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第2 教育研究団体の意見・評価 - 独立行政法人 大学入試センター
第2 教育研究団体の意見・評価 ① 日本会計研究学会 (代表者 桜 井 久 勝 会員数 1, 837 人) TEL 03 - 3293 - 7061 1 前 文 本年度の問題は、例年と同様に第1問、第2問、第3問の三部構成で、第1問は三つの設問(A、 B 及び C)に分かれており、実質的には5問で構成されている。前年度と同様に第1問の設問数が 三つであるが、全体的に昨年度よりも解答記号の数も多く、ボリュームは多いといえる。昨年と比 べると、平均点が下がっている(66. 50 点から 57. 71 点)ことからも分かるように、問題の難易度 は上がっているが、本年度の平均点そのものを考えると標準的な難易度であったと思われる。 出題内容については、簿記一巡の手続、株式会社の取引、帳簿組織、本支店会計などが出題され ており、簿記の教科書の内容に沿った問題構成となっているとともに、簿記の出題範囲全般から偏 りがないように出題するという配慮がなされている。 以下、2において問題の概要を解説し、3では試験問題全般に関する若干のコメントを述べた い。 2 試験問題の程度・設問数・配点・形式等 第1問の設問 A は勘定科目、会計手続及び勘定の性質を問う問題であり、設問 B は取引と勘定記 入ルールに関する基本的知識を、設問 C は株式会社の取引に関連する問題である。第2問は、帳簿 組織(普通仕訳帳、現金出納帳、当座預金出納帳、仕入帳)を組み合わせた出題である。第3問 は、決算関連の残高試算表、本店支店間の取引、決算整理事項等、本店の損益勘定及び繰越試算表 を用いた複合問題である。 試験問題の難易度は、日本商工会議所主催の簿記検定試験の商業簿記でいえば4級から2級に相 当するもので、初級ないし中級程度の簿記全般に関する理解を試すには適切な問題である。また、 60 分という試験時間で解答することが求められるが、各問題の難易を考慮すれば、問題の分量も 適切であろう。 設問数の内訳と大問ごとの配点は、第1問は、設問 A と C は独立した問いにわかれておらず、単 独の設問で、設問 B の問いは五つの合計 40 点の配点、第2問は問いが三つで 30 点の配点、第3問 は問いが四つで 30 点の配点である。全体の配点として、3点配点問題が4問あり、2点配点問題 が 44 問ある。3点配点問題は、勘定科目と金額が両方正解での問題が1問、それ以外は金額だけ の問題である。2点配点問題は、記号ひとつにつきと記号全てが正解してのものがある。 以下、設問ごとに解説する。 第1問は、A、B 及び C の三つの独立した問題に分かれている。 第1問A 五つの問題文があり、⑴~⑶は勘定科目を問う問題、そして⑷会計手続の用語、⑸勘 定の性質を問う問題となっている。⑴~⑶は、仕訳の中で勘定科目を問うのではなく、文章そのも ので勘定科目を問うという、これまでの出題形式と若干異なるが、基本的な知識を問うという意味 で良問である。それぞれの解答群については、資産勘定2種類、負債勘定2種類が挙げられてお り、借方科目(資産)か貸方科目(負債)が分かれば容易に解答できる問題であろう。解答群とし ては⑴の 3 仮払金や⑵の 3 前払金などをそれぞれ仮受金や前受金などにしておくと、正答率が幾分 ―180― 簿記・会計 下がったと思われるが、設問 B 等との関連から除外し、受験者の解きやすさを考えれば妥当ともい える。⑷は、決算整理における問題であるが、仕訳や金額ではなく手続の名称を問うものである。 ⑸は、平成 25・26 年度にも類似の問題が出題されており、難易度は高くないといえる。 第1問B 資料1で4月中の全ての取引を、資料2で4月中の取引を記録した総勘定元帳(一 部)を示し、取引要素の結合関係、現金勘定に該当する項目の選択、総勘定元帳における勘定科目 名や金額、正しい仕訳を選択する問題である。問1は、基本的な商品売買における取引要素の結合 関係を問うもので容易に解答できる問題である。問2は、資料2から キ に該当する項目を判断 し、当てはまるものを選択する問題であるが、当座預金ではなく現金であるために難易度は低い。 問3は、勘定科目を解答群から選択する問題であるが、資料1の取引及び資料2の総勘定元帳の関 係が理解できれば容易に解答することができるだろう。 ク ケコ は3点配点で前受金とその金 額を問うている。 セ は過去においても類似の問題は出題されている。問4は、当座勘定を用いな い場合に当座借越勘定の金額を求める問題である。資料2の当座勘定から 17 日時点での残高が 100 であることと、28 日の買掛金の支払金額が分かれば解答できる。3点配点であるが難易度は高く ない。問5は、分記法で仕訳をした場合に正しいものを選ぶ問題である。この問題は正解が分から なくても、借方では売掛金 130、貸方では商品売買益 40 の数が最も多いことから、両者の組み合わ せで解答できてしまう。ただ、基本的な仕訳なので正答率は高いと思われる。 第1問C 株式会社に関する取引と仕訳を示し、当てはまる勘定科目を解答群から選択し、一部 に金額を求める問題である。⑴は、文章にある会社法に規定する資本金に計上しない最高限度額が 払込金額の2分の1であることが分かれば解ける問題である。⑵は文章中の「立て替えていた」で はなく「設立準備のために」がポイントといえる。⑶と⑸は同じ社債に関する問題であるが、両者 の性質の違いを正しく理解しているかどうかを問う問題として良問である。ただし、間に別の⑷を 挿入しており、問題の順番として⑶と⑸はセットで出題しても良かったのではと思われる。解答群 の選択肢もほぼ同じであることから、出題者が意図的に間をおきたかったのかもしれない。⑷は法 人税等に関する問題で非常にオーソドックな問題であるが、本文中の「前年度の」という箇所の意 味を受験者が誤解した場合、「未払法人税等」を選択してしまったかもしれない。 第2問は、帳簿組織を組み合わせた出題であり、資料1は勘定口座の番号(一部)、資料2は7 月中の取引、資料3は普通仕訳帳、資料4~6は特殊仕訳帳である現金出納帳、当座預金出納帳、 仕入帳を示している。資料2の取引には金額が記載されず、資料3~6の帳簿から判断するという 点で解答に若干の時間がかかったと思われる。ただし、解答記号は ア から順に解いていくこと が可能であり、同じ日に複数の取引が挙げられていないという点から、帳簿間の関係を素直に理解 することができるという意味では、難易度は標準的であるといえる。なお、第2問は全て2点配点 である。 問1は、勘定科目を解答群から選択する問題と空欄の金額を求める問題である。 ア ~ ウ は 普通仕訳帳における勘定科目を選択する問題であるが、この中では イ だけが、元丁欄が( ) であり、若干正答率が低かったのではないかと思われる。「貨物引換証を受け取った」との文章か ら借方は未着商品が容易に想定できるが、簿記の教科書では特殊な商品売買の取引で扱われる相手 勘定は、買掛金の例示が多く、 「取引銀行から・・・これを引き受け」という荷付為替手形をしっ かり理解していないと間違ってしまう。また、 ウ は 26 日の取引の仕訳であるが、実際に解答す るには 24 日の仕訳を理解しなければならない。基本的な取引であり、また、 ア と ウ は元帳欄 に勘定口座の番号が明示されており、資料1とは異なることから解答へのヒントにもなっており、 正答率は高かったのではないだろうか。 ク の手形売却損に対する誤答の選択肢として、解答群 にはⓓ「有価証券売却損」が挙げられているが、支払手数料であれば若干正答率が下がったかもし ―181― れない。なお、 ク の取引については、(借方)当座預金 100(貸方)受取手形 100 と(借方)手形 売却損5(貸方)当座預金5という二つの仕訳からなっており、当座預金勘定が借方にも貸方にも 計上されている。 イ と シ は日付こそ違うが、資料2の6日の取引が理解できていなければど ちらも正答できない可能性がある。一つの取引で、借方と貸方の勘定科目を問うているともいえ る。 ス は当座預金出納帳の 12 日の勘定科目から読み取れるかがポイントであるが、難易度は高 くない。 オカキ 、 セソタ 、 チツテ は数字を記入する箇所である。 オカキ は、当座預金 出納帳の 29 日の貸方の金額が 200 であることから、現金出納帳の借方合計額 500 が計算され、そこ から貸方合計金額の 320 を控除して求めることができる。 セソタ は、現金出納帳の 14 日に貸方 相手勘定に仕入と記載されている 140 の金額であるが、仕入帳 セソタ の1行下に相手勘定の買 掛金が同額の 140 が記載されており、受験者は戸惑ったかもしれない。仕入帳の諸口欄の意味を理 解し、同日の取引が仕入金額 280 の半分の 140 ずつを現金と買掛金で計上していると分かるかどう かがポイントである。 チツテ は、3日の仕入値引高の 10 を加算も減算もせずに、純仕入高を求 める際に総仕入高から控除するという点がポイントであり、難易度は高くない。たとえ、当初は間 違ったとしても、 ト での解答時に間違いに気づいた受験者もいると思われる。解答に ト がな ければ正答率は下がっていた可能性もある。帳簿組織が正しく理解できているかどうかを問う良問 である。 問2は、元丁に勘定口座の番号を問う問題である。過去においても類似の問題は見られるが、他 の検定試験等ではあまり出題されていない。 ケ のチェックマーク、 コ の特別欄、 ト の二か 所への合計転記など、帳簿間の関係をしっかりと理解していないと正答が導き出されないという点 では良問といえる。ただし、正答率は他の設問と比べると少し低かったのではないかと推測する。 問3は、為替手形に関する取引であるが、15 日の元丁の勘定口座の番号から仕訳を推定し、か つ為替手形の名あて人の意味を正しく理解していなければならないという点で難易度は高い。3点 配点は、基本的に勘定科目と金額の両方が正解であった場合や、計算に手間がかかるものに対して 配点されているが、この ナ は他と比べて解答群も4択ではなく5択であり、難易度や正答率を 考えると、問1 B の ク ケコ よりもむしろ3点配点問題でもよかったのではないかと思われる。 3点配点箇所については、今後検討されることを望む。 第3問は、本支店会計に関する複合問題である。資料1は 12 月 25 日における本店の残高試算表、 資料2は 26 日から 31 日までの本店の全ての取引、資料3は本店の決算整理事項等、資料4は 31 日 における本店の損益勘定及び繰越試算表を示している。資料3の文章には、金額欄が一部空欄であ り、他の資料から判断することが求められている。特に、⑹の当期 10 月から改訂された支払家賃 の月額を求めるためには、再振替仕訳を理解していないと正答を導き出すことができないので難易 度は高い。また、本支店会計における問3の支店勘定における本店勘定の次期繰越高を求める問題 は、本試験において最も難易度が高かったのではないかと推測する。それ以外は標準的な難易度と 思われる。 問1は、支店の仕訳の借方勘定科目を問うものであり、本支店会計の基本的知識を問うている。 問2は、資料4の勘定科目及び金額を問うものであり、勘定科目は2問を六つの解答群から選択 するもの、金額を問うものが9問で全て2点配点である。 イウエ は、損益勘定における仕入 (売上原価)を求めるものであり、資料2の 30 日の仕訳で貸方に仕入 40 が理解できているかがポイ ントである。 オカ は、貸倒引当金繰入(貸倒償却)を求めるものであり、資料2の 31 日で受取 手形が 50 減額されていることが理解できていれば容易に解答できる。 ク ケコ は、現金の借方 残高を求めるものであり、資料2の 26 日の取引と、資料3の⑴で手数料の受け取りが2から8へ と6増加しており、同額だけ現金が増加していることが理解できているかによる。 サシ は、有 ―182― 簿記・会計 価証券の金額を求めるものであるが、有価証券評価益が4計上されていることから、難易度は低 い。 ス も難易度は低い。 セソ は前払家賃の金額を求めるものであるが、 ナニヌ と同様に、 この問いの中では難易度は高い。残高試算表の 192 には1月1日の再振替仕訳による9か月分の支 払家賃の金額が含まれており、同額を控除して初めて今年度の年間及び月毎の支払家賃が求められ るからである。 タチツ は、減価償却累計額を求めるものであるが、単純な年度計算で月割り計 算もなく容易に解答することができる。 ト も難易度は低い。 ナニヌ は、資本金の金額を求め るものであるが、引出金 20 を減算し、損益勘定の借方最後に計上されている 45 を加算した数値と なる。 キ は資料3⑽から支店勘定が入るが、支店の利益を本店が計上するときの仕訳を正しく 理解している必要がある。 テ は、解答群では類似した勘定科目が三つあげられているが、それ らの違いを正しく理解していなければならない。 問3は、第3問の中で、そして全体でも最も難易度が高い問題であると思われる。本店における 支店勘定の残高を正しく計算し、その金額から未達である 31 日の取引の金額を支店における本店 勘定から控除する必要がある。残高試算表における支店勘定(借方)507 に対して、資料2の 28 日 で 10 を減算し、30 日と 31 日で、それぞれ 40 と 50 を加算する。この残高 587 に資料3⑽の 25 を加 算すると、本店における支店勘定の借方残高は 612 となる。支店における本店勘定の貸方残高は、 未達取引がない場合は同額となるが、この金額から 31 日の未達取引の本店勘定 50 を控除した 562 が解答となる。問2の キ は勘定科目を問うているので、直接的には問3の次期繰越高という解 答と連動しているわけではない。しかしながら、 キ の金額、すなわち取引(仕訳)の意味を理 解していなければ、必然的に問3は正答できなくなる。問題作成の難しさは理解できるが、金額の 解答に影響を与えるものを別の問題として出題している点については、極力連動を避けるという意 味で再検討を要するものと思われる。 問4は、支店会計を独立させた場合の説明として適当でないものを4択の中から一つ選ぶという 問題である。支店の貸借対照表には資本金勘定はないので 1 が正解となる。難易度はそれほど高く ない。 3 ま と め 本年度の問題も例年どおり、初級簿記から中級簿記にかけての範囲全般から出題されており、資 料に推定を行わなければならない箇所が含まれていることや、複数資料の関連付けが必要となる問 題が適度に含まれていることから、受験者の基本的な思考力及び簿記の基礎知識を試すのに適した 良問であると評価できる。昨年度及び一昨年度と比べると、平均点は 60 点を割り込んでいるため に、若干難易度は上がったといえるが、平均点は 57 点台であり、他の数学系の科目の平均点との バランスに関係なく、丁度いい標準的な難易度であったと評価できる。ただし、最高点が 100 点で はなく 98 点であったという点で、時間が若干足りなかったのか分からないが、その要因について は詳細なデータに基づいて出題者側で検討されたい。 マークシート方式での出題による形式上の制約、高等学校学習指導要領や教科書の内容への準 拠、他の科目又は過年度の「簿記・会計」の難易度との調整、過去の出題内容・形式との重複への 配慮など、問題作成は大変な作業である。問題作成部会の労を多とし、敬意を表したい。 ―183― ② 日本簿記学会 (代表者 中 野 常 男 会員数 約 900 人) TEL 03 - 3836 - 4781 1 前 文 本年度の問題は、前年同様第1問から第3問までの3部で構成されており、第1問が、A・B・ Cと三つの小問に細分化されたことから、実質的には5部構成となっている。試験問題の分量は標 準的だが、第1問の初級・中級レベルから、第2問及び第3問の中級・上級レベルまでバラエティ に富んだ出題であり、受験者の学習到達度を測る試験として適切である。出題内容については、簿 記一巡の手続き、商品売買、特殊商品売買、決算手続き、複合仕訳帳制、本支店会計、株式会社の 記帳など、「簿記」と「財務会計Ⅰ」の出題範囲から適切に出題され、また、仕訳や帳簿記入を中 心に出題されており、いわゆる逆進や推定を含む問題が少なく、基礎的な知識を問う良問であると いえる。 2 試験問題の程度・設問数・配点・形式等 試験問題の程度は、平均点 57. 71 点であり、昨年度の平均点 66. 50 点と比較してやや難化した印 象を受ける。設問数及び配点については第1問 12 問×2点、2問×3点、第2問 15 問×2点、第 3問は、12 問×2点、2問×3点であり、第2問を全て2点配点とするなど、3点配点が昨年度 から大きく減少しているが、全体としては平均点 60 点を目途とする本試験の目標をほぼ達成して おり、適切であったと判断できる。 以下、各設問について述べる。 第1問A 第1問Aは、文章の空欄に当てはまる語句を選ぶ問題であり、主に勘定に関する基礎 的な知識を問うている。⑴から⑶までは債権債務に関する勘定の意味を問うものであり、⑷と ⑸は簿記における基礎的な用語の意味を問うものである。選択肢については、⑴から⑷までは 類似の概念であり判断を要するが、⑸は単純に知識の有無で決まる問題であり、別の設問が あっても良かった。また同じく⑸の評価勘定の説明は、「ある特定の勘定を増減」させる勘定 のうち、増加させる勘定は理論的には存在するものの、少なくともそれを「増加させる評価勘 定」とすることは、高等学校の教科書の範囲からは逸脱しており、配慮が必要であった。 第1問B 総勘定元帳への記入に関する知識を問う問題である。主に個人企業における現金・当 座預金取引及び商品売買取引に関する簿記の基本的事項の理解を問うている問題であり、良問 である。 第1問C 主に株式会社固有の取引に関する仕訳問題である。⑴は資本の振り込み、⑵は設立時 の費用、⑶は社債の償還、⑷は法人税等、⑸は社債の購入に関しての知識を問うている。な お、⑸の選択肢について、現在の教科書では「売買目的有価証券勘定」を使って解説されてお り、有価証券ではなく売買目的有価証券とすべきであった。 第1問 全体として、幅広い分野から基本的な問題が出題されており、受験者の基礎力を問うと ともに、安心感を与える良問である。 第2問 複合仕訳帳制に基づく帳簿記入の問題であり、普通仕訳帳と特殊仕訳帳の記帳内容を、 示された一部の取引と仕訳帳相互間の記入面から推定するものである。 問1は、帳簿に記入する勘定科目を答える問題であり、主に仕訳に関する知識を問うてお り、良問といえる。 ―184― 簿記・会計 問2は、元丁欄へ記入すべきものを選ぶ問題であり、帳簿間の関係を問う問題である。特殊 仕訳帳からの転記について、特別欄を設けることで転記の合理化を一段と進めることができる ことの理解を、特別欄のない現金出納帳の元丁欄 エ を問うことで確認している点は評価でき る。 問3は為替手形に関する知識を問う問題であり、良問である。しかし、実務上、為替手形が ほとんど用いられていない点を考慮すると、教科書の範囲に沿った学習上の理解度を測る上で は有用な論点ではあるが、今後再考の余地があるように思われる。 個々の問いは帳簿に関する基本的な知識を問う良問であると考えられるが、全体として元丁 欄に関する知識を問う問題が多く、出題に若干偏りがあるという印象が残る。 第3問 本支店会計の決算に関する問題である。第3問として、総合的な力を試す良問である。 問1は、本支店間の期中取引の仕訳について基本的な知識を問うている。 問2は、12 月 25 日時点の残高試算表が示され、26 日から 31 日までの期中取引と決算整理の 処理を行い、損益勘定と繰越試算表を作成する総合問題となっている。資料3の⑴は現金の実 際有高を受取手数料勘定の決算整理前残高と決算整理後に損益勘定に振り替えられた金額との 差額で推定させる、少々難易度の高い設定である。同じく⑹の支払家賃については、毎年継続 して前払いが生じ、期首の再振替仕訳による記帳を考えに入れなければならない設定で、かつ 期中に家賃の改定が行われたという内容で思考力を問う設問となっている。費用の繰り延べに 関する一連の会計処理の理解を問うており、難易度は高くなるが、設問として出題して欲しい 設定で、良い方向であると考えている。また、この他、貸倒引当金繰入額の計算に当たって、 掲載されている残高試算表の数値を用いて直接計算するのではなく、資料2の処理を踏まえて 計算しなければならない点などは高く評価できる。 問3は、未達取引についての理解を問う問題である。決算整理と本支店の論点をバランス良 く問うており良問である。ただし、31 日の本支店間取引を支店側に未達であったとして支店 決算後の本店勘定残高を計算する、かなりの思考力を必要とする設問である。残高試算表に示 されている本店側の支店勘定残高に 30 日までの本支店間取引を転記し、30 日付けの一致額 ¥537 をいったん算出し、その額を支店側の本店勘定貸方残高と考え、これに支店側での決算 で算出された当期純利益¥25 の本店への振替仕訳を転記し、次期繰越高¥562 が算出される。 31 日の取引は損益に関わる取引ではないので、支店の当期純利益は変動しない配慮がなされ ているが、受験者にとってはかなり難解であったと思われる。正解者も少なかったのではない だろうか。 問4は、支店会計を独立させた場合の会計処理全体像について文章題で問う問題であり、そ れまでの問1から問3とは関係なく独立で解答でき、少し違和感がある。 3 ま と め 本年度の出題は、高等学校学習指導要領の目標や内容に沿い、高等学校における実際の授業や学 習活動の実態に配慮がなされ、大学を受験する者の基礎的・基本的な学力を総合的に判定すると いった、センター試験の求めるところに沿って、「簿記」・「財務会計Ⅰ」の基礎・基本を理解し、 学習が一定水準まで到達しているかを測るという目的を十分に果たしたものと評価する。更に、受 験者の負担に対する種々の配慮がなされ、その結果、平均点は昨年よりも 8. 79 点低下し 57. 71 点で あったが、平均点 60 点を目途とする本試験の目標をほぼ達成しており、出題者の意図は十分に達 せられたと考えられる。 なお、出題内容の傾向としては、仕訳や帳簿記入を中心に出題されており、逆進や推定を含む問 ―185― 題が少なく、基礎的な簿記の知識を問い、かつ思考力も試す良問が多かったといえる。仕訳を中心 に比較的平易な出題がなされた昨年と比べ、複合仕訳帳制や本支店会計に関する分野が出題された ことにより、若干難易度が上がっているが、センター試験として適切な水準を維持しつつ、幅広い 分野から満遍なく出題されており、全体としてバランスの取れた問題であった。 また、複合仕訳帳制及び本支店会計からの出題は、昨年度の本学会からの評価において、「記帳 の合理化に関しては高等学校での簿記の学習上重要なポイントであり、これをどこかに組み入れて もよかったかもしれない。また、大学への進学後、連結財務諸表に関する論点を学んでいかなけれ ばならない現状からすれば、本支店会計での財務諸表合併についての理解を問う問題は出題される べきではないかと思われる。少なくとも、記帳の合理化は簿記教育上、欠かすことのできない論点 であり、何らかの形で出題すべきであったと考える」とした論点であり、これをくみ取られたもの として高く評価したい。 一方で、高等学校の教科書に準じて出題することを前提として、第1問C⑸と第3問に示されて いる「有価証券」は、「売買目的有価証券」で出題されるべきである点や、同じく第1問C⑸、第 2問の問3及び第3問の問4などは、それまでの問と選択肢の質が異なっており、あるいは関連が 薄く独立的なものであり、違和感を覚えるものであった。 しかしながら、指導要領及び教科書への準拠、マークシート方式や電卓の使用不可、更に解答が 連動する問題の回避など厳しい条件のもと、限られた時間内で極めて良質の問題を作成し、その 上、目標とする平均点をほぼ達成された問題作成部会の各位に対しては、その労を多として敬意を 表したい。 以上 ―186―