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雪の重さを考える ~豪雪のまち 新潟県十日町市から
2012 年 2 月 9 日 一般財団法人 日本気象協会 雪の重さを考える ~豪雪のまち 新潟県十日町市から~ 今冬(2 月 6 日現在)と豪雪だった 2006 年の十日町アメダスの日最大積雪深を図 1 に示した。平年 ではシーズンを通して 2 月中旬くらいに積雪深のピークとなるが、各年の記録を見ると数日周期のでこ ぼこがある。大量に積もった数日後には 50cm 以上減っていたりする。 2006 年の場合、1 月 12 日に 321cm だった積雪深が 16 日には 237cm、4 日間で 84cm1 日 21cm の 速さで減少している。この間、最高気温 5℃前後の日が続いたが、最高気温 10℃以上の日が半数の同年 4 月は 30 日間で約 2m、1 日 6~7cm の速さで減少したのでその 3 倍だ。 十日町アメダスの積雪(11月~4月) 350 2006年冬期 2012年冬期 300 平年 最深積雪深(㎝) 250 200 150 100 50 0 11/25 12/2 12/9 12/16 12/23 12/30 1/6 1/13 1/20 1/27 2/3 2/10 2/17 2/24 3/3 3/10 3/17 3/24 3/31 4/7 4/14 4/21 4/28 図 1 十日町アメダスの積雪深 (2006 年冬期と 2012 年冬期) 豪雪地帯では、降った直後の雪もたいへんだが、積もった雪は、締まる、固まる、重くなる、ますま す厄介になる。まとまって屋根や斜面を滑落するとその威力は破壊的で致命的だ。重みで家屋倒壊どこ ろかコンクリート橋を落としてしまうことも!ふわっとした雪が積もってから日々変化していく様子 を紹介する。 積雪の重さ・密度 降り積もった雪の重さはどのくらい?雪の密 度 は 、 乾 い た 雪 で は 50 kg/m3 、 湿 っ た 雪 で 100kg/m3(比重で言えばそれぞれ 0.05、0.1)く らいである。 雪は氷と空気の混合物で空気の含有率が高い ほど密度が小さい。空気が孤立した気泡となって 氷に閉じ込められて通気性がなくなったものを 氷と呼ぶ。氷との分かれ目の密度は 820~840 kg/ m3 とされるが、日本の雪は 500kg/ m3 程度まで である。 降水量 1mm は降雪 1cm に相当し、雪は同じ質 量の雨より ボリュームが 1 桁大きい。アメダス の降水量分布を見ると豪雪地帯でも 10mm/h 以 上はほとんどない。5mm/h にもなれば見る見る うちに積もり一晩で 1m ものどか雪となってしま うこともある。 が屋根に載っているということになる。1m の雪 ならそれが二段!埋もれたら自力脱出はまず不 可能だ。スコップひと掬いの雪(30 ㎝立方)でも 8kg、雪かき・雪おろしは何十回、何百回の重労 働である。 屋根雪は見かけの深さが変わらなくとも、その 後の降雪と締まりでいつの間にか密度が増え、重 量が 2~3 割増えてくるので要注意だ。 新潟県の独立行政法人森林総合研究所十日町 試験地(以下、十日町試験地)では、屋根雪情報 として屋根上の雪の単位面積当たり重量を表 1 の ように毎日発表して注意を呼びかけている。 表 1 十日町試験地で発表している屋根雪情報 雪の重さを実感する 屋根雪の平均的な密度は 300kg/m3 以上と言わ れるが、具体的にはどういう感じだろうか? 軽自動車(全長 3.4m 全幅 1.48m 重量 800kg) を例に取ると、平面投影面積は約 5 ㎡なので 1 ㎡ 当たり 160kg で積雪 53cm に相当する。建坪 20 坪(66 ㎡)の家で約 50cm の雪は 13 台の自動車 1/4 2/9 現在、1/25 に雪下ろしした屋根には 448kg/㎡、一度 も雪下ろししていない屋根には 920 kg/㎡の雪があるとい うことである。 (300 が雪下ろしの目安です) http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/tkmcs/index.html 2012 年 2 月 9 日 一般財団法人 日本気象協会 積雪増大期(2006年冬期) 350 積雪深 300 全層平均密度 600 250 500 200 400 150 300 100 200 50 100 0 12/15 12/29 1/12 1/26 2/9 2/23 3/9 3/23 4/6 4/20 0 図 3 観測毎の積雪深と雪の密度変化(2006 年冬期) 図 4 は積雪深と密度を掛けて求めた積雪水量で、 気温変化を併記した。積雪水量は積雪の質量であ り降水量に相当する。平均気温がプラスに転じる 時期から減少し融雪期に入っている。二十四節気 の雨水の時期と一致しているのがおもしろい。 なお、十日町の平年は 2 月 15 日前後に平均気 温がプラスに、札幌では最高気温が同じ時期にプ ラスになる。 12/15 12/26 1/5 1/16 300 1/25 2/6 250 200 150 1500 積雪水量 (mm) 1250 50 0 0 100 200 300 400 500 600 積雪水量 日平均気温 15 1000 10 750 5 500 0 250 -5 0 12/15 12/29 1/12 1/26 2/9 2/23 3/9 3/23 4/6 4/20 雪の密度 (kg/m3) -10 図 4 積雪水量と日平均気温 積雪減少期(2006年冬期) 350 20 2/19 雨水 気 温 (℃) 100 (2006 年冬期、気温はアメダス) 2/6 2/15 2/24 3/6 300 豪雪の町にある老舗の観測所「十日町試験地」 信濃川中流の谷に広がる十日町盆地に人口約 5.9 万人の十日町市がある。ブランド米「魚沼産 コシヒカリ」の産地であるが、元々豪雪地帯とし て知られ、町の規模からして最も雪深い都市(町) の一つと言える。 ここに 95 年の歴史ある“測候所”がある。1917 年に農商務省山林局(現 農林水産省林野庁)林 業試験場十日町測候所として設立された独立行 政法人森林総合研究所十日町試験地が、魚野川と 信濃川にはさまれた魚沼丘陵の西端、市街地より 50m ほど高い標高 200m にある。 1978 年観測開始の新参の十日町アメダスは信 濃川をはさんで西北西に 3.8km 離れている。十日 町市では、この他に消防署や市役所支所等 10 ヶ 所で雪観測を行い、データを市ホームページで発 表している。 3/15 3/24 4/5 4/14 250 積雪深 (cm) 700 全層平均密度(kg/m3) 350 1.5m で 100kg/m3 増 1m で 100kg/m3 増 積雪深 (cm) 図 3 によれば、2 月中旬の一時的な減少はあっ ても、季節が進み積雪深が減少するにつれて、全 層平均密度(密度:緑線)は緩やかに増加する傾 向が続いた。3 月中旬、一時的に密度が下がって いるのは新雪が積もったためである。 積雪深 (cm) 雪はどんどん重くなる 定期観測を行なっている十日町試験地では、近 年最大の豪雪だった 2006 年冬期に最深積雪深 313cm(アメダスは 323cm)を観測した。2006 年冬期 14 回の観測による雪の密度の鉛直分布を 積雪ピークの 2 月 6 日の前後で分けて図 2 に示す。 12 月から 1 月 5 日までは、表面近くは密度が 100kg/m3 くらいで 1m 下がる毎に約 100 kg/m3 増大する。1 月 16 日は数日前から積雪深が急激に 下がったのに対応し、上層も密度が大きくなり表 層 20cm 下で 400 kg/ m3 くらいである。 2 月に入り積雪深のピークを過ぎてからは、上 層から下層まで 400~550kg/m3 に収束していく ようである。 4/25 200 150 100 400~550 に収束 50 0 0 100 200 300 400 500 600 雪の密度 (kg/m3) 図 2 2006 年冬期の積雪深と雪の密度 (上:2 月 6 日以前、下:2 月 6 日以降) 2/4 2012 年 2 月 9 日 一般財団法人 日本気象協会 雪の重さを量る(積雪断面観測) 十日町試験地では、1940 年冬期以来 70 年以上 にわたって積雪断面観測が行われている。今冬も 10 日おきに深い穴を新たな場所に掘り、写真 1 のように地表面まで積雪断面を露出させて、鉛直 方向に雪質・密度・硬度等を測定する。断面は変 質するので同じ穴を次の観測には使えないから 毎度掘る。たいへんなことである。 雪の質を知る(密度・粒径・温度) 図 5 に 2006 年冬期の 2 月 6 日の観測結果を示 す。上から新雪・こしまり雪・しまり雪またはざ らめ雪となり、圧縮されるにつれ雪中の空気が減 少し閉じ込められる。 写真 3 でわかるように、この順で粒径が大きく なる。新雪とこしまり雪は柔らかく、へたをする と腰まで潜るのでとても歩けない。しまり雪にな るとあまり沈まず、何とか歩けるようになる。 雪温は、上層では気温に応じて低くなるが 50 ㎝下からは 0℃で一定となる。10 数回の観測時の 気温は-1.4~5.7℃と大きく違うが、下層の密度 300 kg/ cm3 以上の雪の温度は 0.0℃で恒温性が高 い。 表 2 雪の分類と記号 写真 1 積雪断面観測のようす(1)より 密度測定のための雪のサンプリング中 新 雪 こしまり雪 写真 2 密度の測定(1)より (a):密度サンプラー (b):採取した 100 cm3 の雪の質量を測定 しまり雪 断面が地層のように横縞模様なのは、降雪時の 気温や湿度に応じた性質の雪により一定の層が でき、自重やさらに上の積雪荷重による沈み込み、 融解・凍結が繰り返されて変質するからで、上下 の層と見た目が違う雪の層が形成される。 写真 2 は、断面(雪壁)に密度サンプラーを差 し込んで 100cm3 の雪を採って質量を測るところ である。 3/4 ↑図 5 2006 年 2 月 6 日の 積雪断面観測結果(1)より ざらめ雪 写真 3 積雪の粒子 (日本雪氷学会「積雪・雪崩分類」 (1998)より) 2012 年 2 月 9 日 一般財団法人 日本気象協会 雪を重んじる 雪が締まると滞留した空気がもたらす断熱効果により雪温 0.0℃で安定する。雪の恒温効果を利用し て秋野菜を雪中に埋めてチルド保存したり、一角に雪を貯め込んだ雪室と呼ばれる倉庫に穀物や酒を保 存すると同時に夏期の冷房にも使うところがある。 また、積雪は堰堤がなくところ構わないダムである。積雪深と全層の平均密度を掛けた積雪水量は雪 の形で蓄えられた降水量である。山間部では積雪深 300 ㎝以上もめずらしくなく、密度が 400kg/m3 な らば 1200mm の降水量に相当する。一度に溶けたら大洪水だが、ふつうは 1 日 7 ㎝ずつ溶けて 40~50 日かけて流出する。こうした融雪水は電力を起こし、山間地から平野まで水稲栽培を助けてきた。膨大 な量の雪はまことに厄介なものだが、農業・工業・上水・電力の源であり、冷熱資源になる。スキー・ 雪まつり・雪合戦・かまくら等、雪を使って楽しむ方法もある。 5 月まで雪の残る町や村がある。それでも人は雪とともに暮らし、家と里を守って生きてきた。 雪国では、災害をなんとか制御しながら利雪に向けた弛まない努力が続いている。 -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------<参考文献・資料> (1) 竹内・遠藤・庭野・村上;十日町における冬期の気象および雪質の調査資料 (7) (2004/05 年~2008/09 年 5 冬期): 森林総合研究所十日町試験地 (2) 阿部修;「雪、この不思議な物質」 ,2002 年,防災科学技術研究所雪氷防災部門 (3) 基礎雪氷額講座Ⅰ「雪氷の構造と物性」古今書院 (4) 十日町試験地ホームページ http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/tkmcs/index.html (5) 雪室 http://www.461888.jp/yukimuro.html 4/4