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No.
No. 012
012
JMS-T100LC によるフラーレン関連化合物の分析
フラーレンは炭素原子がかご状に結合してできた中空の分子を指し、代表的なサッカーボール型のC60を
はじめ、その他にC70やC84などが知られている。
フラーレンの直径は約1nm であり、ナノレベルで原子や分子を操作し、物質の持つ構造や原子の配列をコン
トロールするナノテクノロジー分野の新素材として、炭素原子が筒状に結合したカーボンナノチューブとともに注
目されている。
このような状況の中、東京大学大学院理学研究科の中村栄一教授らは図1に示すようなフラーレンC60に 5 本
の官能基を化学修飾したシャトルコックのような形をした構造の分子を合成した。1) この分子はシャトルと同様
に縦方向に積層可能であるため、ナノメートルサイズの電線や次世代の光コンピュータの光スイッチ材料、さら
には新しい液晶分子としてなどと多様な応用範囲で有望視されている。
図1 シャトルコック形フラーレンの構造 (ご提供:東京大学大学院理学研究科 中村栄一教授)
一方、大気圧イオン化-飛行時間質量分析計は多くの有機分子の質量分析に広く用いられており、さらにフラ
ーレンC60などに対しても良好な結果を得ることが可能である。特に、図 1 の化合物2~5はその分子量が 3500
以上であるため、測定質量範囲の広く、かつスペクトル感度の高い飛行時間質量分析計が有効であると考え
られる。
本稿では、このシャトルコック形フラーレンを日本電子製飛行時間質量分析計 JMS-T100LC により質量分析
した結果を報告する。
大気圧イオン化質量分析を行なう場合、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法と大気圧化学イオン化(APCI)法
からイオン化法を選択する。La@C82などの金属内包フラーレンの場合はESIのほうが良好な結果を示すが、標
準的なフラーレンC60や今回のシャトルコック形フラーレンの場合はAPCIのほうが良好な結果を得られた。
また、反応副生成物などが混在するため、オンライン LC-MS 分析を行なった。
主な分析条件は表1に示す。また、分析試料は図1に示したシャトルコック形フラーレン2(C12 )(分子量
3548.1)とフラーレン3(C14)(分子量 3828.4)を用いた。
表1 分析条件
図2にシャトルコック形フラーレン2および3(図1参照)の APCI+ LC 条件
カラム
スペクトルを示した。(上図:フラーレン2、下図:フラーレン3)
+
溶媒 A
フラーレン2ではm/z3571、フラーレン3ではm/z3851 に[M+Na]
2+
が、また、それぞれの2価イオン[M+2Na] が検出された。この他に 溶媒 B
それぞれのスペクトル中に 122 マス高質量にイオンが検出されて グラジエント条件
いるが、これは合成の最終段階で使用したジメチルアミノピリジン MS 分析条件
(DMAP:分子量 122)がシャトルコック形フラーレンの[M+Na]+に付加 イオン化法
した[M+DMAP+Na]+ と帰属された。また、[2M+DMAP+2Na]2+ と考え 脱溶媒室温度
オリフィス1温度
られる2価イオンも確認された。
ニードル電圧
DEVELOSIL C30-UG-5
イソプロパノール
トルエン
50%B(5 分)-100%B(10 分)
APCI+
500℃
150℃
4000V
オリフィス1電圧 80V
MS[1];2.617..2.735;-1.0*MS[1];3.234..3.375;APCI+;20030812sample1
[M+Na]+
強度 (1071)
1000
3574.1
シャトルコック形フラーレン2(C12)
[M+2Na]2+
1798.0
[M+DMAP+Na]+
3696.1
3038.7
0
1000
2000
3000
4000
質量電荷比(m/z)
MS[1];2.917..3.084;-1.0*MS[1];4.691..4.784;APCI+;20030812sample2
[M+DMAP+Na]+
[M+Na]+
強度 (928)
シャトルコック形フラーレン3(C14)
547.5
3853.4
[M+2Na]2+
1938.7
3263.0
0
1000
2000
3000
4000
質量電荷比(m/z)
図2 シャトルコック形フラーレン2(上図)および3(下図)(図1参照)の APCI+スペクトル
(試料ご提供: 東京大学大学院理学研究科 中村栄一教授)
まとめ
APCI+を用いた質量分析によりシャトルコック形フラーレンの分子イオンを明瞭に確認することができ
た。飛行時間質量分析計を用いることで、今回の試料のような高分子フラーレンに対しても良好なスペクト
ルを得ることができた。一般にフラーレン分析は LD-TOF で行われることがあるが、大気圧イオン化法でも
十分に分析することが可能であり、かつ LC-MS と接続したオンライン分析も行なうことが可能であること
が示せた。
謝辞
今回の分析にあたり試料および図をご提供いただいた東京大学大学院理学研究科 中村栄一教授なら
びに松尾豊助手に深謝いたします。
参考文献
1) Sawamura, M., Kawai, K., Matsuo, Y., Kanie, K., Kato, T. & Nakamura, E. Nature 419, 702-705(2002)
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