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カナダにおける図書館・情報学研究の動向

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カナダにおける図書館・情報学研究の動向
カナダにおける図書館・ 情報学研究の動向
杉本清香 (駒 澤大学)sayakaokOmazawa・ u.acjp
1.研 究 の背景 と目的
て解説 した亀
ア メ リカ にお ける図書館・情報学分野 の歴史
しか しこれ らの調 査 では図書館・情報 学 の分
と研 究 の トレン ドに関 して は様 々 な研 究 が 行
野 にお け る研 究 の 主題 の動 向 が主 な焦 点 とな
われ て い るのに対 し、カナ ダ の 同分野 での研 究
つて お り、研 究戦略やデ ー タの集積方法 な どの
動 向につい ては 、日本 にお いて も海外 にお い て
変遷 につい ては調査 が行 われ てい ない。 また 、
も調査 の数 が 限 られ てい る
これ らの研 究 で は調 査対象 や研 究 内容 の 分類
1。
Nielsenは 、 1971年 に発足 したカナダで最
初 の 図 書館 ・ 情 報 学 分 野 の 学 会 で あ る
Cnnadian
Scienceノ
The
Association for lnfomation
VAssociation Canadienne des
Sciences de rlnformation(CAIS・ ACSD
方法 が様 々 で あるため 、日本 の 図書館情報学 の
動 向 に 関す る研 究 との比 較対照 は難 しい。
本研 究は、 1970年 代 か ら現在 まで にカナダ
国内 で発表 され た図書館 0情 報学分野 の研 究論
の
文 を よ り多角的 に分析 し、カナ ダにお ける図書
35年 の歴史 を振 り返 り、学会 のニ ュース レタ
館・情報学研 究 の傾 向 を明 らかにす るこ とを 目
ー や学会議事録 、抄録 、会員名簿、役員 とのイ
的 として い る。研 究手法 としては 2011年 に杉
ンタ ビュー を元 に 、学会発足 の背景や学会 の構
内 らに よつ て行 われ た先行研 究5の 分析 の枠組
成 、出版物、学会誌等 の観 点か ら CAIS‐ACSI
み を踏襲 し、日本 の 図書館・ 情報学 の研 究動 向
の変遷 につい て解説 してい る 1.
との比 較 を可能 にす ることを 目標 とす る。
wunnmと chuは 、図書館・ 情報学分野 に
お け るカナ ダ の研 究者 の研 究 内容 の動 向 を明
2.調 査方法
の 間 にア メ リカ とカナ ダ の 図書館情 報 学分 野
1971年 か ら 2014年 6月 ま で の 間 に
Infomation
CAIS・ ACSIに よつて刊行 され た 、
の雑 誌や研 究大会 で発 表 され た研 究論 文や 学
Science in Canada,CAIS‐ ACSI NewsletteL
らか にす るた めに 、 1960年 か ら
会抄録
1988年 まで
454件 の 内容分析 を行 つた。 それぞれ
CAIS・ACSI
Bunetin, canadian Joumal of
の論文 の 主題 、著者 の所属、発表 が行 われ た媒
lnfoHnation Science/La Revue canadienne
体 につい て分析 を行 つ た ところ、カナ ダ の研 究
des sciences de rinformationの うち、査読制
者 は主 に分類 、索引、情報蓄積 、情報検索 の分
度 が確 立 され てい る 1985年 以降 の Canadian
野 で研 究・発表 を行 つて い るこ とが明 らかにな
Jounal of lnformation Scienceノ
っ た2。 また Wunamは この研 究 の続編 として 、
canadienne des sciences de rinformationに
同 じ手法で 1989年 か ら 2008年 まで の 間 に刊
出版 され た投稿研 究論文 を調査対象 とした。特
726件 の内容分
集論 文、書評 、会員名 簿、議事録 な どは調査 の
析 を行 つた。カナ ダの研 究者 に よる研 究発表 の
対象外 とした。 1985年 か ら 2014年 6月 まで
件数 は増加 し、特 に情報利用行動 の分野で研 究
の 間 に この 雑誌 に刊行 され た投稿研 究論 文 は
が 活発 に行 われ てい ることが明 らかにな つた3.
対象外 の投稿 を除 き合計
行 され た研 究論文や学会抄録
さらに、Nilsenは 1973年 か ら 2009年 まで
の 間 に行 われ た CAIS・ ACSIの 研 究大会 にお け
La Revue
353件 あ り、 これ ら
に対 して①著者 、②主題 、③研 究方法、に関す
る分析 を行 つ た。
る発表内容 、発表者 、開催場所 、発表言語 な ど
著者 に 関 しては、著者 の人数 (単 著 か共 著 か)
につ いてま とめ、研 究大会 の発展 の様子 につい
と第 一 著者 の所属機 関 につい て調 査 した。主題
については、杉内 らの先行研究 5で 使用 された
第 1表 論文件数 の推移
15の 主題 (情 報組織化、情報検索、情報技術、
ヒューマンコンピューターイ ンターフェイ ス、
岡
軽量書誌学、
情報政策、図書館サー ビス、管理、
学術 コ ミュニケー シ ョンと学術出版、歴史、情
¨
報利用行動、教育 と教授法、メディア、情報学
全般、その他)に 、「図書館学全般」「図書館・
,Ot10″ 00■ 年 2∞ 5 2otD9年
情報学全般」を加 え、合計 17の 主題 カテ ゴ リ
ー を設定 した。研究方法に関 しては、前述 の先
第 2表 著者 の人数
行研究の枠組みをそのまま踏襲 し、
研究戦略 と
5
■
5
o
8
6
4
3
5
5
8
7
4
6
4
7
3
3
100
100
100
100
100
100
4
7
4
2
37_4
%
2
7
0
132
7
2
■0 ■■1
221 62.6
「計
%
3
全体
■
■
6カ テ ゴ リー、デー タ集積方法は、質問紙法、
9
1
ウェア分析・設計、文献 レビュー、その他、の
48 66.7
54 73.0
28 75.7
25 53.2
36 65.5
共著
数
3
3
研究、数理的・ 論理的研究、システム・ ソフ ト
1985-1989
1990-1994
1995-1999
2000-2004
2005-2009
,010-,014
%件
0
9
2
2 2
ぞれ分析 した。研究戦略は、実証的研究、概念
単著
件数
年
4
2
デー タ収集方法、デー タ分析方法についてそれ
20102014年
353 100
内容分析 、引用分析、記録物 の計数、ログ分析、
一
3.調 査結果
8
3
4カ テ ゴ リー か ら成 る。
¨
“
量的分析、質的分析 、複合的分析、その他、の
一
会話分析、日記法、文献調査 、フィール ド実験、
その他、の 17カ テ ゴ リー、
デー タ分析方法は、
第 3表 単著者 と共著者 の推移
8
4
ュー、フォーカスグループ、
観察、思考発話法、
疇
嘔
円
¨
起
円
¨
︲
5
2
︲
.
中
﹂
に
ぱ
8︲
日
日
2
義
︱
ロ
¨
4
5
二次分析、事例分析、実験室型実験 、イ ンタ ビ
論文数 の推移 を見ると、 1995年 か ら 2000
年 の間 に件数 が減少 した ものの、以降は増加 を
第 4表
第一著者 の所属機関の種類
続 けてい る (第 1表 )。
著者 の人数は 1985年 か ら 1999年 までは単
著 の割合 が共 著 の割合を大き く上回 つていた
が、2000年 代 に入 ると共著 の割合 が増加 し、
2010年 以降は単著を上回 つている (第 2表 、
第 3表 )。 著者 の所属す る機関は、全ての年代
において 「大学」が最 も多 く、 1995年 以降常
に 7、 8割 を占めてい る。「企業」「研究所」は
1990年 代以降激減 した。「図書館」は 1990年
主題に関 しては、1980年 代は 「情報検索」、
1990年 代は 「情報政策」「情報学全般 」「図書
代に減少 したものの 20∞ 年以降は常に 1割 程
館・ 情報学全般」に関す る論文が最 も多いが、
2000年 以降は一貫 して 「情報利用行動」の割
度 の割合 を保 つてい る (第 4表 )。
合 が最 も多 くなってい る。「情報技術」は 1980
年代 に最 も多かつたが、以降、激減 している。
第 5表 研究 の主題
第 6表 研 究戦略
分 和・ 菫 Er l又 厭 レビユ
興 EIE
年
%
件 数
1985-1989
1990-1994
1995-1999
2000-2004
2005-2009
2010-2014
%
0_0
1531
1
その 他
%
不明
%
件数
1
5_41
合計
%
卜数
件数
%
35コ
10C
100
10C
10C
10G
10C
10C
1
12
0.0
1
72_1
0_Ol
00
54J
全体
%
雛
361
10
1.51
8
571
1
10.C
Oa
53
第 7表 デ ー タ集積方法
:985-1989
1990-1994
i995-1999
2000-2004
2005-2009
2010-2014
件当
γ
C
0_C
C
0.C
C
0.C
C
0_C
%
件勤
件数
0_│
C
0_0
1
0.C
!985-1989
!900-1994
:995-1999
2000-2004
2005-2009
2010-2014
全体
生
0.C
o.c
0_C
o.c
0_C
o.c
0_C
会話分析
44勘
畷
0_C
21
10.C
26.2
01
15.〔
2
59
__JJ
3
9.4
6.`
3
5〔
141
7.〔
51 25.0
:│
11
日EE法
件 枷
0
0
0
0.0
0.C
%
%
C
0.0
0.C
10.[
5C
00
3.0
2
C
0.C
89
3
5.2
6.2
FGl
%
数
96
5_0
5_C
2_9
0
0_0
C
0_C
件数
件菫
l■
9f
2
10.0
0.C
0.OC
C
0.0
00
0_C
0_OC
0
0
0.0
0
0_0
C
0_C
0
00
2.g
1
2.9
C
0.C
0
0_0
9_4
0_0
2
6_3
C
0_C
Q
0.0
5.〔
3.9
0
0.0
C
0.0
4
2_1
5_2
2.1
3
C
0_0
2
5.C
1
2
その他
文
%
0_0
2
件糧
_101型
0
3.6
ニュ ー
イン
%
%
5.9
88
21
228
33
l %
O1
ol
O1
ol
O1
ol
O1
d
% 14数
件勤
件 艶
%
件 数
[数
畷
4
件
不明
%
│
3
15.8
7
20_6
37_5
34
20.9
3
3_9
50
10C
151
30
15.6
192
10C
0_C
0_0
0
0_0
C
0.0
0.C
1
C
0.0
0_C
0
0_0
8_8
C
0.0
0.C
0
00
3C
188
ン
nlo_,o14
C
0_C
0_C
全体
C
0.C
0.0
3
10C
15.8
C
2.0
%
20_6
2.9
3
34
2
1
0.0
8.8
5.0
0.0
0
嘔 撥l
3
0.C
0.0
合計
%
2.9
C
1
卜1を
10_O1 201
321
10C
100
ハυ
1925-1989
!990-1994
1995-1999
2000-2004
2005-2009
件数
%
│
35.0
二次分析
年
件数
5
3g
3
全体
%
4
0.0
5_3i
ロイ
内容
メタ
年
100
「情報組織化」「情報サー ビス」は 1990年 代
を明確に していきたい。また、内容分析 に関 し
に減少 した ものの、2000年 以降は増加傾向に
ては Lわ pendOfや Neuendorfが 指摘 してい
ある (第 5表 )。
るように、一定の Reliabilityの 確保 が研究結
研究戦略は、いずれの年代 において も「実証
果 の信憑性 の鍵 となつてい る67。 今回は著者 が
的研究」が最 も多かつた。 1980年 代 にお いて
多かつた 「分析・ 設計」は 2000年 以降減少 し
全ての投稿研究論文 の内容 を分析・分類 してい
た。他 の研究戦略については大きな増減は見 ら
2人 の コー ダー を募 り、Intercoder
れなかつた (第 6表 )。
るが、研究結果 の信頼性 の向上に向けて、 1,
Reliab五
"
の算出を行 いたい。最後 に、本研究の結果をも
デー タ集積方法 については、 1980年 代最 も
多 く用い られていた 「事例分析」は 1995年 以
研究動向を比較 し、議論 を発展 させてい きたい。
降減少 した。 1990年 代最 も頻繁に用い られた
「質問紙」調査は 2000年 に入 り減少 したが近
引用文献
年また増力日してい る。さらに、イ ンタ ビュー と
とに、日本 とカナダとの図書館情報学 における
l Nilsen,nsti.The canadttn Association
質問紙調査な どといつたよ うに複数 の手法 を
for lnfomation Science:A look at its
用いた研究が 1995年 以降増加 している (第 7
thirty‐ Ive‐ year
his圏_Canadian Journal of
lnformation and Library Science。 2007,
表)。
分析方法 に関 しては、「量的分析」 が多 くの
割合 を占め、2005年 か ら 2009年 に減少 した
ものの、近年また増加 してい る。量的・ 質的分
析 の両方を用 いた研究も増加 の傾向にある。
vol。 31,■ o。 2,p.163・
177.
2 chu,Chra M.;Wol■ am,Dietmtt A
survey ofthe growth ofCanadhn research
in infomation scienceo Canadhn Jourllal of
lnformation and Libraw Science,1991.
vol.16,■ o。 1,p.12・ 28.
3 wO■ an,Dietma■ An nnalysis of
第 8表 分析方法
Canadian contribution to the infomation
sc■ ence
research literatureo Canadian
Joumal oflnformation and Library Science,
2012,vol.36,■ o.1/2,p.52‐ 66.
4 Nisen,K]bti.Thirty‐ seven CAIS・ ASCI
4。
conferences,1973・ 2009。 Canadian Joumal
oflnfol肛 nation and Libra巧「 Sclence,2010,
vol.34,■ o.2,p.131‐ 160.
今後 の課題
今 後 の 課 題 と して 、 デ ー タ の 明 確 化 、
ReLabilityの 向上 、 日本 の 図書館情報学 の研
究動 向 との比 較分析 とい う
3つ の点 にお い て
この研 究 を発展 させ てい く予定 である。今回研
究対象 に した 学会誌 では 、英語 と仏語 に よる研
究論 文が混在 してい るが、著者 の仏語理解能力
が 限 られ た もの で あるために、仏語 の論文 に関
して は主題 、研 究方法等 のデ ー タが不明であ る
ものが残 つ た。翻訳会社 の サ ー ビス を活用す る
な ど、何 らか の方法で仏語論文 に関す るデ ー タ
5杉 内真理恵 ,羽 生笑子 ,上 田修 一 ,倉 田敬子
,
官 田洋輔 ,小 泉公乃 .論 文 か ら見た 日本 の 図書
館情報学研 究 の動 向 .Library and
lnformation Science.2011.No.66,p.127‐ 151.
6 nippend。 」t Klaus Ho COntentAnalysis:
An lntroduction to lts Methodology.Se∞ nd
Edition。 2003,Sage Publications.
7 Neuendott KimberlyA.The Content
Analysis Guldeb∞ k。 2002,Sage
Publications.
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