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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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英米世界秩序と東アジアにおける日本 : 中国をめぐる協
調と相克一九〇六-一九三六( Abstract_要旨 )
宮田, 昌明
Kyoto University (京都大学)
2013-03-25
http://hdl.handle.net/2433/174733
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
京都大学
博 士(文 学)
論文題 目
氏名
宮
田
昌
明
英 米 世界 秩 序 と東 ア ジ ア にお け る 日本
中 国 をめ ぐる協 調 と相 克
一 九 〇六 ∼一 九 三六
(論文 内容 の要 旨)
本 研究 は、 日露 戦後 か ら 日中戦争 まで の時期 を対象 として、① この時期 の 日本 、 イ
ギ リス 、 アメ リカ各 国 の政 治 と外 交 の変 化 をそれ ぞれ の国家観 や社 会秩 序観 に則 して
検討 す る と共 に、②各 国 間お よび 中 国 に関連 す る通 商条約 、 関連協 定 、政策 を比較検
討 し、合 わせ て、③特 に 日本 に関 し、政 軍 関係 と軍 を中心 とす る 中国政 策 につ い て検
討 して い る。 本研 究 は その際 、 日本 の政 策や 政軍 関係 につい て は 日本 の 国際的地 位 の
変化 と対 応 させ て理解 す る と共 に、イ ギ リスや ア メ リカの諸政 策 を、 両 国の先行 研究
を援用 しなが ら、 それ ぞれ の国家権力 の抑 制 を図 る 自由主義 の伝 統 と、19世 紀 か ら20
世紀 にか けて の両 国にお ける民 主 主義 の拡大 に伴 う国家機 能 の拡大 との相 互 関係 に注
目して理 解 し、 日本 の 内外 政策 との原理 的 な違 い を明 らか に してい る。以 下、各 章 の
論点 を要約す る。
序 章 では、本論 理解 の ための前提 として、①19世 紀 後 半の イギ リスが、社 会 に対 す
る国家 の介入 を抑 制す る 自由主 義 の伝 統 を民 主 主義 の拡大 に応 じて変化 させ た こ と、
それ に応 じて外 交政策 につ い て も、 国際的義 務 を回避 す る孤 立主義 か ら 日英 同盟 に始
ま る同盟外 交へ と転換 した こと、②19世
紀半 ば以 降のイ ギ リス帝 国 におい て も、民 主
主義 の流 れ を背景 に、 自治領 の権 限拡大 に応 じて 白人 の権 利 を守 るため にア ジア人排
斥 を激 化 させ た こ と、③19世
紀末 以 降の アメ リカは、 国内 にお ける独 占企業 の台頭 と
対外 的 な海外領 土 の拡 大 が進 む 中、 自由主義 のあ るべ き姿 と国家 の機能 をめ ぐっ て分
裂 を深 めた こ と、④19世
紀 半 ば以降、 欧米列 強 は中国 におい て も、 自国民 の権 利 を保
護す るための租 界や租借地 を形成 した こと、そ うした中でイギ リス は、20世 紀初 め に、
中国 とそ の税 制 ・行政 改革 を促 す通 商条 約上 の規 定 を成 立 させ 、 中国の保全 のた めの
積極 的外 交措 置 を とるよ うにな った こ とを紹 介 的 に論 じてい る。
第1章 で は、 日露戦後 の 日本政 治 と財政 ・経済政策 な どを取 り上 げ、① 西園寺 内閣の
与党 とな った政友 会 は、政 権参 画 を優 先 し、従来 の藩 閥の政策 を継 承 した こ と、②対
して第二 次桂 太郎 内閣 は、 旧来 の藩 閥の権威 を利 用 しなが ら、 旧来 の政 策 を刷新 し、
国 内 におい て階層 的社 会秩 序 を産業 社会 に於 け る分業 意識 に再 編す る と共 に、社 会 政
策 を導入 す る こ とで、国民 全体 の国力 を向上 させ よ うとし、対 外政 策 におい ては、 欧
米諸 国や 清朝 との合意 を形 成 しなが ら大 陸権 益 を確立 し、大 国 に準ず る地位 を確 立 し
よ うとした こ と、③桂 園 時代 を通 じ、 実質 的 な金 融緩 和 によ り、経 済成 長 におい て成
果 を挙 げる一 方 で、貿 易赤 字 と合 わせ て 円の 国際 的信 用 を低 下 させ た ばか りか、 国内
各方 面 で緊縮 財政 方針 と矛 盾す る積極 的財政 志 向 を生 じ させ 、大正 政変 の遠 因 を作 っ
一1一
た こ とを、 明 らか に してい る。
第2章 で は、 まず は 日露戦争期 か ら第一 次世界大戦 までのイ ギ リス外交 が、大陸 ヨー
ロッパ諸 国や アメ リカ と、関連 地域 毎 に差 異 を施 した多 元的 な合 意 を形 成 しなが ら、
防衛 負担 の軽 減 と国際秩序 の安 定化 を図 ってい た ことを明 らか に し、 次い で 同時期 の
日本 外交 につ い て取 り上 げ、特 に第 二 次桂太 郎 内 閣が、 日本 の 国際的地 位や 大 陸権 益
を確 保す るた め、欧米 諸 国や清 朝 との合 意 を優先 し、 また、 欧米 との対 等 の 関係 を形
成す る観 点 か ら双 務 主義 の原則 の下 で関税 自主権 の回復 に関す る条 約 改正 を行 っ た こ
とを明 らか に してい る。
第3章 で は、 日露戦争期 か ら第 一次世界大 戦 までの アメ リカの内外政策 を取 り上 げ、
革新 主義 の時代 の アメ リカが 、 国内外 にお ける独 占企 業 の影響 力拡 大 とそれ に反 発 す
る国民 的気運 が対 立す る中で 、 アメ リカ的 な 自由主義 ・民 主 主義 の 内実 が変化 してい
く過 程 を論述 してい る。す なわ ち、非公 式 の政治 力 を駆使 して 内外 の対 立 を抑 えたセ
オ ドア ・ローズ ヴェル ト政 権 か ら、大統領 の行政 的主導権 の行 使 を 自制 しつつ 、お も
に立 法 ・司法 措置 を通 じて改革 を推進 しよ うとしたが ゆ えに、革新 派 の離反 をまね い
たタ フ ト政権 を経 て、社会 や経 済 に対す る政 府 の介入 には消極 的 な が ら、理 念 を重視
して国 内 をま とめ てい くウ ッ ドロー ・ウィル ソン政権 へ と移行 してい っ た こ とを明 ら
か に してい る。
第4章
で は、1911年 の辛亥革 命後 の 日本 政治 におい て は、 欧米列 強 の勢力 に警戒 す
る 旧来 の立場 と、 日本 の さ らな る国際 的地位 の向上 を 目指 して積極 的 な対外 政策 を求
め る立場 の対 立 が生 まれ た、藩 閥の政策 調整 力 が低 下 して大 正政変 が発 生 し、 さ らに
は満 州 にお ける参 謀本 部 の独 断的行 動 ま で発 生 した こ とな どを明 らか に してい る。
第5章
で は、第 一 次世界 大戦期 の 日本 の 中国外 交 を取 り上 げ、21か 条 要求 の 中心 的
交渉 課題 とな った土地 関連 民事 訴訟 をめ ぐる司法 管轄 権 問題 の詳細 を明 らか に し、 次
い で第二 次大 隈内 閣お よび寺 内 内閣期 の対 中 国外 交 につ い て、満州 にお け る独 立運動
へ の支援 や 、哀 世 凱死 後 の政権 に対 す る資金 援助 を通 じて、 中 国 に対す る影 響力 の拡
大 を 目指 してい た こ と、 しか しその よ うな外 交 は、藩 閥の影響 力低 下 を背 景 に、 内部
の不 統一 を含 んでお り、成 果 を挙 げ られ なか った ことを論 じてい る。
第6章 で は、第一 次世 界大戦 中の 日米 関係 を取 り上 げ、 ウッ ドロー ・ウィル ソン政権
の後半期 の 内外政 策が、 内外 に向 けて 自由主義 ・民 主主義 の普遍 的 な理念 を掲 げつ つ、
その理念 を共 有す る当事者 に よる 自発 的 な秩 序 の形成 を促 す方 針 で一 貫 してい た こ と
を示 し、 それ が第 一 次世界 大戦 へ の参加 や 同時期 の対 日政 策 にも表 れ た こと、 そ うし
たア メ リカの政策 が、 シベ リア 出兵 をめ ぐ り、 ア メ リカの民 主主義 にそ ぐわ ない と判
断 され た 日本 の出兵 に対す る過 剰 な警戒 感 となっ て表 れ た こ とを明 らか に してい る。
第7章 で は、パ リ講和 会議 にお ける国際連 盟 の創設 が、多 国間関係 の調整 と主権 国家
の尊 重 に よって 自国 の安 全保 障 を効 率化 した20世 紀 のイ ギ リス外 交 を背 景 に登 場 した
こと、パ リ講 和会 議 にお ける 日本 とアメ リカ の対 立 が、条 約上 の権利 を重視 す る 日本
一2一
と、理念 に よる国際秩 序 の安定 化 を 目指 す ア メ リカ とい う外 交原理 の対 立 か ら生 じて
い た ことを明 らか に してい る。
第8章 で は、 アメ リカ の共和 党が政権奪 回 のため、党 の統一 を優 先 して国際連盟参加
を断念す る と共 に、政 権奪 回後 は、既存 の秩 序 を尊重 す る保守 的価 値観 に基 づ き、 大
国 間 の合 意 によっ て 自国 の権利 擁護 と国際秩 序 の安定 化 を図 るべ く、 ワシ ン トン会議
を開催 し、 ま た、 国際委員 会 を通 じて ドイ ツ賠償 問題 を解 決 し、 ラテ ンアメ リカ にお
い て も国際 司法や 国際会議 を重 視す る外 交 へ の転 換 を図っ てい った こ とな どを明 らか
に して い る。
第9章 は、第一 次世界 大戦後 のイ ギ リスが、分権 的 な地方 自治 改革 と一体化 した社 会
政策 の導入 によ る国内 の安 定化 や 、民族 自決 の理 念 に対応 した帝 国統治 の再編 を図 る
一方 で 、 ヨー ロッパ諸 国 間 の関係調 整 を積極 的 に進 め、大 国 として の責 任 を果 たす こ
とで、帝 国の統治 と自 らの国 際的影響 力 を保 持 し よ うとした こ とな どを明 らか に して
い る。
第10章
で は、1920年 代 の 日本 力\ ①大 国 としての 自覚 と民主化 の 内外気運 に応 じて
政党 内閣 を成立 させ た こと、②対 外債 務な どへ の配慮 か ら長期 的 な円高 への展望 の下、
企業 保護 政策 を採 用す る と共 に、企 業 に労働 者保 護 を義務 づ け、 さ らに景気 変動 の影
響 を緩和 す る諸施 策 を通 じて 国民全 体 の安 定的経 済成 長 を 目指 した こ と、③ この時期
に登 場す る幣 原外 交 も、大 国 として の 自覚 に基 づ き、従来 の外 交 を転換 した こ とを論
じてい る。
第11章
で は、①1925年
の北京 関税 特別 会議 につ い て、英 米 日の対応 が各 国の全体
的外 交原 則 に則 して決 定 され てい た こ と、② 会議 失敗 後 の満州 情勢 の緊 迫化 と国民 党
に よる北 伐 に対 し、 イ ギ リス が重点 主義 的 な強硬 策 と融和 策 を併用 しな が ら、列 強全
体 と中国 の関係安 定化 を図 ろ うとしたの に対 し、 日本 は中 国全 体 に対す る政 策 的一 貫
性 を重視 してい た こ と、③1928年
の 中国 と米英 の関税条 約 の締 結 に際 し、 ア メ リカ は
原則 を重 視 したの に対 し、イ ギ リス はや は り東 ア ジア秩序 の安定化 を重 視 してい た こ
とを明 らか にしてい る。
第12章
で は、1920年 代 の 日本 陸軍 につい て、① 反長州 閥の古参 軍人 が長 州閥 の役割
を継 承 しよ うとしたの に対 し、 田中義 一や宇 垣 一成 らが職 権 を駆使 して古参 軍 人 を排
除 し、政 党 内 閣 と協力 関係 を形 成 した こ と、②以 上 を背景 に、陸軍 の 中堅将 校 も、 自
らの地位 の上 昇 と職権 の獲 得 によ る陸軍 改革 志 向 を強 めた こ と、③ 田 中や宇 垣 は、 中
国外 交 に関 しては守 旧的 で、 張作森 との関係 を重 視 し、 張作森 の経 済政 策 に反発 す る
在満 日本 人 の世論 に冷 淡 で あっ たの に対 し、反長 州 閥 お よび中堅将 校 は張作 森 に強硬
であっ た こ と、④1928年
の張作 森爆 殺事件 は、河本 大作 が軍職 を捨 て る覚悟 で行 った
非 常措置 であ って、権 力志 向の強 い他 の 中堅将校 の行 動様 式 とは異質 で あっ た こ とを
明 らか に してい る。
第13章
では、世界 恐慌 前後 の米 英 日の 内外 政策 につ いて、① ア メ リカ は、連 邦政府
一3一
の権 限行 使 に消極 的 な経済 政策 を維 持 しなが ら、 アメ リカ の実質 的軍拡 の権 利 を保持
す る ロン ドン海軍 条約 を成 立 させ た こ と、② イ ギ リス では、 自由貿 易 と積極 財政 を掲
げ る 自由党 、 関税 導入 と緊 縮財 政 を掲 げ る保 守 党、 自由貿 易 と緊縮 財政 を掲 げ る労働
党 が対立 す る中で労働 党政 権 が成 立 したが 、世界 恐慌 に対 処 で きず 、 自由党 と労働 党
が 内部分裂 を深 めてい くこ と、③ 日本 は、1920年 代 の経 済 ・社 会政 策 を踏 ま えた世界
恐慌 対策 を実施 した こ とな どを明 らか に してい る。
第14章
で は、1929年 以降 の中国 と欧米 列強 との治外法権 撤廃交渉 につ いて、 中国の
排外 主義 を抑 制 しよ うとす るイ ギ リス の戦 略 が大 きな推進 力 とな り、上 海特 区法院協
定や 英 中仮合 意 が成立 してい っ た こ とを詳細 に明 らか に してい る。
第15章
では、満州 事変 勃発 の原 因 に関連 し、① 張作 森爆殺 事件 の処理 が 、陸軍上 層
部 の責任 回避 を優 先す る もので あっ たた め、陸軍 上層 部 に対 す る 中堅将 校 の反発 が決
定 的 にな った こ と、② 関東 軍 に赴 任 した石原 莞爾 が、独 自の論 理体 系 か ら満 州 占領構
想 を作 る一方 で、満州 にお け る非 常事態 の発 生 に対す る陸軍 中央 の消極 姿勢 へ の反発
か ら非常措 置的 に満 州事 変 を決 意 した こ と、⑧1920年
代 を通 じ、政 党内 閣 と陸軍上 層
の関係 が協力 的 で あっ たが故 に、満 州事 変勃 発後 、 陸軍 の 中堅将校 は政 友 会 に働 きか
け、陸軍 上層 部 の更迭 を図 った ことな どを明 らか に してい る。
第16章 では、満州 事変期 につ いて 、① 日本 陸軍 は皇道派 に よって統制 が 回復 され る
一方 で 、 中堅 将校 には分裂 要 因 が生 じてお り、 中で も永 田鉄 山 は政 官界 や 宮 中 との提
携 を模 索 し、宮 中側 もテ ロ事件 を警 戒 して永 田の情報 に基 づ き政 党 内閣 を終わ らせ た
こと、② 同時期 のイ ギ リス は、実質 的 な保守 党政 権 によ り、広 域 自由貿 易 圏 としての
ス ター リング圏や 帝国特恵 を成 立 させ た こ と、③満州 事変 をめ ぐる国際連盟 の審議 は、
連盟 の権 威保 持 を優先 す るイ ギ リス の最 終判 断 の下 で、 日本 を連盟 か ら脱退 させ る と
共 に、連 盟外 での大国 間の合 意の余地 を残 す解決 が図 られ た こ とを明 らか にしてい る。
第17章
では、①満 州事 変後 の 日本 の対 中国外 交 は、外務省 と関東軍 が間接 的 に協力
し、 中国 に満 州 国承 認 を求 めず 、満 州 国 と中 国の経済 交流 を回復す る こ とで緊 張緩和
を 目指す もの であ った こと、② 満州 事変 後 の 日本 が、 円通 貨 の暴落 と満 州 へ の投 資拡
大 な どを背景 に、 国際 自由貿易 に依 存す る広 域経 済 圏 を形 成 した こ と、③ 以上 の 日満
広域 経済 圏は 同時 に、 同地 域 に華 北 を加 えて統制 経済 を施 行 し よ うとす る永 田鉄 山 ら
の構 想 をも生 み 出 し、永 田はそ の構 想 を実現 す るため、統 制経 済 に反対 す る当時 の陸
軍 首脳(皇 道 派)の 追 い落 としを図 り、 それ が陸軍派 閥対 立 を引 き起 こ してい くこ と
を明 らか に してい る。
第18章
では、満州 国 と 日本 の関係 につい て、① 当初 、関東 軍 は満州 国 に中央集権 的
組織 と 日本 によ る監察 機構 を設 置す る こ とで、 間接 的統制 を図 ろ うとしたの に対 し、
次第 に 日本本 国か らの派遣 人事 に基 づ く、各 省庁 の人 員支 援 に基 づ く稟 議制 的組 織 へ
と変容 してい った こ と、②1936年
の 日満条約 は、通 商条 約 を代 替す る、 日本 人 に対 す
る満 州 国全面 開放 条約 であ り、 これ に よ り保 護 国 としての満州 国 の地位 が確 定 した こ
一4一
とを論 じてい る。
第19章
で は、1930年 代初 めの アメ リカ とイ ギ リス の内外 政策 につい て、① アメ リカ
は多元 的 な利 害 を組 み込 むニ ュー デ ィール政 策 を採用 し、 それ を背 景 に、 自国利 害 を
優先 す る立場 か ら国際合意 を否 定 し続 け る一方 で、 内外世 論 に将来 へ の理念 を積 極 的
に提起 す る傾 向 を強 め、 それ が1930年
代半 ばの国際紛争 に対す る対応 にも反 映 され て
い った こ と、② イギ リスは、ア メ リカ を始 め とす る国際合意 の実現 を追求 す る一方 で、
国 際 自由貿易 の維 持 と民 間主導 の経 済合 理化 、社 会政 策 の推進 のた め、軍備 計画 の合
理化 と ドイ ツ に対 す る宥和 政策 を展 開 してい った ことを明 らか に して い る。
第20章
では、広域 統制経 済 圏の形成 を 目指 す永 田鉄 山 ら陸軍統 制派 が、青 年将校 を
弾圧 し、政官 界 を欺 隔 しなが ら、 皇道派 を失 墜 させ 、 同時 に中 国現 地軍 に華 北 分離 工
作 を暴発 させ てい った こと、 しか し、参 謀本 部 で は、現地 の謀 略 が蒋介 石 の抵抗 で失
敗 した こ とを利 用 して事態 を収 拾 してい った ことを明 らか に してい る。
終 章 で は、本 論 の要約 と共 に、20世 紀前 半 の英米 世界秩 序 とは、拡 大 す る国家権力
を通 じ、 その さらな る拡大 を抑 制す るた めの大 国 間の合 意や 国際原 則 を設 定す る こ と
で成 立 した こ と、 また、 それ は英米 の、国 家権力 に対 す る 自国民 の権利 を保 護す るた
めの もの であ った ため、結 果 的 に非欧米 人 に対す る欧米列 強 の権利 を強 く保 護 す る も
の となっ た こ と、不平 等条 約 として知 られ る通 商条約 上 の特殊 規 定 もそ うした英 米世
界秩 序 を背景 として存 在 した こ と、 ただ し、 そ うした個人 の権 利保 護 を優先 す る英 米
の政 治 は、1920年 代 半 ばまで は安定 せず 、対 して国家 的統 一規 範 を重視 す る 日本 は、
安定 的 な政 治秩序 の下 で、欧米 の政治 ・経済 制度 を導入 したが 、それ が1930年
代 の独
断 的膨 張主義 の抑 制 に失敗 す る要 因 ともな り、支 那事 変 の長期 化 か ら大 東 亜戦争 へ と
つ なが っ てい くこ とな どを論 じてい る。
一5一
(論文審 査 の結果 の要 旨)
本 論文 は、 日露 戦争後 か ら 日中戦争 が は じま るまでの約30年
間 にわた る 日本 の政 治
外交 史 を、 中 国問題 をめ ぐって繰 り広 げ られ るイ ギ リス、 アメ リカ と 日本 との問 の複
雑 な相 互 関係 の展 開 として描 き出 した、全22章
的 で、本 文 だ けでA5版2段
組800ペ
か らなる力作 であ る。 そ の分量 は圧倒
ー ジ に達 し、文 字通 りの大著 とい うほか ない 。
本 論文 の分 量 が か くも膨 大 となっ たの は、著者 が採 用 してい る政 治外 交 史研究 の方
法 的立場 に由来す る。本 論文 はマ クロ的 な視 点 にた って20世 紀前 半 の 日本 の政治外 交
史 を包 括 的 に概観 した ものであ るが、 ほぼ30年
間の 日本 の政治外 交史 を論 じるにあた
り、著者 は、 日本 の対 外政 策 と対外 行動 と くに 中国 に対す るそれ を、 それ 自体 単独 で
成立 す るもの では な くて、常 に同時代 のイ ギ リス お よびア メ リカ の対外 政策 ・対 外行
動 によって規定 されていた と考 える。19世 紀後 半か ら20世 紀前半 にか けて、イ ギ リス ・
アメ リカ では 国内政治 にお け る 自由主義 ・民 主 主義 の進展 がみ られ るが、 そ の対 外 政
策 にお い て も同様 であ り、両者 の主導 の も とで 自由主義 ・民 主主義 の理 念 と政策 に見
合 っ た世 界 的 な国際秩 序 が徐 々 に形 成 され てい っ た。 もち ろん、 自由主義 ・民 主主 義
といっ て もイ ギ リス とア メ リカで はそ の内実 に大 きなちがい は あったが、 「
国家権力 に
対す る個 人 の権利 保護 と代 表制 に も とつ く分権 的 な 自治 の理念 」 をその核 心 にお く点
では共通 してい た。 日本 も欧米 列 強 と国際 的 に対 等 な立場 の獲 得 をめ ざ して、 この趨
勢 を受 け入れ てい くが、歴 史 的伝 統 が異 な るため に 自由主義 ・民 主主義 の社 会 的 な受
容 にお い てイ ギ リス ・アメ リカ とは原理 的 に異 な る立 場 を とっ た。す なわ ち 日本 にお
いては 「
個人 の権 利保 護 よ りも遵 法意識 や従 順 を美徳 とし、君 主 の下 で の一体性 を重
視す る」価 値 意識 の も とで 自由主義 ・民 主 主義 が受容 され てい った ので あ る。 この 自
由主義 ・民主 主義 をめ ぐる価 値観 の相違 が 日本 とイ ギ リス ・ア メ リカ の相 互 関係 を大
き く規定 してお り、相 互理 解 の成 立 を困難 に して いた。 イ ギ リス ・ア メ リカ と くにア
メ リカ は 日本 を 自由主義 ・民主 主義 を否 定す る国家 とみなす傾 向が強 く、 ま た 日本 も
イ ギ リスや ア メ リカ の外交 政策 を正 し く理解 す る ことが難 しか った。 中国問題 をめ ぐ
るイ ギ リス ・アメ リカ と 日本 の対外 政策 の対 立 の根源 には、 この よ うな政治 文化 の原
理 的相違 があ った と著 者 は考 える。
しか しなが ら著 者 の独 自性 は、 日本 とイ ギ リス ・ア メ リカ との間 に原 理 的 な対 立 関
係 を設定 す る ところに あ るので はな くて、 む しろ反対 に この よ うな原理 的対 立 を所 与
の前 提 と して、 そ こか ら 日本 とイ ギ リス ・ア メ リカ との対 立 の歴 史 を演 繹 的 に導 出す
るの を否 定す る ところ に見 出 され る。著 者 は、 日本 とイ ギ リス ・ア メ リカ との政 治 文
化 にみ られ る原理 的相 違 をで きるか ぎ り帰納 的 に導 こ うとす る。す なわ ちそれ ぞれ の
政治 文化 の特 徴 を抽 出す るため に、 それ ぞれ の国 につい て その 内政 ・外 政 の全体 にわ
たって検 証す る作 業 をい とわ な かっ た。 その結果 、本 論 文 は、 中国 問題 をめ ぐる 日英
米 三国 関係 の歴 史的研 究 にお い て通 常想 定 され る守備 範 囲 をは るか に こえた ひ ろが り
を もつ こ とになっ た。 と くにイ ギ リス ・アメ リカ に関 して は、 日本 や 中 国 に直接 関係
一6一
す る問題 に範 囲 を限定 す る ことな く、 内政 ・外政 の よ り広 範 囲 にわ たっ て論 を展 開 し
てい る。 た とえば アメ リカ の ウィル ソ ン政権 につ いて は対 中借 款 団や カ リフォル ニア
の排 日移 民法 の問題 に とどま らず 、 その反 トラス ト政 策や 労働 政策 にま で筆 が及 んで
お り、 イ ギ リス につ い て もネ ビル ・チ ェ ンバ レ ンの政 策理 念 を理解 す るた め に彼 が
第2次 ボール ドウィ ン内閣期 に蔵相 として推進 した社 会政策や地方 自治政策 まで もが分
析 され てい るので あ る。本 論文 がか くも大部 の著 作 となっ て しまっ たの は この よ うな
理 由 によるのであ るが、 その結果 、 日本 につ いて は第1次 桂 内閣 か ら第1次 近衛 内閣ま
での外政 と内政 が、 イ ギ リス につ い ては ソール スベ リー 内 閣か らチ ェ ンバ レン内 閣ま
で、 アメ リカ につい て もセ オ ドア ・ル ーズベ ル ト政権 か らフ ラ ンク リン ・ル ー ズベル
ト政 権 ま での 内政 と外 交 が ほぼ 同様 の密 度 で論 じ られ る こ とにな り、期 せ ず して レベ
ル の高 い20世 紀 前 半 の 日米英 三 国現代 史 の概 説 ともなっ てい る。
政 治文化 の原 理 的 な相違 を想 定す る著者 は、20世 紀 前 半 の段 階 で は、 イ ギ リス ・ア
メ リカ にお ける 自由主義 ・民主 主義 の発 展 は、 自治領 や州 の 自治権 を強 めた結果 、 そ
れ らの地 域 で の多数住 民 の権利 保護 を名 目 とす るアジ ア系移民 の排 斥 となっ てあ らわ
れ た とす る。 また 中国政策 の面 では、 それ らは機 会均 等 ・門戸 開放 政策 とな って あ ら
われ るが、 同時 に不平 等条 約 の存在 を前 提 とした租界 の司法権 ・行 政権 の拡 張 、海 関
や借 款 の 国際管理 とい うか たち を とった とす る。 いず れ も 日本 か らみれ ば、 日本 排 除
の政 策 とみ な され る もので あ り、 日本 は それ に否 定 的態 度 を とった。 い っぽ うイ ギ リ
ス ・アメ リカ か らすれ ば、 日本 は 自由主義 ・民 主主義 を理 解 で きず 、 同化 を拒否 す る
移民 を送 り込 み 、 中国 におい て覇権 を求 め よ うとす る存在 とみ な され た。 しか も両者
の問 に横 たわ る原 理 的 な相 違 の ため、 この相 互理 解 の欠如 は容 易 に埋 め がたい ものが
あっ た と著者 はい うの であ る。
この よ うな政治 文化 にお け る原理 的対 立 を強調 す る議論 はお うお うに して、最 終 的
に太 平洋 戦争 に帰 結 した 日本 とイ ギ リス ・ア メ リカ との対 立 関係 を不 可避 的 な もの と
み なす傾 向 にあ るが、著者 は必 ず しもそ の よ うな立場 を とらない 。著者 は通 常 イ ギ リ
ス ・ア メ リカに対 して協調 的 とされ てい る第2次 大 隈 内閣の外相 の加 藤高 明 と加 藤高 明
内閣か ら浜 口内閣 にか けて の外 相 で あっ た幣原喜 重郎 の外 交 を高 く評価 す る。 それ は
彼 らが 日本 の 国際的地 位 の 向上 を背 景 に して、互 い に異 質 であ る こ とを前提 としなが
らも、 イ ギ リスや アメ リカ と同 じ土俵 の上 に立 っ て競 争 し、 イ ギ リスや アメ リカ に対
して、彼 らと同 じ論理 を駆 使 しなが ら粘 り強 く交渉 し、競 合 しつ つ共存 しな が ら、 日
本独 自の政策 と国益 を追求 した か らであ った(そ
の背 景 には 日本 にお ける 自由主義 と
民 主主義 の拡 大 ともい うべ き大 正 デモ クラシー と政党 政治 の定着 が あっ た と著者 はい
う)。 この評価 基準 か らす れ ば、加 藤外 交や 幣原 外交 こそが真 の意味 での対英米 自立外
交 で あ り、1930年 代 後 半の 日本 外交 はイ ギ リス ・ア メ リカ と同 じ土俵 にの ぼって競争
す る ことをは じめ か ら放棄 して しま ってい る点 で、 もはや 対英 米 自立 とはい えない こ
とに な る。
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現 在 の学 問的水 準 か らす る と、外 交 史料 をは じめ とす る政府 関係 の公 文 書、政 策 決
定や 外交 交渉 に関与 した人 物 の私文 書 な どの一 次史料 を網 羅 的 に収 集 し、 それ らの精
密 な分析 に依 拠 して論 を展 開す る こ とが国 際 関係 史 の研究 におい て は必 須 の条件 とさ
れ てい る。実 証性 の高い信 頼 で き る研 究 であ るた め には、 これ は当然 の ことでは あ る
が 、 しか しそ の反 面 、膨大 な史 料 を操 作 す る こ とに追 わ れ るあ ま り、 一人 の研究 者 が
手 に負 える研 究対 象 の時 間的 ・空 間的範 囲 は 自ず と限 られ て こ ざるを えない。 比較 的
狭 く時 間 の幅 を き り、 あ る特定 の国際 関係 史上 の具体 的 問題や 事件 をめ ぐっ ての多 国
間 関係 それ も対外 的 な政策 決定 過程 や相 互 交渉 の過程 を軸 に した相 互 関係 の分析 に終
始す る こ とが多 い ので あ る。本 論文 は、 その よ うな研 究手 法 を と らな くとも、す ぐれ
た現代 史研 究 が可能 で ある ことを示 した好 著 であ る。 もちろん、本 論文 にはオー ソ ドッ
クス な外 交史研 究 として も高 く評価 すべ き部分 が含 まれ てい る。1925年 の北京 関税 会
議 を扱 った第11章
や1929年
か ら31年 にか けて中国 と欧米諸 国 との間でお こなわれ た
治外 法権撤 廃交渉 を扱 っ た第14章
が そ うで あ る。 これ らは個別研 究 としてす で に学界
で も高 い評価 を受 けてい る。 しか しそれ 以外 の部 分 で は、 それ ぞれ のテー マ につい て
の内外 の優れ た専 門研 究書 を入 念 に読 み込 む こ とで議 論 が組 み立 て られ てい る。 その
中に は通 常 この時期 を研究 対象 とす る 日本 の政治 外交 史 の専 門家 が決 して手 に取 る こ
との ない よ うなイ ギ リスや アメ リカ の各 政権 に関す る研究 書 が多数 含 まれ る。 ま た、
そ うしな けれ ば本 論文 の よ うな野 心的 な著作 は不 可能 であ った ろ う。 日本 の政治 外 交
史 の研究 としてみ た場 合 、本論 文 が採用 した方法 は、京都 大 学 の現 代 史学 専修 が求 め
て きた多面 的 な相 関 関係 を重視 す る現代 史研 究 の あ り うべ きひ とつ のモ デル を示 した
もの として高 く評価 で き る。
なお 、 日本 の政 治外 交史 プ ロパ ー の研 究 として も、本論 文 には数 多 くの創 見 が見 い
だせ る。加 藤 外 交や 幣原外 交 の評価 につい て はす で に述 べ たが、 そ の ほか にも満 洲 事
変後 の皇 道派 と統 制派 の評価 が あ げ られ る。近年 井上 寿 一や森 靖 弘 に よ り満 洲事 変後
に 日中関係 の悪化 にブ レー キ をか ける存 在 として統制 派 の永 田鉄 山を高 く評価 す る学
説 が 出 され た が、著者 は これ を否 定 し、む しろ満 洲事 変後 に対 ソ対 中静 観 主義 を とっ
て紛 争 の拡大 を止 め よ うと した のは小畑 敏 四郎等 の皇道派 であ り、権力 志 向 の強い 永
田は皇道 派 を一掃 し、青年 将校 運動 をスケ ー プ ゴー トとして弾 圧 しつ つ、華 北 分離 工
作 を推進 してい き、対 中政 策 の混 乱 を もた らす とともに、 日中戦争 の原 因 をつ くった
とす る。皇道 派 を過大 評価 してい るき らい が な し としない が、永 田 と統 制派 の評 価 に
つ い ては、史 料 の解釈 とあわせ て説 得 的 な議 論 が展 開 され てい る とい えよ う。
以 上審 査 した ところ に よ り、本論 文 は博 士(文 学)の
と認 め られ る。 なお、2012年12月27日
、調 査委員3名
事柄 につ い て 口頭 試 問 を行 った結果 、合 格 と認 め た。
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学位論 文 として価 値 あ るもの
が論文 内容 とそれ に関連 した
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