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門脈置換人工血管の感染対策に関する実験的検討 学位寶 文内 の要旨

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門脈置換人工血管の感染対策に関する実験的検討 学位寶 文内 の要旨
博士(医学)平野 聡
学位論文題名
門脈置換人工血管の感染対策に関する実験的検討
学位論文内容の要旨
I. 目 的
膵・ 胆道 系悪性腫瘍に対する門脈切除後の代用血管とレて第一選択とすべき自家静脈は
その屈 曲, 圧迫に対する脆弱性,採取の繁雑さなどの問題点を有するため,これに代る人
工血管 の開 発が望まれている.これまでも門脈代用血管の実験的あるいは臨床的検討は行
われて きた が,手術時に予想される各種消化液や細菌汚染に対する安全性についての報告
は少な い.
一方 ,大 網はその優れた抗感染作用,創傷治癒促進作用から現在様々な領域で臨床応用
されて いる が,人工血管治癒についても同様の効果が期待される.予備実験から,有茎大
網を被 覆し たePTFE人工 血管 による 門脈 置換には線維長6011mのhigh porous ePTFEが最も
良好な 治癒 が得られることを明らかにレ得たので,今回,汚染環境下に本移植法を用いて
実験 を 行 い , 大 網 の 抗 感 染 効果 を 検 索 し , そ の 臨 床 応 用 の可 能性 を検 討し た.
H.材 料お よび 方法
移植にばTechno―g
raft
n‘(住友電工鬮)と同様の外壁構造を有し,線維長を6
0ルm
と延長
した high porous ePTFE人工 血管 を用 い, 外面 には 管腔 構造保 持の ためfluoroethylenepr
opyl
eneによる螺旋状の補強を施した.
実 験動 物はビーグル犬成犬30頭を用い,各6頭ずつ5群に分けた.すなわち,非汚染環境
下に 大網 被覆を行った群をコントロール群とし,胆汁および大腸菌による二種の汚染環境
を作 成し ,そ れら をさ らに 大網被 覆群 ,非被覆群に分類した.汚染環境は,胆汁3ml,あ
るいは大腸菌10
°co
lonyform
ingun
it
(c
fu
)を生理食塩水に混じ,移植後腹腔内に投与した.生
存し た動 物は 移植 4週後 に犠 牲死 させ ,菌血症の有無,人工血管開存性,感染の有無,お
よび治癒状態の組織学的検討を行った.
m.結 果
1)人 工血 管開 存性
コ ント ロー ル群および両汚染モデルの被覆群では観察期間中の死亡例はなかった.非被
覆 群 で は 胆 汁散 布群 の1例 が亜 急性 閉塞 によ り死 亡し ,大 腸菌 散布 例で は6例 中3例 が急
性閉 塞に より 死亡した.コントロール群,胆汁散布被覆群,同非被覆群,大腸菌散布被覆
群 , 同 非 被 覆 群 の 開 存 率 は そ れ ぞ れ , 100, 83.3, 66.7, 83.3, 50.0% で あ っ た .
2)細菌学的検討
汚 染モ デルの 被覆 群で 6例中それぞれ2例ずつ(33.3'r/o)のグラフト感染を認めたが,非
被覆群では胆汁散布モデルで5例中4例(80%),大腸菌汚染モデルでは3
例中全例(100
%)
に感 染を 認めた .動 脈血 培養結果は,被覆群では大腸菌散布モデルの1例(16.7c70)で陽性
を認 める のみで あっ たが ,非被覆群では胆汁散布モデルの5例中4例(80 010),大腸菌散布
モデルで3例中2例(66.70/0)で陽性であった.
3)人工血管の肉眼所見および病理組織学的所見
肉 眼所 見の観 察で は, 両汚染モデルの被覆群はコント口ール群と同等の内腔面を呈した
が, 非被 覆群で はコ ント 口ー ル群 およ び被 覆群 と比 較し て血 栓が 高度に 残存 レて いた,
光 顕に よる観 察で は両 汚染モデルの被覆群ではコント口ール群と同様に,仮生内膜はほ
ぼ均 一な 線維化 組織 で形 成され,内腔面には一層の内皮細胞様細胞が認められた.非被覆
群で は内 膜が不 均一 な非 器質化組織で形成され,内腔面に内皮細胞様細胞と思われる層を
認め なか った. また ,被 覆群では人工血管の線維間隙から仮生内膜にかけて多数のマクロ
ファージや線維芽細胞などの細胞侵入が観察された.
4)走査電子顕微鏡所見
汚染モデルの被覆群の吻合部近傍にのみコントロール群と同様な内皮細胞様細胞を認め,
両非被覆群では同様の細胞を認めなかった.
]V.考 察
Polytetrafluoroethyleneは,それ自体が最も抗感染性の高い人工血管材料のーっとされる
が ,無 菌手 術の移 植においてもその抗感染性は完全とはいえず,抗感染性に優れ,かつ開
存 性の 高い 人工血 管の開発をめざし,これまで様々実験的検討がなされてきた,ことに,
胆 道系 手術 時にお ける門脈移植に際しては胆汁が一種の化学的反応物質として人工血管に
作 用す るこ とが考 えられ,消化液の細菌汚染に対する抵抗性とともに特殊環境下における
良好な治癒も求められる.
大網は以前より,創傷治癒に対レ様々な効果をもつことが知られ,各種外科領域で感染・
炎 症組 織に 対する 応用が盛んに行われるようになった.本研究の予備実験として行った非
汚染環境下の検討で,線維長6011mのhigh porous ePTI:E人工血管に大綱を被覆して門脈置
換 を行 った ところ ,大網被覆を行わないモデルと比較し良好な仮生内膜と内皮細胞様細胞
の 形成 を認 めた. これは人工血管の広い線維間隙を通じて大綱からの各種細胞や因子が仮
生 内膜 内へ 侵入す ることによる治癒促進効果と考えられた.本研究では汚染環境において
同 移植 を行 うこと により,被覆した大網が人工血管に抗感染性と治癒促進効果をもたらす
ことが期待された.
実際 ,各 汚染環 境下において大網被覆群は良好な開存性と抗感染性を認め,さらに菌血
症 の発 生も 低率で あった.組織学的には被覆群の仮生内膜において,コント口ール群ほぼ
同等な人工血管内膜の良好な器質化が証明され,内腔面には内皮細胞様細胞も証明された.
非 被覆 群と の明ら かな相違は,仮生内膜における大網から遊出したと考えられるマク口フ
ア ージ や線 維芽細 胞などの細胞侵入であり,これらが人工血管内膜の形成に寄与し,大網
自 体の 免疫 作用に 相まって,人工血管の抗感染性高めたと考察される,また,汚染モデル
に おけ る細 胞侵入 数がコントロール群に比べさらに増加レたことは,炎症や感染により大
網 機能 が惹 起され ,細胞遊出能がより高度となったためと予想された.しかし,この細胞
数 の増 加と 汚染モ デルの内皮細胞様細胞の形成が不完全であることを考えあわせると,汚
染 環境 下で は人工 血管治癒過程が遅延している可能性が考えられる.よって,より安全性
を高めるために人工血管材料や,porosityを含めた人工血管の構造に関し,さらなる検討
が必要と考えられた.
V.結 語
有茎大網被覆を行って門脈に移植したhighpor
ousePTF
E人工血管には強カナょ感染抵抗性
がも たらされ,高い開存性が得られた.従って,本移植法は門脈置換用代用血管として臨
床応用可能であることが示唆された.
学位論 文審査の要旨
主 査 教 授 加 藤 紘 之
副 査 教 授 安 田 慶 秀
副 査 教 授 皆 川 知 紀
学 位 論 文 題 名
門脈置換人工血管の感染対策に関する実験的検討
膵 ・ 胆 道 系 悪 性 腫 瘍 に 対 す る 門 脈 切 除 後 の 代 用 血管 と し て 第一 選 択 とす べ き 自家 静 脈
は そ の 屈 曲 , 圧 迫 に 対 す る 脆 弱 性 , 採 取 の 繁 雑 さ な ど の 問題 点 を 有 する た め ,こ れ に 代る
人 工 血 管 の 開 発 が 望 ま れ て い る . こ れ ま で い く つ か の 検 討が 行 わ れ てい る が ,手 術 時 に予
想 さ れ る 各 種 消 化 液 や 細 菌 汚 染 に 対 す る 安 全 性 に つ い て の報 告 は 少 ない . 今 回, 予 備 実験
に お い て 大 網 の 持 つ 優 れ た 創 傷 治 癒 促 進 作 用 を 応 用 し , 線 維 長 を 60ル mと 延 長 し た high
porous ePTFE人 工 血 管 に 有 茎 大 網 を 被 覆 し た 門 脈 置 換 モ デ ル を 作 成 し , 良 好 な 成 績 が 得
ら れ た . そ こ で 本 研 究 で は 大 網 の 持 つ 抗 炎 症 , 抗 感 染 作 用が 汚 染 環 境下 に お いて 有 効 に作
用 す る 可 能 性 を 考 え , 本 移 植 法 を 汚 染 状 態 に お い て 施 行 し, そ の 臨 床応 用 の 可能 性 を 検討
した .
移 植 に ば Fechno− graftTM( 住 友 電 工 株 式 会 社 ) と 同 様 の 外 壁 構 造 を 有 し , 線 維 長60
Mmの high porous eIyl、 . FE
人 工 血 管を 用 い , 実験 動 物 は成 犬 30
頭 を 使 用し た . 実験 は 各 6
頭 ず つ 5群 に 分 け て 行 い , 非 汚 染 環 境 下 に 大 網 被 覆 を 行 っ た 群 を コ ン ト 口 ー ル 群 と し ,他
4群 は 胆 汁 お よ び 大 腸 菌 に よ る 二 種 の 汚 染 環 境 に お い て 大 網 被 覆 群 , 非 被 覆 群 の モ デ ルを
そ れ ぞ れ 作 成 し , 計 5群 と し た . 汚 染 環 境 は , 胆 汁 3ml, あ る い は 大 腸 菌 10° colony
forming unit(cfu)を 30mlの 生 理 食 塩 水 に 混 じ , 移 植 後 腹 腔 内 に 投 与 し た . 生 存 した 動 物
は 移 植 4週 後 に 犠 牲 死 さ せ , 菌 血 症 の 有 無 , 人 工 血 管 開 存 性 , 感 染 の 有 無 , お よ び 治 癒状
態の 組 織 学的 検 討 を 行っ た .
そ の 結 果 , 人 工 血 管 開 存 性 は コ ン ト 口 ー ル 群 お よび 両 汚 染 モデ ル の 被覆 群 で は観 察 期
間 中 の 死 亡 例 は な く , 非 被 覆 群 で は 胆 汁 散 布 群 の 1例 , 大 腸 菌 散 布 例 の 6例 中 3例 が 急 性
閉塞 に よ り死 亡 し た .コ ン ト ロー ル 群 ,胆 汁 散 布被 覆 群 ,同 非 被 覆群 , 大 腸 菌散 布 被 覆群 ,
同 非 被 覆 群 の 開 存 率 は そ れ ぞ れ ,100,83.3
, 66.
7, 83.
3, 50
.0% であ っ た .細 菌 学 的検 討
では
汚 染 モ デ ル の 被 覆 群 で 6例 中 そ れ ぞ れ 2例 ず つ (33.3% ) の グ ラ フ ト 感 染 を 認 め た が , 非 被
覆群 で は 胆汁 散 布 モ デル で 5例中 4例 (80% ), 大 腸 菌汚 染 モ デル で は 3例中 全 例 (l00%) に
感 染 を 認 め た . 動 脈 血 培 養 結 果 は, 被 覆 群で は 大 腸菌 散 布 モデ ル の 1例(16.7% ) で陽 性 を
認 め る の み で あ っ た が , 非 被 覆 群 で は 胆 汁 散 布 モ デ ル の 5例 中 4例 (80% ) , 大 腸 菌散 布 モ
デ ル で 3例 中 2例 (66.7% ) で 陽 性 で あ っ た . 人 工 血 管 の 肉 眼 所 見 の 観 察 で は , 両 汚 染 モ デ
ル の 被 覆 群 は コ ン ト 口 ー ル 群 と 同 等 の 内 腔 面 を 呈 し た が ,非 被 覆 群 では コ ン ト口 ー ル 群お
よ び 被 覆 群 と 比 較 し て 血 栓 が 高 度 に 残 存 し て い た . 光 顕 によ る 組 織 学的 観 察 では , 両 汚染
モデ ル の 被覆 群 で は コン ト 口 ール 群 と 同様 に 仮 生内 膜 は ほぽ 均 一 な線 維 化 組 織で 形 成 され ,
内腔 面に は一層の内皮細胞様細胞が認められたが非被覆群では内膜が不均一な非器質化組
織で 形成 され,内腔面に内皮細胞様細胞と思われる層を認めなかった.また,被覆群では
人工 血管 の線維間隙から仮生内膜にかけて多数のマク口ファージや線維芽細胞などの細胞
侵入 が観 察された.走査電子顕微鏡所見では,汚染モデルの被覆群の吻合部近傍にのみコ
ント口ール群と同様な内皮細胞様細胞を認め,両非被覆群では同様の細胞を認めなかった.
以上 の結 果か ら, 有茎 大網 被覆 を行っ て門 脈に 移植 した lrigh porous ePTFE人工血
管に は強 カな感染抵抗性がもたらされるとともに良好な人工血管治癒にもとずく高い開存
性が得られ,本移植法は門脈置換用代用血管として臨床応用可能であることが示唆された.
口頭 発表において,皆川知紀教授より,コン卜口ール群の設定および腹腔内撒布細菌
の決 定に 関し示唆がなされ,さらに感染人工血管の起因菌に関して,人工血管仮生内膜の
厚さ の差 に関しての質問があった.ついで安田慶秀教授より急性死亡例の死因に関して吻
合自 体が 原因となっている可能性について,人工血管内新生内皮細胞の由来に関して,晩
期の 吻合 部内膜肥厚の可能性について,さらに走査電子頭徴鏡像における非被覆群の所見
に関 して の質問があり,最後に加藤紘之教授より本移植法の臨床応用の可能性に関しての
質問があったが,申請者はおおむね妥当な回答をした,
本研 究は大網の抗炎症,抗感染作用,創傷治癒効果を人工血管治癒に応用し,実際の
汚染 手術 野における移植人工血管の治癒状態を組織学的に観察を行い,臨床応用の可能性
を検 討し た点においてその意義は大きく,審査員協議の結果,本論文は博士(医学)の学
位授与に値するものと判定した,
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