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特別講演 - 日本高気圧環境・潜水医学会
第 47 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング 特別講演 1 ハイポキシア生物学ー酸素代謝からみる生 命現象の方程式 ギン残基水酸化酵素はfactor inhibiting HIF(FIH) -1と命名された。これらの酵素は,基質として分子 状の酸素,αケトグルタル酸,共役因子として二価 の鉄(Fe2+)とアスコルビン酸を要求するプロリン残基 広田喜一 またはアスパラギン残基を水酸化する酸素添加酵素 京都大学医学部附属病院 (dioxygenase)であることが示された。 手術部・デイサージャリー診療部・麻酔科 酸素はエネルギー産生における役割が強調される が,生体内のシグナル伝達に重要な役割を果たして いる分子でもある。酸素から生成される活性酸素種 は生体への毒性を発揮する場合もあるが細胞内シグ ナル伝達のセカンドメッセンジャーとして必須の役割を 果たしている。このように酸素は生体においては,エ ネルギー産生,シグナル伝達の両面での役割を担っ ている酸素の不足が生体へ及ぼす影響を検証する学 問をハイポキシア生物学と名付けた。 その主役を演じているのは低酸 素 誘導性因子1 (hypoxia-inducible factor 1,HIF-1)と名付けられた 転写因子である。 基質である酸素分圧の低下というシグナルは酸素 添加反応の低下に変換されその結果,新生された Johns Hopkins大 学 のGregg L. Semenza博 士 ら HIF-1αのうち水酸化されたものの比率が低下し,ユ は,1980年代の後半にエリスロポエチンの低酸素誘 ビキチン−プロテアソーム系の抑制を経て細胞内に 導性の発現誘導に関わる細胞内の因子の単離を決意 HIF-1α蛋白質が細胞内に蓄積するというスキームが し1995年にcDNAの単離に成功した。それがHIF-1 提出されている。 である。この転写因子は,helix-loop-helix(HLH)と このスキームではシグナル伝達の修飾状況によって Per-ARNT-SIM(PAS)ドメインを持つアルファサブ は酸素分圧の低下無しに“低酸素応答”が進む場合 ユニット(HIF-1α)とベータサブユニット(HIF-1β)が も存在する。鉄欠乏によるHIFの活性化などはこの 疎水結合で結合した二量体蛋白質であり各種解糖系 例の一つである。 酵素,グルコース輸送蛋白,血管内皮増殖因子,造 血因子エリスロポイエチンなど,多くの遺伝子の発現 細胞の低酸素感知機構について概説した。 を転写レベルで制御している。或る報告によれば,1% の低酸素に暴露された血管平滑筋細胞において,発 現誘導される845個の遺伝子のうち245個がまた発現 量が抑制される1072個のうち325個がHIF-1による発 【参考文献】 1) 広田喜一:ハイポキシア生物学と周術期医学 臨床麻酔 2009: 33: pp.1911-1919 現調節を受けているという。このようにHIF-1は低酸 素誘導性遺伝子発現のメインストリームに位置する転 写因子である。 この 制 御 に お いて 二 種 類 の 酸 素 添 加 酵 素 (dioxygenase)が重要な役割を果たす。 プロリン水酸化酵素は三種類のアイソザイムが存在 しproly hydroxylase domain(PHD)1-3, アス パラ 141 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 特別講演 2 低圧性低酸素環境での加圧療法と酸素投 与:高所登山の現場では Vol.47( 4 ), Dec, 2012 短い順応時間での高所到達を可能にした。そうした技 術には軽量酸素ボンベとリザーバー付きマスクによる酸 素吸入,携帯型加圧チャンバーによる人体加圧などが 含まれる 6〜8 )。発電機などによる電力供給が可能な場所 では,ゼオライト粒子を用いた酸素濃縮器も使用され始 齋藤 繁 群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座 麻酔神経科学分野 めている 9 )。8000mを超える低圧性低酸素環境(高山) で酸素を使用せずに活動することは,呼吸機能などが 極めて優れているごく一部の訓練された登山家のみが可 能であるが,酸素ボンベ等の使用により吸入酸素分圧 近年,高齢登山者がヒマラヤの高峰に登頂したという を上昇させれば,一般の登山者でも活動は容易になる。 ニュースがしばしば話題に上るようになっている。もちろ 一部の人気度の高い山域では,複数のアドベンチャーツ ん,元気な高齢者が増加しているというのも事実だが, 高齢登山者が酸素分圧の極端に低い高所に到達できる ようになった背景には様々な技術革新の功績がある1,2 )。 人体が低圧性低酸素の環境に曝されると,いくつか の生理学的な反応が順次誘導される。循環器系では心 拍出量がまず増加し,単位血液体積中に含まれる酸素 含量が少なくなった分を,血液循環の増加で代償しよう とする。心拍出量の増加は,心拍数ならびに一回拍出 量の増加と末梢血管抵抗の減少などが相まって誘導さ れる 3)。また,呼吸数,一回換気量が増加し,肺胞ガ ス中の二酸化炭素分圧を低下させ,その分,酸素分圧 を少しでも高めるように反応する。環境の酸素分圧低下 に応じて2 倍から4 倍程度に分時換気量が増加するが, 誘導される程度ならびに誘導がかかるまでの時間には 個人差が大きい。更に,血液中のヘモグロビン濃度を 増加させる反応が約1週間〜1ヶ月の期間をかけて惹起 される。これらの反応はいわゆる高所順応のバックグラ ウンドをなすもので,他の持久系スポーツにおける高地ト レーニングなどにも応用されている。十分な反応が誘発 されるのに要する時間や最終的に達成される低酸素環 境への順応度には個人差が大きく,ほとんど誘導が起 こらない場合もある。 運動負荷は酸素分圧の高い低地では動脈血酸素飽 和度の低下をもたらすことはないが,標高 2500mを超え る地点になると,運動負荷によって生じる酸素需要の増 加をまかなうだけの血液酸素化を行うことが困難となり, 運動時の低酸素血症が顕著となる 4,5 )。必要な適応が 達成されないままに長時間高所に滞在すれば,あるい は順応が不十分な状態で運動負荷を行えば,肺水腫, 脳浮腫などの重篤な高所障害に陥り,生命の維持も困 難になる。本邦では標高 3776mの富士山を除けば,高 所障害を生じるような高所はほとんど存在しないが,逆 に,富士登山では約半数の登山者が頭痛,悪心,嘔吐 などの高所障害を経験すると言われている。 近年の技術革新は高所登山のリスクを大きく軽減し, 142 アー会社が積極的に酸素ボンベを含む物資の運搬サポ ートビジネスも展開しており,高所登山の大衆化に一役 演じている。十分な知識やトレーニング無しに,安易に 危険な高所登山を行うことは決して推奨されるべきでは ないが,技術をうまく利用することで,高所滞在の安全 性を高めることは,決してマイナスになることはないと考 えられる。 【参考文献】 1 )Saito S, Tobe K, Harada N, et al.: Physical condition among middle altitude trekkers in an aging society. Am J Emerg Med 2002; 20: 291-294. 2 )齋 藤 繁:病気に負けない健康登山 . 東京 山と渓谷社 . 2010;pp8-214. 3 )Saito S, Tanobe K, Yamada M, et al.: Relationship between arterial oxygen saturation and heart rate variability at high altitudes. Am J Emerg Med 2005; 23:8-12. 4 )Saito S, Nishihara F, Takazawa T, et al.: Exerciseinduced cerebral deoxygenation among untrained trekkers at moderate altitudes. A rch Environ Health1999; 54: 271-276. 5 )Narahara H, Kimura M, Suto T, et al.: Effects of cardiopulmonary resuscitation at high altitudes on the physical condition of untrained and unacclimatized rescuers. Wilderness Environ Med 2012; 23:161-4. 6 )Saito S, Shimada H, Yamamori K: A transportable hy p erba r ic cha mb er w it h S o d a Li m e for t he treatment of high altitude disorders. J Wild Med 1994; 5: 295-301. 7 )Shimada H, Morita T, Kunimoto F, et al.: Immediate application of hyperbaric oxygen therapy using newly devised transportable chamber. Am J Emerg Med 1996; 14: 412-415. 8 )Saito S, Aso C, Kanai M, et al.: Experimental use of a transportable hyperbaric chamber durable for 15 psi at 3700 meters above sea level. Wilderness and Environmental Medicine 2000; 11: 21-24. 9) Sakaue H, Suto T, Kimura M, et al.: Oxygen inhalation using an oxygen concentrator in a low-pressure environment outside of a hospital. Am J Emerg Med 2008; 26: 981-984. 第 47 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング 教育講演 1 突発性難聴の治療に高気圧酸素治療は 有効か? 全国調査の結果と比較すると必ずしも高い有効率を 示すものではない。しかし,全国調査においては一 次治療症例が多く初診時の重症度分類でも軽度の GradeⅠとⅡが半数近いのに対し,当科症例は一次治 武市紀人 北海道大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 療後の無効例が多く重度のGradeⅢとⅣ例が 7割以 上を占めていた。当科での治療目的が救済治療であ ることを考慮すると4割以上の方が治癒または著明改 突発性難聴は本邦において毎年約 35,000人の新 善まで救済されたことになり,有意義な治療法と考 規罹患を認める頻度の高い原因不明の疾患である。 える。他に予後に影響を与えた要因を当科症例およ 厚生労働省による難治性疾患克服研究事業では対 び文献的に考察すると,当科の結果を含め高度難聴 象疾患に指定され調査研究班において疫学,治療 症例には有効との報告が多い。一方,軽症例では併 法などを始めとする様々な研究が継続的に行われて 用した場合と併用しない場合で大きな差が無いため いる。治療法においては 1980年にWilsonらによる 必ずしも高気圧酸素治療は必要ない,とされている。 double-blind studyによりステロイド治療の有効性が また,治療開始時期に関しては早ければ早いほど良 報告され,それ以来ステロイド治療が突発性難聴に い,という大原則があるのは当然として,発症早期 対するGold-standardとなった。しかしながら,治癒 では併用した場合と併用しない場合で大きな差が無 率は全体の 5割以下とされ絶対的な治療法とは言え いとされる一方で発症後数ヶ月の経過症例では高気 ない。また,合併症等により全身的なステロイド投与 圧酸素治療を併用しても有効性に乏しいとされてい 困難な症例も存在する。Wilsonらの報告は治療のガ る。総合すると発症後 1から2ヶ月の症例には高気圧 イドライン確立に貢献した一方,治療成績が頭打ちと 酸素治療を勧めるべきとする報告が多い。 なった現在においても治療の柔軟性を奪い,耳鼻科 コクラン・ライブラリーを始めとする多くの報告が突 医にとってステロイドの呪縛から逃れることができない 発性難聴に対する高気圧酸素治療の有効性の評価 きっかけとなった。現在でも治療成績の検討の多くは が不十分であるとしているが,大規模な比較検討は 全身ステロイド投与との併用療法が大部分である。 現実的には困難である。臨床の現場では個々の症例 高気圧酸素治療はステロイドとの併用により突発 に対して慎重かつ迅速な判断が必要であるが,現状 性難聴の特に難治例,重度例に有効との報告が多 では高気圧酸素治療は勧めるに値する有効な治療法 い治療法である。当院を受診する突発性難聴患者は の一つと考える。 すでに他院において一次治療を行われ効果不良例が 大部分である。当科ではそれらの患者に対し麻酔科 との協力により入院による高気圧酸素治療の併用を 推奨している。事前説明に承諾が得られた患者に対 し,2.4ATA,60分以上,計10回の高気圧酸素治療を ステロイド,循環改善剤,星状神経節レーザーブロッ クとともに併用している。該当症例は 2009年1月から 2011年12月までの 3年間では 31例であった。厚労省 研究班の判定基準に基づき治療後の成績を評価す ると,治癒 6例(19%),著明改善 7例(23%),回復 9例(29%),不変 9例(29%)であった。2001年の調 査研究班による全国調査の結果では全 646例中,治 癒 285例(44%),著明改善 135例(21%),回復 101 例(16%),不変 125例(19%)であり,当科の成績は 143 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 教育講演 2 口腔外科領域におけるHBOの適応と有用性 北川善政 浅香卓哉 佐藤 淳 秦 浩信 Vol.47( 4 ), Dec, 2012 可能であろう。さらに口腔癌治療において近い将来には, FMISO-PET で低酸素部位を評価した放射線治療計画を 策定した IMRTとHBOを併用することによって患者の生存 率の向上のみならず機能温存が可能になることが期待され る。 佐藤 明 山崎 裕 北海道大学大学院歯学研究科 口腔診断内科学教室 現 在,高気 圧酸素療法( HBO )の口腔外科領域での 適応は広がりを見せつつある。これまで HBO は本領域で 最も難治性の疾患の一つとされた慢性顎骨骨髄炎,特に 放射線性顎骨骨髄炎( ORN )に対して,外科的治療や抗 菌薬投与を補助し,効果的に創傷治癒を促進させる目的 で使用されてきた。近年,骨粗鬆症や固形がんの骨転移 患者におけるビスホスホネート製剤( BP)の長期内服もし くは注 射製剤の使用によるBP 関連顎骨 壊死( BRONJ ) の報 告が増 加しており,HBO の有 効 性について検 討が 進められている。当科において,2012 年現在まで北大麻 酔 科 のご協力のもとHBOを施 行した症例は 91 名( M/F 49/42,23-90 歳,平均 59 歳)である。内訳は,ORN 41 例(上顎 2,下顎 39 ) ,歯性下顎骨骨髄炎 31 例,BRONJ 8 例,DSO 6 例,顎関節炎 1 例,オトガイ神経麻痺 1 例な どである。今回,当科におけるHBO の適応と現状,悪性 腫瘍における低酸素状態の研究,今後の HBO の応用と展 望について概説した。 1. 難治性顎骨骨髄炎とHBO 2007 年よりORN および BRONJ におけるHBO の 効 果 判定方法として FDG-PET を応用しその有用性を検討して きた。治療プロトコールは,術前 20 回 HBO,手術( minor conservative surgery) , 術 後 10 回 HBOとし, 必 要に応 じて抗菌薬を併用している(図 1 ) 。BRONJ( N = 6 )では SUVmax は 4.76 ±1.24 からHBO 後 3.22 ± 0.91に低下 傾向を示した( p = 0.09 ) (図 2 ) 。一方,ORN( N = 6 )で は HBO 前後で変化しなかった。BRONJ では HBO 療法で 全症例予後良好であった。ORN では,HBO 後に FDG の 高集積(SUV >4 )を示した 2 例では予後不良で追加切除, 再建を要したのに対し,HBO 後に FDG の低集積( SUV <4 )を示した4 例では予後良好であった。HBO の効果が 1) FDG-PET で評価可能 であり,難治性顎骨骨髄炎の予 後予測にも有用であることを明らかにしてきた。これまで のところ,HBO 単独もしくは抗菌薬併用による保存的療 法のみでの治癒例は確認されておらず,外科的治療の補助 療法として HBO の使用が適切であると思われる。 2. 口腔癌における低酸素状態を反映するFMISO-PET 研究 低酸素状態は固形癌の重要な予後因子のひとつであり, 放 射 線・化 学 療 法 に 抵 抗 する。18F-Fluoromisonidazole ( FMISO )PET は癌の低酸素状態を非侵襲的に検出で きる。われわれは FMISO-PET を口腔がんに応用し治療 ) 3) 。FMISO PET の集 抵抗性や予後を検討してきた 2(図 積が口腔扁平上皮癌( OSCC )患者の組織学的頸部リン パ節転移に関連することを報告してきた。さらに FMISO PETと術前化学療法の組織学的効果の関連を検討したと ころ,OSCC 患者の術前化学療法の組織学的効果が原発 巣の FMISO PET の SUV に関連する可能性を初めて示し た。動物実験では高濃度酸素投与により腫瘍の低酸素領 域が減少することを確認している。このような低酸素状態 を示す腫瘍への放射線治療とHBO 併用も将来の展望とし て期待できる。 3. 今後の HBO の応用と展望 大矢らは口腔癌治療に HBOと動 注化学放射線療法を 併用し,HBO が有意に生存率を高めたことを既に本学会 。 等で報告している 3 ) HBO の口腔外科領域での展望を考えると,従来の難治 性顎骨骨髄炎のみならず炎症性疾患,骨の治癒促進にも 適応拡大(重症感染症;顎骨骨折,外科的矯正術,骨皮弁) 144 図1 図2 図3 【引用文献】 1 )Yamazaki Y,et al: Use of FDG PET to evaluate hy perbaric oxygen therapy for bisphosphonate related osteonecrosis of the jaw. Clin Nucl Med 2010; 35: 590-591. 2 )佐 藤 淳,他:FMISO-PETによる口腔扁平上皮癌の 低酸素状態( hypoxia )の臨床的意義 . 北海道歯学雑 誌 2012;33:27-30. 3 )O ya R, et al: Targeted intra-arterial carboplatin chemoradiotherapy and tegafur/uracil for oral and oropharyngeal cancer. J UOEH 2006;28: 381-394. 謝 辞 発表に際して貴重なデータとご助言をいただいた産業医 科大学 大矢亮一先生,平島惣一先生,大栗隆行先生, 大成宣弘先生,興梠征典先生に深謝します。 第 47 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング 教育講演 3 一酸化炭素中毒と高気圧酸素療法 Emergency PhysicianはCO中毒に対してHBOを推奨 するガイドラインを公表しているが,後者は“cannot be mandated”の一文が加えられている。北海道大学 丸藤 哲 病院先進急性期医療センターではWeaverの方法に 北海道大学医学研究科 侵襲制御医学講座 救急医学分野 準じたHBOを2003からCO中毒患者に施行してきた。 今回詳細を把握できる78症例でその効果を検討した が,満足の行く結果であった。 一酸化炭素(carbon monoxide, CO)の生体毒性機 CO中毒に対するHBOの有効性の科学的確立のた 序は未だ完全に解明されていないが,組織低酸素と めには,多施設共同二重盲検ランダム化比較試験が 虚血/再灌流に起因する炎症反応が想定されている。 必要である。しかし,その研究結果が公表されてい COは還 元 型ヘム蛋白と結合して組 織 酸 素供給 障 ない現段階では,これまでの研究中最も科学的に妥 害(CO-Hb形成,酸素解離曲線左方移動,CO-Mb 当な方法(一施設二重盲検ランダム化比較試験)で行 形成による心筋障害)および組織酸素代謝失調(シト われたWeaver等の方法に準じて HBOを施行すべき クロム酸化酵素阻害によるミトコンドリア機能障害) であると考える。 を介して細胞・組織損傷を引き起こす。急性期治療と 【文献】 しての高気圧酸素療法(hyperbaric oxygen therapy, 1 )Weaver LK, Hopkins RO, Chan KJ, et al: Hyperbaric HBO)はこれらの機序を標的として施行される。しか oxygen for acute carbon monoxide poisoning. N Engl し,これらでは遅発性中枢神経障害の発症機序,そ の予防策としてのHBOの効果を説明できない。虚血/ 再灌流はヒポキサンチン・キサンチンオキシダーゼ系を 活性化し脂質過酸化,活性酸素種形成(O2-, ・OH-, ONOO-)および好中球・血管内皮細胞活性化を介し たエラスターゼ,メタロプロテアーゼ産生,さらにミク ログリア活性化から細胞・組織損傷を来す。この炎症 J Med2002; 347:1057-1067. 2 )A nnane D, Chadda K, Gajdos P, et al: Hyperbaric oxygen therapy for acute domestic carbon monoxide poisoning: two randomized controlled trial. Intensive Care Med 2011; 37:486-492. 3 )The Cochrane collaboration: Hyperbaric oxygen for carbon monoxide poisoning( Review). http://www.thecochranelibrary.com 反応抑制にHBOの作用機序を求める説もあるが,そ の評価は定まっていない。 2002年 に 公 表され たWeaver等 のランダム化 比 較試 験(二重盲検)は信頼性の高いHBOの優位性 を証明した研究として知られる 1)。この研究では, 3ATA/2ATA150分 1回,2ATA120分 2回をCO暴 露 後平均 6時間以内に開始し24時間以内に終了するこ とで 6週間後および 12ヶ月後の有意な認知機能の改 善を認めている。2011年にAnnane等が公表した一施 設ランダム化比較(非盲検)試験では,軽症意識障害 患者ではHBOの優位は証明されず,重症意識障害で は複数回のHBOが予後を悪くすると結論された 2)。こ の結果を加えた 2011年The Cochrane Collaboration は,HBOのCO中 毒 に対 する適 応 は 未 だ 一定して おらず多施 設共同二重 盲検によるランダム化 比 較 試 験が必 要であると結 論している。Undersea and Hyperbaric Medical Society, American College of 145