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峰地新人賞最終原稿1-1 乗本
02 単元を貫く言語活動を位置づけた授業づくり ~教師が変わる・授業が変わる~ 伯耆町立二部小学校 1 乗本 千都 はじめに 県西部に位置する本校は,140年続いている伝統ある学校である。校区のほとんどが山林地 帯であるが、校区のほぼ中央に北流する野上川に沿って水田が開けるなど,豊かな自然に恵ま れたところに位置する。学校では,地域の方の指導を得ながら学習で「もち米づくり」や「しい たけ栽培」など体験的な学習も取り入れている。全校児童29名の小規模校ではあるが,地域・ 保護者の方の学校に対する協力体制が厚く,あらゆる学習において児童に関わっていただいてい る。学校教育目標(短期・中期目標)は、学校・児童・保護者・地域の願いを整理して共通の目 標・姿として平成20年度に設定し、各役割を明確にしつつ相互の一体感を大切に教育実践し、 今日に至っている。 2 研究主題の設定 (1)主題設定の理由 少子高齢化,情報化,グローバル化など急速に変化する現代社会において,価値観の多様化, 倫理観や社会性・道徳性の揺らぎ,正義感や公正や安全安心への信頼も時として失われるなど, 子ども達が置かれている状況は,大きく変化している。この急速かつ激しい変化が進行する社 会を一人一人の人間が主体的・創造的に生き抜いていくために教育に求められているのは, 「生 きる力」を育むことである。「生きる力」とは,「自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」, 「自らを律しつつ,他者とと もに協調し,他者を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」 ,「たくましく生きるための 健康や体力」などからなる全人的な力である。 本校は,このような「生きる力」を育む教育の基盤として,教育活動全体を通じて人権教育 を推進してきている。人権教育では,多様性を認め,自他ともに大切にする心と実践力をつけ ること,またその思いを豊かに表現するための語彙の獲得をすることが必要であると考えてい る。 本校の学校教育目標・めざす子どもの姿・児童の実態に照らして,一人ひとりにどんな力を 育成すると目指す子どもの姿を具現化したことになるかを考え,平成20年度より研究主題「友 だちと共に学び合い,自分のよさに気づき,考えを深め広げようとする子どもの育成」を設定 し進めてきている。平成24年度からは,先導教科を国語科とし,学校全体で国語科について 研究を進めてきている。 (2)本校の児童の実態 本校の児童は,素直で与えられた課題に真面目に取り組むことができ,決められたことを守 ってやり遂げようとするすばらしさがある。異学年で活動する場が多くあるため,年齢差を超 えてふれ合う姿が学習や生活の様々な場面で見られ,和やかな雰囲気がある。 1 一方課題としては,主体的に行動すること,多様な人々とコミュニケーションをとることに 消極的であることが挙げられる。実際の姿として,活動時に教師の指示や支援,確認を求める ことが多い,自分の考え(意見・感想・疑問など)を積極的に伝えようとしないなどである。 特に学級外,学校外の人を前にすると抵抗を感じる児童が多いため,他校との交流学習の際に はこのような姿が顕著にあらわれ,学習が十分に深まることなく終わってしまうこともあった。 国語科に関する現状については,アンケート結果から,「国語が好き」「国語がよく分かる」 と答えた児童の割合が年々上昇し,研究をスタートしてからのここ2年間は9割まで達してい る。しかし,学習中や日常的な場面からは,人の話をしっかりき(聞・聴・訊)く力,そして 相手に分かりやすく自分の思いを伝えたり,自分の思いを豊かに表現したりする力がまだ十分 ではないと感じられる。これは,分かりやすく伝えるための方法を知らないという実態や,限 られた言葉での表現しかできないという実態が要因の1つであると考えられる。 読書量についても,平成20年度は1人あたりの年間図書貸出数が平均20冊程度であった ため,読書環境の整備や学習の中での 資料1 読書活動の位置づけを続けてきた。そ れにより,ここ数年で飛躍的に貸出数 が伸びてきた。 (資料Ⅰ)平成23年に は, 「読書活動推進校」として全国表彰 (平成23年4月23日文部科学省) も受けている。しかし,子どもの読書 傾向に偏りがあることがまだ課題とし て残っている。 (3)なぜ国語教育か このような実態や人権教育の視点から,本校では,自分の思いを豊かに表現するための語彙 の獲得と自分に自信をもつための確かな学力を身に着けることが大切であると考えた。そこで, 言語を扱う中核的な教科である国語科を中心としながら,教育活動全体で育てていくことをね らい,研究主題に副題「思考力・判断力・表現力を高める言語活動の充実」を設定し実践研究 をしていくことにした。 3 研究の実際 (1)めざす子どもの姿の設定 本校のめざす子どもの姿は「自分の課題解決に向かって夢中で学習する姿」であり,具体的 に4つの姿(①知的好奇心から学びの意欲へつながる姿②習得・活用の力を身に付けた姿③学び方を身 に付けた姿④自尊感情を持ち前向きな姿)を挙げている。この姿に迫るべくどの児童にも高めたい 力として「自主性・学習意欲・達成感・自己肯定感・言葉でつなぐ力(言語化能力)」を挙げ,国 語科においては3つの具体的なめざす子どもの姿(①夢中(没入・熟考)で学習する姿②課題に向 き合い,自分の考えをもちよりよく解決していく姿③進んで友だちと関わり合い深め合う姿)を設定 2 し,これをねらう授業づくり・授業改善に教師全員で取り組むことにした。 ≪本校がめざす子どもの姿≫自分の課題に向かって夢中で学習する姿 ①知的好奇心から学びの意欲へつながる姿 ②習得・活用の力を身に付けた姿 ③学び方を身に付けた姿 ④自尊感情を持ち前向きな姿 どの子にも高めたい力 自主性・学習意欲・達成感・自己肯定感・言葉でつなぐ力(言語化能力) <国語科の授業においてめざす子どもの姿> ①夢中(没入・熟考)で学習する姿 ②課題に向き合い,自分の考えをもちよりよく解決していく姿 ③進んで友だちと関わり合い深め合う姿 (2)教師の授業づくりの改善「教師が変わる・授業が変わる」 めざす子どもの姿の実現のためにまず必要なことは,教師の授業づくり(単元の目標に迫る単 元の構想,児童の実態に合った学習活動の選択)であると考えた。これまで国語科の授業研究会 も実施し,目標達成に迫った授業内容であったか,児童の思考が深まる発問になっていたかなど について協議してきた。しかし,毎日の国語科の学習中や学習後の児童の姿は,めざす児童の姿 とはほど遠く,教師も授業に手ごたえを感じることはできなかった。また,授業研究会の時のみ の意見交流しかできていなかったため授業づくりが教師個々の取り組みになり,学年間や教師間 による授業実践の仕方に違いもでていた。 そこで, 「教師が変わる・授業が変わる」を合言葉に「二部小授業開発のための提言」 (資料Ⅱ) を作成し,教師全員で共通認識・共通実践していくことにした。 (3) 「二部小授業開発のための提言」(資料Ⅱ)に基づく授業づくり この提言は,国語の授業づくりを中核としながら,全教員がこれまで手ごたえのあった授業実 践を積み重ねる過程で作成してきたものである。全ての教科にまたがるものであること,具体的 なものであることを重視している。 資料Ⅱの提言は平成25年9月に更新したもので,これまで10回近く更新を重ねてきた。更 新に当たっては様々な視点をもった外部の方にも来ていただき,校内授業研究会を通し考えてき た。 提言は,4 つの内容(A育てたい力を明確にした単元を貫く言語活動,B多様な相手とのペア 的学習,C豊かな読書生活につなげる環境づくり,D二部小学びの基礎づくり)で構成している。 そして,それぞれの内容について,取り組みのポイントを掲げ,共通実践項目としている。以下, 提言の内容の一部について,実践を交えながら説明していく。 3 (資料Ⅱ) <A育てたい力を明確にした単元を貫く言語活動> 「単元を貫く言語活動を位置づけた単元開発・授業開発」をする時に教師が意識することと して6つの項目(1子どもの考えも位置づけた一貫性のある単元構想・表現に開く単元構成 2 具体的な活動を明示しためあての提示 3学びの足跡となるノートづくり 4分析,比較,検 討の力を高める教材の複数化 5学習の成果の学級外への発表 6子ども自ら生み出した話す 聞くの可視化)を挙げ,共通認識・共通実践してきた。 ①1「子どもの考えも位置づけた一貫性のある単元構想を作る」について 「子どもの考えも位置づけた一貫性のある単元構想を作る」とは,子どもの実態や興味関心, 考えが位置づけられた単元構想にするということである。子どものやりたいことを優先すると, 単元のねらいから外れてしまう可能性があるが,三次で「表現方法(例えばリーフレットかス ピーチかなど)を話し合って決める」 「カードにまとめるか説明書にまとめるかを個々で選択す る」のように思考・判断の場を設定することにより,ねらいを明確にしつつ子どもの考えも位 置づけることが可能になると考えた。 4 <2 年生単元「ふろしきはどんなぬの」の実践例> 単元の目標 ○2種類の説明の仕方の違いを考えながら読み,それぞれに書かれている内容を正しく読 むことができる。 (Cイ) ○大事(必要)な言葉や文を探しながら読むことができる。(Cエ) 言語活動 1 年生が遊びたくなる昔の遊び道具の紹介文を書く。 言語活動設定の理由 「1年生に」から相手意識を, 「昔からある遊び道具の紹介カードを作る」から目的意識 を明確にすることで,相手や目的に応じた説明方法(カードの文か本の文章)を選択する 必要性が生まれる。また,遊び方の説明を書くためには,大事(必要)なところを見つけ ながら文章を読むことも必要になってくる。したがって,本単元でねらう力「2つの文を 読み比べ,場面や用途に応じた説明の仕方を理解し選択する力(Cイ)」「文章を読んで必 要なことを見つける力(Cエ) 」を確実に実現できる言語活動であると考える。 二次で「カードの文」 「本の文章」のそれぞ れの特徴や書き方の違いを学習し,その内容 を単元の終わりまで教室内に足跡として残し ておいた。それにより,三次での個々の活動 の際のヒントとなり,児童が自分たちで活用 することができた。一人ひとりが紹介したい 遊び道具についてどちらの書き方で紹介文を 書くのか根拠をもとに選択することにした。 三次での「学習のてびき」となる一次二次での学習 の足跡の掲示 5 ≪児童作品≫ で 、 本 の 文 章 を 選 び ま し た 。 が の っ て い て 、 全 部 書 き た い と 思 っ た の い た ら 、 遊 び 方 以 外 に も い ろ い ろ な こ と せ ん で し た 。 そ れ と 、 色 々 な 本 で 調 べ て 遊 び 方 の 説 明 を 短 く 言 う こ と が で き ま 本 で 調 べ た り 、 遊 ん で み た り し た ら 、 ○ 「 本 の 文 章 」 を 選 ん だ 理 由 ら え な い と 思 っ た か ら で す 。 一 年 生 に は 短 く 説 明 し な い と 読 ん で も ○ 「 カ ー ド の 文 」 を 選 ん だ 理 由 日記や作文等から,児童にたくさん書くことに慣れていないという実態があったので,書く量 の少ない「カードの文」を選ぶと予想していた。そこで,選択理由を述べる時間を設けることで 目的に応じた選択ができているかを判断することにした。結果,5人中4人の児童が「本の文章」 を選択し,さらにどの児童も相手意識やどちらが適当かなどを意識した理由を述べていた。 また,国語科におけるめざす子どもの姿である「夢中で学習する姿」 「課題に向き合い,自分の 考えをもちよりよく解決していく姿」に迫るための手だてとして,三次で紹介する遊び道具を休 憩時間等に実際に遊んでから選ぶようにした。それにより,児童の学習意欲を高めるだけでなく, 「遊び方」 「おもしろさ」などについて自分で体験したことがそのまま表現に生きてきたり,本を 読むだけでは理解できなかったことが,体験と結びつくことによって理解できたりするという結 果が得られた。 6 また,各担任が実践した「単元を貫く言語活動」で手ご たえを感じたものを集めた「活動アイデア貯金箱」 (資料Ⅲ) を作成した。これを見ると,学年の言語活動の系統性や偏 り等が分かり,今後の単元開発のヒントになると考える。 (平成24年度以降の実践)また,よい実践を次年度以降 に続けてしていくことで,教師の指導力向上と児童の学び の力の向上につながることが期待できる。 「遊びの楽しさや遊び方の説明」 ②4「単元の中に教材を2つ以上入れる」について を文章表現する時に生かせる体験 これまでの授業では,主に教科書の教材のみを読むこと で,ねらい達成に必要な力を身に付けるような学習を組み立てていた。しかし,比較・分析・検 討,その他情報収集するには,1つのものよりも2つ以上のものを扱う方が明らかになることは 確かである。また,三次で個々に言語活動に向かう時,教科書教材と同じ難易度や文章構成のも ので行うわけではないので,二次で教科書教材とは違った資料を使って言語活動を行ってみるこ とも,より確実に身に着けたい力の習得に近づくと考える。単元のねらいや言語活動を考慮して 授業者が補助教材を選定し,複数の教材を使って授業を組み立てるようにした。その他にも,低 学年では特に,教科書教材の原本となる絵本を扱うことで,より詳しい内容が書かれていたり, 挿絵がたくさんあったりして更に学習を深めることができた。 以下は25年度の授業実践の指導案の一部である。全ての学年が補助教材として複数冊の教材 を活用して単元の学習を進めている。 第5学年 国語科学習指導案 指導者 1 単元名 級 本池 典史 私たちの「森林のおくりもの真実」を作ろう 2 学 3 単元について 中核教材 森林のおくりもの 補助教材 森は生きている(講談社) 森からみる地球の未来4水と土をはぐくむ森(文研出版) 5年 男子3 女子3 計6名 第4学年 国語科学習指導案 指導者 1 日 時 平成25年6月12日 2 学 級 4年 3 単元名 今川 路子 第3校時 男子2名 広告と説明書を読みくらべて,『二部きな粉』の広告を作ろう 中核教材「広告と説明書を読みくらべよう」 補助教材 ヘンシン大豆はえらい(農山漁村文化協会) インターネット資料(きな粉) 4 単元について 7 インターネット資料(キナコの効用)