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高品質HDTV映像通信・配信サービスを支える符 号化伝送技術
HDTV HDTV映像伝送・配信システム CODEC 映像符号化 高品質HDTV映像通信・配信サービスを支える符 号化伝送技術 ディジタル放送の開始やネットワークのブロードバンド化によって, や し ま よ し ゆ き 八島 由幸 HDTV映像が我々の身近なものになりつつあります.HDTV映像の膨大な情 報量を高速高品質に処理する圧縮符号化技術・LSI実現技術・伝送配信技術 NTTサイバースペース研究所 についてNTTサイバースペース研究所の取り組みを紹介します. は, 番 組 のコンテンツはほとんどが ンを示します.放送局でのコンテンツ HDTVの形式で撮影・蓄積される可 作成やディジタルTV中継,地上波ディ 能性が高くなっています.また,ネッ ジタル放送といったプロフェッショナ がいよいよ私たちの身近になってきま トワークの光ブロードバンド化に伴っ ル領域での利用から,ネットワークを した.すでに実施されているBS/CSに て,いわゆる電波による放送の枠組み 介した配信向けのエンコーダやトラン よる衛星ディジタルTV放送に加えて, 以外でも,HDTV映像を配信したり, スコーダ,ディジタルビデオカメラや 本年12月から3大都市圏での地上波 HDTV映像で通信したりすることが可 HDD(Hard Disk Drive)レコーダ ディジタルTV放送の開始が予定され 能になってきました. など家庭における情報家電に代表され HDTV映像の普及と利用シーン HDT V(High Definition Television) 図1にHDTV 通信・配信の利用シー ています.ディジタルTV放送において る消費者領域での利用,さらに将来 衛星ディジタル放送 中継現場 FPU用 CODEC 送出用 CODEC 地上波ディジタル放送 地上波ディジタル放送 中継網用 CODEC ディジタルTV 中継網 トランス コーダ 放送局地方局 放送局 家庭/オフィス HDTV トランスコーダ HDTVコンテンツ アーカイブ 家電組込み CODEC IPネットワーク HDTV配信用CODEC HDTVコンテンツホルダ 情報家電 シアター 図1 HDTV映像通信・配信サービスにおけるCODEC関連技術 8 NTT技術ジャーナル 2003.9 FPU: Field Pickup Unit 特 集 的にはディジタルシネマなどHDTVを なります.MPEG-2やMPEG-4は標 処理をいかに効率的に行うかがポイン 超える高臨場大画面映像サービスや, 準方式ですが,エンコーダの制御方式 トとなります.NTTサイバースペース HDTVによる双方向コミュニケーショ や実現方式については規定されておら 研究所では,従来からこの点に注目 ンも大きな市場になってくると考えら ず,知恵の絞りどころになっています. し,高品質性を保ったまま処理量を大 れます. NTTサイバースペース研究所では,こ 幅に削減する符号化アルゴリズムや, れらの部分を工夫することで,符号化 並 列 処 理 ・ 高 速 処 理 を中 心 とする 効率の向上や小型化を可能にしてい MPEG-2 CODEC LSIのアーキテク ます. チャ技術を研究してきました. HDTVの情報量と映像符号化 HDTV伝送・蓄積シーンで核とな るのが映像符号化技術です.HDTV の場合には,リアルタイム性確保のた 図 3 に,M P E G - 2 C O D E C L S I HDTV符号化LSIとCODEC技術 の 開 発 への取 り組 みを示 します. め,極めて高速な高品質映像処理技 HDTV信号の高品質MPEG-2符号 S u p e r E N C / S u p e r E N C - I I は標 準 術が重要となります.表1に各 映 像 化をリアルタイムで行おうとした場合, TV用に開発された1チップLSIです フォーマットに対する情報量の例を示 現状,ハードウェアでの実現が必須と が,これを複数組み合わせてHDTVに します.HDTVの情報量は1080I(走 なります.さらに,CODECを小型化 対応できる仕組みを搭載しています. 査線数1 080本,インタレース形式) するためには,専用のLSIの開発・利 この仕組みを使って,これまでに,ポー と呼ばれるもっとも一般的な規格で現 用が必須の状況です.定められたサイ タブルHDTV CODEC などを開発 行のテレビジョンの約6倍の1 Gbit/s ズや消費電力規模のLSIを開発するた してきました. ポータブルH D T V となります.効率的な通信や蓄積のた めには,符号化や復号に要する膨大な CODECは高さ19インチラック規格の (1) めには,映像圧縮符号化技術の導入 表1 映像信号の情報量 が必須です.圧縮技術としてはISO国 走査方式 色形式 情報量(非圧縮)Mbit/s 1 920×1 080 30 インタレース 4:2:2 996 (b) 720P(60P) 1 280×720 60 プログレッシブ 4:2:2 885 (c) 720P(30P) 1 280×720 30 プログレッシブ 4:2:2 442 際標準方式であるMPEG-2やMPEG-4 があります.MPEG-2はディジタルTV 放送やDVDの圧縮方式に使われてい ます.一方,MPEG-4は低レートでの 圧縮効率が特に優れているため,モバ イルやインターネットでの映像配信に 信号形式 画面サイズ フレーム数 1080Ⅰ (a) (d) 480P 720×480 60 プログレッシブ 4:2:2 332 (e) 480Ⅰ 720×480 30 インタレース 4:2:2 166 (a)(b)は日本,米国におけるHDTV信号規格,(c)(d)は米国のみの規格,(e)は標準TV 利用されています. 図2にHDTV符号化がねらうビット レートを示します.放送局などでの素 (bit/s) 材伝送ではMPEG-2の422P@HLと いうプロファイル(機能セット)とレ 1G 非圧縮1080I ベル(画像サイズ)が使われ,タンデ ム接続 *1 をしても劣化しないように 100 Mbit/s以上のレートが用いられ ることもあります.一方,二次分配系 (対視聴者)では15∼20 Mbit/sが ビ ッ ト レ ー ト 素材伝送 100 M ディジタルTV放送 高品質二次分配 ターゲットとなります.また,PC系で は720Pフォーマットもよく用いられま すが,この場合にはターゲットレート 10 M ネットワークを介して PCで見る はさらに低くなり,10 Mbit/s以下と *1 タンデム接続:エンコードとデコードを複 数回繰り返すCODECの多段接続のこと. 図2 HDTV映像圧縮のターゲットビットレート NTT技術ジャーナル 2003.9 9 HDTV映像伝送・配信システム コンシューマ向け HDTV 1チップLSI ISIL HDTVディジタル ※1 ビデオカメラ ス イ デバ の 開発 キー 究所 号化 T研 符 NT EG-2 P M 標準TV用 1チップLSI (複数チップ でHDTV) 標準TV用 1チップLSI 1ボード CODEC 「黎明」 プロ向けHDTV 1チップLSI VASA はがき大HDTV ※2 エンコーダ SuperENC-II ポータブル HDTV エンコーダ SuperENC PCカード エンコーダ 黎明ボード MPEG符号化方式(圧縮アルゴリズム,実現アーキテクチャ),標準化活動 1992 1994 1996 1998 2000 2002 ※1 JVC社開発 (4) ※2 NHK/NTTコミュニケーションズ共同開発(5) 図3 NTTにおけるMPEG-2キーデバイス研究開発の進展 幅半分,高さ1ユニット分(1U:約 化の実現により,ディジタル放送社会 イズ17 mm角)を達成した,ビデオ/ 4.4 cm)であり,現在でも商用品と の到来を加速することが見込まれます. オーディオ/システムのオールインワン しては世界最小のものです.持ち歩く また, 本 チップは1 つでH D T V ことができるため,放送局における国 CODEC処理を実現できるだけでな 内外の現場中継にも応用することが く,複数チップを用いることにより, 機器をターゲットとしており,コンシュー 可能です. LSIです. 適用領域としては情報家電や民生 HDTVを超える大きな映像のCODEC マ用ディジタルビデオカメラ,HDD/DVD さらに昨年には,放送局での素材伝 処理を実現することができ,ディジタ レコーダ,PC用ボード,モバイルCODEC 送 などプロフェッショナル用 途 の ルシネマ,ステレオ立体TV,将来の などに適用できます.また,双方向性 MPEG-2 HDTV CODEC LSI(VASA) 高臨場大画面映像分野でも活用が期 機能を持ち,高品質な映像コミュニ 待されます. ケーション端末の実現に欠かせないキー (2) を開発しました .VASAは,最先端 の商用0.13-μm CMOSテクノロジを 一方,家電などコンシューマの世界で デバイスとなります. 用いて6千万個のトランジスタを搭載, もHDTVの要求が広まっていることか チップ内の階層並列処理を駆使するこ ら,NTTではコンシューマ向け双方向 とでMPEG-2 準拠HDTV 映像のエン 映像通信機器に組込み可能な高画質 コード処理/デコード処理を世界で初 対応のMPEG-2 CODEC LSI ( ISIL) めて1チップ化することに成功しまし を開発しました(3) .ISILは,1チップで のVASAやISILを用いたCODECで可 た.これにより,HDTVエンコーダシ 480/60Pの全二重動作(エンコード・ 能ですが,ネットワークを介して通信 ステムをさらに数分の1程度まで小型 デコードの同時動作)が可能で,片方 したり配信したりする場合には,さら 化することが可能です.地上波ディジ 向であればより高解像度の7 2 0 / 3 0 P に種々の技術が必要とされます.その タル放送開始を本年末に控え,そのイ までの処理を実現できます.ハード/ 1つがトランスコードです.今後コン ンフラ設備および周辺設備に不可欠な ソフト最適化設計による低 パワー化 テンツが高品質MPEG-2で一元管理 CODECシステム機器の小型化・経済 ( 1 . 5 W 以 下 ) と経 済 化 ( チップサ される方向性であることを考えると, 10 NTT技術ジャーナル 2003.9 いろいろなネットワークで配信・ 通信するための仕組み HDTVのエンコードに関しては前述 特 集 HDTV MPEG-2 ファイル 低レート ファイル HDTV トランスコーダ HDTV MPEG-2 リアルタイム エンコーダ 配信サーバ 高品質HDTV MPEG-2ストリーム 変換ストリーム MPEG-2/MPEG-4 図4 HDTVトランスコーダ これをさまざまなネットワークを介して ビスを提供できる技術の検討が必要で 視聴できる,ワンソース/マルチユース す.前者に対しては,MPEG-2のみな システムの構築が重要です.トランス らず次世代超高圧縮符号化規格であ コードはエンコードデータを,通信ま るM P EG -4 A V C / H . 2 6 4 などもター たは配信するネットワークに応じて画 ゲットに入 れて検 討 を行 うことで, 像サイズやビットレートを変換するた HDTV品質を保ったまま現状の2倍以 めのものです.ネットワークは,ギガ 上の圧縮率を達成できるような超高効 ビット級 のものから, B フレッツ, 率符号化技術の検討を進めていく必要 ADSL,LANなど帯域がさまざまです があります.後者に対しては,光ネッ が,これに対してHDTV符号化データ トライブサービスをより安価に提供で は十 数Mbit/s∼数十Mbit/sとなる きるCODEC構成技術として,前述の ので,必ずしもそのままのかたちで配 VASA LSIを複数個用いてHDTVを 信できるとは限りません.そこでN T T 超える大画面映像符号化・伝送を可 サイバースペース研究所では図4に示 能とする経済的なシステムの開発に期 すような,MPEG-2で符号化された 待が集まっています. HDTVデータを500 kbit/s∼3Mbit/s ■参考文献 のMPEG-4データにトランスコードす るソフトウェア (6) を開 発 しました. MPEG-4エンコードは独自の符号化制 御技術により高品質性を維持できま す. トランスコードされたデータは ADSLやLANなどのネットワークでも 簡易視聴が可能となります. 今後の展開 今後は,より効率的な圧縮方式の 検討や,経済的な高臨場感通信サー (1) 吉 留 ・ 池 田 ・ 村 主 ・ 中 村 : “ H D T V 対 応 MPEG-2エンコーダ構成技術,”NTT R & D, Vol.49,No.11,pp.627-634,2000. (2) “MPEG-2 HDTV CODEC LSIの1チップ化を 世界で初めて実現,”:http://www.ntt.co.jp/ news/news02/0210/021015.html, 2002.10. (3) コンシューマ向け双方向映像通信機器に組込 み可能な高画質対応のCODEC LSIを開発: http://www.ntt.co.jp/news/news03/0302/030 213.html, 2003.2. (4) NHKとNTT Comがハガキ大のハイビジョン コーデックを共同開発:http://www.ntt.com/ release/2002NEWS/0010/1015.html, 2002.10. (5) http://www.jvc-victor.co.jp/press/2003/grhd1.html,2003.1. (6) 中嶋・小野・秦泉寺・上倉・八島:“HDTV MPEG-2/MPEG-4トランスコーダTrampegⅡ,”NTT技術ジャーナル,Vol.15,No.9, pp.29-32,2003. 八島 由幸 ネットワークがどんどん太くなり,計算 機パワーがどんどん大きくなる時代ですが, それにも増して私たちの高臨場高品質映像 に対する要求がエスカレートする速度は早 く,符号化技術の進展がなければ,いずれ 計算量的爆発を招くことは間違いありませ ん.HDTVにとどまらず「超高品質映像を 超経済的に」をモットーに研究を推し進め ます. ◆問い合わせ先 NTTサイバースペース研究所 メディア通信プロジェクト TEL 046-859-2831 FAX 046-855-1735 E-mail [email protected] NTT技術ジャーナル 2003.9 11