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感染性腹部大動脈瘤術後敗血症性ショックの周術期管理に プリセップ
感 染 性 腹 部 大 動 脈 瘤 術 後 敗 血 症 性ショックの 周 術 期 管 理に プリセップ /フロートラックが 有 用であった一 例 大分大学 医学部附属病院 麻酔科学講座 後藤孝治 CRPの大幅な異常値が強い炎症所見を示し、 生化学検査では腎機能 緒 言 敗血症性ショックは, 組織低酸素血症から多臓器不全へ進行する予 の低下、 血液ガス分析ではアシドーシスが示唆されたが、 エンドトキシ 後不良の病態であるが,近年,初期治療の重要性が認識されており, ンは陰性であった。 Early Goal Directed Therapy(EGDT)に基づいた全身管理を行うこ とが推奨されている。 今回, 感染性腹部大動脈瘤緊急手術患者の周術 1) 術中経過(図3) 期に認めたEGDTプロトコル に反応しない敗血症性ショックに対し, プ 術前からショックの状態であると判断し, フロートラック センサーに リセップ/フロートラックデータを指標とし, 当施設プロトコル (図1) に よる動脈圧心係数(APCI), さらに, プリセップCVオキシメトリーカテーテ よる周術期管理を行うことで良好な経過をたどった症例を経験した。 ルによる中心静脈圧 (C V P) , 中心静脈血酸素飽和度 (ScvO2) の持続 モニタリングを開始した。 本症例では, 術中よりEGDTプロトコルに従 大分大学IC U EG D T プロトコル フロートラック (MAP,APCI) , プリセップ (CVP,ScvO2) 使用し,積極的に介入する! 8 mmHg 以下 CVP 8 - 12 mmHg PreSepカテ使用 ( FloTrac使用時はSV V 13%未満を目標) 65 mmHg 以下 MAP 65 - 90 mmHg 血管作動薬 (DOA,NOA) 65 mmHg 以下 FloTrac使用 CAI 5 以下 HFVCHDF ScvO2 70 % 以下 濃厚赤血球輸血 (Ht 30% 以上) PreSepカテ使用 70%以上 C.I. 2.5 l/min/m2以下 ( SvO2の場合 65%以上) FloTrac使用 強心薬 (DOB,EPI) 目標達成 い患者管理を施行した。 前負荷の指標としてC V P 8-12mmHgだけで なく, フロートラック センサーでモニタリング可能な1回拍出量変化量 輸液療法 初療より6 時間以内に目標達成 *青枠黄色字は大分大学追加プロトコル Rivers E,et al:Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 345;1368-1377,2001 を改変 図1 (S V V )13%未満を目標に輸液,輸血投与を行うも,平均動脈圧 ( M A P )の 上 昇 は 認 められ な かった た め ,カテコラミン 増 量 (catecholamine index:C A I で最大20) を行った。 以後, 上記プロトコ ルを続行しCVP, MAP, ScvO2の目標値の維持を目指したが管理に難 渋した。 手術終了時, ドパミン5μg・kg-1・min-1, ドブタミン5μg・kg-1・ min-1, ノルアドレナリン0.1μg・kg-1・min-1投与下でCVP11mmHg, MAP 65mmHg, ScvO2 68%, 血清乳酸値 5.5m m o l / Lであった。 麻酔 時間4時間20分,手術時間3時間00分,術中バランスは輸液量 6950ml,濃厚赤血球輸血8単位,新鮮凍結血漿10単位,血小板輸 血20単位, 出血量2230ml, 尿量60mlであった。 なお, 術中採取された 症例 切除組織培養検査でも後日大腸菌が検出された。 75歳女性, 身長150cm, 体重55kg。 既往歴として高血圧があった。熱発・腹痛のため近医受診。腹部CTで 腹部大動脈瘤指摘。 ショック及び全身状態の悪化が認められ, 当院へ 救急搬送。 前医での血液培養検査で大腸菌検出。 感染性腹部大動脈 瘤が疑われ緊急で腹部大動脈瘤切除・Yグラフト置換術が施行 麻酔法 AOS+fentanyl された。 当院搬送時に異常値を示した検査項目を(図2)に示す。 WBC、 150 当院搬送時に異常値を示した検査所見 血算 WBC RB C Hb Ht 20,970/μl 4 368 ×10 /μ l 11.0g/dl 31.8% 凝固能 A T-Ⅲ 図2 31.0% 生化学 TP Alb T-B il LD H BUN Cr CRP Na CI 5.19g/dl 1.76g/dl 1.61m g/dl 276 IU /L 47.47mg/dl 2.72mg/dl 17.60mg/dl 127.8m E q/L 96.7m E q/L 麻酔 導入 C R C 8 単位 PC DOA (γ) 5 8 5 DOB (γ) NOE (γ) B P ( m m H g) H R ( bpm ) 輸液量 6950 m l 術中経過 7 執刀 開始 10 5 0.1 20 単位 8 尿量 60 m l FFP 10単位 出血量 2230 g 5 0.05 0.1 腹部大動脈 総腸骨動脈 解除 遮断 右 左 IC U入室 100 血液ガス *10L/分 酸 素 マ ス ク 自 発呼吸下 PH 7.237 P aO2 85m m H g PaCO2 57.4mmHg HCO321.0mmol/L BE -4.2mmol/L Lac 2.8mmol/L 50 0 1 2 3 APCI (l/min/m2) 2.6 1.9 2.1 2.4 2.5 2.3 2.1 2.1 2.2 2.6 2.5 CVP (mmHg) 8 10 10 11 10 7 12 12 11 10 ScvO2(%) 66 73 72 73 70 65 66 68 73 74 Lac (mmol/l) 2.8 2.7 4.3 図3 4 (時間) 2.2 11 68 5.5 nitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloTrac PreSep Swan-Ganz Hemody Riversら APCI 2.5l/min/m mic Monitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac PreSep Swan-Ganz CVP nitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac PreSep Swan-Ganz Hemody mic Monitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac PreSep Swan-Ganz modynamic Monitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac PreSep Swan z Hemodynamic Monitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac PreSep n-Ganz Hemodynamic Monitoring TruWave Multi-Med PediaSat FloT rac nz Hemodynamic TruWave Multi-Med PediaS GanzMonitoring Hemodynamic Monitorin g 1) 2 小 塚 ゴ シック M 術後経過( 図4) ICU入室時のAPACHEⅡスコア32(予測死亡率76%),SOFA プロトコルには心係数に関する記載は認めないが,当施設では スコア13であった。入室4時間後の時点でCAIは20のまま循環動態 フロートラック センサーを積極的に使用し,APCI 2.5L/min/m2以上 の改善を認めず,さらに,急性腎不全を呈していたため,当施設 を目標とし,術中から積極的に介入することでプロトコルの早期 プロトコルに従いHFVCHDFを無除水で施行開始した。HFVCHDF 達成を目標とし管理を行っている。 しかしながら,本症例のように, 離脱までの詳細を (図4)に示す。導入3時間後より徐々に循環動態 血管収縮薬による血圧維持困難のため上記プロトコルの達成に難 は改善,24時間後にCAIは5に減少した。術後3日目よりカテコラミ 渋する場合も多い。近年,血液浄化量を増加させることにより,敗血 ン離 脱 可 能となり,循 環 動 態は安 定し尿 量 増 加を認めたため 症性ショックに対して循環動態や予後を改善できることが報告 2) 3) 術後8日にCHDF離脱。術後11日に人工呼吸器離脱,多臓器不全に されている。本症例の予測死亡率は76%であったが, プリセップ/ 進行することなく術後13日にICU退室した。 フ ロ ートラックデ ー タを 指 標とし ,術 中 だ け で なく術 後 に おいても厳密な周術期管理を行うことで良好な経過を得ることが 術後経過 可能であった。 入室4時間後導入開始 ICU 入室 B P ( m m H g) CHDF膜 ニプロ社 UT-2100 (CTA,膜面積:2.1m2) HFV CHDF QD 1500ml/h QF 900ml/h standardQB100ml/min QD 500ml/h QF 300ml/h QB 80ml/min CHDF CAI catecholamine index (CAI) H R ( bpm ) 150 100 結 論 20 敗血症性ショック患者においてEGDTプロトコルに反応しない場 15 合もあるが, プリセップ/フロートラックデータを指標とし, より早期 10 から厳密な患者管理を行うことで予後を改善できる可能性が ある。 50 5 03 24 APCI (l/min/m2) 2.0 2.6 2.7 2.5 CVP (mmHg) 12 11 10 9 ScvO2 (%) 62 71 75 74 Lac (mmol/l) 6.3 3.9 2.7 2.2 2.5 10 73 1.8 48 72 2.6 2.5 2.5 9 8 9 72 73 75 1.5 1.5 1.4 2.6 8 73 1.3 (時間) 図4 考察 敗血症性ショックは組織低酸素症など種々の原因で多臓器不全 へ進行する予後不良の病態である。 このため,診断がつき次第, 参考文献 早期から積極的な治療を行い,臓器不全の進行を防止することが 1) Rivers E,Nguyen B,Havstad S,et al 1) 大切である。Riversら が提唱したEGDTプロトコルは初療から6時 Early goal-directed therapy in the treatment of severe 間以内に目標達成を目指し,治療目標をC V P 8-12mmHg,MAP sepsis and septic shock.N Engl J Med 345;1368-1377,2001 65-90mmHg,ScvO2 70%以 上 に 設 定し ,ま ず,最 初 に C V P 2) Ronco C, Bellomo R, Homel P, et al 8-12mmHgになるまで輸液療法を行う。次に,適切な輸液療法を Effects of different doses in continuous veno-venous 行ってもMAPが目標に達しない場合には,血管収縮薬を用いて血 hemofiltration on outcomes of acute renal failure 圧,臓器灌流の維持を図る。それでも,ScvO2 70%以上が達成され A prospective randomized trial. Lancet 356: 26-30, 2000 なければ,Ht 30%以上を目標に赤血球輸血を行ったり,強心薬 3) Saudan P, Niederberger M, De Seigneux S, et al を用いたりして組織酸素供給量を増加させる。そして最終的に, Adding a dialysis dose to continuous hemofiltration ScvO2 70%以上が達成された時点を目標達成とする。 このプロトコ increases survival in patients with acute renal failure. Kidney ルにより,敗血症患者の死亡率の改善が認められている。EGDT Int 79: 1312-1317, 2006