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効率のよいクルマエビ種苗の中間育成方法について

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効率のよいクルマエビ種苗の中間育成方法について
徳 島 水 研 だより第 51 号 (2004 年 3 月 掲 載 )
効率のよいクルマエビ種苗の中間育成方法について
海洋資源担当 池脇 義弘
Key word ; クルマエビ,種 苗 ,中 間 育 成 ,収 容 ,密 度
徳 島 水 研 だより第 46 号 に,「クルマエビ種 苗 の放 流 効 果 について」という記 事 を掲 載
しました。そこには,クルマエビ種 苗 の標 識 放 流 によってその放 流 効 果 を明 らかにしたこと
について記 載 されています。
そのときの結 果 をその後 より詳 しく計 算 した結 果 ,体 長 約 40 ミリのクルマエビ種 苗 を放
流 した場 合 ,放 流 エビが成 長 して漁 獲 されることにより,放 流 種 苗 1尾 当 たり 29.1 円 の水
揚 げ金 額 として「帰 ってくる」と見 積 もられました。
果 たして,この数 値 高 いのでしょうか低 いのでしょうか?これだけでは判 断 することがで
きません。いったい放 流 種 苗 を作 るのにどれだけのお金 がかかったかということを計 算 しそ
の値 と比 較 して初 めて,種 苗 放 流 が効 果 的 なもの(黒 字 )か,効 果 のないもの(赤 字 )か
判 断 できるわけです。言 いかえれば,できるだけ安 価 に放 流 種 苗 を作 ることができればそ
れだけ有 利 です。
現 在 ,徳 島 県 では,県 内 の種 苗 生 産 施 設 で育 てられたクルマエビの稚 エビ(体 長 十 数
ミリ)を各 地 の漁 協 に配 布 し,各 漁 協 では陸 上 水 槽 などさまざまな種 苗 育 成 用 の施 設 で
この稚 エビを体 長 30∼40 ミリまでさらに大 きく育 てて放 流 しています。これは「中 間 育 成 」
と呼 ばれ,そのまま放 流 したら生 き残 る力 が弱 い小 型 種 苗 を,自 然 の海 でも生 き残 りやす
いように大 きく育 てるのが目 的 です。今 回 は,この中 間 育 成 に焦 点 を当 ててより効 率 的 に
育 成 できるようにその改 善 策 を探 ってみました。
中 間 育 成 の問 題 点
図 1,2は平 成 13年 度 の徳 島 県 内 におけるクルマエビの中 間 育 成 成 績 です。体 長 30
∼40 ミリに育 成 する過 程 でその生 残 率 は半 数 以 上 が 5%以 下 と非 常 に低 くなっています。
生 残 率 5%というと育 成 用 の種 苗 購 入 単 価 がそれだけで 20 倍 になることを意 味 し,それ
に餌 代 や電 気 代 など育 成 経 費 を考 慮 するととても安 価 な放 流 種 苗 とはならないでしょう。
図 1 平 成 13年 度 中 間 育 成 クルマエビの成 長
図 2 平 成 13年 度 中 間 育 成 クルマエビの生 残 率
適 正 な種 苗 の収 容 密 度 は?
図 3は 育 成 時 の 収 容 密 度 が 判 りやす い陸 上 水 槽 施 設 に ついて,その中 間 育 成 開 始
時 と終 了 時 の収 容 密 度 を表 したものです。日 本 栽 培 漁 業 刊 「クルマエビ栽 培 漁 業 の手
引 き」によると,体 長 30 ミリまで育 成 する場 合 の適 正 収 容 密 度 は 1,000∼4,000 尾 /㎡と
なっています。30∼50 日 間 育 成 されたクルマエビ種 苗 はおおよそ体 長 30∼40 ミリに成
長 しますが,そのときの収 容 密 度 は体 長 30 ミリでは適 正 とされる密 度 の範 囲 でも低 い方
の 1,000∼2,000 尾 /㎡が上 限 となっています。これは,最 初 の収 容 時 の密 度 とは無 関
係 です。したがって,「たくさん死 ぬことを見 越 して」最 初 に多 くの種 苗 を収 容 することは全
く無 意 味 である(逆 に効 率 が悪 い)可 能 性 が考 えられます。
図 3 陸 上 水 槽 によるクルマエビ中 間 育 成 時 の収 容 密 度 の変 化 。開 始 時 の密 度 を青 丸 ,
終 了 時 の密 度 を赤 丸 で示 し,それぞれを直 線 で結 んだ。柿 色 で囲 んだ部 分 は,体
長 30 ミリのクルマエビ種 苗 の適 性 収 容 密 度 とされている範 囲 を示 す
最 も詳 細 なデータが得 られた水 産 研 究 所 鳴 門 分 場 での中 間 育 成 試 験 結 果 を表 1にま
とめましたが,この結 果 から,体 長 40 ミリのクルマエビ種 苗 の収 容 密 度 は約 1,000 尾 /
㎡が限 界 と仮 定 して,開 始 時 の収 容 密 度 を変 えた中 間 育 成 成 績 比 較 試 験 をおこなって
みました。
表 1 平 成 14 年 度 鳴 門 分 場 中 間 育 成 試 験 結 果
10m 2 の 10 トン水 槽 を使 用 ,育 成 日 数 は 43 日 間
※試 験 途 中 で水 槽 1からは約 4,000 尾 ,水 槽 2からは約 5,000 尾
の種 苗 を間 引 いたので生 残 率 はその数 を考 慮 して補 正 した
収 容 密 度 を変 えたクルマエビ種 苗 飼 育 試 験
表 2は,この試 験 の開 始 時 の飼 育 条 件 とその結 果 です。この条 件 で平 均 体 長 が約 40
ミリ以 上 に達 するまで飼 育 することにしました。低 密 度 区 は育 成 終 了 時 の 40 ミリサイズの
適 正 収 容 密 度 と仮 定 されている約 1,000 尾 /㎡,高 密 度 区 はその 2.5 倍 の密 度 としま
した(さらに倍 の約 5倍 密 度 の飼 育 結 果 は表 1に該 当 )。餌 は,低 密 度 区 の 2.5 倍 の量 を
高 密 度 区 に与 えるようにしましたが,残 餌 があった場 合 は適 宜 餌 の減 量 をおこないました。
写 真 1 試 験 開 始 時 の水 槽 の様 子 .左 :高 密 度 区 ,右 :低 密 度 区
写 真 1は,試 験 開 始 時 の水 槽 の様 子 です,特 に低 密 度 区 はちらほらと小 さな種 苗 が散
在 するというほとんど"すかすか"の状 態 でした。このまま,両 方 の水 槽 の種 苗 はほとんど
死 んだ個 体 も見 られず,すくすくと育 っていったのですが,最 初 に,変 化 が見 られたのは,
試 験 開 始 30 日 目 でした。高 密 度 区 に大 量 斃 死 が見 られたのです。斃 死 は1日 餌 を止
めることにより収 まったのですが,給 餌 開 始 とともに再 度 斃 死 がみられたことから,大 量 に
発 生 した脱 皮 殻 と残 餌 のかたまり(写 真 2)にクルマエビが潜 って酸 欠 になった可 能 性 も
考 えられますが,この点 については今 後 の検 証 が必 要 です。
試 験 結 果 は表 2と図 4,5に示 しました。大 量 斃 死 前 の水 槽 の様 子 (写 真 3)を見 ても判
るように,収 容 密 度 が大 きく異 なっていたにもかかわらず,その成 長 過 程 は驚 くほどよく似
ていました(図 4)。一 方 ,その生 残 率 は高 密 度 区 33%低 密 度 区 84%と両 区 で大 きく異
なり,予 想 通 り最 終 的 な収 容 密 度 が約 1,000 尾 /㎡に収 斂 するという結 果 になりました
(図 5)。
写 真 2 高 密 度 区 大 量 斃 死 時 に見 られた脱 皮 殻 と残 餌 のかたまり.
その中 に斃 死 個 体 が見 える
写 真 3 大 量 斃 死 前 (試 験 開 始 後 26 日 目 )の水 槽 の様 子 .
左 :高 密 度 区 ,右 :低 密 度 区
表 2 平 成 15年 度 鳴 門 分 場 中 間 育 成 試 験 結 果
10 ㎡の 10 トン水 槽 を使 用 ,育 成 日 数 は 46 日 間
図4
各 区 のクルマエビ種 苗 の成 長 (平 成 15 年 度 試 験 )
▼は高 密 度 区 ▲は低 密 度 区 での大 量 斃 死 発 生 時 期
図 5 鳴 門 分 場 で実 施 した中 間 育 成 試 験 における収 容 密 度 の変 化 。
4回 の事 例 について,試 験 開 始 時 と終 了 時 の値 を直 線 で結 んだ。
青 色 の破 線 で,大 量 斃 死 の発 生 状 況 から推 察 される実 際 の
高 密 度 区 の収 容 密 度 変 化 を模 式 的 に示 した。
結 論 と改 善 した中 間 育 成 手 法 の提 案
この試 験 結 果 から次 のようなことが考 えられました。
(1)クルマエビ種 苗 は適 正 な密 度 で飼 育 するとほとんど斃 死 しない(従 来 必 ず発 生 する
かのように言 われてきた共 喰 いは高 密 度 飼 育 のため)
(2)適 正 な密 度 以 下 なら成 長 速 度 に違 いはない(薄 すぎる密 度 で飼 うのは効 率 が悪 い)
(3)現 在 おこなわれている陸 上 水 槽 でのクルマエビ中 間 育 成 の収 容 密 度 は高 すぎるた
め,クルマエビ栽 培 漁 業 の収 益 率 を低 下 させているおそれがある。
そこで図 6に示 したようなより効 率 的 な中 間 育 成 の例 を提 案 します。
改 善 された方 法 では,最 初 の収 容 密 度 は「従 来 型 」と変 わりませんが,水 槽 内 がクルマ
エビの成 長 で「飽 和 状 態 」になる度 に,次 の目 標 サイズの適 正 密 度 になるまで種 苗 を「間
引 き」,間 引 いた分 の種 苗 は放 流 するという方 法 です。図 6の例 だと従 来 だとうまくいって
も 40 ミリサイズ 10 万 尾 しか得 られなかったものが,さらに 20 ミリサイズ 20 万 尾 ,30 ミリサ
イズ 10 万 尾 放 流 できる可 能 性 があります。
いくら手 間 をかけても,中 間 育 成 は生 き物 を飼 っている行 為 であり,施 設 の機 器 の故 障
や病 気 の発 生 などで飼 育 種 苗 の大 量 斃 死 や場 合 によっては全 滅 の危 険 をゼロにするこ
とはできません。図 6に示 した放 流 をサイズによって何 回 かに分 けることは,そのようなリス
クに対 する危 険 分 散 効 果 も期 待 されます。
図 6 効 率 的 な中 間 育 成 事 例 .この事 例 では,100 ㎡の陸 上 水 槽 に体 長 15mm の種 苗
50 万 尾 収 容 した場 合 を想 定 した.緑 で示 した従 来 型 の育 成 では 45 日 間 順 調 に育 成 し
て も 体 長 40mm の 種 苗 10 万 尾 が 得 ら れ る だ け で あ る が , 改 良 型 だ と , さ ら に 体 長
20mm:20 万 尾 ,同 30mm:10 万 尾 の種 苗 がプラスアルファとして得 られる。
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