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Title 惑星系形成における双極分子流の役割(地球,階層性と非 線形

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Title 惑星系形成における双極分子流の役割(地球,階層性と非 線形
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惑星系形成における双極分子流の役割(地球,階層性と非
線形ダイナミクス:現象論の視座)
渡邊, 誠一郎
物性研究 (1997), 67(5): 639-643
1997-02-20
http://hdl.handle.net/2433/95979
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
「
階層性 と非線形ダイナミクス :現象論の視座」
惑星系形成 における双極分子流の役割
波速 誠一郎 (
名大 ・理)
1・惑星形成過程 (微惑星の形成 まで)
まず,惑星系形成過程は,微惑星の形成 を境 に二分 される.ここでは徴惑星形成 までの過
.
琴に関する,現在の標準的な描像 を概観 しよう(
図 1を参照)
星 と惑星系は,分子雲で生まれた.分子雲はフラクタルな構造 をもつが,特 に密度の高い
分子雲 コアは,星間磁場や乱流によって支えられ,準静的に収縮 している.この分子雲 コア
が 自己重力不安定 によって動的な重力収縮 を開始す ると中心 に原始星が形成 される.収縮
は,密度の高い中心部で始 まり,外へ と音速の膨張波 として伝搬 してい く.収縮が球対称 に
進行すると,中心への単位時間当た りの質量降着量 M.は,ほほ一定 とな り,
M.-0.
9
7
5
C
3
/
G
(
1
)
で与えられる.ここで C は分子雲 コアの実効的な音速, Gは万有引力定数である.質量降
着率の大 きさは 1
0
5
-1
0
6年かかって太陽質量のガスを供給する程度である.
中心 に落下 したガスが解放するエネルギーによって原始星 は輝 き始める.原始星の放射
は,落下中のガス (
エ ンベロープ)に含 まれるダス トに一旦吸収 され,さらに外側 (
約1
0AU)
で再放出される. このため原始星の見かけの温度 は 1
0
0K 程度 とな り,可視光では見 えな
い .
分子雲 コアは,ゆっ くりだが回転 している.そのため,収縮の後期 になると,角運動量の
大 きなガスが落下 して くる. このガスは直接原始星 まで落下で きず,遠心力 と重力がつ り
あう半径でケプラー回転する.この結果,原始星のまわ りに原始惑星系 円盤 (
以下では単に
円盤 とよぶ)が形成 される.こうなると,直接原始星に落下する質量は減少 し,円盤 に垂直
な方向か らは原始星が直接見 えるようになる.この段階が古典的 で タウリ型星 と考 え られ
る.
このステージで,円盤 と垂直な方向に超音速の光ジェッ トが吹 き出 し,双極分子流 を駆動
している.この光ジェッ トの成因については後で述べ る.
円盤 の形成期は,激 しい乱流状態にあ り,能動的円盤の状態にある.この段階のディスク
は, トルクによって,角運動量が外側 に,質量が内側 (
中心星側)に輸送 されるため,降着
円盤 とも呼ばれる.こうして,大 きな角運動量 を持 った物質 も螺旋 を措いて中心星へ と輸送
される.
ところで,円盤 には様々な流体力学的不安定が内在する. これらのうち自己重力不安定は
/
4程度 になると円盤構造 は軸対称 なゆ らぎに対
特 に重要である.円盤の質量が中心星の 1
して不安定化 し,多 くの塊 に分裂す ることが知 られている. ところが,非軸対称 なゆ らぎ
に対 してはより小 さい円盤質量で不安定化するらしい.これは,円盤がケプラー回転 してい
るためで, 自己重力の関与 したシア不安定の一種 とみなす ことができる.この場合,不安定
は,円盤は分裂 させず,む しろ乱流 を生 じさせ, トルクを増大 させ る.つま り, トルクが不
十分であると円盤 に質量が溜 まり,それが トルクを増大 させて,円盤の分裂 を防 ぐ効果があ
ると期待 される.
乱流 中で,ダス トは,合体 により成長するが,大 きくなるとこわれ易 くな り,成長は頭打
ちになる.一方で,ダス トは,ガスよりゆっ くり公転するため,抵抗 を受け,ガスに対 して
-
6
39 -
研究会報告
相対的に内側へ と移動す る.その結果,ダス トは成長 しなが ら中心星へ螺旋 を描いて落ち
てい く.円盤の鉛直方向には乱流でよく混ぜ られ,ダス トはほとんど沈澱で きない.そのた
め,能動的円盤の段階で惑星形成は起 こらない と考えられる.
分子雲からのガスの降 り積 もりが無 くなると,円盤質量は減少 し,自己重力不安定に起 因
する トルクは減少する.その結果,円盤 は,乱流が弱 く質量輸送率 〟Dの小 さい,受動的
円盤へ と進化 してい くだろう.一方,中心星は,ジェッ トの吹 き出 しが衰え, コロナが形成
され,強い X線が放出される,弱輝線 で タウリ型星の段階に入る.この段階で,円盤 は,
中心星に質量 を供給する役割を終え,内部で惑星を育む母胎 としての役割 を果たす ようにな
る.
乱流が弱 まるとダス トは円盤の中心面付近に沈澱す る.乱流の無い静かな円盤でのダス ト
0
6年)に
の沈澱時間は数千年程度である.これは,乱流が衰 えてい くタイムスケール (
約1
比べて十分に短 く,ダス トは乱流減衰 に応 じて沈澱 してい くと考 えられる.ダス トが薄い層
に沈澱 してい くと,そのダス ト層 自体の重力が無視で きな くなる.ダス ト層の厚みがガス円
盤の典型的な厚みの 1
04程度 になると,層 は自己重力不安定により分裂 し,その結果生 じ
た塊が微惑星 を形成することになる.
015-1
018k
g程度,大 きさが数 km一
ダス ト層の分裂で形成される飯惑星の 1個の質量は,約 1
数十 k
m である.こうした天体が,ディスク全体で数千億個 も造 られる.微惑星は小 さいが,
一人前の自己重力天体で,自分たちの重力で合体 してい くことができる.こうして惑星集積
過程が進行 し,惑星系ができてゆく.
微惑星形成 までのステージでの主な問題点は次の通 りである:
0
3倍近い.ガス成分 を復
●分子雲 コアの持つ角運動量は,現在の太陽系の角運動量の 1
元 した太陽系星雲 に対 しても数十倍程度である.
・分子雲 コアからの質量供給が停止する原因がわかっていない.生 まれる星の質量 (
I
M F)
は典型的には分子雲 コアの質量の 1
/
5
-1
/
1
0に過 ぎず,単純 に分子雲 コアガスの枯渇
が原因でないことがわかる.
●降着円盤の角運動量輸送 を担 う トルクの原因が明確になっていない.磁気 トルク, 自
己重力 トルク,乱流 トルクの 3つが有力である.
●微惑星形成に必要な,ダス トの極めて薄い層への沈澱は困難である.それは,ガス 自
体の乱流の他 にも,ガス とダス トの境界面での鉛直シア不安定 による乱れ等,ダス ト
の沈澱 を妨げるい くつかの要因が挙げ られるか らである.
●原始惑星系円盤の進化の結果決 まる惑星の材料物質分布 と太陽系の惑星分布か らの復
元モデルとして決められた林モデルとはどの程度整合性があるのか不明である.
2.双極分子流発生のメカニズム
ここでは,双極分子流 を駆動する光 ジェッ トの発生のメカニズムを考 える.円盤の最内側
u等
領域 において中心星の磁気遠心力によりジェッ トを吹 き出させ るモデルは米国の F.Sh
によって提唱された (1).
双極子磁場 を持ち角速度 0*で回転する中心星 とその周囲をとりま く能動的円盤 を考え よ
う(
図 2参照)
.中心星は,双極子磁場 を持つ とする.
1 640-
「
階層性 と非線形ダイナミクス :現象論の視座」
円盤 は有限の抵抗率 を持つため,磁場に貫かれる.円盤 はほほケプラー回転す るために,
その角速度 0が 0*と異なる部分ではシアにより磁力線の巻 き込みが生 じ,磁気散逸摩擦 と
磁力線の張力がつ りあう形状 になる.能動的円盤の段階では,円盤では中心星 に向かって盛
んな質量供給があるため中心星磁力線は,円盤 を貫 く部分で中心星側に引きず られ内に凸の
Rcあた り
形で湾曲する.この結果, ∩ - n*となる半径 Rc (共回転半径)付近に Rcか ら 2
を貫いていた磁力線が束ねられたようになる.
共回転半径付近では,磁力線が束ねられる効果で磁場が強化 されるた.
め,円盤の厚み程度
Q
?
中
高で共回転領域が形成 される.
円盤内線か ら Rc までの領域 は,各場所でのケプラー角速度 よ り小 さな角速度 n*で共回
転 している.そして弓な りの磁力線 によって星の表面 とつながっている.この磁力線 に沿っ
て実効ポテンシャルは減少す るので,ガスは磁力線 にそって星 まで落下することがで きる.
この とき落下ガスが持つ角運動量は,磁力線 に沿って円盤 に輸送 される.
cの外側領域では,磁力線はディスク面 を離れるにつれて外向きに広がっている
一方, R
ため,磁気遠心力 により荷電粒子 を磁力線 に沿って加速す る.荷電粒子 との衝突により中性
粒子 も加速 されジェッ トとして吹 き出す.加速 されたガスは,アルベーン速度 を超 えると逆
に磁力線 を引 きず り無限遠方 まで飛び出す.定常なジェッ トは磁気音速点やアルベー ン点 を
通過する解 として求められる.
このジェッ トの吹 きだ しモデルは,魅力的だが,細部は詰め られてお らず,解の安定性 ・
許容 される諸パラメタの範囲 もわかっていない.
3.双極分子流の役割
双極分子流 とそれを駆動する光 ジェッ トが星 ・惑星系の形成に果たす,最 も重要な役割 を
3つ挙げる.
まず,降着 ガスの角運動量 を奪い,中心星へ と落下 させる役割がある.円盤の共回転半径
付近 での角運動量 の収支 を考 えてみ よう.中心星の質量 ・半径 ・回転角速度 を M.
, R.,
0.とす る.また,円盤 とジェッ トの質量輸送率 をそれぞれ MD, Mw とす る.この とき,
孟(
b
M・
R裾
-柵
*・2
qRS
(
増
し
hwJ
RS
o
・
(
2
)
ここで bは星の構造か ら決 まる定数で,全域で対流状態 にある星では 0.
1
4
-0.
2程度である.
J
.は乱流粘性率, ∑は円盤の面密度 (
単位面積当た りの密度)
,J
-はジェッ トの持 ち
また, l
出す単位質量当た りの角運動量である.左辺の星の角運動量変化 は,右辺第 1項の円盤か ら
運動量変化 さらに第 3項
の質量降着 による角運動量増加 と,第 2項の粘性 トルクによる角■
のジェットにより角運動量が持 ち去 られる割合 によって決 まる.なお,質量収支は,
M.-MD-Mw
(
3)
と書 ける. これ らの式か ら,ジェッ トが効率良 く角運動量 を持 ち出すため中心星のス ピン
9% を占めるが,
アップが押 さえられることがわかる.現在の太陽は,太陽系の全質量の 99.
5
% しか担っていないが,これは半径の大 きな部分では円盤の粘性 トルクによ
角運動量は 0.
り,太陽近傍ではジェッ トにより,それぞれ効率 よく角運動量が輸送されたためと考えられ
る.
次 に,分子雲ガ如 こ運動量 を与え,中心星 ・円盤への質量供給 を衰えさせる役割がある.
MFは,低質量側 にシフ トしている.双極
観測 される分子雲 コアの質量分布に対 して星の I
-6
41-
研究会報告
分子 流 は , デ ィス ク に垂 直 な方 向 の分 子雲 ガス を吹 き払 い , そ の影 響 は音 速程 度 で周 囲 に伝
わ る.双 極 分 子流 か らの影 響 が ,膨 張 波 よ り早 く伝 わ る領 域 で は,質量 は 中心 星 ・円盤 へ は
落 下 しな い . この こ とか ら, 単 位 時 間 に 中心 星 ・円盤 に降着 す る質量 (
質量 降着 率 )
b を求
める と(
3
)
h - l
i
-1
/
2(
2- i
-1
)1
′
2c
os卜
(1- i
-1
)s
i
n¢]ho
(
4)
とな る. こ こで , 4
,は双 極 分 子 流 を駆 動 す る ジ ェ ッ トの 開 き角 , iは分 子 雲コアが収縮を開
始 して か らジ ェ ッ トが吹 き出す まで に要す る時 間で規 格 化 され た時 間 である.
この た め , 質量 供 給 は衰 え, 星 の 質 量 は 自律 的 に調 整 され る .分子雲 コアからの質量供
給 停 止 の タ イ ミン グ は, 円盤 質 量 の 最 大 値 を決 め るた め ,連星系の形成条件 とも関連する
(
3
)
最 後 に,惑 星 の材 料 物 質 の起 源 に も大 きな役割を果たす. 1節で見たように能動的円盤の
中 で は, ダス トは 中心 星 へ と落 下 す る.このため,能動的円盤の段階で形成されたダス ト
は,惑星形成には関与せず,受動的円盤の段階に各半径に運ばれてきたダス トが惑星の材料
物質になると考えられる.だが,ディスクの内縁付近から吹き出す光ジェットは,ダス トを
吹き上げサイズに応じてダス トを遠方に再投入する(
2
)
.っまり,能動的円盤の段階では,
円盤中を内側へ落下したダス トが,ジェットの吹きだし口付近で,高温 (
1
5
0
0
-20
0
0K)に
さらされ部分蒸発したり凝縮する.融け残 りのダス トはディスク表面に運ばれると急速に冷
却され,周囲から鉱物が凝縮する(これが始源的限石中の高温包有物の周囲のリム構造の形
成に対応するかも知れない)
.これらがサイズに応 じてジェットによって円盤の外側に運ば
れ,低温のダストと混合されることになる.これは,カルシウムやアルミニウムに富んだ白
色包有物 (
CAI
)やコンドリュ-ルといった比較的粒子サイズの揃った高温包有物が,マ ト
リックスを構成する低温で保持された細粒ダス トに混在するという,始源的な限石の基本的
な特徴を説明する.
このように,円盤の内縁部から吹き出す光ジェットは,惑星形成に対 して極めて重要な役
割を果たす.その発生のメカニズムや進化については,現時点では不明な点が多いが,観測
の蓄積とともに次々と解明が進むものと期待される.
参考文献
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階層性 と非線形 ダイナ ミクス :現象論 の視座」
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01
0.
1
1
1
0
10
1㌔
1㌔
(
AU)
′
図 1 惑星系形成時の模式図
下
F7 ・
内縁
Rc
降着 円盤
図 2 磁気遠心 力風モデル (
円盤面 に垂直 な断面図)
-6
4
3-
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