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看護職の職務特性認識に関する研究

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看護職の職務特性認識に関する研究
看護職の職務特性認識に関する研究
呉大学看護学部
山内京子
論文要旨 今日看護職を取りまく環境の変化はめざましい。看護学教育の大学化や臨床における専門分化(専
門看護師・認定看護師の誕生等)は、看護職のより専門職化をめざしている。こうした動きは、看護職者たち
が臨床の場において専門職としての主体性、自律性を確立するための確実な一歩となっている。
このような環境の変化は、臨床において看護業務に従事する者たちの意識に影響を与えているだろうことが
推測される。そこで、今回、実際に日々看護の仕事に従事している者たちは、看護の仕事をどのように捉えて
いるのか。看護の仕事に対する認識とその認識に影響を与えているものは何なのか。これらのことを明らかに
するために、看護職を取りまく歴史的背景について文献検討を加え、実態調査を実施、今後、看護職集団が組
織としてより活性化するための視点で分析・考察を加えた。(「看護学統合研究」1巻1号 p。33∼44 平成11年)
キーワード:職務特性、人的資源管理
■ はじめに
うすれば看護職者たちの適材適所を実現していく
人口の高齢化、疾病構造の変化、医療の高度化、ハ
に関する計画や育成にかかわる内容についての検
イテクノロジー化、医療費抑制政策、民活化や個人
討がなされなければならない。
ことができるのか等、これら看護職の人的資源管理
の価値観の変化、ライフスタイルの変化等の様々な
そこで今回、これら検討事項に関する現状把握の
波が押し寄せる中、看護職に対する要求も変化し、
多様化してきている・m。今日の多様な看護職務は、
事を捉えているのか、また、その捉え方はどのよう
多種多様な知識と看護技術を看護職に求めている。
な要因に影響を受けるのかについて、看護職を取り
ために看護職はどのように日々従事する看護の仕
こうした要求に応え得る看護を実際に行うため、
まく歴史的背景をふまえ、職務特性認識に関する分
看護の機能を明確にし、看護職者たちの組織を確立
析を行い、検討を加えた。
し、適切に運営することが重要となる。看護の機能
を効果的に発揮できるように、活躍できる場を整え
■歴史的背景
ることで、看護職者たちは十分に自分たちの有する
能力を発揮できる。看護を必要としている人たちに
1.職務中心主義
とって適切な看護を、組織的に機能的に提供するた
医療組織の組織開発(Organセatior圃Development)
め、次のような点についての検討が急がれる。
の原理は、「はじめに職務ありき」で、非常に職務志向
看護職の人的資源はどの程度計画的に実施され
ているのか、実際の看護職に従事している者たちの
職務内容はどのような状況なのか、優秀な看護職に
必要とされる能力的特性、職務適性は何なのか、ど
の強い組織編成が行われる点に特徴があると指摘
されているD。ある一定の果たすべき役割がまずあ
り、それらの多種多様な専門的な役割、機能を果た
せると想定される人材を、資格として規定するのが
やまうち きょうこ
〒737−0004呉市阿賀南2−!0−3 呉大学看護学部
一33一
看護職の職務特性認識に関する研究
公的資格である。病院の組織・職務のあり方は、一般
員が能力を伸ばす反省の機会を与えることにもな
産業のあり方とは根本的に、決定的に異なってい
る。実際には、「能力評定」「執務態度評定」「実績評定」
ロヨ ヲ
る 。そうした中、職務の枠組みが公的資格によっ
峻別された形で明確に位置づけられている医療機
の3つの側面からなされている。このように3つに
分けられている理由として、人事考課の利用目的が
それぞれに異なるとして以下のように説明してい
関は、「はじめに職務ありき」の大前提の上に立つ組
るω。能力評定は主として指導、教育訓練、配置、昇
織である。「はじめに職務ありき」として、どのような
格、昇給に使用し、実績評価は賞与に反映される。ま
て明確に整えられ、職務につく人材の要件が職務と
役割、機能であるべきなのかという職務設計があ
た、それぞれを単独で実施することはなく執務態度
り、ついで、それに見合うような専門性を発揮でき
評定と併用することになる。
る人材を知識、能力、技術、見識といった観点から認
前述の看護婦の流動性の傾向に関連して(比較的
定するのが医療資格である。しかし、そのような中
出入りが容易な環境にある看護職)、近年、報酬に関
で日本においては、「はじめに職務ありき」という原
する関心が高まっている。これに対応して、多くの
理がいつのまにか「はじめに医師ありき」という信
念にも似た戦略原型に取って代わられたことを、松
病院が対外的競争力のある給与の導入に向け看護
婦賃金制度を改定しつつある。職能給導入に向けて
下Dは指摘する“3)。また、そのような中、看護婦は、職
の動きも報告されている7・8)が多くは試み的段階に
務上の役割分担が不明確で、法的に正当な裏付けも
とどまっている。
乏しく、慣例、慣行に流されやすく、またあまりにも
日本では、看護単位毎のチームナーシング制を導
状況対応的にすぎ、職務上の成果が明瞭に明示化さ
入している病院が多い。しかし、このような集団で
れず認識されない弊害が指摘されている(内田
の業績をサポートするような業績考課や、それに基
19914)・ゆ,松下1994D,日本看護協会職能委員会
づく賞与算定を行っている病院はほとんどない。ま
た、看護婦の賃金については、病院内の他職種、一般
19955),f也)。
例えば、「看護婦としての成果が見えない」「何が成
果として期待されているのかがわからない」「成果
が評価されていない」「成果が賃金に結びついてい
ない」等の現場の声がよく聞かれる。そのような中、
看護婦の社会的な流動性は高いとされてきた。国家
資格により保障された看護婦としての職務は他病
院、医療施設に容易に就業(転職)することができる
システムを医療機関全体の中に持っている。つまり
一般産業の伝統的会社と比べると、看護婦は医療機
関から簡単に出入りすることが可能であるという
環境にある。俸給等において転職(勤務病院の変更)
は特に不利な条件とはならず、また病院勤務を続け
る限り、転職によって全く新しい職務内容に直面
し、その新たな職業適応が問題となるという事態も
あまり存在していない。看護職においては、我が国
の企業に見られるような終身雇用的色彩は薄く、離
職・転職はかなり日常化しているという特殊性が今
日まで存在していた。しかし、今日の様な経済状況
下にあっては、その看護職者の就業動態も変化して
きている。
産業の大卒、短大卒と比較して、年齢を重ねるごと
にのび方が低くおさえられている現状があり、特に
30歳以降の伸びが低く、長く勤務していても賃金上
のメリットは生まれない賃金カーブが指摘され続
けている・ゆ。二木mは20代看護婦の相対的高給与は
超過勤務によってもたらされており、看護婦給与は
医療機関の規模、設置主体により大きな格差があ
り、規模が大きいほど看護婦の平均年齢は低くなる
という傾向があることを指摘する。これに対して高
木12」3)は1980年と1994年の看護職の給与比較を行
い、看護婦・准看護婦の給与が年功型となってきて
いる(これまでは長く働いても、特に40歳以降の給
与はそれほど上がらなかった状況に変化がみられ
ている)とし、看護職の確保の上から世間並みの年
功型給与の導入を迫られていると分析する・16)。
3.看護業務の内容
日本看護協会看護婦職能委員会(1995)5)による
と、医療体系が専門分化されたことにより、医師の
介助的職種(看護類似職種)が生み出されてきたと
し、また、これらの職種には比較的はっきりと業務
規定がなされていることを報告する。しかし、こう
2.人事考課
した傾向に比して看護職種の業務については、一つ
看護職の人事考課は、職員の能力を十分に発揮
し、その能力と価値を知るために使われる。また、職
一つの規定はなされておらず、看護婦(士)、准看護婦
(士)の業務内容もはっきりと区分されていないとし
一34一
看護職の職務特性認識に関する研究
て、早急に、専門職として看護業務を確立させてい
る部分が多く、本質的な部分の機会等による有力化
く必要があることを指摘する。業務改善を行うため
には一定の限界がある。しかし、周辺業務について
には、他部門、他職種の職員間との調整をはかり、積
は、外部委託、機械化等による有力化の余地は相当
極的に業務をスリム化することで、専門職としての
にある。④保健医療サービスの主たる財源は、診療
本来業務の「看護」が十分に提供できるゆとりが生
報酬や措置費、補助金等の公的資金に頼っている。
じると考えられるとしているが、天野16)の指摘した
景気の変動にかかわりなく、安定的に収入が確保で
内容(半専門職、自覚的専門職)がその後も大きく影
きる反面、好景気の時期には民間の他企業と比べて
響を及ぼし続けている点も否定できない・m。
収入の伸びが立ち遅れる傾向にあり、給与面等での
我が国では、開業医制の未発達から、というより
制約を受けやすい。⑤保健医療サービスの実施に当
医療の近代化が西欧医学の輸入と普及という「上か
たって、事業主体が独自の事業を実施して、自主的
ら」の形をとったことから、病院は医師の機能、すな
な財源を導入することには、その非営利的性格等か
わち診療の機能を中心に発達してきた経緯がある。
ら様々な制約が課せられている。さらに、国や地方
こうした診療中心の病院医療の当然の結果として、
公共団体の直営により提供される場合には定員枠
看護婦の独自の業務領域は形成されず、またそのこ
等行政組織上の制約がある。
とが医師の病院組織の中に占める位置を、欧米諸国
このような特徴を持つ看護サービスをどのよう
な視点で捉えるかによって、質の評価方法は異なっ
のそれと比較して著しく特異なものにすることに
なったと分析されている。確かに、看護婦という職
てくる。一般に医療サービスは、構造、過程、結果の3
業の流れは、西欧では宗教(キリスト教)に支えられ
側面、及びそれらの組み合わせによって公正に評価
ながら、患者とともに発達してきた歴史的経緯があ
されなければならないが、これらの諸側面をまんべ
る。これに対し、我が国では医師とともに発達して
んなく体系的に評価する技術、手法は確立されてい
きたという歴史的に大きな違いがある。そうした中
ない。そのような中で、前述の基準看護はその一側
での看護婦の役割は、患者に対するサービスより
面に集中的に注目して「看護サービスの質」に関す
も、医師に対するサービスとしての医療技術介助
が、またそうした介助技術の高さが、そのまま看護
る基準として活用されているD。
の水準を表すものとして理解されてきた。また、教
■ 職務設計論
育制度による影響についても天野6〉は指摘する。看
化がみられず、病院がそこでの看護要員の充足を主
職務設計論のアプローチは、Herzbergの述べる
促進要因としての仕事自体の内容についてさらに
目的として、付設の教育訓練機関をおくという形態
分析をすすめたものである・19)。仕事そのものの内容
をとり、そのため養成費用は診療収入の一部に依存
を有意義で、興味深いものとしなければ、労働者は
し、養成の形態と内容は常に「営利性」を追求する病
十分な満足を得られず、生産システムを有効に機能
院の恣意性に左右されてきた。そして、医療活動に
させてゆくことができない。このため、職務の内容
おける医師の絶対的な支配者・命令者としての地位
を分析し、どのような職務特性が労働者の満足を高
は、それにより、より一層強固なものになったので
めるかというかという点が明らかにされる必要が
ある。このような分析のもっとも古いものとして
C.R.Walker&R.Guestによる職務拡大論がある。
それは蜂屋19)によると職務特性が職場集団の人間
関係や欠勤・離職等の従業員の行動に密接に関係す
護婦養成においては、病院と教育訓練システムの分
ある・18)。
看護サービスの特色を松下Dは次のように整理す
る。①対象者の生命、健康、生活や個人のプライバ
シー等に直接かかわるサービスであり、サービスの
専門的知識、技能を必要としている。②サービス提
ることを指摘した研究で見落とすことができない
研究で、仕事の特性と欠勤や離職等との関係をみる
供者の人格や熱意といった属人的な資質が重視さ
ために、仕事の特性をいくつかの側面から測定しよ
れがちで、サービスの客観的な評価基準が十分に確
うと試みている。
立されにくく、サービスの客観的評価に基づく処遇
職務特性モデルは、職務再設計が職務遂行者の動
の改善が進みにくい。③「人」を相手とする業務であ
機的反応に与える効果を説明する、より特定化され
り、対象者間の個人差が大きく、その特性に応じた
たモティベーション・モデルである。現時点では、
きめ細かなサービスが要求されるため、「人手」に頼
Hackman&Oldham(1976)のモデル201が、この分
担い手の「豊かな人間性」が要求される一方、高度な
一35一
看護職の職務特性認識に関する研究
野のおおかたの研究者によって、職務再設計の効果
求)・・m〉を加えたモデルである(図1)。このモデルの
が生じるプロセスを証明する最も優れた理論であ
限界として、次の点を指摘している。①職務特性モ
ると評価されている(図1)。職務特性の動機的効果
デルは、充実された職務が、認知的心理状態に好意
を研究する上で必要な測定用具を開発した点にお
いての貢献は大きく、1970年代後半の諸研究の業績
に拍車をかけることになった。認知的心理状態につ
的に作用し、それを通じて成果変数に積極的効果を
与えることを念頭に構築されている。ルーチンで高
いて、他の要因が十分に高度であっても、いずれか
度に反復的な職務のもたらす否定的効果も同じよ
うに説明できるという確証はない。②対人関係への
の要因が…つでも欠ければ、効果はゼロに近いとい
満足や技術、その他のモデレータや制約要因を考慮
う相乗的モデルを想定している。
に入れていない。③個人レベルの職務特性モデル
は、ある程度個人が独立的におこなえる職務を前提
基本的発想は、組織メンバーが仕事への高いモチ
ベーションと満足を得て、組織に優れた成果をもた
にしている(、自律的作業集団のような集団レベルの
らすように職務を設計することにある。心理的因子
作業の再編成の効果を扱いえない。すなわち、チー
と仕事特性因子と個人的因子の3つからなるもの
の関連を対象にしたモデルを、7つの組織の62の
ムづくりの面で欠けている。
彼らは、仕事の性質を仕事の有する潜在的動機づ
仕事において検討している・LHl)。彼らはそれまでのJ
け力として考えており、MPS(Motivati㎎Potential
DS(JobDiagnositicSurvey)モデルの改定を試
Score)として(技能多様『生+職務完結性+職務重要
みており、心理的因子と仕事特性因子の関連性が高
性/3)×自律性×フィードバックの式で算出して
いことが証明された。それまでの職務特性としての
いる。田尾2Dによると、仕事の構造を深さと幅の二次
6つの次元(①多様性②自律性③タスク・アイデン
元で説明し、深さが深まることを充実化、幅が広が
ティティ④フィードバック⑤他人との接触⑥友情
ることを拡大化として、ジョブ・デザインというの
の機会)の(蝋)に有意味性を加えた5個の特性
は、より充実化、拡大化へと仕事の構造を変えるこ
を仕事特性とし、さらに個人差概念(G N S:成長欲
とである。またその中で看護婦の仕事について幅は
主 要 な
仕事の次元
成果変数
心理状態
多様性
一一仕事の有意味感
内ノ
タスク。
アイデンティティ
内的な動機づけ
有意昧性
パフォーマンス
一 責任の認識
自 律性一
満足
満
フイードノ{ツクー一一一一r一
一一一 仕事の把握感
欠
欠勤や離転職
成長欲求
の 強 さ
図1 JDSモデルにおける分析図式
一36一
看護職の職務特性認識に関する研究
広いが、充実化は不十分な状況にあると説明するIlh2)。
能にしている・n5)。しかし、半専門職としての看護婦
医師に比して、自立や自由の度合いが小さく、より
の場合には、そうした確立された専門職性は存在し
充実化への構造の余地が存在することを指摘して
いる。この充実化は権限や権威の再配分に関係して
ていない。組織化や官僚性化の圧力を直接管理機構
おり、また仕事の過程全体を把握することが充実化
には含まれている。つまり、充実化にはMaslow以後
既に確立された完全専門職としての医師が、自律性
を「守り保持」していくのに対して、半専門職として
を通して受け、弱体な自律性をさらに奪われている、
の人間主義的な経営理念やそれから派生した人的
の看護婦は、組織の官僚性化の圧力の中で、これから
資源論の反映が顕著にみられる。守島幽は、人的資
自律性を「獲得し確立」していかなければならないで
源管理システムの原点は、職務の中のパワー関係に
あろうと強調しているが、こうした看護婦の病院組
影響を与え、コンフリクト解消の方法を選択する。
織内における役割は、葛藤を生じやすく、自律性の確
つまり、職務構造は、そこから派生する人的資源管
立はきわめて困難な状況におかれている・ト1〔・)。彼女
理システムに大きく影響を与えるとする。また、イ
は、そうした官僚制化の浸透していく病院組織の中
ノベーションや新しい職務行動を創出することの
で、専門職としてよりも、まず半専門職としての地位
背後で人的資源管理が・ll3)サポートしなければなら
を確立し、自律性をかちえていくためには、看護婦は
ないのは、幅広い専門性と強固な自律性である(専
門性とは、単に担当職務だけの狭い専門性ではな
く、自分の職務と関係する領域の知識を十分につけ
第1に医師や病院組織の管理者の直接のコントロー
ルをうけることのない業務領域を構築して、そこに
ずコれわ
自律性獲得 への拠点を求めなければならない。第
た専門性で、自律性とは、新しい行動をとることか
2として、自律性の確立には看護婦の専門職能団体
らの短期的リスクから自由であることとしてい
の問題が重要であると強調している。しかし、唯一の
る)。
全国的な看護婦の職能団体である「日本看護協会」
職務特性としての自律性と専門職の専門性に関
は、専門職化の推進団体としてはさまざまな問題を
する視点から天野16)は、半専門職を「完全専門職」と
非専門職との中間に位置づけられる職業範疇で、
はらみ、日本医師会や日本病院協会に対抗しうるだ
しレセ ラ
けの力を備えるには至っていない現状にある 。そ
「形成途上ないしは境界上にある専門職」として定
うした中にあって、看護婦という職業は、現状ではま
義している。その諸特性として①被雇用者である②
ず「半専門職」として自己を確立することを必要とし
女性に占有される職業で③サービス提供における
ており、本格的な専門職化への歩みは、看護婦がそう
志向は、「知性」ではなく「感性」にその基礎をおく。
した「半専門職」としての専門性と自律性を獲得した
専門職の職務志向に対して聖職志向にある。④教育
ときにはじめて開始されるだろうという指摘は、十
訓練期間は短く⑤被雇用者としての半専門職の結
成する団体は、強く労働組合的機能を要求され、遂
分に改善されたとはいえない。
田尾25)も半専門職として看護婦を位置づけ、医師
行するの5つをあげ、このような半専門職の特性
や弁護士のような確立されたプロフェッションの場
と、そこから生ずる問題状況からするならば、職業
合のように自信をもって自律性を行使できるわけで
としての看護婦は典型的な半専門職であるといわ
ねばならないと議論する。彼女によると半専門職の
もなければ、そのように自律性が保障されているわ
けでもないとする。しかし、また非プロフェッション
特質は、なによりもその専門職としての権威の源
のように自律性をまったく前提にしないでも成り立
泉、いいかえれば「専門性」と、それに由来する「自律
つ職業でもなく、その自律性は曖昧で中途半端であ
性」の大きさの限界にあるとみることができる・・1ゆ。
ると指摘する。看護婦を対象にした質問紙法による
「公共性」をもつという点からすれば、半専門職は確
調査の結果、年齢と自律性との関係をみると、年齢と
かに専門職としての条件を具備しているが知識の
ともにフォーマルな地位も高く、より重要な役割を
量と質はそれとは異なっているもので、半専門職の
果たさねばならなくなって、このような自律性を行
遂行する技術的職務は、その範囲が不明確であり、
使する機会が多くなり、経験年数はスペシャリスト
抽象的であるよりも具体的であり完全な自律性を
容認されることなく、管理の対象とされ易くなって
的な自律性の行使を促しているようであるとしてい
いる。完全専門職としての医師の場合には、病院組
あるとして、①フォーマルな地位や役割に基づく自
織の官僚制化や被雇用者化による管理組織の圧力
に、十分に拮抗し、自律性を保持していくことを可
律性②専門分化した知識・技術に基づく自律性③
る。自律性は3つのカテゴリーによる区分が可能で
パーソナルな自律性として、注目すべき点として、③
一37一
看護職の職務特性認識に関する研究
の働きをあげ、①に対しては相補的、②に対しては
る。
むしろ相反的であることが指摘された。また、田尾26ノ
が看護婦を半専門職と位置づけ行った研究の結果
■ 調査及び考察
からは、奉仕性、自己実現性、自律性の3つの因子が
る態度についての説明力を持っていた。これを看護
看護職にある者たちはどのように日々従事する
看護の仕事を認識しているのか、その捉え方に影響
婦のプロフェッショナリズムを特徴づける主要な
を与える要因とは何なのかについて文献検討を加
態度特性と位置づけている。またこの特性は、勤続
えてきた。そこで、現状を把握するために次のよう
得られ、中でも奉仕性が際だって看護の仕事に対す
年数や経験年数などとの相関が小さく、組織内での
な項目の質問紙による調査を実施しさらに分析を
社会化の効果は少なく、組織に参入する以前にその
加えた。
大枠が決定されてるのではないかということが示
唆されたとして、教育の重要性を指摘している。ま
測定項目
た、組織に参入する以前、資格を取得する以前に、職
質問表は、次のような分析項目を設定した。
業選択の動機などについての形成過程での議論が
重要であることを強調する。
1)仕事内容に関する設問:各看護職は、各自の職務
従来の看護職員の需給を図るための施策の失敗
を23箇の項目で評定した。これらの項目は、基本
の最大の要因として看護職員の頭数のバランスづ
的にはHackman&Lawlerの次元を参考に看護業
くりのみに腐心し、構造的に間題のありかを深く洞
務の特殊性に配慮して作成されたもの等を参考に
察できなかった点にある。本質的に不足しているの
再構成したものである。
は、ジレンマサイドの「優秀な看護職員を引きつけ、
定着させることのできる魅力的な看護職務・勘」で、
サプライサイドの「看護職務の就業者」ではないと
いうことを認識する必要がある。現象的には看護婦
不足として捉えられる問題は、成果責任、役割分担、
成果の評価、処遇のあり方、継続学習の機会、業務ス
トレス解消などを包括的に含む職務設計の問題で
あり、体系的な職務設計ができなかった、あるいは
そのようなノウハウを蓄積することを怠った医療・
看護サービス供給システムのマネジメントの問題
であることが強調されている。「魅力的な看護職務」
を醸成するためには、マネジメントの視点にたっ
て、従来の課業や機能に加え、看護の成果責任にま
で立ち入った職務設計モデルと、硬直的な年功賃金
ではなく成果・能力に連動する賃金制度モデルの早
急な検討が待たれる。
職務設計は、個人のモチベーションに深く関係す
る。看護職に対するアプローチとして、職務設計の
充実が始まりつつあるが、専門職としての自律性を
焦点として、半専門職、自覚的専門職と称される看
護職が抱える、前述のような問題を明らかにするた
2)仕事に取り組む姿勢に関する設問=各看護職は、
各自の職務に対する姿勢について15箇の項目で
評定した。これらの項目は、基本的には、成長欲求の
強度、内的動機づけ(田尾27)、蜂屋凹)に関する次元
で構成されている。
3)職務上の人問関係に関する設問(特にリーダー
シップ行動):各看護職は、直属上司のリーダーシッ
プ行動を27箇の項目で評定した。これらの項目
は、基本的には、Cartwright&Zander、ミシガン大
学系統の4因子理論(Bower&Seashore)、オハ
オイ州立大学のL B D Qの次元(構造づくり、配慮)
を参考に再構成し、さらに上司への満足感(蜂屋27〉
z8〉)を測定する次元を加えて構成したものである。
4)組織風土に関する設問=各看護職は各自の勤務
する職場の雰囲気について12箇の項目で評定し
た。これらの項目は、基本的には、Likertの次元を参
考に組織風土の次元(田尾2D)、企業の職場マネジ
メント診断(清水)、新・病院看護機能評価マニュアル
(日本看護協会策定)を加え、再構成した。
めに、職務特性全体との関係を明らかにしていく必
要があるだろう。職務認識が、どのように看護職の
識に影響を与える要因とはどのようなものが考え
上記設問に対し、各項目について5段階評定尺度
によって(そうではない:1点、ややそうではな
い=2点、どちらともいえない:3点、ややそうであ
られるのか等を考慮に入れた職務再設計が待たれ
る:4点、そうである:5点)回答を求めた。
モチベーションを高めているのか、またそうした認
一38一
看護職の職務特性認識に関する研究
調査対象:設立主体や性格を異にするH県内の総合
を確立するための確実な一歩である。自律性とは、
病院7病院に調査を依頼し、1520人の看護職に
専門職である者が仕事の場面において自分自身の
機能を統制することであり、これは看護職が伝統的
従事する者から回答を得ることができた(質問表配
布数1656通に対する回収率は91.8%であっ
に守らされてきた従順性や服従性に相反すること
になる。人格性や奉仕性が強調され続けてきた背景
た。)
仕事は仕事を担当する者たちが、進んで行う意欲
には、病院という組織がこうした姿勢を期待してい
が生じた時に、最も効果的・能率的に行われるとさ
ることを反映しており、今日の医療環境の変化、病
れている。つまり、動機づけにより、自ら進んで、積極
院組織の改変、地域医療分野での活動は新しい職務
的に、しかも責任を持って仕事をする意欲を起こさ
を我々に期待し要求するチャンスである。看護の仕
せることができる。それでは、看護職にある者は、看
事は個別性に左右される側面を多く持ち、再現性に
護の仕事をどのように捉え、動機づけられているの
乏しく、客観視することが難しい側面を持つ。しか
か。やりがいとか、能力発揮感、達成感との関わりで、
し、そうした中でも看護職でなければならない仕事
看護の仕事との検討は多くなされているが、看護の
を追求し続け、究明していかなければならない。
仕事の持つ職務特性のどのような側面に影響を受
けるのかについての検討は少なく、また職務特性の
今回の分析結果は、刻々と変化する医療環境の
中、看護職に従事する者たちが認識する組織風土
認識に影響を与えると考えられる組織特性との関
係に焦点をあてた検討が必要となる。
ので、かつ緊張感を伴い、そうした仕事内容は時に
は、患者の生命を第一に考え、安全性を重視したも
看護の仕事内容の捉え方により、そのリーダー
シップ行動認識に違いがみられ、また職場環境に
をスムーズに行わせていた。また、こうした組織風
よっても仕事の捉え方に違いがみられた蹴。従事す
土は看護職の仕事継続意欲との関係がみられた。看
る看護業務に対する認識や仕事に取り組む姿勢と
護職の自律性をサポートする機能を伺うことので
しての個人差概念は組織風土認識に影響を与えて
いることが明らかになった。また、モチベーション
きる風土は、組織を支えるリーダーシップ行動とも
関係しており、各職場単位におけるリーダーの役割
コミュニケーション不足にさせ、同僚との協力関係
のベースとしての機能を持つ組織風土にこれらの
への期待が持たれる。
要因が関係することが示唆された3〔))。職務特性とモ
リーダーの機能に対する分析は、組織を支える
チベーションの関係は重要で、今日の看護職を取り
リーダーとしての機能を果たしており、看護職にあ
まく環境の変化に対応した組織活性化の視点とし
る者たちの看護の仕事そのものに動機づけられ、自
て管理職には欠かせない3D。特に、対象を助産婦にし
分の看護に対する患者の反応を通して、達成感、充
た分析では、これら職務特性認識が動機づけや組織
しコヨ の
行動に強く関係していたことが明らかになった 。
実感を抱き、仕事そのものへの意欲を高めていこう
看護の職務に対する認識は、自分たちの置かれる
現実的には、リーダーの機能は専門職貢献度も資格
医療環境の中で、自分たちが携わる看護業務はます
も病院内の制度にかなり依存しており、本来のリー
とする個人的な姿勢をサポートしていた。しかし、
ます複雑化、多様化し、そのことにより、多くの新し
ダーとしての機能を十分に有しているとは言い難
い知識と技術を要求されるが、その反面、自分たち
い。看護職が看護を実践していく者たちの集団とし
が、本来の看護の仕事と認識することろの業務に携
て社会的にも十分機能していくために、リーダーの
わる時間は制限されがちで、そうした環境の変化は
役割は重要で、そうしたリーダーの行動が医療チー
自分の持つ看護能力を十分に発揮できないと感じ
ムの中での看護職集団の地位を確立することに繋
させていた。また、医療環境の変化に伴い、行わなけ
がる。医療チームの中で、その集団構成員率に比し
ればならない仕事の量は確実に増えているが、それ
て、パワーを持ち得ない現状を打開する意味でも、
は自律性に富む内容とは言い難く、看護職に従事す
これからのリーダーの役割はさらに重要となる。こ
る者たちを、従来から至適されて続けている半専門
れまでの様な内向きの発想に支えられたリーダー
職、自覚的専門職と再認識させざるを得ないもので
としての機能(人間関係)にだけ右往左往すること
あった。 しかし、看護は単調な労働ではないし、看
なく、組織変革者としての視点、組織集団活性化へ
護職は単に労力を売る職業でもない。今日の看護学
の職務再設計の視点、さらには外部との交渉能力を
教育の大学化、臨床における専門分化はこうした歴
発揮できるリーダーの教育・育成が急がれる。
史的背景をふまえた上での業務上の専門性、自律性
その一方法として、ナレッジ・マネジメントの導
一39一
看護職の職務特性認識に関する研究
入を提案したい。ナレッジ・マネジメントとは、組織
らしい知識が本人だけのものであったりするとい
の創造性を支えるナレッジを質量ともに向上・拡大
う問題点も持っている。従来の看護は、伝承、見習い
させる施策を通じて、組織の実行可能性と価値提供
の色合いの強い時期が長かった。つまり、知識が個
力を高めることを目的とした仕組みを形成し、継続
人に帰属していた時代が長かったと言える。知識は
的にその仕組みそのものを発展させていくことで
ある 。ナレッジ・マネジメントヘの取り組みは、
暗黙知の段階では共有できるナレッジにはならな
い。表出化することが不可欠になる。多くの人に共
有してもらうために、その知識が誰もが認識できる
ロロセけ
「人」に大きく依存する部分と、業務の進め方や仕組
みが大きく影響する部分の双方向から行う必要が
ある。人に依存する部分では、リーダーシップと組
形をしている必要がある。このことを「暗黙知の形
織風土の醸成が大きな促進要素となる。リーダー
要求される重要な能力の一つであると考える。
式知化」というが、これからの看護界のリーダーに
シップは、組織のめざすミッションを明らかにし、
その実現のため、どんなナレッジが必要なのか、そ
■ おわりに
れをどのように使うのかを明らかにする。拡充され
た知的資産は、さらに組織のコアコンピテンスを強
固にするために活用されることになる。
ナレッジには「暗黙知」と「形式知」がある。看護は
暗黙知の部分を多く含む。暗黙知とは、暗黙のうち
にもっている知識のことで、個人の頭の中にあって
今日の我々看護職を取りまく環境の変化にはめ
ざましいものがある。このような中100万人強の
専門職集団として、組織活性化のために求められる
視点とは何かをさぐるために、日々変化の激しい臨
も口に出していわれない、外に現れない、外からで
床において看護業務に従事する者たちに看護の仕
事をどのように捉えているのかに焦点をあて分析
はわからない知識をいう。また、口に出してはいわ
を加えた。臨床現場における看護職務認識を把握す
ないが、暗黙のうちに共通に認識していることであ
ることで、組織活性化への次の一歩を模索するこが
る・しかし、逆にお互いに知っていると思い込んで
できたのではないかと考えている。
いたことが、実は一方は全く知らなかったり、すば
文 献
1)松下博宣:看護経営学,日本看護協会出版会,1994.
2〉川渕孝…=公式組織と非公式組織,病院52巻,2号,172−173,1993.
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一40一
看護職の職務特性認識に関する研究
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17)諸橋芳夫:最近の医療問題によせて一見解と提言,社会保険旬報,第1701号,6−11,1990.
18)日置弘一郎=社会一技術システム・アプローチと新しい組織,二村敏子編,組織の中の人間行動,
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29)山内京子:第9回日本看護教育学会発表「リーダーシップ行動認識に関する要因,Vo19,No2,173,1999.
30)山内京子:第25回日本看護研究学会発表「組織風土認識に関する要因」Vo122,No3.97,1999.
31)山内京子:看護職の動機づけに関する研究一組織行動論に基づく分析(その1),看護展望,Vo1.24
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32)山内京子:第38回日本母性衛生学会発表,Vo138,No3,363,1997.
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34)山内京子:第40回日本母性衛生学会発表,Vo140,No3,220,1999.
註1:年毎に看護必要度の高い患者の占める率は高まっており、仕事の密度も量も、過去の看護婦たちが
体験したものとは実質的に大きく異なってきている。また、従来と比較して医療の受け手の知識も意
識も高まっている。疾病構造の変化に伴う医療機能二一ズの変化がうみだした看護体制(CCU:COronary
Care Unit心筋梗塞症急性期病棟、冠状動脈疾患集中治療室 ICU:lntensive Care Unlt集中強化
治療室)や、近年では病院での医師中心の体制から離れ、独自の訪問看護を地域で展開する看護職が
増えてきている。
註21川渕(1993)2)は、日本的経営の特徴と病院経営の特徴を比較して、職員の出入りが激しかった我が
国の病院は、「組織を運命共同体」と考える傾向の強い一般企業と比べてやや特異な存在といえると
し、…般企業に見られるような、①組織内の強い凝集性②和を強調する組織風土③ノウハウの蓄積や
人的資源の開発が病院では進んでいないとし、基本的にマネジメントスタイルが異なることを指摘
する。
註3=この点については、天野(!972)3)が看護の歴史的、社会的背景を加え説明している。
註4:内田(1991)4)は、1963年に日本病院会で看護業務とは何かを調査した結果、500余の行為を抽出し
たが、その中で看護婦でなければできない仕事は「教育指導と管理」の2項目であったとしている。40
年近くたった今日その内容に大差はない。今日の看護業務の捉え方と看護という概念規定は整合し
ているとは言い難い。
註5:Robert&Stephen(1988)9)らが、病院に勤務する看護者、マネージャー、技術スタッフ等に対し
一41一
看護職の職務特性認識に関する研究
て行った業績評価(支払い)見込みと支払い満足に関する調査は、自分が行う行為に対して給料が上
がるとか、昇給に伴い仕事が大変になる等の見込みに対する因子と満足度は有意に関係しており、
福利厚生や職務満足度よりも強い関係がみられたとしているが、大山(1990)1(〕)の指摘する日本の看
護職の給与体系の実態(20歳代前半までは、初任給や夜勤手当などの関係で他業種より上まわって
いるが、それを過ぎれば格差が開く一方である)では、本人の働く意欲も減退し、経験を積むほど不
利になるという不合理性は今日に続いている。
註6=さらに、看護職における職階制と給与格差や看護職の給与における人事院勧告の役割等について
も指摘している。奥村(1994)14)も、日本看護協会による調査研究の結果、各医療機関が給与改善の重
点を徐々に在職者にシフトする傾向が現れていることを指摘する。草刈(1989)15〉が指摘する中高年
層の看護職離れは、病院医療の高度技術化にともない病院看護婦が若年化してきているアメリカの
報告とも一致するもので、日本においても労働条件、勤務環境と相まっての現象と理解でき、今日そ
の傾向は顕著化している。また、一般女子労働者と同様、育児休業法の施行以来、結婚・出産後も子育
てをしながら就業継続する意志のある者が増えてきており、そうした意味でも労働条件、職場環境
の整備が急がれる。
註7=天野3〉は、看護の概念についてはさまざまな定義があるとする。しかし、総括すれば、看護とは何よ
りも患者の人間としての基本的な要求を満たし、回復への意欲を積極的にモチベートするための総
合的な援助行為をさすもので、医師が行う診療活動への介助は、二次的な位置を占めるにとどまる
ことができるとする。我が国の看護婦の問題状況は、何よりも、この本来の看護活動に、二次的な位
置を占める診療介助活動が、その活動の主体をなすものとして位置づけられてきた点に集約されて
いると指摘する。
註8=この点に関しては、歴史的にみて日本病院会長の諸橋(1990)17)も看護婦不足問題についての議論
の中で、医療機関に勤務する職種は数々あるが、医療機関に附属した養成所の療養費の中から養成
されているのは看護婦(士)、准看護婦(士)のみであると指摘する。
註9:日置(1992)18)は、職務拡大論や職務充実論が、主に職務における物理的な作業を遂行するところの
作業範囲の大きさによる貢任の大きさを問題としたのに対して、職務設計論は、職務遂行に伴う人
問関係をも操作しようとしているとする。また、職務設計論の扱う対象は、物理的な作業範囲に加え
て、労働者の作業集団内における社会的役割の操作をも意図するものであるとする。これは、人間関
係論が労働者問の相互作用は自然に発生するもので操作することはできないと考えたのに対し、労
働者間の相互作用をも職務の一部と考え、これを操作し、管理しようとしているといえる。つまり、
職務設計論は、労働者の職場における行動を職務遂行のための行動とのみ考えるのではなく、職場
の作業集団や企業組織に所属しているという側面を強調し、組織内の人間行動として理解しようと
している。単調労働に対して、労働者の自主性・自律性を増大させ、他の労働者との関係を操作して
いるものである。
註10:仕事内容を変えることでモティベーションが上がるかについての検証を行っている。①心理的
因子(価値観、責任感、仕事結果の知識感)②仕事の特性因子(①を左右する)③個人的因子(どのくら
いよく反応するか)の3つからなるものの関連を対象にしたモデルを考案した(1976,pp.250)。この
研究結果においては、①と②の関連性は高く、仕事に対する考え方を調整することで、人間の二一ド
を概念化させ、測定することができるとしている。
註11:操作的には、自らすすんで新しい知識や技術を身につけたい、他の人よりも優れた仕事をしたい
等、仕事それ自体に積極的に関与したいとする潜在的な意欲、あるいはレディネスであると定義さ
れている。
註12:発達的な視点から個人差概念の整理をすすめたBrousseauのいう選択効果(ある種のパースナ
リテてをもつ人はある特性を有する仕事を選考する)と仕事の効果(仕事自体が選択傾向を規定し
ていく、仕事が人を選ぶ)の間に生じるダイナミックな相互影響過程から個人差を理解していくこ
とは有意義であるという田尾(1992)21)の提案は、看護職のような特徴ある仕事に従事する個人を理
解する上で重要である。
一42一
看護職の職務特性認識に関する研究
註131また、人的資源管理システムを職務の構造から始めた場合、次の間題は職務を担当する組織構成
員を、どのように処遇するかの問題がでてくると指摘する。
註14:我が国の看護は、第二次世界大戦の終結を契機として、ようやく自主性を持ち得るようになった
という歴史的背景があり、1948年に制定された「保健婦助産婦看護婦法」は、我が国の看護及び看護
職員のあり方を決定し、看護の発展に重要な意義を持ってきた。しかし、今日時代的背景を受け、法
改正についての必要を問われるようになってきた。
註15:Mintzberg(1989)23)は、専門職業家たちは、高度に動機づけられた個人として形を現わし、自ら
の仕事と自が奉仕する依頼人に対して献身する傾向がある。また、自律性のゆえに専門職業家はど
んな干渉からも解放されて、同じ複雑なプログラムを何回となく反復するうちに、自らの技能を完
成させることができるとする。また、「合理的」な機械的官僚制組織は、浅薄なうわべだけの不道徳な
プロフェッショナルマネジメントの時代を将来し、我々の多くがそれを何ら気づいていないか、あ
えて反論する機会が失われてしまっていると指摘している。
註16:Drucker(1990)24〉は、30年前コミュニティ・ホスピスは、基本的には医師中心に運営され、医師が
顧客の決定権を握っていたが、そうした時代はもう終わったと指摘する。
註17=「自律性」とは「上司や雇用者から専門的判断及び措置において指図を受けない職業活動の自主
性」(個人としての自律性)と「免許・養成・就業など広範な自己規制力をもち、サーヴィスの維持改善
に責任をもつ自治組織としての職業団体の結成」(集団としての自律性)を意味する。
註18:日本看護協会看護婦職能委員会(1995)5〉は、看護職能団体として、政治、行政等の政策決定への参
画の重要性を強調しているが、例えば、アメリカの看護職能団体のようなパワーと行動力は未だ持
ち得ないでいる。
註19:看護職務レベルでの代表的な問題として、①直接巻看護業務が非看護業務に圧迫されて、本来の
ベッドサイド・ケアに時間がさけない。②看護業務と他職種との役割分担が不明確になっている。
③看護職務の成果責任が曖昧模糊としている。④看護職務と介護職務の境界線、役割分担が不明確
である。⑤看護婦(士)と准看護婦(士)の業務内容、役割分担が医療機関によってまちまちである。
⑥過密な業務ゆえにストレス因子が多く、ストレス量も大きい。⑦定着率が低く、若年層の交代が激
しい。⑧職務遂行能力や成果に見合った処遇が実現されていない。⑨他産業と比べた場合、看護婦
(士)処遇の対外的競争力が見劣りする。⑩硬直的な年功賃金が優秀な若手、中堅層の意欲を阻害し
ている。⑪マネジメントカのある優秀な看護管理者⑫在職中の看護婦(士)の継続的能力開発の機械
と質が不十分である。⑬多様化、高度化する看護業務にマッチする専門性を十分有した専門看護士
の育成、供給が遅れている等をあげる。
註20=これまでの研究で助産婦は、助産婦業務を自律性に富むものと捉えており、その仕事内容に自信
を持ち、助産婦として、仕事そのものに有意味感を抱いていることが明らかになった(第38回)32)。
また、上記のことに対し助産婦としての専門教育の違いの及ぼす影響が考えられることを発表(第
39回)33)、助産婦は日々の仕事を通して、助産婦としての能力を発揮することで、さらに助産婦とし
ての意識、専門性を深めていた(第40回)34〉。
註21:個人のもつ知識やノウハウを企業の重要な知的資産としていかに蓄積し、企業内でコミュニケー
ションの円滑化、組織の活性化と業務の生産性向上を図ることをねらっている。ナレッジマネジメ
ントの最終目標は「知識の共有」を実現した上で、その知識を理解・吸収して新たな「知識の創造」を
可能にする仕組みを作り上げることにある。
一43一
看護職の職務特性認識に関する研究
英文抄録
Study on nurses’profession in occupational characteristics
of their profession
KyokoYamauchi
Recent changes in environment surrounding nursing profession are remarkable。Increase in bachelor pro−
grams in nursing and development ofspeciflc nursing realm such as birth ofcertified nurse specialists and
certifled clinical nurses,tell us that nursing profession is aiming toward higher profession.These changes
certainly help nurses to estabhsh independence and autonomy ln clinical area。
Then,it may be inferred乳hat these changes in nursing must have in伽enced consciousness ofnurses who are
currently working in clinical area,How do clinical nurses think oftheir profession?What is their identity
towardtheirprofession,and what kind ofthings重nfluences the孟ridentity? To identify thesequestions,review
of literature in historical background suπounding nursing profession was added,research was conducted and
analyzed,and gave consideration fヤom the point ofnurslng profession as an organization to achieve more active
involvement.
Keywords:Occupational characteristics,Human resource management
一44一
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