...

「博士学位請求論文」審査報告書

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

「博士学位請求論文」審査報告書
2014年1月31日
「博士学位請求論文」審査報告書
審査委員(主査) 総合数理学部 専任教授
小川 知之
(副査) 先端数理科学研究科 特任教授
三村 昌泰
(副査)Eindhoven University of Technology
Department of Mathematics and
Computer Science, Professor
Adrian Muntean
1 論文提出者
氏名
Ekeoma Rowland Ijioma
2 論文題名
(欧文題)Homogenization Approach to Filtration Combustion of Reactive
Porous Materials: Modeling, Simulation and Analysis
(邦文訳)多孔質媒体の濾過燃焼に対する均質化法によるアプローチ:
モデリング,シミュレーションおよび解析
3 論文の構成
本論文の構成は以下の通りである.
1章 Introduction (はじめに)
2章 Upscaling strategy and formulation of the local scale problem
(局所スケールの問題設定とアップスケール法)
3章 Derivation of macroscopic equations of filtration combustion by periodic
homogenization (周期均質化法によるマクロ方程式の導出)
4章 Derivation of macroscopic equations of filtration combustion by two-scale convergence
(2スケール収束によるマクロ方程式の導出)
5章 Numerical verification of the effective diffusion tensors (実効拡散の数値検証)
6章 Numerical verification of macroscopic equations (マクロモデルの数値検証)
7章 Pattern formation in reverse smoldering combustion of isotropic porous medium
1
(等方的多孔質媒体でのすす燃焼のパターン形成)
8章 Effect of anisotropy on fingering instability in reverse smoldering combustion
(すす燃焼のフィンガリング不安定性への異方性の影響)
9章 Conclusions (結語)
4 論文の概要
濾過燃焼(filtration combustion)とは,多孔質内を酸化剤を含むガスが材料中の反応
性成分と反応していく現象を指すが,そこでは複雑な振る舞いが観測され,燃焼工学
における重要な問題である.火炎を発生しない「すす燃焼」は典型的な例であるが,
それだけでなく濾過燃焼は地下火災や材料の燃焼合成など実際的な多くの過程で観測
されるもので,その数理モデリングによる解明は喫緊の課題である.
濾過燃焼の振る舞いの中で特徴的なのは,燃焼界面が様々なパターンを形成しなが
ら反応が進むことである.その中で,フィンガリングパターンの機構を知ることは数
理的な興味の対象になるが,数理的な理解が進めば濾過燃焼を制御する知見を与える
ものと期待される.
濾過燃焼では多孔質のスケールが実際に現れるパターンのスケールに比べて格段に
小さいことがモデル化を難しくしている.そこで本論文では,均質化法を用いて紙の 2
次元的な燃焼モデルにおいてミクロモデルからマクロモデルを導出した.そのマクロ
モデルを解析することにより,ミクロレベルの性質がどのようにマクロレベルに現れ
る振る舞いに影響を及ぼすか,多孔質媒質の性質や反応物質の性質がフィンガリング
パターンにどのような影響を与えるかという問題に挑み,新たな知見を得た.
各章の概要は以下の通りである.
第1章では,濾過燃焼問題の背景そして問題の特徴を解説している.そこでは,多
孔質媒体の燃焼波の進行方向と酸化剤を供給する方向の正逆により,フォワード燃焼
問題とリバース燃焼問題があることや,すす燃焼の実験で得られる様々なパターンの
紹介に加えて,多孔質媒体の濾過燃焼がどのような特異性をもつかということを述べ
ている.
第2章では,本論文を通して多孔質媒体の濾過燃焼を数理的に扱うための状況設定
を行った.すなわち,まず,多孔質媒体は微小スケールの空隙をもつことから,一例
として,微小なユニットを周期的に並べた構造体と考える.そのユニットは球体状の
可燃固形物と空隙(ガス)からなるとする.このユニットと構造体全体の大きさの比
を微小パラメーター()として,極限(0)を取ることによりミクロとマクロを繋
ぐ.ミクロスコピックな方程式は,空隙での酸化剤の移流拡散方程式,可燃固形物で
2
の熱伝導方程式と空隙での移流熱伝導方程式からなり,各ユニットの可燃固形物表面
(球面)での燃焼化学反応を界面での境界条件として与える完全なモデルである.
第3章では前章での状況設定に基づき,周期的な均質化法による縮約方程式の導出
を行う.極限を取る際,固形物とガスの熱伝導率の比により,高伝導物含有HCI(比が
微小パラメーターの逆数), 同程度伝導物含有MCI(比が有限値), 低伝導物含有WCI
(比がの自然数冪)の三つのケースに分類してそれぞれ異なる縮約方程式が得られる
ことが明らかにされている.また同時にそれぞれのモデルで異なる実効伝導係数が得
られている.
第4章ではミクロモデルとマクロモデルの関連を厳密に考察するために,2スケー
ル収束という概念を導入し,しかるべき誤差評価を導くことにより微小パラメーター
が小さくなるときにミクロモデルがマクロモデルに強収束することを厳密に示した.
第5章では,マクロモデルに対して実効熱伝導係数を数値的に計算している.ユニ
ット内の固形物の体積比や幾何的形状が実効熱伝導係数に有為に影響を及ぼすことを
示した.また均質化法によって得られた実効熱伝導係数と既存の理論値との比較も行
っている.
第6章では,均質化マクロモデルの解から対応するミクロモデルの解を再構成し,
それに基づいて均質化法の収束の数値的な検証をするとともに,それと理論的な収束
レートとの比較も行っている.
第7章では,等方的多孔質媒質におけるリバース燃焼問題に対して均質化法のマク
ロモデルの数値計算を行いフィンガリング不安定性が現れることを考察した.その際,
様々な系の物性パラメーターが結果として得られるパターンにどのように影響するか
を詳細に調べている.
第8章では,前章のようなフィンガリングパターンの数値シミュレーションを
非等方媒質でも行い,異方性がフィンガリング不安定性にどのように影響するかを評
価することから,すでに報告されている実験結果を支持する結果を得ている.
5 論文の特質
本論文では,多孔質を,微細な構造のユニットを周期的に並べた構造体と捉えて,
周期的な均質化法を用いてミクロモデルからマクロモデルを導出することに成功した.
そのマクロモデルを解析することにより,ミクロレベルの性質がどのようにマクロレ
ベルに現れる振る舞いに影響を及ぼすか,多孔質媒質の性質や反応物質の性質がフィ
ンガリングパターンにどのような影響を与えるかという問題を解析した.数学的には
均質化法の形式的2−スケール展開の誤差評価を精密に行うことで収束証明も行って
いるし,濾過燃焼の複雑なミクロモデルからマクロモデルを導出する試みは初めてで
特筆に値する.また,そのマクロモデルの数値計算を綿密に行い,ポロシティや熱放
出率といった物質特性がフィンガリングパターンに与える影響を考察し,実験結果と
3
整合性があることを確認した.
濾過燃焼の既存の数理モデルの多くは現象論的なマクロスコピックモデルか,複雑
なミクロスコピックモデルであったが,候補者の研究成果はこれらを繋ぐ方法論を提
供し,より正確な数理モデリングを可能にした.
6 論文の評価
本論文は,Combustion Theory and Modeling に公表された論文 1 本および研究集会
での口頭発表等の成果に基づいて作成されたものである.上記「論文の特質」にも記
述したように問題意識は斬新であり,その研究手法も極めて高い独自性が認められる.
上述のように濾過燃焼の数理的解明は燃焼工学でも重要な課題であるが,非線形科学
の立場からも非常に興味深い問題である.フィンガリングパターンは濾過燃焼の他に
も種々の現象に見られるが,そのパターンダイナミクスの解明はあまり進んでいない.
もちろんモデル自身が現象論的(マクロ)なものでミクロモデルとの関連がついてい
ないケースもあるが,マクロモデルの既存の研究も数値計算結果が主であるといって
よいだろう.このような状況化で本論文はフィンガリング不安定性にも独自の視点で
方向性を示したと言える.
本研究は,具体的な問題への応用にはまだ時間がかかると思われるが,これまでに
ない新しい手法を提案した画期的な研究と言える.また,今後のパターン研究を飛躍
的に発展させる可能性も秘めている.
7 論文の判定
本学位請求論文は,先端数理科学研究科において必要な研究指導を受けたうえに提
出されたものであり,本学学位規程の手続きに従い,審査委員全員による所定の審査
及び最終試験に合格したので,博士(数理科学)の学位を授与するに値するものと判
定する.
以
4
上
Fly UP