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新シルクロード構想、中国が本当に考えることはなにか
リサーチ TODAY 2015 年 8 月 14 日 新シルクロード構想、中国が本当に考えることはなにか 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 中国は2013年に中国と欧州を中央アジア経由で結ぶ「陸上シルクロード」とASEAN・南アジア経由で結 ぶ「海上シルクロード」という2本の新シルクロードを開発する構想を打ち出した。新シルクロード構想の主 な狙いは中国の対外プレゼンスの向上だが、中国経済の減速が続くなか、シルクロード沿線諸国のインフ ラ需要を取り込むことによる成長下支え効果への期待も高い。この構想のなか、中国と欧州を結ぶ貨物鉄 道が既に稼働するなど、既に「陸上シルクロード」建設が先行している。中国西部とパキスタン、中国南部と インドを結ぶ経済回廊建設も始まっている。みずほ総合研究所は、「中国シンクタンクが明かす『新シルクロ ード構想』全容」と題するリポートを発表した 1。同リポートは2014年度の中国商務部国際貿易経済合作研 究院への委託調査の結果である。そこでは中国が戦略的に新シルクロード構想を用いた世界戦略が描か れ、その一環としてアジアインフラ投資銀行(AIIB)も位置付けられている。図表のように、今やアジア・太平 洋地域は通商の「ルール・インフラ競争」状態にある。米国を中心にTPPでルール作りが行われようとする一 方、中国はAIIBをきっかけに中国独自のルール作りを行う。世界は米国主導のTPPと、中国主導の新シル クロード構想によるユーラシアの経済連携強化に二分され、両者は覇権争いの状態にある。 ■図表:新シルクロード構想と環太平洋パートナーシップ協定(TPP) 新シルクロード構想 環太平洋パートナーシップ協定 (資料)外務省地図を基にみずほ総合研究所作成 中国は米国主導のTPPとの違いを明確にすべく、環太平洋よりもユーラシアを重視していると考えられる。 人民元の国際化を目指すことも、中国がTPPと一定の距離を置く一因である。TPP非参加国が多いユーラ 1 リサーチTODAY 2015 年 8 月 14 日 シア地域に目を向け、広域インフラ整備による域内の連結性強化や貿易促進など経済分野を主体とする 連携強化を呼びかけたのが新シルクロード構想であり、これを金融面でバックアップするのがAIIBである。 ユーラシアに矛先を向けた中国にとって、米国と並ぶ輸出額の約1/4を占める欧州は何としても取り込みた い地域である。同時に、欧州にも成長市場である中国アジアを取り込みたいという思いがあり、両者の思惑 の一致が多くの欧州諸国のAIIB参加につながった。また、新シルクロード構想では、BCIM経済回廊と中 国・パキスタン経済回廊という2つの経済回廊建設が重要な意味を持つ。図表はこれらの経済回廊を示す。 こうした回廊により、陸上と海上の2本のシルクロードが連結され、インド洋へのアクセスが確保される。 ■図表:「陸上シルクロード」・「海上シルクロード」・経済回廊 陸上シルクロード 中国・パキスタン経済回廊 BCIM経済回廊 海上シルクロード (資料)みずほ総合研究所作成 次の図表は新シルクロード構想における日中の潜在的協力分野を示したものである。中国の商務部研 究院は幅広い観点から日中の企業の協力関係が進む可能性を展望しているが、日本としても連携を強め られる点を改めて認識する必要がある。日本としては、TPPで太平洋諸国と、また新シルクロード構想で中 国とも接点をもつことから、その恵まれたポジションを活かす対応が望まれる。 ■図表:新シルクロード構想下における日中の潜在的協力分野 ① イ ンフ ラ 建設協力 日中両国は、物流・交通インフラ建設において協力し、関連インフラの建設を共同で行い、新シルクロードにおける 大型物流ルートを開拓していくことを検討することができる ② 技術協力 中国と日本企業はそれぞれの長所を活かし、日本の先進的なマネジメント方法や生産技術を十分活かして「一帯 一路」建設の中で技術協力を行い、新シルクロード沿線市場の共同開拓を共同で行うことができる ③ 金融協力 金融分野で協力することで両国が共同で地域内の金融危機に対応でき、外部要因による危機・ショックの被害を最 小限に留めることができる ④ 環境保護協力 新シルクロード沿線諸国の多くは発展途上国であるため、経済成長の過程で環境への犠牲が避けられない。日本 の経験を参考にし、沿線諸国の発展について環境保全を強化していくことが重要 (資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成 1 酒向浩二「中国シンクタンクが明かす『新シルクロード構想』全容」(みずほ総合研究所 『みずほリポート』 2015 年 7 月 22 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2