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Title 跡津川断層北東部周辺における花崗岩類の粒界割れ目現象 : SEM 反射電子像 Author(s) 金折, 裕司 Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[24] p.[51]-[69] Issue Date 1988 Rights Version 岐阜大学教養部地学研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) / 岐阜大学教養部地学研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) / 岐阜大学教養部地学研究 室 (Faculty of General Education, Gifu University) URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/47701 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 51 跡津川断層北東部周辺 にお け る花 岡岩類の 粒界割れ 目現象 : S E M反射電子像 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石田 毅* 岐阜大学教養部地学研究室 ( 1988年10月12日受理) Grain boundary cracking of granitic rocks around the northeastern region of the A totsugawa fault, central Japan: SE M backscattered- electron images Yuji KANAORI , Kenji YAIRl and Tsuyoshi ISHIDA A bStract Backscattered electron (BSE) images of granitic rocks distributed around the northeastem region of the A totsugaw a fault in centra1 Japan w ere observed by scanning electron microscopy. T he BSE images revealed that grain boundary cracking strongly depends upon mineralogical combination of tw o grains adjacent each other at the boundary. T here are siχ possible different mineralogical combina- tions at the grain boundaries, for the three m ain constituent minerals of the granitic rocks, quartz, plagioclase and alkali feldspars. E ach grain boundary w as qualitatively divided into tw o types; partially to perfectly open grain boundary, and almost closed grain boundary. T he occurrence of partially to perfectly open grain boundaries and also the number of the different types of open grain boundaries in terms of the mineral combination at grain boundaries, increase with proχimity to the fault. T his suggests that grain boundaries are morereadily opened in the order of:(1) quartz /feldspars (plagiodaseand alkali feldspars)boundaries, (2) quartz /quartzboundaries, (3) plagioclase/plagioclase boundaries, (4) alkali feldspar/plagioclase, and (5) alkali feldspar/alkali feldspar b.oundaries boundaries. T hey may be caused by therm al eχpansion and contraction m ainly due to general cooling, faulting and/ or w eathering. T herefore, grain boundary cracking revealed in the BSE images is an important aid in understanding the thermal-ted onic processes, and in evaluating mechanical properties and perm eability. は じ め に 我 々が地表近 く で見 る こ と ので き る花尚岩類は, 地下深所で形成 さ れ, 長い時間を 経て地表付近 に姿を現 し た も ので あ る。 し たがっ て, これ ら花尚岩類は, 通常長時間にわた る冷却過程 に伴 う温 度 ・ 圧力変化, お よびその岩体が経験 した 断層運動や火成活動の影響を受け, 最終的には地表付近 で風化作用を 受けて きて いる。 こ のた め, 花嵩岩類には多種多様 な微小変形構造が認め られる ( 金 折他, 1988) 。 これ ら微小変形構造を調べ る こ と に よ って, 花尚岩類の受けて きた熱履歴や変形史を * 胎 電 力 中 央 研 究 所 我 孫 子 研 究 所 立 地 部 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石 田 52 解明で き る可能性があ る 【Tullis and 毅 】 Y und, 1977; G apais and Barbarian, 1986; Schedl et a1. , 1986; 金 折 他 , 1988; Evans, 1988) 。 花尚岩類に存在す る天然微小空隙や 微小割れ 目につ い て は, Brace et a1。 ( 1972) が走査型電子顕微鏡 ( S E M) に よ っ て 初 め て 観 察 し, そ の 後, Sprunt aUd Brace ( 1974) , M ont- gomery and Brace ( 1975) , Dengler ( 1976) な どに よ っ て, 研究が行われ た。 特 に, 花嵩岩類 に認め られ る微小 割れ 目は, 岩石 お よび岩盤の力学的異 方性 に関係 し て い る こ と が知 られて き て い る ( Douglass an(! Voight, 1969; 工藤他, 1986 ; 1987) 。 地下数kmか ら 回 収 さ れた花尚岩類の岩芯 につ いて, S EM や光学顕微鏡で の微小割れ 目の研 究が行われて お り ( 金折, 1987) , これ ら微小割れ 目が岩体の透水性や弾性波 速度 に関係 し て い る こ と が分か っ て き てい る ( Kowallis and W ang, 1983; K ow allis et al・, 1987; XVang and Sim 一 mons, 1978; 図一 1 B atzle and Simm ons, 跡津川断層周辺の花 肖岩類の分布 と調査位置 ( 山田他, 1974を 簡略化) 。 二重括弧内が図一 2 に示す調査位置 で あ る。 1976) 。 さ ら に, 花尚岩類を試料 と し て 1. 主要 な 断層。 2 . 白亜 紀 後 期 ~ 古 第 三 期 花 肖 岩 類 。 3. 三畳紀 ~ ジ ュ ラ紀花肖岩類。 4 . 変成岩類 も し く は堆 積岩類。 圧縮応力下で変形 さ せ, S E M を用い て微小割れ 目の進展過程が詳 し く 調べ られ ( Tapponnier and Brace, 1976; Kranz, 1979ab; Padovani et al., 1982) , 微小割れ 目の発生 に よ っ て弾性波異方性が生 じ る こ と が知 られて い る ( CrampinandEvans, 1984 ; 柳谷他, 1987) 。 また, 高温下の圧縮実験で も 同様 な研究が行われて い る ( W ong, 1982; Fredrich and W ong, 1986) 。 花尚岩類に認め られ る微小割れ 目は, 主 と し て, 粒間, 粒内, 粒界割れ 目の三種類があ るが( Kranz, 1983) , 実験的に高温下に置かれた花尚岩類で, 粒界割れ 目の発生が顕著に認め られる ( Batzleetal., 1980; H om and- Etienne and T roalem , 1984; F redrich and W ong, 1986) 。 自然 状 態 の 岩 石 類 に も , 粒界割れ 目の存在が し ば し ば報告 さ れて い る ( Padvani etal, 1982 ; 金折他, 1988) 。 従来, S E M の 2 次電子像や光学顕微鏡で は, 粒界を はっ き り捉 え る こ とが困難で あ っ たた め ( Kranz, 1983) , 粒界付近の割れ 目が完全に粒界に沿 う も ので あ るか否かはよ く わか らなかった。 し か し なが ら, S E M を用いた反 射電子 ( B S E ) 像 ( 組成像) で は, 鉱物結晶の種類の違 いを はっ き り と捉 え る こ と が可能 なた め ( Hall and Lloyd, 1981) , 粒界割れ 目を精度良 く 観察す る こ と がで き る ( Durham et al. , 1985 ; 金 折 , 1987 ; 金 折 ・ 矢 入 , 1987) 。 こ こで は, 跡津川断層東北部真川付近 に分布す る花肖岩類 につ いて, 二 S E M 反射電子像 に よ る微 小割れ 目の観察 を行い, それ らの う ち特に粒界割れ 目について詳細 に記載 し, その花肖岩類が受け て きた熱履歴 ・ 変形史か ら粒界割れ 目の成因, 形成過程を考察す る。 跡津川断層北東部周辺 におけ る花尚岩類の粒界割れ 目現象 0 1 2 ん年上卜 !寡 八 MG2 53 3 km 図一 2 試料採取位置。 (b)の図は(a) の図の一部 を 拡大 し た も ので あ る。 (a)跡津川断層 に伴 う破砕帯露頭位置 と試料採 取位置。 1 . 試料採取位置 と試料番号。 2 . 試料採取 の基準 と し たLoc.54-4の位置。 3 . 断層破砕帯露頭位置 と露頭番号。 露頭の性状は宮腰他 ( 1982) と金折他 ( 1988) に示 し て あ る。 (b)Loc.54-4北側約100m間の岩石分 布 と試料採取位置。 1. 試料の採取位置 と 試料番号。 MG23以外は, 肉眼で はほ と ん ど破砕が認め ら れな い。 2 . 小断層 も し く はガ ウジ帯の走向 ・ 傾斜。 3 . 安山岩質岩脈の走向 ・ 傾斜。 4 . 安山岩質岩脈。 5 . 断層角 牒帯 と ガ ウジ帯。 6 . 花肖閃緑岩。 7 . 崖錐。 8 . 第四系。 跡津川断層の概要 跡津川断層は, 富山県南東部か ら岐阜県北西部にかけて, 東北東一西南西に延びる, 約60kmの長 さ を もつ我が国で最 も規模の大 き い断層の一つで あ る ( 図一 1) 。 試料採取を 行 っ た地域で は, 三畳 紀 ~ ジ ュ ラ紀 の船津型花尚岩類 ( 野沢, 1979) お よび手取層群か ら な る基盤岩を 5 m~ 50m以上の 幅で破砕 さ せ, 一部で は第四系を 変位 さ せて い る ( 宮腰他, 1982) 。 基盤岩お よび断層破砕帯中に は, 断層 の走向にほぼ平行す る安山岩質の貫入岩が認め られ る こ と があ る。 松田 ( 1966) は跡津川 断層に沿 っ て地形的な変位が認め られる こ と を 明 らかに し, そ の断層変位が1958年の飛越地震を発 生 さ せた 可能性があ る と し て い る。 跡津川 断層周辺に分布す る花 尚岩類 の微小変形構造 につ いて は, 光学顕微鏡 を 用いた Kosaka ( 1980) や金折他 ( 1988) があ り, S E M カ ソ ー ドル ミ ネ ッ セ ソ ス像 を 用 いた Kanaori ( 1986 ; 1987 ; 1988) の研究があ る。 跡津川断層の露頭は, 断層角磯帯 と ガ ウジ帯を含む断層破砕帯 と し て確認す る こ とがで き, 調査 地域内に 9 箇所確認で き る( 図一 2 ) 。 こ の う ち, Loc.54-4で は, 第四系 と船津型花崩岩類 とが破砕 帯を 介 し て接 し て い る ( 金折他, 198・2ab ; 竹村 ・ 藤井, 1983 ; 山田 ・ 竹内, 1983) 。 試料 と観察方法 (1) 試 料 試料採取位置を 図一 2 に示す。Loc.54-4の断層破砕帯か ら北側100mの区間で は試料を 数10m間隔 54 金折裕 司 ・ 矢 入憲二 ・ 石 田 で密に採取 し, 毅 さ ら に北側 3kmの区間お よび南側2. 5kmの区間で は, 500m前後の間隔で試料採取 し た。 採取 し た試料の う ち, MG-23は風化の著 し い花尚岩類で あ るた め, 研磨薄片作成で は, 前処理 と し て市販のシ ア ノ ア ク リ レー ト系接着剤で 固化 し た。 その他の試料はほぼ新鮮 な岩石で あ る。 (2) 観 察 方 法 通常の方法で研磨薄片を作成 し, そ の表面を金 (Au) で スパ ッ タ リ ン グ蒸着 し た。 一部の試料で は, 蒸着物質の違 いに よ る微小割れ 目への影響やそ の見 え方の違 い ( Kranz, 1983) を検討す るた め, も う 1枚研磨薄片を作成 し, 表面を炭素( C) を真空蒸着 した。いずれも蒸着膜の厚 さ を20~ 40nm と し た。 観察には, サ ソ ユー電子㈱製 S-B S E 型反射電子検 出器を装着 し た㈱ 日立製 S-450形走査型電子 顕微鏡を用い, 観察時の加速電圧は, 20Kev も し く は25KeV と し た。 粒 界 割 れ 目 S E M で得 られ る B S E 像の特徴は, 鉱物種の違いが明暗で 明瞭に表現 さ れる こ と で あ る ( Ha11 and Lloyd, 1981) 。 観 察 さ れ た 花 肖 岩 類 を 構 成 す る 主 要 鉱 物 は , 雲母で あ る。 B S. E 像で は, 石英が最 も 暗 く , 石英, 斜長石, ア ル カ リ長 石 , 黒 こ の順序 に結 晶粒 が明 る く 見 え, 異種鉱物 が接触 し ている粒界が鮮 明に写 し 出さ れる。 粒界の位置が正確に示 さ れる こ とか ら, 粒界に存在す る微小割 れ 目を はっ ぎ り と確認す る こ とがで き, かつ, 開 口幅な どを精度良 く 計測す る こ と が可能で あ る。 同一試料か ら作成 し た 2枚の研磨薄片について, それぞれ金 と炭素で表面蒸着 し, 粒界に認め ら れる微小割れ 目の見 え方の違 いを検討 し た結果で は, 両者 に本質的な違 いは認め られなか っ た。 試 料作成時に起 き る試料表面の損傷を 完全 に除去す るた めに, イ オ ンエ ッ チ ン グ法が一般 に用 い られ て き て い る ( T apponnier and Brace, 1976) 。 粒界割れ 目は, 薄片表面付近 の現象で はな く , また, 試料作成時に形成 さ れた表面付近の損傷 と異 な るた め, こ こで は こ の方法を用いて いない。 調査対象 と し た花嵩岩類には光学顕微鏡を用い る と, 粒間, 粒内, 粒界な どの種 々の変形構造が 観察 さ れる。 こ れ ら鏡下の変形構造は, 金折他 ( 1988) に詳 し く 報告 さ れて い る よ う に, 大部分は 癒合 し て い るか, また は鉱物で充填 さ れて い る こ と に よ っ て特徴づ け られ る。 こ の う ち癒合割れ 目 は, S E M を 用 いた カ ソ ー ドル ミ ネ ッ セ ソ ス像で 明瞭 に観察 さ れて い る ( Kanaori, 1986 ; 1987 ; 1988) 。粒界変形構造の う ち粒界割れ 目お よび粒界に関連 し た割れ 目は, 光学顕微鏡や S E M カ ソー ドル ミ ネ ッセ ソ ス像で は明瞭 に と ら え る こ と が困難で あ ったた め, 従来の方法で はその性状はあ ま り 解明さ れて いな い。 B S E 像で はごれ らを鮮明に観察す る こ と を可能に し た。 以下に粒界割れ 目お よび粒界に関連 し た割れ 目の性状や種類について述べ る。 (1) 性 状 花崩岩類を構成す る主要鉱物で あ る石英 と長石類 ( アルカ リ長石, 斜長石) に注 目し, 隣 り合 う 鉱物種の組み合わせを考 え る と, 次の 6通 りの粒界があ る。 す なわち, 同種鉱物同士の組み合わせ の粒界 と し て, 石英一石英, 斜長石一斜長石, アルカ リ長石- アルカ リ長石の三種類があ り, 異種 鉱物同士の粒界 と し て, 石英一斜長石, 石英一 アルカ リ長石, 斜長石- アルカ リ長石の三種類であ る。 B S E 観察結果, それぞれの粒界で の接触関係は, 定性的に, (a)隣 り合 う結晶粒がほぼ完全 に密 着 し て い るか, (b)一部 も し く は完全に開 口し て い るかの 2 つ に大別可能で あ る。 開 口し て い るか密 着 し て いるかは, 上記鉱物組み合わせの違いに依存す る。・写真一 1 は, 周囲を アルカ リ長石に囲ま れた石英粒の例 で あ る。 石英外縁に開 口割れ 目が認め られる。 粒界に一部一致 し ない部分 も あ るが, 大部分が粒界に一致 し て い る。 写真一 2 は同様 にアルカ リ長石に囲まれた石英粒の例で あ るが, こ の例で は, 粒界の割れ 目がアルカ リ長 石の中まで連続 し て い る。 写真一 3 で は石英一 斜長石粒界 跡津川断層北東部周辺 にお け る花 尚岩類の粒界割れ 目現象 55 写真一 1 花尚岩類の B S E 写 真 ( 試料番号 : MG3) 。 石英 ( 暗 い結晶) - アル カ リ長石 ( 明る い結晶) 粒界の開 口割れ 目。 写 真左の最 も 明る い結 晶は鉄鉱物 で あ る。 右下の数字の う ち, 最 初の数字が観察時の加速電圧で, 右が ス ケ ールを 示す バ ー と そ の 長 さ を 示す ( nm単位) 。こ の写真 の場 合 , 53×103= 53,000nm で あ る。 以下の写真 も 同様で あ る。 写真一 2 花剛岩類のB S E 写 真( MG7) 。 石英一 ア ル カ リ長石 粒界の割れ 目がアル カ リ長石の 中に連続 し て い る。 暗 い結晶が 石英, 明 る い結晶が アル カ リ長 石で , 中間 が斜長石 で あ る。 以 下の写真で特に こ と わ ら ない限 り, 明暗 と鉱物種 の関係は こ の 写真 と 同 じ で あ る。 が顕著 に開 口し て い る のが認め られ, そのほかの粒界はご く 一部が開 口し て い る にす ぎず, ほ と ん ど密着 し て い る。 写真一 4 は, 同種粒界で あ る斜長石一斜長石粒界は開 口し て い るが, 異種粒界の 斜長石- アル カ リ長石粒界が密着 し て い る例で あ る。 写真一 5 と 6 には, 鋸歯状粒界の例 を示す。 こ の粒界で は, 斜長石 と アル カ リ長石の境界に斜長 石 よ りやや暗い ゾーン と し て現れて い る曹長石化 し た ゾーンが認め られる。 写真一 5 で は鋸歯状粒 56 金折裕 司 ・ 矢人憲二 ・ 石 田 毅 写真- 3 花剛岩類 の B S E 写 真 ( MG16) 。 石英一 アルカ リ長 石粒界は開 口し て い るが, アノレ カ リ長石一斜長石粒 界は開 口し て い な い。 写真- 4 佗圈岩類の B S E 写 真 ( MG14) 。 斜長石一 斜長石の 同種粒界に認め られ る粒界割れ 目。 斜長石- ア ル カ リ長 石 の異 種粒界が密着 し て い る こ と に注 意。 界が一部開 口し て い るが, 写真~ 6 で は完全 に開 口し て い る。 以上述べた よ う に, それぞれの試料 で, 粒界に割れ 目が存在す るか と う かは, 粒界で接す る鉱物種 に関係 し て い る。 (2) 粒界で の鉱物組み合わせ と粒界割れ 目 粒界で の接触関係を , (a)ほぼ完全 に密着 し て い る か, も し く は(b)一部以上開 口し て い るかのいず れかに分け る と す れば, 上記 6種類の鉱物組み合わせて は 2 6= 64通 り の組 み合わせが考 え ら れ る こ 跡津川断層北東部周辺 におけ る花尚岩類の粒界割れ 目現象 57 写真一 5 花剛岩類の B S E 写 真 ( MG14) 。 一部開 口し た のこ 歯状粒界。 ア ルカ リ長石 と斜長 石結晶の粒界部のやや暗い ゾー ンは, 曹長石化 し た 部分で あ る。 写真一 6 花肖岩類の B S E 写 真( MG9) 。写真一 5 と比較す る と よ く わかる よ う に, 完全に開 口したのこ歯状粒界。 斜長石に はへ き開割れ 目が認め ら れ ( 写 真右下) , アル カ リ長石には連続 性が乏 し い粒内割れ 目が存在す る。 と にな る。 試料 と し た花南岩類を観察 し た 限 りで は, すべて の可能な鉱物組み合わせにつ いて, 粒 界で の開 口が認め られ るので はな く , 開 口の認め られる粒界で の鉱物組み合わせには規則性があ る。 一つの試料内に存在す る全粒界につ いて, 接触関係を調べ る と, すべて の種類の粒界が密着 し てい る試料はな く , 1種類の粒界だ けが開 口し残 りは密着 し て い る試料 も認め られず, 普遍的 に 2 種類 以上の粒 界が開 口し て い る。 粒界で の開 口が一部 も し く は全体 に観察 さ れ る粒界鉱物種 の組み合わ 58 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石 田 毅 表- 1 粒界の種類 と粒界割れ 目 Q : 石英, P : 斜長石, A : ア ル カ リ長石 異 種 粒 界・ A / P Q/ P Q/A 粒界の種類 2種 : 開 口 屁勿 勿 皿 皿 El 3種 : 開 口 E匹 匹 I 皿 勿 4種 : 開口 四 回皿 乙 勿 5種 : 開 口 皿 6種 : 開口 皿 皿 皿 皿 皿 同 種 粒 界 Q/Q P/ P A /A せを表- 1 に示す。 このよ う に, 粒界割れ 目が存在す る粒界種の組み合わせは, 次の 5通 り し かな い。 (a) 2種類の粒界に開 口が認め られる もので は, 石英一斜長石 と石英一 アルカ リ長石粒界に開 口 が限 られ, その他の種類の粒界は密着 し て い る ( 写真一 7 ) 。 (b) 3種類の粒界に開 口が認め られ る も ので は, ㈲ に加 えて石英一石英粒界の開 口が認め られる ( 写真一 8 ) 。 (c) 4種類の粒界に開 口が認め られる も ので は, (b) に加 えて斜長石一斜長石粒界で あ る ( 写真 一 9) 。 (d) 5種類の粒界に開 口が認め られ る も ので は, (c)に加 えて アルカ リ長石- アルカ リ長石粒界が 開 口し てお り, アルカ リ長石一斜長石粒界だ けが密着 し て いる ( 写真一10) 。 (e) 6種類 ( 全種) の粒界に開 口が認め られ る も のであ る ( 写真一11と12) 。 この場合, 開 口の幅 は試料 に よ っ て異 な る。 粒界 に関連 し た微小変形構造 次に, B S E 像に よ って 明瞭に観察 される粒界に関連 し ている微小変形構造の実例を い く つか示 す。 (a) 写真一13に石英 と の粒界か ら アルカ リ長石内に放射状に延びて い る割れ 目の実例を示す。 こ の場合, 微小割れ 目は石英 の外周の湾曲し て い る点で始 ま っ て いる。 一部の割れ 目は, 絹雲母で充 填 さ れた り, 癒合 し た り し て い る。 (b) 粒界割れ 目と粒界割れ 目を連結す る よ う に存在す る開 口割れ 目を認め られる ( 写真一14) 。 (c) 黒雲母で は石英 と の粒界に沿 っ て キン グバン ドが認め られる こ と ( 写真一15) , 黒雲母のへ き 開に沿 って , 中央部 の膨 ら んだ 開 口割れ 目や平行 な 開 口割れ 目が認 め ら れ る こ と があ る ( 写真 一 16) 。 粒界割れ 目 と断層位置 粒界割れ 目が認め られる粒界で接触す る鉱物種の組み合わせ と断層位置の関係を 図一3 に示す。 断層の北側70m と南側150mの範囲内で は, そ の外側 に比べて, 粒界割れ 目が粒界で の鉱物種の多 く の組み合わせに認め られる。 すわなも , この範囲内で は 4 ~ 5種の粒界に開 口割れ 目が認め られる 跡津川断層北東部周辺 におげる花尚岩類の粒界割れ 目現象 59 写真一 7 花南岩類 の B S E 写 真( MG7) 。 2 種類の粒界が開 口 して い る例。 石英一斜長石粒界 の大部 分 と 一部 の石 英一 ア ル カ リ長石粒界に割れ 目が認め られ る。 石英 に認め られ る粒間割れ 目 ( 写真中央) が斜長石- アル カ リ長石粒界に も連続 し て い る 八 こ れは非常 に稀 な もので あ る。 写真一 8 花嵩岩類の B S E 写 真( MG3) 。 3 種類の粒界が開 口 し て い る例。 石英一 斜長石, 石 英一 ア ル カ リ長石, 石英一石英 粒界が開 口し て い る。 斜長石。 アル カ リ長石, 石英 内には連続 性の乏 し い粒内割れ 目が認め ら れ る。 のが一般的で, 断層のご く 近傍で はすべて の粒界に開 口割れ 目が存在す る こ と もあ る。 この外側で は, 粒界割れ 目の出現頻度が低 く , 例外的 に 4種類の粒界に開 口割れ 目が認め られ る こ と もあ るが, 一般 に, 3種類 も し く は 2種類の粒界に開 口割れ 目が認め られ る。 以上述 のよ う に, 粒界割れ 目の発生 して い る粒界の鉱物組み合わせ種類数 と 出現頻度は, 定性的 で はあ る が, 断層か ら の距離 に関係 し て い る様 で あ る。 60 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石田 毅 写真一 9 花肖岩類のB S E 写 真 ( MG18) 。 4 種類の粒界が開 口 し て い る 例。 ア ル カ リ 長 石 - ア ル カ リ長 石, ア ル カ リ長 石 一斜長石粒界は, ほぼ密着 し て い るが, 残 りの粒界は開 口し て い る。 写真一 10 花崩岩類のB S E 写 真 ( MG23) 。 5 種類の粒 界が開 口 し て い る 例。 ア ル カ リ 長 石 - アルカ リ長石粒界が密着 して い る他は, 粒界が開 口し て い る。 考 察 以上述べて きた粒界割れ 目は, 粒界を構成 し て い る隣 り合 う鉱物種 に密接 に関係 し て お り, 石英 一長石粒界に多 く 存在 し, アルカ リ長石一斜長石粒界にはあ ま り存在 し て いな い。 また, 断層近傍 で は粒界割れ 目の発生頻度が高 く , 開 口が認め られる粒界の種類 も多い。 これ らの事実に基づ いて, 跡津川断層北東部周辺 にお け る花圈岩類の粒界割れ 目現象 61 写真一 11 花崩岩類の B S E 写 真 ( MG15) 。 全粒界 ( 6 種類) が開 口 し て い る例。 写真一 12 花尚岩類のB S E 写 真 ( MG9) 。 全粒界 ( 6 種類) が 開 口し て い る例。 写真一11に比 べて やや割 れ 目の幅 が広 く , す べて の粒界がほぼ完全に開いて い る こ と に注意。 粒界割れ 目の成因お よび形成過程について考察す る。 剛 粒 界 割 れ 目の成 因 図一 4 に示す よ う に, 花肖岩類を構成 し て い る主要鉱物で あ る石英, 長石 ( アル カ リ長石, 斜長 石) は, 膨 張係数が異 な る ( Heard, 1980; Heuze, 1983) 。 特 に, 石英 と長石類で は, 温度 に よ っ て 多少の違 い はあ るが, 石英の方が長石に比べて 3- 7 倍 も体積膨張係数が大 きい。 こ こ で, 花嵩岩 62 金折裕司 ・ 矢人憲二 ・ 石 田 毅 写真一 13 花圈岩類の B S E 写 真 ( MG16) 。 石英結晶か ら アル カ リ長石に放射状 に延 び る割れ 目。 ほ と ん どが癒 合 し て い る。 中央 か ら右 に延 び る割れ 目には 絹雲母が認め られ る ( 最 も 明 る い部 分) 。中央 か ら 下 へ は割 れ 目 が空洞の連続 と し て続 いて い る。 写真一 14 花剛岩類のB S E 写 真( MG3) 。 粒界割れ 目と粒界割 れ 目を連結す る開 口割れ 目。 右 の写真は左の写真 の 白枠 内を拡 犬 し た も ので あ る。 類を構成 し て い る単一鉱物結晶粒は, 力学的には一つの連続体 と し て挙動す る と考 え る と, 高温実 験で示 さ れて い る よ う に ( Homand-Etienneand Troalem, 1984; Fredrich and W ong, 1986) , 粒 界割れ 目は温度変化に よ っ て形成 さ れて い る。 これ らの高温実験で は, 高温に し た後, 観察時には, 当然, 常温 まで下げて観察す るわけで あ る。 し た が っ て, 発生 し た粒界割れ 目が温度上昇の過程で 発生 し た も のか, 温度下降の過程で発生 し た も のか明 ら かで な い。 跡津川断層北東部周辺 におけ る花 尚岩類の粒界割れ 目現象 63 写真一 15 花尚岩類 の B S E 写 真 ( MG15) 。 石英結 晶 と の境界 部 に認め ら れ る 黒雲 母 の キ ン グ バ ン ド と へ き開 に沿 う 開 口。 右 の写真は左の写真 の 白枠内を 拡 大 し た も ので あ る。 写真一16 花剛岩類のB S E 写 真 ( MG15) 。 石英結 晶 ( 左) と 斜長石結晶 ( 右) に挟 まれた黒 雲母 に認 め ら れ る へ き開 に沿 う 中央 部 が膨 ら ん だ 開 口割れ 目。 同時に, へ き開 に そ っ て平行に 開 口が認 め ら れ る。 断層近傍の花南岩類 に粒界割れ 目が数多 く 認め られ る こ と は, これ ら の温度変化 に加 えて, 断層 活動 に伴 う間隙水圧の増加 ( Sibson, 1987; Sibsonet a1., 1975; M awer andW imams, 1985) 乱 粒 界割れ 目の形成を促進す る要因で あ る こ と を示す。 こ こ で は, まず最初に, 温度上昇 と 温度下降に よ る粒界割れ 目発生につ いて考 え, 次に, 温度変化を 起 こす原因お よび断層活動 と の関係を考察す る。 64 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石田 毅 団々 心・O s3 11 jv G N n 0 9 1 v N o II v N s 00 一 V O 19 ( )一 g ︼ ヱΞ DISTANCE FROM THE FAULT 図一 3 断層 か ら の距 離 と 開 口し た 粒 界 で の鉱物 組 み合 わ せ の種 類。 そ れ ぞ れ の粒 界 で の鉱 物 組 み合 わせ に お い て 粒 界割れ 目が存在す るか否かを示す。 点線 : 一部以上開 口し て い る粒界がそ の鉱物組み合わせ粒界の一部に認め られ る も の。 実線 : 一部以上開 口し て い る粒界がそ の鉱物組合わせ粒界の大部分に認め られ る も の。 空 白 : ほ ぼ密着 し て いる粒界がその鉱物組み合わせ粒界の大部分に認め られる もの。 A . 温度上昇 まず, 温度が上昇す る場合で は, 石英の膨張係数が周辺の長石類 よ り も大 きいた め, 相対的に石 英の膨張量が大 き い。 こ のた め, 石英が周辺の長石類を 圧迫 し , 石英結晶の外縁が凸に屈曲 し た先 端の長石類内部に応力集中を起 こ し, そ こか ら放射状に微小な引張 り割れ 目が発生す る と考 え られ る。 こ の時に発生 し た も のが, 石英結晶か ら放射状 に発生 した微小割れ 目 (写真一 13) で あ る と思 われ る。 同様 に, 石英が膨張 し た時に, 石英結晶に挟 まれた黒雲母 は圧迫 さ れ, そ の結晶に沿 っ て キン グし た り ( 写真一15) , へ き開に沿 っ て開いた りす る ( 写真- 16) こ とが予想 さ れ る。 Bauer and Handin ( 1983) に よ っ て行われた Charcoal 花嵩岩を試料 と した熱膨張試験結果か ら判断す る と, 400° ~ 500℃で体積膨張の増加率が最 も大 き い。 この時に放射状割れ 目や黒雲母の変形が起 きて いる 可能性があ る。 また, こ の温度以上の温度を被 った花圈岩類で は, すべて の粒界が開いて い る こ と が実 験 に よ っ て 確 認 さ れ て い る ( Homand-Etienne and Troalem, 1984; Fredrich and W ong, 1986) 。 B. 温度下降 あ る温度 まで上昇 し その後現在の温度 まで下降 し た場合 に, 膨張係数の違いの最 も大 きい石英 と 長石類の粒界に引張応力が発生 し, 開 口割れ 目が発生す る こ とが予想 さ れる。 長石類を見てみる と, アル カ リ長石 と斜長石で は若干膨張係数が異な る。 同種の長石で あ っ て も組成の微妙 な違いに よ っ て膨張係数が異な る こ と を検討 し な ければな ら ないが, 大局的には, アルカ リ長石 と斜長石で は, 図一 4 に示 し た関係が成 り立つ とすれば, アルカ リ長石 と 斜長石の膨張係数曲線が交わ る温度 ( 図 か ら読み取 る と約230℃) 以上 の温度上昇を し た花尚岩類で はすべに述べた よ う に, 膨張係数の大 き く 異な る石英一斜長石の粒界か ら まず開 口割れ 目が発生 し , 次いで石英一 アル カ リ長石粒界で開 口 割れ 目が発生す る こ と が予想 さ れ る。 逆 に, こ の温度以下 の場合で は, まず, 石英- アルカ リ長石 粒界に開 口割れ 目が発生 し, 次いで石英一斜長石粒界に開 口割れ 目が発生す る こ と にな る。 跡津川断層北東部周辺 におけ る花崩岩類の粒界割れ 目現象 65 70 60 z919 50 40 30 ○ ゜゛○{・一 〇ya / / / / / / / ORTHOCLASE O r6アA b33 20 4j i vM jHl ulaljNnloA jo 1N3101jj300 CLIMAX OUARTZ MONZONITE PLAGIOCLASE A bアフ 10 0 0 200 10 0 30 0 400 TEMPERATURE - ゜ C 図一 4 温 度 と 体 積膨 張 係数 の関係 ( Heard, 1980) 。 石 英 と 長 石 類 の デ ー タ はSkinner ( 1966) を 引用。 従 っ て, 石英結 晶の周囲に発生す る開 口割 れ 目は, 石英結 晶を 取 り巻 く 様 に発生す る (写 真 一 1) 。 一方, あ る方向か ら圧縮応力が加わ っ て いた場合には, そ の応力に呼応す る方向の粒界が開 口し, さ ら に, 開 口で発生 した粒界割れ 目の先端か ら開 口割れ 目が成長す る (写真一 2 と14) と考 え ら れ る。 石英一長石類の粒界で最 も開 口割れ 目が発生 しやすいが, アルカ リ長石一斜長石粒界にも膨張係 数に若干の違いがあ るため, 開 口割れ 目が発生す る可能性があ る。 また, 温度下降に よ る結晶粒単 位で の収縮に よ り, 石英一石英, アルカ リ長石- アルカ リ長石, 斜長石一斜長石等り 同種粒界に引 張 り応力が発生 し, 開 口割れ 目がで き る こ と が考 え られる。 こ の同種粒界の場合には, 膨張係数の 異方性に関係 し て い る と思われるが, これ につ いて は今後の課題 と な る。 C. 温度変化 を起 こ した原因お よび断層活動 調査対象 と し た船津型花尚岩類は, 190- 170M a に定置 し た ( 柴 田 ・ 野沢, 1984) 。 そ の後, こ の岩体が被 っ た と予想 さ れる温度変化はまず, 花尚岩の冷却過程で あ る。 そ の後, も し く はその最 中に濃飛流紋岩 の主活動期の熱水活動 ( 歌 田 ・ 恒石, 1980 ; 竹内, 1983) , 安山岩質岩の貫入 ( 野 沢, 1978) √複数回の断層活動に よ る剪断熱 ( 金折, 1982ab, Kanaori et al., 1985) な どを受け, 岩体 は複数の温度変化を 受 けて い る( 金折他, 1988) 。 さ ら に, 現在の地表付近 に位置す る まで には 深 さ方向の温度 の違い ( 地温勾配) に よ る温度変化, 地表近 く に出現 し た のち, 地表風化作用に伴 う温度変化を 被 っ て い る。 Pye( 1986) は地表風化作用 に よ っ て, 粒界が開 口す る こ と を B S E 像に よ っ て 明 らかに し て い る。 こ のよ う に, 複雑な熱履歴や変形史を被 っ て い るため, 各 々の粒界割れ 目の形成を特定の温度変化を起 こ した 出来事に関連 さ せ る こ と は困難で あ るが, これ ら温度変化が 粒界割れ 目を形成 し た原因の一つで あ る と考 えて い る。 ヽ 以上は, 温度変化に よ る粒界割れ 目形成 の可能性について考察 し て きた。 し か し なが ら, 断層近 傍で粒界割れ 目が他の場所に比較 し て, 多 く 認め られ る こ と は, 次の 3 つ の可能性を示唆す る。 (a) 66 金折裕司 ・ 矢入憲二 ・ 石田 毅 Fredrich and W ong ( 1986) の 実 験 に よ る 粒 界 割 れ 目の 発 生 温 度 を 参 考 に す る と , 断層 活 動 に よ っ て400℃以上の剪断熱が発生 し た。 (b)断層を通路 とす る地下水や熱水によ っ て, 変質・風化作用を受 けた。 (c)断層運動に伴 っ て間隙水圧が上昇 し た ( Sibson, 1987; Sibson et al., 1975; M awer and W illiams, 1985) 。いずれに し て も, 断層近傍100m以内で の粒界割れ 目多産の原因は断層運動に関連 し て い る可能性 があ る。 (2) 粒界割れ 目の形成順序 こ こで観察 し た花尚岩類には, 粒界で隣 り合 う鉱物種の組み合わせに注 目す る と, 2種類の粒界 に開 口がみ られ る ものか ら, すべて の種類の粒界が開 口し て い る も のまでが認め られた。 温度変化 (上昇 と下降) に伴 っ て, 粒界の開 口しやす い種類のも のか ら順 に開いて い き, 開 口し た粒界の種 類が増 えて行 き, 最後にすべて の種類の粒界が開 く と考 え る。 表- 1 に基づ く と, 次の順序で粒界 割れ 目が形成 さ れて い く と考 え られ る。 す なわち, 界, 2 ) 石英一石英粒界, 3) 斜長石一斜長石粒界, 1) 石英一長石類 ( アルカ リ長石, 斜長石) 粒 4) アルカ リ長石一斜長石粒界, 5 ) アルカ リ長石- アルカ リ長石粒界, の順で あ る。 こ の順序は上記の温度変化 に よ る粒界で の開 口し やす さ に も 矛盾 し な い。W esterly花嵩岩を 用 いた 高温試験 において, 温度 を 上げて行 く 過程で は, 石英一長 石類粒界のほ う が微斜長石一斜長石粒界 よ り も開きやす く , 500℃以上で はすべての種類の粒界が開 ぐ こ と が B S E 観察結果か らわか っ て い る ( FredrichandW ong, 1986) 。 こ れ ら の こ と を 考 えあわ せ る と, 上記の順序 は花南岩冷却後 の被 っ た温度が低温か ら高温への順で あ る と も考 え られ る。 ま た, 石英 と長石類を多 く 含む岩石の方が少ない岩石 よ り も粒界が開 きやす い こ と ( Padavani eta1., 1982) に も 整合す る。 (3) 粒界割れ 目の重要性 以上述べて きた よ う に, 粒界割れ 目は花肖岩類に頻繁に認め られ る。 し た がっ て, 粒間割れ 目や 粒内割れ 目と 同様 に, 粒界割れ 目の存在お よびそ の密度は, それ ら を含む岩体や岩石の物性値, 例 え ば弾性波速度, 一軸圧縮強度 な どに影響を 与 え る ( DouglassandVoight, 1969; Homand-Etienne and T roalem, 1984; K owallis and W ang, 1983; W arren and T iem an, 1981) 。 さ ら に , こ れ ら の割 れ 目は開 口し て い るた め岩石の透水性に関与 し て い る ( KowallisandW ang, 1983) 。 こ こ で, 仮 に 結晶が球状で あ り, その粒界が完全 に開 口し て い る と考 えた場合, そ の粒界割れ 目の面積は4πΓ 2で あ る。 一方, こ の結晶粒がそ の直径を通 る平面で真 っ二つ に破壊 さ れた と し て も, こ の平面の面積は πΓ 2で あ り, 粒界割れ 目の面積の1/4に過 ぎない。結晶が球状で な く 粒界に凸凹があ る場合で は両者の 差はさ ら に大 き く な るか ら, 透水性に限 っ て も こ の粒界割れ 目の寄与が大 き い こ と にな る。 こ こで は, 粒界が開 口し て い るか密着 し て い るかを定性的に検討 し たが, どの鉱物組み合わせの 粒界が何% 開いて い るかを定量的に検討すれば, 一軸圧縮強度や透水係数な ど と の関係を精度良 く 調べ る こ と が可能 と な るで あ ろ う。 また, 地下か ら採取 さ れた ボ ー リ ン グ コ アな どで は, コ ア採取 時の急激な応力変化で発生 した粒内, 粒間お よび粒界割れ 目を含む (W ang and Simmons, 1978; K ow allis and W ang, 1983) こ と が予想 さ れ る た め, こ の よ う な 試 料 で は応 力 解 放 で 発 生 す る 粒 界 割れ 目も考慮す る必要があ る。 また, W ilkinsandPalkas ( 1978) は花肖岩類の動的再結晶化の進 行に伴 っ て, 結晶内部に存在 し て いた流体包有物が粒界に再配列す る こ と を示 し て い る6 こ の こ と も粒界割れ 目形成の一因を担 っ て い る と考 え られる。 Paquet and Francois ( 1980) や Paquet et alべ:1981) は花尚岩質岩な どを試料 と し て, 600-900℃で約250MPaで実験 し た結果, 粒界が部分溶 融のサイ ト と な る こ と を示 した。 こ のこ と も粒界が上述の物性値や透水性を考 え る上で重要で あ る こ と を示唆す る。 また, 断層近傍で粒界割れ 目が特 に多 く 認め られ る こ と か ら, 粒界割れ 目現象は, 断層運動 に関係 し て い る可能性が強 く , 断層運動を 調べ る上で も重要 と な る で あ ろ う。 このよ う に粒界割れ 目は, 今後, 花肖岩類の熱履歴を 明 らかにす るだ けで な く , 岩体や岩石の物 跡津川断層北東部周辺 にお け る花尚岩類の粒界割 れ 目現象 67 性値お よび透水性を評価す る上で, 重要 な指標 と な ろ う。 お わ り に 以上 に, 跡津川断層北東部周辺に分布す る花肖岩類に認め られる粒界割れ 目現象につ いT( , S E M に よ る B S E 像で観察 した結果を述べて きた。 こ のよ う な粒界割れ 目現象は, (a)今回報告 した断 層周辺地域だ けに認め られる特殊 な現象で あ る か否 か, (b)他地域の花 尚岩類 に も普遍的 に認め られ てい る現象で あ るか否か, な どを実証す るた め√今後他の地域に分布す る花尚岩類について同様な 研究を行 って行 く 予定で ある。 これ ら粒界割れ 目現象は, 花尚岩体が経験 し て きた熱一変形史を調 べ るだ けで な く , 花尚岩体や花崩岩試料 の物性値や透水性状を調べ る上で, 重要 な指標 と な る と考 え る。 謝 辞 本研究を進 め る にあた り, 名古屋大学理学部水谷伸治郎教授には終始助言を 受 けた。 ドイ ツ連邦 共和国 Kiel 大学 M ineralOgiSCh-PetrOgraphiSCheSlnStitUt und M USeUm der UniverSitat の竹下 徹博士お よび徳山工業高等専門学校工藤洋三助教授には, 草稿に 目を通 し て頂 き貴重な助言を頂い た。 跡津川断層の現地調査お よび試料採取 にお いて は, 卵電力中央研究所我孫子研所立地部佐竹義 典, 宮腰勝義, 田中和弘諸氏 と千木良雅弘博士 に協力願 った。 同所立地部 曽根賢治氏には, B S E 観察につ いて貴重な討論を頂いた。 こ こ に記 し て これ らの方 々に謝意 を表す。 こ の研究の一部は, 文部省科学研究費補助金 (N0.63540608) を使用 し た。 引 用 文 献 ∧ Batzle,M .L . and Simmons,G. 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