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高臨場マルチ画面映像通信システム
MPEG-2 HDTV映像伝送・配信システム 超高精細映像 映像伝送 特 集 高臨場マルチ画面映像通信システム なかむら けん よしとめ たけし 中村 近年,ディジタルシネマやイベントライブ中継など,超高精細映像を用い 健 /吉留 た新しい映像サービスの開発が期待されています.NTTサイバースペース研 や し ま よ し ゆ き 究所では,超高精細映像のリアルタイム符号化・伝送を実現する高臨場マル 八島 由幸 /遠藤 えん どう 健 まこと 真 チ画面映像通信システムを開発し,HIKARIネットライブ共同実験をはじめ NTTサイバースペース研究所 とする超高精細映像のライブ中継実験に適用しました. 超高精細映像を用いた 新しいサービス レオHDTV 映像のリアルタイム符号 して期待されています(図1). 化・伝送を実現する高臨場マルチ画 しかし,超高精細映像はHDTV映 像の約2∼8倍もの情報量があり,そ 面映像通信システムを開発しました. のまま伝送すると3∼12 Gbit/sもの このシステムによって,超高精細映像 つ超高精細映像システムが注目を集め 伝送容量が必要となります.そのため, を20分の1から50分の1程度までリア ています.超高精細映像は,その高い 経済的なサービス実現のためには,映 ルタイムに圧縮し,安定して伝送する 臨場感や画面の大きさなどから,ディ 像圧縮技術が不可欠となります. ことが可能となります. 近年,HDTVを超える解像度を持 ジタルシネマやスポーツ・コンサート・ NTTサイバースペース研究所では, NTTサイバースペース研究所では, 演劇等のイベントのライブ中継など, これまで培ってきた映像符号化・伝送 このシステムを用いてHIKARIネット 新しい映像サービスにつながる技術と 技術を生かして,超高精細映像やステ ライブ共同実験をはじめとする超高精 映画館 エンタテインメント イベントホール スポーツ バーチャルシアター ネットワーク 公民館 報道 エンタテインメント 広帯域・高品質光ネットワークによるライブ中継 バーチャルスタジアム 図1 超高精細映像伝送サービス NTT技術ジャーナル 2003.9 25 HDTV映像伝送・配信システム 一方で,各分割映像の符号化・伝 レームバッファを用いてフレームずれを 超高精細映像を用いた新しい映像サー 送を別々に行うために,C O D E C や 補正し,分割映像間の同期をとります. ビス実現に向けての技術的検討に取り ネットワーク機器の個体差による処理 この方法では,映像マーカは有効領 組んでいます. 時間のばらつきや,ネットワーク遅延 域内に映像として埋め込まれるため, のばらつきの影響によって,デコーダ エンコーダ・デコーダには特別な共通 の出力映像が同期しない場合があると 時刻情報の伝送機能を必要としませ 超高精細映像を符号化・伝送する いう問題があります.このように分割 ん.これにより,既存のエンコーダ・ 仕組みを図2に示します.通常,超高 映像間の同期がとれずフレームずれが デコーダをそのまま利用することが可 精細映像カメラからは,超高精細映像 生じた場合,表示映像が乱れ,視覚 能となり,システム構築が容易となり を画面分割した複数(2∼8程度) 上大きな問題となります. ます.また,本同期方式では,映像ス 細映像のライブ中継伝送実験を行い, 超高精細映像の符号化伝送の仕組み のHDTV 映像が出力されます.これら のHDTV映像を複数のHDTVエンコー 高臨場マルチ画面映像通信システム トリーム多重化による同期伝送方法に 比べて,各ストリームを複数の伝送路 ダでそれぞれ符号化し,各ビットスト NTTサイバースペース研究所が開発 を用いて伝送することが可能となるた リームを送信します.受信側では,各 した高臨場マルチ画面映像通信システ め,回線容量の制限を受けにくいとい H D T V デコーダがそれぞれ受信した ムでは,映像フレーム同期化装置を用 うメリットがあります. ビットストリームをデコードし,デコー いた同期方式によって,この問題を解 ド映像を出力します.デコードされた 決しています. 高臨場マルチ画面映像通信用 同期化装置の開発 映像は表示システム内において連結さ 本同期方式では,あらかじめエンコー れて,最終的に超高精細映像が大画 ダ 前段の送信側フレーム同期化装置 面スクリーンに投影されます. において,エンコード前の各分割映像 高臨場マルチ画面映像通信用同期化 NTTサイバースペース研究所では, (1) この方法では,CODECやネットワー の有効領域内にフレーム時刻情報を示 装置 を開発しました(図3).本装 ク機器などは既存のHDTV対応機器 す共通の映像マーカを埋め込み,各エ 置は映像マーカを埋め込む送信側同 を使用することができるため,システ ンコーダに入力します.受信側におい 期化装置と,マーカの検出・フレーム ム構築が容易である,また多様な超高 ては,デコーダ後段のフレーム受信側 ずれ 補正を行う受信側同期化装置か 精細映像フォーマットにCODECの台 同期化装置において,デコードされた らなり,HDTV CODECとネットワー 数を変えることで柔軟に対応すること 各分割映像から映像マーカを検出し クアダプタと併用することによって,最 ができる,などの長所があります. て,そこから得た時刻情報を基にフ 大8チャネルまでのHDTV 映像の同期 分割映像 撮像システム (超高精細映像カメラ) (HDTV) 分割映像 表示システム (HDTV) (超高精細映像プロジェクタ) HDTV エンコーダ 超高精細映像 HDTV エンコーダ HDTV エンコーダ HDTV エンコーダ 各分割映像 独立に符号化 は同期 伝 送 シ ス テ ム / ネ ッ ト ワ ー ク HDTV デコーダ HDTV デコーダ HDTV デコーダ 独立に復号 図2 超高精細映像符号化伝送の仕組み 26 NTT技術ジャーナル 2003.9 超高精細映像 HDTV デコーダ 各分割映像の 同期確立が 課題 特 集 最上端ライン 分割映像 (左上) 分割映像 (右上) 分割映像 (左下) 分割映像 (右下) 同期化装置(送信側) 最下端ライン 映像マーカ bit2 bit3 bit1 bit0 フレーム時刻情報 送信側装置 マーカ埋め込み 受信側装置 マーカ検出・遅延補正 同期化装置(受信側) 図3 高臨場マルチ画面映像通信用同期化装置 伝送が実現できます. ます. 本装置では,図3のように,各分割 映像の映像有効領域の最上端または メガビジョン映像伝送実験 いるかのような臨場感あふれる映像を 体験していただくことができました. HIKARIネットライブ共同実験 最下端ラインの特定の連続する画素 昨年6月に,2002FIFAワールドカッ を,フレーム時刻情報を表す映像マー プ日本組織委員会および総務省によ NTT光ソフトサービス推進プロジェ カで置き換えます.このとき,MPEG り,HDTV映像水平3面分の解像度 クトを中心に,遠隔地での臨場感ある 符号化では圧縮によって高周波成分 を持つ高精細大画面映像(メガビジョ ライブ体験を目指す「光ネットライブ」 がカットされることを考慮して,マー ン)によるワールドカップ準決勝の中 サービスの検討が行われています.そ カのビット当りの画素数を大きく設定 継映像を山下公園特設会場にリアル の取り組みの一環として,長野県松本 しています.これにより低周波側にマー タイム中継するパブリックビューイン 市におけるサイトウ・キネン・フェス カ情報が置かれ,マーカ情報が誤って グイベントが開催されました.NTTは, ティバル松本(総監督:小澤征爾氏) 伝わる可能性を運用上問題のないレベ 横浜国際メディアセンタ―山下公園特 のコンサート映像を光ファイバにより ルまで低減しています.また,マーカ 設会場間の符号化・伝送に関する技 NTT武蔵野研究開発センタと東京お 検出後の最上端または最下端ラインは 術協力を行いました.開発した高臨場 台場パレットタウンに実験中継する 隣接ライン等の映像情報で置換して出 マルチ画面映像通信システムを用い 「HIKARIネットライブ共同実験」が 力するため,映像領域が1ライン分狭 て,グランド全体を写したHDTV3面 行われました.本実験は,コンサート くなりますが,映像領域中央部に対す 分の映像信号をM P E G - 2 でそれぞれ 映像・音響を提供するサイトウ・キネ る画質劣化はありません. 35 Mbit/s 程度まで圧縮し,135 Mbit/s ン・フェスティバル松本実行委員会, 本装置を用いた高臨場マルチ画面映 のATMメガリンク回線を使用すること 超高精細カメラを担当するオリンパス 像通信システムの例を図4に示します. によって,長時間にわたり高画質な映 光学工業 (株),超高精細プロジェクタ やATM 像を安定して伝送を行うことに成功し を担当する日本ビクター(株),高臨場 ネットワークアダプタ を使用すること ました.この映像は山下公園特設会場 マルチ画面映像通信用同期化装置を により,さまざまなフォーマットの超高 においてプロジェクタにより巨大スク 用いた超高精細映像伝送を担当する 精細映像やステレオHDTV 映像の伝 リーンに投影され,会場を訪れた多数 N T T の下 で共 同 実 施 されました. 送に柔軟に対応することが可能になり のお客さまに,あたかもスタジアムに HDTV4面分の解像度を持つ超高精 MPEG-2 HDTVエンコーダ (2) (3) NTT技術ジャーナル 2003.9 27 HDTV映像伝送・配信システム 例1 超高精細映像 3 840×2 048×60i A B C D HDTV映像×4 例2 超高精細映像2 5 760×1 080×60i A B ATM ネット ワーク 同期化装置 ネットワーク (送信側) HDTV エンコーダ アダプタ ×4 ×2 例3 HDTVステレオ映像 1 920×1 080×60i×2 同期化装置 (受信側) ネットワーク HDTV アダプタ デコーダ ×2 ×3 同期化装置 (受信側) ネットワーク HDTV アダプタ デコーダ ×2 同期化装置 (受信側) ATM ネット ワーク C HDTV映像×3 ネットワーク HDTV デコーダ アダプタ ×2 ×4 同期化装置 ネットワーク (送信側) HDTV エンコーダ アダプタ ×3 ×2 A B C D A B C ATM ネット ワーク 左眼画像 右眼画像 ネットワーク (HDTV) (HDTV)同期化装置 HDTV (送信側) エンコーダ アダプタ ×2 図4 高臨場マルチ画面映像通信システム (a) 光ネットライブ共同実験 (b) パブリックビューイングイベント 図5 光ネットライブ共同実験・パブリックビューイングイベント (左から)八島 由幸/ 吉留 細カメラで撮影した超高精細映像およ さまに新しい映像サービスの可能性に び4チャネル音声は,4台のMPEG- ついて広くご理解いただくことができ 2HDTVエンコーダにより35 Mbit/s ました. で符号化され,松本―武蔵野間の光 ■参考文献 ファイバにより伝送されました.この 実験において8時間を超える連続安定 動作を確認するとともに,NTT武蔵 野研究開発センタの実験評価会場お よびお台場公開コンサート会場(図 5)において,迫力あるコンサート映 像を上映し,お集まりいただいたお客 28 NTT技術ジャーナル 2003.9 (1) 吉留・中村・八島・遠藤:“高臨場マルチ画 面 映 像 通 信 用 同 期 化 技 術 ,” NTT R & D, Vol.52,No.1,pp.21-28,2003. (2) 吉 留 ・ 池 田 ・ 村 主 ・ 中 村 : “ H D T V 対 応 MPEG-2エンコーダ構成技術,”NTT R & D, Vol.49,No.11,pp.627-634,2000. (3) 大西・長沼・遠藤・八島:“通信用MPEG-2 映 像 多 重 化 技 術 ,” N T T 技 術 ジ ャ ー ナ ル , Vol.15,No.9,pp.21-24,2003. 中村 健/ 遠藤 健/ 真(右上) 今後は,よりコンパクトかつ高画質・高 品質な符号化伝送を実現するシステムの開 発に取り組んでいくとともに,超高精細映 像サービス実現に向けてのさまざまな技術 課題解決に取り組んでいく予定です. ◆問い合わせ先 NTTサイバースペース研究所 メディア通信プロジェクト TEL 046-859-8397 FAX 046-855-1735 E-mail [email protected]