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現代青年の友人関係と心理的特徴について

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現代青年の友人関係と心理的特徴について
SHR No.75
現代青年の友人関係と心理的特徴について
滋賀大学保健管理センター 非常勤カウンセラー
永山 智之
自己紹介
れています。
こんにちは。滋賀大学保健管理センター(彦根キャンパ
従来の青年期の友人関係は、親密で内面を開示し合い、
ス)の非常勤カウンセラーの永山智之と言います。昨年度よ
人格的共鳴や同一視をもたらすような友人関係です(2)。一
り、学生の皆さんへのカウンセリングやワークショップに携
方で近年、内面を開示するような深く親密な友人関係を避
わっています。学生生活や将来のこと、人間関係のことなど、
け、友人から低い評価を受けないように警戒したり、互いに
学生時代には悩むことが色々あるかと思います。誰かに話
傷つけあわないように表面的に円滑な関係を志向したりす
すと少し気持ちが楽になることもあるかと思いますし、一人
る傾向が見られるようになりました(3)。現代青年の友人関係
で悩まずに、
まずは相談しに来てください。時には、知ってい
には、①互いに傷つけあわないように気を遣う傾向②互い
る人には話しにくいこともあるかもしれません。秘密は固く
の領域に踏み込まないように、関係の深まりを回避する傾
守りますので、安心して話してください。自己理解や自己表
向③楽しさを追求し群れる傾向があることが指摘されてい
現、仲間との出会いの場としても活用してもらえたらと思い
ます(4)。
ます。少しでも皆さんのお役に立てたらと思っています。
よろ
青年期女性のコミュニケーションの特徴の例(5)
しくお願いします。
①がっかりした顔ができない
これは、相手によって引き起こされた事態に落胆しても、
すばやく取り繕ってしまい、素直な表情になれないというも
のです。例えば、映画に行く約束をドタキャンされてがっかり
さて、今回は青年の友人関係、特にその現代的なあり方に
したが、
「それならいいよ」
と言ってしまい、後で後悔したりし
ついて取り上げたいと思います。
ます。
「本当は残念だという気持ちがきちんと相手に伝わっ
ていない感じがする。それどころか、そんなつもりはなくて
も、映画も相手も軽く思っているみたいに思われているので
はないかと気になってしまう」
「『行きたかったのに』
という
と、相手に余分なプレッシャーを与えるのではと思い、プ
レッシャーを与えないようにあっさり引き下がる」
といった感
じです。相手が残念な気持ちを起こした責任感を負担に感
じてしまうことを避けるため、先回りして大したことではない
現代青年の友人関係
と言ってしまい、その結果、相手を軽視したような気がして
青年期の友人関係は、年齢とともに、浅く広い付き合い方
いるのです。
ここでは、
自分の本音を吐露することによって相
から深く親密な付き合い方に発展していくとされています
手に気を遣われる恐れとともに、自分の
が(1)、近年、青年の友人関係のあり方が変化してきたと言わ
によって相手との関わりそのものを軽視(回避)
してしまった
(1)
藤を回避すること
SHR No.75
ことになるのではないかという恐れがうかがえます。打開策
よって、相手を傷つけてしまうかもしれないことを危惧する
として、
「今度いつ行こうかと次の予定を一緒に立ててはどう
が故の対人距離化なのです。
しかしその一方で、相手との関
か」
と次の行動を提案することで二人の関係は前進し、相手
係を表面的に保つことによって自分自身が傷つけられるこ
の気持ちを楽にすることもできるかもしれません。
とも避けている。
【自分に対するやさしさ】
でもあります。
従来言われていた「ヤマアラシ・ジレンマ」は「居心地のよ
②相手が相談を持ちかけようとするとき、先手を取って距離化
い親密な関係を求めている二人が「近づきたいが、近づき
する
すぎると傷つくことになるため、離れたいという欲求が生じ
これは、相談をもちかけられると、あらかじめ「私には意見
る」
という葛藤を繰り返すというものでした(7)。
しかし、現代
は言えないから」
と言っておくというものです。
「友人が相談
のヤマアラシ・ジレンマは、
【近づきたい‐近づきすぎたくな
を持ちかけそうな雰囲気はなんとなくわかるけど、自分が
い】
【 離れたい‐離れすぎたくない】
という微妙な葛藤であ
言った意見で相手の問題が解決するとは思えないので本当
り、意図せぬ形で互いを傷つけあうことを恐れながら、
「個」
は聞きたくない」
と感じるからです。
しかし、その一方で、
「そ
としてのあり方が確立できずに相手と離れられないという複
うすると気が楽だけど、逆に、相手に対して冷たすぎるので
雑な心性だと考えられます。相手を傷つけることを恐れ、か
はと思ってしまう」
「相談されたらやっぱり意見を言わなくて
つ自分の本音や感情に触れることも恐れており、相手を傷
はならなくなるけど、自分の意見で相手の気持ちが変わる
つけそうになると、自分の本音を直ちに引っ込めているので
のはやっぱり怖い」
「愚痴や不満を聞くと、それが自分のこと
す。
でなくても、聴くだけで解決できないのは相手に対して申し
訳ないような気がしてしまった」
とも感じます。
ここでは、先手
みなさんや周りの人たちの友人関係はどうでしょうか。
ま
をとって相手との関係を距離化しておくことによって責任を
た、お互いにどのような工夫ができるでしょうか。
回避するとともに、話を聞いてしまうことによって生じる自分
の中の感情(例えば「聞いてもどうしてあげることもできな
い」
という無力感や苛立ちなど他人の話を共感的に聞くとき
に湧き起こる様々な気持ち)を回避していると考えられま
す。
新しいやさしさと旧来のやさしさ(5)
このことと関連して、近年、
「やさしさ」のあり方が変わって
きたとも言われています(6)。すなわち、旧来のやさしさが「相
お知らせ
手の気持ちに配慮し、相手の気持ちを我がことのように考え
彦根キャンパスの保健管理センターは12/3より元の保
る一体感」であったのに対して、
「相手の心に立ち入らず、そ
健管理棟に戻ります。
うすることで相手と滑らかな関係を保つ」
という新しいやさ
しさのあり方が出てきたのです。先の 2 つの例(①・②)
も、
深くかかわることによって起こる対人関係の葛藤を回避して
滑らかな関係を維持しようとすることに伴う問題といえま
す。対立の回避を最優先にし、他人と積極的に関わることに
(2)
SHR No.75
現代青年の友人関係のタイプと個人特性
かかわりを回避する人は、自我同一性(アイデンティティ)の
友人関係は、個人特性との関連も示唆されています。現代
確立感が低く、積極的に友人との快活な関係を求め、
自己を
青年の友人関係に対する調査研究(8)では、①情緒的に近い
開示する関わり方をする人は、自我同一性の確立感が高い
関係を回避する青年、②情緒的に近い関係を持つ青年、③
とも言われています(9)。
友人から傷つけられたり、友人を傷つけることを避け、
また
友人と群れていようとする傾向が高い青年という 3 群が見
友人関係は、自尊感情やアイデンティティなど、自分自身
出されています。
さらに、
「友人から傷つけられることを回避
のことにも関わってくるものだと言えます。みなさんも自分の
する」
ことが、
「友人から傷つけることを回避する心性」を経
友人関係を振り返って、自分自身について考えてみてはどう
て、
「被拒絶感」
を低減し、結果的に自尊感情を維持させる構
でしょうか。
造が示されました。つまり、現代青年の友人関係において、
自他共に傷つくことがないよう配慮することによって、相手
【文献】
から拒絶されず受容されることを通して、自尊感情の水準を
1 落合良行・佐藤有耕.青年期における友達とのつきあい
高揚・維持しようとする過程が見出されたのです。
これは、特
方の発達的変化.教育心理学研究.1996, 44(1), p55-65.
に気遣い・群れ関係群において顕著に見られました。
このこ
2 西平直喜.成人になること−生育史心理学から.東京大
とから、友人関係の中で気を遣うことは、必ずしも否定的な
意味合いだけではなく、青年の自尊感情維持という肯定的
学出版会.1990.
3 千石保.まじめ の崩壊−平成日本の若者たち.サイマ
な機能を持つとも言えます。
しかし、その自尊感情が、常に
ル出版会.1991.
他者の承認を得られないと傷ついてしまう懸念に基づいた
4 岡田努.現代大学生の友人関係と自己像・友人像に関
不安定な自尊感情なのか、自分が他者の意図や状況に適切
する考察.教育心理学研究.1995, 43(4), p354-363.
に合わせられる高い対人スキルを持っているという自信に
5 徳田仁子.思春期・青年期のコミュニケーション―<関
つながるものかという、自尊感情の質に関する検討は今後
係>から<共有>へ.ひと・文化・発達.京都光華女子
の課題となっています。
大学人間科学部人間科学科(編).ナカニシヤ出版.
2010, p129-147.
6 大平健.やさしさの精神病理.岩波書店.1995.
7 藤井恭子.青年期の友人関係における山アラシ・ジレン
マの分析.教育心理学研究,49(2), p146-155.
8 岡田努.現代青年の友人関係と自尊感情の関連につい
て.パーソナリティ研究.2011, 20(1), p11-20.
9 松下姫歌・吉田愛.大学生における友人関係と自我同一
性との関連 広島大学心理学研究.2009, (9), p207216.
また、青年期は「自分は何か」
「自分はこれからどうなって
いくか」
という問いへの答えを模索し、自我同一性(アイデン
ティティ)
を確立していく時期です。友人に気を遣う人や深い
(3)
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