Comments
Description
Transcript
光速にジャンプ
エネルギー機能材料学特論 第10回目 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] 1 プラズマ実験装置NSTX(Princeton) 授業の内容 • プラズマ生成法 – 大別すると,電極,磁場を用いるかどうか?で分かれる。 • 電極を使用した方法 – 磁場なし • アーク放電(常圧近辺)からグロー放電(低圧) – 磁場有 • PIG放電(低圧) • 電極を使用しない方法 – 磁場なし • SWP放電, 低圧ICP放電(ともに低圧) – 磁場有 • ECR放電,ヘリコン波(ともに低圧) 2 誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma) • コイル状またはループ状のアンテナに高周波電流を流す と、アンテナの周囲には高周波磁界ができる。 • 磁界の時間変化は電界を誘起するためアンテナの周りに は高周波電界が誘起される。 • 定常磁界がない状態でこの誘導電界を利用して高周波放 電を起こし、生成したプラズマを誘導結合プラズマ(ICP)と 呼ぶ。 • 通常、13.56MHzが利用されるが、数百kHzから100MHz 程度までの広い周波数帯で放電可能。 • 放電圧力は0.1Paから10kPaまでの広範囲が可能。 3 いくつかの装置の概要 • 放電アンテナの代表例を以下に示す。 (a) 誘電体(ガラスなど)の円筒の周りに螺旋状に巻いたヘリカルコイル形式 マッチングのためには、13.56MHzでは1-3回程度の巻き数、2MHzでは10回以上。 軸方向磁界の時間変化から方位角方向の誘導電界が発生し、この電界で電子を 加熱する。 基板より遠くの側のプラズマは用を成さないので、(b)のように基板より遠くのプラ ズマ部分を省略したドーム型がある。 4 つづき • • • さらに進化した例として、(c)のように平面状のスパイラルコイルを設置し、 プラズマを基板の近くのみにするタイプ。ただし、大口径にすると大気圧 に耐えるためにガラスが厚くなり、高価となる。 この欠点をなくすために、アンテナを真空容器に入れたのが(d)である。こ の場合、アンテナがプラズマに接すると静電結合のためにプラズマ電位 が上昇し器壁とプラズマの間でアークが発生し、不安定放電となる。 アンテナを誘電体で覆う、あるいは、アンテナとアースの間にコンデンサ ーを入れて、アンテナを浮かすなどの工夫が必要。 5 高周波パワーの吸収過程 • • ICPにおけるパワーの吸収機構–簡単のために、Z軸に沿う半径aの 無限長ソレノイドコイル(単位長さ辺りのまき数n)に直流電流Iを流し たとすると、コイル内部にZ軸方向の磁界Hz=nIと磁束Φ=μ0πr2Hz (r<a)を生じる。 この電流が各周波数ωの高周波で振動すると、I=I0sinωtとおき、磁 束Φの時間変化が起電力V=2πrEθ=−∂Φ/∂tを生じさせる。 – θ方向の誘導電界は Eθ (r , t ) = • µ0 r 2 ω nI 0 cos ωt この電界がプラズマ中の電子を加速し、アンテナ電流が作る磁場を 打ち消すようにプラズマ内のうず電流を作らせる。 誘導電界により、電子は加速・減速を受けるが、 衝突がない限り時間平均の正味のエネルギー 授受は0となる。 6 つづき • 電子とイオンや中性粒子との衝突周波数をνeとし、電子密度neとす ると、プラズマの導電率σは σ = e 2 ne / meν e • • この場合、電子とイオンの衝突によってプラズマがジュール加熱され る。 磁界は、表皮効果のために導体表面から指数関数的に減衰し、表皮 厚さδの深さまでしか入らない。 δ = ( 2 / ωµ0σ ) 1/2 • この式に、プラズマの導電率を入れると、 c 2ν e δ= ω p ω 1/2 • ただし、ωPは電子プラズマ角周波数で、ν e ω の時に成り立つ。 7 等価回路 • • 前の(a)円筒形ヘリカル回路のコイルを一巻き取りだして、円形ルー プアンテナと渦電流が流れているドーナッツ状のプラズマを考える。 ドーナッツの半径方向の厚さをδとし、断面積をS、円周方向の長さ をl(エル)とする。 アンテナを一次巻線、プラズマを2次巻線とするトランスとみなせば、 等価回路は下図のようになる。 Ra, Laはそれぞれアンテナの抵 抗とインダクタンスMは相互インダ クタンスLgは磁束と鎖交するドー ナッツの形状で決まるインダクタ ンスLp,Rpはそれぞれ電子の慣 性によるインダクタンスとプラズマ の抵抗 8 つづき • インダクタンスLa,抵抗Raのアンテナに高周波電流IRF が流れると、相互インダクタンスMを介して2次回路のプ ラズマと結合する。 2 L = l / S m / n e ( ) ( ) • 電子によるインダクタンス p e e • プラズマの抵抗 R p = ( l / S ) / σ • の表式を用いると、プラズマが吸収するパワーは Pabs = ω 2 M 2 Rp ω ( Lp + Lg ) R p 2 2 2 I RF 2 これは, 回路的にプラズマ抵抗Rpで発生す るジュール熱であり, 物理的には,電子加熱のパワーを 表す 9 表面波プラズマ • 電子プラズマ振動数(ωp)以上の電磁波は、プラズマに進 入する(体積波) • しかし、電子プラズマ振動数(ωp)以下の電磁波はプラズ マに反射されて中に進入できない。 • この時、プラズマの大きさが有限で、例えば円柱プラズマ のような場合は、プラズマの表面に沿って波として伝わる 。この波を表面波という。 • 放電パワーが小さい場合は、低密度における体積波の衝 突減衰によってプラズマが維持される。 • しかし、パワーを大きくするとプラズマの密度が上がり、 ωp>ωの状態になり、表面波によって維持される表面波 プラズマが生成される。 10 大口径化する表面波プラズマ • 近年の半導体プロセス技術は大口径(>0.4m)で低圧力(0.1 ∼1Pa)のプラズマを必要とし、10年ほど前から大口径化の 研究が始まった。 • 大口径のプラズマをつくるには、マイクロ波を上部からZ軸 方向に照射する。 11 続き 2 2 • ωp=ωとなる電子密度ncは、nc = ε 0 neω / e • 従って、nc>neのような低密度プラズマでは、波は体積波 として存在できる。 • 一方、nc<neである高密度プラズマでは、前ページの図の ようにZ方向には波の振幅が指数関数的に減少し、r-θ 面内を伝わる表面波が励起される。 • よって、電磁波のエネルギーは上部のプラズマ表面に入 ることになる。 12 分散関係 • 伝播ベクトルkと角周波数ωの関係式を分散関係という。 これは波の性質を記述している式となっている。 exp [ −i (k ⋅ x − ωt ) ] の形のX方向に進む波を考える。 すると ∂ → iω ∂t ∂ → −ik ∂x という関係が成り立つ。 すなわち、ある波のkとωの関係がわかれば、上の関係式から波の 満たす微分方程式がわかる。 –逆に、波の満たす微分方程式がわかれば、上の関係式から分散 関係がわかる。 –よって、 波を記述する微分方程式⇔分散関係 13 表面波の分散関係 • 比誘電率εの媒質中を伝わる電磁波(k、ω)の位相速度は ω/k =c/ ε 、真空中の位相速度(光速)cとして、 2 2 • 冷たい無衝突プラズマの比誘電率εは、ε = 1 − ω p / ω • よって、波の分散関係は、 ω k = c 1 − ω p2 / ω 2 • この式から、低密度プラズマ(ωp<<ω)では、ω∼kc • ωp=ωの時、k=0で波長が無限大となる(カットオフ、遮断) • ωp>ωの高密度プラズマでは、波数kは純虚数となるので、 k = i /δ とおけば、波の振幅は、exp[-z/δ]の形でプラズマ 表面からの距離zとともに減衰する。 14 表皮厚さ • この特性長δを、表皮厚さといい、前の式から δ= c ω p2 − ω 2 • ωp>>ωの時は、δ∼c/ωpとなる。 • このδをプラズマ表皮厚さと呼んでいる。 15 もう少し考察 • 一様なプラズマが半無限の誘電体板(誘電率εd)と接し ている場合を考える。プラズマと誘電体の界面をz=0の面 として、界面に伝わる表面波を考える。 • 伝播ベクトルkを界面に沿うx方向成分と垂直なz成分に 2 2 2 k = k + k 分けると、 x z 2 2 • すると、分散関係は 2 ω ω p 2 2 k = k x + k z = 1 − 2 ω c • 高密度の時は、ωp>ωであるから、右辺は負となる。 • 界面に沿って伝わるためには、kx2は正であるから、kz2が 大きな負になる必要がある。 • この時、kz=iαとおく。(波の振幅はz方向には減衰) 16 続き • プラズマ内と同様に誘電体内でも波は減衰すると解を考 えるので、誘電体内ではkz=iβ • 電磁界のz=0に対する境界条件を与えると、 kx = ω ε d (ω p 2 − ω 2 ) c ω p 2 − (1 + ε d )ω 2 • 右辺の根号の分母が0の時、共鳴(kxÎ∞)となるから、 ω = ωp / 1+ εd • の時に表面波共鳴が起こる。 2 2 ω > (1 + ε ) ω • 右辺が実数となるのは、 p d • すなわち、表面波が伝播するのは、電子密度が ne 2 > (1 + ε d )nc 2 , nc = ε 0 meω 2 / e 2 17 実際の例 • プラズマプロセスでは円筒プラズマを用いるので、表面波 の分散関係が計算されている。 • 計算モデル 18 モデルでの分散式 • 前頁のモデルでは、TMmnモードの表面波の分散式は、 ω p2 1 = + 1 ω2 kd 2 2 ω4 ω2 4 4c kmn • ここに、 kd = 2 4 + 2 2 tan (kd d ) − 2 2 2c kmn ε d kmn ε d 2ω 2 c2 − kmn 2 • jmnをm次のベッセル関数のn番目の根とする時、 kmn = jmn / R 19 計算例 • 前頁の分散式 の計算例 縦軸:規格化した周 波数の2乗(ωR/c)2 横軸:電子密度の パラメータ(ωpR/c)2 20 表面波プラズマの生成 • • • • • • • 誘電体窓を通して、マイクロ波 を照射する方法として、 1)誘電体線路を用いて窓の全 面から照射する。 2)矩形導波管の底面にスロット を切って照射する。 3)円筒キャビティやリングキャ ビティの底面にスロットを切って 照射する。 4)ラジアルスロットアンテナを用 いて照射する。 などがある。 右の写真は2)の方法で作成し たプラズマ 21 その他 • • すでに述べたように、有限効果 によるkxのジャンプは結局モー ドのジャンプとなる。 そのときには、プラズマ密度が 相応してジャンプすることがわ かっている。 22 TEM,TE,TM波について • 電磁波はMaxwell方程式で記述されることを思い出すと、 ∂D + j = ∇×H ∂t ∂B = ∇×E ∂t ∇⋅B = 0 ∇⋅D = ρ • ただし、 B = µ H, D = ε E • 今、導電率σの一様な物質中では、j=σEなので、 ∂H ∂t ∂E ∇×H = ε +σE ∂t ∇ × E = −µ 23 つづき • すると、以下の波動方程式を得る。 ∂E ∂ 2E ∇ E = µσ + µε 2 ∂t ∂t 2 • すなわち、電場(磁場も)は波動の形で伝播する。 • さて、ある周波数ωの正弦波で考える(フーリエ変換すれ ば、ある単一周波数の挙動が重要となる。ただし、それぞ れの周波数の電磁波が干渉しない場合) ∂ • すると、 より、 ∇ × E = −i µω H ∇ × H = iωε E + σ E → iω ∂t k ′2 = ω 2εµ − iωµσ • 波動方程式は、 とおくと、 ∇ 2 E + k ′2 E = 0 ∇ 2 H + k ′2 H = 0 • の同型の方程式を得る。 24 Z方向の電磁波 • • 一方向(Z方向)へ伝送される電磁波について考える。その解は、時間 exp(iωt ) exp [ −γ z ] の振動解 以外に、 の因子があるはずである。 すると、 ∂ ∂z • → −γ 媒質の損失を無視(σ=0)として簡単化すると、 ∂ 2 Ez ∂ 2 Ez + = − kc E z 2 2 ∂x ∂y ∂2 H z ∂2 H z + = − kc H z 2 2 ∂x ∂y kc 2 = γ 2 + k 2 = γ 2 + ω 2εµ 25 続き • すなわち、EzとHzはそれぞれ独立のヘルムホルツ方程 式の解である。また、その解がわかれば、他のすべての 電磁界成分が表せる。 ∇ × E = −µ ∂H ∂t ∇×H = ε ∂E ∂t • これらのことより、一方向に進む電磁波は以下の3つの基 本解が存在する。 • i) Ez=Hz=0 TEM • ii) Ez=0, Hz≠0 TE • iii) Ez≠0, Hz=0 TM • 一般にはこれらの混合の形であろう。 26 続き • i)は、進行方向に電磁場成分を持たないのでTEM (transverse electric and magnetic wave)と呼ばれる。 • ii)は、進行方向に電場成分を持たないので、TE (transverse electric wave)、 • iii)は、進行方向に磁場成分を持たないので、TM (transverse magnetic wave)と呼ばれている。 • 実は、TEMはkc2=0以外では解がない。そして、伝播方 向に垂直なxy平面内の電界、磁界の模様は静電界及び 静磁界のそれと全く同一である。 • すなわち、導体で囲まれた導波管内では存在しない。 27 導波管 • 導波管とは、導体で囲まれた電磁波を通す管のことで、 代表的なものに方形(矩形)導波管、円形導波管がある。 • 簡単のため方形導波管を通る電磁波はTE,TMのみであ るから、TEに関して説明する(TMも原則同じ) • この場合、Hzのヘルムホルツの式 ∂2 H z ∂2 H z 2 + = − k c Hz 2 2 ∂x ∂y • を管壁上で電場の接線成分が0の 境界条件を満たすように解けばよい Ex ( y = 0, b) = 0, E y ( x = 0, a ) = 0 28 TEの解 • この解は変数分離方式で簡単に解けて、 mπ nπ H z = H mn cos a x cos b y • の形になる。この整数(m,n)の組み合わせ によって、いろいろな形態のTE波がある。 • これらをTEmnモードと呼んでいる。下に数例を示す。 いろいろなTEモードのHz 29 TMの解 • TMも同様にして、 Ez = Emn sin mπ nπ x sin y a b • と解ける。但し、m,nの少なくとも一方が0である場合、 Ez=0となるため、解は存在しない。 • 従って、TMの最低次モードはTM11である。 • 下にその図を示す。 Ezの図 30