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新時代を迎える日台ビジネス

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新時代を迎える日台ビジネス
2015
JUL&AUG
ー vol.80 ー
03
12
今月の特集
新時代を迎える日台ビジネス
18
みずほ銀行 シドニー支店 支店長 桜井 章雄
サウジアラビア概要と最近の動向
~在住者の視点から~
第54回 WAZA〜世界に誇るニッポン企業〜
自ら考え、
自ら造り、
自ら販売・サービスする
みずほサウジアラビア 社長 藤井 竜平
株式会社スギノマシン
代表取締役社長 杉野 太加良氏
自動車用ヒューズの
リーディング・カンパニー
22
みずほのサービス
23
みずほフィナンシャルグループからのお知らせ
太平洋精工株式会社
代表取締役社長 小川 貴久氏
14
国際人事労務リポート
ASEANにおける最先端の人材採用
〜データで語るASEANの採用トレンド〜
リンクトイン・ジャパン株式会社
シニア リレーションシップ マネージャー 西 勝清氏
16
グローバル インサイト
日豪EPA発効で投資・貿易促進が加速
中国情報ホームページを新設
オーストラリア貿易促進庁との
業務協力協定の締結について
GMのグローバルEYE
アジア インサイト
ベトナムの新投資法・企業法の要点
西村あさひ法律事務所 ハノイ事務所 弁護士 武藤 司郎氏
ご注意
1.法律上、
会計上、
税務上の助言:
本誌記載の情報は、
法律上、
会計上、
税務上の助言を含むものではありません。法律上、
会計上、
税務上の助言を必要とされる場合は、
それぞれの専門家にご相談下さい。
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3.免責:
本誌記載の情報は、
当行が信頼できると考える各方面から取得しておりますが、
その内容の正確性、
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完全性を保証するものではありません。当行は当該情報に起
因して発生した損害については、
その内容いかんにかかわらず一切責任を負いませんのでご了承下さい。 新時代を迎える日台ビジネス
日台ビジネスが新時代を迎えようとしている。
日台アライアンスと
いえば、
かつては中国を投資地とした提携が主流であったが、
昨今
はASEANをはじめとする第三国における日台連携も注目されるよう
になった。
また、
日系企業の対台湾投資件数は2011年より高水準
図表1. 台湾の実質GDP成長率
(需要項目別寄与度)
(前年比%)
12
を持続しており、
卸・小売業や外食産業のサービス業投資が台頭し
8
てきている。本特集は近年における日台ビジネスの新たな動きに焦
6
点をあて、
今後の可能性を考察するものとする。
4
台湾のマクロ経済動向
みずほ総合研究所 調査本部アジア調査部
中国室長 伊藤 信悟
台湾経済は2012~2013年にか
けて+2%台の成長を余儀なくされて
いたが、
2014年には+3.8%にまで景
純輸出
10
在庫投資
総固定資本形成
政府消費
個人消費
実質GDP成長率
2
0
▲2
▲4
▲6
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014(年)
(資料)
台湾行政院主計総処
気回復が進んだ
(前年比、
図表1)
。
えたIT関連製品が見当たらない状況だ。実際、
iPhone6関連需要
2012~2013年に、台 湾の成 長
の一服感や中国におけるスマートフォンの売れ行き鈍化、
中国にお
率が低水準で推移したのは、欧州債
ける在庫積み上がりを背景とする鉄鋼輸出の低迷などが理由で、
務危機の影響や中国の生産能力過
足元輸出の勢いが落ちている状況にある。
剰問題、
大型液晶パネルの受注の伸
内需の一段の加速も期待しづらい。大手半導体メーカーの先端
び悩みなどが重なり、
輸出が精彩を欠
設備導入や液晶パネル産業の投資積み増しなどにより民間設備
いたためである。
また、
その影響もあって在庫調整が続き、
成長率が
投資は加速するとみられるが、
後述するように不動産市況の悪化が
下押しされた。2010年に半導体産業を中心に大規模な設備投資
理由で民間建設投資が弱含む可能性が高いためだ。個人消費に
が行われた反動で、
2012年には総固定資本形成も減少した。
ついても輸出減速の影響を受け、
2014年と比べてやや減速する
しかし、上述のとおり、
2014年に台湾経済は回復を遂げた。先
見込みだ。
進国経済の緩やかな回復やiPhone6需要の高まりなどにより、輸
当面の景気のリスク要因は、中国やユーロ圏の景気腰折れと
出の伸びが高まったためである。
また、
半導体大手を中心に設備投
いった海外要因を除くと、不動産市況の行方である。台湾の不動
資が拡大したことも、
成長率の押し上げに寄与した。雇用環境の改
産価格は2008年末を底に上昇基調をたどり、
2014年4~6月期に
善により実質賃金のプラスの伸びが定着したうえ、
株価の堅調さを
は、
2008年10~12月期対比で約2倍となった。高騰を危ぶみ、不
背景に消費者マインドが改善したため、
個人消費も回復した。
それ
動産融資規制や不動産課税の強化などの不動産投機抑制策や
を象徴するように、
台湾内乗用車販売台数は前年比+11.2%もの
公共住宅の供給拡大などが採られてきた結果、
2014年後半に入
伸びをみせた。
り、
不動産価格が下落に転じている。緩やかな不動産価格の調整
ただし、
2015年の実質GDP成長率は3%台前半に減速するこ
は、
経済の健全化に資するが、
内需の落ち込みや金融の不安定化
とになりそうだ。輸出の減速が見込まれるためである。先進国経済
をもたらすような不動産価格の急落は回避せねばならない。台湾の
が回復に向かうという好材料はあるが、最大の輸出先である中国
関係当局の手綱さばきが試されている。
伊藤室長
の減速が予想されるうえ、
昨年を上回るほどの輸出のけん引力を備
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 0 3
特集:新時代を迎える日台ビジネス
日系企業の対台湾投資動向
今後の日台アライアンスの可能性・方向性
日本の対台湾投資は、近年堅調に推移している。
なかでも顕著
日本と台湾は所得水準や技術レベルが近いうえ
(2014年の1人
なのが、件数の増加である。
リーマン・ショックにより世界的に景気
あたりGDPは日本が約36,000米ドル、台湾が約23,000米ドル)
、
の落ち込みが激しかった2009年を底に、
台湾の日本からの投資受
抱えている課題も似ている。
たとえば、
台湾も少子高齢化の問題を
け入れ件数は増加に転じ、
2011年には過去最高値を更新、
さらに
抱えており、
2015年をピークに生産年齢人口が減少に転じる見込
2012年、
2013年には600件を超えた
(図表2)
。2014年は反動
みで、
さらなる生産性向上、
シルバー産業の育成等が求められてい
減となったが、
それでも488件を数えた。2015年1~3月期も100件
る。
また、
台湾はエネルギー資源に恵まれていないうえに、
福島での
と、前年同期比+9.9%増加している。金額は、件数ほどの増勢で
原発事故を受けて新原発の稼働が止まっており、
再生可能エネル
はないが、
2010~2013年にかけて4億米ドル台で推移し、
2014
ギー開発の必要性も高い。地震や台風が多く、
防災の重要性が高
年には5.5億米ドルに増えている。2015年1~3月期も前年同期比
いという点でも日本と似ている。
+41.3%の伸びを呈している。
他方で日台間には補完性もある。たとえば、台湾企業のなかに
図表2. 台湾の日本からの直接投資受け入れ状況
は、中国内の販路やコスト競争力、生産体制の柔軟性などの面で
(件)
700
(億米ドル)
7.0
金額
(右目盛)
600
6.0
件数
(左目盛)
500
5.0
400
4.0
300
3.0
200
2.0
100
1.0
0
0.0
2014(年)
日本企業より秀でている企業も少なくない。今後こうした類似性と
補完性を組み合わせ、
研究開発面で台湾企業と協力を深めていく
余地もあろう。台湾の馬英九政権は、
今年から
「産業高度化・転身
行動プログラム」
という産業政策の下、
日本企業など外国企業も交
えた形で、産業間連携や川上・川中・川下企業間連携、
コンソーシ
アム組成などを本格的に強化しようとしている。
また、
2012年に日
台の交流窓口機関が
「日台産業協力架け橋プロジェクト」
に関する
覚書を締結し、
日台間のビジネスマッチング支援策を展開してもい
る。
これらの政策の活用も考慮に値しよう。
また、
台湾企業が言語・文化の近さという点で強みを持ち、
販路・
調達網・人脈を張り巡らせてきた中国は、
引き続き有望な日台アライ
アンスの舞台となろう。
たとえば、
台湾系半導体メーカー等の中国進
2008
2009
2010
2011
2012
2013
(注)
認可ベース
(資料)
台湾経済部投資審議委員会
件数を中心に日系企業の対台湾投資が増加している背景には、
出にともない、
中国での日台連携が今後さらに進む可能性もあろう。
ただし、
ここ1年余り中台間の公的な経済関係強化の動きが足
踏み状態にある。対中接近に対する警戒感などから2014年3月に
台湾で大規模なデモが起き、
それを契機に、
「経済協力枠組み協定」
非製造業企業の対台湾投資の増加がある。人口減少時代の到
(中台FTAに相当、
2010年発効)
を拡充するための
「サービス貿
来による国内需要の伸び悩みへの懸念から、非製造業企業も海
易協定」
の批准作業が停止し、
それが
「物品貿易協定」
の妥結にも
外市場の開拓に力を入れるようになっていることは周知のとおりで
影響を与えている。2016年1月には台湾の総統
(大統領)
選挙も
あるが、
こうしたなか、
親日的であり、
日本の製品やサービスに対する
控えており、
中台関係の先行きは要注視である。
認知度の高い台湾を進出先として選択する日系企業が増えている
こうしたなか、中国における賃金上昇や中国経済の先行き不
のである。
たとえば、
日系の小売業、
飲食業などの台湾進出が相次
透明感などから、
台湾でもベトナムやインドネシア、
ミャンマーなど東
いでいる。
また、
台湾でノウハウの蓄積や人材の育成をした後、
台湾
南アジアへの投資分散機運が高まりつつある。特にベトナムには
きょうとうほ
を橋頭堡に中国や東南アジアに進出することを念頭に置いている
1990年代から台湾企業が積極的に投資しており、
2014年末まで
非製造業企業も少なくない。
の累計投資額で台湾は韓国、
日本、
シンガポールに次ぎ第4位であ
他方、
日系の製造業企業にとっては、
台湾の半導体や液晶パネ
る。台湾企業の集積度も高く、
労働集約型産業のみならずIT産業
ル等の産業基盤の厚さが引き続き投資の誘因となっており、台湾
などにも裾野が広がっている。
ジェトロと台湾の対外貿易発展協会
企業への自社製品の迅速な供給のほか、
台湾企業との共同開発
がベトナムやインドネシアでの日台ビジネスマッチング支援を試行す
を目的とした投資も最近では少なくない。
るようにもなっている。
日台アライアンスの舞台は東南アジアにも広
がっていきそうだ。
04 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
新時代を迎える日台ビジネス:特集
ベトナムにおける日台連携
に対し、海外拠点の移管の状況を尋ねたところ、中国からの拠
日本貿易振興機構 海外調査部 中国北アジア課
課長 箱﨑 大氏/方 越氏
た、
中国から移管される拠点の4割以上がベトナムに向かっていた
点移管が増えるとともに、ASEANの拠点受け入れが増えた。
ま
(表1)
。ベトナムがチャイナ・プラスワンの最右翼といわれるゆえ
んである。
表1. 主な移管パターン
移管元
(複数回答、%)
移管先
構成比
ASEAN
(n=181)
日本
タイ
(n=74)
9.3
ベトナム
(n=38)
4.8
インドネシア
(n=23)
日本
箱﨑課長
方氏
中国
ベトナムは日系企業の事業展開先国としての人気が高く、
チャ
イナ・プラスワンの最右翼との声もある。
しかしベトナム進出日系
企業にとって部品の現地調達は大きな課題だ。
ジェトロの「在ア
ジア・オセアニア日系企業実態調査
(2014年度調査)」
(以下、
日系企業調査)
をみると、
ワーカーの賃金は中国の半分以下と魅
力的だが、現地調達率は33.2%と、中国やタイ、
インドネシアなど
に比べ、
かなり低い。そこで注目されるのが台湾企業だ。ベトナム
22.7
2.9
中国
(n=96)
12.0
ASEAN
(n=129)
16.2
ベトナム
(n=57)
7.1
タイ
(n=27)
3.4
インドネシア
(n=15)
1.9
中国
日本
(n=37)
4.6
中国
中国
(n=28)
3.5
全体
(n=798)
100.0
注:過去2~3年に再編を行った、
または今後2~3年に再編を行う予定の企業の拠点・機能の移管に
ついて聞いたもの
出所:独立行政法人日本貿易振興機構「2014年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調
査~ジェトロ海外ビジネス調査」
進出が早く、
その数は4,000社とも5,000社ともいわれる。台湾
台湾企業が集積
企業と組むメリットとして、
リーズナブルで良質な製品を調達できる
日系企業調査ではベトナム進出日系企業の70.3%が、経営
可能性が広がるほか、ベトナム進出の水先案内人としての役割
上の課題に
「原材料・部品の現地調達の難しさ」
を挙げた。こ
や労務管理におけるベトナム華僑の有用性が挙げられる。日系
れはアジア・オセアニアの20ヵ国・地域中、第2位の高さだ。ベト
企業のものづくりとベトナム事業の経験が豊富な台湾企業によ
ナムのワーカーの賃金は依然安く、今もベトナムの魅力だが、進
る新たな日台連携の動きが、始まろうとしている。
出日系企業の原材料・部品の現地調達率は低く、2014年は
33.2%にとどまっている。同年の中国
(66.2%)
、
タイ
(54.8%)
、
日本企業の視線はASEANへ
インドネシア
(43.1%)
に比べかなり低い
(表2-1)
。
さらにいえば、
台湾企業は中国ビジネスにおいて、華人のネットワークや言葉
ベトナムの「現地調達先」の内訳をみると
「進出日系企業」が
(中国語)の強みを生かし大きな存在感を示してきた。そんな台
41.2%もあり、
「ベトナム地場企業」
(43.5%)
と肩を並べる
(表
湾企業と日本企業の提携は、中国ビジネスにおいてはよく聞かれ
2-2)
。
る話だが、
日台が連携して第三国に展開する事例は多いとはい
しかし現地調達率は、
2010年の22.4%に比べれば10ポイント
えない。
近い上昇だ。
さらにいえば、現地調達先として
「その他外資企業」
最近は、事業展開先としての中国の人気に陰りが見られ、
日
が15.2%を占め、中国
(5.8%)
、
インドネシア
(5.4%)
、
タイ
(4.5%)
本の対ASEAN投資が増えている。日本からの直接投資額で
での
「その他外資企業」
よりかなり高い
(表2-2)
。在越台湾企業か
きっこう
ASEAN向けと中国向けは従来拮抗していたが、2013、14年は
らの現地調達は、
この15.2%に含まれると考えられる。
ASEAN向けが中国向けの倍以上となった。理由として、中国に
在ベトナム台湾企業の分布状況をみると、紡績、靴製造、家
おける人件費の上昇、成長の鈍化、企業間競争の激化などが指
具製造、食品加工、金属加工、機械などの分野において台湾企
摘できる。反日デモを1つの契機として、中国事業についてリスク
業の進出が早く、対ベトナム進出企業数は、台湾の貿易振興機
分散意識を強めた企業もあるだろう。
関である台湾貿易センター
(TAITRA)
によれば4,100社、駐ベト
ジェトロの「2014年度日本企業の海外事業展開に関するア
ナム台北経済文化代表処によれば5,000社ともいう。
ンケート調査」で、事業再編を実施したかその予定がある企業
北部のハノイ市周辺には半導体や電子部品産業、南部の
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 0 5
特集:新時代を迎える日台ビジネス
表2-1. 日系企業の進出国別にみた原材料・部品の調達状況
(%)
台湾企業の期待
自動化設備の部品を生産・販売する奇韋企業
(本社:新北市)
現地
日本
ASEAN
中国
その他
中国
66.2
26.7
2.5
−
4.7
タイ
54.8
29.4
3.8
5.2
6.8
中小企業の先駆的存在である同社は長年のビジネスを通じ、現
インドネシア
43.1
32.4
10.3
5.6
8.7
地で独自の販売ルートやネットワーク構築している。総経理の劉
ベトナム
33.2
35.1
10.8
12.5
8.5
天寿氏は日系電機メーカーの技術者として勤務した経験があり、
表2-2. 日系企業の原材料・部品の現地調達先の内訳
(シェア)
(%)
は1989年にホーチミン市に進出した。ベトナムに進出する台湾
日系企業の製品について一定の知識がある。劉総経理は
「自分
の知識や経験を生かし、
日系企業のディストリビューターとなって、
ともにベトナム市場を開拓していきたい」
と語る。
地場企業
現地進出日系企業
その他外資企業
中国
57.7
36.5
5.8
1974年 に 台 湾で馬 具メーカーとして創 業したVULCAN
タイ
42.4
53.1
4.5
INDUSTRY GROUP
(本社:彰化県)
は、馬具製造で培った鋳
インドネシア
49.3
45.3
5.4
ベトナム
43.5
41.2
15.2
造技術を生かし、2011年にビンズオン省に鋳造加工事業を行う
出所:独立行政法人日本貿易振興機構「在アジア・オセアニア日系企業実態調査
(2014年度調査)
」
現地法人を設立した。VULCANの張錫漳董事長は、
日系企業と
の連携の可能性を感じ進出を決めたという。品質管理に厳しい
ホーチミン市周辺には紡織、靴、
自転車、
バイクといった業種が集
日系企業のニーズに応えられるよう、同社は設立当初から品質マ
まる。特に南部への台湾企業の進出は早く、ベトナム事業の経
ネジメントシステム規格のISO/TS16949やISO9001の認証を
験も豊富だ。鋳造・鍛造、熱処理・表面処理分野において、現状
取得している。日系製造業の多くが導入しているQC工程表に基
では優良なベトナム企業を探すのが難しく、在越台湾企業の存
づき、生産管理方法も記録している。日系企業が望む地域に工
在は貴重といえる。
場を設立することも視野に入れている。
台湾企業の進出の多さの背景として、ベトナムの市場開放の
契機となったドイモイ
(刷新)政策
(1986年)の実施と、台湾の
南向政策
(1993年に打ち出された東南アジアとの経済関係の
強化方針)
の推進が指摘できる。台湾は、
ここ2、3年こそ対ベト
ナム投資新規認可額
(1988年以降の累計)
で日本、
シンガポー
こうじん
それ以前は第1位だった。
ル、韓国の後塵を拝しているが、
台湾の統計でみると、対ベトナム投資
(認可ベース)
は2013
年に急増し、史上最高を更新した。
もっとも、
これには大型案件
(フォルモサ・ハティン・スチール:台塑河靜鋼鉄興業)
の影響もあ
り、翌年はそれ以前の水準に戻っている。
図1. 台湾の対ベトナム直接投資の推移
(百万米ドル)
2,000
1,800
(件数)
45
金額
件数
VULCANの張錫漳董事長
40
日系企業のメリット
35
台湾企業との連携は日系企業にとってもメリットがある。台湾
30
貿易センター市場開拓処の邱揮立処長は、
「台湾企業は東南ア
25
ジアに華人・華僑のネットワークがあり、活発に市場開拓を行って
20
いる。日系企業が持つ技術力や品質へのこだわりと、台湾企業
15
のネットワークが結びつけば良い相乗効果が生まれる」
と語る。
400
10
邱処長は、
「台湾企業は海外事業の経験が長く、
その国の事情
200
5
や所得水準などに合わせたマーケティング・製品開発に長けてい
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
(出所)
台湾経済部投資審議委員会
06 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
0
(年)
2013
2011
2009
2007
2005
2003
2001
1999
1997
1995
1993
1991
0
る。他方、
日本製品の特徴は品質の高さであるが、値段も高い。
台湾企業と組むことで、市場にマッチした製品が開発できる」
と
新時代を迎える日台ビジネス:特集
指摘したうえで、
「中国や東南アジアでは、高品質・高価格な製品
総会」
(以下、台湾商会)
が注目されている。台湾商会はベトナム
で市場開拓するのは難しい。それらの市場を開拓するには、
そこ
に進出する台湾企業をとりまとめ、2014年現在ベトナム全土に
の収入水準に合わせた製品開発が必要。日本企業は品質にこ
1つの総会と11の分会を有し、会員数は2,000社近くに上る。台
だわりすぎる面があるが、
その点において台湾企業はアドバイス
湾商会ホーチミン市分会の銭宣甫会長は、
「当会には日系企業
ができる」
としている。
からしばしば、台湾企業からの部品調達を望む照会がある。個別
二輪車、
自動車などに使われる各種スイッチや電装品の生産
企業の情報を提供することはできないが、
日系企業の調達希望
を行う朝日電装は、2004年に台湾企業の慶豐環宇グループ企
情報を会員企業に伝え、企業間で直接交渉してもらうようサポー
業とハノイ市郊外に合弁会社ASAHI DENSO VIETNAM
(以
トできる」
と、
日台企業をつなぐ役割を担うことに前向きである。
下、朝日電装ベトナム)
を設立した。朝日電装ベトナムでは他社に
生産を委託した部品を組み立てて製品を作る。田口祐次社長は
ベトナムで日台それぞれの持ち味を生かす
日台連携のメリットとして、台湾企業は日系企業が進出する10年
2013年10月、
ジェトロ・ホーチミン、在ホーチミン台北市経済
以上前から、ベトナムでサプライチェーンを構築している点を挙げ
文化代表処と交流協会台北事務所の共催による
「日本台湾企
る。同社は合弁先のネットワークを活用して現地の台湾企業から
業交流会」
が、
ホーチミン市で開催されている。交流会に参加し
部品を調達しており、ベトナムでの現地調達率は約9割という高
た日系企業からは、
「台湾企業の事業内容を理解でき、今後の
水準にある。前述したジェトロが2014年に実施した日系企業調
取引の可能性が広がった」
「台湾企業のレベルは高い。今後の
査では、ベトナムにおける日系企業の現地調達率は平均3割程
取引を検討したい」
といった声が寄せられた。
度であることからも、朝日電装ベトナムの現地調達率がいかに高
台湾企業には、
「日系企業は真面目で信頼できる企業が多い。
いかがわかる。
また、
ビジネスに対する取り組み姿勢などで共感できる部分が多
ベトナム進出の水先案内人としての役割、
リーズナブルな台
く、連携をするうえで最適なビジネスパートナー」
との期待がある
湾製設備の導入も、
日台連携のメリットといえる。二輪車用マフ
一方で、
日系企業との接点が持てないとの声も依然として多い。
ラーなどを製造しているサクラ工業は2004年、ハノイ市郊外に
在越日系企業も、台湾企業との交流を求める企業はあるが、接
台湾企業の宏明工業との合弁会社を設立した。宏明工業は
点としては他の日系企業からの紹介に頼っている状況のようだ。
1994年にドンナイ省に進出しており、
その経験からサクラ工業の
ベトナムにおける日台企業の連携には、在越台湾企業からの
ベトナム進出の水先案内人にもなった。設備も、
コストで日本製
調達の拡大という効果が期待される。
また台湾企業を水先案内
の半分、
メンテナンス対応も比較的早いという台湾製を導入でき
人として日系企業のベトナム進出が一段と加速するという面もあ
たという。
るだろう。いずれにせよ、連携が容易になれば、事業展開先として
そのほか、ベトナム華僑による労務管理が挙げられる。在ベト
ベトナムの魅力はさらに増す。
ナム企業にとってストライキへの対処は大きな経営課題だ。在越
日系企業と台湾企業にはそれぞれに持ち味がある。日系企業
台湾企業の多くが労務管理にベトナム華僑を充て対処している
にはものづくりのノウハウがあり、台湾企業にはベトナム事業の
が、
これはベトナム人の気質をよく理解するとともに、中国語にも
豊富な経験、調達・販売の力がある。日系企業にとって台湾企業
堪能な彼らであれば台湾から赴任してきた管理者ともスムーズに
との連携は、ベトナムで事業を展開するうえで魅力的な選択肢と
コミュニケーションがとれ、労使の橋渡しという重要な仕事を任せ
いえるのではないだろうか。
ることができるからだ。
日台企業間の橋渡し役となる台湾商会
ベトナムで日台企業が連携することは双方にメリットがあるもの
の、
日台企業が現地で出会える場は限られている。金属加工を行
う台湾企業の担当者は
「日系企業は日系企業同士で集まる傾
向にあり、台湾企業が接点を持つことは難しい。ベトナムの主要
工業団地のダイレクトリーに掲載されている日系企業リストを基
に地道な訪問営業を行うほかない」
と日系顧客開拓の難しさを語
る。そうした企業間交流の橋渡し役として
「越南台湾商会聨合
【箱﨑 大氏 プロフィール】
日本貿易振興機構 海外調査部 中国北アジア課長
シンクタンク研究員、金融機関の香港駐在エコノミストを経て、2003年に
日本貿易振興機構
(ジェトロ)入構。北京事務所調査担当次長を経て、
2014年4月より現職。
【方 越氏 プロフィール】
日本貿易振興機構 海外調査部 中国北アジア課
2006年金沢大学法学部卒業、同年ジェトロ入構。展示事業部海外見本
市課、金沢貿易情報センターを経て、2013年より現職。
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 0 7
特集:新時代を迎える日台ビジネス
台湾における外食産業動向
~日系企業ヒアリングをもとに~
抜いて第1位になった。実際に日本に足を運ぶ人々も増え、
台湾未進
出の外食ブランドがすでに認知されているケースも多い。3点目は、
台
湾はアジアの中でも、
日本食が受け入れられやすい地域であることだ。
みずほ銀行 直投支援部 金久 実央
中国料理以外によく食べる
ジェトロが2012年に行った調査*2では、
日本から台湾への投資件数は2011年に過去最高の441件を記
外国料理では日本料理で89.3%と
トップ、
日本料理店・日本食レストラ
録した。
その後2012年に619件、
2013年に618件、
2014年に488
ンは98%が利用経験ありという回答結果が出ている。
件と高水準を持続している。
その背景には卸・小売業や外食産業を
上記の理由より進出ハードルは比較的低く、
海外市場に活路を求
始めとするサービス業進出が台頭してきていることが、
理由の1つに挙
めた日系外食企業が台湾を海外事業展開先の第1歩として位置づ
げられる。特に外食産業への投資は活発化の傾向にあり、
かつて10
け、
進出するケースが増加傾向にあるのではないか。
しかしながら、
台
件に満たなかった件数は2012年に46件に急増し、
2013年以降は
湾で成功するにはどのような点に注意すればよいか。次章以降では日
投資全体の1割を占めるまでに拡大してきている
(図1)
。本稿は上記
系企業の実際の取り組み事例を紹介する。
の状況をふまえ、
台湾における外食産業動向に焦点をあて、
日系企
東京牛角股份有限公司の取り組み
業の今後の商機および課題を考察するものとする。
「牛角」
や
「しゃぶしゃぶ温野菜」
を運営するコロワイドグループのレイ
なぜ台湾か
ンズインターナショナルの台湾子会社として、
2002年に設立された東
外食産業投資活発化の要因は3つ考えられる。1点目は台湾外食
京牛角股份有限公司。同年には台北市内に海外第1号店となる牛
市場の拡大である。
日本外食市場は1997年をピークに減少を続ける
角を開店した。2014年には台湾大手企業と高雄・屏東地区における
一方、
台湾外食市場はビザ解禁による中国人観光客急増や、
大型
エリアFC契約を締結し、
2015年5月現在、
FC店を含め計13店舗*3を
商業施設の相次ぐ開設の影響を受けて拡大傾向にある。
また台湾の
展開している。
消費動向をみると核家族化の進展などにより、
食料費に占める外食
焼肉店では日本一の店舗数を誇る牛角も、
台湾事業が軌道に乗
支出の割合は年々上昇しており、
食生活形態は家庭内食から外食へ
るまでには年月を要した。董事総経理の岡部仁氏はその原因を、
「味
とシフトしていることがうかがえる
(表1)
。2点目は周知のとおり台湾は
をローカライズできなかった点と立地戦略にある」
と分析する。
まず味
親日的であり、
日本文化へ理解を示す人々が多い点である。訪日台湾
については、
進出から数年は日本と同一メニューを展開し、
コスト面や
人数は2014年には282万9,821人 と国別訪日外客数では韓国を
料理の量に重点を置き、
食べ放題の導入なども図ったが、
厳しい経営
*1
が続いた。
その後、
牛角のオリジナルテイストは継続して打ち出しながら
図1. ホテル・飲食業投資件数の推移
(2007~2014年)
(件)
700
(%)
619
日本対台湾直接投資件数
600
9.9
400
358
地戦略の変更を行ったこと。
日本では路面店などを中心に展開を行っ
8
ていたが台湾においては日本同様にうまくはいかなかった。
そこで百貨
店などのモールを中心に展開を始めたところ、
事業は奏功に転じる。
7.4
6
5.0
266
10
現在、
店は連日にぎわいを見せ、
日本でおなじみの
「ホイル焼き」
や
4
2.5
3.0
100
0
441
340
300
300
200
448
ホテル・飲食業投資が
全体に占める割合
メニューに取り入れるなどのローカライズ化を図ったこと。
もう1点は立
10.9
618
内ホテル・飲食業件数
500
も、
タレを現地の人々が求める風味に変えたり、
台湾で人気の海鮮を
12
1.8
1.7
9
5
8
17
2007
2008
2009
2010
8
2011
61
46
2012
2013
53
「牛角アイス」
なども人気メニューとして定着している。
台湾事業の基盤が整ってきたため、
今後は直営・FCの両手法を用
2
いて出店を加速する予定だ。事業拡大の真の目的は
「お客さまに喜ん
0
2014 (年)
でいただく」
ことだという。
そのためには未開拓エリアにいち早く出店し、
(資料出所)
台湾経済部 投資審議会よりみずほ銀行 直投支援部作成
その地域の人々に
表1. 台湾の家庭収支における消費支出、食料費および外食支出の推移
家庭収支
(1人あたり・年間)
牛角の味を知っても
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
らう必要がある。1人
所得収入
(NTD)
297,245
291,549
301,650
307,047
316,423
322,504
328,010
328,357
321,611
329,827
335,643
347,486
消費支出
(NTD)
183,751
184,279
188,771
197,908
204,993
209,101
211,862
210,584
211,271
216,099
221,588
225,292
でも多くのお客さまを
食料費
(元)
44,192
43,564
44,437
46,093
47,640
48,365
50,487
51,193
50,156
52,058
53,491
56,007
笑顔にすべく、
2017
外食支出
(元)
13,928
13,692
14,365
15,397
16,276
16,582
17,479
18,384
16,944
18,044
19,633
20,839
年までに台湾全土
31.5
31.4
32.3
33.4
34.2
34.3
34.6
35.9
33.8
34.7
36.7
37.2
60店舗展開を目指
外食支出/食料費
(%)
出所:行政院主計処「101年家計調査報告」
よりみずほ銀行台北支店作成
08 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
新時代を迎える日台ビジネス:特集
おわりに
している。
台湾外食市場は進出ハードルこそ高くないものの、
外食文化が浸
台湾における品質管理
透しているだけに味に敏感な消費者が多く、
経営を持続させるために
一方で、
食の品質管理に関しては留意が必要である。大手日系外
は、
台湾において確固たるスタイルを確立する必要がある。単に日本
食企業の主要食材の仕入れ・加工・配送を担う日系食材加工会社A
の味を再現するだけでは、
顧客は定着しないであろう。独自テイストを核
社にヒアリングしたところ、
昨今の台湾は、
2014年に発生した廃油ラー
として打ち出しながらも、
台湾人の嗜好や食習慣に即したメニューを考
ド事件の影響を受け、
食に対する安全管理が日本よりも細分化・厳
案し、
提供していくことが肝要であると考える。
また、
台湾は2015年に
格化の傾向にあり、
今後の対策として産地視察なども検討していると
新北市に台湾北部最大級のアウトレットモール、
翌年には台北市に
いう回答があった。
台湾初の多目的ドームなど大型商業施設が相次いで開設される予定
そこで、
A社が品質維持のために、
最も重視しているのは人材育成
で、
外食産業のニーズは一層高まると予想される。
このような状況下、
である。食に関する問題は人的要因により発生するケースが多いた
同業者の進出増加による競争激化は避けられないが、
等身大の台湾
め、
董事長自らが工場に足を運んで直接従業員を指導したり、
福利厚
を理解したうえで取り組んでいけば、
商機を見いだせるであろうことを追
生面では、
台湾の一流会社の制度を参考にして、
充実を図ったりと、
記し、
本稿の結びとしたい。
従業員がやりがいを持って業務に専念できる環境づくりに尽力してい
*1 出所:日本政府観光局 ホームページ
る。安全で高品質な食材の安定供給を実現するには、
時間をかけて、
*3 牛角10店舗、
しゃぶしゃぶ温野菜3店舗
*2 出所:日本貿易振興機構「台湾消費者の日本食品に対する意識調査報告書」
従業員との信頼関係を築き上げることが必須だという。
安心・安全な食品を台湾へ
裕毛屋企業股份有限公司 董事長 謝 明達氏
食品をPRしている。
また、
自治体関係者自らが売り場に立ち、
現場
の反応を認識することを条件に出展スペースを無償で提供してい
高品質かつ安全であることから海外でも定
る。2014年に物産展を行った地方自治体は11都道府県にも及
評のある日本食品。台湾は日本からの農林水
び、
大半の自治体がその後もリピートして物産展を開催している。
な
産物・食品の輸出先として香港・米国に次ぐ第
お、
台湾における販売方法の各種アドバイスや、
好評だった商品の
3位 の重要市場として位置づけられている。
継続販売などのサービスなども無償で行っている。
日本食品は台湾でどのように売り出されてい
同社は日本食品展開のみならず、
自社商品の開発にも強みを
るのか、
当コーナーでは独自の手法を用いて日
持つ。
自然のうまみを生かした商品開発に尽力しており、
ジュースや
*
謝董事長
で物産展を開催するなど、
さまざまなアイディアを駆使して日本産の
本食品を販売する台湾企業の取り組みについて紹介する。
ジャム、
ソーセージ、
かまぼこ、
スープ、
アイスなど6,800種もの自社
台湾中部の彰化県に本部を構え、
スーパーマーケッ
ト
「裕毛屋」
商品が陳列されている。保存料を使用していないため、
商品は冷凍
の経営を行う裕毛屋企業股份有限公司。裕毛屋は台中市を中心
にて販売されており、
消費者が一目で識別できるよう、
商品を透明
に4店舗を展開しており、
台中市内では1位の売り上げを誇る。
「安
パッケージで梱包するなどの工夫をこらしている。
また店頭で販売さ
心・安全・健康・自然」
をモッ
トーに無添加食材を中心に取り扱い、
そ
れているパンおよび惣菜、
弁当も全て無添加の日本産材料を使用
の中で日本直送品は商品全体の8割を占めている。
し、
自社で生産しており、
消費者の健康に有益な商品を日々提供し
董事長である謝明達氏は日本留学経験者で、
高品質な日本の
ている。
商品を取り入れ、
地場企業のレベル向上につなげたいという思いか
無添加食品の取り扱いはコストや作業時間を大いに要するが、
ら、1988年に大手日系企業と合弁で事業を開始。同年7月に台
従業員には
「消費者に健康な生活を少しでも長く送っていただくに
中市に裕毛屋第1号店を開店した。台中市は多数の富裕層と家
は、
面倒なことをあえてやる」
という理念が定着しており、
全員が真
族世帯が居住しているため、
店舗を展開するには最適な都市であっ
摯に取り組んでいる。謝氏は
「奉仕の心をもって励み続ければ、
利
たという。合弁先は2003年に撤退したが、
その後は独資にて経営
益は後からついてくる。
また、
日本にも恩返しをしていきたいので、
台
を継続している。
湾市場展開を検討される日本のお客さまにはぜひ裕毛屋を利用し
店頭には、
日本現地法人
「裕源株式会社」
を通じて日本各地か
てほしい」
と日本企業へ笑顔でメッセージを送る。台湾の人々の健
ら選定した日本食品が並んでいる。
また、
売り場のスペースを用い、
康で幸せな生活に貢献するため、
裕毛屋の取り組みは今後も続く。
神奈川県や愛媛県を始めとする多数の日本の地方自治体と共同
* 出所:農林水産省 平成26年農林水産物等輸出実績
(国・地域別)
(確定値版)
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 0 9
特集:新時代を迎える日台ビジネス
台湾ビジネスサポートの現場から
台湾企業との提携交渉における留意点
みずほ銀行 直投支援部 調査役 陳 映庄
の熱意に押されるがままに
「検討可能」
と発言し、
相手に過度な期待を
させてしまうことには十分注意が必要だ。
しかし、
連携推進にあたり、
言
葉に柔軟性を保つことも大事なので、
社内方針を吟味したうえで発言し
た方が良い。
みずほ銀行は台湾進出邦銀として最古の歴史、
最多の拠点数、
最
思いこみを最小限に抑えるツールとして、
議事録の作成が有効だ。
大の資産規模、
最大の貸出金額を誇り、
日系企業のみならず地場企
面談の進行と同時に合意事項を記載しつつ、
会議終了時に議事録
業とも堅実な取引関係を構築してきた。
その強みを活用し、
台湾進出
に双方による署名を行うことは、
後日のフォローのためにも、
トラブル時
に関わる情報提供以外に、
台湾経済部
(日本の経済産業省に相当)
の抗弁材料としても有効だ。
また、
思いこみの解消は即日、
即刻確認す
投資業務処や台湾工業技術研究院と業務協力協定を締結し、
日台
ることが理想的だが、
確認しづらい時には仲介者や仲介者経由での
企業間のアライアンス推進業務にも取り組んでいる。本稿は日台企業
台湾企業への確認方法も考えられる。
との意見交換で知り得た情報および交渉現場で実感した日台企業の
コミュニケーションスタイルから提携交渉における留意点を論じたい。
良好なコミュニケーション環境をつくる
通訳の良し悪しが交渉の成否に大きな影響を与える。前述したコ
相手を見極める
ミュニケーションギャップは優秀な通訳がいれば、
かなりの部分を解消
企業と人物との2つの側面から相手を見極めるべきだ。提携先候補
できるが、
日本と台湾の産業構造、
企業文化、
コミュニケーションスタイ
の業歴、
グループ企業を含めた事業内容の全体像を調査することで、
ル、
表現のニュアンスを熟知し、
日台企業の双方の事情をよく理解して
提携する余地があるのか、
どのような提携スキームの構築が可能なの
いる仲介者もしくはアドバイザーの活用も有効だ。
かを事前に把握できれば、
有効な面談を導きやすい。
ただし、
先方の通訳に頼りきってしまうことは一番避けたいことだ。
よく
また、
企業の主要株主や実権者が誰であるかの把握も大切で、
なに
あるのは日本語が堪能な社員もしくは社長による通訳だ。彼らは悪意
よりも交渉当事者が決定権を持っているのかを見極めなければいけな
がなくても台湾側の立場で通訳を行い、
都合のいいように解釈したり、
い。企業ごとの組織文化にもよるが、
総経理であっても、
必ずしも決定
一字一句通訳しない場合がよくある。
また、
高度な日本語と中国語能
権があると限らないし、
逆に副総経理や課長であっても決定権を与えら
力を持ち合わせていない通訳が誤った情報を伝え、
両社の面談を台な
れる可能性もある。
しにする場合もある。
一方で、
台湾企業にとっては一般的に、
日本から商談に来た人物
また、
せっかく台湾に出張し、
面談を行うには効率的かつ有効的な
は決定権が与えられた日本企業の代表だと期待するケースが多い。
ま
ディスカッションが望ましいので、
司会者の仕切りが必要だ。議論が白
た、
台湾企業は表敬訪問や単なる情報交換を好まない傾向があるの
熱しているうちに、
会議が長引いたり、
聞くべきことを聞かなかったり、
合
で、
決定権のない交渉当事者の派遣は避けた方が良い。
意に至らなかったりする場合がよくある。
その際には、
仲介者に第三者
情報収集には銀行などの仲介者が有力な情報源になるが、
公開情
の立場から議題の補足や方向性の調整をしてもらうコーディネーター
報の調査も怠ってはならない。台湾企業の公式ウェブサイ
トの情報は
機能を持たせることが望ましい。
充実していない場合が多いが、
台湾の上場企業に関しては日本以上
最後に、
面談後のフォローのためには、
お互いの連絡窓口の指定を
に情報開示義務が課せられているため、
アニュアルレポートからさまざま
忘れてはならない。連絡する際には、
Eメールを送った後に、
電話で再確
な企業情報を入手できる。
ただし、
その開示情報は中国語のみの場合
認することをお勧めする。
ただし、
お互いにある程度英語ができる場合
が大半なので、
現地の信用調査会社から日本語のレポートを取得する
においても、
母国語ではないため、
正確な意図が伝えられず、
誤解が生
ことも1つの方法だ。
じやすいことを留意しなければならない。
また、
いくら先方の日本語能力
が高くても、
100パーセント理解するのは至難の業なので、
お互いにた
思いこみをなくす
台湾は親日国であり、
台湾企業と交渉するハードルは他国より低い
が、
言語や文化の障壁は確実に存在する。特に日本語コミュニケーショ
ンによくあるように相手にすぐ同調的な発言をしてしまうことは誤解の元
になる。少しでも不明な点があれば、
「~のようなことを言っているのだろ
う」
と思いこむことなく、
交渉の場ですぐに確認することが鉄則だ。
また、
交渉の場面でのコメントは自社の意見とみなされるため、
先方
10 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
めらいなく気軽にコミュニケーションできる環境づくりが必要だ。
留意点
懸念事項
対策
・仲介者、
業界他社へのヒアリング
・アニュアルレポートの入手
・現地信用調査会社の活用
交渉相手を
見極める
・提携先候補としてふさわしいのか
・実権者に会えるのか
・Win-Win関係を構築できるのか
思いこみをなくす
・相手の発言内容を十分理解できるのか ・その場での再確認
・議事録の作成および署名
・台湾ではそれが一般的なのか
・仲介者への確認
・合意事項が守られるのか
・通訳者の能力があるのか
良好なコミュニケーショ
・効率的に商談を進められるのか
ン環境をつくる
・電話で意思を十分伝えられるのか
・仲介者の仕切り、
フォロー
・
Eメールの活用
・連絡窓口の指定
新時代を迎える日台ビジネス:特集
台湾の<みずほ>拠点のご案内
みずほ銀行 台北支店 支店長 竹内 功
みずほ銀行台北支店は1959年に台湾初の外資系銀行として支店を開業いたしました。現在、
台北支店には通常
の銀行業務に万全に対応できる営業ライン、
営業事務課、
資金室を始め、
各種照会や調査、
ビジネスマッチングを手掛
ける産業調査課、
ビジネスソリューション課等の機能を備えており、
現在総勢約270名のスタッフで台北エリアを中心
に日系・非日系のお客さまへ幅広いサービスを提供しています。支店のある台北市は台湾本島北部の台北盆地に位置
し、
人口は約270万人、
台湾の首都として政治・経済の中心地であり、
多くの企業の本社機能や主要拠点が集中して
竹内支店長
います。商業・サービスなどの第三次産業が経済の大部分を占め、
近時でも小売・外食を中心に多くの日系企業が進
出しています。
また台湾北部地域としては、
新竹地区にサイエンスパークがあり、
周辺に研究・学術機構ほか、
世界トップ
シェアを誇る半導体やコンピュータなどのハイテク企業が多数設立されています。当行は台湾経済部、
工業技術研究院との業務協力協定
を締結しており、
台北支店としても日台アライアンスを中心とした非常に多くの進出サポート実績がございます。今後も50年以上蓄積された
ノウハウ、
地域のネッ
トワークを生かし、
幅広くお客さまのお役に立てればと思っております。
ぜひいつでもお気軽にお問い合わせください。
所在地:台北市敦化北路167號宏國大樓2樓 代表電話:886-2-2715-3911 営業日:月曜日~金曜日
みずほ銀行 高雄支店 支店長 林 裕新
みずほ銀行高雄支店は、
台北支店に次ぐ台湾2番目の支店として1992年9月に開設しました。総勢35名の体制
で、
支店のある高雄市のほか、
台南市、
嘉義県、
屏東県、
台東県という台湾南部地域をカバーし、
日系および台湾系
企業のお客さまに対しフルラインアップのサービスを提供しています。高雄市は台湾の西海岸南部に位置する台湾
第2の都市です。台北から南へ340㎞、
台湾新幹線の終点で台北からは約90分で来ることができます。人口は277
万人、
アジアでも有数の規模を誇る高雄港を有し、
港湾都市として栄えてきた歴史を持ちます。高雄は長年、
重化学
林支店長
工業を中心に栄え、
台湾唯一の高炉メーカー、
台湾最大の石油化学企業が所在しています。1966年に台湾で初め
ての輸出加工区が設立され、
電機、
精密機械関連の企業が多数進出、
近年は、
高雄・台南にまたがる南部サイエン
スパークにおいて、
半導体・液晶パネル関連企業が集積しています。
日系企業の進出は重化学工業/エレクトロニクス関連企業のほか、
バイオ医療/情報ソフトウェア産業/海洋産業、
屏東県における水産関連/農業・食品関連など、
幅広い業種に広がってきています。当
店は、
台湾南部唯一の邦銀として、
22年にわたるネットワークと情報提供力、
地域密着型サービスにより、
日系企業の進出、
事業拡大をサ
ポートしてまいります。皆さまからのお問い合わせをお待ちしております。
所在地:高雄市中正三路2號12樓 代表電話:886-7-236-8768
営業日:月曜日~金曜日
みずほ銀行 台中支店 支店長 並木 清剛
みずほ銀行台中支店は、
台湾における第3番目の支店として、
2008年4月に開設しました。現在、
従業員20名弱
の体制で営業に特化した拠点として活動しており、
台湾中部
(台中市、
苗栗県、
彰化県、
南投県、
雲林県)
の日系およ
び台湾系企業のお客さまに対してサービスを提供しています。支店のある台中市は、
約270万人の人口を有する台
湾第3の都市です。台湾の西海岸中部に位置し、
台湾新幹線を利用すれば、
台北・高雄にも1時間程度で行くことが
できます。台湾中部地域は、
台湾を代表する工作機械関連企業や世界的に有名な台湾2大自転車メーカーの本社
並木支店長
があるため、
日系を含め多くの関連企業が集積しています。
そのため、
日系企業にとっても部品調達先やOEM先にな
りうる技術力を持つ数多くの地場企業が所在しています。
また、
近年では、
台湾を代表する産業となった液晶パネルや
半導体等のハイテク産業の大型生産拠点が設置されたことで、
関連日系企業の集積も見られます。当店は、
台湾中部地域唯一の邦銀
の支店として、
当地域にネットワークを張り巡らせ、
すでに多くの企業や関係機関等との強いリレーションを構築しております。お客さまの台
湾中部地域への進出、
および事業展開を全力でサポートさせていただくとともに、
日本と台湾のかけ橋になりたいと思っておりますので、
い
つでもお気軽にご連絡ください。
所在地:台中市西屯區府會園道169號8樓 代表電話:886-4-2374-6000 営業日:月曜日~金曜日
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 1
vol.
54
自ら考え、自ら造り、自ら販売・サービスする
株式会社スギノマシン 代表取締役社長 杉野 太加良氏
1936年、大
漕ぎ着けた。代表取締役長社長の杉野太加
世界市場でニッチトップを目指して
阪で管 内 掃 除
良氏は
「世界に先駆けて自ら作り上げた製品
同社製品の生産には高い技術力を有し
工具チューブク
は競合品がないため、
スペックや価格・納期
た技術者や高度な設備、高品質な素材が
リーナー専門製
などをコントロールでき、
利益の源泉となった」
必須なため、
製造部門は国内中心であるが、
作会社として創
と話す。
そしてこうした
「他社を真似せず、
独自
1978年の米国シカゴ事務所開設を皮切り
業した株式会社
の製品を作る」
という精神は、
同社の理念
「自
に、
現在メキシコや中国、
タイ、
チェコなど世界
スギノマシン
(本
ら考え、
自ら
10ヵ国に自社拠点を設け、
40ヵ国以上の代
社・富山県魚津
造り、
自ら販
理店ネットワークも構築している。
また、
一部
市)
は、
現在5つの
売・サービス
の商品は海外工場での生産も行っており、
『超』技術
(超高圧、超高速、超精密、超微
する」に継
今後も顧客や市場、
国・地域の実情を勘案し
粒、
超仕上げ)
を基盤に、
高圧洗浄機や物質
承され 、現
ながら、
現地生産の要否を判断していく。
微細化装置、
マシニングセンタ等の産業機
在も全社員
また2014年1月には事業領域を拡大する
に息づいて
ため、
低圧洗浄を得意とするドイツの工業用
いる。
洗浄機メーカー
「Zippel GmbH」
を買収し、
経
杉野代表取締役社長
械・工作機械を製造・販売している。中でも高
圧水を噴射してさまざまな素材を切断・加工す
『自ら考え自ら造り出した』高圧ポンプ1号機
るウォータージェッ
トカッタは、
特に優れた富山
営者と技術者を派遣している。
さらに、
拠点は
県産品に与えられる
「富山県推奨とやまブラ
水の特性と技術の組み合わせで
無限の可能性
ンド」11品の内の一つに認定され、
同県のも
同社は、100気圧
(水深1,000m相当の
期待される中東やアフリカでも事業展開を進
のづくり技術を象徴する代表的製品となって
水圧)
以上の高圧洗浄から、
2,000気圧
(同
め、
シェアの拡大を図っている。
いる。
20,000m)
以上の物質微細化技術、
3,000
従業員の1/3が技術者という技術オリエン
どこにもないなら、
自分達で作ろう
気圧(同30,000m)以上の超高圧切断、
テッドな同社の歴史は、
まさに試行錯誤の繰
創業時の商品であるチューブクリーナー
10,000気圧
(同100,000m)
以上の超高圧
り返しである。世界各国の6,000社以上が
は、
ボイラーのパイプ内の付着物を除去する
加圧など、
用途に応じて水圧を使いこなして
継続的な顧客であり、
一度でも取引したこと
工具で、
蒸気機関や発電所には不可欠であ
いる。
があるユーザー数は5万社以上にのぼること
り、
太平洋戦争中には戦艦大和や武蔵など
この強みを生かし、
同社の商品は自動車部
からも、
如何に特異な技術力で世界に必要
でも使用された。1945年、
大阪の空襲が激
品や電気機器、
電子部品から医薬品、
航空
とされているかが理解できる。杉野代表取締
しくなる中、
創業者の出身地である富山県に
機部品など、
さまざまな製品のバリ取り・切断・
役社長は、
「これからも、
5つの
『超』
技術で継
疎開し、
終戦後も電力供給や食料事情が良
加工・微細化に使用されている。変わったとこ
続的にイノベーションを起こし、世界市場で
かったことから当地にとどまった。
ろでは、
地下トンネル工事で、
掘削機の先に
ニッチトップを追求していく」
と企業展望を語
戦後、
「航空機が高速で雲の中を飛行する
ウォータージェットを取り付け、
金属のカッター
る。
と、
雲に含まれる水滴でプロペラが削られる」
では対応できない異物の粉砕に力を発揮して
という海外の論文をヒントに、水圧で物質を
いる。
また、
原子力発電所の検査・補修・長寿
加工・切断できないか研究を開始。
しかし、
当
命化に使用されている各種装置やロボット、
時そのような高圧を生み出せるポンプは世の
大深度有人潜水調査船しんかい6500に搭
中に存在せず、
どの会社に相談しても対応で
載されている浮力調整ポンプ、食品に最大
きないと断られ、
研究は壁に突き当たった。
そ
10,000気圧をかけて加工する加圧装置等、
こで、
「どこにもないなら、
自分達で作ろう」
と自
さまざまな分野で市場を拡大している。
社開発に挑み、
5年間の苦闘の末に完成に
12 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
設置してはいないものの、
これからの伸長が
黎明の立山連峰と当社早月事業所
(取材・作成)
みずほ銀行 直投支援部 廣瀬 量哉
自動車用ヒューズのリーディング・カンパニー
太平洋精工株式会社 代表取締役社長 小川 貴久氏
当社自動車用ヒューズ 販売累計数の推移
年間販売数量
(単位:百万本)販売累計
2014年、
経
変。1977年にパテントライセン
3,000
済産業省によ
ス契約を締結し、
新型の
「オート
2,500
る
「グローバル
ヒューズ」の製造、使用、販売
2,000
ニッチトップ企
権を取得した。代表取締役社
1,500
業100選」
に選
長の小川貴久氏は
「GMやトヨ
定された太 平
タといった市場を牽引するメー
洋精工株式会
カーが、
ほぼ同時にガラス管か
社(本社:岐阜
ら新型ヒューズに全面的に切り替え、
同時期
所を自社所有、
高い品質と安全性を追求し、
県大垣市)
は、
に当社が契約により独占的に日本で製造販
国際基準に適合した信頼性の高い製品を供
自動車用ヒューズで国内首位となる80%台
売できたことが、
今日の発展につながる大きな
給できることは、
欧米市場をはじめ海外市場
後半、
世界でも40%台後半とトップクラスの
転機となった」
と話す。
オートヒューズは性能や
拡大に向けた大きな強みとなっている。
シェアを有する自動車用ヒューズのリーディン
信頼性が格段に向上したため、
ワイヤーハー
企業と人のつながりを重視
グ・カンパニーである。電気ショート等の過電
ネスのシステムにも影響する革新的な製品と
日本の本社および大垣工場を中心に、
メキ
流から電気回路や電子機器を保護する自動
なった。
シコとタイに生産拠点、
米国、
中国、
韓国、
ド
車用ヒューズは、
自動車に不可欠な安全部品
世界初 自動車用高電圧ヒューズを開発
イツ、
インドに販売拠点を配する。2014年9月
として、
大衆車で1台あたり約50本、
高級車
自動車の新たな潮流であるハイブリッド自
にはメキシコ中西部・シラオでメキシコ第2工場
では130本程度搭載されている車種もある。
動車向けに、
太平洋精工は世界で初めて自
を稼働し生産能力を拡大した。近年、
技術サ
1961年の創業以来、
50年を超える実績と
動車用高電圧ヒューズ
(EVヒューズ)
を開発し
ポートを行うテクニカルオフィスを相次いで開
高い技術力が評価され、
国内外の自動車メー
た。従来のガソリン自動車の電圧12ボルトか
設し、
顧客に密着した迅速なサービスも強化。
カーの大半が同社製品を採用している。
また
ら、
ハイブリッド車では200ボルトを超える高電
今後も欧米自動車メーカーとの取引拡大に
独自の金型製作技術を生かし、
家電や自動
圧となるため、
工場で使用される強電用ヒュー
向け、
現地での営業・サポートの充実を図ると
車用部品をプレス加工する精密金属プレス
ズを改良するなど試行錯誤を重ね製品化。
している。
も手がけている。
1997年に販売されたトヨタの初代プリウスに
創業50年を迎えた2011年には記念パー
パテントライセンス契約が大きな転機に
搭載され、
以降世界の自動車メーカーで採用
ティーや東京、
九州への社員旅行、
2012年
創業時、
グリースニップル、
リベッ
ト、
自動車
されており、世界シェア8割で市場を席巻す
以降毎年10月には創立記念イベント
「ネクス
用ヒューズの3製品で事業を開始。
だが次第
る。EVヒューズを含む全体の生産数では、
年
ト50」
を実施するなど、
従業員やOBが参加す
に自動車製造の環境が変化し、
需要拡大が
間27億本にも及ぶ。2015年3月には自動車
る行事を開催し、企業と人とのつながりを重
期待されるヒューズに注力することになる。当
用ヒューズの販売累計が300億本に達した。
視する。小川社長は
「成長期の日本企業が
時は円形のガラス管の中に可溶体を収めた
こうした実績から、
国内で品質規格を規定
大切にしてきたことの中に、
企業発展の原動
ガラス管ヒューズが主流で、
1971年には世
する自動車技術会
(JASO)
の
「電子電装部
力があるのでは」
と話す。一方でメキシコ人従
界で初めてガラス管ヒューズの自動組立機開
会ヒューズ分科会」
で毎年幹事役を務め、
世
業員をドイツ拠点に配置するなど、
グローバル
発に成功し、
自動化を進めていった。
界規格ISOの国際会議にも出席するなど、
人材の育成交流にも取り組んでいる。今後は
小川代表取締役社長
2010年
販売累計200億本達成
2015年
販売累計300億本達成
25,000
20,000
2002年
販売累計100億本達成
15,000
1990年
販売累計50億本達成
1,000
10,000
5,000
500
0
30,000
1961
1970
1980
1990
2000
0
2014
(年)
そのような中、
米国リテルヒューズ社が板状
ヒューズの標
「生産効率を高め、
競争力のあるヒューズの
の新型ヒューズを開発。
ライセンスを得るため
準 化に貢 献
製品開発を行うとともに、
新事業を開拓し事
飛び込みで交渉を行うも苦戦したが、
副社長
する。また全
業領域を拡大していきたい」
とし、
次の50年を
を日本に招聘し自動組立機を見せたところ、
国唯一となる
見据えた新たな展開に挑む。
自動化が進む製造体制が評価され状況が一
高電圧自動車専用ヒューズ
ISO認定試験
(取材・作成)
みずほ銀行 直投支援部 大橋 綾
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 3
ASEANにおける最先端の人材採用
〜データで語るASEANの採用トレンド〜
リンクトイン・ジャパン株式会社 シニア リレーションシップ マネージャー 西 勝清氏
激化する東南アジアの人材獲得競争
や採用シーンでも活用されている。LinkedInは、
アジアの利用者が
東南アジアにおける人材獲得競
6,800万人以上を数え、特に東南アジアの会員は、
モバイルの利
争は激化の一途をたどっている。世界
用が高い若い世代に集中していることが特徴的だ。
インドネシアや
中の企業が東南アジアへの進出を急
マレーシアの会員の7割以上が25〜44歳であり、約9割が毎日モ
ぎ、
日本企業においても進出、
現地化
バイルからインターネッ
トにアクセスしている。
への投資はさらに高まり、
拡大傾向に
当社では、
毎年世界中のプロフェッショナルを対象に転職に対す
ある。現地で採用された管理職層の
るトレンド調査を行っている。調査結果から東南アジアの回答を分
給与は日本の給与水準を上回ること
析した結果、
次の3つの特徴が浮かび上がってきた。
も例外ではなく、
日本企業においては
西 勝清氏
優秀な人材の確保、維持のためにグ
1. 転職活動に積極的
ローバル人事制度の改革を行っている。
東南アジア3ヵ国ではプロフェッショナルの約35%が
「現在転職
さらに現地の採用現場では、
プロフェッショナルSNS
(ソーシャル
活動中」
(転職顕在層)
であると回答し、
日本の20%に比べて多く
ネットワークサービス、
以下SNS)
を採用活動に組み込むといったイ
の割合のプロフェッショナルが新しい機会を積極的に模索している
ノベーションが起きており、従来とは異なるダイナミズムが生まれて
様子がうかがえる。
いる。
本リポートでは、
LinkedInがグローバルのプロフェッショナルまたは
2. 仕事に求めるのは給与アップとワークライフバランス
採用部門を対象に行ったアンケート調査より、
東南アジア3ヵ国
(シ
東南アジア3ヵ国のプロフェッショナルが新しい仕事に望むこと
ンガポール、
インドネシア、
マレーシア)
の結果に焦点を当て、
最新ト
トップ3は、
「給与および待遇」、
「ワークライフバランス」
が3ヵ国共
通でトップ2項目にあがっている。3番目に
「スキルの習得」
(シンガ
レンドを解説したい。
ポール)
、
「キャリアアップの機会」
(インドネシア、
マレーシア)
となっ
東南アジア3ヵ国(シンガポール、インドネシア、
マレーシア)における人材トレンド
ている。
日本においては
「給与および待遇」、
「スキルを生かせる仕
数年前から東南アジアではインターネットやスマートフォンの普及
本のプロフェッショナルが望むことは異なる。
事」、
「やりがいのある仕事」
がトップ3になっており、
東南アジアと日
にともない、
SNSの利用が急成長している。
このような背景もあり、
東南アジアでは、
プロフェッショナルSNS「LinkedIn」
などがビジネス
東南アジア3ヵ国では積極的に転職活動している人の割合が日本より多い
【設問】現在、転職活動を行っていますか。
■ 積極的に転職活動をしている
(転職顕在層)
■ 積極的に転職活動をしていない
(転職潜在層)
シンガポール
35%
65%
インドネシア
34%
66%
マレーシア
35%
65%
日本
20%
80%
出所:LinkedIn タレントトレンドレポート 2015
14 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
3. ビジネスSNSを活用した職探し
東南アジア3ヵ国ではプロフェッショナルSNSの普及を受け、新
しい仕事を探す場所としての重要性が高まっている。
シンガポール
では63%のプロフェッショナルが新しい仕事を探す時のチャネルと
してプロフェッショナルSNSをあげ、
すでにオンライン求人サイトの
60%を上回っている。
インドネシアではオンライン求人サイト57%、
プロフェッショナルSNS56%、
マレーシアではオンライン求人サイト
66%、
プロフェッショナルSNSが59%。
日本ではオンライン求人サイ
ト35%、
プロフェッショナルSNS35%となっている。
東南アジア3ヵ国(シンガポール、インドネシア、
マレーシア)における採用トレンド 4. 採用のスピードを重視
次に採用現場で起きている5つのトレンドを、
当社が企業採用部
ドにも拍車がかかってきている。採用後の業績を評価するKPIとし
門を対象に行った調査「東南アジア版LinkedIn 採用トレンドレポー
て、
最も重要視されているのは
「採用の質」
で40%、
2番目に
「採用
ト 2015」
の結果をもとに紹介したい。
東南アジア全体が急ピッチで成長しているように、
採用のスピー
に費やした時間」
で33%。世界平均を見ると
「採用の質」
が44%、
「採用に費やした時間」
が25%となっている。世界においても東南
1. 採用人数、予算が急増
アジアにおいても最も重要なのは採用の質であることに変わりない
回答者の70%が2015年の採用予定人数を前年より増加すると
が、
東南アジアにおいてはよりスピードを重視する傾向がある。
回答した。
これは2014年に対する回答49%を大きく上回る数値で
ある。一方で採用予算に対しては、
56%が前年より増加すると答え
5. 採用ブランディングの重要性
ている。
こちらも2014年に対する回答40%を上回っている。
しかしな
今回の調査結果によると90%近い採用部門は
「採用ブランドは
がら、
変動率を見ると、
採用人数が増加すると答えた割合は採用予
優秀な人材を雇用できるかどうかに大きく影響する」
と回答。
また、
算が増加すると答えた割合よりも多いのがわかる。つまり、
2015年
採用ブランドの認知度促進に使用するチャネルについては企業
は採用人数と採用予算のギャップの拡大により、
少ない労力で多く
ホームページの71%に続き、
プロフェッショナルSNSが56%とすで
の成果を上げられるよう、
賢く投資する必要性に迫られている。
に2番目の位置になっており、
ここでも重要性が認知されている。
2. プロフェッショナルSNS経由で質の高い人材を採用
効率的な採用のために、
採用部門はどのような手法を用いて活
東南アジアでは企業ホームページに次いでプロフェッショナルSNSが
採用ブランド構築に活用されている
【設問】採用ブランドを広めるために、最も効果的だった方針やツールはどれですか。
(複数回答)
動しているのだろうか。過去12ヵ月間に質の高い採用を実現した人
材供給源に関する質問の結果はオンライン求人広告が58%、社
員紹介プログラムが48%、
プロフェッショナルSNSが35%という順
71%
企業ホームページ
プロフェッショナルSNS(LinkedInなど)
56%
番になっている。
日本では、
まだ馴染みが薄いだろうが、
東南アジア
では、候補者側、採用部門側共にプロフェッショナルSNSの活用
プライベート用・一般SNS(Facebookなど)
が広がりつつある。
3. 転職潜在層への接触率は世界平均以上
友人/家族、
口コミ
53%
51%
出所:東南アジア版LinkedIn 採用トレンドレポート 2015
採用手法にプロフェッショナルSNSを導入する理由としては、
高
まとめ
い普及率に加えて転職潜在層にアプローチできるというメリットが
東南アジアの採用市場で競争力を高めるために、
企業は候補者
ある。東南アジアでは、
採用部門の65%が転職潜在層にアプロー
のニーズを十分理解し、
積極的に採用ブランディングメッセージを発
チする採用活動を実施している。
これは、
世界平均の61%を上回っ
信するとともに、
従来の枠を超え転職潜在層へのアプローチを始め
ており、人材獲得競争の激化や採用担当者の積極性がうかがえ
る必要がある。
まずは調査結果と自社データの分析から始めてみる
る数値である。転職顕在層とは、積極的に仕事を探しているプロ
ことが、
今後の成功の鍵となる。
フェッショナルで、一般的に転職サイトへの登録や人材紹介会社
このリポートが読者の皆さまの採用手法の見直し、
プロフェッショ
に相談している層を指している。一方、
転職潜在層は、
転職活動を
ナルSNSを利用した採用活動の検討のきっかけとなることを願って
積極的には行っていないものの、
周囲へのヒアリングを行ったり、
今
いる。
よりも自分に合った仕事があれば耳を傾けるといった受け身の層で
ある。多くの企業が転職潜在層の採用を考えているが、該当する
人材が転職市場に現れないのが課題であった。
そのため東南アジ
アをはじめ、
海外では採用担当がプロフェッショナルSNS経由で欲
しい人材を探し、
直接連絡するという手法が広がっている。
LinkedInについて
世界3億6,400万人以上が登録するビジネス特化型SNS「LinkedIn
(リンクトイン)
」を運営。世界中のプロフェッショナルの生産性を高
め、成功するよう、つないでいくことを使命とし、企業の採用、広告、営
業を支援している。ホームページ: www.linkedin.com
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 5
ベトナムの新投資法・企業法の要点
西村あさひ法律事務所 ハノイ事務所 弁護士 武藤 司郎氏
総論
案の問題点を指摘し、
起草者らと討議をする
がベトナムに新たに直接投資を行うため
ベトナムでは
機会を得ました。
には、
必ず各地方の省級の人民委員会
WTOに加盟す
さらに、ベトナム政府からベトナム日本
に属する投資計画局等、管轄当局から
るための準備
商 工 会 に 対しても、Vietnam Business
投資許可証
(Investment Certificate)
を
として、株式会
Forum
(VBF)
という各国商工会議所の連
取得する必要がありましたが、
この投資許
社や有限会社
合体を通じて、
この新投資法、新企業法に
可証は、
外国投資家にとって、
対象事業
といった企 業
対する意見を求められたため、
ベトナム日本
の投資許可と現地企業の企業登記の
の仕組みを規
商工会へ当事務所が作成した意見書を提
双方を兼ねていました。
定する企業法
出し、
それに外貨交換保証の要求を追加
これに対し、新投資法の下では、対
と、
外国投資家や国内の投資家の投資の手
したものをベトナム日本商工会の意見とし
象事業の許可と現地企業の企業登記
続きなどを規定する投資法が、
2005年末に
て、
ベトナム政府に提出しました。
の証明書が二分され、外国投資家の
制定されました
(以下、
「旧投資法」
「
、旧企業
また、
国会開催直前にベトナム日本商工会
投資プロジェクトについては投資登録
法」
)
。
しかし、
これらの企業法や投資法も制
がVBFのメンバーとして、
国会の経済委員会
証明書
(Investment Registration
定後8年が経過していろいろ不備があると指
の副委員長に直接、
新投資法、
新企業法に
Certificate)が、企業の設立につい
摘されたため、
より投資の自由を認め、
企業や
対する意見を陳述するよう要請されました。
ては企 業 登 録 証 明 書(Enterprise
投資家が経済活動を行いやすくし、
ベトナム
その際、
ベトナム日本商工会に依頼されて、
Registration Certificate)が、それ
の経済発展を促進するという趣旨で、
2014
筆者が国会事務局に出向いたところ、
アメリ
ぞれ発行されることとなり、
それぞれにつ
年11月の国会でこれらの企業法や投資法が
カ商工会議所やEU商工会議所のメンバー
き申請手続きが必要になりました。
大改正され、
2015年7月1日からそれぞれ施
がそこにいたにもかかわらず、
臨席した計画投
(2)
旧投資法の下では、
直接投資か間接
行されることとなりました
(以下、
「新投資法」
、
資省の法務局長が、
日本の投資家の意見が
投資かで、
投資法適用の有無を決めると
聞きたいと日本の意見を優先して尋ねてきまし
いう基準が採用されていましたが、
通常、
2014年、新投資法、新企業法の草案が
た。ベトナム日本商工会の意見はすべて草案
間接投資といわれる株式市場において
作成されていた頃、
ベトナム政府は、高い技
に反映するが、
何分最終的には国会議員の
上場会社の株式取得をする投資でも、
対
術力を持ち、
長期・安定的な投資を志向する
議決で決まるので、
法案化されるかどうかは保
象会社の支配権を得れば、
経営に関与
日本企業の進出を非常に期待しており、
日本
証できないが、
説得に努めるとも発言していま
する投資となり、
直接投資の定義に該当
の投資家の意見が聞きたいという強い要望
した。アメリカやEUの商工会議所のメンバー
してしまうのではないかという問題等があ
を持っていました。
の前で、
このように日本の投資家の意見を重
り、
基準として不明確であると指摘されて
そのような中、
JICAの研修で日本を訪問し
要視する態度を示したことは驚きであり、
それ
いました。
そこで、
新法では直接投資、
間
たベトナム国会の経済委員会の委員長の発
だけ日本に対するベトナムの信頼が厚いこと
接投資という定義を廃止し、
企業の新規
議で、
2014年11月の国会開催前に、
新投資
の証左であると思います。
設立か既存の企業への投資かという切り
武藤弁護士
「新企業法」
)
。
法や新企業法の草案について日本の投資
口で手続きを分けて規定しています。
(3)
また、
旧投資法上、
施行令に規定はあ
西村あさひ法律事務所が、新投資法、新企
新投資法、新企業法の主な改正点
以下、今回の新投資法、新企業法の主な
業法の草案に対する意見書をまとめ、
重要な
改正点について要点を説明したいと思いま
家と同様の規制に服する現地企業であ
点に絞って、
同委員長などの国会議員、
計画
す。
る外国投資企業の範囲が、
法律上明確
投資省、
中央経済研究所の幹部で、
企業法
1. 投資法について
化されました。
家の意見を聴聞する機会が設定されました。
や投資法の起草に携わった人たちに対し草
(1)
旧投資法の下において、
外国投資家
16 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
るも、
必ずしも明確ではなかった外国投資
旧投資法は条件付きの投資分野に
おいて、
ベトナムの投資家が定款資本の
議を定款資本の51%などと定款で定め
らえない場合にその案件が実行されず、
貴重
51%以上を保有する場合は、
外国投資
れば、
それによることになったものと解され
な土地が未開発のまま打ち捨てられてしまう
家は国内投資家と同様の投資条件に服
ます。
等問題をはらむ事例が多数生じたという問題
すると規定していましたが、
その他の場合
(2)
出資期間について、旧企業法下では
があります。
それを防止するためには、
出資期
については明確ではなく、
また、
計画投資
経営登録証明書が発行されてから株式
間の3年ルールの見直しがどうしても必要とい
局等の実務の取り扱いも統一されていま
会社では90日以内、
有限会社では3年以
うことで、
結果的に90日ルールが法制化され
せんでした。
内とされ、
有限会社の持ち分の出資につ
てしまいました。
これに対して、新法はベトナム法に基
いては、
3年間の猶予期間が設けられて
2015年4月に新投資法、
新企業法を施行
づき設立された経済組織が、
企業を設立
いました。
する政令案がVBFを通じて各国商工会に対
し、他の企業に出資し、
その株式や持ち
新企業法は、有限会社にも90日ルー
して公表されました。
いつも、
ショートノーティス
分を購入する場合、
以下のいずれにも該
ルを適用し、
企業登録証明書が発行され
で意見を求められ十分な対応ができなかった
当しない場合には、
内国投資家と同様の
てから90日以内に定款資本の全額を出
ベトナム日本商工会では、
事前に新投資法、
投資の手続きおよび条件が適用されると
資しなければならないと規定しました。
新企業法の政令の検討チームを立ち上げ、
規定しました。
この点、
電力BOTプロジェクトなど、
大型の
筆者がチームリーダーとなり、
現地に駐在して
①外国投資家が定款資本の51%以上を
プロジェクトが有限会社を現地で設立すると
いる弁護士や現地進出企業、
会社法を専攻
保有する経済組織、
または過半数の合
ころ、
そのような大型のプロジェクトにおいて
する学者の意見をまとめて、
ベトナム政府に
名社員が外国の個人である経済組織
巨額の資金をアップフロントに一度に出資を
意見を提出しました。
また、
投資計画省で開催
②①の経済組織が定款資本の51%以
すると、
資金調達上、
資金のコストが高くなる
された新投資法を施行する政令案の公聴会
ので、
3年の猶予期間に案件の進捗状況に
にてベトナム日本商工会の意見を発表し、
当
③外国投資家および①の経済組織が定
応じてマイルストーン的に出資していくというメ
局に検討してもらうことができました。
款資本の51%以上を保有する経済組
リッ
トがありました。新企業法下では有限会社
以上のような商工会を通じたロビーイング
織。
の形態をとっても、
一旦90日以内に出資でき
支援のような活動は、
現地に駐在している弁
る額を規定した投資登録証明書・企業登録
護士だからこそできることで、
通常の契約や意
証明書の発給を受けた後、
各証明書の定款
見書の作成、
法令調査、
訴訟仲裁の遂行と
(1)
旧企業法下では、有限会社、株式会
資本につき改定を行い、
増資を繰り返すこと
いう業務とはまた一味違う面白みがあります。
社の社員総会、
株主総会の決議要件と
により、
段階的に出資をしていく方法を取るし
して、
双方において、
出席株主・社員の総
かないことになりますが、
増資の登録に時間
議決数または定款資本の65%以上の多
がかかると出資も遅れることになり、
プロジェク
数、
定款変更、
会社の組織変更、
会社資
トの施設の建設の遅延を招くのではないかと
産の50%以上の価値のある資産等につ
の懸念があります。
いては75%以上の多数
(または定款で定
この点は、
ベトナム日本商工会の意見書
めるこれ以上の割合)
を要求しており、
普
でも指摘し、
投資計画省や国会の経済委員
通決議については、
50%超というASEAN
会における聴聞でも問題点として指摘し、
ベト
域内の新興国の中でさえ通用している通
ナム側の国会議員や計画投資省の高官ら
常の多数決ルールからすると相当異例な
も理解はしました。一方、
ベトナムにおいては
多数決ルールを規定していました。
元々自己資金を調達する能力のない者が、
政
新企業法はこの状況を改善し、
株式会
府とのコネのみを利用し、
多額の投資資本の
社の普通決議は51%、
特別決議が65%
出資を約束する案件の許可を有限会社の形
となり、
有限会社の普通決議は65%、
特
式で取得しておき、
3年の間にその会社の持
別決議は75%であるも、
定款で別の規定
ち分を資金のある他の投資家に売却してエグ
をすれば、
その多数決の割合によると規
ジッ
トすることを目的とする案件が相当数あり
定されたため、
株式会社と同様、
普通決
ます。
そのため、
新たな投資家に投資をしても
上を保有する経済組織
2. 企業法について
武藤 司郎氏プロフィール
1996年末から2000年3月末まで、JICAの法整
備支援の初代長期駐在専門家として、ベトナ
ムの司法省に派遣され、民法や土地法等の施
行法令や民事訴訟法、破産法等の立法支援
や、民法、土地法の施行状況を調査する社会
調査に従事。
司法省に出向しているときのベトナム人の同
僚が、外国投資庁の副長官となったのちに退
官し、法律事務所を設立したため、2012年2月
から同所に出向、再度ベトナムに駐在し、2013
年3月から西村あさひ法律事務所ハノイオフィ
スに勤務。
西村あさひ法律事務所のハノイオフィスには、
日本人弁護士2名が常駐し、ベトナム人弁護
士が2名勤務し、
ホーチミンオフィスには日本人
弁護士3名が常駐し、ベトナム人弁護士が7名
勤務している。ベトナムにおける両オフィスおよ
び東京本部で連携し、M&A、規制業種の新設
案件、進出済み企業の労働案件、ベトナム法
の調査の受託など、幅広い分野の案件を取り
扱っている。
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 7
日豪EPA発効で投資・貿易促進が加速
みずほ銀行 シドニー支店 支店長 桜井 章雄
オーストラリア投資の魅力
降雪が見られるのはタスマニア州と本土の
米ドルで27位)
。産業構造は、
金融、
保険、
不
オーストラリアは、
南半球に位置する6つの
東南部のみで、
とても過ごしやすい。
動産サービスなどのサービス産業を中心とし
州と2つの特別地域からなる連邦制の国であ
ここで暮らす人々の生活レベル・質は、
た第三次産業のウェイ
トが高いのが特徴であ
る。国面積およそ769.2万K㎡
(日本の約20
非常に高いといえる。実際、
暮らしの11分野
る。
また、広い国土と恵まれた気候のおかげ
倍、世界第6位)
の広大な土地に約2,313
(住宅、収入、雇用、共同体、教育、環境、
ガ
で、農業・牧畜業が盛んであるが、高い人件
万人の人々が暮らしている。英語を母国語
バナンス、
医療、
生活の満足度、
安全、
仕事
費などが影響し、
製造業のウェイトは低めであ
とするこの国は、早くから積極的に移民を受
と生活のバランス)
についてOECDが36ヵ
る。
け入れ、海外出身者が全人口の25%以上
国間を比較・調査している指標、
「より良い暮
経済先進国に仲間入りして久しいオースト
を占める多民族国家である。
それ故、
オース
らし指標
(BLI:Better Life Index)
」
において、
ラリアの社会インフラは、
それなりに整備され
トラリア人を一概に特徴づけることはできな
オーストラリアは2014年度、
総合ランキング
ているものの、長期的に生産性や競争力を
いが、一般的には陽気で、気さく、親しみや
1位に輝いている
(日本は20位)
。
上げていくには、
さらなるインフラ投資が必要
すいのが特徴。彼らの気質をあらわす言葉に
オーストラリアは、
石炭・鉄鉱石を始めとす
であるといわれている。幸い、
パブリック・プラ
「Mateship」
というものがあり、
それは、困っ
る天然資源に恵まれた世界有数の資源国
イベート・パートナーシップ
(以下:PPP)
モデル
ている人を助ける仲間・平等意識を意味す
であり、
中国や新興国での旺盛な資源需要
(公的機関と民間事業者パートナーとして
る。元々、
イギリス移民が興した荒れ果てた広
に後押しされ、景気拡大を続けている。名目
協力し、
公共インフラやサービスを提供するコ
大な大地を開拓していくためには助け合うこと
GDPは、
1992年 以 降23年 連 続プラス成
ンセプト)
が広く実施されており、
これまで、
鉄
が不可欠とされ、
また、
本国イギリス階級社会
長を続け、
2014年には1兆5,997億豪ドル
道、
道路、
水、
電力等の経済インフラや学校、
への反発から平等意識が芽生えたといわれ
(=1兆4,442億 米ドル)
(世 界12位)
、実 質
病院、
教育等の社会インフラが整備されてき
ている。
GDP成長率2.7%、
1人あたり名目GDPは
た。今後も連邦政府、
州政府ともにますます
澄んだ空気と降雨量が少ないことが特色
67,815豪ドル
(=61,219米ドル)
で、世界5
PPPを利用していくことが予想され、
民間セク
の気候は、
国土の39%が熱帯で、
定期的に
位の高い地位を占めている
(日本は36,332
ターが主要なインフラ計画に関わる機会が
増えていくことが期待される。
オーストラリアの風景
高まる中国の存在感
オーストラリアの活力を上げているひと
つの要因として、人口増加が挙げられる。
2000年には1,914万人、
2005年には2,018
万人、
2010年には2,203万人、
2013年には
2,313万人と推移し、過去13年の間に、約
400万人増えている
(日本では、同時期で、
約37万人増加するも、
2008年を境に減少
ケアンズ
傾向)
。世界の住みやすい都市トップ10に、
ゴールド
コースト
パース
アデレード
ブリスベン
シドニー
メルボルン
4都市がランクイン
(メルボルン1位、
アデレー
ド5位、
シドニー7位、パース9位)
する安住
の地を求めて、
アジアからの移民が増えてい
る。中でも、
中国出身者は2008年から2013
年の5年間で37%も増えている。
それに比例
18 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
し、中国語を話す人口も増え、英語以外の
工場閉鎖することを発表し、
関連産業での投
2014年7月8日の首脳会談の際、両首脳
言語を日常会話として使用する人口が全人
資縮小が懸念されている。
その一方、
1人あ
の間で日豪EPAおよび同協定への署名が
口の18.2%を占めており、
その17%の人々が
たりGDPや人口増加率の高さから、
オースト
行われた。オーストラリアは、
これまで日本が
中国語を話すというデータもある
(日本語は
ラリアの消費市場に魅力を感じ、
小売・外食
締結した二国間EPAのパートナーとして、
第
1.1%)
。 部門への進出が相次いでいるのは、明るい
4の貿易相手国
(1位:中国、
2位:アメリカ、
3
オーストラリア総人口の20%の人々が暮
ニュースである。具体的事例として、
2010年
位:韓国)
である。本EPAは、貿易、投資、知
らすシドニーも、
中国との関わりは深い。
日常
に大創産業、
2011年にモスフード、
2014年
的財産、競争、政府調達など、幅広い分野
的に中国語はよく耳にするし、
中華料理はど
にファーストリテイリングなどが進出している。
を含む包括的協定である。期待される成果
こに行っても身近に食することができる。
チャ
また、
現地企業を買収することで進出する例
としては、
①アジア太平洋地域のルールづく
イナタウンは、
さまざまな人種の人々が足を運
もある。2015年2月、
日本郵便が豪州証券
りの促進、②日本企業・投資家の競争力確
び、
連日連夜活況を呈している。祝祭日には
取引所に上場する豪州物流大手、
Toll社の
保、
③日本企業投資家の活動の円滑化、
④
閉まる飲食店や小型スーパーが多いシドニー
100%株式を取得し、子会社化する方針を
エネルギー・鉱物資源、食料の安定供給の
でも、
中華系は営業していることが多く、
生活
発表したことは大きな話題となり、今後の動
強化が挙げられる。
なじみのある分野で例を
するうえでかなり重宝されているように思う。
向が注目される。
挙げると、
同協定により、
日本車
(完成車)
の
海外からの不動産投資においても、
中国
輸出額の約75%が関税撤廃され、
オージー
人投資家
(富裕層)
は、
存在感を増している。
日豪EPA等を踏まえた今後の展望
ビーフ
(冷蔵牛肉)
の日本への輸出が段階的
2013年度、
オーストラリアへの不動産に対
2007年4月に第1回交渉会合が開催さ
に15年目に23.5%まで関税が引き下げられ
する海外からの投資で最も大きかったのは中
れた両国間でのEPA交渉は、
2012年6月ま
る。
その他、
鉄鋼、
電気機械、
農林水産品な
国で、額にして約60億豪ドル、前年比41%
でに16回の交渉会合を重ねた。2014年4
ど、
その項目は多岐にわたり、
今後、
関税面で
の急増ぶりである。
月7日、
安倍首相とアボット首相は首脳会談
の優遇措置により、
両国間貿易がより促進さ
人口増と海外
(特に中国)
からの旺盛な
を行い、
日豪EPA交渉の大筋合意を確認。
れることが期待される。
投資を受け、
シドニーの不動産は慢性的な
供給不足に陥り、不動産価格は、高騰し続
みずほ銀行シドニー支店としてお役に立てることの一例
けている。
その価格は、
2000年のシドニーオ
当地に現法開設以来30年の歴史を有し、約130人の陣容で、営業からバックオ
リンピック以降、
3倍近くまで高騰したといわ
フィスまでの機能を有するシドニー支店は、
みずほグループの一員として、
幅広く他拠点
れ、
2014年のシドニー住宅価格
(中間価格:
と連携し、
「事前調査」、
「参入戦略」、
「実現可能性の検討」、
「新規進出またはM&
取引されている最高価格と最低価格の中間
A」、
「事業拡大・再編」
など、
お客さまのオーストラリアでの事業展開のステージに応じ
点)
は、戸建住宅で80万豪ドル
(約8,000万
て万全の体制でサポートさせていただきます。みずほ銀行は、2015年3月24日にオー
円)
を超え、
マンション
(ユニッ
ト)
で60万豪ドル
ストラリア貿易促進庁
(オーストレード)
と業務提携し、今後さらに、積極的に日系企業
(約6,000万円)
近くになっており、
かつての
さまのオーストラリア進出を支援して参ります。投資環境として魅力あるオーストラリア
ほうふつ
日本のバブルを彷彿させる。
と日本をつなぎ、両国の経済発展および関係向上に少なからずお役に立てれば幸い
です。
日系企業進出状況の変遷
2013年現在、
日系の現地法人数は481
社。
その内訳は、
卸売業・小売業37%、
製造
業17%、鉱業9%、金融・保険業7%、運輸・
お客さま
日本
豪州
進出
アドバイザリー
1.市場調査
2.パートナー探し等
郵便業4%などから構成されている。
これまで、
日本からの投資は資源系が中心
であったが、
資源ブームに陰りが見えているこ
国内営業店
直投支援部
<みずほ>
連携
とから、
今後は、
同分野への投資は減少する
情報提供(業界動向、個社情報)
という見方もある。製造業では、
トヨタ自動車
オーストレード
(豪州現法社)
1.口座開設
2.資本金受入
3.為替取引
4.Global e-bank
5.トレードファイナンス
シドニー支店
がホールデン、
フォードに続き、
2017年までに
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 1 9
サウジアラビア概要と最近の動向 ~在住者の視点から~
みずほサウジアラビア 社長 藤井 竜平
はじめに
り、遵守状況を監督する
筆者は、
2013
宗教警察が巡回してい
年6月からサウ
たりと、人々の生活と宗
ジアラビア の
教が非常に緊密な関係
首都リヤドにあ
にある。
サウジアラビア主要統計データ
2012年
2013年
2014年見込み
2015年予想
人口
(百万人)
29.2
30.0
30.9
31.8
失業率
(%)
12.0
11.7
11.5
11.3
5.4
2.7
3.6
2.5
5.1
-1.6
1.7
- 0.6
5.5
7.0
5.7
5.3
5.3
5.1
3.7
3.5
財政収支
(SAR10億)
374
180
- 54
-167
準備資産
(US$10億)
656.6
725.7
741.7
749.5
実質GDP
(%)
石油部門
内
非石油民間部門
訳
政府部門
る、
みずほ銀行
また、歴代国王は、初
の現地法人に
代国王の25番目の王子
勤 務 。当 地 赴
である現国王を含め全て初代国王の男系
口構成、大規模な政府予算継続等に裏付
任2年弱程度
子孫だが、直系長子の王位自動継承を採
けされ、
当面は維持されると思われる。
の経験で在住者の視点というのもおこがま
用せず、
異母兄弟や同母兄弟から選出して
しいが、以下、当地での生活で、
日々肌で感
いくため、
国王就任時の年齢は高齢化の傾
地政学的リスク
じたり、
見聞きしたことを踏まえて、
サウジアラ
向にある。
湾岸諸国最大の面積を持つ中東の中心
藤井社長
出所:SAMA、Ministry of Finance、
Jadwa
国で、西側と東側で、世界的な重要海路で
ビア概要と最近の動向についての雑感を
豊富な石油資源と脱石油依存
ある紅海とペルシャ湾に接している。
また、
北
サウジアラビアは、
世界の確認石油埋蔵
側と南側でイラクとイエメンに国境を隣接し、
サウジアラビア概要
量の約16%を保有する世界最大の石油輸
西側では紅海を挟んでエジプト、
東側ではペ
政教一致の絶対君主国
出国で、
OPECの中心国である。
ルシャ湾を挟んでイランが位置している。
初代国王であるアブドゥルアズィーズ・イ
石油セクターが、国家収入の約80%、
中東政策変化による米国の相対的プレ
ブン・サウードが、部族間闘争等を経てアラ
GDPの45%、
輸出収入の90%を占める等、
ゼンス低下、
アラブの春以降の中東地域の
ビア半島の主要地域を統一し、1932年に
国家の経済活動は、
石油収入に大きく依拠
混乱継続等により、中東の中心国であるサ
建国。サウード家は、厳格な原始イスラーム
している。一方、
サウジ政府は、若者を中心
ウジアラビアの地政学的リスクは増加し、
イ
復活を唱えるワッハーブ派と結合して、勢力
に高くなっている失業率の緩和、
あるいは石
エメンの反政府勢力であるフーティに対する
を拡大してきたという経緯もあり、
現在もワッ
油や政府部門に偏った経済活動の多様化
空爆等の対応を行うに至ったものと考えられ
ハーブ主義に基づく厳格なイスラム教義に
等を目的に、
民間非石油部門の成長促進策
る。
従う、原則、政教一致の国家運営を実施。
を積極化している。主要都市でのメ
トロ建設
国王は、
イスラム教の2大聖地で、
サウジアラ
計画、
リヤドでの金融特区構想等、
さまざまな
ビア西部に位置するメッカとメディナの「二
大型インフラプロジェクトが進行中である。
聖モスクの守護者」
という称号を持つ。
当地に赴任して最初に驚いたのは、
生活
預言者ムハンマドがマディーナへ聖遷
(ヒ
の隅々に浸透している堅固な宗教的戒律が
ジュラ)
した年を起点とする太陰暦のヒジュ
ある一方で、
さまざまなブランド品や豊富な食
ラ暦が当地の正式カレンダー。
また、
女性の
品であふれる大型ショッピングモールや有名
外出時は全身を覆うアバヤという民族衣装
建築家に設計された最先端で近代的なオ
着用が義務付けられていたり、
レストランの
フィスビルが数多く存在し、
また新規に建設
席は男女別に分離されるなど、
日常生活の
されているというダイナミズムも両立している
中でも厳格なイスラムの教義が適用されて
ということだ。
このダイナミズムは、
世界19位
いる。1日5回のお祈りの時間に合わせてレ
で湾岸諸国最大のGDP規模、
若者比率が
ストランを含めて店舗が30分程度閉店した
高く、
成長率も2%程度とバランスの良い人
記載する。
20 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
シリア
イラン
イラク
ヨルダン
サウジアラビア
メディナ
エジプト
ペルシャ湾
リヤド
アラブ
首長国連邦
メッカ
紅海
オマーン
イエメン
こうした地政学的リスクの増加にもかかわ
ロードマップを描けていなかった保険省の各
らず、
テロ取締強化等により、
現時点では大
大臣を早々に更迭した。
規模・組織的なテロ等は抑制されており、
経
イエメン問題についても、親サウジアラビ
済状況のみならず、
政治・安全状況もその他
ア国を中心としたアラブ諸国の同意をとりつ
湾岸諸国と比較しても安定感のある国の一
け、
アラブ合同軍を結成。サウジアラビアの
つであると思われる。
歴史では、極めて異例となる米国の直接の
後ろ盾なしに軍事介入を決行した。国連へ
最近のサウジアラビア動向
の相談もなく、
介入することもかなり踏み込ん
新国王即位と新体制
だ判断であったが、現時点では事実上の敵
皇太子時代を含めて約20年間、権力の
対国であるイランを除けば、
他国からの批判
主体としてサウジアラビアの近代化を推進し
は限定的である。
てきたアブダッラー国王が2015年1月に崩
新国王の一連の施策を見ていると、
「サ
御。新国王は、予想通りサルマン皇太子が
ウード家には
『先手必勝』
の伝統があるよう
即位。新皇太子にはムクリン第2皇太子が
に思える」
という、
ある外交筋の発言を思い
持ち上がり、
第2皇太子には初代国王の孫
出した。つまり、問題が大きくなる可能性の
リヤドの二大高層ビルのひとつファイサリアタワー
である第三世代のムハンマド・ビン・ナイーフ
ある事項は、素早く動きその芽を事前に摘
石油価格低迷により、
石油関連プロジェク
が内務相兼務で就任した。
また、新国王の
んでおくことが、後々の安定的な国家運営
トの一部先送りや停止等が発生するなど、
自身の側近として皇太子府長官、
皇太子特
につながるということだ。新国王の体制は、
関連受注が減少する可能性は否定できな
別顧問を務めていた息子のムハンマド・ビン・
息子のサルマン第2皇太子と連携を取りつ
いが、政府の大幅な財政支出予算の計上
サルマンを、
新たに国防大臣、
王宮府長官、
つ、難しい政策判断を上手くこなしつつ安
や若い人口構成や人口成長力に支えられ
国王特別顧問に任命。
さらに、
2015年4月
定感を持って運営をしているというのが実
た実需等によって、
サウジ経済全般では、
引
29日には勅令で前国王が指名したムクリン
感である。
き続き、一定程度の成長は見込めるものと
皇太子を解任し、
ナイーフ第2皇太子を皇太
思われる。
子に、国防大臣・王宮府長官のサルマン王
石油価格低迷と経済状況
子を第2皇太子に指名するとともに、
閣僚も
サウジアラビアは国家歳入の大半を石
まとめ
大幅に刷新し、親サルマン国王体制をより
油収入から賄っているため、生産量維持と
不安定な政情にある周辺国家に囲まれて
強化した。
いう現状の政策を前提にすると、石油価格
いるという地政学的リスクは引き続き留意す
政治、
経済ともに対応が簡単ではない状
の低迷は大幅な歳入減につながる。
る必要があるが、
2大聖地を含むアラビア半
況下、
サルマン新国王は、
前国王の基本路
サウジアラビアの予算均衡石油価格は
島の大半を国家領域とするサウジアラビア
線を踏襲しつつも、主要閣僚や知事を入れ
80~90米ドル/バレル程度と予想されてい
の外交・安全保障上の重要性は今後さらに
替えて権力基盤を固めつつ、
矢継ぎ早に独
るため、原油価格が急上昇しない限りは、
増すものと思われる。湾岸諸国最大かつ世
自路線を推進した。
当面赤字財政となる可能性が高いが、政
界19位の経済規模、
若者比率の高い人口
外交面では冷却関係にあった対米関係
府は潤沢な保有資産を背景に、過去最大
構成と人口増加を背景にした経済成長力、
改善を推進。政策決定プロセスでは、従来
規模となった2014年に続き、2015年も前
豊富な石油資源を背景にした大規模財政
の多層的な政策決定機関を整理し、
新設の
年比微増での財政支出を予算計上した。
支出の継続と各種大型プロジェクト推進、
2つの評議会に統合。新評議会は、
安全保
過度な石油セクター依存から脱却し、政
新国王の適切な国家運営等を考えると、
引
障・外交関連と経済・開発関連の2つだが、
策課題である産業分野の多様化やサウジ
き続き中東の政治・経済・宗教の中心国の
前者はナイーフ皇太子が、後者はサルマン
人雇用創出を推進するために、各種インフ
一角として重要な地位を維持していくであろ
第2皇太子がそれぞれ管轄している。
ラプロジェクトを継続し、一定程度の経済
う。
また、経済の脱石油依存の推進等、構
また、住宅供給不足問題への対応が十
成長を維持することは、赤字財政問題より
造改革推進の動向によっては、
今後のさらな
分ではなく、国民の不満が高くなっていた住
も重要な論点であると政府判断していると
る経済成長を享受する可能性もあると思わ
宅省や膨大な予算投入をしながら明確な
思われる。
れる。
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 2 1
中国情報ホームページを新設
みずほ銀行ホームページ内の
“中国情報ホームページ”
に以下のコンテンツを新設し、
中国に関する下記のさまざまな情報をご案内しています。
■中国の経済・地域政策などの最新動向 ■為替相場・マーケット情報 ■人民元にかかわる規制や決済取引情報
どなたでもみずほ銀行ホームページにアクセスするだけで、
いつでも下記のコンテンツをご覧いただけます。中国に関するビジネスにぜひお役
立てください。
ホーム> 法人のお客さま> 国際業務> 海外情報> 中国情報
英語版も閲覧できます
(下記画像はご案内用チラシ)
①みずほ中国ビジネス・エクスプレス:中国の規制動向に関する最新情報レポートを掲載
中国の外貨管理、人民元建てクロスボーダー取引、外商直接投資等の注目すべき規制情
報に関する、
最新動向についてわかりやすく解説しています。
②経済情報:中国の経済・産業情報に関する分析レポートを掲載
中国の経済・産業に関する定期的なレポートや、
時事トレンドに応じたトピックスについて分析
したレポートをご紹介しています。
③市場動向:人民元に関する為替や金利相場の最新情報を紹介
人民元為替・金利・株式について、
みずほ中国・みずほ銀行香港支店より、
オンショア・オフ
ショア人民元の為替や金利相場に関するレポートを掲載しています。
④<みずほ>の人民元取引:人民元に関する規制や決済、
ローン取引につき紹介
中国に有する豊富な拠点網を生かし、
<みずほ>は、
人民元取引にかかわる規制の流れや二重
相場制度、
人民元を利用した決済やローン取引など、
各種サービス・サポートをご提供しています。
<みずほ>での個別取引のお取り扱いは、
取引店またはお近くのみずほ銀行までお問い合わせください。
日本語:http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/index.html
中国情報HP英文:http://www.mizuhobank.com/service/global/cndb/index.html
22 mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80
みずほフィナンシャルグループからのお知らせ
オーストラリア貿易促進庁との業務協力協定の締結について
株式会社みずほ銀行
(頭取:林 信秀)
はオーストラリ
合意し、2015年1月に発効しています。EPA発効により、日
ア貿易促進庁
(Australian Trade Commission、以下
豪の経済関係が強化され、今後さらに幅広い業種において
「Austrade」)
との間で業務協力協定を締結しました。
貿易や直接投資も増加していくことが予想されます。
Austradeは、オーストラリアからの輸出、同国への直
日豪 両 国 政 府 間の動きと連 動し、民間においても投 資
接投資、留学研修等の促進を担うオーストラリア連邦政
促 進に向けた取り組みを活 発 化すべく、当 行はこのたび
府機関です。世界48ヵ国、82ヵ所に事務所を展開し、
日
Austradeとの業務協力協定の締結に至りました。Austrade
本国内にも4ヵ所の事務所と約50名の商務官を有して
が有する豊富な情報を活用しながら、具体的には、①オースト
います。
ラリアへの直接投資に関する定期的な情報交換の実施、②
オーストラリアは資源エネルギー国、農業・酪農国とし
Web等の情報提供ツールを活用した投資環境関連情報の
ての強みを背景に、経済成長を続けています。近年では
発信機能の拡充、③Austradeと連携したセミナーやワーク
同国の農産物を原材料とする食品加工や、医療部門に
ショップなどの開催、等に取り組んでいきます。<みずほ>は、
おける臨床試験等の研究開発のほか、小売・外食等の
本協定を通じ、
日豪の経済関係の発展に貢献するとともに、
サービス産業の分野においても注目を集めていることか
オーストラリアへの新規進出や事業拡大を検討するお客さま
ら、
日系企業からの関心も高まっています。また、
日豪両
へのサポート体制を一層強化していきます。
国政府は2014年7月、経済連携協定
(EPA)の締結に
GMのグロー バ ル E Y E
〔みずほ銀行 直投支援部長 加藤 修〕
2015年3月、当行サンチャゴ出張所開
500m超付近に存在します。チリは、治安
進出する場合には物資の輸出入に適し
業パーティーに合わせ、アンデス共同体
はほぼ問題なく先進国といってもいいで
ワーカーも集めやすく、治安の良さも南米
諸国を回る機会がありました。
しょう。
では上位にあるほか、何よりも西海岸北
南米諸国では、
主な都市は先住民族で
この他エクアドルの首都・キトも5,000
部でアジアから近いというメリットがあり、
あったインカ、
マヤ等の人々が築いた都市
m級の山岳地帯の山麓に所在。ボリビア
ポテンシャルの高い都市だと感じました。
が基礎となっていますが、
これらの都市は
のラパスに至っては首都空港の所在がそ
各国とも鉱物資源、穀物・食糧等が輸
皆、
アンデス山中にあり、
世界標準ともいえ
もそも4,000m付近にあり、出張者の大
出の中心であり、資源を輸出して完成品
るウォーターフロント・ベイエリアに大都市
半が高山病に苦しめられる環境です。ス
を輸入するという構図です。
しかし資源は
が少ないのが特徴です。このため大半の
ペイン語人材が不足する中では50~60
価格変動もあり、今後は技術導入の重要
都市では港湾から大都市への物流が重要
代で長期間または2度、3度と南米駐在
性が増す一方、
日本にとっては重要な資
なテーマとなっています。生産拠点を置く
生活を送られる方も多く、年齢の高齢化と
源安定調達先として重要性は増していく
場合には注意が必要でしょう。部材は航空
ともに出張がきつくなってきたという声もあ
でしょう。このため資源を調達し現地で加
貨物として送り、
付加価値の高いものを生
りました。
工して技術を移転すると同時に、現地市
産する等の工夫も必要となりそうです。
港湾に面している大都市は西海岸で
場でも販売していくモデルでの進出が期
たとえばコロンビアの首都・ボゴタ市は
はペルーのリマ、東海岸ではアルゼンチ
待されます。資源価格低下やブラジルをは
港湾から2つの山脈を越え、
3つ目の山脈
ンのブエノスアイレスやブラジルのリオデ
じめとした経済の不調が報道される今が、
の標高2,640m付近に建設されていま
ジャネイロ等、限定的です。
リマは入植者
実は参入コストも低下し、
チャンスなのかも
す。近年麻薬は影を潜めボゴタ自体の治
が中心となって建設した都市ですが、
すで
しれません。
安は大きく改善していますが、海岸地域は
に人口は1,000万人を超える大都会へ
<みずほ>では南米地域についても
まだよくないといわれています。チリの首
と変貌しており、
白人比率が低く、
さながら
ネットワークを拡大し、幅広く情報発信をし
都・サンチャゴもまたアンデス山中、標高
東南アジアといった感じです。生産型で
ておりますので是非ご活用ください。
mizuho global news | 2015 JUL&AUG vol.80 2 3
みずほ銀行 台北支店
リーホー
(台湾語で
“こんにちは”
)
! みずほ銀行台北支店から、
ご挨拶申しあげます。みずほ銀行台北支店は1959年に開
設以降50年以上の歴史をもち、現在では総勢約270名のスタッフが台北地域を中心にフルバンク業務を行っております。
加えてみずほ台湾拠点としては1992年に高雄支店、2008年に台中支店を開設し、3支店合算の預金・貸出のマーケット
シェアはともに外銀最大です。
台湾は面積が3万6,192k㎡と九州よりやや小さく、人口は約2,343万人、名目GDPは5,295.87億米ドル
(1人あたり
GDPは22,635米ドル)
です。歴史的にも日本との結びつきが強く、街には多くの日本文化が溢れ、世代を超えて非常に親日
的です。
日本にとっても、
台湾人は第1位の外国人訪問客数
(日本推計:約283万人〈2014年〉
)
を誇っています。
また台湾には幅広い分野で日系企業が進出し、
1952年から2014年にかけての日本からの投資累計は8,364件を数え、
台湾は日本にとって最も件数の多い投資国となっております。加えて、投資金額は2006年に半導体・液晶関連の大型案件
があり過去最高
(15.9億米ドル)
、投資件数は2012年に小売・外食業の進出を背景に過去最高
(619件)
を記録するなど、
直近においても日系企業の進出意欲は強く表れています。
台北市は台湾本島北部の台北盆地に位置し、
台湾の首都として政治、
経済の中心地であり、
人口は約270万人に上りま
す。街を見渡すと高層ビルや大型商業施設が立ち並ぶ中、古い街並みや屋台の風景も見られ、新しい中にも一種独特の懐
かしさを感じることのできるとても魅力的な街です。世界上位シェアを獲得した半導体関連企業をはじめ多くの台湾企業の主
要拠点が集積している一方、人口あたりのコンビニの店舗数が世界一の水準を誇るなど、
サービス業などの第三次産業が経
済の大部分を占めています。
台北支店は通常の銀行業務から調査・M&A等に至るまで多くのセクションを有しており、
また、台中支店、高雄支店との拠
点ネットワークを生かし、
さまざまなお客さまニーズに対応しております。今後ともよろしくお願いいたします。
作成・みずほ銀行 直投支援部
(2015年7月1日現在)
12402003199.15.07
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