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第5回「不思議なホテル-部屋割り論法-」
2011年6月15日 千葉大学教育学部 藤川研究室 発行 「社会とつながる数学」授業通信 えっきょう ・「忘れられた科学」から「越境する数学」へ 「収束の見通しが立たない福島第一原子力発電所の事故の背景の一つに、科学者、工学者の問 題意識の低さ、想定の甘さがある。」 ―2011年5月27日の読売新聞に掲載された記事の一文です。 今日は、初めにこちらを紹介しましょう。 ======== 複雑化した社会では、思わぬところに落とし穴があり、それが致命的になるようです。福島原発事 故は、期せずしてそれを示してしまったが、今こそ、文系、理系などと言っている場合ではないとのこ と。異分野を融合した新たな思考体系が必要なのかも知れない。科学研究が社会と乖離してはなら ないという危機感のあらわれでもあるようです。 数学が、「忘れられた科学」と評されたのは、2005年に文部科学省がまとめた報告書。レベルは 高いのに、科学技術政策からポツンと、取り残された日本の数学研究の現状がまとめられている。 2000年には、論文数で、中国に抜かれ世界6位に転落、その差が年々拡大しているという衝撃的な レポートだったようです。しかし、その一方で、数学は産業界や異分野からのニーズは高く、技術革新、 新知見に数学は不可欠であると熱いまなざしが向けられました。 異分野に数学が越境していくことは、世の中の動きに疎い数学者にとってもプラスだろうが、それ以 上に他分野の研究に新しい視点を吹き込んでくれるだろう。福島原発事故の調査にも数学者を起用 してはどうだろうか。 ======== (文・小池) -第5回 不思議なホテル~部屋割り論法~- 個室が12部屋しかない小さなホテルに、13人の 客がやってきた。何とかみんな泊めてしまおうと頭 をひねったマネージャーは、まず最初について客 に、かりに(一時的に)1号室に入ってもらい、それ からほかの客を、その1号室からはじめて、各部 屋にひとりずつ、順番に割り当てていった。 こうして1号室だけはふたりが入った。そして三番 目の人は2号室に、四番目の人は3号室に、五番 目の人は4号室に入った。以下、六番目の人は5 号室に、・・・・・と続いて、十二番目の人が11号室 に入った。 それからマネージャーは、あいている12号室に、 さっき1号室に入ってもらった「最後の客」をつれて きた。これでめでたく、十三人の客が十二の個室 に、ひとりずつ泊まれた事になる。 どこか間違っているだろうか? この話、変ですよね。話を読んでいくと、12部屋 しかないホテルに、13人が一人ずつ泊まれたこと になっています。こんなこと普通に考えたらありえ ません。実はこの話のどこかにトリックが仕掛けら れているわけです。私たちは、どこにトリックが仕 掛けられているのか見破らないといけません。こ の問題は比較的簡単なので、じっくり図でもかいて 確認すれば、わかってくると思います。あとで考え てみてください。 2011年6月15日 千葉大学教育学部 藤川研究室 発行 今回問題にしたいのは、そこではないのです。12 部屋しかない部屋に13人が一人ずつ泊まれること は「普通に考えたらありえない」といいましたが、こ の事実から、原理を導きだした人物がいるのです。 それは、ドイツの数学者ヨハン・ペーター・グスタ フ・ルジューヌ・ディリクレという人です。 ディリクレの部屋割り論法(引き出し論法とも巣 箱論法とも言う)は有名ですので、一応のせておき ます。 12個ある部屋に13人はいると、2人以上入る部屋 が尐なくとも一つある、というのは、いかにも「当た り前」の話ですが、そのようなことを原理と考えて、 一つの論法を組み立てたディリクレは、やはりす ばらしい数学者と言わざるをえません。みなさんの 中にも、このような当たり前のことから出発して数 学に結びつける人がこれから出てくるかもしれま せん。 ディリクレは、 (文:伊藤) 「n個の部屋にn+1人以上の客を入れようとすれば、 ※参考文献 □野崎昭弘『詭弁論理学』中公新書、2000, 相部屋のところが必ずできる。」 という事実を用いて、証明する方法を作り出しまし た。それを「部屋割り論法」というのです。 この授業通信で取り上げてほしいこと、ぜひ もう尐し数学的に言うと、 教えてください。ネタは何でも構いません。メー 「n個の部屋にkn+1(k≧1)以上の客を入れようと ルアドレス (略) まで、お待ちしてます! すれば、k+1以上の客が入る部屋が必ずできる」 というものです。 今週の難問!! 1)不思議なホテルの文章は、どこが間違っているの か、分かりやすく指摘しなさい。 2)ある中学校に今年371人の学生が入学しました。 この中には誕生日が同じ人が尐なくとも2人はいるこ とを証明しなさい。 (オリジナル問題)