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第2章 生活リズムの確立と睡眠

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第2章 生活リズムの確立と睡眠
第2章
生 活 リズ ム の確 立 と睡 眠
1
睡 眠 リズ ム の 発 達
ポイント1
ヒ トは昼 行 性 の 動 物 で す
"ヒ ト"は 約24時
間 を1日 と す る 地 球 の リズ ム の 上 で 生 活 す る 昼 行 性 の 動 物 で す
。その
習 慣 は生 後 、環 境 の 影 響 を受 け な が ら確 立 して い き ま す 。
赤 ち ゃん は 誕 生 後 に 明 暗 の 区別 が で き る 環 境 の も とで,「 昼 間 に起 き て い る 」 こ と を 身
に付 け 、生 後 お よ そ4ヶ 月 頃 昼 夜 の 区 別 が で き る よ う に な り、 午 睡(昼寝)の 回数 や 時 間 の 減
少 とともに、 「
朝 起 き る一 夜 は 眠 る」 リズ ム を確 立 して い き ま す(図1)。
06121824(時)
図1ヒ
生 後1ヵ 月
トの 睡 眠 の 発 達
左 図 は ヒ トの 睡 眠 − 覚 醒 リズ ム の 発 達 を 表 した も の 。
「− 」 の 実 線 部 分 が 睡 眠 、 す な わ ち 寝 て い る 時 間帯 、
空 白 部 分 が 覚 醒 、 す な わ ち起 き て い る 時 間 帯 を 表 す 。
2ヵ 月
【
出典:瀬川昌也、小児医学、1987、No5】
生活 リズム の確立と 睡眠
3ヵ 月
4ヵ 月
5ヵ 月
6ヵ 月
は やねち ゃん
やなせたかし
2
早 寝 ・早 起 き が 必 要 な 根 拠
ポイント2
私 た ち は生 体 時 計 を持 って い ま す
私 た ちの 身 体 にあ る 生体 時計 は1日 約25時
間で 動 いて いま す 。そ の た め早 寝 よ りも遅 寝 、
昨 日 よ り1時 間 遅 くま で 寝 て 、1時 間 遅 く ま で 起 き て い る 方 が 楽 な 身 体 の 仕 組 み にな っ て
い ま す 。 も し暗 室 で 生 活 す る と 起 床 ・就 床 時 刻 が 次 第 に 後 ろ に ず れ て い く こ と が 実 験 で わ
か って い ます 。
こ の た め 生 体 時 計 を 毎 朝 調 節 す る 必 要 が あ り、 脳 の 視 交 叉 上 核(し こ うさ じ ょ う か く)
12
と い う時 計 遺 伝 子 が あ る と ころ で 、 朝 の 光 を認 識 す る こ と に よ っ て 生 体 時 計 の 調 節 が 行 わ
れ て い ま す 。毎 朝 太 陽 の 光 を 浴 び る こ と で い わ ば 脳 の 生 体 時 計 を リセ ッ トして い る の で す
(図2)。
「目 覚 ま し 時 計 」 は 脳 に あ る
視床
人 間の生体 リズムを コン トロールす る
体 内時 計 は、1日25時 間の サイ ク ル
になってい る。そのための脳 の視交叉
上核 が毎朝 、太 陽の光 を視 覚で認識 す
る こ とに よ って生 体 リズ ムを1日24
時間 に調整 している。
松果体
夜 に な る と、 メ ラ トニ ン の
分泌を促進させ る。その結
果 、 メ ラ トニ ンの 血 中 濃 度
が 高 くな り、 眠 くな る
視 床下 部
大脳
視 交叉 上 核
体 内時計 がある 、生体 リ
ズ ムの発信 地。 睡眠 と覚
小脳
醒 、 体 温 、 ホ ル モ ンの 分
泌 リズ ム な ど に 関与 す る
図2:脳
ポイント3
生活 リズム の確立と 睡眠
脳幹
と生 体 時 計
私 た ち の体 内 に は様 々 な リズ ム が あ りま す
私 た ち は様 々 な リ ズ ム を 持 っ て い ま す 。 ホル モ ン に は 月 単 位 や 一 日 単 位 で 分 泌 さ れ る も
の が あ り ま す が 、 睡 眠 と 特 に関 わ りあ い の 深 い ホ ル モ ン や 神 経 の 伝 達 物 質 は,お よ そ1日
を周 期 と す る リズ ム(Circadian
表1睡
Rhythm)を
も って い ます(図3)。
眠 に 関係 す る 様 々 な リズ ム
名
前
成 長 ホル モ ン
(ホル モン)
主な役割
リズ ム
備
考
寝入 りばなの深 睡眠
身体 の成 長 を促 し脂 肪 を分
昼 夜 の リズ ムが で き
時に分 泌のピーク
解する
て くる生後4ヶ 月 頃か
ら夜 間 睡 眠 時 に分 泌
される
メラ トニ ン
暗 くな る と分 泌 さ れ
抗 酸化 作用 で 癌の 発 生を 防
幼 児 期 が生 涯 の うち
(ホル モン)
始 め 、深 夜 に ピー ク
いだり思春期まで第二次 性徴
最 も多 く分泌。夜 に強
が始めるの を抑 えたり,さらに
烈 な 光 を 浴 びる と分
メラ トニンが分 泌され ると体
泌 が遅れる
温が下がりスムーズな入眠が
促される
13
表1睡
眠 に 関係 す る 様 々 な リズ ム
名
前
主な役割
リズ ム
セ ロ トニ ン
(神経伝 達物 質)
備
朝 起床 後分 泌活 発
朝 の 光 、歩 行 や 咀嚼 、呼 吸 な
日中規 則 的に分泌
ど リズ ミカ ル な 運 動 に よ って
考
分 泌 が 高 ま り、気 分 を 穏 や か
にする
体温
明 け 方 安 静 に して い
脳と身体 を活 発に動かす
る 状 態 が 一 番 低 く(基
礎 体 温 と よ ば れ る)、
起 床 と共 に上 昇 し、午
後 が ピークで 夜 寝 る
前 に下 が る リズム
様 々 な 概 日 リズ ム(睡 眠 ・覚 醒 、体 温 、ホ ル モ ン)の 関 係
生活 リズム の確立と 睡眠
体温(℃)
37.5
37.0
36.5
06121824(時
刻)
血 中濃 度
メ ラ トニ ン
成 長ホ ルモ ン
レム催 眠(夢を見 なが ら身 体の 点検)
睡眠
ノ ン レム 催 眠(グ ッ ス リ 眠 って 、頭 の 休 息)
12180612(時
刻)
図3:様
々 な 概 日 リズ ム
【
出典:「 子 どもの睡眠∼眠りは脳 と心の栄 養∼」神 山 潤】
14
3
睡 眠 の 習 慣 確 立 を 阻 む要 因
ポイント4
1960年
大 人 の生 活 習慣 も 見 直 しま し ょ う
代 か らの 高 度 経 済 成 長 に合 わ せ 、 日本 人 の 就 床 時 刻 は 遅 くな り、 睡 眠 時 間 は 減
少 す る 一 方 で す 。 社 会 全 体 が 昼 夜 間 わ ず 働 き 続 け 、 深 夜 営 業 の お店 の 明 る い 光 が 照 ら し続
け る 中 で 、 大 人 の 生 活 が変 わ り 、 子 ど も の 生 活 が そ れ に 引 き ず られ て い ま す 。 テ レ ビ、 ビ
デ オ 、 ゲ ー ム 、 イ ン ター ネ ッ トの 影 響 は子 ど も の 世 界 に入 り込 み 、 幼 児 を 対 象 と した 調 査
結 果でも遅寝の要因 は 「
夜9時 以 降 の テ レ ビ娯 楽 番 組 を 大 人 と見 る こ と」 で した 。 子 ど もの
健 や か な 生 活 リズ ム の た め に は 、 睡 眠 軽 視 の 大 人 社 会 の 変 容 が 必 要 で あ り、 子 ど も の 健 や
か な成 長 を 願 う地 域 ぐる み の 取 り組 み が 大 切 で す 。
同時 に、 睡眠 に対 す る知 識 の不 足 が 子 ど もの 生 活 リズム の確 立 を 阻 む要 因 とな って い ま す。
現 在 、小 中 学 生 の 保 護 者 は 、 自分 が まだ 幼 い 頃 に は 夜8時 か ら9時 頃 に就 床 して い た 世 代
です。 「
幼 い 頃 夜 ど の よ う に寝 て い ま した か?」 と尋 ね る と 「
早 く寝 な さ い」 「子 ども の 時
間 は 終 わ った 」 「
テ レ ビ を 消 しな さ い 」 と 親 か ら言 わ れ て い た と い い ま す 。 改 め て そ の 記
憶 を た ど り、 睡 眠 に 対 す る き ち ん と した 認 識 を 伝 え て い く こ とが 大 切 で す 。
4
生
活
リ
ズ
ム
の
懸 念 さ れ る影 響
ポイント5
確
立
と
睡
眠
睡 眠 習 慣 は心 の安 定,身 体 の 発育 成 長,
学 力 面 な ど に影 響 しま す
睡 眠 の 習 慣 が き ち ん と身 に付 か な い場 合 に は 、様 々 な弊 害 が懸 念 さ れ ま す 。
睡 眠不 足 や不 規 則 な 睡 眠 リズ ム は 、 イ ラ イ ラ す る 、 攻 撃 性 が 高 ま る 、 無 表 情 に な る 等 、
情 動 面 に 影 響 を 与 え ま す 。 また 、 年 齢 が 低 い と 攻 撃 性 に 現 れ 、 年 齢 が 高 い と う つ 傾 向 が 出
る とい う調 査 も あ りま す 。
学 校 生 活 に お い て は 、睡 眠不 足 で 朝 起 き られ な い 児 童 は 「
忘 れ 物 が 多 い」 「
叱 られ る 回数
が 多 い」傾 向 が あ り ます 。 学 力 面 で も 多 く の デ ー タ が 示 す と お り、 睡 眠 不 足 と 学 力 に は 関連
が み られ ま す 。
ま た 、 睡 眠 不 足 は 肥 満 に な りや す い と い った 報 告 も あ る な ど 、 き ち ん と した 眠 りが子 ど
も た ち の 心 身 の 健 康 に 影 響 す る こ と が わ か りま す 。
15
5
睡 眠習 慣 の確 立 と改 善 の た め に
ポイント6改 善 は早 起 きか ら始 め ま しょ う
ポイント6
生 体 時 計 は1日 約25時 間の た め 、 生 活 リズム は次 第 に後 ろ にず れ る よ う にな って い ま す 。
この た め 昨 夜 ま で11時
に寝 て い た 子 ども を い き な り9時 に寝 か す の は至 難 の 業 で す 。 生 活
リズ ム の 改 善 は早 起 き か ら始 め るの が良 い で し ょ う。
(1)保
護 者 や 地 域 と共 に
① カーテンをあけま しょう
寝 室 の 環 境 を見 て み ま し ょ う。 ベ ッ ドや 布 団 の 置 き 場 所 を 光 が 届 き や す い 場 所 に変
え て み て くだ さ い 。 朝 、 カ ー テ ン を 開 け て 光 や 風 を入 れ ま し ょう 。 親 が 子 ど も を 起 こ
す 場 合 は 身 体 を起 こ して 座 位 か 立 位 に す る と 目覚 め や す くな りま す 。 目覚 ま し時 計 は
歩 か な い と手 の 届 かな い場 所 に置 く と よ い で し ょ う。
② 朝 の お手 伝 い は 五 感 を 刺 激 して
生活 リズム の確立と 睡眠
朝 の 覚 醒 を 促 す に は 、 五 感 へ の 刺 激 が 有 効 で す 。洗 顔 で の 水(湯)の
感触 、朝 ごは
ん の に お い 、 新 聞 を 読 む こ と 、 食 器 の 配 膳 な どで き る こ とを 一 つ 決 め て 持 続 さ せ る こ
とが 大 切 で す 。
③ で き る と こ ろ か ら無 理 せ ず 一 歩 ず つ
社 会 が 多 様 化 して い る 中 で 、 保 護 者 に 理 想 を 押 し付 け る の で は な く、 現 実 的 に 「
で
き る と ころ か ら一 歩 ず つ 」 取 り組 み を進 め る こ と が大 切 で す 。 そ して 保 護 者 の 努 力 を
き ち ん と受 け止 め て い く姿 勢 が大 切 で あ る こ と も 忘 れ て は な りま せ ん 。
④ 標 語 や ポ ス タ ー を作 りま し ょ う
学 校 内 や 地 域 で 、 生 活 習 慣 に 関 す る標 語 や ポ ス タ ー を 作 っ て 地 域 全 体 の 取 り組 み と
して 発 展 させ て い き ま し ょう 。
(2)子
ど も た ち の 自律 に 向 け て
① 睡眠日誌をつけて
みましょう
図4睡
16
眠 日誌
1∼2週
間 自分 の 寝 た 時 刻 と起 き た 時 刻 を 記 録 し、 眠 って い る 時 間 帯 を 黒 、 起 き て
い る 時 間 帯 を 白 く して お き ま す 。 毎 日の リ ズ ム は ど う か 、 寝 た 時刻 、 起 き た 時 刻 は平
日休 日で 変 わ った か な ど 自分 で 考 え る き っか け に しま し ょう(図4)。
② 目標 を決 め ま し ょう
早 寝 早 起 き を す る た め に 、 ま ず 挑 戦 して み た い こ と を 決 め ま し ょ う。 例 え ば 「10
数 え た ら布 団 か ら飛 び 出 す」 「
新 聞 を ポ ス トか ら持 っ て くる 」 「
夜8時
に な った らテ
レ ビを 消 す 」 な ど、 自分 で で き る こ とを 少 しず つ 積 み 上 げて い くこ と が大 切 で す 。
③ カ レン ダー に つ け ま し ょ う
最 初 は1ヶ 月 の うち1週 間 だ け つ け る と い う形 で 、 カ レ ン ダー に 自分 の 目 標(起 床
時 刻 ・就 床 時 刻 ・朝 食 摂 取 な ど)が 達 成 で き た か ど う か を 書 き込 ん で み て くだ さ い 。
で き て くる と翌 月 が 楽 しみ に な りま す 。 毎 日毎 日だ と気 が 重 く て も1週 間 だ け だ と気
軽 に取 り組 む こ と が で き ま す 。 毎 日 の 変 化 を子 ど も 自身 が 把 握 す る と と も に 、 そ の 成
果 を ほ め る 大 人 の 存 在 が とて も 大 切 で す(図5)。
生活 リズム の確立と 睡眠
図5カ レンダ ー(東 京 都葛 飾 区小 学校 低 学年 用2007)
17
コ ラ ム
遅寝の要因
遅 寝 の 弊 害 に つ い て は 、 肥 満 に つ な が った り情
動 の 安 定 に影 響 が 出 る こ と等 様 々 な 研 究 が な さ れ
そ の 背 景 に は 、 テ レ ビ視 聴 に 規 制 を しな い保 護
て い ま す 。 問題 は 遅 寝 に な っ て しま う原 因 で す 。
者の 意識の 問題 がある よ うです。幼 児の 親世代 が
幼 児 期 は 親 の 生 活 に 引 き ず られ る と い う指 摘 が
既 に テ レ ビ を 見 て 育 っ た 世 代 で あ り、 テ レ ビ が あ
生活 リズム の確立と 睡眠
あ り ま す が 、 どの よ う な 生 活 、 ど の よ う な 関 わ り
る 生 活 が 当 た り前 にな って い ま す 。 夜10時
が 幼 児 の 遅 寝 を 引 き 起 こす の で し ょ う か 。 保 護 者
寝 る3歳 児 の 割 合 が急 速 に増 え た1980年
の 関 わ りに 焦 点 を 絞 り、2週 間 の 睡 眠 記 録 か ら遅 寝
フ ァミ コ ン が普 及 しテ レ ビ番 組 の放 映 時 間 が延 び 、
の 背 景 を 検 討 した 結 果 、 メ デ ィ ア と の 接 触 の 問 題
コ ン ビニ エ ン ス ス トア の 店 舗 数 が 激 増 す る な ど 夜
が 浮 き 彫 り にな りま した 。
が 明 る く楽 し い も の に 変 容 して い った 背 景 が あ り
子 ど も と メ デ ィア の 問 題 に 対 し、 日本 小 児 科 医
会 は2003年
18
る と の 報 告 も あ りま す 。
以降 に
代 には 、
ます 。保護 者が長 時 間視聴者 の家庭 ほ ど、幼児 も
「2歳ま で は テ レ ビ、 ビデ オ 視 聴 は 控
長 時 間 視 聴 者 で あ り 、 ま た 家 庭 内 で の テ レ ビ視 聴
え ま し ょ う」な ど の 提 言 を 行 い ま した 。0歳 児 の 一
時 間 の 長 さ と 幼 児 の 就 床 時 間 に は相 関 が あ り、 長
日平均 テ レビ接触 時 間は3時 間13分 で あ り、テ レ ビ、
時 間 視 聴 して い る 家 庭 の 子 ど も が 遅 寝 の 傾 向 に あ
ビデ オ の 長 時 間 視 聴 が言 葉 の 発 達 等 に影 響 して い
る こ と も 明 らか にな って い ま す 。
よふか しお に
やなせたかし
小 学 生 で は テ レ ビや ゲ ー ム な ど が 遅 寝 の 原 因 に
な って い る 調 査 結 果 や 、 中 高 生 で は携 帯 メ ー ル や
パ ソ コ ン の 使 用 が 遅 寝 の 原 因 と 考 え られ る 調 査 結
果 が出ています。
ま ず は 、 生 活 の 中 で 幼 児 を メ デ ィ ア 漬 け に しな
い こ と が 大 切 で す 。 そ の た め に は 、保 護 者 が 睡 眠
の重 要 性 を 理 解 し、 メ デ ィア に接 触 す る 際 の 姿 勢 ・
考 え方 を きちん と持 つ必要 が あ ります 。 いきな り 「
ノ
生活 リズム の確立と 睡眠
ー テ レ ビデ ー」 は無 理 で も 、 夜9時 以 降 テ レ ビは 見
ないな ど、具 体的 にで きる ことか ら始め る地道 な
活 動 が重 要 で す 。
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