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チェーンストアパラドックスと均衡戦略

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チェーンストアパラドックスと均衡戦略
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
チェーンストアパラドックスと均衡戦略
Author(s)
村田, 省三
Citation
經營と經濟. vol.84(4), p.69-86; 2005
Issue Date
2005-03-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/6851
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
経営 と経済 第84
巻 第 4号
6
9
2005
年 3月
チ ェーンス トアパラ ドックスと均衡戦略
村
田
省
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um,be
l
i
e
f
1.序
チ ェーンス トアゲームにおける均衡戦略が もた らす結果は,パ ラ ドックス
といわれる現象を発生 させ る。一般 に,ゲーム理論 による分析が驚異的な結
果を示す ことは少な くないが,それ らに共通する特徴は,常識 によって通常
推定 される予想 と大 き く異なる結論 を理論分析が提示する場合である。ある
いは逆 に,理論的に証 明されるとは考 え られない ような予測ない し直観が,
ゲーム理論によって証 明された場合である。
当初,ほ とん ど無視 しうるほどのわずかな疑念が,ゲームの繰返 しととも
に増幅 されてい き,ゲーム後半には無視で きないは ど強固な もの となる過程
がナ ッシ ュ均衡 になることを説明するチ ェーンス トアゲームでのパ ラ ドック
7
0
経 営 と経 済
スはその性質を保有 している。
2.不 完 全 情 報 チ ェー ン ス トア ゲ ー ム
2
.
1 不完全情報チ ェーンス トアゲームの情報構造
完全情報 ゲーム と異な り,不完全情報ゲームには様 々な様態がある。ゲー
ム理論 において完全情報 とい う場合,ゲーム均衡戦略を推定するために必要
な全情報 は各プレイヤーに とって既知 であ り,また,その情報 はすべて共有
知識 とな っていることをい うか ら,ゲーム均衡戦略の推定 に必要な情報 を一
方 または両方のプ レイヤーが知 らない場合は不完全情報 となる。それ以外に,
すべての情報 を各プレイヤーが知 っているが,その (
知 っている という)辛
実が共有知識 とな っていない場合 も不完全情報 に分類 される。
不完全情報チ ェーンス トアゲームにおいては,既存企業の利得表 を,参入
企業は知 らない という意味での不完全情報が想定 されるが,さらに,既存企
業の利得表候補が二つあることを前提 して,二つの利得表の どち らかが真実
の利得表 であることを知 ってお り,かつその ことが共有知識 とな っていると
仮定 され る。い うまで もな く,既存企業は既存企業利得表を知 っていると仮
定 される。
図 1は不完全情報チ ェーンス トアゲームの展開形表示である。真実のゲー
ムは展開系の左側 に図示 されている。左側部分ゲームは参入企業 と弱気の既
存企業 とのゲームである。右側の部分ゲームは参入企業 と強気の既存企業 と
のゲームを図示 している。チ ェーンス トアゲームの既存企業は弱気企業であ
るが,参入企業はその ことを知 らない。ただ し,経験的に既存企業が強気で
ある確率 と弱気である確率について信念を保有 してお り,既存企業が強気で
ある確率は0.
4,弱気である確率は0.
6である と推定 している。本稿後続部分
では,とくにことわ らないかぎ り,この信念の値 (
確率分布)を前提 とする。
この信念水準は,ゲーム均衡戦略を左右するが,それは本質的な作用ではな
い。ほ とん どの信念値 にたいしてチ ェーンス トアパ ラ ドックスは発生する.
7
1
チ ェーンス トアパ ラ ドックス と均衡戦略
(
0、2) (
0.
5,
0)(
・
0.
5,
・
1
)
(
0、2) (
0.
5,
l
l) (
1
0.
5,
0
)
(参 入 企 業 の 利 得 、 既 存 企 業 の 利 得 )
図 1 不完全情報 チ ェーンス ト7ゲーム
図 1のゲームにおいて,信念が右側ゲームにたい して 0,左側 にたい して
1とされる場合は,完全情報ゲームになる。図 1に描かれている円の内部 は
参入企業に とっての情報集合である。具体的ゲーム均衡戦略お よび,このゲー
ムの 2回繰返 しゲームの均衡戦略の検討は後節でおこな うが,現在の段階で
も,純戦略でのゲーム均衡はおそ ら く存在 しないであろうと推論 で きる。柿
戦略を既存企業ない し参入企業が採用することは,多 くq)
場合, 自分が どq)
タイプの企業であるか (
あるいは どの ようなタイプの企業である とみている
か)を相手企業 に教示する側面 を否定で きない。
一方,不完全な情報構造を利用す ることは,情報確定 とい う観点か らみる
とマ イナスに作用す る。多 くの場合,ゲーム終 了後 にさえ相手 プ レイヤー
(
企業)の正体が明確化する保障をあたえない。実際,チ ェーンス トアゲー
ムの逐次的均衡は混合戦略になるか らである。混合戦略であれば,ある戦略
が とられた として も,その ことか ら既存企業が弱気であるか どうかを完全 に
は判定できない。チ ェーンス トアゲームの均衡戦略 におけるパ ラ ドックス発
生の根拠は じつはその点にある といって よい。
7
2
経 営 と経 済
2.
2 斉合的な信念更新 と逐次的均衡
考察対象 となる戦略がすべての選択肢を正確率で実現すれば,ベイズ規則
1お よび図 2.
2では,初期信念0.
6
によって信念更新 がお こなわれ る。 図2.
(
弱気既存企業である と参入企業が推定する確率)および0.
4(
強気既存企
業である と参入企業が推定する確率)である場合の 2回繰返 しチ ェーンス ト
アゲームが示 されている。この とき,以下の戦略が逐次的均衡の候補になる。
強気企業の戦略 :つねに闘争戦略を選択する
弱気企業の戦略 :第 1期 に闘争戦略を選択する。第 2期は結託する。
参入企業の戦略 :第 1期は不参入戦略を選択する。第 2期は既存企業が強
気である確率 (
信念)が 1/ 2以上な ら不参入戦略を選
択, 1/ 2を下回れば参入戦略を選択する。 1/ 2であ
れば,確率 1/ 2で参入戦略を選択する。
(
0 4) (0
,
2 (
・
0 .
.5, )
5
,1) (0 ,2)
( .5,0) (-0 .
0
5
,-
I)
(
0,
i
)(
0.
5,
l
l
)(
0.
5,
・
2)
(参 入 企 業 の利 得 、 既 存 企 業 の利 得 )
図2
.
1 対弱気既存企業のゲーム構造 (
初期信念0
.
6
)
73
チ ェーンス トアパ ラ ドックス と均衡戦略
(0 ,
4)
(0.
5
,
1)
(
- .5,2) (0,1) (
0 .
0
(
0,
2)(
0.
5,
1)(
0.
5,
0)
5,・2) (
・
0 .5 ,・1)
(参 入 企 業 の 利 得 、 既 存 企 業 の 利 得 )
図2
.
2 対強気既存企業のゲーム構造 (
初期信念 0
.
4
)
この戦略 にたいする合理的信念 (とくに J
5節 における信念)の値 は,
(
1
) 第 1期 に不参入戦略が選択 された場合は,ベ イズ規則 により0.
4,
(
2
) 第 1期 に参入戦略が選択 され
それにたい して既存企業が闘争戦略を
選択 した場合は,ベ イズ規則によ り,
Pr
o
b
(
F/
S
)
pr
o
b(
S)
Pr
o
b(
S/
F)
P
r
o
b
( F
/
S
)
p
r
o
b
( S
)
+
P
r
o
b
(F
/
W
)
Pr
o
b(
W)
1×0.
4
1×0.
4+1×0.
6
-0.
4
(
3
) 第 1期 に参入戦略が選択 され
それにたい して既存企業が結託戦略を
選択 した場合は,やは りベイズ規則により 0
でなければな らない。
この戦略は表 3に示 されるが,強気の既存企業 について戦略の最適性お よ
7
4
経 営 と経 済
び第 2期の参入企業の戦略の最適性は自明である。 この ことか ら,第 1期に
おける参入企業の戦略 (
不参入)の妥当性が確認 される。また,この戦略が
想定 されれば,弱気企業が第 1期に闘争戦略を採用する可能性はな く,この
点について も妥当である。 ところが,第 1期参入が発生 した場合に対応する
部分ゲームで,弱気既存企業の戦略はナ ッシ ュ均衡戦略にな らない。
弱気の既存企業
第 2期
結
強気の既存企業 l
託
闘
争
参入企業
p
pZ
2
<
÷
p2
,÷な
÷ な ら参入
ら確率与 で参入
表 3 均衡戦略の特徴
3. 多 段 階 チ ェー ン ス
トア ゲ ー ム の 均 衡 戦 略
先行節で純戦略均衡が存在 しない とい う推論結果を得た。また前節で,特
定の混合戦略についてはチェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略にならない
ことを確認 した。実際, 2回 目のゲーム(
最終期ゲーム)において,弱気企業
5以外の値 となるような混合戦略
とみる信念および強気企業 とみる信念が0.
は逐次的均衡 を構成 しない。 この推論 はゲームの繰返 し回数が 2回以上の
ケースについて一般的に成立する。
5以外の信念が 2回 目 (
最終期)のゲーム開始時点で成立 した
か りに,0.
とすれば,参入企業は参入か不参入かを決定するはずである。少な くとも一
方の戦略が他方に比べて期待利得の意味で有利になるからである。すると,
そのことを正確 に推定する既存企業は結託か闘争かを一意に決定することに
チェーンストアパラドックスと均衡戦略
7
5
なる。以上の ことを参入企業 も完全推定す るか ら,その時点で既存企業の正
体 (じつは弱気企業である とい う事実)を確認で きる。第 2期ゲームは完全
情報化する。第 2期ゲーム開始時点で完全情報化するような戦略を,既存企
業は第 1期 において選択 しない。
3
.
1 多段階チ ェーンス トアゲームの均衡戦略 (I)
結論的にいえば,このゲームの逐次的均衡戦略はただひ とつ存在 してお り,
その均衡戦略によれば,最終期 (
第 2期)において参入企業が保有する信念
(
確率)は,既存企業が弱気であ ることにたい して0.
5
,強気 であることに
5となる。すなわち,参入企業は既存企業が弱気 か強気 か どち ら
たい して0.
ともいえない状況におかれることとなる。 これは,初期信念 として特定の値
を想定 した ことによる特別な状況ではな く, どの ような正の確率値 を信念 と
した ところで,本質的に成立す る性質 (
参入企業 を第2
期初頭 に無差別状況
に追い込む こと)である。 この ことがチ ェーンス トアパ ラ ドックスの構造 を
形成 している。0.
5とい う具体的数値のみがゲーム想定 に依存す るのである。
さて,以上の特徴 をすべて保有す る逐次的均衡戦略を表 4に示す。Pl
,
P2
は,第 1期および第 2期 における信念 (
既存企業 を強気 とみる確率)である。
この うち,第 2期 における戦略の妥当性は 自明である。第 1期の弱気既存企
業の混合戦略は,参入企業による第 1期の戦略に関係な く,第 2期ゲームが
開始 される時点における信念 (
ベ イズ規則 による初期信念の更新値)を0.
5
に設定する効果を保有 している。一方,参入企業戦略は初期信念値の水準 に
依存 して決定 される。信念値
1/ 4が参入の可否 を決定する境界水準である。
その結果, ここで考察 している 2回繰返 しチ ェーンス トアゲームにおける初
期信念 0.
4(
既存企業 が強気である と参入企業が予想す る信念値)の水準は
参入企業による第 1
期参入を阻止す るのに十分である。
ゲームの繰返 し化 によ り,参入す るか しないかの境界 となる信念値の水準
は低下する。チ ェーンス トアゲームを3回繰 り返せば,既存企業 を強気 と予
7
6
経 営 と経 済
弱気の既存企業
第 2期
結
託
強気の既存企業
闘
争
参入企業
p
2
<
,
÷
p2
-÷ な ら参入
ら不参入
ら確率÷ で参入
表 4 2回繰返 しチ ェーンス トアゲームの逐次的均衡
想する参入企業初期信念の値が 1/ 8を超 える場合,第 1
期の参入は発生 し
ない。
3
.
2 多段階チ ェーンス トアゲームの均衡戦略 (
Ⅱ)
2回繰返 しチ ェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略を表 5に提示する。 こ
の表は前節 と記法が異なっているので注意が必要である。最終期を第 1期 と
e
psしてお り,最終期の一期前は n-1の ときと記述 している。 これは Kr
Wi
l
s
on(2)の記法 によるが,既述の簡単化のためであるか ら,ゲーム実質
になん ら異同はない。
7
7
チ ェーンス トアパ ラ ドックス と均衡戦略
弱気の既存企業
最終期
結
強気 の既存企業
託
闘
争
Pn<(
0.
5
)
_
n
J
l
な ら確率
n-1
期前 Pn≧(
0.
5
)
n
1
な ら闘争
最終期の
(
1
(
1
Pn
(
0
).
×(
5)
n
0
,
1
で闘争
)
5
P
)
n
n
I
参 入企 業
信念値 -0
<0
>0
.
.
5な ら参入
ら不参入 で参入
ら確率÷
Pn>(
0.
5
)
n
な ら不参入
闘
争
Pn< (
0.
5
)
n
な ら参入
pn-(
0.
5
)
n
な ら確率÷ で参入
表 5 M回繰返 しチ ェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略
3
.
3 チ ェーンス トアパラ ドックス
チ ェーンス トアゲームにおいては,既存企業が偶然 (
確率的な意味で)にも
結託 した場合を除けば,逐次的均衡戦略 に従 うかぎ り,既存企業が実際には
弱気であったのか強気であったのか判明しないままゲーム終了をむかえる確
率は低 くない。 とはいえ,本稿では, ここで示 した逐次的均衡戦略の他に逐
次的均衡が存在 しうるか どうかについての証 明はあたえていないか ら, この
点を疑問視する向きがあるのは仕方 ない ところである。 しかし,実際に存在
しない。 これは,不存在証 明が これまでにされた とい う意味ではな く(
不存
在の正式証明を与 えた例はない と思 うが),逐次的均衡戦略の導 出過程か ら,
推論 される事実である。Kr
e
ps-Wi
l
s
o
n(2)は同様な指摘 をしている。
チ ェーンス トアパ ラ ドックスの発生 については, この結果を異常 とみるこ
とは可能である。その場合は,逐次的均衡 (したがって斉合的信念更新)の
概念がなお不十分なために特異なゲーム均衡 を もた らす とい う見方が必要 に
7
8
経 営 と経 済
なる。そのような見解がか りに正当性を保有するな らば,もはやチェーンス
トアゲームに均衡戦略は存在 しない という分析結果を確認せざるをえないで
あろう。逆に,逐次的均衡 (
斉合的信念更新)の概念は厳格すぎるという考
え方からは,さらに多数のゲーム均衡発生を誘発可能である。このなかには,
チ ェーンス トアパラ ドックスに対応す る均衡戦略が当然含まれるが,それ以
外に,さらに奇妙なゲーム均衡を可能 とするはずである。信念更新の方式が,
かな らず Lも,その都度整然 と構成 されな くてよいことを意味するからであ
る。
ゲーム開始時点ではわずかな風評が,ゲーム進展 とともに,その風評を利
用する既存企業態度により拡大されて,近似的には 0に近い誤解 (
強気であ
るかもしれない という信念)を漸次増幅 してい くことが,ゲーム均衡 として
可能であるというときの均衡概念は,逐次的均衡 (
ナ ッシュ均衡 および完全
ナ ッシュ均衡をふ くむ)まで許容 される。
4.チ ェーンス トアパラ ドックスの矛盾
4.
1 結託戦略の妥当性
ところで,本稿で考察 している不完全情報チ ェーンス トアゲームについて
は,逐次的均衡 (
斉合的な信念更新)である限 り,正確率で弱気であると参
入企業が判断 しさえずれば,チ ェーンス トアパラ ドックスは発生する現象に
なる。 ところで,以上の ような逐次的均衡戦略が与 えられた として,この均
衡戦略は事実上,ゲーム終了まで継続 しうる性質を保ちえるであろうか。 こ
の ような疑問はかつて提 出されることはなかったが,均衡戦略の現実的妥当
性の観点を導入するとき,本稿で提示 されている混合戦略逐次的均衡戦略が
実行 された場合でかつゲーム途上で既存企業が結託 した ら何が起 こるのか と
いう疑問がない とはいえない。あるいは,そもそもこの戦略が実行 しようと
するような結果は何を意味するのか という疑問がある。強気既存企業である
かあるいは弱気既存企業であるか とい うことについての信念 (
疑惑)は参入
チ ェーンス トアパ ラ ドックス と均衡戦略
7
9
企業が保有す るのみであって,既存企業 自体は実際には1
社であ る。 しかも,
強気既存企業な らば,少な くともナ ッシ ュ均衡戦略であるかぎ り,決 して結
託戦略を採用 しないのであるか ら,結託戦略が選択 された とすれば,それは
既存企業が弱気であることを参入企業 に確信 させ る情報 を与 えることになる
はずである。
か りにそ うであれば,既存企業の実態が弱気既存企業であろうが強気既存
企業であろうが,その ことについての参入企業の信念値の水準が何であろう
が,ナ ッシ ュ均衡戦略 (
期待利潤極大戦略)であることを前提 とするかぎ り,
既存企業はけっして結託戦略を選択で きない。その結果,既存企業が選択可
能な戦略は,ゲーム全期間にわたって闘争戦略のみ とな り,その ことを知 る
参入企業は不参入戦略 を とるはかな く,か くしてゲームは純戦略化 して,完
全情報ゲーム と化 して しまうことが予想 されるであろう。 この場合,参入企
業は強気既存企業 1社 と対決 している。
ところで,その場合,信念更新の斉合性は どの ように解釈すれば よいので
あろうか。参入企業は既存企業の弱気であるか強気であるかについて従前の
6
)を保有 してお り, しか し,既存企
とお りの信念 (
弱気企業であ る確率 0.
業は実態 にかかわ らず闘争戦略のみ選択する と解釈 される場合,ベ イズ規則
により,先行段階ゲームにおいて闘争戦略が選択 された場合の信念更新は,
Pr
o
b(
S/
F)
Pr
o
b(
F/
S)
pr
o
b(
S)
Prob(
F/
S)
pr
o
b(
S)+Pr
o
b(
F/t
のpr
o
b(W)
lXPro
b(
S)
1xPr
o
b(
S)+Pro
b(
F/W)
Pr
o
b(
W)
lXPr
o
b(
S)
1×Pr
o
b(
S)+1×Pr
o
b(
W)
-pr
o
b(
S)
と計算 される。闘争戦略が選択 され る と常 にこの値 (
初期信念値)に信念は更
8
0
経 営 と経 済
新 される。つま り,ベイズ規則 によって,信念は何 ら変わ らないことになる。
ところが, この ことは最終期 における参入戦略を阻止できない という新 しい
矛盾を発生 させる。最終期 に参入を阻止で きないな らば,その直前期の参入
を阻止で きず,か くして全期間における参入が起 こることを阻止できない。
一方,信念更新 についての斉合性を前提 としなければ,また既存企業 はけ
っして結託戦略を選択で きない と考 えた場合には,信念値水準 に無関係 に参
入は発生 しない。既存企業はかな らず闘争戦略を選択することが予想 される
か らであ る。パ ラ ドクシカルな状況 とな らないのは,既存企業が弱気である
ということについての信念値 が 1の場合のみである。 この とき無矛盾である
理 由は,既存企業 が闘争戦略で対応す るという言質 を与 えた としても,それ
を参入企業が信用 しないか らである。 これは事前の態度表 明ゲーム (
コミッ
トメン トゲーム) に類似 した状況であ る。
以上の推論 によれば,チ ェーンス トアパ ラ ドックス現象は,か りに何 らか
の理 由によって逐次的均衡あるいは斉合的信念を前提 とする場合の完全ナ ッ
シ ュ均衡 が正当なゲーム均衡である とした場合には発生 しうる理論上の現象
であるとい う他な く,実際の推論過程 にたいして無矛盾であるという観点か
らは,逐次的均衡 は理想的な均衡戦略ではない可能性を指摘で きる。
そればか りか,参入企業の信念値が 1である場合で も,既存企業が第 1期
において闘争戦略を採用するな らば,何 らかの信念更新 (
斉合的であること
は想定 しない)の結果,既存企業の実態が弱気企業であるか どうかに関係な
く,第 2期以降における参入は阻止可能なのかもしれない。 この ことは,少
な くともチ ェース トアゲームがたんな る繰返 しゲームではない可能性を示唆
してい る。 この点 ,先手 ・後手 とな るゲーム均衡 を得 る方法 として, Do
-
wi
c
k(1)が考 えた方法が関連す る可能性がある。そ こでは,Wai
t戦略が追
加的に導入されているが, この程度 にまで柔軟な発想が許容で きるな らば,
あるいは既存企業の逐次的均衡戦略がゲーム均衡 として現実的になるのかも
しれない。
81
チ ェーンス トアパラ ドックス と均衡戦略
4
.
2 信念更新の妥当性
これまで,弱気既存企業が結託戦略を とりえない可能性 について検討 して
きたが,さ らに,現実的な信念更新 をめ ぐる完全推論性 についての疑問があ
る。既存企業 が闘争戦略を選択 した場合,次期 ゲームにおけ る信念は,一般
に,以下のベ イズ規則 ,
Pr
o
b(
S/
F)
Pr
o
b(
F/
S)
Pr
o
b(
S)
Prob(
F/
S)
pr
o
b(
S)+Pr
o
b(
F/W)
pr
o
b(
W)
によって更新 され るが,強気既存企業 が結託す る可能性 はまった くないので
あるか ら,
Pr
o
b(
S/
F)
1×Pr
o
b(
S)
1×
P
r
o b
( S
)
+P
r
o
b
(F
/
W
)
p
r
o
b
(
T の
となる。いま,既存企業が弱気であ る可能性 が高い (
弱気 とみ る信念値 0.
9
9
)
とす るな らば, 2回繰返 しチ ェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略 におけ る
第 1期 の弱気既存企業の戦略は,
Pr
o
b(
S/
F)
1×0.
l
l
1× 0
.
l
l
+Pr
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によ り計算 されなければな らないか ら,以下の確率で闘争戦略 を形成す る以
外 に戦略選択 の余地 はない。
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F/研
-義
ところで,この ような混合戦略 に よる均衡戦略の構成 を知 った参入企業 は,
その事実のみか ら,既存企業の実質 が弱気 であ る とどうして理解 しないので
8
2
経 営 と経 済
あろ うか。強気既存企業であれば選択 す るはずのない戦略 が実行 され る状況
下 にあ って,なおかつ既存企業の正体 についての信念 (
つま り疑念)の更新
をベ イズ規則 に忠実 に実行 しなければな らないのであ ろ うか。実態 に合 わせ
た変更 を しようとしないのはパ ラ ドックスにな らないであろ うか。合理 的推
論 は, この場合 どの ように作用 してい る と解釈 され るのであ ろうか。 これ ら
の疑問については後節 で検討す るこ ととす るが,ゲーム均衡戦略 の現実妥 当
性 にかかわ らず斉合的な信念更新 を実行 しなければな らない理 由はない よう
に思われ る。斉合的な信念更新 については,完全ナ ッシ ュ均衡 に よっては排
除で きない不合理 なゲーム均衡戦略 を除外す る とい う使命 を帯びて登場 した
経緯 があ るが,それがほぼ絶対的な均衡概念 に相 当す る とい う信念 が,逆 に,
不合理的 と考 え られるゲーム均衡 を容認 す る土壌 を醸成 してい る。
4
.
3 信念更新 と期待利得
逐次的均衡 ない しは斉合的な信念更新 を想定 した場合 にさえ,ゲーム均衡
戦略 といい うるためには難問が存在 す る。 チ ェーンス トアゲームでは,た と
え均衡戦略を正確 に推論可能であ るに しろ,その こ とが意味す る情報 につい
て推論 しない とい う前提があ るのだ ろ うか とい う問題 であ る。 2回繰返 しチ
ェーンス トアゲームの場合,先行節 で確認 した ような逐次的均衡戦略 におい
て,第 1期ゲームでは確率 (1
/ 3) で既存企業 は結託戦略 を採用す る。 こ
の とき,結託戦略の採用は既存企業の弱気であ るこ とが確定す るか ら,確率
1/ 3で第 2期ゲームは完全情報化 す る。 また,確率 2/ 3で既存企業 の正
期 ゲームの開始時点のゲー
体 は不 明のままに置 かれ るが,この こ とか ら,第 2
ムを正確 に記述すれば,以下の ようにな る。従来 , この こ とはま った く指摘
されないままに経緯 して きた。 その こ とがチ ェーンス トアゲームの神秘性 を
保持 し続 けて きたひ とつの原因であ ろ う。
図3
.
1
は第 1期ゲームにおいて,参 入企業 が不参入戦略 を採用 した場合 か,
または,参入企業 の参入にたい して既存企業 が闘争戦略で対抗 した場合 に発
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チ ェーンス トアパ ラ ドックス と均衡戦略
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(参 入 企 業 の 利 得 、 既 存 企 業 の 利 得 )
図3
.
1 第 2期に確率 0
.
7
で発生するゲーム
(
0、 2)
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/1
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(
0.
5,
(参 入 企 業 の 利 得 、 既 存 企 業 の 利 得 )
図3
.
2 第 2期に確率 0.
3で発生するゲーム
生す るゲームであ る。 これにたい して,図3.
2は,第 1期ゲームにおける参
入企業の参入にたい して既存企業が結託戦略で対応 した場合 に発生するゲー
ムである。図3.
1
のゲーム状況が確率 1/ 3で発生 する とい う根拠 について
8
4
経 営 と経 済
は, 2回繰返 しチ ェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略に求め られる。そ こ
では,第 1期における参入企業の不参入戦略にたい して既存企業は 1/ 3の
確率で闘争戦略を選択することとされている。 この とき,第 2期ゲームにお
ける参入企業の期待利得はあ きらかに異なった ものになる。逐次的均衡戦略
を構築す るさいには,図 3.2の状況は想定 されていない。仮 にこの状況を
想定 にふ くむ とすれば,
均衡戦略の構成は幾分参入に有利化するはずである。
とい うのは,既存企業が弱気既存企業である確率は,
去
・(
1-i)×o・5-号
とな り,強気既存企業である確率は,
(
1-i)×0・
5-吉
となるか らである。初期信念は,弱気 に対 して0.
6であ り,強気 に対 して0.
4
であったか ら,逐次的均衡戦略 におけるよりも,参入企業の参入に とって,
信念更新 が有利 にはた らいていることがわかる。ゲームが 2回繰返 しであれ
ば,そ して以上の信念更新 を前提 とすれば,当然の こととして第 2期には参
入が発生する。完全推論の仮定の もとで,既存企業は これ ら信念更新を知 る
ことになるか ら,第 2期 には結託す ることはい うまで もないが,さらに遡 っ
て,第 1期 における闘争戦略が無駄であることを確認するであろう。その結
莱,第 1期ゲームか ら参入は発生 して既存企業は各段階ゲームで結託する0
この ことか ら,既存企業は均衡戦略を再検討する必要がある。つま り,上
述の信念更新 にたい して,なお第 2期ゲームの開始時点での信念値が 1/ 2
となるような第 1期戦略の検討であ る。 この混合戦略を算出することは困難
ではない。ただ し,第 1期 における闘争戦略の選択確率は高 くなる。
一方,以上の推論 とはまった く独立な観点があるか もしれない。た とえば,
チ ェーンス トアゲームの逐次的均衡戦略 について,
第三者が推定するだけで,
参入企業 および既存企業が ともに知 り得ない とい う想定である。 どち らか-
チェーンス トアパラドックスと均衡戦略
8
5
方の企業のみが均衡戦略を知 りうる として もよい。あるいは,ゲーム均衡戦
略は,各 プレイヤーが知 らない として も均衡戦略 とな りうるのか どうか とい
う観点である。 しかし, これ ら想定 を現実のゲーム均衡 として実現す ること
はチ ェーンス トアパラ ドックスの解 明以上 に困難であろう。
5.パラ ドックスの解消について
結局,本稿での批判的検討は,ナ ッシ ュ均衡概念その ものを否定 してはい
ない。そ うではな く,不完全情報ゲームにおける初期信念が更新 されてい く
過程の現実性 を疑問視 しているのである。 また,信念更新 について もいたる
ところで不適切である とい うので もない。問題は,斉合性概念が適当 とな ら
ないゲーム構造が存在 していることであ り,その ようなゲームに,ベ イズ規
則 による信念更新 を形式的 に適用す ることの危険性 を指摘 してい るのであ
る。
とくに,選択 される戦略 によっては,ゲームの性質が構造的に変化す る場
合に,斉合的信念ない し合理的な信念更新は適切でない可能性がある。 この
信念更新 がチ ェーンス トアゲームに正当に適用 され るためには,強気既存企
業 と弱気既存企業の両方が闘争戦略 と結託戦略の どち らも選択す ることが正
の確率で起 こるケースに限定 されるべ きであろう。この条件 (したがってゲー
ム構造)が想定 されては じめて,既存企業の戦略は合理的な信念 として (し
たがって背後 に実行 しうる戦略を保有 して,ベ イズ規則 によって信念更新が
おこなわれる)逐次的均衡戦略を構成 しうることになる。抽象的 にいえば,
結託戦略選択 か ら,参入企業は既存企業の弱気性 についての信念を不連続的
にではな く連続的に更新するような状況 こそ,ゲーム均衡戦略 として望まれ
るとい うことである。
この観点か らすれば,囚人のパ ラ ドックス との対比が議論 されて よい。 こ
のゲームは王様 と囚人 による 7日間ゲームであ り,処刑 日を言い当てれば無
罪放免 される という設定 になっている。囚人の推論 (
後 ろ向き帰納法 による)
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経 営 と経 済
によれば,最終 日の処刑は必ず言い当てることがで きるか ら最終 日の処刑は
起 こり得ないか ら,結局,すべての 日において処刑は実行 されない というこ
とになる。驚 くべ き結論を得 るのであるが,いうまで もな く誤 った推論であ
る。 このパラ ドックスは,数世紀に渡 り数学者および哲学者を悩ませた とい
うか ら,直観的には誤謬 をふ くんだ推論な ら常に容易に論理的に (
推論の間
違いの原因を)指摘で きるとはかざらないことの例示 になる。囚人のパラ ド
ックスに関する詳細な分析については,現在では,村 田 (3)のみが紹介し
ている と思 うが,絶版 となっている可能性が高い。興味ある向きは,同書が
図書館等に所蔵 されていることを期待 してほしい。 このパ ラ ドックスが発生
する最大の要因は,ゲームのナ ッシ ュ均衡の形式的な適用によって場違いな
均衡戦略が導出されるということであ り,そのような誤謬 を発生 させる原因
としてゲーム構造の特殊性が潜んでいる。処刑 とい う戦略は,ひ とたび実行
されればゲームは無条件 に終了するか らである。 この とき,ゲーム終了後の
戦略がナ ッシュ均衡の形式的定義を満足 した ところで意味はない。
チ ェーンス トアゲームは,プレイヤーの選択肢によってゲーム終了が発生
して しまうような特殊性は保有 しないが,特定の戦略選択 によってゲームの
情報構造が一変す る性格である。
参 考 文 献
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3.村 田省三 『経済 の ゲーム分析 』 (
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