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科学の力で地球の未来を拓く「横浜研究所」

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科学の力で地球の未来を拓く「横浜研究所」
科学の力で地球の未来を拓く「横浜研究所」
特集
○ 特 集
○ TOPICS
地球温暖化予測など様々な研究分野で多くの貢献をしてきた日本を代表するスーパーコンピュータ「地
球シミュレータ」、そして、人類史上初めてマントルや巨大地震発生域への大深度掘削を可能にする世界
初のライザー式科学掘削船「ちきゅう」。世界に誇るこれらの設備や船舶は JAMSTEC 横浜研究所で運
用されています。
JAMSTEC ECO-REPORT2012 では、2012 年、設立 10 周年を迎える地球科学研究の最前線「横
浜研究所」をご紹介します。
1.横浜研究所とは
横浜研究所は横浜港の臨海部、神奈川県横浜市金沢区にあ
ナー)もあり、広く一般の方々にもご利用いただいています。
管理部門の事務所もこの地球情報館にあります。
ります。横浜研究所の所在地は元々は神奈川県工業試験所
(工
業に関する試験・研究などを行う機関。現・神奈川県産業技
術センター)であり、1999 年にスーパーコンピュータであ
る「地球シミュレータ」の設置が決定されるに伴い、その跡
地に横浜研究所が設立されることになりました。
横浜研究所の敷地面積は約 33,390㎡で、東西に細長い敷
地には主に6つの建物があります。
地球情報館の映像展示室と図書館入口
正門を入るとまず見えてくるのが地球情報館です。
地球情報館の裏手には、交流棟とフロンティア研究棟があ
ります。
地球情報館と入口
交流棟と交流棟のエントランスホールに掲げられた風神雷神図(模写)
地球情報館には研究や観測によって得られたデータ・映像
交流棟の 1 階には社員食堂、2 階には研究成果の発表会や講
を活用した展示施設などがあり、海、地球、環境についての
演会などが行われる三好記念講堂(収容人数 180 名)があ
映像を上映する映像展示室(3D 画像を楽しむこともできま
りますが交流棟に入って一際目を引くのが江戸時代の画家俵
す。
)や書籍や映像などを閲覧・視聴できる図書館などを一
屋宗達が描いた風神雷神図(模写)です。これは、横浜研究
般の方々に開放しているほか JAMSTEC オリジナルグッズ
所は地球科学を研究する研究所ですが、
風神(風)と雷神(雷)
の販売もしています。また、
1階には軽食ラウンジ(喫茶コー
を地球に起こる現象の象徴として捉え、掲げています。
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
3
まず電磁波対策ですが、落雷による被害を避けるために建
物から独立した8本の避雷塔による独立架空地線方式の避雷
システムを備えています。また、
ライトガイド方式の照明(光
源を室外に設置し、そこから導光板(ライトガイド)を介し
て光を室内に導く照明方式)を採用し、照明から出る電磁波
フロンティア研究棟
フロンティア研究棟には研究室や事務所があり、地球深部
にも対処しています。一方、地震対策としては11個の積層
ゴムアイソレータによる免震システムを有しています。
探査船「ちきゅう」を運用している地球深部探査センター
(CDEX)の事務所はこの1階にあります。
交流棟とフロンティア研究棟のさらに奥には、シミュレー
タ研究棟と情報技術棟があります。
○ 特 集
○ TOPICS
ライトガイド照明
光源はマシン室の外部に設置されている
シミュレータ研究棟
(写真左 手前)と情報技術棟
(写真左 奥)。シミュレー
タ研究棟には地球シミュレータの模型などの展示もあります(写真右)。
シミュレータ棟の免震システム。
シミュレータ棟の床 下には 11 個の
積層ゴムアイソレータ(高さ 29cm,
直径 1m,20 層)がある。
シミュレータ研究棟には地球シミュレータの運用やシミュ
レーション技術の研究開発を行っている地球シミュレータセ
ンター(ESC)の研究室と事務所があります。
ところで、里山のような風景を目にすることができるのも
JAMSTEC の主要な業務は海洋に関する調査・観測・研究
横浜研究所の特徴です。
を行って地球システムの解明を行うことですが、この過程で
入手した生物や岩石などのサンプルやデータを適切に管理
し、更に広くその情報を公開することも重要な任務です。そ
のような業務を行うのが地球情報研究センター(DrC)であり、
この地球情報研究センターの研究室と事務所が情報技術棟に
あります。
シミュレータ棟
緑豊かな横浜研究所の庭と池
横浜研究所の南西側には横浜研究所のシンボルツリーであ
る樹齢 60 年を超すメタセコイア(和名:アケボノスギ)が
植えられており、その周囲には築山と人工の小川が設えられ
ています。横浜研究所は住宅や工場が立ち並ぶ市街地に立地
していますが、そのような環境の中で長閑な一時を横浜研究
シミュレータ研究棟と情報技術棟の裏手にある体育館のよ
所では体感することもできます。
うな建物が地球シミュレータの設置場所であるシミュレータ
棟です。シミュレータ棟は 65m × 50m、高さ(最高部)
17 mの免震構造を有した鉄骨構造2階建ての建物で、2階
2.沿革
次に、2012 年で 10 周年を迎える横浜研究所のこれまで
部分に地球シミュレータのマシン本体が、1階部分に電気設
の歩みを見てみましょう。
備や空調機などが設置されています。そして、シミュレータ
● 1997 ~ 2000 年(平成 9 ~ 12 年)
棟には電磁波や地震の影響から地球シミュレータを保護する
1997 年~ 1998 年の間に当時の宇宙開発事業団(現・
ためにいろいろな工夫が施されています。
独立行政法人宇宙航空研究開発機構:JAXA)は動力炉・核
燃料開発事業団及び日本原子力研究所(共に現・独立行政法
人日本原子力研究開発機構:JAEA)と地球シミュレータの
研究開発の協力協定を結びます。
そして、その翌年の 1999 年、神奈川県工業試験所の跡
シミュレータ棟の避雷塔
4
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
地に地球シミュレータを設置することになり、JAMSTEC の
特集
前身である海洋科学技術センターが施設の整備を担当するこ
ととなりました。
同年 3 月には宇宙開発事業団及び日本原子力研究所と海洋
科学技術センターの 3 機関が地球シミュレータの研究開発に
関する協力協定を結び、その年の 10 月に地球シミュレータ
初代地球シミュレータ
施設の起工式が行われました。
また、海洋情報関連施設も竣工し、8 月 5 日に横浜研究所
として正式に開所しました。
横浜研究所起工時の様子。神奈川県
工業試験所の跡地で、何もない更地
でした。
横浜研究所開所記念式典
(2002 年 8 月 5 日)
月には地球シミュレータ施設(シミュレータ棟、シミュレー
タ研究棟、冷却施設棟)が完成します。
○ 特 集
○ TOPICS
2000 年 3 月、地球シミュレータの製作が開始され、12
● 2003 年(平成 15 年)
この年地球シミュレータは、第 32 回日本産業大賞内閣総
理大臣賞、21 世紀の偉業賞を受賞し、地球シミュレータを
用いた地震シミュレーション研究がゴードンベル最高性能賞
を受賞しました。
● 2004 年(平成 16 年)
完成した地球シミュレータ施設
地球シミュレータの性能を生かした数々の業績を生み出し
● 2001 年(平成 13 年)
ます。7 月には南極海の深層水の流れの再現に成功。9 月に
4 月、海洋科学技術センターが地球シミュレータの運用を
は最新の地球温暖化予測計算が完了します。
一元的に行うことが決定され、横浜研究所に地球シミュレー
タセンターが発足しました。また、同じくして横浜研究所の
施設が竣工し、10 月 1 日に横浜研究所が発足しました。
一方、地球深部探査船「ちきゅう」は 4 月 25 日に三井造
船株式会社玉野艦船工場で起工式が行われ、建造がスタート
計算された年平均地表気温上昇量の
地理分布。
します。このときはまだ「ちきゅう」という船名が決まって
おらず、3 月 1 日から 5 月 15 日まで船名募集のキャンペー
● 2005 年(平成 17 年)
ンを行いました。
「ちきゅう」が三菱重工業株式会社長崎造船所で完成、
● 2002 年(平成 14 年)
JAMSTEC に引き渡されました。
1 月、地球深部探査船は「ちきゅう」と命名され、進水し
● 2007 年(平成 19 年)
ます。
「ちきゅう」は紀伊半島沖にある南海トラフのプレート境
界型巨大地震発生メカニズムの解明を目指す最初の IODP*
航海(NanTroSEIZE ステージ 1)を開始しました。
● 2008 年(平成 20 年)
地球シミュレータの機種更新(ES2)計画に基づき、初代
地球シミュレータの運用を一時停止、2 代目地球シミュレー
タへの更新が始まります。
2002 年 1 月 18 日に行われた「ち
きゅう」の進水式の様子
● 2009 年(平成 21 年)
2 月、地球シミュレータが完成し、稼働を開始。5 月には
LINPACK ベンチマーク * による性能試験で当時世界 1 位の
35.86TFLOPS* を達成、翌 6 月にはドイツはハイデルブル
グにおけるスパコン国際会議 SC2002 でスパコンランキン
グ世界一に認定されました。
更新された地球シミュレータ(ES2)
2 代目地球シミュレータ(ES2)への更新が完了、初代地
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
5
球シミュレータ(ES1)は 3 月末で運用を停止しました。
レータを活用するなどして進めています。
更新された地球シミュレータ(ES2)は LINPACK ベンチ
ところで、2007 年に気候変動に関する政府間パネル
マークによる性能試験で 122.4TFLOPS を達成(当時国
(IPCC)から「第 4 次評価報告書」が発表され、気候シス
内 1 位、世界 22 位)、アメリカはポートランドで開催さ
テムの温暖化は疑う余地がなく、これには人類の活動が直
れたスパコン国際会議 SC2009 において、地球シミュレー
接寄与していることが指摘されましたが、この報告書に大
タ(ES2)が HPC チャレンジアワード * の 2 指標〔高速フー
きく貢献したのが地球シミュレータを駆使して得られた日
リエ変換(G-FFT)*、多重負荷時のメモリアクセス速度(EP
本の温暖化予測研究の成果でした。
STREAM(Triad) per system)*〕で第 3 位を受賞しま
した。
● 2010 年(平成 22 年)
これにより IPCC はノーベル平和賞を受賞することとな
ります。
現在では、2013 年に予定されている IPCC「第 5 次評
○ 特 集
○ TOPICS
地震・津波観測監視システム(DONET)の古江陸上局(三
価報告書」に向け、地球システム統合モデル(EMS)によ
重県尾鷲市)が開所し、横浜研究所にデータ送信試験開始さ
る植生帯の移動を含む長期予想を行い、更には、進行する
れます。
地球温暖化に対処する方策への予測の成果を提供するべく
またこの年、
スパコン国際会議 SC2010(アメリカ・ニュー
研究が進められています。
オリンズ開催)において、
地球シミュレータ(ES2)が高速フー
リエ変換プログラム(HPC チャレンジアワード)の性能(性
能値 11.876TFLOPS)で世界 1 位の表彰を受けました。
● 2011 年(平成 23 年)
地球シミュレータは 3 月 11 日に発生した東日本大震災の
影響による電力事情により 3 月 14 日から 3 月 31 日までの
21 世紀末の気温上昇予測
(AORI/NIES/JAMSTEC/MEXT)
21 世紀末の熱帯低気圧再現実験
間運用を停止。6 月からは電力事情による影響で、縮退運転
(160 ノード中 132 ノードで運用)を開始しました。
また、
DONET 古江陸上局より、
横浜研究所に全データ(20
点データ)の送信が開始され、本格運用が始まりました。
(2)地 球 内 部 ダ イ ナ ミ ク ス 領 域(IFREE:Institute for
Research on Earth Evolution)
IFREE は地質学・地球物理学・地球化学・計算科学など
● 2012 年(平成 24 年)
のあらゆる手法を駆使し、地球の表層から核に至る地球内
横浜研究所は設立 10 周年を迎えました。
部で起こる、さまざまな時間・空間スケールの変動を解析
することにより、地球進化の謎を解明し、そこから得られ
3.横浜研究所の業務紹介
JAMSTEC では「海洋」そして「地球」に関連した多方面
している研究領域で、2009 年に旧地球内部変動研究セン
にわたる研究・開発を行っていますが、ここでは横浜研究所
ターから生まれ変わりました。
で行われている研究・開発を始めとする業務の内容を部署別
にご紹介します。
(1)地 球 環 境 変 動 領 域(RIGC:Research Institute for
Global Change)
RIGC は、多様な手法で海洋、大気、陸域、生態系を観
測しそれらの変化の実態を捉え、それをもとに変化のメカ
IFREE は日本列島周辺海域を中心とした地震・火山活動
をはじめ、全地球的変動のダイナミズムを明らかにし、変
動を予測することを目的として発足した固体地球統合フロ
ンティア研究システムが前身であり、海洋を中心とした地
球科学の総合研究拠点として、従来の研究分野や手法の壁
を超えた学際的な研究を推進してきました。
ニズムを知り、さらにこれらの様々な知識を統合した予測
これまでに伊豆-小笠原-マリアナ島弧地殻の構造と成
モデルを開発し、将来の環境変化のより確かな予測を目指
長の全貌を解き明かす研究、地震波の速度分布によって地
している研究領域です。
球内部構造を明らかにする地震波トモグラフィー研究およ
この RIGC は研究船や各種観測機器を使用して実際に観
測を行い、そこから得られるデータを解析し研究を行って
び南海トラフにおける巨大地震発生のメカニズム研究な
ど、幅広い分野で大きな成果を挙げています。
いた旧地球環境観測研究センター(IORGC)とこれらの知
横浜研究所では主にリソスフェア(プレート)と呼ばれ
見を活用し予測モデルを研究開発する旧地球環境フロン
る表層の構造や変形を理解し、断層運動の再現や予測につ
ティア研究センター(FRCGC)が 2009 年 4 月に統合、
なげる浅部ダイナミクス研究、地球シミュレータなどによ
再編され誕生しました。
る数値シミュレーション(計算機実験)に関する研究が進
横浜研究所では、この旧 FRCGC の研究開発業務であっ
た地球温暖化予測などに代表される予測研究を地球シミュ
6
た知識や将来予測などの情報を社会に役立てることを目指
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
められています。
特集
として「ラボシステム」を導入しおり、研究領域融合型の
システム科学的なアプローチで地球システムについて研究
する「システム地球ラボ」と研究と社会との相互的啓発及
び持続的連携によりイノベーションの実現を目指す「アプ
リケーションラボ」を設置し、先進的な研究開発を進めて
マントル対流のシミュレーション
海 底 地 震 計を 用 い た 探 査 で 明らか に
なったマリアナ島弧-背弧系の地殻構造
(3)地震津波・防災研究プロジェクト
います。
①システム地球ラボ
「地球が生命に満ちあふれた希有な惑星」になり得た真
の原理を明らかにすることは、人類に共通する最大の知的
ジェクトのうち、JAMSTEC として貢献が期待される研究
好奇心の対象であり、
「太陽系を含めた宇宙における生命
開発課題について 3 つある研究領域とは別に「リーディン
の可能性や存在条件」を知る最も重要な手がかりです。シ
グプロジェクト」を設置して取り組んでいます。現在、この
ステム地球ラボは、海洋の限定された場から始まった「地
リーディングプロジェクトは二つあり、その一つが地震や津
球に支えられた最古の生態系」から、汎地球的な海洋環境
波による被害の軽減を目的とし調査・研究・技術開発を行
への進化・伝播過程(光合成システムの獲得とエネルギー
う地震津波・防災研究プロジェクトです。
(もう一つのリー
代謝の多様化)に至る先カンブリア代の全ストーリーを、
ディングプロジェクトは海底資源研究プロジェクトです。
)
JAMSTEC のもつ研究ポテンシャルを最大限活用し、解明
陸域の地震観測システムの整備状況に比べて日本周辺の
しています。
海域における地震の調査・観測データは非常に不足してい
システム地球ラボには、
「プレカンブリアンエコシステ
ます。そこで JAMSTEC では、国からの要請を受け、近
ムラボユニット」と「宇宙・地球表層・地球内部の相関モ
い将来に高い確率で発生するとされている南海トラフの地
デリングラボユニット(SESM ラボユニット)
」があり、
震・津波を常時観測するためのシステム開発に 2006 年
横浜研究所では SESM ラボユニットが、宇宙と地球内部
から着手し、2009 年には東海、東南海、南海地方の地震・
を含む複合的な多圏相互作用を最先端の数値シミュレー
津波観測監視システムの構築と地震予測モデルの研究を実
ションと実験・観測研究を通して解明し、現在の地球の活
施する地震津波・防災研究プロジェクトを設置しました。
動や、地球史における大規模な地球・環境変動のメカニズ
海 底 観 測 シ ス テ ム「 地 震・ 津 波 観 測 監 視 シ ス テ ム
(DONET)
」は、南海トラフ震源域の海底に、高精度な地
○ 特 集
○ TOPICS
JAMSTEC では、国等が主体的に推進する研究開発プロ
ムを解明することを目的として研究開発を進めています。
②アプリケーションラボ
震計や津波を検知する水圧計、精密温度計などの観測装置
アプリケーションラボは、研究と社会との相互的啓発及
を設置し、リアルタイムで観測データを陸上に送るシステ
び持続的連携によるイノベーションの実現を目指してお
ムで、2011 年 7 月、東南海地震震源域にあたる紀伊半
り、
「気候変動応用ラボユニット」を設置し、気候変動等
島沖熊野灘の海底に 20 基の観測装置を展開し、本格的な
の画期的な観測・予測・検証システムの構築による気候変
運用を開始しました。観測されたデータは三重県尾鷲市の
動・海流予測の応用研究ならびに情報の提供・検証に関す
陸上局を経由して、JAMSTEC をはじめ気象庁、防災科学
る研究・開発を行うとともに、全球雲解像モデルによる熱
技術研究所にリアルタイムで送られており、今後は緊急地
帯及び東アジア域での気象予測・応用情報の提供・検証、
震速報などにも利用される予定です。2010 年からは、新
対流圏オゾン拡散モデル等による大気化学変動予測・応用
たに南海地震震源域にあたる潮岬沖から室戸岬沖の海底に
情報の提供・検証などの研究を推進しています。
31 基の観測装置を展開し、徳島県海部郡海陽町、高知県
この研究成果の一例としては海の天気予報(JCOPE)
室戸市の2つの陸上局とケーブルでつなぐ計画が進められ
がありますが、これは人工衛星や船舶、海洋フロート等の
ています。
地球規模の海洋観測データをスーパーコンピュータ上に取
り込むことで、海表面から海底に至るまでの海流予測を実
現したもので、
この予測データは、
すでに民間会社を通じて、
石油タンカーや遠洋漁業の漁船などに利用されています。
紀伊半島沖熊野灘の DONET 展開図
(4)ラボシステム
JAMSTEC では、既存の研究領域とは別に実施すべきと
判断した研究課題を柔軟かつ迅速に実施するための仕組み
SESM ラボユニットによるオーロラ発生の連結階層シミュレーション
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
7
(5)地 球 シ ミ ュ レ ー タ セ ン タ ー(ESC:The Earth
DrC は、こうしたデータ管理業務を推進し、
『人類共有
の財産』ともいえる各種データ・サンプルの管理と公開に
Simulator Center)
ESC では、地球シミュレータ等のスーパーコンピュータ
力を注ぐために、2009 年に設置されました。
を用いた多様なシミュレーションを可能にするシミュレー
現在、
「深海映像・画像アーカイブス」の運用をはじめ、
ション科学技術の研究開発、技術支援・協力、外部利用・
各調査研究船のデータを公開する「JAMSTEC 観測航海
産業応用と計算科学技術推進に関する業務を行っていま
データサイト」
、海域やデータの種類から検索できる
す。また、JAMSTEC における計算機システムの管理や運
「JAMSTEC データ検索ポータル」
、世界中の深海底から
用もこの ESC が担当しています。
採取した岩石サンプルを公開する「深海底岩石サンプル
沿革でもご紹介したとおり、2002 年2月に稼働を開始
データベース(GANSEKI)
」
、海洋生物の多様性に関する
した地球シミュレータですが、それまで世界最高速の演算
情報データベース「BISMaL」など、数多くの海と地球に
性能を有していた米国のスーパーコンピュータの約 5 倍に
関するデータベースの整備・運用を行っています。
○ 特 集
○ TOPICS
及ぶ 35.86 TFLOPS の実効性能を達成。当時、
世界のスー
また DrC では、JAMSTEC が取得したデータ・サンプ
パーコンピュータの計算性能ランキング指標である
ルの管理・公開だけでなく、さまざまなデータを統・融合
TOP500 で第 1 位に輝き、世界を驚かせました。
させることによって新たな付加価値を生み出すデータセッ
運用を開始した地球シミュレータは、気候変動分野では
トの開発・研究をはじめ、研究者ニーズに応えるだけでな
10km 解像度による高精度な全球規模の大気・海洋大循環
く教育・社会・経済ニーズに対応した実利用プロダクトの
シミュレーションを実現し、固体地球分野ではコア・マン
開発・提供などにも取り組んでいます。
トル対流や地殻変動などのメカニズム解明のための研究で
成果を挙げ、さらには海溝型巨大地震を想定した地震波の
伝搬予測研究なども精力的に推進されました。
また、地球科学分野のみならず、ナノテクノロジー・材
料分野、医療・ライフサイエンス分野、機械・電子分野、
JAMSTEC データ検索ポータル
http://www.godac.jamstec.go.jp/dataportal/
建築・土木分野など、幅広い研究が行われています。
2009 年 3 月には新システムを導入し、計算性能はそ
れまでの 3.2 倍に増強され、ベクトル並列型のスーパーコ
ンピュータとしては、現在でも世界一の規模を誇っています。
さらに、2010 年の HPC チャレンジアワードで第 1 位
(
「高速フーリエ変換の総合性能」
指標)
に輝き、
実際のシミュ
レーションプログラムの実効性能で比較すれば、現在も世
界でトップクラスの性能を持つことが証明されました。
(7)地 球 深 部 探 査 セ ン タ ー(CDEX:Center for Deep
Earth EXploration)
統合国際深海掘削計画(IODP)は、2003 年 10 月に
スタートしましたが、この計画の根幹を担うのが地球深部
探査船「ちきゅう」です
「ちきゅう」が誕生する以前の科学掘削は、ドリルパイ
プだけで海洋底を掘り進むライザーレス掘削方式で行われ
ていたため、掘削深度が制限され、コア試料の回収率が低
いなどの問題がありました。これを解決し、大深度掘削を
実現するため、パイプを通して削り屑を船上に回収するラ
イザー掘削方式 * を搭載した世界初の科学掘削船が
「ちきゅ
「ちきゅう」は 2005 年に完成し、2007 年 9 月から
(6)地 球 情 報 研 究 セ ン タ ー(DrC:Data Research
IODP の主力船として運航が始まりました。IODP 研究航
Center for Marine-Earth Sciences)
海として挑んだ紀伊半島沖熊野灘・南海トラフ地震発生帯
JAMSTEC が運用する研究船「なつしま」
「かいよう」
「よ
掘削計画(南海掘削)では、2009 年に海洋科学掘削史上
こすか」
「かいれい」
「みらい」の 5 船は、合計すると年間
初 の ラ イ ザ ー 掘 削( 水 深 2,054m の 海 底 か ら 深 度
約 100 航海、航海日数にして約 1,300 日運航しており、
1,603.7m まで掘削)を成し遂げ、2010 年には掘削孔
これらを母船として活動する潜水調査船、無人探査機は、
に長期観測用の機器を入れることにも成功しています。
年間約 200 回の潜航を行っています。
こうした調査・観測航海によって得られる観測データや
8
う」です。
真夏の丸の内付近の熱流シミュレー
ション
横浜研究所に設置されている CDEX は、IODP の主要実
施機関として、その国際的な枠組みのもとで「ちきゅう」
画像・サンプル、さらにはクルーズレポート・航海情報な
を安全かつ効率的に運用するとともに、掘削技術の開発や
ども含めると、収集されるデータの総量は膨大なものとな
研究支援を担い、ダイナミックに活動する地球のメカニズ
ります。
ムを明らかにし、
深部に秘められた謎を解き明かす「ちきゅ
JAMSTEC ECO-REPORT 2012
特集
(2)横浜研究所で行われているいろいろな ECO 活動
う」の運航を支えています
横浜研究所では、全所的な環境配慮活動の他に、次のよ
うな活動を行っています。
①太陽光発電
太陽光パネルを設置して、太陽光発電を利用しています。
年間の発電量は約 3,200kWh で、1 世帯の年間の使用
電力をまかなえる程度の発電が行えます。発電量について
朝日の中を航行する「ちきゅう」
(和歌山県新宮港付近)
「ちきゅう」船上の研究者
は地球情報館のエントランスロビー(軽食ラウンジ前)に
ある表示板に表示され、知ることができます。
4.横浜研究所と ECO 活動
(1)地球シミュレータの環境対策
地球温暖化予測など、様々な分野で多くの貢献をしてい
○ 特 集
○ TOPICS
る地球シミュレータですが、スーパーコンピュータの運用
には莫大な電力を必要とし、多くの電力を消費していると
いう側面もあります。コンピュータによる計算自体に電力
が必要なことは言うまでもありませんが、そこから発生す
る熱量も極めて大きく、これを冷却するための冷房設備が
必要となるためです。スーパーコンピュータの開発や運用
建屋に取り付けられた太陽光パネル(情報技術棟)とその表示板(地球情報館)
は常にこの電力供給とセットになって考えられるのはこの
②グリーンカーテン
ためです。
2011 年度からヘチマ、ゴーヤ、アサガオでグリーンカー
初代地球シミュレータがどれだけの電力を消費していた
テンを作成し、建物の温度上昇を抑える試みを実施してい
かという簡単な例をお話ししますと、横浜研究所の年間電
ます。2012 年度にはフロンティア研究棟 1 階の南側全
力使用量は 2007 年度で約 5,700 万 kWh です。
(注:横
面に設置しました。
浜研究所では地球シミュレータ以外にも電力は使用してい
ますが、地球シミュレータの電力消費量は桁違いに大きい
ため、横浜研究所の全電力使用量を地球シミュレータの電
力使用量と仮定します。
)一般家庭の標準的な年間電力消
費量を 3,480kWh としますと、約 1 万 6 千世帯分の家庭
の年間電力消費量と同じになり、これは神奈川県でいうと
三浦市や南足柄市における年間電力使用量(一般家庭によ
フロンティア研究棟のグリーンカーテンとゴーヤ
る電力消費のみ)に匹敵します。
③エコキャップの収集
これだけの電力を消費する地球シミュレータですが、
エコキャップ(ペットボトルの蓋)の回収ボックスを設
2009 年に更新された 2 代目地球シミュレータについて
け、エコキャップを回収し、定期的に NPO 法人エコキャッ
は、性能が倍以上になったものの、電力約 20%、ガス約
プ推進協会に送付しています。
25%、水約 18%、更新により節減されました。
スーパーコンピュータ自体の電力使用量を大幅に減らす
ことは、コンピュータの運用を行っている限り現実問題と
して難しく、コンピュータ自体を止めるしか手立てがあり
ません。しかし、可能な限り電力の節減を行うため、空調
映 像 展 示 室 入 口に設 置 され た エコ
キャップ回収箱
機械や照明についてもエネルギー効率の良い機器に逐次交
換するなどして節電に努めています。
<横浜研究所のエネルギー管理>
山本政吉(横浜管理施設課エネルギー管理士)
横浜研究所は省エネ法における第一種エネルギー管理指定及び横浜
市地球温暖化対策事業所の指定を受け、莫大なエネルギーを消費する
地球シミュレータ施設設備を管理標準という「管理マニュアル」を作成
しエネルギー管理をしています。
省エネについては、大型空調機やスパコンなど大物の効率化はもち
ろんですが、それよりも「こまめな消灯」や「エアコン 28 度推奨」など
「小さな工夫の積み重ねをみんなで協力して行う」ことが大事です。
東日本大震災以降
「節電」
「省エネ」が叫ばれるなか、
今後も地球シミュ
レータ施設の安定かつ効率的な運用を現場から推進します。
④築山とメタセコイア
地球情報館の南側に一際背の高い木が植えられています
が、これは横浜研究所のシンボルツリーであるメタセコイ
ア(和名:アケボノスギ)です。このメタセコイアは、神
奈川県工業試験所時代の昭和 25 年頃に植えられ樹齢 60
年を超えており、JAMSTEC になってからも大切に守られ
てきました。
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メタセコイアの周囲には築山
や人工の川が作られており、築
山を中心として草木が生い茂っ
ていますが、そこには昆虫や鳥
が飛来し、時折蛇が出るなど、
一種のビオトープを形成してい
ます。
<一般公開日程とアクセス>
今回ご紹介しました横浜研究所は見学することができ、また
定期的に一般公開を行っておりますので、是非お越しください。
◆地球情報館
地球情報館は一般の皆様に公開している展示施設です。映
像展示室、図書館などをご利用いただけます。個人による見
学は随時、10 名以上の団体による見学は事前の申請により
受け付けています。
開館時間/ 10:00 ~ 17:00
横浜研究所のシンボルツリー「メタセコイア」
(休館日:土・日・祝祭日・年末年始【毎月第3土曜日は開館】
)
入館料/無料
所要時間/約 1 時間
軽食ラウンジの営業時間/ 11:00 ~ 15:00(平日のみ営業)
○ 特 集
○ TOPICS
横浜研究所の庭にある築山(写真左
上)と川(写真右)
*軽食ラウンジのご利用は有料です。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/facility/yokohama.html
◆公開セミナー
毎月第3土曜日は公開セミナーや地球シミュレータの見学
ツアーなどのイベントを開催しています。
水辺にはトンボ(写真はオオシオカラト
ンボ)の姿も見られます。
(写真左下)
<ことば>
● LINPACK ベンチマーク
連立一次方程式解法プログラム LINPACK(リンパック)を用いた性能
評価のことで、スーパーコンピュータ性能比較プロジェクト「TOP500」
で使われています。
● TFLOPS
TFLOPS(テラフロップス)のテラ(T)とは 10 の 12 乗を表す接頭
語であり、フロップス(FLOPS)とは 1 秒間に実行可能なコンピュー
タの計算速度を表す単位。1TFLOPS とは1秒間に1兆回の計算(浮動
小数点計算)を行う能力を表しています。
● IODP
統 合 国 際 深 海 掘 削 計 画(IODP:Integrated Ocean Drilling
Program)。日本と米国がリーダーシップをとり、世界 20 カ国以上が
参加して進められている地球環境変動、地球内部構造及び地殻内生物圏
の解明を目的とした国際的な海洋科学掘削計画のこと。
● HPC チャレンジアワード
高性能計算機の性能番付として主流である TOP500 ベンチマークで使
用されている LINPACK(連立方程式の計算)を補完し、多面的な観点
から性能を評価する目的で米国により開発された性能指標。演算性能だ
けではなく、メモリ- CPU 間のデータ転送や CPU 間のネットワーク
性能など、高性能計算システムにおける性能を総合的に評価することが
可能です。
HPC チャレンジアワードには、最高性能を競うクラス 1 とプログラム
の洗練さを評価するクラス 2 の 2 種類があります。
●高速フーリエ変換(G-FFT)
HPC チャレンジアワードのクラス 1 に属する 4 指標の内の1つで、高
速フーリエ変換の総合性能のこと。G-FFT は地球環境問題に関連した気
象・気候シミュレーションや新素材の設計など、「地球シミュレータ」を
用いた主要な応用シミュレーションにおいて活用されています。
● 多 重 負 荷 時 の メ モ リ ア ク セ ス 速 度(EP STREAM(Triad) per
system)
HPC チャレンジアワードのクラス 1 に属する 4 指標の内の1つで、プ
ロセッサのメモリアクセス速度を測る指標のこと。気象・気候シミュレー
ションのような大規模データ処理では、必ずメインメモリのアクセスが
必要になり、その速度によって性能が決まります。
●ライザー掘削方式
地層を掘り進むためのドリルパイプの外側にライザーパイプを設け、ド
リルパイプ内とドリルパイプとライザーパイプの間に泥水と呼ばれる液
体を循環させて掘削する方法のこと。この泥水循環が掘削孔内の圧力バ
ランスを保つことにより、海底下数千メートルの安定した掘削が可能と
なります。
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セミナーの内容や詳しいスケジュールはこちらをご覧くだ
さい。
http://www.jamstec.go.jp/j/pr/esm_sat_open/
◆施設一般公開
横浜研究所では毎年秋頃、施設一般公開を実施し、地球シ
ミュレータの探検ツアーなどいろいろな催しを行っています。
施設一般公開の情報はこちらをご確認ください。
http://www.jamstec.go.jp/j/pr/public_open/index.html
◆アクセス
独立行政法人海洋研究開発機構 横浜研究所
住所 〒 236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町 3173-25
電話 045-778-3811(代)
鉄道をご利用の場合
JR 根岸線 新杉田駅から徒歩 13 分
京浜急行本線 杉田駅から徒歩 15 分
横浜新都市交通金沢シーサイドライン 南部市場駅から徒歩 15 分
自動車をご利用の場合
首都高速道路湾岸線 杉田 IC から 5 分
バスをご利用の方
京浜急行バス 杉田バス停より徒歩 5 分
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.jamstec.go.jp/j/about/access/yokohama.html
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