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複合金融商品の会計基準の 日米比較 - Nomura Research Institute
Financial Information Technology Focus April 2006 3 ホールセールビジネス 複合金融商品の会計基準の 日米比較 日米においてほぼ同時期に、複合金融商品の会計基準の明確化が進んだ。結果的には両者とも 複合金融商品の会計処理に大差はないものの、背景にある考え方の相違により、その意味合い は異なったものとなっている。国内基準においてはさらなる検討が求められる。 日米においてほぼ同時期に複合金融商品の 米国基準(FASB) 会計基準の改訂が進んだ。クレジットデリバ 米国基準の特徴は、国際基準と同じく複合 ティブを活用した合成CDOの普及など、進化 金融商品の区分処理の要件として、主契約 する金融商品の会計上の取り扱いを明確化及 (債券部分)とデリバティブ部分とのリスク び簡素化するためである。 複合金融商品とは債券の特性とデリバティ 及び経済特性の関係性に着目している点にあ る。両者のリスク特性が密接な関係にある場 ブの特性とを併せ持つ仕組債などの金融商品 合、敢えて区分処理を適用する必要はなく、 のことで、デリバティブ部分の持つリスク特 普通債券のように一体処理することが認めら 性を適正に開示するため、保有企業には原則 れる。例えば、コーラブル債は「普通債券の として、債券部分と組み込まれたデリバティ 購入」と「普通債券のコールオプションの売 ブ部分とに分解して別個に会計処理すること 建」に分解されるが、「普通債券の利息」と が求められる(これを「区分処理」と言う)。 「期限前償還リスク」とは両者とも金利要因 しかし、様々なリスク特性を持つ複合金融商 で変動するものであり密接な関係にあること 品すべてに対し区分処理を要求することは、 から、一体処理が認められる。ただし密接な 企業の保有資産のリスク特性を開示するとい 関係にあっても、クーポンフロアなしのリバ う点において保守的と考えられる反面、保有 ースフローター債などのように元本毀損の可 企業における会計処理の事務負担の大きさか 能性が高い場合、リスク特性の開示が優先さ らすると非効率であるうえ、市場拡大の阻害 れるため区分処理の対象とされる。 Writer's Profile 奥井 謙一 Kenichi Okui 金融ITイノベーション研究部 上級研究員 専門は債券分析、リスク管理 [email protected] 6 1) 要因になるとも言える。そこで、会計処理を 今回の米国の改訂 は、証券化商品における 簡素化するため、一定の要件を満たす場合に 組込デリバティブの取り扱いを中心とするも は、日米とも区分処理を不要とする会計処理 のであり、合成CDOの取り扱いがその焦点の を認めている。 一つであった。合成CDOとは、証券化商品発 今回の基準改定においても、日米とも高格 行のため設立された特定目的会社(SPC)が 付の合成CDOに対し区分処理不要とするなど 国債などの裏付け資産を担保に、第三者の信 会計処理の簡素化が進められ、結果として多 用リスクを参照するクレジットデフォルトス くの複合金融商品に関する日米の会計処理方 ワップ(CDS)のプロテクションの売建で、 法は同じとなった。しかし、結論は同じであ 普通社債と同様の商品を生成したものであ っても、日本の会計基準は例外規定を多用す る。この場合、SPCの発行する債券と、第三 るなど区分要件の整理の仕方に無理があり、 者の信用リスクとの関係性はないため、従来 結果的にわかりづらいものとなっている。 の基準であれば、区分処理の対象となってし 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. NOTE まう。しかし、クレジットデリバティブを内 分処理の判断基準が複雑になるなど課題も残 包しているとは言え、合成CDOの経済・リス っている。 4) ク特性は普通社債と同様であるため、実務界 今回の改定案 では、区分要件として米国と から区分処理適用に対する反発も大きかっ 同様の「主契約と組込デリバティブとの経 た。 済・リスクの関係性」を部分的に採り入れ、 そこで今回の改訂では、「合成CDOにおけ 物価連動国債に対し満期保有目的の償却処理 るCDSは組込デリバティブとみなさない」と も可能とした 。しかし、元本毀損性を謳って 2) 定義 することで、関係性の議論の対象から除 3) 5) いながら、元本保証のない物価連動債を例外 外した 。その結果、従来の会計基準との整合 的に区分処理不要とするのは、フロアなし仕 性を維持しつつ、合成CDOの取り扱いを簡素 組債など他の複合金融商品との整合性の観点 化することに成功した。 で問題があるように思える。 また、合成CDOについては第三者の信用リ スクに係る組込デリバティブについて「関係 図表1 米国基準 が密接でない」ことから区分処理の対象とし 複合金融商品 対象外 普通社債 合成 CDO 対象 密接 関係性 元本毀損性 乖離 あり なし 満 期 コーラブル債 保 有 可 能 区分処理対象 株価リンク債 フロア無リバース フローター 日本の物価連動国債 つつも、高格付(AA格以上)のものは例外 的に普通社債のように取扱うことを可能とし た。関係性の考え方を採り入れても、元本毀 損性が低ければ区分処理が不要であると結論 付けるのであれば、敢えて関係性に言及する 必要はない。さらに、元本毀損性の観点にお いても、経済特性の類似する普通社債と同様、 投資適格水準(一般にBBB)以上のものは、 満期保有目的による償却処理も可能とすべき ではなかろうか。 N 日本基準(ASBJ) 1) 「複合金融商品の会計基 準(FAS155)」のこと。2005 年8月に公開草案が出され、 同10月までのコメント受付期 間を経て、2006年2月に基準 として公表された。 2) より厳密には「現物であ れデリバティブであれ、発行 体保有資産の信用力の変化か らもたらされる証券化商品の キャッシュフローの変化は組 込デリバティブではない」と 定義した。 3) 米国では、証券化商品の 劣後部分についても「発行体 保有資産の信用リスクを再配 分したにすぎず、信用リスク の集中は公正価値に反映され ており、投資家もそのリスク を理解している」ことから、 やはり組込デリバティブでは ないと明確化している。 4) 企業会計基準適用指針公 開草案第15号「その他の複合 金融商品(払込資本を増加さ せる可能性のある部分を含ま ない複合金融商品)に関する 会 計 処 理 ( 案 )」 の こ と 。 2006年1月に公開され、2006 年3月現在、受け付けた意見 書の内容を検討中である。 5) 消費者物価指数の動向か らすると元本毀損性は少ない としている。なお、米国基準 において日本の物価連動国債 は、密接な関係にあるが元本 毀損性があるため「区分処理 の対象」となる。 図表2 日本基準(草案ベース) 一方、日本基準の特徴は、区分処理要件と して「元本毀損性」を重視している点である。 これは、仕組債の持つレバレッジ性の高さに 複合金融商品 着目しており、ある意味わかりやすいものと 対象 なっていた。例えばコーラブル債は元本毀損 対象外 普通社債 なし 元本毀損性 コーラブル債 性がないことから区分処理不要であるし、フ あり ロアなしリバースフローター債は元本割れの 可能性があるため区分処理の対象となる。 今回、市場拡大に向け物価連動国債や合成 CDOの会計処理の明確化・簡素化が進められ た。その結果、物価連動債も高格付の合成 CDOも普通債券同様の取り扱いが可能となる 予定である。簡素化が進んだという結論自体 は実務界の歓迎を受けるように思えるが、区 密接 関係性 例外規程 乖離 満 期 保 対象 有 可 日本の物価 能 連動国債 対象外 対象 例外規程 合成 CDO 対象外 区分処理対象 株価リンク債 フロア無リバース フローター 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 7