民の満足度は
必ずしも高くない。一方、欧州における年金への信頼に関する世論調査を
見ると、北欧諸国など信頼感の高い国もあるが、ドイツ、フランスなどは
信頼していない者が非常に多くなっている。
第3-3-14 図
年金の将来に対する信頼感の各国比較
北欧諸国は年金に対する信頼度が高く、ドイツやフランスでは低い
デンマーク
フィンランド
オランダ
オーストリア
スウェーデン
ベルギー
スペイン
イギリス
イタリア
ルクセンブルグ
ポルトガル
フランス
ポーランド
ドイツ
3
6
29
16
19
14
12
11
14
12
11
9
7
5
20
28
29
24
32
35
41
42
37
38
0
47
39
18
(参考)日本 2
45
51
47
38
34
35
37
29
31
29
27
34
20
30
17
4
9
10
14
5
11
12
16
15
22
29
21
33
36
10
26
16
25
5
6 1
9
9
7
4
10
9
4
6
10
4
11
3
40
40
50
60
大いに信頼している
どちらかといえば信頼していない
分からない
70
4
80
90
100
(%)
どちらかといえば信頼している
全く信頼していない
(備考)European Commission“Special Eurobarometer 273”(2006 年 11~12 月実施)、内閣府「社会
保障制度に関する特別世論調査」(2008 年7~8月実施)により作成。日本は社会保障制度に対して「満
足している/まあ満足している/やや不満/不満/分からない・どちらともいえない」と答えた割合。
第3-3-16 図
高額療養費制度に対する認知度
年齢が上がるほど制度に対する認知度は高まるが、所得の影響は見られず
(2)年間収入階級別
(1)年齢階級別
(%)
(%)
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
20代
以下
30代
40代
50代
60代
70代
以上
200万 円
200~
400~
未満
400万 円
600万 円
未満
未満
600~
800~
800万 円 1000万 円
未満
1000万 円
以上
未満
(備考)内閣府「家計の生活と行動に関する調査」
(2009)より作成。医療費の自己負担額が一定額を超えた部
分を社会保険料から払い戻される「高額療養制度」について「よく知っている」と回答した人の割合。年齢階級
は、回答者本人の年齢。年間収入は、回答者個人の 2008 年1年間の税込収入総額。世帯主本人の回答に限定。
- 26 -
3
社会保障制度と家計貯蓄
•
•
•
年金に対する信頼感が高い国ほど、高齢化要因を調整した貯蓄率が低い傾
向がある。
一方、我が国のデータからは、老後の生活不安や年金に対する不安が、老
後の必要貯蓄額を引き上げるという関係が確認できる。また、医療費の負
担増への不安が強い家計は、消費を抑制気味になるという結果も得られて
いる。
社会保障制度に対する国民の信頼感を高めていくことが、過剰な貯蓄を削
減し、個人消費の下支えに資すると期待される。
第3-3-17 図
年金の将来に対する信頼感と貯蓄率の関係
年金への信頼感が高い国ほど貯蓄率が低い傾向
(家計貯蓄率、高齢化要因調整済 %)
15
13
ドイツ
フランス
イタリア
オーストリア
11
ベルギー
9
スウェーデン
7
日本
日本は、社会保
障制度について
「満足している
/まあ満足して
いる」と答えた
人の割合
5
3
1
-1
-3
オランダ
アイルランド
ポルトガル
デンマーク
フィンランド
-5
10
20
30
40
50
60
70
80
(年金の将来に対して「信頼している」と答えた人の割合 %)
(備考)OECD“OECD Economic Outlook”、European Commission“Special Eurobarometer 273”、
内閣府「社会保障制度に関する特別世論調査」により作成。日本は近似線の対象に含まれない。
第3-3-18 図
老後や年金に対する不安が必要貯蓄額に及ぼす影響
不安がある人ほど、老後に必要と考える貯蓄額が高い
不安がある人の必要貯蓄額における上乗せ額
(万円)
350
300
250
200
150
100
50
0
285万円
198万円
「非常に心配で
ある」
179万円
「年金や保険が
十分では
ないから」
「年金支給額が
切り下げられると
みているから」
(備考)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2008)の特別集計により作成。60
歳未満の回答者のみで推計。必要貯蓄額の平均は 2033 万円。
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むすび
本報告では、
「日本経済は今回の危機をどう乗り越えて、どのような姿の成長を見出してい
くべきか」という問題意識に基づき、分析や論点整理を進めてきた。その結果から示唆され
5
る、特に重要なメッセージを示すと以下のようになる。
(景気の先行きとリスク)
2007 年末頃から景気後退局面に入っていた日本経済は、
2008 年秋以降、
世界的な金融危機、
同時不況の下で急速な悪化を示すようになった。その悪化の「速さ」は過去にない急勾配で
10
あり、需給ギャップの状況から見ると極めて「深い」後退でもあった。
「長さ」も過去の平均
程度に達した可能性が高い。こうした厳しい景気悪化の最大の要因は、世界的な貿易の縮小
から自動車やIT製品等の輸出が大幅に落ち込んだことである。その結果、我が国は主要先
進国の中で最大のGDP減少率を記録した。
もっとも、現時点では、在庫調整の進展もあって、景気には持直しの動きが見られるよう
15
になっている。こうした状況のなかで、今後の回復へ向けた浮力として、第一に、2008 年後
半における交易条件改善の効果の発現、第二に、累次の経済対策等による効果の発現、第三
に、各国における景気対策や在庫調整の進展を背景とした海外経済の回復への期待などを指
摘することができよう。
一方で、依然大きな下振れリスクも抱えている。第一に、生産水準が極めて低くなったこ
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とから、雇用調整圧力が高くなっていること、第二に、需給ギャップの大幅なマイナスが続
く場合、デフレに逆戻りする懸念があること、第三に、米欧における金融危機が十分に沈静
化したとはいえず、海外経済にも下振れリスクが残っていることなどである。こうしたリス
クに注意しながら、政府は適切な経済財政運営を進めていく必要がある。
25
(今回の景気悪化からの三つの問題提起)
世界的な金融危機とその影響を受けた我が国の厳しい景気後退を受けて、市場経済のあり
方にまで及ぶ根本的な問題提起が相次いだ。特に本報告の論点との関係では、我々は、次の
三つの問題提起を受けたものと考えたい。
第一は、外需主導では駄目だ、これからは内需主導だ、という主張である。日本経済は外
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需に依存した回復を続けていたため、海外景気の失速に伴って、それ以上の大きな景気悪化
に陥った。それゆえ、これからはグローバル化の行き過ぎを改め、内需主導の経済構造に転
換すべきだ、というものである。
第二は、これからの経済では、政府がもっと前面に出ないといけない、という主張である。
確かに、今回の金融危機や景気後退に対して、各国の政府は積極的な対策を打ち出し、効果
35
が現れつつある。また、新たな金融商品、金融手法の発達に伴って、監督体制が追いつかな
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かったことが今回の危機をもたらしたともいえる。
第三に、雇用の保護、所得再分配による格差是正が重要だ、という主張である。非正規雇
用の増加は所得格差の拡大に寄与した。また、今回の後退局面では、
「派遣切り」などの形で
雇用調整が行われた。その一方で、OECDによる国際比較によれば、日本における所得再
5
分配は弱く、結果として貧困率も高いとされる。
これらの問題提起の背後には、それぞれ一面の真理がある。だが、本報告の分析をもとに、
もう少し丁寧にこれらの中身を検討してみるとどうか。
(グローバル化に背を向けず、外需と内需の「双発エンジン」で回復を)
10
まず、外需主導では駄目だ、これからは内需主導だ、という主張をどう考えるか。確かに、
日本経済は外需に依存した回復を続けてきた。そのため、特に前回の回復局面では、家計が
回復を十分に実感するまでに至らなかった面がある。また、過去の「二番底」
「L字型回復」
も、外需の腰折れや弱さによって生じてきた。しかし、外需による成長も、以下のような観
点から引き続き重要と考えざるを得ない。
15
第一に、現在、世界の成長センターは新興国である。したがって、少なくとも自らの需要
が弱い景気の立ち上がりの時期には、先進国が新興国等の需要の成長に助けられるのは当然
である。実際、日本以外の先進国でも、程度の差はあれ多くの国で外需主導型の回復が見ら
れる。日本だけが「機関車」として内需主導を目指す時代ではないだろう。
第二に、回復が軌道に乗りつつある状況で、個人消費など内需が成長に大きく寄与する形
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は一つの望ましい姿である。ただし、その場合も内外需を合わせた「双発エンジン」による
回復のほうが想定しやすい。個人消費の持続的な増加には雇用者所得による下支えが必要だ
が、輸出はその雇用者所得を大きく生み出す力を持つからである。
第三に、
「外需か内需か」という論点とは関係なく、グローバル化に背を向けず、そのメリ
ットを取り込んで成長する戦略が求められている。その有力な手段が対内直接投資や輸入で
25
ある。これらの手段を活かせば、高度な技術や人材の受け入れ、主力分野への資源の集中、
リスクの分散や効率化を進め、強靭な体質の経済を作ることができる。結果として、輸出が
さらに伸びることもあるだろう。
(強固な金融システムの上での新たな成長への環境整備)
30
これからの経済では、政府がもっと前面に出ないといけない、という主張はどうか。金融
監督のあり方を見直すことは緊急の課題であり、我が国も、国際的な協調の下で、こうした
取組を進めていく必要がある。また、今回のような異例の需給ギャップ拡大を前にして、経
済対策により景気を支えることは、政府として当然の任務である。危機後の成長を準備する
ため、研究開発や人的資本への投資など成長基盤の整備も求められる。しかし同時に、次の
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ような視点も持っておきたい。
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第一に、アメリカでの政府調達における「バイ・アメリカン」など、各国での保護主義的
な動きに対する警戒の必要性である。また、緊急避難的な措置として、一見、保護主義とは
無関係に見える、国内の特定産業への支援、新産業育成の政策等も、貿易上の不当な競争力
強化につながりかねないことに注意が必要である。なお、こうした支援が長期化した場合、
5
企業の非効率な体質の温存等を通じ、逆に当該国の成長力を削ぐ可能性もある。
第二に、金融セクターでの規制見直しを、安易に実物セクターの領域に敷衍しないことで
ある。金融機関や金融商品に対する規制の強化は、今回の金融危機に見られたようなシステ
ミックリスクの顕在化を防ぐことを主眼としている。実物セクターにはそれぞれ市場の特性
があり、それらに適切に配慮しつつ、全体として市場機能が最大限発揮されるよう、規制制
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度の運用を図っていく必要がある。
第三に、現在の緊急避難的なマクロ経済政策の「出口」をどうするかである。過去の金融
危機の後を見ると、財政赤字を削減し、積み上がった政府債務を元に戻すには、長期間を要
している。財政再建に成功した事例では、政府消費や移転支出の削減が効果的であったとい
う先行研究もあるが、いずれにせよ、我が国においても、こうした事例なども踏まえつつ、
15
危機後の財政戦略を組み立てていく必要がある。金融政策については、日本銀行において、
持続的成長への復帰に向けた最大限の貢献を行うとともに、十分な説明責任を果たしていく
ことが求められる。
このように、システミックリスクの顕在化を防ぐ強固な金融システムを構築した上で、保
護主義を排して市場機能を活かし、日本の内外で活躍する企業が新たな成長機会を的確に捉
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えることができる環境を整備すること、さらには中長期的な財政の維持可能性を確保してい
くことが、政府の役割として求められているといえよう。
(安心社会に立脚した景気回復の姿)
最後に、雇用の保護、所得再分配による格差是正が重要だ、という主張はどうか。賃金、
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家計所得の格差は、非正規化や高齢化等から緩やかな拡大傾向が続いてきた。しかし、やや
詳しく分析すれば、以下のような見方も可能である。
第一に、失業は、賃金として受け取る所得がゼロであることを意味する。景気後退によっ
て失業が増加すれば、それを加味した賃金格差は拡大、貧困率は上昇する。したがって、
「景
気回復は最大の格差対策」である、ということができる。また、就業形態の多様化は、需給
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のマッチングが効果的に行われる場合、失業を低下させる要因ともなる。
第二に、特に失業期間の長期化は、人的資本の損耗をもたらし、中長期的な賃金格差の拡
大につながることである。それゆえ、失業者に対するセーフティネットの拡充とともに、訓
練や就業への誘因を高める仕組みが求められる。また、一般に、雇用保護規制の厳しい国ほ
ど、平均失業期間が長くなる傾向が示唆された。我が国は先進国の中では必ずしも厳しいと
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いうわけではないが、規制のあり方を考える際には重要な視点である。
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第三に、所得再分配による格差改善効果は、年々、高まってきている。だがこれは、高齢
化によって現役世代から高齢者への購買力の移転が増えたことによる。このことは、社会保
障に対する国民の信頼感を高めることにはつながらなかった。現役世代がこうした信頼感を
持てるようになれば、老後の必要貯蓄額を引下げ、消費の下支えにも資すると考えられる。
5
大きな所得変動リスクを抱えている非正規雇用者へのセーフティネットの充実などを含め、
上記の諸課題の克服に取り組むことで、安心社会に立脚した景気回復の姿を展望することが
きよう。
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