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(その32) 『ラテンアメリカのスペイン語』

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(その32) 『ラテンアメリカのスペイン語』
アテマラでは「カミオネタcamioneta」、ペルーで
スペイン語圏を知る本
は「ミクロブスmicrobús」、チリでは「ミクロ
(その32)
ジョン・リプスキ著
micro」そしてアルゼンチンでは「コレクテイボ
『ラテンアメリカのスペイン語』
南雲堂フェニックス 2003
colectivo」とめまぐるしく変わる。
評者 坂東省次
これではスペイン語はひとつとはいえないので
スペイン語はスペイン、
ラテンアメリカ18ヵ国、
はないかとの疑問に学問的見地から答えてくれる
赤道ギニアの公用語であるが、アメリカ合衆国を
のが、本書『ラテンアメリカのスペイン語
はじめドイツ、フランス、フィリピン、オースト
Latin American Spanish』
(1994)である。驚くほ
ラリアなどスペイン語が公用語でない国にもスペ
ど多様に見えるラテンアメリカのスペイン語が意
イン語話者が多数住んでいる。加えてEU諸国、
外にも統一していることを膨大な資料を駆使して
アジアそしてブラジルなど第二言語としてスペイ
見事に明らかにしたからである。
ン語を学ぶ人も増加の一途にある。話者数は現在
本書の最大の特徴は、ラテンアメリカ全体のス
4億を数えており、今世紀中に5億を超えることが
ペイン語の発達をたどったあと、各国別のスペイ
予測されている。
ン語が歴史的背景・音韻・形態・統語・語彙のそ
スペイン語は多大な人口を誇る広域言語であ
れぞれの部門で余すところなく網羅されている点
り、英語についで普及度の高い言語である。広域
である。ラテンアメリカのスペイン語に関する本
言語にはつきものの地域差(方言)はあるが、非
は少なくないが、その多くは内容がスペイン語の
常に均質的な言語であり、
「スペイン語はひとつ」
方言の言語学的分析にとどまり、専門家以外の読
といっても過言ではないだろう。
者には近寄り難い印象を与えてきた。
ラテンアメリカは広大である。かつてこの大陸
しかし、本書では、言語学的分析に加えてラテ
には2000もの言語が話されていたが、ここにコロ
ンアメリカの社会情勢、民族学、植民地支配に伴
ンブスがスペイン語を初めて運んだ。1492年10月
う奴隷制と移住といった歴史的背景など言語外的
12日のことだ。スペインの征服と植民の過程で土
要素が盛り込まれており、おそろしく幅が広く奥
着語が激減する一方、スペイン語は領域を拡張し
行きの深いラテンアメリカのスペイン語世界に日
てブラジルを除く18ヵ国の公用語となった。話者
本の一般読者をも誘う「案内の書」の趣も備えて
数は今日、約3億といわれる。
いる。日本語版に「言語・社会・歴史」の副題が
付けられたのは、名案であろう。
筆者は若いころスペインで学んだスペイン語を
使って北はメキシコから南はアルゼンチンまでス
日本では近年、スペイン語学習者の急増にとも
ペイン語の旅をしたことがある。スペインで学ん
ないスペイン語学書の出版も増加の傾向にある
だスペイン語がどこでも通じることに感動した体
が、ラテンアメリカのスペイン語の本となればま
験は今も忘れられない。もっとも通じることは通
だ数えるほどしかない。その意味でも、本書出版
じるが18ヵ国ともなれば同じスペイン語でも発
の意義は大きいといえよう。
音、文法、語彙においてじつに多様ではある。例
えば、スペインではバスを「アウトブスautobús」
ばんどう しょうじ(教授・スペイン語学)
というが、メキシコでは「カミオンcamión」、グ
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