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シンポジウム S1-1 - 日本高気圧環境・潜水医学会

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シンポジウム S1-1 - 日本高気圧環境・潜水医学会
第 45 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング
シンポジウムS1-1
非観血的血中一酸化炭素濃度測定モニター
を用いた一酸化炭素中毒患者の早期発見お
よびスクリーニング
し。血液ガス分析にてCOHb34.5%,同時に測定し
たSpCO34%であり,CO中毒と診断し,HBO治療を開
始した。併せて,消防庁に対して自宅内ガス発生源
の探索を要請。まもなく自宅 1階に併設された貸し倉
庫内よりアイドリング状態で放置された自動車が発見
1)
増野智彦 宮内雅人 黄川田信允
1)
2)
松田範子 德永 昭 横田裕行
された。入院後経過:合計 5回のHBO治療を施行し,
神経障害等の後遺症なく第 4病日に自宅退院した。
1) 日本医科大学高度救命救急センター ME部
本症例では,救急隊到着時において燃焼ガスの発生
2) 日本医科大学武蔵小杉病院
は明らかでなく,CO中毒を念頭におきSpCOを測定す
ることによりはじめて,潜在的CO中毒を発見し,迅
一酸化炭素(CO)中毒による死者数は年間 3,000
速な診断・治療へと展開することが可能となった。ま
~ 5,000人であり,中毒患者数はその数十倍と推測さ
た,早期に消防と連携し,COガス発生源を特定する
れる。COは無味無臭,無刺激性の気体であるため,
ことができたため,二次災害の防止にもつながった。
その発生に気づかれづらく,また,中毒症状は非特
この他,火災や不完全燃焼ガス吸入による多数傷
異的であるため,臨床症状のみからCO中毒を正確に
病者発生事案においては,現場で多波長パルスオキ
判断することは困難である。実際に,医療機関を受
シメータにてSpCOを測定し,トリアージを行うことに
診したCO中毒患者の約 3割は誤った診断がなされて
より,CO中毒の早期発見および適切な搬送先決定が
いるとの報告もあり,中毒症状を見逃すこととなれ
可能となる。実際に我々が経験したCO中毒患者多
ば,患者を再び危険な環境へひき戻し,慢性中毒を
数発生事案では,現場で測定したSpCO値をもとに,
引き起こすことになる。CO中毒の適切な診断・治療
SpCO高値の患者はHBO治療の可能な医療施設へ分
の遅れは低酸素症のみならず遅発性中枢神経障害を
散搬送を行い,全員合併症を生じることなく改善し
引き起こすことが知られており,早期かつ的確にCO
た。
中毒を発見する方法が求められるが,これまでのとこ
COHb,SpCO値はCO中毒の重症度とは必ずしも
ろ血液を採取し,コオキシメータを用いて血中CO濃
相関しないものの,
CO中毒を判断する上で必須のパラ
度を測定する以外,CO中毒を正しく判断する方法は
メータである。現場からの酸素投与はCO中毒の存在
ない。
を見えづらくするため,CO中毒の疑われる症例に対し
近年開発されたパルスオキシメータは,センサーに
ては患者発生現場より積極的にCO測定を行っていく
多波長のダイオードを使用することにより,血中COヘ
ことが,これまで見逃されていたCO中毒患者の発見,
モグロビン濃度(SpCO)の測定を非観血的にかつ連
中毒被害の軽減につながると考えられる。病院前よ
続して行うことを可能とした。測定は酸素飽和度と同
りスクリーニングを行い,CO中毒患者を的確に拾い上
様,迅速・簡便であり,我々はこの多波長パルスオキ
げることは,中毒患者に対して適切な治療を行うこと
シメータを火災・救急・災害現場にて使用することによ
同様に極めて重要である。これを可能とする為の救
り,CO中毒患者を早期に発見し,高圧酸素療法等の
急救命士法改正や病院前からのSpCO測定の普及に
早期治療開始につなげ良好な結果を得ている。
向けた働きかけを本学会に望みたい。
事例:68歳, 女 性。 主 訴:頭 痛・嘔気・嘔吐。 現
病歴:昼頃より頭痛・嘔気出現し,2階居間で休んでい
た。夕方,動けなくなっている患者を帰宅した家族が
発見し救急要請。救急隊が携行した多波長パルスオ
キシメータにてSpCO45%と高値を示したため,CO中
毒疑いにて当院に搬送された。入院時所見:意識レ
ベルJCS 1,健忘+,嘔気+,バイタルサイン異常な
173
日本高気圧環境・潜水医学会雑誌
シンポジウムS1-2
第一種装置での急性CO中毒治療プロトコー
ルとその限界
Vol.45( 4 ), Dec, 2010
他院からの問い合わせに際してもこのプロトコールに
準じている。
これまでに 3例(8%)の間歇型発症を経験している
が,意識障害のため気管挿管下人工呼吸を行い,24
1)
2)
時間以内のHBO治療を行えていなかった。COHbは
1) 山口大学医学部附属病院 先進救急医療センター
21,37,43%でアシドーシスはなかった。2例は練炭,1
2) 山口大学医学部附属病院 ME機器管理センター
例は排気ガスによる自殺企図である。3例とも間歇型
鶴田良介 松山法道
発症に前後して頭部MRI(FLAIR像)で深部白質に
急性CO中毒に対する高気圧酸素(HBO)治療の位
置づけは漠然としている。教科書では,意識障害や
第一種装置を用いた急性CO中毒治療には限界が
痙攣などを呈する重症例にHBO治療が推奨されてお
ある。本学会の安全基準は酸素加圧では 2ATAとし,
り,2010 UpToDate
1)
でもエビデンスレベルgrade 2B
人工呼吸器の使用を禁じている。軽症例に対して
で表 1に示すような適応である。このような症例には
HBO治療の必要があるのか,重症例は第二種装置を
原則,第二種装置でないと患者の安全を確保しなが
有する施設に搬送すべきかが解決されるべき課題と
ら施行しえない。翻ってHBO治療を必ずしも行う必
思われる。
要のない比較的軽症な急性CO中毒症例に第一種装
文献
置を有するという理由でHBO治療を行っているのが,
1 )http://www.uptodate.com/online/index.do
当院の現状である。Weaverらの報告以降,われわれ
2 )鶴田良介ほか。急性一酸化炭素中毒患者への高気圧酸
は精神科医と協議し,施設内プロトコールを作成し
素治療プロトコール~よりよい精神科医との連携をめざ
改良してきた 2)。これは第一種装置(酸素加圧)を有
する高度救命救急センターでの現在行いうる最適な治
療法と考えている。精神科医と連携を図っている理
由は患者の多くが自殺企図であり,精神科医が間歇
型CO中毒の診断に経過中遭遇することが多いからで
ある。
治療プロトコールは,CO曝露後 24時間以内の患者
を対象とし,気菅挿菅下(要人工呼吸),意識レベル
がJCS30以上,16歳以下,気胸・開胸手術の既往また
は肺気腫・肺嚢胞を認める場合,治療が不十分の痙
攣・不整脈を認める場合を除外している。来院後 24
時間以内に2回(2ATA,1時間,BARA-MED®,小池
メディカル)のHBO治療を行う。その後の継続治療に
ついては,精神科医と協議して決めている。また,2
ヵ月後に認知機能障害の発生の有無を確認している。
表 1 急性 CO 中毒に対するHBO 治療の適応(文献 1)よ
り引用
・COHb > 25%(あるいは 40%)
・COHb > 20%の妊婦
・昏睡
・重症代謝性アシドーシス( pH < 7.1 )
・末端臓器の虚血徴候(心電図変化,胸痛,精神状態
の変化)
174
高信号領域を認めた。
して~。日本臨床高気圧酸素・潜水医学会雑誌 2010; 7:
9-13.
第 45 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング
シンポジウムS1-3
急性一酸化炭素中毒の治療の現状と高気圧
酸素療法(HBOT)の効果について
-全国調査より-
瀧 健治1) 楠葉洋子2)
3)HBOTの実施回数と予後
各症例に行われたHBOTの施行回数は様々であり,1
~3回までHBOTを行った症例は66%と最も多く,
7回ま
ででは89%の症例が占めており,
14回までHBOTを行っ
た症例は96%とほとんどの症例が含まれていた(図3)。
予後 別には,4つの 群 間 でHBOT実 施 回 数は無
症状群で最も少なく,次に全 快から不変群の順に
HBOT実施回数が多くなっていた(図 4)。
1) 社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院
2) 佐賀大学大学院医学系研究科
【はじめに】急性CO中毒への高気圧酸素療法
(Hyperbaric oxygen therapy:HBOT)の効果は様々に報告
されており,HBOTが有効であると確立されるまでに
はいまだ至っていない。そこで,急性CO中毒の治療
法や予後などについて全国多施設調査を行い,急性
CO中毒の治療法を検討した。
【対象と方法】
2006年~2008年の3年間に臨床研修指
定病院,高気圧酸素装置設置施設などで行われた急
性CO中毒症例について,発生原因,治療方法やそ
の予後,並びに各施設のHBOT施行基準を調査した。
回答のあった420施設で治療された急性CO中毒症例
1667名を検討対象とし,HBOTを実施した群(HBOT
群)
と常圧下で治療を行った群(NBOT群)
との予後を
比較・検討した。さらに,急性CO中毒へのHBOT施
行基準から,HBOTをあまり行わない施設(Aランク)
と
良く実施する施設
(Cランク)
の3ランクに各施設を分け,
急性CO中毒の治療状況について分析した。
【結果】
1)治療法による治療効果の較差
HBOT群とNBOT群とで予後を比較して,HBOT群
の治療有効率はNBOT群に比べて統計学上有意に高
かった(図1)。
2)HBOTの実施判断基準による違い
HBOT装置の保有施設で,図 2のように 3つのラ
ンク間でHBOT群内の治療効果に差がなかったが,
NBOT群の無効の割合はHBOTをあまり行わない施
設(Aランク)ほど高く,施設間で治療効果に興味深
い差が認められた。
表1 HBOTを実施する判断基準の分類
図2 HBO装置保有施設に
図1 予後からみたHBOTと おけるABCランク別予後の比
NBOTの治療効果
(n=1667, 較(Cochram-Armitage test,
N = 967)
χ二乗検定)
図 3 各症例に実施された
HBOT 施行回数(全症例数
n=353 )
図 4 HBOT 施行予後と実
施回数(全症例数 n=353 )
【考察】HBOTの治療効果は,HBOTの実施方法や実
施判断基準によってその分析が異なる。Retrospectiveな比較試験では分析条件の設定に限界があり,
今までの論文で比 較 条 件は決して理 想的でない。
本研究では,急性CO中毒を多施設間で調査して,
HBOTの治療効果を検討した。
重症度の差による不正確な比較を避けるため,その
実施基準から治療施設を3ランクに分き,治療結果を
HBOT群内とNBOT群内で比較した。HBOT群では高
い比率で予後は改善されていたが,
NBOT群内でランク
分けされた施設間の予後に差が認められた。Raphael
のRCTは非常に的を得た比較試験であったが,その比
較にはわずか1回と2回のHBOTの治療結果を用いたた
め,
HBOTの効果の差をみることができなかった。
各症例に行われたHBOTの実施回数は本調査でも
様々で,無症状群から不変群へ予後が悪くなるにつ
れてHBOTの実施回数が多くなっていた。
以上から,本調査でのHBOT施行回数は 7~14回
までの場合の検討であった。
【結論】急性CO中毒に対するHBOTの治療的効果を
多施設間でretrospectiveな調査を行い,急性CO中
毒の重症度を等しくしてHBOTとNBOTの治療効果
を比較すると,7~14回までのHBOT施行基準で急性
CO中毒にHBOTが推奨されると示唆された。
【謝辞】本調査にご協力していただいた多くの施設に,
心より感謝申し上げます。
【参考文献】
1 )Raphael JC, et al.:Trial of normobaric and hyperbaric
oxygen for acute carbon monoxide intoxication. Lancet,
ⅱ( 334)
:414-419, 1989.
2 )Weaver LK, et al.:Hyperbaric oxygen for acute carbon
monoxide poisoning. N Engl J Med 2002, 347:1057-67.
3 )合志清隆:根拠に基づく急性一酸化炭素中毒の治療と
課題.医学のあゆみ 222( 8 )
:554-555,2007.
4 )内藤裕史:中毒百科 第2版,南江堂,2001, pp.173-180.
5 )Scheinkestel CD, et al.:Hyperbaric or normobaric oxygen
for acute carbon monoxide poisoning:a randomized controlled
clinical trial. Med J Aust. 1999 Mar 1; 170(5)
:203-10.
6 )Colignon M, Lamy M. Carbon monoxide poisoning and
hyperbaric oxygen therapy. In Schmutz, J(ed)Proceedings
of the 1st Swiss symposium on hyperbaric medicine.
Foundation for Hyperbaric Medicine, Basel, 1986, 51–68.
175
日本高気圧環境・潜水医学会雑誌
シンポジウムS1-4
間歇型一酸化炭素中毒発生の問題点
Vol.45( 4 ), Dec, 2010
で神経内科や精神科からの紹介であった。21例のう
ち予後良好な症例は 7例あり,紹介先より来院した時
の状態は全例,発語があり,歩行が少しでも可能で
土居 浩 山川功太 徳永 仁 望月由武人
あった症例であった。またその 7例のうち,3例は初期
中村精紀 吉田陽一
にHBOがなされていた症例であった。その他の予後
東京都保健医療公社荏原病院脳神経外科
不良14例のうちHBOが施行されていたのは1例のみで
あった。一方で近隣の 3次救命救急センターでHBO
【目的】一酸化炭素中毒の治療における高気圧酸素治
を初期治療で行っているところからの間歇型発症例
療(HBO)のevidenceに関しては未だ解決をみていな
の紹介はなかった。また自院で当初より一酸化炭素
い。今回当施設が経験し,詳細な分析がなされた間
中毒に対して高気圧酸素治療した129例は間歇型の
歇型一酸化炭素中毒症例 21例の分析を行い,治療
発症を確認されなかった。
の標準化につながらないか,検討を行った。
176
【考案】今までのデータは自院での一酸化炭素中毒治
【対象】1995年1月から2010年 8月までに治療した一
療のフォローで分析がなされて,evidenceの検討を行
酸化炭素中毒患者150例のうちの経過から間歇型一
い,本邦でもその手法でなかなかHBOの有用性を強
酸化炭素中毒と診断され,詳細なデータを得られた
調することは難しかったのではと考える。また救急医
21例を対象とした。
だけでなく,神経内科医や精神科領域での間歇型一
【結果】対象例 21例は全例発症急性期の治療は他院
酸化炭素中毒に対する認識の浸透が不足しており,
であった。年齢は 28歳から78歳(平均 51.2歳),男
診断に遅れがあると思われた。治療に関してはHBO
性 16例,女性 5例と男性優位であった。原因は練炭
の圧や回数が問題となるが,間歇型発症で早い例は
自殺 14例,排気ガス自殺 1例,木炭などの事故 5例,
2週間くらいであり,MRIの所見が経過中に現れてもま
不明 1例であり,練炭自殺の頻度が多いのは予想が
だ発症しない症例も多く,初期治療後 1週間はHBO
ついたが,暖をとるための事故やバーベキュー後の後
を施行することにより,発症は予防できると思われ,
始末の悪さなども原因として存在した。初期治療医
1~2週間で 2回のMRIを施行し,別表のようなプロト
療機関は 6例が2次救急医療機関,10例が3次救命救
コールを作り,CO暴露後 1ヶ月は外来で経過を追うこ
急センター,2例が中国,シンガポールの救急センター
とが必要と思われた。また今回提示したように初期
であった。その他 3例は当初練炭自殺後,本人が覚
治療期間に受診するとは限らず,CO暴露の病歴が無
醒し医療機関を受診せず,間歇型の症状出現後,精
視されて診断が遅れることも多かったと考えられた。
神科など受診し,当科紹介となった症例である。間
さらに詳細な分析を進めればHBOは間歇型発症予防
歇型発症後HBO目的で紹介された医療機関は 12例
の効果があるevidenceが得られるのではと思われた。
第 45 回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 プロシーディング
シンポジウムS1-5
MRIを用いた一酸化炭素中毒による大脳障
害の経時的定量評価法
〜いつまで高気圧酸素療法を継続すべきか
の目安となるか〜
程度まで回復し,その後横ばいとなった。好気性代
謝の障害で同定される乳酸ピークの相対比lactate/
Crについては,HBO開始後漸減し消失した。DTIで
は,平均拡散係数MDは,当初は正常範囲より著明
に低下していたが,その後上昇に転じ,正常範囲内
をこえてさらに上昇,HBO開始後 4か月程度でピーク
1, 2)
寺島健史
1)
3)
西澤正豊 中田 力
アウトした。拡散異方向性の指標であるFractional
1) 新潟大学脳研究所神経内科
anisotropy(FA)については当初からかなりの低値で
2) 新潟大学医歯学総合病院医療情報部
あり,
HBO開始後やや回復に転じ全体としては横ばい
3) 新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター
であった。知能評価テストについては,当初ほぼ 0点
だったHDS-RやMMSEスコアがHBOを20回程度行
一酸化炭素(CO)中毒の遅発症状に対して高気圧
ったあたりから,少しずつ上昇をはじめ,HBO終了時
酸素療法(HBO)の有用性が報告されているが,いつ
点で両者とも20点前後,WAIS-Rのtotal IQも66まで
までHBOを継続すべきか明確な基準がないのが現状
上昇し,ADLに支障がない程度まで改善した。
である。
これらの結果から,1)CO中毒による遅発性脳障害
1
MRス ペ クト ロ ス コ ピ ー
( H-MR spectroscopy:
は,これまで考えられていた以上に長期にわたって
H-MRS)や 拡 散 テン ソル 画 像(diffusion tensor
持続・悪化する可能性があること,2)初期のHBOの
imaging:DTI)は,大脳白質障害について非侵襲的・
効果が乏しい場合でも,HBOを粘り強く継続するこ
定量的に評価することを可能とする手法である。われ
とで,臨床症状が大きく改善する場合があること,3)
われは,間歇型CO中毒の患者に対してHBOを継続
1
1
1
H-MRSやDTIで得られた指標と臨床症状にある程
しながら,H-MRSやDTIを用いて白質障害を経時的
度の相関があり,治療効果の指標となりうることわか
に定量評価するという試みを続けてきた。
った。これらの結果は,本患者以外でも同様の傾向
典型例を以下に示す。患者は 77歳女性で,自殺目
であり,CO中毒の遅発症状におけるHBO継続の必要
的に閉め切った部屋で七輪をたき,約 12時間後に家
性を判定する上で,これらのMRI検査法による大脳
族に発見され,近医病院に搬送後ほどなく意識は回
白質障害の定量評価が有用であることを示唆してい
復し,3日後に意識障害や神経学的異常なく退院した。
る。
しかし,曝露後約 1か月頃から異常行動が出現し,次
現在は,本手法により遅発性大脳障害の早期発見
第に失見当識が急速に悪化し寝たきりとなった。その
さらには事前の予測ができるのではないという仮説を
後,曝露後約 2.3か月でわれわれの病院に転院した。
検証すべく,急性期CO中毒患者についての追跡調
入院後 5か月間,1日1回 2.8気圧 50分のHBOを週 5回
査を行っている。
1
行い,約 1か月ごとに H-MRSとDTIを経時的に撮
像しながら,臨床的な指標として知能評価テスト(改
訂長谷川式簡易知能スケール:HDS-R,Mini-mental
state examination: MMSE,ウェクスラー成人知能
検査改訂版:WAIS-R)を実施した。
1
その結果,
H-MRSでは,コリン化合物由来のピー
ク(Cho)のクレアチン・クレアチンリン酸(Cr)に対す
る相対比(Cho/Cr)は,HBO開始後も1か月以上にわ
たり上昇を続け,その後数か月かけて正常範囲まで
低下した。N-アセチルアスパラギン酸(NAA)ピーク
の相対比(NAA/Cr)は,数ヶ月かけて基準値の 6割
177
日本高気圧環境・潜水医学会雑誌
シンポジウムS1-6
北海道におけるCO中毒に対する治療体制
Vol.45( 4 ), Dec, 2010
しかし,標準化と言うことになると救急HBOが可能な
施設と不可能な施設が混在している現況では,やは
り消防主導でのネットワーク構築が望ましいと考える。
清水徹郎
札幌徳洲会病院 救急診療部長
1 )岡 敏明,大島美保,喜屋武元,清水徹郎:大雪の日
に自家用車内で起きた CO 中毒の 4 例 . 臨牀小児医学
北海道では集中降雪がしばしば起こる。このとき
に乗用車の排気マフラーの高さまで積雪が達すると,
乗用車の構造上,排気ガスが室内に流入し,結果と
して急性一酸化炭素中毒の患者が同時多発する。こ
のうちの多くは母親が買い物中にヒーターを入れたま
まの状態で車内に子供を残して発症することが多い。
2 )岡敏明,大島美保,喜屋武元:大雪の際の自家用車内
での乳幼児の一酸化炭素中毒 . チャイルドヘルス 2003;
6-10; 57-60
3 )渋谷正徳:一酸化炭素中毒 . 小児内科 1996; 28; 12041207
4 )山本五十年:一酸化炭素中毒に対する診療の標準化へ
これに対する対策として,重症症例を視野に入れた
向けて. 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌,2008; 43-
第二種・第一種装置のネットワーク作りと,一般市民
3; 32
に降雪時にこのような事態が起こりえることの重要性
を普及啓蒙する必要があろう。2004年に札幌市の公
立基幹病院の発案で,市内の臨床工学技師のネット
ワークを用いて,この同時多発に対応するネットワー
ク作りが検討された。残念なことにこのネットワーク
は現在形骸化している。このことは,当時のネットワ
ーク策定が技師主体で動いていたこと,および消防
関係者,行政が参画しなかったことに起因すると思
われる。北海道は全国でも第 1種治療装置の保有台
数が群を抜いて多い地域である。しかし専門医の数
は少なく,24時間稼働可能な施設は限られている。幸
いなことに道央地区には北海道大学附属病院と,美
唄労災病院の二カ所に第 2種装置が稼働している。
急性一酸化炭素中毒に対しHBOを行うのかNBOで良
いのかという議論はさておき,この第 2種装置を中核
とする第 1種装置の緊急稼働可能な施設とのネットワ
ークを改めて構築する時期に来ている。小児の同時
多発症例の 4例を供覧したが,やはりCOHbと曝露時
間が重要なファクターと考えられた。また,若年女性
の練炭自殺企図症例を最近経験した。すでにNBO
によりCOHbの洗い出しは行われていたが,画像上
も明白な淡蒼球,皮質下の広範な病変を呈しており,
機能予後は絶望的と当初は考えられたが,HBOを可
及的早期に施行したところ予想外の劇的予後改善が
得られた。一酸化炭素中毒とそれに引き続く低酸素
脳症との境界は定かではないが,かかる症例を目の
当たりにするとHBOを行わない理由は存在しない。
178
2004; 52:63-66
5 )氏 家良人:救急領域における高気圧酸素治療とその有
効性 . 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 2008; 5-1; 21
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