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就労する知的障害者の余暇支援に関する研究

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就労する知的障害者の余暇支援に関する研究
平成21年度 学位論文
就労する知的障害者の余暇支援に関する研究
一支援者へのインタビュ 調査による現状と課題一
兵庫教育大学大学院学校教育研究科
特別支援教育学専攻 心身障害コース
M08106B中村綾
一 目 次 一
策1章
問題の所在と研究の日的
第1節問題の所在・一・・一・・・・・・・・・・… 一・… 1
1.知的障害児(者)の地域生活の実態・・…
1・…
2.知的障害者の余暇活動の意義・・・・・・・・…
1・…
1
1・1・…
1
3.知的障害者の就労の実態・1・・・・・・・…
1・・1・…
3
4.知的障害児(者)の余暇活動・・1・・・・…
1・・1・…
4
第2節 本研究の目的・一・・一一・・・…
第2章
一・・・・・… 一6
インタビュー調査の方法
第1節 対象者・・… 1・・… 1・・… 1・・・・… 7
第2節 実施期間と手続き・・… 一・・・… 。。一・.。。8
第3節 調査内容・・・・・… 1・一・・・… 、。。..。.8
第3章結果および考家
第1節
事例II・・・・・・・・・・・…
第2節
第3節
第4節
事例皿・・・・・・・…
一・・・・…
一・…
一・・9
1一・・・・・… 19
事例皿・.。..一.。。.一.。..一..。.。。。。。2g
事例W・・一・・・・・・・・・…
1一・・・・・… 39
第4章雀合考察
第1節 余暇支援活動の現状と課題・… 一一・・… 一・一48
1.余暇活動実施機関の概要…
1・・・・・・・・・・・・…
2.余暇活動の成り立ち・背景・・・・・・・・・・・・・…
48
1・49
3.余暇活動の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・…
50
4.就労する知的障害者と余暇活動・・・・・・・・・・・・・…
52
第2節今後の課題・・・・・・… 一一一・一・… 一… 53
引用・参考文献....。。。.。.。.一。一一一一。。。。一一一55
鐵 辞
第1章 問題の所在と研究の目的
第1節 問題の所在
1I知的障害児(者)の地域生活の実態
近年、わが国における知的障害者を取りまく状況は、新たな法律・制度の制定に始
まり地域の人的な資源の整備に至るまで急速に変化しつつある。
平成17年度知的障害児(者)基礎調査(厚生労働省,2007)によると、全国の在宅
知的障害児(者)は419,000人と推計されており、そのうち18歳以上の知的障害者
は289,600人とされている。さらに、全体の85.7%が自分の家やアパートで暮らして
いるということで、地域における生活の場が大部分を占める結果となっている。地域
活動への参加状況を見てみると、「ほとんど参加しない」「参加したことはない」が全
体の67.5%を占めており、それについての参加希望状況は「わからない」「機会や場所
があれば」と回答した者がそれぞれ36.2%、「いっしょに行ってくれる人がいれば参加
しやすい」と回答した者が32.9%となっていた。現在、学校を卒業している者の地域
活動への参加状況をみると、「ほとんど参加しない」「参加したことがない」という者
が合わせて80.0%と、実に多くの知的障害者が地域活動に参加していないという結果
が明らかになった。
この調査から、地域活動への参加に対する、本人の希望や二一ズがあるにも関わら
ず、それを実現するに至っていない現状があること、また本人の社会的経験の不足や、
地域活動についての知識・情報面での乏しさ等が推測できる。そのため今後は、知的
障害者の地域生活を支援する取り組みや体制が、よ一り一層充実していくことが望まれ
るであろう。
2.知的障害者の余暇活動の意義
人間が生きていく上において、ただ単に心理的・身体的・社会的な健康や病気に関
してのみならず、いかに「自分なりの生活」を充実させていくかということは大きな
1
課題であり(コニー・ヒルド,2002)、近年、障害の有無に関わらず余暇活動は、生活
の質の向上という観点から、関心が高まってきている(中山,2000)。
1993年12月に成立した障害者基本法の基本理念に、「障害者はあらゆる活動に参加
する機会を与えられるものとする」という条項が加わった。このことから渡蓬(2000)
は、「余暇概念の社会福祉的把握は、積極的な自己実現の手段としての社会参加の方法
としてとらえることが必要であろう」と述べている。人が余暇を身に付け、その活動
の範囲を広げていくことは、最終的に社会参加へ発展するものと考えられる(伊藤
ら,2007)ことから、余暇活動は知的障害者にとって非常に重要な意義を持っている。
日本における余暇に関連した法律は、福祉、教育・文化、自然環境等において数多
く取りあげられており、余暇活動に積極的に取り組むことや、取り組むことが困難な
人々への支援について述べられている(伊藤ら,2007)。例えば、身体障害者福祉法第1
条では、「この法律は、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、身
体障害者を援助し、及び必要に応じて保護し、もって身体障害者の福祉の増進を図る
ことを目的とする」とある。また、障害者基本法第22条においては、「国及び地方公
共団体は、障害者の文化的意欲を満たし、若しくは障害者に文化的意欲を起こさせ、
又は障害者が自主的かつ積極的にレクリエーションの活動をし、若しくはスポーツを
行うことができるようにするため、施設、設備その他の諸条件の整備、文化、スポー
ツ等に関する活動の助成その他必要な施策を講じなければならない」とあるように、
障害者の余暇に関する法的整備が積極的に進められているといえよう。このように、
障害のある者が同年齢の人たちと同等の権利をもち、同様の生活を保障しようとする
ノーマライゼーション(normalization)の考え方や一人の人間の生活全体、生涯にわた
っての真の豊かさを求めようというQOL(quality of life)の考え方の広がりにともな
い、障害児教育・福祉のあり方は見直され始め、障害を持つ子どもや成人の余暇をよ
り充実したものにするための運動が各地で展開されるようになってきた(柴山・蛯
谷,2004)。
余暇の概念について、田代(1994)が「人間が生きていくうえで労働と余暇は表裏一
体の関係にあり、一人一人の人間がよりよい生活を営むうえでも大変重要な側面を持
っている」と述べているように。労働と余暇との関係性は、私たちが充実した社会生
活を送っていく上で、非常に重要な要素の一つであると言える。そういった意味でも、
障害者の雇用促進に関する政策傾向が強まっている今日において、就労する知的障害
者の余暇活動についても就労支援と同時に平衡して考えていく必要があるだろう。
3.知的障害者の就労の実態
近年の日本では、福祉サービスの給付水準や所得保障水準を抑制したり利用者負担
を強化する一方で、就労促進を図る政策傾向が強まっている(石倉,2008)。例えば、
2006年に制定された「障害者自立支援法」もその一つである。
平成18年度から19年度にかけて、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所のお
こなった課題別研究報告書「知的障害者の確かな就労を実現するための指導内容・方
法に関する研究」によると、2006年度の知的障害養護学校高等部の卒業生は10,615
人であり、そのうち卒業者全体に占める就職者の割合は58.7%と年々増加傾向にある。
またその進路先は、社会福祉施設等への入所者の占める割合が増加していることが明
らかとなっている。また、2008年に厚生労働省が発表したr身体障害者、知的障害者
及ぴ精神障害者就業実態調査の調査結果について」によると、全国の15歳以上64歳
以下の知的障害者は、35,OOO人と推計され、そのうち就労している者が187,000人
(52.6%)、就業していない者が160,000人(45.0%)となっている。就業形態別にみると、
常用雇用されて就業している者が18,8%に対して、常用雇用以外の形態で就業してい
る者が80.0%となっており、やはりここでも授産施設や作業所等、社会福祉施設で就
業している者の割合が高いことが明らかとなっていた。このような現状の中で、障害
者施策の基本理念であるノーマライゼーションの実現のためには、職業を通して社会
参加が基本となるものであると言え、そのために、障害のある人が適性と能力に応じ
て可能な限り雇用の場に就くことができるように、障害者雇用の促進に関する法律(以
下、障害者雇用促進法とする)が制定されている。
障害者雇用促進法は、第1条に定められているように、身体障害者又は知的障害者
の雇用職務等に基づく雇用促進のための措置、職業リハビリテーションの措置等、障
害者がその能力に適合する職業に就くことを通じて、障害者の職業生活の充実、安定
を図ることを目的としている。また、障害者の社会参加に伴う就業二一ズの高まる中
で、就業機会の拡大による職業的自立を図る観点から、①精神障害者に対する雇用の
促進、②在宅就業障害者に対する支援、③障害者福祉施策との有機的な連携等を主な
内容として、2009年12月に一部改正された(独立行政法人国立特別支援教育総合研究
所,2008)。
障害者自立支援法においても、障害者の就労支援を抜本的に支援することが示され、
身近な地域において障害者の就労や職業定着を支援するための取り組みが各地域でな
されてきている。しかし、前述した知的障害児(者)の地域生活の実態から見ると、地域
における生活の場が大部分を占めているが地域活動に参加する機会が少ないというこ
とも明らかになっており、今後は、より一層地域における社会参加の機会を拡大して
いくことが望まれる。そういった意味でも、今後さらに就労する知的障害者の地域生
活を考えていくことは非常に意義深いことだと言える。
4.知的障害児(者)の余暇活動
これまでに報告されている知的障害児(者)の余暇活動について調査した研究は学齢
児童生徒の休日や放課後支援について調査したもの(中山,2000;泉・小池・八重
樫,2005;丸山,2009)や、夏季休業中における余暇支援について調査したもの(由谷・
渡部,2007)等から、卒業後の地域生活支援に関する研究(柴崎,2004)や、青年期・成
人期の余暇活動に関する研究(柴山・蛯谷,2004;郷間ら,2007)、生涯学習支援に関す
るもの(平井,2007;松矢,2008)にまで多岐にわたっている。
これらの研究の結果から、知的障害児(者)の余暇に関する課題として、ほとんどの
知的障害児(者)が、自宅でテレビやビデオ等を見ながら一人で過ごしている時間が多
く、友達等と外へ出かける機会が少ないということが指摘されている。さらに郷間ら
(2007)は、ほとんどの知的障害者がおおむね余暇活動を楽しんでいたものの、休日に
過ごす相手は家族が多く、今後、余暇活動を一緒に行う友達や仲間を見つけて共に行
う中で、余暇活動の知識や技術を向上させていく必要があるのではないかと指摘して
いる。
それに対して、健常者の余暇活動についての調査(内閣府政府広報室(2002)「余暇
と旅行に関する世論調査」)によると、余暇をどのように過ごしているかという問いに
4
対して、「テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの見聞き」と回答している者が一番多く、
特に積極的に友達等と外出して余暇を楽しんでいるという結果は見られなかった。知
的障害者と健常者の余暇活動を比べてみても、その過ごし方に顕著な差は見られない。
しかし、健常者と知的障害者の余暇活動について、一っ相違する点をあげるとすると、
余暇の選択肢の少なさやそれに伴う活動範囲の狭さが挙げられるのではないかと考え
る。例えば、健常者はこれまでの知識や経験から、自らの興味関心に基づいて余暇活
動を楽しむことが可能である。しかし知的障害者の場合は、その障害特性から、自己
決定を行うことが困難である(手島・吉利,2001)とされてきていることや、社会経験
の少なさが指摘されていることから、自らの希望・二一ズに基づいて余暇活動を実践
することが困難な状況にあると言える。
余暇活動は、たとえそれが一人での活動であっても、本人の希望・二一ズに沿った
ものであること、またそれによって本人が何らかの充実感やあるいは達成感を味わう
ことができてこそ意味があることは言うまでもない。したがって、知的障害者の余暇
活動を充実させていくためには、何らかの支援が必要である。
植松(2002)は、適切に余暇を楽しむために必要な基礎的な力を、①選択する力(自
分のしたいことを持ち、余暇を選ぶ力)、②企画運営する力(主体的に余暇活動を運営
していく力)、③自己を管理する力(金銭・時間・健康・マナー面で自己を抑制する力)
としている。このような力をつけていくため植松(2002)は、特別支援学校高等部にお
いて、充実した職業生活につながる余暇活動を目指した取り組みを実践している。そ
して、楽しさよりもやりがいのある活動(仕事や家事労働)の裏にあってこそ余暇の意
味があるとし、適切な余暇は仕事の疲れを癒し、さらなる労働への意欲づけになると
述べている。したがって今後、知的障害者の就労生活を考えていく上においても、余
暇支援を充実させていくことは非常に有効であると考えられ、知的障害者本人が「自
ら余暇を楽しむために必要な力」を身に付けていくことが必要であり、またそのため
の支援を充実させていくことが求められる。
5
第2節 本研究の目的
現在、知的障害者を対象とした福祉行政施策についても、実態把握が極めて不十分
なまま提示されていることが多く、誤った認識を持っている人や理解の乏しい人も多
い(石黒・中村・木下,1999)。またこれまで、知的障害児(者)の余暇活動の実態やそ
の内容については明らかにされているものの、地域で就労する知的障害者を対象とし
た余暇支援の現状や課題について研究されたものはあまり見当たらない。
さらに、知的障害者の就労の実態からは、就労しても職場不適応やストレス等の問
題により離職や退職に至ってしまうケースが多いことも明らかにされており、就労を
実現するだけではなく、その後、就労を継続し、また定着させていくための支援も求
められている。つまり、知的障害者の就労後の生活をいかに充実させていくかという
所に課題が山積しているのである。そこで、その課題を解決するための一つの手段と
して、これまでに重要性を述べてきた余暇活動を充実させることは、知的障害者の生
活の質を向上させるためにも非常に意義深いことであると考える。
本研究では、このような現状を踏まえて就労する知的障害者の生活の質の向上とい
う観点から、地域における余暇活動の取り組みの現状と課題を明らかにする。そして
今後、就労する知的障害者が充実した余暇活動を実践し、より良い生活を営んでいく
ための一助としたい。
第2章
インタビュ
調査の方法
第1節 対象者
対象は、人口約140万人、県庁所在地を中核都市に要するX県内とし、就労する知
的障害者の余暇支援に携わっている支援者4名を対象者とした。はじめに、筆者がボ
ランティアとして参加していた余暇支援活動(Y市自立支援協議会(注1)(サロンD)の代
表者(dさん)にインタビュー調査を依頼し、そこからX県内に4ヵ所ある障害者就
業・生活支援センターのうち3ヵ所を紹介してもらい、代表者各1名にインタビュー
調査をさせていただくこととなった。
表1.対象者のプロフィール
年齢
性別
所 属
aさん
30代
女性
障害者就業・生活支援センター(注2)A(A支援センター)
bさん
40代
男性
障害者就業・生活支援センター B(B支援センター)
Cさん
30代
男性
障害者就業・生活支援センター C(C支援センター)
dさん
30代
女性
Y市自立支援協議会就労部会
サロンD
(注1) 自立支援協議会
障害者自立支援法上においては、地域自立支援協議会とされている。これは、相談
支援事業をはじめとする地域の障害者福祉におけるシステムづくりに関して、中核的
な役割を果たす協議の場として市町村が設置するもの。
(注2) 障害者就業・生活支援センター
障害者雇用促進法第2章第5節に規定されている。身近な地域で、雇用、福祉、教
育等の関係機関が連携し、障害者に対して日常生活上の相談と併せて就業面での相談
等を一体的に行う支援事業を社会福祉法人等において実施するもの。
7
第2節 実施期間と手線き
1.実施期間
インタビュー調査の実施期間は、2009年8月∼9月であった。
2.手続き
インタビュー調査は、一人30分∼40分程度、1対1で個別におこない、その内容
については、調査対象者に了解を得た上でボイスレコーダーに記録した。またインタ
ビュ]では、あらかじめ筆者がおこなっている研究の概要と、インタビュ]したい内
容のポイントを調査対象者に伝えた上で、自由に語ってもらうことを原則とした。
第3節 調査内容
現在、事例Iから事例IVのそれぞれがおこなっている、就労する知的障害者を対象
とした余暇支援の取り組みについて、以下の4つのポイントを中心にして自由に語っ
てもらった。
①実施機関の概要
②活動の成り立ち・背景
③活動の現状と課題
④就労する知的障害者と余暇活動
(本人への情報提供、就労継続や生活の充実との関連、今後の課題等)
第3章
結果および考察
ここでは、事例Iから事例1Vまでの結果および考察について示す。そこで、まずは
じめに表記に関して以下の3点を断っておきたい。
① 結果の中の「Q」の表記は、インタビュアーの発言を指す。
②【A∼DO○】の表記は、インタビュアーの発言に対する支援者の回答である。
③結果および考察の中に、大文字で示すアルファベットは、それぞれの活動実施主
体を、また小文字で示すアルファベットは、インタビューの対象者である支援者自身
を指すものとする。
第1節 事例I
1.結果
λ似、余暇支援の灼答傍動場所・鋸を・参切者割/こついて教左でくだされ
【A01】障害者就業・生活支援センター(以下、A支援センターとする)として、去年
の4月から稼動し始めたばかりなので、余暇支援のところまで正直、充実していると
は言えないんです。しかし、就労されている方の支援として、余暇は外せないという
ところが当初からあったので、A支援センターとしても何かできないかなというのを
模索しつつ1年が過ぎたというところです。
【A02】活動自体は2ヶ月に1回というのが人手の問題で限界ですね。だから今後、
参加者だけで動かしていくか、ボランティアさ・んに来てもらうというように人手を増
やしていった方がいいというようには考えているんですけどね。今のところ、参加者
の方々にも了解を得てないですし、相談させてもらって、もしその方がいいとおっし
ゃるのなら考えていこうと思います。人手があるにこしたことはないですしね。
9
【A03】場所はA支援センターの近くのお店(ファミリーレストランの個室)を借りて、
余暇というか夕食会という形で位置づけして活動しています。
【A04】そこから繋がりができてきて、休みの目どこかへ行こうとか、そういうもの
に波及してくれば一番理想的なのですが、まだそこまで回数も踏んでないですし、参
加者の結束の部分もまだ弱いところなので、しばらくはそうやって夕食会という形で
定期的にお誘いするという形でセッティングさせていただいています。
λρ旦基本的に炊λ支援右ンターに登録している方が参カされているのですか。
【A05】去年はそのようにしていたんですけどね。知的障害の方の人数がなかなか集
まりにくいというのもあって、少し幅を広げています。サロンDでの活動だったら、
働いていない方もいらっしゃるじゃないですか。あのように参加できる方の枠を少し
広げていこうとは思っています。A支援センターに登録しているか、今後、登録しよ
うかなと思っている方くらいの枠にはしようと思っています。
λρ3.活動の砿ク並ちを教左てください。
【A06】結局、ふだん家と職場との往復でストレスが溜まっていると思うのですが、
そのストレスを発散する場所がないんですよね。私たちだったら自分たちで楽しみを
見つけることができるんだけれども、やはり知的障害をお持ちの方って経験も少ない
ですし、自分で楽しみを作り出すことって少ないですよね。
【A07】皆さん、電車が好きとか、単独での「こだわり」ではないですけど、趣味み
たいなのを持っている方もいるんだけれども、横の繋がりって非常に作りにくいとい
うのがあると思います。
【A08】少なくても一般企業で働かれているということは、それなりのストレスを持
たれているだろうし、人間関係に関しても悩みを持たれている。だけど、例えばそれ
を周りが事前にキャッチできていれば、すぐに離職ということにはならずに何かしら
の支援で繋ぎ合わせるということも可能性としてあるだろうなと思います。だから、
10
参加者同士の繋がりということも必要なんだけれども、われわれ支援者側も参加者の
会話の申から問題点を拾い上げていくということも目的の一つに入れています。
【A09】将来的には、参加者だけで運営していくということを考えていて、支援者が
設定するのではなくて、やはり自分たちでrこの日に集まろうよ」rここへ行こうよ」
というように、自主的な活動になればいいなと思うんです。しかし、サロンDでの活
動も同様で、サポートする人間の確保が必要になってくるというのが支援者側の大き
な課題の一つにもなるんですけどね。
λρ4涯動は今年で2年βということですが、それまでにも二一ズはあったのでナか9
【A1O】やはり、「余暇をうまく使えない」ということでたくさん二一ズはありました
ね。ただ、知的障害を持つ本人からの訴えではなくて、親御さんからの訴えが多かっ
たように思います。
【A11】「休みの日はボーっとしているんです」、「休みの目に一人にしていたら心配な
んです」という親御さんの訴えですね。たぶん、知的障害を持っ本人は、集団で何か
を一緒にやるという経験が少ないので、そういうイメージが持てないんだと思うんで
す。だから、自分から働きかけるということが少ないのではないかなと思います。直
接、本人からr休みの日はどうしたらいいんでしょうか」という相談もありました。
【A12】また、r最近、会社が全然うまくいかない」rすごくストレスが溜まっている
んです」という訴えで、本人が直接電話をかけてくるというケースもあります。そう
いう時に、「一人じゃないよ」「みんなで分かち合おうよ」ということで、早く動き出
さないといけないなという思いもあったので、なんとか二一ズを拾い集めて活動でき
ればと思い、準備をしてきました。
【A13】知的障害の方の場合は、本人がこのような余暇活動に参加したいと言っても、
保護者が同意されない場合もあるんです。「普段の生活パターンから外れたことをする
と、本人が次の目とても疲れたり、興奮したりする」等の理由で、保護者の方が躊躇
されるケースもありますね。
【A14】保護者の方が言われることも一理はあると思うんです。しかし一見、他の重
11
度の知的障害の方よりも社会経験が多いかなと思われるんだけれども、実際のところ
は、一般就労していても、家と職場の往復だけの単純なピストンの生活の中で社会経
験ってかなり限られているし、逆に少ないのではないかなと思うんです。保護者の方
の考え方にもよると思うんですけどね。
【A15】A支援センターの課題としては、対象としている圏域が広いので、ここ(A支
援センター)までのアクセスが不便な方がおられるんですよね。だからこちらから訪問
させてもらって相談支援を行う場合もあります。そういった方々の二一ズをどのよう
にして拾っていくかが課題ですね。
λρ5 涯重クを進めていく_とて配してレ、ること/才あクまブ1カ・o
【A16】配慮を促すというか、参加者の方たちが初めて出会えば、例えば携帯のメー
ルアドレスを交換したりしますよね。そこで、知的障害を持っ本人さんたちが困るこ
ととしてよくありがちなのが、メールアドレスを教えたら教えたで、「もう死ぬほどメ
ールが来るんですけど、どうしたらいいんですか」というケースです。
【A17】携帯電話の正しい使い方が分からない知的障害の方が多いので、もうそこは
rお互いにきちんと自分たちで管理しないといけませんよ」という話はします。その
上で、電話番号を交換するのは個人の自由だけれども、社会人としてのマナーという
のはrOOOなんだよ。」ということをきちんと説明しています。でもまた、rそうい
う繋がりというのも大切にしていったらいいよね」という話もします。
【A18】また知的障害の方の場合は、やはりご飯を食べて話をするだけというのには、
少し限界があるなというように思います。例えばある所では、もう結構長い間活動さ
れていて、内容もある程度確立されたものがあり、沢山の人が出入りしているという
のもありますが、定期的に音楽会を開いたり、きちんと活動する曜日も決まっている
そうなんです。そこでライブみたいな感じのものをやると、やはりその時はとても参
加人数が増えるそうなんですね。だから、そのようにしてみんなが楽しめるものをセ
ッティングしないといけないなと感じています。
【A19】知的障害の方が楽しめるものは何だろうといつも考えているんですけどね。
12
A支援センターの活動に来られている方で、ある一人の方が「料理をしたい」という
ことをしきりに言われていて、今なんとかそれを実現できないかなと思い、場所や費
用の面とかは考えている最中なんですけども、やはり費用も抑えないといけないし、
A支援センターからの持ち出しが限られているので難しい部分もあるんです。それに
やはり参加者の主体的な活動として動かしていきたいので、参加者それぞれのお給料
の中からあまり負担にならない範囲で材料とかも買えてという形で、何とかもってい
けないかなと考えているところです。
【A20】また、障害の程度に差が大きいので、中にはなかなか言葉のキャッチボール
が難しい方もおられます。会話ができる方同士、「こっちはこっちで」という感じで話
している方もいるけれども、せっかく参加しているのに、ここに来てまでも孤立して
しまっては意味がないので、何か障害の程度に関係なくできることはないかなと考え
ています。
【A21】あと一般的に知的障害を持つ方に思うことは、やはりある程度、集団に属し
ているという意識が必要だと思います。私たちにしても同じですけど、単独での生き
方というか、学校・会社、その部署等に属していたρ、そういう所属感というものを
頼りに生きていくというのがあると思います。知的障害を持つ方は、一会社には属して
いるんだけれども、やはり障害を持っているがゆえに、なかなかコミュニケーション
が図れなくて孤立してしまうというケースが多いんです。家は家で居場所としてある
んだけれども、家が社会ではないのでね。社会の中で、どこかの集団に属していると
いうことは、人間が生きるということに対してすごく必要なのではないかということ
は良く話をします。
【A22】例えば、精神障害者の方だったら「サロン」というのがありますよね。それ
をものすごくよく利用されていて、そのことで生活を順調に営まれる。そこには、そ
こへいけば同じ障害や悩みを持った仲間がいるという安心感があるんですよね。社会
で生きていくためにはそういった安心感も必要なのではないかなと思います。
【A23】適所施設等に通われている方はまだいいと思うのですが、仕事だけの方って、
そこ以外に属する場所がないですよね。だからやはり必然的に孤立してしまうんです。
【A24】もちろん、知的障害を持つ方で「私は障害なんて隠したいのよ」という方も
13
いらっしゃるので、それはその方の個人の問題になってくるんですけどね。何かそう
いう場所としても、「ここに行けば誰かがいる」、「仲間がいる」、「同じしんどさを抱え
ている人がいる」というように思ってもらえたらいいなというようにスタッフと話を
しています。
λ96凌々は、参切者圭.体の涯動/こなって川カゴいいなとい5ことでナが、勿酌障害
の方で色歴一騎を積めばβ分たらだけて扇動していくことは十分所磨ということですか。
【A25】そうですね。見守りは必要だと確かに思います。だけども、参加者が主体と
なって活動していくことに意味があると思うので、私たち支援者がセッティングして
そこにのっかるのでは参加者主体の活動ではないですよね。
【A26】参加者の方々がやりたいことを、自分たちができる方法を選んでおこなうこ
とが一番だと思うんです。そして中心となる人がおのずと出てきて、その人を中心に
回っていけば一番いいなと思いますね。
λρ7参切者への傍報について教左てください。
【A27】福祉サービスを利用されている一人の利用者さんに対して、支援に関わって
いる人がうち(A支援センター)だけではないし、他の事業所を利用されていたりしま
すよね。例えばハローワークなど。今の障害者福祉の中で自立支援協議会というのが
立ち上がっていて、そこで情報発信していき、そこに来ておられる支援者の方が利用
者の方へ直接、こちら(A支援センター)に登録していなくても、「このような活動もあ
りますよ」という感じで話が広まっていっている感じだと思います。
lA28】逆に、全く福祉サービスも利用されたことがなくて、だけども手帳を持って
いて就職されている方っていると思うんですけど、だぶん、きっと何も知らないまま
に行くと思いますね。
lA29】それで離職したときに、「どこかに相談してみようか」というハローワークの
促しがあって、初めて福祉サービスというものに関心がいくという潜在的な方々って、
14
実はたくさんおられるんです。
【A30】それは、私たち支援者が把握していない部分もあると思いますけどね。だか
ら情報の発信としては、支援者側がいろんな場所に「こんなこともやっていますよ」
というように声をかけて、事業として広めていくということはしています。
【A31】しかし、確かに全てに情報が行き届かないということはあるんです。特に養
護学校ではなくて、一般の学校を出られて就職されている知的障害者の方などは、全
く福祉の世界なんて知らずに就職されている方も多いので、「こんな制度があったの
ね」rこんなサービスがあったのね」ということが、働いて10,15年くらいして離職
する時になって初めて分かるんですよね。手帳を持っていてもそういう方はたくさん
おられるので、二一ズとしてはきっとたくさんあると思うんだけど、すべてを把握す
るのは少し難しいかなと思います。
λ鯛勿的庫穿孝の就労と余脚こついて菰β身は、余暇の充実が猪労継続や生盾の
充宕/こ繋がると考えているのですが、美際のところはと“クなのでしょうか。
【A32】根本的には、やはり障害があっても無くても一緒なのでね。仕事だけでは豊
かな生活を営めないというか、やはり経済的にいくら豊かでも、心が豊かじゃないと
生きていて楽しくないでしょうし、楽しみを見づけながら生きていくというのは、障
害の有無に関わらず大切なことだと思います。ただ、知的障害を持つ人々はそれを「見
つけにくい」というのは一つあると思うんです。そこをこちら(支援者)が少し提示す
ることで経験を増やせるのなら、それは役割として私たち支援者がやっていかないと
いけないと思っています。
【A33】「楽しみがあるから、少し辛いことも我慢できる」ということとか、「働く」
ということについては、「なぜ働きたいの?」とか、「ただ働きたいだけでは仕事は続
かないよ」ということで、相談者の方となたにも話をするんです。「これを買いたい」
「野球を観に行きたい」等、何でも良いんです。目的がないと仕事は続かないと思う
のでね。
【A34】目的の部分がやはり知的障害を持つ本人にとって一番プラスになる部分なの
15
で、そのためには「少し辛いことも頑張らないといけないよね」という話もします。
辛いことも頑張って、それでお金を得て楽しむという一つの過程をどなたにも説明し
ています。お金があっても、その使い道がなければ「何のためにこのような辛いこと
をして、怒られるんやろ?」ということにもなりますしね。特に知的障害の方はその
過程を理解することが困難な方が多いと思います。
【A35】だから実際の経験として、趣味を見つけたり、楽しみを見つけたり、好きな
ものを買ったりなどをして、「仕事と余暇は繋がっているんだ」ということを本人(知
的障害者)に理解してもらわないといけないですね。
【A36】働く意味というのが見えてくれば、やはり仕事も定着もしてくるでしょうし
ね。その意味が見出せないと、実際しんどいですから。「働く」ということは、しんど
いことだらけだと思うので、だから離職に繋がったりもするし、r仕事と余暇は繋がっ
ているよ」ということを理解していただくための支援というのは欠かせないと思いま
す。
λθg.倣労ナる勿的庫穿孝の余贋支鉤全体を考左た脚こ∂さ〃偲ラこと、また
藩としてあゲられることなどのよ5なことだと考差ますか。
【A37】まずはやはり、社会が変わらないといけないと思います。受け入れる側の問
題だと思うんですよね。本人さんが外へ出て行けるか、出て行けないかは、よく「障
害は社会が作り出している」という言われ方をしますが、まさにその通りですよね。
【A38】本人が安心して外へ出て行ける場所が少ないし、配慮してもらえる場所が少
なすぎるというところが問題だと思うんです。知的障害を持つ本人の努力だけでは、
どうにもならないことなので、rだれもが楽しめる社会」、究極のところはそこだと思
います。
【A39】知的障害というのは見た目ではわかりにくい障害なのでね。だからこそ、社
会的な配慮がどなたにとっても必要だということが意識されない限りは自由に外へは
出れないですよね。例えば、電車に乗るにも、スーパーに行くにもそうですし、そこ
が変わらない限りはダメだというように感じます。
16
【A40】働きかけとして、これまで話をしてきたような余暇支援を地域で根付かせて
いくというのが私たちの一つの役割でしょうけどね。障害を持っている人だけに限ら
ず、色々な人が集まる中で活動していくということが一番いいんだろうなと思ってい
ます。
2.考察
A支援センターでの余暇支援活動は、まだ2年目ということで就労する知的障害者
の余暇支援について、支援者であるセンターの職員全員が、まだまだ思考錯誤しなが
ら活動を作り上げている最中であることが、インタビュー調査でのエピソード【A01】
やaさんの語りの様子から伺うことができる。
インタビュー調査を通して、知的障害者の就労生活において、やはり職場と家との
往復で、息抜きができる場所や、職場以外での仲間との繋がりを持つことができず、
仕事の悩みやストレスを溜め込んでしま・うことが多いことが分かった。またそのこと
が離職や退職に繋がるケースが多いということも考えられる【A06】。さらに【A07】
では、楽しみを自分で作り出すことが困難であり、個人的な趣味は持っているものの、
仲間と共にどこかへ出かけてみる等の横の繋がりの作りにくさがあるという、知的障
害者が余暇活動を行う上での困難さを明らかにしていると言える。しかし、「そこの部
分を支援者が少し提示することで、知的障害者本人が社会経験を増やすことができた
り、生活の充実に繋がるのであれば、役割として私たちが支援していかなければなら
ない」【A32】とaさんが述べているように、知的障害者への余暇支援の重要性が考え
られる。具体的には、知的障害者本人が「なぜ働くのか。」という目的を明確にして【A
33】、さらにその目的を達成するためには少し辛いことも頑張り、その上で得たお金に
よって楽しむというサイクルを理解すること【A34】、また「仕事と余暇」の繋がりを
理解し、働く意味が見えてくれば、仕事も定着してくるであろう【A35,A36】とい
うことである。そこで、【A21】でも述べられているように、社会の中で自分の居場所
や役割を認識し、自分がその集団の中で必要とされているということが意識できれば、
さらに就労生活も充実していくのではないだろうか。
余暇に対する二一ズに関しては、以前からたくさんの二一ズがあったことが明らか
17
となっている【A12】。また、【A101では「知的障害者本人よりも保護者からの訴え
が多い」ということで、知的障害という障害特性や経験不足から、知的障害者本人が
集団で何かをすることや余暇を楽しむということに対してのイメージを持ちにくいこ
とlA11】、また自分自身ではなかなかそれを改善する術を見つけ出しにくく、余暇を
充実させていけばストレスも発散できるということに自分自身で気づいていないケー
スも多いと考えられる。しかし一方では、【A13】のように普段の生活リズムから外れ
たことをすると、それが本人や仕事にも大きく影響するということで躊跨する保護者
もいる。しかし、本当に「普段の生活リズムから外れたことする」ということが、本人
の疲れや興奮を促しているのだろうか。例えば、知的障害者でなくても、普段の生活
と少し違った環境で楽しい出来事があれば、その後で疲れが見えたり興奮が治まらな
いということは考えられる。適切な余暇活動は、ストレス発散となり良い気分転換に
もなることから、そのメリットについて保護者にもきちんと説明し、啓発していくこ
とも必要ではないだろうか。aさん自身は、一般就労している知的障害者に対して、
一見は社会生活も豊富なように見えて、実はとても限られた中で生活しているので、
社会経験もかなり少ないのではないか【A14】ということを指摘していることから、
就労と余暇活動をバランスよく実践してくことの難しさが感じられた。こういった現
状の中で、かなり広い範囲に渡って相談支援をおこなっているA支援センターにおい
ては、今後どのようにして二一ズを広いあげていくかというところが課題となってい
る【A15】。
実際の活動については、【A02】【A03】【A04】【A05】からわかるように、2ヶ月
に1回、A支援センターに登録している人、または今後登録を考えている人を対象と
して、近所のファミリーレストランで食事をするという杉ですすめられている。特に
何をする訳でもなく、食事をしながら同じ障害や悩みを抱える人々と語り合える場所
ということで、それによって「本人たちの心安らぐ場所になれば」という、この活動
に込めた支援者の期待が感じられる。また「これをきっかけにして友達としての繋が
りができ、次の新しい活動への動機付けとなれぱいい」という支援者の思い【A22,
A23,A24】から、この活動そのもので満足するわけではなく、本人たちのさらなる
飛躍に向けてのきっかけ作りとしての意味も込められているのではないだろうか。し
18
かし、aさん自身は知的障害者の余暇支援に対して食事会という活動だけでは限界が
あると感じている【A18】。レクリエーションのような活動を取り入れてみたり、今あ
る二一ズ【A19】を実現させたいという思いはあるが、それがなかなか困難な要因の
一つに、人手(支援者)不足という課題も挙げられている【A02】。【A25】【A26】では、
見守りは必要であるが当事者同士での活動が十分に可能なことが示唆されており、知
的障害者の余暇を支える体制や環境の整備が重要であると考えられる。
【A08】では、余暇活動を充実させていくことのメリットとして、本人同士の繋が
りが心理的な安心感をもたらすだけではなく、支援者側が本人の持つ悩みや問題を把
握できることが、離職や退職に対する予防的な対処にも繋がると推測できる。本人の
悩みを早期に発見し、対策を立てて解決に向けて早く動き出すことができれば、仕事
の定着率も上がり、離職や退職に至るケースも減少するのではないだろうか。
【A27】【A28】【A29】【A30】【A31】では、本人への情報提供についての課題が
示唆されている。aさんは、二一ズがあるにも関わらず全ての人々に情報が行き届い
ていない部分もあるということも指摘しており、特に手帳を持っていても、特別支援
学校ではなく通常の学校を卒業して就職している人に関しては、全く福祉の世界を知
らずにいる人も多い。そして離職や退職等、何らかの問題が生じてから初めて様々な
福祉制度やサービスがあることを知る人も少なくないということである。このような
人々が、必要な時に、必要なサービス等を受けることができるようにするにはどのよ
うにすれぱ良いのか、知的障害者への情報提供についての大きな課題の一つと考えら
れるだろう。
第2節 事例皿
1.結果
3ψ.涯動の威ク立ち、輩寮について教えてください。
【B01】以前、ここ(B支援センター)にいた職員が、B支援センターの立ち上げから
19
関わっていて、その職員が転勤で変わっているので私がその後を引き継いだ形になっ
ています。一番はじめは、養護学校の先生や福祉施設の方々なとたくさんの方に声を
かけて、働く知的障害者の方が集まる場所を作ろうということでスタートしました。
【B02】最初は、支援者や参加者の皆が少しずつ料理などを持ち寄って活動していた
感じです。当初は、B支援センターが中心で活動していたわけではなくて、養護学校
の先生や福祉施設の方々等、皆で活動していたはずが、徐々に忙しくて来れなくなっ
たりして、最終的にはB支援センターの職員が中心になって活動するようになったん
です。食事などもこちらで用意して、運び込むという形になってきました。今年で4
年目くらいですかね。3月1目に現在の場所へ移転してきてから今のような形になり
ました。
【B03】ボランティア等はとくに関わっていません。養護学校教員や福祉施設の職員
がみんなで協力してやろうというところから始まっているのですが、いつの間にかB
支援センターが中心となって活動するようになってしまったんですよ。
【B04】余暇活動、余暇支援というのは絶対に必要だと思います。私たちもストレス
が溜まってくれば、自分の好きなことや、気分転換などをすることで、また次の目か
ら頑張っていけますよね。やはり基本的には同じ人間ですから。「なぜ人は働くのか」
という基本的なところで、給料を貰って生活しなければいけないということも確かに
あるけれども、それだけでは頑張れないですよね。
【B05】働いて稼いたお金で楽しむということは大切ですし、徐々に給料が高くなれ
ば、それだけ生活水準も上がってできることも増えていきますよね。だから頑張れる
というのもあるだろうし、あとは、自分の作ったものが売れていくということに、充
実感を味わうことも大切だと思います。だから絶対遊びも必要だと思うんです。
【B06】そういった機会が自分たち(知的障害者本人)で作れないのであれば、それを
可能にできる環境を誰かが作っていかなければならないと思います。
【B07】そこで難しいのは、r就業・生活支援センター」というr就業」を担当する支
援センターで、やはり「楽しいだけの世界でいいのか」ということは、現在、突きつ
けられている問題です。それは作業所や入所施設等ならそれでいいのかもしれないけ
れど、就業の支援をしているところであれば、もう少し違う関わり方があるのではな
20
いかなと考えています。
【B08】B支援センターでやっている活動として、交流会といっても根本はグループ
ワ]ク、グループミーティングみたいな形になるのですが、それを活用して一方的に
喋るんじゃなくて、参加者同士で話をして、色々なことを言い合える場にしていくと
いうことで活動しています。
【B09】特に、就職している方々なので、ある程度話せる方ばかりですし、やはり働
いていると愚痴はあるみたいでよく出てきます。「楽しいです」なんていうのは、まず
ないですね。それから、「相談したいことありますか」といってもあまり出てきません。
【B1O】r最近1亡しいです」とかr仕事が増えました」など、そういう話を聞いている
と、「あっ、頑張ってるんだな」と私たち支援者も嬉しくなります。
3ρ旦涯動向答について許しく教えてください。
【B11】活動頻度については、2ケ月に1回、第4金曜日に活動しています。
【B12】内容についてですが、前回の交流会が終わったときに次回の出欠確認をして、
その後、変更がある場合は、電話で連絡してもらうということにしています。1週間
前に人数を把握して、料理をこちらで用意しています。また、急に来られる方もいる
ので冷凍食品を用意したりもしています。当日は、来た人から名前を書いてもらって
出席確認と、お金を払ったかの確認をします。飲み物もジュ]スとビール、酎ハイが
あって、ジュースやお茶は食事代の500円の中に含まれています。お酒を飲む場合は
別途200円、100円かかります。働いている方々なので、やはり「お金を使う」とい
うこともしてもらいたいので、その辺りはきっちりとお金を取っています。
lB13】はじめは食べたり飲んだりするところから始まって、ある程度落ち着いてき
たら自己紹介をします。参加者も毎回変わるので、毎回自己紹介をしています。その
ときに働いている方だったら、「いま会社はどうか」とか、「今こんなことやっている」
とか話をしていただいて、それが終わったら歓談してもらっています。
【B14】食べるものも無くなってくると、この前からはSST(ソーシャルスキルトレー
ニング)的な形のワークをしたり、携帯電話のいたずら電話・メールなどをどうしてい
21
るかということや、「こんなメールが来てるんだけど」と見せ合ったりしていますね。
そこで、rそのときはどうした?」と聞いたらr無視した」とか、r他には同じような
人はいませんか?」とか、rいるいる」、rどうした?」という形で、咽った時には誰
に相談したらいいかな」、というようにして話を広げていったりします。そういったこ
とをしながら、参加者も支援者も一緒になって話をして時間がだいたい17:30から
18:00スタートで2時間くらい活動しています。
3ρ3.参吻孝の状況/こついて教えてくだされ
【B15】参加者の半分が一般企業で働いている方ですね。いま徐々に一般企業で働い
ている方の方が増えてきています。B支援センターとしては一般企業で就労している
方をメインにしたいと考えています。
【B16】以前は、本当に誰でもが関係なく参加できる場所にしていたんですけれども、
徐々にB支援センターでおこなっている活動については、一般企業で働いている方を
中心にやっていきたいと考えているんです。
【B17】新たに参加したいという場合は、就業生活支援ワーカーが相談に応じて、「活
動に参加することが彼らの力を伸ばしていける。」と判断した場合には活動に参加して
もらうことにしていますね。
【B18】以前は、友達なども自由に連れてきたりしていたんだけれども、今はそれが
できなくなりました。それをしたいのであれば、他の所を紹介させてもらって、そっ
ちに行ってもらっています。
【B19】そうして、B支援センターではできるだけ一般企業に就労されている方を対
象としていきたいんです。そうすると話す内容もかなり絞っていけますのでね。色々
な方が来られていて、SSTのようなものを盛り込一んでいこうと思うと非常に内容が幅
広くなってしまって、焦点が絞りにくくなってしまうというところが問題なのでね。
3ρ4、効者/ユ紐名くらいおられる6クて;ラ「カ〕。
22
【B20】以前は20人くらいいましたが、今は絞られてきて15人くらいですかね。女
性がより男性の方が多いです。
398だいたい姦厘、厨し方が1続けて参励されているのですか。
【B21】そうですね。だいたい決まったメンバーと、あとは新しく来られる方が数名
いますね。
【B22】就職してなかった方々がB支援センターに来つらくなったということで、他
へ行くようになり減ってきている分と、あとはこちらの就業生活支援ワーカーがrぜ
ひこの人は参加した方がいいだろう。」という方に声をかけて来るようになった方と、
いま色々と入れ替わってきています。以前から参加していて就職されている方は、そ
のまま継続して参加していますね。
3ρ6勿酌障害を持つ方への余暇涯鍬こ解する停報提媒や、涯動へ参切ナるきつかげ
作クについて教左てください。
【B23】以前は、現在参加している人たちの声がけだけで、参加したいという人が集
まっていました。
【B24】また一時期は、こちらから参加して欲しいと思う方に手紙を出して、それで
やり取りをしていました。
【B25】多い時は30人くらい参加したときがあって、立食パ」ティー状態で座るこ
ともできなくなってしまっているときもあったんです。しかし、それでは顔も名前も
わからないという状態になってくるのと、こっちの事務所に移ってきて部屋も限られ
たというのもあって、現在は今まで参加されてた方は、先ほど言ったように、次に参
加できるかどうかというのを記入してもらい、変更があれば電話で連絡してくるとい
う形にしています。それ以外に新しく参加する人は、就業生活支援ワーカーが必要と
認めた人だけに声をかけるというようなやり方です。決して幅広くというわけではあ
りません。
23
【B26】前にお話したように、一番初めの立ち上げは養護学校の先生や施設の職員が
関わっていたので、知的障害を持つ方は、学校や施設で知ってる人から声をかけても
らったり、一緒に来るというところからスタ」トしましたよね。それで形ができてき
たので、そのあと友達を連れてきたりだとか、少しずつ広がって30数人まで数が増え
ていってしまったのだと思います。
【B27】最初はどうしても支援者が、特に養護学校の先生などが、熱心に動いてくれ
ると活動として成り立っていき、形はできやすいですよね。
【B28】あとB支援センターとして雑誌も出していて、そこに広告なども掲載してい
るんです。
【B29】そこで、関係機関の職員からの間い合わせはいただくんですけども、現在は、
就業生活支援ワーカーが必要と認める人、またはここ(B支援センター)で相談支援を
受けている方で、エンパワーメントを高めることが目的という人たちに絞らせてもら
っています。「まずはここ(B支援センター)に来て相談してください。」というところ
からスタートということですね。
【B30】そのようにしたのにも理由があって、以前「この活動に参加させたいんでB
支援センタ』に登録しだいです。」と言ってきた方もいるんですけど、「それは違いま
す。B支援センターの業務はこの活動だけが目的ではなくて、就職している方の定着
を高めるための余暇支援という位置づけにあるので。」ということを説明させてもらい
ました。
【B31】しかし、いま切り替えでいっている中で、参加して楽しくない場所にしてし
まうと、参加者のみなさんは来なくなるのでね。あくまでも「余暇」なのでそれがき
つかったら嫌ですよね。勉強させられても嫌ですよね。
【B32】でもせっかくの機会に彼ら(知的障害者)のエンパワ」メント、持ってる力を
引っ張り出すような関わり方をどのように行っていこうかというところで、相反する
ものを一緒にやろうとしているので、その内容をどうするか考えて努力しています。
【B33】あとは、時間的に本来の時間だと、勤務時間は17時までなんです。でもこ
の活動は17時半から始まって職員の勤務時間外でやっています。だから職員に、「時
差出勤してください。」と言っても実際はみんな忙しくて、そんなことしている暇が無
24
いので結局は残業ですよね。
【B34】しかし、「余暇は絶対に必要だ。」ということを職員も認識しているので、嫌
だとか、面倒だと言う人は誰もいません。次の活動はどのようにしようか、食事は何
にしようかなどいっも考えたりしています。
3ρz男在の涯鍬こ厨ナる熾数点や今凌の課窟箏について教えてください。
【B35】将来的には、参加者だけの自助グル」プを作っていきたいと考えています。
【B36】今はこちらがお膳立てというか、企画したりしているんですけども、将来的
には参加している知的障害者本人たちでグル」プを作って、自分たちで企画して活動
していけるように、そういう力をっけてもらえたらいいなと思っています。
【B37】例えば、その中からスポーツチームを作ろうとかね。現在もいくっかあって、
それに参加している方もいるんですけど、「体育館使いたいな」とか言って、「じゃ申
し込みの仕方はこうやってやるんだよ」と、支援者がバックアップしていきます。そ
して、申し込みの仕方も覚えていき、最終的には知的障害を持つ方たちが自分たちで
申し込みができるようになって、体育館で集まって遊んだりすることが可能になる等、
もっと活動の幅に広がりができてくると思います。
【B38】ここ(B支援センター)の中だけではなくて、rせっかくだから美味しいものが
食べたいので、次回はレストランに行こう」となれば、どこへ行くか企画して参加者
同士で誘い合ってレストランに行くとか、自分たちでこんなことやりたいなというの
が出てきたら、それに応えられるような支援の仕方に切り替えていきたいなとは思っ
ています。
3ρ8一この涯鍬余暇支矧が、芙脚こ就労の脇続や生盾の充実に繋がっているのかと“
〃・といク親分では、どのよ〃こ考左ておられまナか。
【B39】85%はそうでしょうね。でも残りの15%は余暇で潰れてしまうということが
あると思います。疲れて仕事に影響してしまう人もいるので、支援者がしっかりと者
25
えて関わっていかないといけないと思います。知的障害者のオリンピックというのも
あるでしょう。あのようなものも、もっと活発になっていけばいいんでしょうけど、
あれで疲れてしまう人もいるのでね。
【B40】この間、相談を受けたケースは、3種目に出場して、それでクタクタになっ
てしまい、それでもう仕事にならないというのがありました。仕事先でも寝てしまっ
たりとか、仕事にならないと会社から問い合わせがあって、よく関係者で話をしてみ
ると、「そういえば最近疲れているよね。そんなにたくさんの種目に出場していたん
だ。」ということが分かりました。支援者は部分的なところしか分からないので、ケー
ス会議を開いたらやっと分かったということがあるんです。「それなら誰か早く止めよ
うよ。」というケースもあるんですよ。
【B41】あと、ソフトボールのチームに入っていて、レギュラーから外されたことが
仕事に影響してしまっているという知的障害者の方もいます。そういう時に、誰も支
援する人がいないんですよ。その情報が支援センタ」にもこないし、会社にも伝わら
ないし、親も良くわからないという状況がありました。そして、関係者同士が集まっ
て色々と情報交換したときに「あっ!それや!!」ということで分かるんです。
【B42】モチベーションが即仕事に影響してしまうんですよね。その辺の連携はどの
ようにして作っていけばいいんだろうと悩んでいます。たまたま会社から相談があっ
たり、本人からの相談できれば、うまくいくこともあるけれども、それが全然できな
くて辞めてしまうこともたくさんあるのでね。分からないまま、仕事を辞めてしまっ
てからではどうしようも無いですからね。
【B43】その辺で、合うち(B支援センター)がやっているように、参加者のエンバワ
メントを高めて、自分たちのことは自分たちで管理して、行動していき、どういう余
暇の使い方をしていったらいいのかということを学びながら楽しんでいくということ
をやっていこうという方針なんです。
399.今凌の勿酌障害者への余既芝援のあク方について、どのように考えておられま
ナ水
26
【B44】就労を支援する機関がやることと、その他の福祉機関がやっていくこと、そ
れぞれ違っていっていいのではないかなと思うんです。
【B45】うち(B支援センター)が全てのことをやるということではなくて、ある一部
分に特化して、知的障害を持つ本人たちがたくさんのメニューの中から選んでいける
ようになっていくべきではないかなという気はしています。だから一概に、rこんなの
がいい」ということではなくて、色々な可能性があればいいのではないかと思います
ね。
【B46】また、たしかに社会人になった人も行くところがないんですけど、学生さん
も行くところが無いんですよね。
【B47】地域の申に、もっと障害者の活動できる場所を作っていくことも福祉施設の
役割ではないかと考えています。
2.考察
B支援センターでの活動は、もともと養護学校教員や福祉施設職員によってスター
トしているということで、障害者就業・生活支援センターが開設される以前より、働
く知的障害者の余暇活動に関してその必要性、重要性が明確になっていたと考えられ
る【B01】。
【B07】から、障害者就業・生活支援センターでの余暇支援とは、地域で楽しく生
活するための支援というより、「就労を定着させるための支援」いわゆる就労支援とし
ての余暇活動という位置づけにあると言える。実際に、B支援センターでの活動は就
労を定着させるための余暇支援【B30】ということで、現在、就労している知的障害
者やB支援センターの就業生活支援ワ」カーが活動への参加が必要であると認めた方
等が参加可能であり、それ以外は参加できないようになっている【B29】。bさんの述
べるように、二つの側面からの余暇支援があり、それぞれ違った役割をもつことで、
知的障害者本人が自分自身の二一ズに合わせて自由に余暇活動が選択できるようにな
っていくことが望ましいのではないだろうか。
参加者の状況は、【B15】から【B19】で語られているように、一般企業で働いて
いて、B支援センターに登録している方を対象として活動している。bさんがそこに
27
こだわる理由には、一般企業で働く知的障害者が増えてきているということに伴い、
一般企業で健常者と共に働いている知的障害者、特有の悩みや困難さがあると考えら
れるからである。【B11】から【B14】の活動の内容からも分かるように、仕事帰りに
食事をして、仲間と話をしながら楽しく過ごすだけではなく、SSTやグループワーク
の要素も取り入れた活動がおこなわれているが、それは、【B19】でbさんが述べるよ
うに、対象者を絞っていくことで就労する知的障害者の二一ズに応じた、より確実な
支援が実現できるからであると考えられる。
B支援センターでの活動においても、支援者は職員のみで、特にボランティアや地
域の人々等が関わっているわけではない【B03】。【B33】で述べられているように、
職員が勤務時間外で支援に携わっているため、一人ひとりへの負担は大きいものだと
考えられる。しかし、【B04】【B051のように、支援者が就労する知的障害者の余暇
活動、余暇支援の重要性を一番に感じていることが、この活動を動かす原動力ともな
っているのではないだろうか。また一方では、【B39】から【B42】で語られているよ
うに、余暇活動が仕事に影響してしまうというケースもあるということで、余暇をど
こまで充実させていくと良いのかというところに課題があることがうかがえる。余暇
活動に力を入れすぎてしまうことで、身体的な疲れや精神的なモチベーションが、直
接仕事に影響してしまうと、本人もしんどい思いをするだろうし、もちろん会社側や
周りの同僚等にも負担がかかるということも考えられる。【B43】でも述べられている
ように、そういった本人の変化にいち早く気づき、何らかの支援ができる体制が整っ
ていれば、事例Iでも考察したように余暇活動によって日常生活のリズムが壊れてし
まうということは防げるだろう。また、自分自身で、行動や余暇の使い方等をコント
ロールする力を身につけることができれば、さらに充実した生活が送れると考える。
今後、就労と日常生活における余暇との両側面を、一貫して支援していける環境整備、
支援体制を整えていくことが望ましいと言える。
本人への情報提供については、もともと活動を立ち上げるきっかけとなったのが養
護学校教員や福祉施設職員であるということで、身近にいる支援者による声がけによ
って集まったというケースがほとんどであるlB26】。このことから、やはり福祉サー
ビスを受けていない場合や、余暇活動に繋がる身近な人との出会いの機会がなければ、
28
ほとんどそういった情報を得ることも困難な状況にあると考えられるだろう。知的障
害者への情報提供、特に情報を得る機会の少ない状況にいる人々への支援は、今後、
大きな課題であると言える。
今後の知的障害者に対する余暇支援のあり方について、bさんが、「就労を支援して
いく機関と福祉機関との役割分担が必要である」【B44】と述べているように、余暇活
動といっても、それを一括して考えるのではなく、それぞれの機関が目指しているも
のやそれに伴う余暇活動の意味の違いによって、活動の目的や内容ももちろん変わっ
てくると考える。そういった意味でも【B45】【B47】で語られているように、それ
ぞれの特性、必要性に応じた余暇活動が選択できること、そして、障害を持つ人が活
躍できる場所が地域の中にたくさん出来上がっていくことが望まれるであろう。
第3節 事例皿
1一緒呆
0砂.涯動向呑について教左てください。
【C01】働くことを希望している人、また現在働いている人を対象にして相談支援を
させてもらっています。どんな障害をお持ちの方でも対象とさせてもらっているので、
知的・身体・精神の方はもちろんですが、発達障害や高次脳機能障害、難病指定を受
けておられるような方などの相談も受けさせてもらっています。
【C02】基本的には、働きたいと思っていてこれから就職活動をしようという方のご
相談が多いので、C支援センタ」に相談に来たら、「このような流れで就職まで進むん
ですよ」というのを図で描かせてもらい、「障害を持っ本人さんを中心としながら、色々
な機関が関わって支援する体制を作らせてもらいます」ということで、それを了承の
もと動かせていただいていますので、私たちC支援センターの職員だけが関わるので
はないということをお伝えしながら相談支援をさせてもらっています。
【C03】相談件数の内訳的には、やはり知的障害の方が圧倒的に多くいらっしゃって、
29
二一ズも高まってきているのが現状です。
【C04】知的障害の方でも特に、養護学校の卒業生の方が多いです。もちろんこの3
月に卒業された方もおられますし、それまで何年かさかのぼって、もう20年くらい前
に養護学校を卒業された方も、この不況の中で離職をされて、これからまたどうやっ
て仕事を探したらいいのか分からないということで、相談に来られたりするというケ
ースが一番多いと思います。だから養護学校の先生方や、家族の方からのご相談とい
うのがけっこう多くありますね。
【C05】その次に市町村の窓口の方とか、ハローワークの障害者の窓口の方が相談に
来られることが多く、その次くらいに福祉施設で活動されている方が、施設から地域
へ出て働きたいという利用者さんのことで相談に来られるケースが少しずつ増えてい
っているような現状です。
0駆離職や遊織の理盾として一番多いの依 と“のよ5なことですか。
【C06】一番多いのは人間関係ですね。職場の人と上手くいかない、職場の雰囲気が
嫌になったとか、それが一番多いかなと思います。あとは働く目的がわからなくなっ
てしまう方もいますね。
【C07】良くあるケースが、養護学校を卒業されてすぐに就職をするとなると、私た
ち健常者でも同じだと思いますが、4月になって学生からすぐに「社会人ですよ、働
きましょう」となって働き始めても、自分自身でその環境の変化が分からなかったり、
理解できなかったりしますよね。突然、大人の社会に入るので、大人の社会、大人の
ルールすらも分からなくなってしまうんですよね。もちろんそのようなことは学校の
ような守られた空間の中ではないので、当然怒られたりもするし、注意も受けるし、
またそれをフォローしてくれる人がいる場合といない場合もありますからね。
【C08】また、年配の方のパートが多い職場に、18歳の男の子が就職して、「みんな
で仲良くして働きましょう」と言ってもなかなか上手く人間関係が作れなくなって、
それで注意を受けることが多くなるんです。それで、もう仕事に行くのが嫌になって
休む回数がどんどん多くなり、結局、最終的には仕事へ行きたくなくなってしまって、
30
離職するというのが一番多いパターンですね。
【C09】あとは、2,3年は頑張って働いたけれども、そのうちに自分が何のために働
いているのかということが分からなくなってしまう。最初は漠然と「給料をもらうた
め」ということや、「お金を稼ぐため」など、漠然としたまま就職はするけども、あま
り変化のない仕事に就かれる方が多いので、働き始めて毎日同じことの繰り返しで、
r自分が何のために働いているのか」という部分が分からなくなってくるんでしょう
ね。「貯金もあるし、自分の嫌な職場にわざわざ行き、我慢してまで働いて、なぜ自分
はこんなしんどいことせなあかんねん」ということで仕事を辞める方というのも多い
かなと思います。
【C10】その他に、最近少しずつ増えているのが会社都合ですね。会社側が、少し景
気が傾きかけて危なくなってしまって、「首は切りたくないけれども、切らざるを得な
いので、すみません」という形で首を切られてしまったりという方も少しずつ増えて
きていますね。
0ρ3。余暇支援の内容について詳しく教左てください。
【C11】C支援センター開所当時からやっていることなのですが、働いている方で、
C支援センターの登録者を対象とした休日のレクリエ]ションを2ヶ月に1回、第4
日曜目にさせてもらっています。
【C12】休目をうまく過ごせない方とか、同じような境遇にいる方同士が話をするこ
とで、また明日働く意欲を持っていただくということが目的です。元気に仕事に行け
るように、ということでやらせてもらっています。例えばボーリングやカラオケに行
ったりしています。昨年は梨狩りに行きました。
【C13】ただ、7月までは活動していたのですが、それ以降はインフルエンザが流行
しているので、感染拡大の防止のために9月からは一旦中断しています。レクリエー
ションに来たことによって、インフルエンザにかかってしまったら、会社側にも迷惑
がかかるし、参加者本人たちもしんどい思いをしてしまいます。それと、職員が私を
含めて3人しかいないので、職員がインフルエンザに感染してしまうと相談支援がで
31
きなくなってしまいますので、そのためにということもあって一旦中断しています。
【C14】時間は午後からで、13:30くらいに集合して、カラオケやボーリングに行っ
たりという感じですね。
【C15】参加者はだいたい14,5名です。知的障害の方が約7割。精神障害の方が2
割くらい。あとの1,2名が身体障害の方が来られているという感じです。
【C1612ヶ月に1回しか活動できないというのも、一番の理由は、やはり職員体制
の問題です。職員の休みが取れないんですね。休日にレクリエーションや相談支援を
おこなうということで日曜日に動くと、別の日に3人で交代して代休を取るんですけ
ど、やはりうち(C支援センター)のような機関は会社や役場が開いている目に動いて
いくことがどうしても多いので、予定をしていてもなかなか休みが取れないんですよ
ね。
【C17】会社で何かあればすぐに飛んでいかないといけない時もあったりするので、
そのようなことを考えると、やはり2ヶ月に1回というのが限界ですね。また、月1
で相談目も設けて開所しているので、余暇支援と休日相談日を両方やってしまうと、
勤務体制が取れなくなってしまうというというのが一番の理由ですね。
0ρ4.レクy工一ション/こ対して、勿的障害を持つ本λさんたちの二一ズはあるので
ナ^
【C18】レクリエ]ションの内容によっても、それぞれにこだわりがあって、知的障
害の方はだいたいボーリングかカラオケをやってほしいという声が一番多いですね。
【C19】もしかすると、「月に1回だけ?」と思っている参加者もいるかもしれないけ
ど、特に「もっとやってほしい」という声もあがらないし、一人で時間を潰すのがそ
こまで難しい方々ばかりでもないのでね。特に養護学校の卒業生の中には、すでに友
達同士でどこかへ遊びに行ったりもしている方もいるのでね。買い物に行ったり、自
分たちで活動される方々がほとんどなので、それに加えてC支援センタ」での活動を
するという形になりますかね。
【C20】もしくは学生時代、学校の中でクラスでも溶け込めなかったような方々が、
32
このようなレクリエーションに参加してみて、そこからまた新たな繋がりを持ち、学
生時代は喋れなかったけれども、これをきっかけに少し参加者のみなさんと仲良くな
って、カラオケやボーリングに行ったりとか、ここでの活動から少しずつ友達の輪が
広がっていったりするということもあるかなと思いますね。
0ρ5.支援者郷の体微が整っていれば涯動回教を増やナごとや、涯動的呑をさらに
充実させていくこと色考左ていますか。
【C21】はい。例えばkクリエーションだけではなくて、日常生活において仕事から
帰って来て、自分たち(知的障害を持つ本人たち)がどのようにうまく生活をしていっ
たら、もう少し今よりも楽に生活ができるのかということや、研修のようにそこまで
堅苦しいものでなくていいので、例えば「簡単な料理をみんなで覚えませんか」とか
でもいいと思うので、色々な活動をしてみたいと考えています。
【C22】他には、SSTみたいなことをやったりとか、そのようなのがあってもいいか
なとは思うんですけどね。なかなかそこまで時間が作れないので今はできてないんで
す。ゆくゆくはそのようなこともできたらいいかなと思います。
【C23】あとは、今までは障害種別(知的障害・身体障害・精神障害)問わず参加して
もらっていたんですけど、現在少しずつですが参加者が増えてきたので、障害種ごと
に分けて別々に活動した方が良いかなということで、知的障害の方だけのグループを
作ってプログラムを組み、活動するということも検討はしていたんですけどね。
【C24】やはり一番の課題は、支援者側のことで人数や時間が確保できないことなん
です。だから、学生ボランティアさんや地域の方々の参加があれば本当に助かります
ね。
【C25】活動に参加しているのはC支援センターに登録している方のみです。そうで
ないと、訳が分かっていない人が来たり、全然知らない人が来ると支援者側も対応に
困るのでね。C支援センタ」に登録している人で、働いている人というように限定し
ています。
【C26】参加者は全て一般就労している方ばかりですね。福祉就労されている方は、
33
そこの施設でのレクリエーションがあるので、それに加えての活動となると本人にも
それだけ負担になったりもしますのでね。
0ρ6劾的障害を持つ方、本λへの停報提供について教左てください。
【C27】なかなか知られにくいかなとは思うんですけどね。だからもう少し気軽に、
サロンDで活動しているような余暇支援みたいに、たくさんの方々の支えもあって、
もう少し気軽に行けて余暇の楽しめるような支援ができる場所が本当は各地域で出来
上がっていけばすごく理想的ではあるかなと思います。
【C28】しかし、そこに誰がきっかけを作って、誰がどのようにして余暇支援活動と
して作り上げていくかということ。また作ったのはいいけれど、それをどのようにし
て維持させていくかなど、そこまで考えないといけないのでね。その辺をどのように
していくかがたぶん一番難しいところだと思います。
【C29】たぶん、福祉関係者は誰しも知障害者の余暇支援は必要だと思っています。
ただ、それをどのように作りあげていけばいいのか、誰がやるのか、そういうことを
考えるとまだまだ支援者は二の足を踏んでいるところだと思います。当然うち(C支援
センター)も含めてね。
【C30】そこで良いきっかけとなるのが、Y市自立支援協議会を中心として活動し始
めた余暇支援だと思います。自立支援協議会というのが現在、地域でどんどん立ち上
がっているので、そういうところで、「みんなで余暇支援を盛り上げていきましょう」
という雰囲気作りをしていくところからが大切なのかなとは思いますね。
097 この涯愛ク徐繍カベ 聯/こ鹿労の麟キ≒生房の瀬戸こ葉カざって〃i6cクカ〕と“
5かといラ部分では、どのよ〃こ考左ておられまナか。
【C31】現在、私たちのやっている仕事というのは、直接的にそういったことが実感
できるまでには、やはり時間がかかるし、ケースバイケースなので今はどうなるのか
分からないんですけどね。活動していて参加者の方のすごく元気な顔が見れたり、直
34
接話をしている中ですごく元気に頑張っている様子が分かると嬉しくなります。
【C32】それと、参加者のみなさんが帰りがけには「次は何をやるんですか?」と必
ず聞いてこられるんですね。どの方も言われるので、やはり「この活動を続けていっ
た方がいいのかな」と思ってやらせてもらっています。
【C33】あとはそんなに参加者は多くないですが、日曜目に相談目に開所したりとか、
またレクリエーションをすることが直接的に繋がっているのかどうかは分からないん
ですけれども、C支援センターへ登録されていて現在働いている方の定着率が89%あ
るんですね。これだけ高いパーセンテージを作っているというのは、こういったこと
(余暇支援活動)も一つは担っているのかな、ゼロではないだろう思っています。何か
しらやはり影響はあるんだろうなと思ってやらせてもらっています。実感としてある
のはそれくらいですかね。
【C34】保護者の方から余暇支援についての声もあったりしますね。私が養護学校の
方まで行かせてもらって、家族会とか保護者会に行き、ご家族の前で話をさせてもら
う機会も最近多くなってきたんですね。例えば、「働くためには何が必要ですか」「ど
んなことを注意したらいいですか」ということを保護者の方に聞かれて、それに関し
ても色々とお話をさせていただくんですけど、その話が終わって、帰りがけにいつも
言われるのが、やはりこのレグリーション(余暇活動)のことをすごく言われるんです。
【C35】現在、学校を卒業してC支援センターにはまだ登録してないけれども、rそう
いったところにはどうすれば参加できるんですか」とか、C支援センタ]に登録され
ている方で、「今は順調に仕事もできているけれども本人にぜひ行かせたいんだ」とい
う声もあったりします。知的障害を持つ本人が家から外に出る機会ということが、保
護者自身も作りにくかったりするので、こういった活動にはぜひ参加させたいという
声もけっこうあるんですね。だからやはり続けていった方がいいのかなとは思ってい
ます。
0馳破労ナる劫砺障害者の余暇支鉤全体を考左た脚こ。さんカ源5こと、また
課蟹としてあゲられることはどのよラなことだと考左まナか。
35
【C36】今やっとこのようにして、余暇支援をやるきっかけが生まれてきたという感
じですね。今まで自立支援協議会というものがなかったのでね。だからこれからだと
思います。
【C37】私もいくっかの自立支援協議会に参加していますが、どこでもやはり余暇支
援ということは出てくるんです。ただそれも大事なんだけれども、それ以外に大事な
ことがまだまだ課題としてたくさんあるので、「じゃどれから手をつけるの」となって
くると、それはそれぞれ地域の特徴に合わせて動いていくので、それがY市自立支援
協議会では余暇支援を動かしていったというような流れがあるんです。
【C38】きっかけは今できつつあるんだと思います。だからあとは、誰が作って、ど
のようにして動かしてくかという仕組みができてくれば、動きやすいかなと思います
ね。
【C39】さらに、まだ制度上の問題があるので、「どこからお金を出すの」とか、支援
者となる皆さんはたぶん余暇支援をするとなると、自分の持っている仕事以外の部分
でも動かないといけないことって必ず出てくるので、「じゃ誰がやるの」ってどうして
もなるのでね。そこも大きな課題だと思います。
【C40】余暇支援については制度上あがってないのでね。「余暇支援に何かお金をつけ
ます」等、当然、国で認められてもいないし、そこは問題点がなと思いますね。
【C41】夕方、仕事から帰ってきて障害を持っ方もそうでない方も皆が一緒に集える
場所があればだいぶ違うのかなとは思いますね。そこには、いろんな関係者の方も当
然集まるし、本人さん(働いている障害者)ももちろん集まります。そこで色々なイベ
ントをやったりだとか、交流をしたりだとか、他愛もない話をすることで、日頃のス
トレスの発散にもなったり、他のサービスや相談支援の方にもきちんと繋がっていく
と思うんです。それに先ほど言ったような、情報を知る場所にもなってくるかなと思
うので、できればそのような活動ができたら理想がなと思いますね。
2。考察
C支援センターの相談支援事業において、知的障害者の相談件数が圧倒的に多く、
二一ズが高まってきている現状がある【C03】と述べられていることから、知的障害
36
者の地域生活に関する課題について考えていくことの重要性が示唆されている。
【C06】から【C1O】では、C支援センターへ相談に来られている方々の離職・退
職理由について語られており、Cさんの話によると、一番多いのが「人間関係」に関
する問題ということであった【C06】。さらに、学校という守られた環境から社会人と
して働くという環境の変化に対応できないこと【C07】【C08】。また、働く目的を見
失ってしまった結果、離職や退職に至ることlC09】、企業側の都合で退職させられて
しまう【C10】など様々なケースがあることが明らかとなっている。このことより、
就労に関する本人自身の問題点や課題はもちろん考えられるが、その他にも、働きや
すい環境の整備、企業側や同僚の理解といった面でもたくさんの課題が山積している
ことが示唆されている。
C支援センターでは、2ヶ月に1回、休日を利用してボ」リングやカラオケ等のレ
クリエーションをおこなうという形で活動している。全体の参加者14,5名のうち約
7割を知的障害者の方が占めており、全員がC支援センターに登録している方である。
そして【C13】【C16】【C17】からは、やはりここでも支援者の抱える問題が大きい
ことがうかがえる。支援者はC支援センターの職員3名で、毎回交代で支援に当たっ
ているが、休日に活動するということで、勤務体制がうまく取れないということが課
題としてあげられている。余暇支援については、現在のところ国の制度上はほとんど
整備されていない【C40】。これまで、余暇支援については福祉関係者の間でも誰もが
必要性を感じていたものの、【C39】でも述べられているように、制度上の問題もあり、
実際に支援活動をおこなうとすると、「誰が、どのようにして支援するのか」「そのた
めの予算はどこから出るのか」等の問題で、実践するにまでに至っていなかったこと
は明らかである。このことは、C支援センタ」のみならず、少なくとも今回の調査対
象となった4つの事例すべてに当てはまると考える。
余暇活動を充実していくことが、就労の継続や生活の充実に繋がるのかという質問
に対して、【C31】で。さんは、そういった成果を感じることがなかなか難しい仕事で
あると述べている。しかし、レクリエーションヘの参加者の元気な顔や、頑張ってい
る様子を見ることで実感でき、また、C支援センターへ登録されていて就労している
方の定着率が85%という高い数字を示していることから、余暇支援も重要な役割の一
37
つを担っていると考えられるであろうと推測している。そこで、やはり知的障害者の
就労と余暇活動は重要な関係があり、充実した生活を営んでいく上でも非常に大切で
あると思われる。
また、【C18】【C19】【C20】【C32】に見られる余暇活動に対する本人の二一ズ、
【C34】【C35】のような親からの二一ズも高いということが明らかになっていると
いうことで、支援者側も体制が整えば活動の回数を増やしていくことや、活動内容を
さらに充実させていくことを希望している【C21】【C22】【C23】【C24】。今後は、
地域の住民や学生ボランティア等の協力も得ながら活動を進めていくことが望まれる
であろう。さらに、障害をもつ人々の余暇支援に対する二一ズがとても高く、C支援
センターの実績としても85%という高い定着率が示されているという現状から、国と
しても余暇支援について制度上の整備をきちんとおこなっていく必要があるといえる
のではないだろうか。
現在、地域自立支援協議会というも’のが各地で設置され、活動するようになってき
ている。Cさんが「やっと障害を持つ人々の余暇支援について考えて、実際に活動し
ていく一つのきっかけが生まれてきた」【C36】と述べているように、今後、それぞれ
の地域性に応じた余暇支援がおこなわれていくことの可能性が示唆されている。まだ
まだ課題は山積しているが、地域に気軽に集える場所があるということは、知的障害
者本人が同じ障害を持つ仲間とともに過ごせる場所があるという安心感を持ち、集団
への所属感を味わうことができることであろう。また、そこに地域住民やボランティ
ア等も参加できれば、さらなる輪が広がっていくと考えられる。さらに。さんが【C
41】で述べているように、支援者として福祉関係者等も参加することになるであろう
と考えると、そこから本人が様々な情報を得ることのできる良い機会となることも推
測できる。このように、誰にとっても多様なメリットを持ち、それぞれの二一ズに合
った余暇活動が実践できる場所を、今後、各地域に展開していくことが望ましいと考
える。
38
第4節 事例W
1.結果
Doノ.魂庄、厨1わっておられる余贋実愛/こついて教左てください。
【D01】自立支援協議会というのは、簡単に言うと、障害のある人たちが地域で暮ら
しやすくするためには、どうしていったらいいのかということを皆で話し合い、協議
をするものなんです。
【D02】障害者自立支援法になってから、自立支援協議会というのが市町村ごとに作
られるようになって、たまたまY市の自立支援協議会の中にある就労部会のなかで、
ある問題があがったんです。ある知的障害者の方で、学校を卒業して毎日、一生懸命
働きに行っていたんだけれども、ある日突然「仕事を辞めたい」行けなくなったとい
う方がおられました。その方に聞いてみると、学校を卒業してから、家と仕事場の往
復だけで仲間同士の繋がりをもったりとか、その他に繋がりをもっていなかったとい
うことだったんです。またどこかへ行く場所があったりとか、少しストレスを発散で
きる場所をもっていたり、そういうものが全く無かったんですよね。
【D03】きっと他にも同じような方がたくさんいらっしゃるだろうと思い、そのよう
な方のために自立支援協議会の就労部会で何かできることはないかな、ということで
色々と話し合いを重ねて、就労している人たちの余暇支援をなんとか形にできたらい
いかなということで始まったのが私たちの現在おこなっている活動なんですね。
【D04】やはり今の福祉サービスって、色々とありますが、目中働いていない人への
サービスや、移動支援、施設に通う人の支援等が多くなっています。だから逆に、働
いていて色々なサービスを利用していない人たちが集まれる場所などがあったらいい
のではないかな、というような話がでていたりもしました。仕事帰りに気軽に立ち寄
って、色々とお話して帰っていくというだけで、また次の日がんばって仕事ができる
ようになったりとか、そういう場所があったらいいのではないかということでこの活
動をスタートしたんです。
39
0ρ2。唐動場労や酵梛こついて教左てください。
【D05】一応、参加者が集まりやすい場所ということで駅前の公民館を借りていて、
また仕事帰りに集まってきやすい時間ということで、18:00頃から20:00くらいま
で活動しています。
【D06】ただ今は就労部会から発足して、就労部会に携わっている部会員の人たちが
中心となってその活動を支えているので、やはり時間的に限界もありますし、月に一
回の活動が精一杯かなというところですね。
【D07】もともと公民館で活動しているというのも、他に色々と公民館活動をされて
いる団体ってありますよね。そこでそういった団体とも繋がりをもって一緒に何か活
動したりとか、ほかの団体の活動にも参加させてもらったりだとかして繋がりをもっ
ことができるのではないかというのが一つありました。あと地域の人々に、もう少し
手伝ってもらえたら、また一緒に参加してもらえたらいいかなというのもあって、駅
前の公民館でやろうということになったんです。
Dθ3.男庄、 どれくらいのソし教の万カざ効きれている6クでナガ・。
【D08】参加者は多い時で10人くらい来ている時もあったんですけど、今は少し固
定してきていて、6∼7人くらいですかね。
【D09】もともとあまり広くは呼びかけてないんです。さっきも言っていたみたいに、
就労部会から始まったので活動を支えていく側にも限界があって、手伝ってくれる人
をもう少し増やしたいなというのがあるのでね。そうしないと、なかなかたくさんの
人数を受け入れるのが大変がなというのもあって、あまり広く声をかけていません。
就労部会に参加している人たちを通して声をかけてもらったりとか、地域フォーラム
でこの活動を紹介したときにチラシを配ったくらいなので、市民の方など全員が周知
されているかと言うと、まだまだだと思います。
【D10】月に一回の活動で、その内容としてはお菓子を食べながら支援者と参加者が
一緒に色々な話をするというのがメインですね。話の中では、知的障害を持つ本人同
40
士で「余暇をどういう風に過ごしているか」や、「この会をどんな風にやっていけたら
いい」だとか、あとは「普段こんなこと思っているんだけど」ということに対して、
少し支援者側が話をしたりするような形で進めています。
【D11】この先、参加者の主体的な活動にしていけたらいいなと思っています。参加
者同士でどんなことやりたいのかということを相談し合って決めて、主体的に活動で
きるように支援者が関わっていけたらいいなということを意識しながら活動していま
す。
0ρ4.勿的庫穿を持つ本ノしへの傍毅提供については、芳ぽどお解きしたよ〃こほとん
どρコミで広がっでいっている感じですか。
【D12】そうですねえ。
005.窮在、参切されている方については、どこで傍報を得て参吻されているのです
か。
【D13】現在の参加者は知的障害の方が多いのですが、それはたぶん養護学校の先生
が来てくれているので、卒業された生徒さんに声をかけてくれていたりなどしていま
す。あと育成会の中でも就労部会と同じようなものを作って活動しているみたいなの
で、そこで、働く子どもさんたちのことなど、色々と就労のことについて話し合いを
されているそうなんですね。そこに参加している人がY市自立支援協議会の就労部会
にも参加していて、私たちの活動も手伝ってくれているので、そこから声をかけても
らったりだとか、保護者を通して直接お子さんに声をかけてもらったりしているのだ
と思います。あとは福祉施設の職員などもいるのでそこで声をかけたりしているよう
です。
006手お解きしたよラな二驚がクのない方は、全く傍報力∫スってこないとい5ことに
な6のではないかと、叙ラのですが二
41
【D14】そうですね。自立支援協議会自体がY市内の色々な事業所が参加しているの
で、そこを通して案内してもらうということはできると思うんですね。ただ、全くそ
あような福祉サービス等を利用していない人も中にはいると思うんです。そこにどの
ようにしで膚報をお伝えするかというのは、もう試行錯誤していくしかないと思いま
す。
【D15】色々なことを含めて、相談窓口も何も持っていない方、福祉サービスを利用
されていない方がいて、じゃその人が困った時にどこでそのことをキャッチできるか
というのは、全体の課題としてはあると思います。
007 その勉に余暇活動を進めていく上での艦など倣あクまナか。
【D16】一般のサークルとかもあるのはありますけど、そこでやはり障害を持ってい
る方が自分の障害のことを言えたり、それ故の「こんな失敗をしてしまった」、「今こ
んなこと思っているんだけど」とか、そのようなことをなかなか言えないですよね。
でもここ(サロンD)だったら、同じ障害のある仲間が集まっているということで、色々
な話ができるという安心感みたいなのはきっとあるんだろうなと思います。
【D17】これからこの活動がどのような形になっていくかはわかりませんが、今はY
市自立支援協議会就労部会の参加者(養護学校教員、福祉施設職員等)が、ほとんど有
志みたいな形で支えているので、実施主体といったら変かもしれないですけど、きち
んとした形になっていかないと長く続けていけないかなと思うのでね。その辺は、色々
な人を巻き込みながらというか、色々な場所で、色々な人に声をかけながら進めてい
くということをしたいんですけど、やはりなかなか広がっていないというのが現状が
なと思います。
0ρ星斑労ナ6勿的婿害者の余贋贈、全体を通しての篇としてゴさんぱと“のよう
に考左ておられまナか。
【D18】障害のある方というのは、もともと経験が少なかったり、情報を得られなか
42
ったりなど、色々なことでそんなにたくさんの選択肢の中から自分でこれが好きだか
らとか、これが良いからということで選択しているのではなくて、たまたまこれがあ
ったからというような理由で、余暇などの活動をされている可能性もありますよね。
でも余暇の種類ももっとたくさんあるのでね。もっと色々な選択肢の中から、知的障
害を持つ本人自身がきちんと選べたらいいんだろうなと思います。
【D19】移動支援等を利用して、休日などに知的障害を持っ本人が行きたいところ、
したいことに一緒にヘルパーさんがついて行ったりするということも、結構されてる
ということも聞いています。そういうのも、もっと広がっていけばいいのかなと思う
んですけどね。
【D20】また個人で行きたいところに行くということもあるだろうし、さらに同じ境
遇にある仲間同士が集まってくる場所もあったりとか、色々なものがあって、その中
から選択できるようになったらいいなと思うんですけどね。
【D21】あとは、学校を卒業してそこで学校と知的障害を持つ本人との関係が切れち
ゃって、あとはもう全然知らないとかいう風になってきてしまうと、その後、本人が
どんな風に生活しているかというのが分からなくなってしまいますよね。職場ですご
くひどい扱いを受けたりしている場合でも、分からないままということもあったりす
るのかなと思うので、その辺はどこかにやはり、働いている障害者のための福祉であ
ったりとか、人権、権利擁護の部分で何か闘われる機関があったらいいなと思います
ね。
【D22】困った時にすぐ相談できる場所があるというのは、すごく大事なことだと思
います。本当は色々な企業の方とかにも、「障害があってもこんなことができる」、ま
たは「障害があるがゆえにこのようなことが苦手なんだ」と、その障害特性を知って
もらったりなどする上で、仕事が続けられる配慮をお願いできたらいいなと思います
ね。
Dρ9.勿的偉害者の就労と余励こついて、承β身は、余暇の充実力慨労継続や生居の
充鄭こ繋が6と考左ているのですが、美際のところはど5なのでしょ5班
43
【D23】どうなんでしょうね。でもやっぱりそれだけではダメなんだろうなと思いま
す。そこを通して色々な情報を得られたりだとか、その場だけではなくて、そこに付
随してくるものが大切なんだろうなと思いますね。
【D24】色々な人から、色々なことを教えてもらうとか、知的障害を持つ本人が自分
で話をしてスッキリするとかというのはその場で解決できるけれども、そこで得られ
た情報で知的障害を持つ本人の生活が潤ったりとか、何かプラスになることがあった
り、そこで繋がった仲間と何かまた、「休みの日に自分たちで遊びにいてみよう」とか
いうようになってくると、その場だけではなくて、そこからの広がりが期待できるの
かなど思うのでね。そちらの方が大事なのかなと思ったりはします。
Dω0.鹿労ナる勿的庫穿孝の余暇支援においてボイン戸と在る親分はどのよ5庄こ
とだと考左ておられまナか。
【D25】やはりここでの活動において、仲間との繋がりの部分から得られるものとい
うのはすごく大きいのではないかというように思うんですね。まあ、ピアカウンセリ
ングまではいかないけれども、やはり参加者同士の繋がりであったり、仲間であるこ
と、仲間同士で色々なことを言い合える安心感であったりとか、「自分のことを分かっ
てもらえる」ということのr繋がり」というのはすごく大きいのではないでしょうか。
【D26】あとは生活の中で、きっと余暇というより仲間との繋がりの部分から得られ
るもの、例えばちょっと電話で話をしたり、メールでやり取りをしたりするというの
でもいいと思います。そのようなものからくる安心感とか、安定感というのは知的障
害を持つ本人にとってすごく大きなことなのかなというように思っています。
oo∬.今お厨きしたよ5なるのを得ることの、一つのきつかげヌな機会として余暇
支援の場があるといラことですね。
【D27】そうですね。あと、就労って色々な形があるけれども、やはり「自分が役に
立っている」、「何か自分が社会に対して貢献できている」というように思えるという
44
ことは大切ですよね。そういう意味では、仕事の意味ってすごく大きいなって思うん
です。
【D28】だから、色々とありますけど「仕事」を通じて、知的障害を持っ本人さんた
ちが社会と繋がっていたりとか、社会に対して自分が何か役割を果たしてるんだとい
う意識を持ったりするということも、すごく自信に繋がったり、大きなことなんだろ
うなと思うので、その部分を、なんとか支えられる仕組みというのがあったらいいん
だろうなと思います。
2.考察
【D1】から【D4】では、サロンDにおいて余暇支援活動を始めるきっかけとなっ
た背景について語られている。様々な福祉サービスが整備されている中で、【D4】で
dさんが述べているように、日中働いていない人へのサービスや、施設に通う人への
支援等が多くなっているが、一般企業で働く障害者や発達障害など障害の程度が軽い、
あるいは見た目ではなかなか分かりにくい障害等に対しての支援は、実際のところま
だまだ十分に整備されていないということが考えられる。特に、余暇という生活の部
分における支援については課題が山積していると思われる。
サロンDとしての活動は、参加者が集まりやすい場所ということで駅前の公民館を
借りでおこなっている。そのことは、【D7】でdさんが語っているように、一般市民
も利用しているような公共の施設で活動することによって、まず色々な人に知的障害
者の余暇活動について知ってもらう良い機会となるだろう。さらに、そこでの出会い
が本人の活動の幅を広げていくことになれば良いのではないだろうか。また、活動に
興味を持ってボランティアとして参加してくれる市民がいれば、支援者側の抱えてい
る課題【D6】の解消にも繋がる。これらのようなことから、公共の施設を利用するこ
とは、様々な面でのメリットが考えられる。
【Dユ3】において本人への情報提供について語られているが、やはりサロンDの活
動への参加者においても、養護学校教員や福祉施設職員等、身近な人からの情報提供
によって、活動へ参加するに至っているという現状がある。【D14】【D15】でdさん
も述べているように、福祉サービスを受けていない場合は、そういった活動に関する
45
情報が得られないという知的障害者が余暇活動を行う上での課題の一つが明らかにな
っていると言える。
現在の参加者は6∼7名程度【D08】ということであるが、その背景には、現在お
こなわれている活動について、まだあまり周知されていないということもあるが、他
にも支援者の勤務時間や支援体制等の面で限界があることが課題として見られる【D
09】lD17】。また【D11】で語られているように、今後、知的障害者本人の主体的な
の活動にしていきたいということを考えると、なおさら、ある程度見守りが必要であ
ろうと考えられる知的障害者の余暇活動を支えていく人材が必要である。
活動の内容としては、特に決まった内容があるわけではなく、茶話会という感じで
進められているようである【D10】。【D16】でdさんが語っているように、やはり障
害者の場合、一般的におこなわれているサークル等へ参加するということには少し困
難な面があるといえるだろう。だからこそ、このようにして同じ障害や悩みを持つも
の同士が集える場所は大変貴重で、本人が安心感を得ることや仲間との繋がりを感じ
ることができるといった面で重要なのではないだろうか【D25】。またそれが、本人た
ちの生活の中で自然に位置づけられ、さらなる活動への動機付けとなれば良いだろう
【D26】。このように、余暇活動が充実させることによって、それに付随してくるもの
の重要性が示唆されている【D23HD24】。
【D18】【D19】lD20】では、知的障害者の社会経験の少なさや余暇の選択肢の少
ない、自己決定力の乏しさが示唆されていると言える。障害をもつ人々に対する様々
な福祉サービスが整備され、それを利用して社会参加する機会が多くなってきたこと
も確かであるが、今後はその中から当事者自身がきちんと自己選択をして、余暇を楽
しむことができることが望まれる。しかし、知的障害者にとって、その障害特性から
自己決定・自己選択することは困難とされており(手島・吉利,2001)、それ自体が課題
となっていることも明らかである。そのことから、知的障害者本人が自己決定・自己
選択するためのスキルを身につけることとそのための支援の必要性があり、またそれ
によって余暇活動が可能となるような支援体制を整えていく必要があると言える。
最後に【D27】【D28】では、知的障害者にとっての仕事の意味やその大切さにつ
いて語られているが、もちろんこれは、障害の有無に関係なく重要なことである。「白
46
分が社会の役に立っている」「貢献できている」といった自分自身に対する肯定的な感
情をもつこと、また仕事を通して社会や様々な人と繋がっていると感じることが大切
で、それが自信にも繋がることから、仕事とはとても大きな役割を持つものであろう。
しかし、知的障害者の場合その障害特性から、なかなか自分自身では仕事に対する意
味や、自己肯定感、集団への所属感等を持ちにくいと考えられる。そこで、そのよう
な人々を支える支援、仕組みが必要である。【D21】【D22】でも語られているように、
学校卒業後において就労する知的障害者への支援は大変重要であると考える。
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第4章 湾会考察
ここでは、第3章で述べた結果および考察をもとにしながら、事例Iから事例Wに
ついて筆者が第2章第3節でインタビュー調査の内容としてあげた4つのポイントを
中心にして、総合的に考察していく。
算1節 余暇支援活劇の現状と課田
1.余暇活動実施機関の概要
事例I、事例■、事例皿については障害者就業・生活支援センターが、また事例w
については、市自立支援協議会(就労部会)が主体となって活動している。これらはいず
れも、障害者の地域生活を充実させていくために相談支援等をおこなっている機関で
あり、特に、障害者の「就労」という部分に重点が置かれ余暇支援活動が進めてられ
ている。そのことから、調査対象となった4つの事例における余暇支援活動は「知的
障害者の就労」という部分と大きく関係しており、就労支援の一環としての余暇支援
活動として捉えることも必要である。
谷口(大南,2006)が、「余暇活動に参加することで、同世代の若者たちとの出会いや
仲間作りや居場所作りなどが生活する上での活力につながっている」と述べているよ
うに、生活していく上で余暇は最も基本的なものであり、就労する知的障害者にとっ
ても非常に重要な役割をもっていることは間違いない。特に今回の調査において、余
暇支援の対象となっているのは多くの場合、「一般就労」している知的障害者、またそ
れを希望している者である。陳(2006)が、知的障害者の一般就労に影響を及ぼす要因
について解明した研究において、「知的障害者の就労とその継続によって最大の障害の
一つとされるのが、本人の非社会的行動による職場不適応の問題であろう」と述べて
いるように、そのことについてはインタビュ」調査の結果から離職や退職の理由とし
て示唆されていた。また陳(2006)は、支援者が知的障害者の職業スキルのみならず、
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社会的成長を見据えて支援していくことの重要性を述べており、長年にわたる調査か
ら知的障害者は環境適応能力も環境操作能力も有しているということで、その発揮に
成功しているものは継続就労を達成しているという認識に至っていることが明らかに
されている。インタビュー調査の結果から、余暇支援活動の内容として、「SST(ソ」シ
ャルスキルトレーニング)」ということが言われていたことからも分かるように、就労
する知的障害者の余暇支援において、職場に適応するためのスキルを身につける支援
はとても重要であると考えられる。そういった意味でも、今回の調査対象となった「障
害者就業・生活支援センタ」」という、障害者の就労を支援する機関における余暇支
援活動の持つ役割は非常に大きいと言える。
2.余暇活動の成リ立ち・背景
各事例において、就労という視点から知的障害者の地域生活を見ていくと、その背
景には以下の3点のことが指摘される。
①知的障害という障害特性により、職場での人間関係作り、コミュニケーションの
困難さ、また働くことへの動機付けが不十分なため、その意味を見失ってしまう等の
理由によって離職・退職に至ってしまうケースが多い。
②職場と家との往復という単純な生活環境にあるため、職場でのストレスを発散す
るための場所や機会が極端に少なく、またこれまでの社会経験不足から自分で楽しみ
を見つけ出すこと、仲間との繋がりを持つこと等に困難が見られる。
③余暇に対しての相談が、知的障害者本人やその保護者から以前よりたくさん寄せ
られていた。
このような背景があることによって、支援者側も職場や家以外で知的障害者本人の
居場所を作っていかないといけないということや、就労を継続させていくためにも余
暇を充実させていくことは重要で、絶対に必要であるという意識が以前より非常に強
かったことが、就労する知的障害者の余暇支援活動を始めるきっかけの一つとなって
いると言える。
しかし、第1章第1節でも述べたように、知的障害者の地域生活の実態を見ると現
在のところ、実に多くの知的障害者が地域活動に参加できていないという現状がある。
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ここで考えられることは、職場環境が整備されていないことや、知的障害者本人の仕
事に対する意識、余暇を実践し楽しむためのスキルの欠如や家族の考え方・理解等の
様々な問題が、知的障害者が余暇をうまく使えないという要因として関与していると
いうことである。
特に、知的障害者本人にとって一番近い存在である保護者や家族が就労を支援する
ためにできることの一つとして、白石(大南,2006)は「休日を楽しむ習慣をつけるこ一と」
をあげ、自分でできることを増やすためには、まずは体験することが重要であると述
べている。しかしその一方で、インタビュー調査の結果からも得られたように、保護
者が余暇活動を躊踏してしまうケ』スもあることが明らかになっていることから、余
暇の重要性について十分に理解してもらうためにも、保護者への啓発が必要になるだ
ろうと考える。さらに、高齢化する保護者が継続的に本人を連れて出かけることは、
現実的とは言い難いことから本人の主体性が発揮され、本人・保護者を動機付け、し
かもあまり保護者の負担にならない支援のあり方が望まれている(高畑・武蔵,1997)。
3.余暇活動の現状と課題
4つの事例をもとにして、活動の現状を「活動頻度」「活動時間」「活動場所」「支援
者」という4点に絞ってまとめると以下のようになる。
①活動頻度:1ヶ月に1回 (事例IV)
2ヶ月に1回 (事例I・n・皿)
②活動時間:仕事が終わってからの時間帯 (事例I・■・1V)
休日 (事例皿)
③活動場所1公共の施設または娯楽施設 (事例I・皿・1V)
障害者就業・生活支援センター内 (事例■)
(※活動内容によっても様々である。)
④支援者=障害者就業・生活支援センターの職員が、勤務時間外で支援にあたっ
ている。(事例I・II)
:職員が交代制で休日に出勤して支援している。(事例皿)
:支援者は自分の仕事以外の時間で、ボランティアという形で支援にあ
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たっている。(事例1V)
このように、それぞれの事例における活動形態はよく似ている。そこで、どの事例
においても一番の課題としてあげられたのは、やはり「支援者」に関するものであっ
た。就労する知的障害者の余暇支援は、福祉関係者の誰もが必要と感じているものの、
実際に支援活動に携わっている人々は、それぞれの仕事を終えた後や、または休日を
返上して、ほとんどボランティアという形で支援している。そしてそのことに付随し
て、活動回数にも限りが生じる上に、活動時間や活動場所等にも限界が出てくる。こ
のような課題を解消するためには、学生や地域住民等の多くのボランティアの存在が
求められている。それらの人々の支援によって、活動時間や回数にもゆとりが生まれ
て、活動の内容や幅も広がることで生活も充実してくるであろう。ボランティアとい
う人材を確保するためには、知的障害者の余暇支援に対する意識を向上させていく必
要があると考える。例えば、障害者理解を促進するような取り組みや、学生ボランテ
ィアサークノレ、公共施設等との連携における地域密着型の支援活動体制の上で、地域
住民への啓発活動が必要であろう。そういったところでの地域住民の意識向上が、ボ
ランティアとして次の活動へ参加する原動力を生み出し、知的障害者の余暇支援活動
に参加する良いきっかけともなるのではないだろうか。
その他には制度面での整備が必要である。現在、知的障害者の就労に関しては制度
的にも様々な支援体制が整えられてきているが、余暇など生活を楽しむということに
対しての支援は、まだまだ国としての整備や位置づけが不十分であると言える。その
ことから、私たちの生活において最も重要であると思われながら、実に様々な余暇が
存在し、それについての良し悪しは誰にも評価できない難しさがあること、またわが
国の障害者福祉において、余暇を支援していくことに対する意識、価値観の未熟さが
うかがわれる。そこで今後は、就労する知的障害者の就労生活についての現状を的確
に把握した上で、それに必要な生活を楽しむという余暇活動に関しても、国として制
度面での整備や位置づけがなされていく必要がある。例えば今回の調査では、どの事
例においても、そこの職員や関係者が勤務時間外で支援しているということで、非常
に厳しい状況で活動が進められているため、このままでは今後、活動を継続させてい
くことは容易なことではないとも考えられる。それならば、障害者就業・生活支援セ
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ンターの事業として、余暇支援について法的に位置づけることを検討してみる必要も
あると考える。そうすることで、人材的、財政的な資源を確保できる可能性も高まる
であろう。
4.就労する知的障害者と余暇活動
ここでは、インタビュー調査より得られた結果から就労する知的障害者と余暇活動
について、2つの視点から考察する。
1点目は、本研究での調査においても課題の見られた、就労する知的障害者本人へ
の余暇活動に関する情報提供についてである。細谷(2007)は、「地方都市においては余
暇活動支援団体が少ないことから、居住地域で活用できる地域資源の情報を得ること
ができない」と述べている。実際のところ、事例Iから事例1Vまでの参加者のほとん
どが、身近にいる支援者(特別支援学校教員、福祉施設職員等)の声がけがあったことに
よって、余暇活動への参加に至っていることが明らかになっている。このことから、
就労する知的障害者本人が福祉サービスを受けていない場合や、余暇活動に繋がる身
近な人との出会いの機会等が無ければ、余暇活動に関する情報を得る機会が非常に乏
しいということが示唆された。今後、そのような人々が、困難な場面に立った時に、
そういった情報を誰が、どこでキャッチして、どのように支援に繋げていくかという
ことは大きな課題である。
2点目は、余暇活動の充実が本当に就労の継続や生活の充実に繋がっているのかと
いう点である。事例皿におけるCさんの語りでは、直接的にそれを感じるには時間が
かかる上に、ケースバイケースなので現在のところはまだ分からないということであ
ったが、定着率に数字として高いパーセンテージが示されていることで、何らかの役
割を果たしているだろうということは推測できる。中里(大南,2006)は、生活の基本は、
同年代の人たちと同じような生活のリズムを作ることであり、生活の場と職場の往復
だけではなく、退社後に気の合う仲間と話をしたり、好きなことをする時間の必要性
を述べている。しかし一方で、それが同じ職場の同僚と行動する機会であれば良いが、
事例は多くないことも指摘している。そして、アフタ』5(勤務終了後)と休日の余暇時
間を、誰とどのように過ごすかによって生活の幅が広がり、翌日の仕事に対する意欲
52
も出てくると述べている。今回の調査から、成功事例については明らかにできなかっ
たが、知的障害者が就労を継続し、充実した生活を送っていくための一つの手段とし
て、余暇活動の充実は欠かせないものであることは間違いない。
第2節 今後の課田
本研究では、就労する知的障害者の余暇支援において、今後さらに、地域において
あらゆる面での環境整備や制度面の充実が必要であることが明らかにされた。
高橋(大南,2006)は、「社会生活の中で、就労は大きな比重をしめるが、就労のみの
支援は一面的なものであり、『完全な社会参加』とはならない」と述べている。やはり、
知的障害者の就労と余暇活動をそれぞれ断片的に捉えるのではなく、両方を関連させ
て捉えながら、地域に知的障害者本人自身の生活基盤を作っていくことが重要である。
そうすることで、知的障害者本人の活動の幅も広がり、充実した余暇活動や地域生活
が送れることであろう。
しかしその一方で、活動の幅が広がるにつれて、金銭管理の問題や消費者トラブル
等、様々な問題が起こりうるものと考えられる。中里(大南,2006)は、そういった被害
を最小限に抑えるためには早期発見が第一であること、またそのためには見守りが必
要で、生活を支えている身近な支援者が、本人の生活パターンに「変調」があること
を見逃さないことの重要性を述べていることから、やはり身近な地域や人々の存在や
支援体制の充実がより一層求められる。
障害者の余暇活動を保障することは、障害者自身の生活の質向上に結びつくぱかり
ではなく、一般社会における障害者観の変化や社会環境の整備につながる(柴山・蛯
谷,2004)。現代社会において、知的障害者のみに留まらず、まだまだ「障害」に対し
て悲観的で、障害者の持っ様々な能力に対して非常に限定した見方や考え方を持って
いる人も少なくないが、決してそうではなく、たとえ障害があっても一人ひとりがた
くさんの可能性を秘めていることを忘れてはならない。
今回の研究において、支援者へのインタビュー調査から就労する知的障害者の余暇
活動について様々な知見を得ることができた。しかし、対象となったのが障害者就業・
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生活支援センター、地域自立支援協議会(就労部会)という「障害者の就労」を主にした
福祉関係機関であったこと、また対象者が4名と少数であることから非常に限定した
部分から得られた結果であった。さらに、どの事例においても余暇支援についての取
り組みが始動して目が浅いということと関連し、あらゆる面でまだまだ手探り状態で
活動していることも感じられる。そういった意味でも、全体を通して見ると今回の調
査はほんの一部にしか過ぎない。他の福祉関係施設や公共施設、また政令指定都市を
含むような大都市や逆に人口の少ない過疎地等、対象とする範囲を拡大していくとま
た違った知見が得られたであろうと考えられるところには、本研究自体の課題が残っ
ている。しかし、たとえ一部分の結果であったとしても、今回、就労する知的障害者
の余暇活動に関する現状や課題について調査したことは非常に意義深いことであった。
地域における障害者への支援は、全国各地を見てもその設置主体や、事業内容、行
政の援助内容等、本当に様々であることを手塚(2000)は明らかにしている。また、そ
の中でも成果をあげているところに共通しているのは、関係機関の協力と連携、そし
て強力なネットワーク作りであると述べており、さらにネットワーク作りに最も大切
なことは、誰が、どこが最初に提案し、中心になって労をとっていくかであるとして
いる。各地域の実態や就労する知的障害者の実態に応じた余暇支援のあり方が求めら
れるため、今後、それぞれの地域において、さらにもっと広い視野で就労する知的障
害者の余暇を捉えていくと共に、知的障害者本人の二一ズや希望も交えながら、より
良い地域生活が送れるような支援を充実させていくことが必要である。
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謝辞
本論文作成に当たって、お忙しい中、インタビュー調査にご協力いただいた支援者
の方々をはじめ、本当に沢山の方々にお世話になりました。心より御礼申し上げます。
指導教員の芝田裕一先生には、2年間に渡って終始、懇切丁寧なご指導を賜ると共
に、研究を進めていく中で、方向を見失いそうになる度に多大なご助言をいただきま
した。また、研究室へ伺う度に研究以外においても多1の知識を与えてくださったこ
とは、私にとって大きな財産となっています。芝田裕一先生のその温か1優しいお人
柄に、心より深く感謝いたします。ありがとうございました。
芝田研究室の先輩方、そして2年間の大学院生活を共に同じゼミ生として過ごした
M2の福森知宏さん、簸谷徹志さん、神崎愛さん、またM1の磯部多津夫さんには、
いつも温かい励ましのお言葉をいただきました。言葉では言い表せないくらいの感謝
の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
さらに、特別支援教育学専攻の諸先生方には、講義や修士論文指導会等を通して多
くのご指導、ご助言をいただきました。心より感謝の意を述べたいと思います。また、
心身障害コース、特別支援教育コーディネーターコースの学生の皆様には、公私共に
励ましていただき、沢山の笑顔と元気、勇気をいただきました。同じ志を持つ仲間の
存在は私にとって何よりも心強かったです。これからも、ずっと変わることなく良き
仲間として、お付き合いいただきたいと願っております。
大学在籍時、進路について悩んでいた私に大学院への進学を強く勧めてくださった、
母校天理大学人間学部人間関係学科生涯教育専攻の先生方、また大学の先輩でもあり、
昨年度この兵庫教育大学大学院を修了された安川優紀さんには、進学に当たって様々
なご助言をいただくと共に、大学院生活においても沢山のアドバイスをいただきまし
た。こうした、多くの人々の支えがあったからこそ、私は今ここまで辿り着1ことが
できました。お世話になった皆様に、心より厚く御礼申し上げます。
来春からは、自身の生まれ育った奈良の地で、念願であった特別支援学校の教諭と
して学校現場で働くこととなりました。私にとって、これからがまた新たなスタート
であると思い、一抹の不安と大きな期待に胸を膨らませています。今後は、これまで
に得られた多くの知識や経験を活かしながら、今、胸に抱いている夢や希望をいつま
でも忘れず、日々精進して参ります。そして、教育現場において、障害を持つ子ども
たちやその家族のために、微力ながら精一杯尽力していきたいと思っております。
最後になりましたが、「大学卒業後、大学院に進学したい」という私のわがままを何
も言わずに快く受け入れ、このような研究や学びの機会、素晴らしい仲間との出会い
の場を与えてくださった両親、そして大学院での2年間を温かく見守って応援してく
ださった家族に、心より深く感謝いたします。
平成21年12月21日
中 村
綾
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