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チョウから見える中池見湿地の変化

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チョウから見える中池見湿地の変化
チョウから見える中池見湿地の変化
NPO ウェットランド中池見
池上 博
今年で、8 年目に入ったモニ 1000 調査(環境
省の参加型プロジェクト、事務局 NACS-J)の
チョウの年度ごとの変動を 2006 年~2012 年に
ついて簡単にまとめたものが右図である。
種数は年度ごとに減少が見られ、個体数も特
に暑かった 2010 年を除き、減少の傾向にある。
種数の減少は、食草の減少を意味し、個体数
の減少は、多くの個体を養う食草の量の減少を
意味する。
この 7 年間で、
「人が住んでいる環境に棲息する好都市種」には減少は殆ど見られなかっ
たが、
「里山のような環境に棲息する好準自然種」や「人の手が加わっていない環境に棲息
する好自然種」には減少が見られた。
100
左図は、100 個の卵から、どのくらいのチョウの成虫が生
81
80
き残れるかを示したものである(文献 1 95 頁の図を改変)
。
死亡個体数は、卵の時期に 14%、幼虫時に 81%、蛹の時期に
死
亡 60
個
体 40
数
20
3%、残る2%が成虫であることを示している。さらに、成虫
は、クモ、トカゲ、カマキリ、鳥などにも狙われ、生き残る
14
3
のは1%にも満たないとも言われている。
2
0
卵 幼虫 蛹 成虫
すなわち、成虫で生き残れるのは1%にも満たず、チョウ
の 99%以上は他の生き物の餌になるというわけである。この
ように、チョウは多くの捕食者や寄生者(天敵)の生活を支えている。
「チョウが減ったぐらいで大騒ぎしてはいけない」などという人もいるが、そう簡単に
言い切ってはいけない。というのも、チョウの減少は、他の生き物の食べ物不足へと直接
影響していくからである。
虫たちにとって、自然界で個体数が減少したり、生息地が縮小あるいは破壊されたりす
ると、近親交配が起りやすくなり、遺伝的な多様性が失われる。さらに、病気や環境の変
化に適応する能力が低くなり、絶滅する危険性がさらに高まってくる。
「生物の数のコントロール」は「食べる-食べられる」という食物連鎖の中で、動植物
の個体数が一定に保たれていることから生まれる。この関係が崩れると、害虫が大量に発
生したり、ある種の動物の個体数が急激に増えたりして、環境や生態系、さらには人間の
1
暮らしにも大きな影響が生じる。
木がなければ鳥はこないし、鳥がこなければ木は増えないように、中池見湿地で見られ
る生物多様性の低下は、一つの原因だけが作用するわけではなく、いくつもの要因が複合
的に作用して、効果を強めあいながら影響を及ぼすことが多い。
さて、中池見湿地で、減少しているチョウの種名とその減少の様子を二つを例に挙げて
見てみよう。減少は、ジャノメチョウ科で顕著で、それぞれ、調査期間ピーク時の 1/13 で
ある。全体を通して、2012 年度の減少は顕著であり、さらなる減少が心配される。
ヒメジャノメ(好自然種)
30
個
体
数
80
26
60
20
10
0
個
体
数
11
16
8
2
66
40
25
20
0
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
年度
ヒメウラナミジャノメ(準好自然種)
5
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
年度
調査期間ピーク時の 1/13 に減少
調査期間ピーク時の 1/13 に減少
シボラ道調査区間 8~1(右図)の 8 区間の樹木の伐採がひどく、チョウ相が変わってし
まった。今年度の調査1日目(4 月 15 日)には、今までとは全く異なる別の場所の調査か
と暫し立ち止まり、都市公園かと見
間違える程の変わりようにびっく
りした。
幅 2m の工事用道路はこのための
ものだったことをはっきり理解し
た。
環境保全では、自然環境は微妙な
バランスの上に成り立っているこ
とを十分に考慮して、適切な整備を行う必要がある。例えば、自然を守るために、人の手
を加える必要があっても、必要最小限の範囲で、また、手を加えた後も、定期的に経過を
確認するなどの配慮が必要である。
下の写真(左)は 2006 年モニ 1000 調査開始時の調査区間 8(バイパス側入り口近く)の
風景。右は 2013 年 4 月時点での調査区間 8 の風景である。ジャノメチョウやヒカゲチョウ
の住処(すみか:左)が破壊(右)されている様子がはっきり見て取れる。
2
2006 年(調査開始時)
2013 年(4 月
伐採された木が放置されている)
やむを得ず規模の大きい工事を行う場合であっても、影響を最小限度にとどめることを
基本とし、後々のために、
「整備の目的」、「調査グループとの打合せ」、「整備期間」、
「整備場所」、「工事記録と工事写真」などの資料を揃える必要がある。
整備によって「何が、どう変わったか」知ることによって、
「環境に何か異変が起きた時」
、
あるいは「調査データの解析結果に変動が見られた場合」等の原因の究明等に役立てるこ
とが出来る。
(平成
せっかく、
「生物多様性指標レポート 2012-里山のいきものたちからのメッセージ」
24(2012)年 12 月 環境省自然環境局 生物多様性センター)の 20 頁に「中池見湿地で
の取り組み」で市民団体と市役所との取組みの様子が紹介されていたが、次の年に実際に
行われた整備は、これとは関係なく管理団体(中池見ねっと)と市役所(敦賀市)が知る
のみで、事前の現場視察や協議の場には、われわれ調査グループである NPO ウェットラ
ンド中池見には声がかからなかった。
整備の結果は 2013 年度の調査を開始した 4 月にはじめて気が付いたが、それは環境破壊
に等しいほど酷いものであった。
管理団体(中池見ねっと)は、調査グループ(ウェットランド中池見)が行っている里
地調査取り組みの重要性をほとんど理解していない。
今後、敦賀市は、もっとしっかりした別の管理団体に委託するか、あるいは、然るべき
機関による管理の在り方に対する具体的な指導が必要であることを痛感した。
参考文献
1.
矢島稔(2003)「謎とき昆虫ノート」
.NHK ライブラリー.
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